機動戦士ガンダムSEED ザフトの名参謀? その名はキラ・ヤマト   作:幻龍

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キラ君、参謀になって後方になったら活躍する出番がないのでは? 思う方ご心配なく。彼のやって来たことと、ザフトの特殊な事情が彼をフリーダムパイロットへ導きます。


第6話

 C.E.71年5月5日。

 ザフトは当初からの戦略オペレーション・ウロボロスの完遂と戦局膠着状態を打開する為に、一大作戦『オペレーション・スピットブレイク』を発動した。

 この作戦は各戦線のザフト地上軍の大半を注ぎ込み、連合が保持する最後のマスドライバー『パナマ・ポルタ』を制圧して、地球連合軍を地球に封じ込める為の総仕上げであった。

 

 この作戦の現場指揮を任されたキラは原作で一番危険で失敗する可能性がある作戦発動を、最新鋭MS-X10Aフリーダムのコクピットの中で憂鬱な表情をしてオズゴロフ級潜水母艦で待機していた。

 

(何で参謀である俺が前線に配置されるんだ……せっかく後方勤務に回されて命の危険がなくなって安堵していたのに……)

 

 キラは思わず溜息が出そうになり、2日前の出来事を思い出す。

 

 

 

 その日参謀本部に出仕したキラは同僚のセシリアから国防委員会からの言伝をもらい、国防委員長パトリック・ザラが軍務を行う場所である国防委員長室に来ていた。

 

「異動ですか?」

「そうだ。キラ・ヤマト後方参謀は本日付けで作戦参謀に異動になった。これが正式な命令書だ」

 

 キラはパトリックから渡された書類を見る。確かに作戦参謀に異動を命じる物だったが、もう一枚の書類に変なことが書いてあったのでそのことをパトリックに質問する。

 

「作戦参謀への異動は了承しました。作戦参謀の任、謹んでを拝命いたします。しかし、このスピット・ブレイクにおいて現場の指揮を取れというのは?」

「その内容通りだ。次のスピット・ブレイク作戦でお前にはMSパイロットと現場での作戦指揮両方を執ってもらう」

「お言葉ですが作戦参謀は戦略や戦術を練るのが仕事です。現場指揮は普通行わないのですが?」

 

 キラはパトリックからの命令に一瞬唖然としたが、すぐに気を持ち直して彼に尋ねる。現場指揮は作戦参謀の仕事ではない。作戦参謀が現地に行くこともあるが、それは指揮官を補佐して助言を行う為であって、部隊を指揮することはないのだ。

 

「キラ作戦参謀。君は我が国・そして軍の現状をよく知っているだろう? 我らに長期戦を行う力がないと進言した内の一人は君だぞ?」

「確かにそうです。しかし、それは戦線を無駄に拡大しすぎているからと意見書に出したはずですが」

 

 キラはパトリックに正論で反論する。

 後方参謀をしていたので各地の物資の蓄積や補給状況をよく知っているキラは、幾度も戦線を縮小するように具申していた。特に名将と名高いバルトフェルドを使って、ゲリラの鎮圧をさせるという無駄な使い方をしている上層部に他の人物を当てるように意見したが適当な人材がいないとのことでその意見は退けられている。

 

「仕方ないだろう。今更戦線を縮小すれば連中の士気を高めるプロパガンダに利用されかねない。だから、何としてでも今回の作戦は成功させねばならんのだ」

「それなら自分でなくてもいいのでは?」

「本来ならクルーゼに任せる予定だったのだ。それが狂ってしまった以上はザフト最強のエースであるお前の力が必要なのだ」

 

 キラはパトリックが遠回しに「お前がクルーゼを失脚させたのだから責任とれ」と言っていることを悟り、拒否することが不可能だと悟る。

 

「……わかりました。ただし、MSを操縦している時は大まかな指揮しかできないので過度な期待はしないでください」

「少し頼りない言葉だな。ザフト最強のエースにしては。まあ、いい。ある程度フリーハンドを与えるから頼んだぞ。それとお前の機体だが完成したX10A-フリーダムを使え」

「よろしいのですか? あの機体はX09A-ジャスティスとの連携を考慮して設計されていると聞きますが、単独で出撃させても?」

「今回の作戦は講和を奴らに強いる為の大作戦だ。成功率は少しでも上げることに越したことはない」

「御配慮に感謝します」

 

