機動戦士ガンダムSEED ザフトの名参謀? その名はキラ・ヤマト 作:幻龍
南アメリカ合衆国。
連合の構成国家の1つであるが、プラント独立戦争が勃発すると親プラント国家として中立を宣言したが、パナマのマスドライバーを使えなくなることを恐れた大西洋連邦を中心とした連合軍により攻撃を受け、パナマ軍港を占領されてしまい、そのまま地球連合に併合された連邦国家である。
地球連合とプラントの間に停戦が成されると、強引に併合したツケが浮上し、主権回復を目指すべく独立戦争が勃発することになった。
この独立戦争の詳しい情報が入ってきたので、この戦争に対してプラントはどうするべきか話し合うべく、会合メンバーはビルの一室に集まるのであった。
「連合はこれに対してどんな対応を取るつもりだ?」
「連合は断固として認めないつもりです。連合は軍勢を派遣して南アメリカ合衆国を蹂躙するようです。何せここで連合の足並みが乱れれば、和平交渉中の我らに足元を見られます」
情報局局長が詳細な情報を言い、自分の見解を述べる。
「連合は交渉は引き続き続行すると言っていますから、和平交渉は停滞しないでしょう」
「南アメリカ合衆国は支援を求めてきています。特に軍事物資と義勇軍の派遣を要請してきています」
「まさか、南アメリカの連中は我らに物資をたかる気か? 何の連絡もなしに勝手に始めておいて、何とも図々しい連中だな」
南アメリカ合衆国の計画性の無さに会合に出席したメンバーは呆れる。客観的に見ても南アメリカ合衆国が大西洋連邦に勝てる可能性はほとんどない。それに和平交渉を始めたばかりのプラントが、南アメリカ各国に支援を行えば、連合が文句を言ってくるのは間違いないので下手な支援はできないのだ。
「我らはどう対応する? 親プラント国家が独立するのは好ましいが、そう簡単に手を出せる件ではないぞ?」
「そうだな。我らの優先するべきことは講和条約の締結だ。こちらも決戦でそれなりの痛手を受けましたし、支援は正直難しい」
アウグストは現在のザフトの現状を述べ、独立戦争に介入することは難しいと言った。その意見にキラも頷く。
「寧ろこのまま大西洋連邦の裏庭を不安定にしてもらった方がこちらの利益になります。精々彼等には奮闘してもらいましょう。無論非難されない程度に密かに支援する必要はありますけど」
キラは反大西洋連邦機運が南アメリカ合衆国で持続する方が、プラントの国益になると考えていた。最も親プラント国家でもある南アメリカ合衆国を見捨てるのは体面上まずいので、最低限の支援を行う必要はあると意見する。
「それしかないか……今は連合との間に余計な揉め事はなるべく避けたいからな」
「我らはこの件についてしばらく静観するということでよろしいでしょうか?」
キラの言葉に出席者全員が頷く。プラントは独立戦争に深く介入しないことが会合の決定となった。
プラントがこの独立戦争に不干渉の態勢を決め込み始めた為、南アメリカ合衆国は当てが外れてしまい大いに動揺した。南アメリカの各国政府の要人は、何とかプラントからの支援を得るべくプラントの外交官と連日話し合いを行っていたが、未だに色よい返事を貰えずにいた。
無論南アメリカ合衆国は独立後の市場の開放、ザフト駐屯軍の維持費の一部を負担するなどの好条件を提示するなど色々手を打ったがプラントの反応は芳しくなかった。
「このままではザフトの支援なしで戦えばいずれ敗北する。今は南米の英雄が士気を高めているが、連合軍が本格的な攻勢に出たら我らは蹂躙されるだろう」
「もし敗北すれば前よりも苛烈な条件を押し付けられるだろう。そうなれば南アメリカ諸国は主権国家として終わりを迎える可能性が高い」
今一度敗北すればどんな未来が待っているかわかったものではない。ここにいる南アメリカの政治を担う者達はみなそう思った。
「戦況は今の所南米の英雄のおかげで戦線を維持できている。彼が派手に立ち回っているおかげで、連合の狙いは彼がいる場所になっている」
「だが、英雄といえど連合が本格的に態勢を整えて進軍してくれば対応できないだろう。所詮は個の武勇で戦争は勝ち抜けん」
「そうだな。取り敢えずザフトには軍を派遣してもらえるように交渉を続けよう。プラントも我らが連合に本格的に併合させることは望むまい」
南アメリカ合衆国は独立を勝ち取るべく何とかザフトからの支援を得る為に、様々なアプローチを開始するのであった。
キラは退院したマユが寝泊りするために、特別に社員寮の一室を用意したが、部下から「いくら女子寮とはいえ9歳の子供を1人で住まわすのはどうかと……」という苦言を受けたので、結局キラが彼女の保護者になり、自分が住んでいるマンションの別の部屋を用意することにした。
「何かあったらこの番号にかけてね。最も仕事中には出れないことも多いけど。それとお世話の人を雇っておいたから、生活で不便することはないよ」
「はい。何から何までありがとうございます。キラさん」
「気にしないで。それよりもこれからどうするか決めた? もし、学校にそのまま通いたいなら学費も払うけど?」
「そ、そんな! そこまでしてもらうわけにはいきません!」
マユは生活費に加えて学費まで出してもらうのは、さすがに厚かましいと思ったのかキラの好意を遠慮する。
「でも、普通に小学校に通っていたマユちゃんが成人認定されても、働くのは無理があると思うよ?」
「……それだったらお願いがあるのですが……言ってもいいでしょうか?」
「言ってみて。笑ったりしないから」
キラはマユに対して微笑みを浮かべる。
マユは真剣な表情でキラに言った。
「成人までに必要な知識を身につけたいんです。だから、専門の家庭教師を付けてくれませんか?」
「いいけど、その後どうするの?」
「士官学校にいきます。そこで軍人になります!」
「! 理由を聞いてもいい?」
キラも真剣な表情を浮かべてマユに軍人になりたい理由を尋ねる。
「私はキラさんのご支援をもらえるので他の方より運がいいです。でも、いつまでもその御厚意に甘ているわけにはいきません。何より……」
「何より?」
「私ジークリンデさんみたいなかっこいい女性になりたいんです!」
マユのその言葉にキラはジークリンデがやたらマユと話し込んでいたことを思い出した。どうやらその時にマユはジークリンデに感化されてしまったらしい。
(でも、士官学校ならただで教育を受けることができるし、将来も戦場で命を落とさない限り安泰だ。何より彼女の希望を無下にはできない)
キラはマユの願いを聞き入れることにした。
「わかった。家庭教師は手配しておくよ。それと士官学校の方も手続きを整えておくようジークリンデに言っておく。卒業したら精々部下として頑張ってもらうよ」
「ありがとうございます! 私頑張ります!」
キラは笑顔でマユの要望を聞き入れ、マユは自分の願いが受け入れられて笑顔を浮かべて喜ぶのであった。
連合上層部ではプラントから提示