 キラは自分に核動力MSを与えると言ったパトリックのサプライズに驚く。てっきり砲撃適正が高い中立派の息子であるディアッカに与えられるものだと思っていたからだ。

 

「キラ・ヤマト。最善を尽くします」

 

 キラは参加もしたくない作戦に強制参加させられ内心でパトリックを罵りながら、それを表に出さない見事なポーカーフェイスで敬礼した。

 

 

 

 

(まさか、クルーゼを失脚させたことが巡り巡ってこんな展開を起こすとは思わなかった……。これも因果応報か……)

 

 キラは己の今の状況に嘆くが、指揮を任されている以上弱音を吐くわけにはいかないので、何とか被害を最小限にする為に動くしかないと頭を切り替えることにする。

 

(その為にも基地内部へ侵入しないとな。幸い連合は基地を放棄して人はほとんど残っていないから一人で侵入しても問題ないし)

 

 サイクロプスの自爆に巻き込まれない為には、早期に内部に侵入してこの事実を知り撤退命令を出すしか方法がない。その為にも早期に敵防衛線を単独で突破して、何としてでもサイクロプスの存在を知りサイクロプスの存在を露見させる。それが自軍と自分の命を守る唯一の方法だが、それは連合が原作通りにサイクロプスを使用する場合だ。

 

(しかし、クルーゼの排除によって情報漏えいがあったことはザフトにばれている。果たして原作と同じ手を連合が使うのか?)

 

 アラスカ基地にサイクロプスを設置していない可能性もあるが、そう考えるのは楽観的過ぎるとキラは結論し、それを頭の隅に追いやることにした。参謀は希望的観測で物事を判断してはいけないからだ。

 

(現地に行けば全てわかるだろう。それに例え失敗しても責任は僕にあるわけじゃないし)

 

 何せ一部の軍人達と結託して攻撃目標を独断で変更するのはパトリックの独断。基地が自爆して犠牲が出れば、機密漏えいがあった時に疑われるのはパトリックが重用していたクルーゼ。今のザフト内の空気では穏健派に責任を被せることは不可能だし、自分の考えに心酔する身内をスケープゴートにした場合、タコが自分の足を食う状態になって派閥の力が弱まる。作戦内容変更はパトリックにとってデメリットが大きいのだ。

 

(今パトリックの政治生命はよくないから、一か八かの博打でアラスカに攻め込むかもしれないけどね……)

 

 キラは己の為にプラントの政治がどう動くか頭の中で色々と検討しながら、作戦発動の時を待つのであった。

 

 

 

 キラに色んな意味でマークされているパトリックは、司令官の椅子に座り目を瞑って攻撃目標をどこにするか未だに考えていた。

 

(ここはやはり従来通りパナマにするべきか? いや、後々のことを考えるのなら敵の心理に大ダメージを与えられるアラスカを奇襲した方が効果はいい)

 

 攻撃目標変更もあり得ることは一部の武官にしか知らせていない。つまり、どっちを攻めるかはパトリックの選択次第。情報漏えいの可能性と長期戦の泥沼に嵌るリスクをぎりぎりまで懸命に天秤にかけ、不意に目を開け椅子から立ち上がりパトリックは遂に決断を下す。

 

「オペーレション・スピットブレイク発動。攻撃目標はアラスカ!」

 

 C.E.71年の戦争の転換期になる大作戦が幕を開ける。

 

 

 

 キラは攻撃目標を聞いた時誰にも聞こえないよう密かに舌打ちした。

 

「了解(ちくしょう! やっぱりアラスカか!)」

 

 プラントの戦力を考えると連合と長くは戦えない。何より連合の中心である大西洋連邦は学習能力が高く、それが彼の国の国力と合わされば脅威の一言だ。長く戦えば戦う程こちらは不利となる。

 

(もしもの時の為に用意しておいたこのプログラムが役に立つ時が来るとは思わなかったが、賽は投げられたのだから)

 

 プラントが有利に講和するには敵の準備が完全に整う前に、敵国の厭戦気分を蔓延させるしかないのだ。そうなれば民主主義を採用している以上講和するしかなくなる。

 

『フリーダム。発進どうぞ!』

「(何で参謀である俺が戦場に出撃しなきゃならないんだ……)キラ・ヤマト。フリーダム行きます!」

 

 フリーダムを発進させ、キラはアラスカに向けて飛行するのであった。

 MSパイロットになったことを少しだけ後悔しながら。

 

 

 

「ザフト軍出現! 物凄い数です! 数は特定不能!」

「ザフト軍降下部隊降下確認。敵基地周辺に侵入確認!」

「くっ!? 防衛部隊は発進せよ!」

 

 アラスカ基地ではザフトの奇襲により大混乱に陥っていた。しかし、一部の将校は想定済みだったので比較的落ち着いており、サイクロプスの起動準備を開始するように命じて自分達はユーラシア連邦の連中を盾にして、さっさと潜水艦で基地から離れる準備を開始した。

 

「こんな時に襲撃かよ!?」

 

 ムウ・ラ・フラガはアラスカに着いて少し経った後、転属命令を受けてアークエンジェルから下り、潜水艦で基地を出る予定だった。

 しかし、アラスカの防衛に回されるアークエンジェルが不意に気になってしまう。特にあの苦労していた美人艦長。ムウの女性の好みドストライクなマリュー・ラミアスの顔が頭から離れなかった。

 

「悪いちょっと忘れ物取ってくるわ」

「ちょっと、少佐!?」

 

 自分に声をかけるナタルを無視してムウは、基地内へ舞い戻るのであった。

 

 

 

 アラスカは予想通りというか原作通りというか、地球連合軍最大の基地にも関わらず出てくる敵の数が少なかった。

 

「やっぱり、ユーラシアの連中だけか」

 

 地球連合軍の味方を生贄することが前提の作戦に、内心吐き気を覚えながらフリーダムのMG-M20ルプスビームライフル(原作でフリーダムが持っているMA-M20ルプス ビームライフル)と、M100バラエーナプラズマ収束ビーム砲の火力で容赦なくこっちに向かって飛んでくる敵機を薙ぎ払う。

 フリーダムを撃墜するべく立ち向かった敵飛行機部隊やヘリ部隊は、次々と砲撃に巻き込まれ盛大な火の玉に変わる。

 

「邪魔をするな!」

 

 地上から鬱陶しく砲撃を加えてくる戦車や戦闘車両の弾幕の雨を躱しつつ、ビームライフルをそれらに向けて次々と発射して対空砲火を弱める。

 

「我らがエースに続け!」

「おう!」

 

 キラが操るフリーダムの獅子奮迅の活躍に感化されて、ザフト部隊はフリーダムが崩していった戦線に雪崩れ込んでいく。

 グゥルに乗ったジンがシグー、ディンが空中から攻撃を加えていき、その開けた道をバクゥが進み敵戦車部隊を撃破していった。

 

「僕はこれから遊撃を開始する。連携を密にして敵を粉砕するように。それと少し敵の様子を見てくる。どうも敵の守りが基地の規模に比べて鈍い。何か罠があるかもしれないからそれを探ってくる」

『確かにおかしいですね……わかりました。どうかお気をつけて』

 

 キラの言葉に副官であるジークは頷き見送りの言葉を贈る。

 それを聞き届けたキラは最短ルートで、敵が手薄な場所を見つけるべく飛んでいくのであった。

 

 

 

 

 この戦いにはザラ隊の面々も無論参加しており、敵戦線を突破するべく苛烈な攻撃を加えていた。

 

「ふん、面白みがないな」

「そうだな、敵の抵抗が思ったより脆弱だし」

「油断は禁物ですよ、最初は混乱していただけですが今では敵もだいぶ立て直してきてますし」

「二コルの言う通りだ、二人とも」

「ふん、貴様に言われんでもわかっている」

 

 ザラ隊の面々は奪取した無論G兵器でこの作戦に参加していた。

 彼らはG兵器の力を存分に発揮して脆弱な敵兵器を撃破しながら前進していた。

 

「友軍から要請がきました。何でも足付きが粘るせいでメインゲートに取りつけないとのことです」

「っ! ストライクはいるのだろうな!?」

「恐らくいるだろうな。何せそのストライクの母艦だしな。足付きは」

「ようやくそいつを撃墜できる機会が来たってことか」

 

 ザラ隊の面々は低軌道会戦で逃した足付きを今度こそ沈めてやると誓い、足付きが守っている場所へ向かうのであった。




やっぱガンダムSEEDの作品をやるなら、キラはフリーダムに乗らないとね。

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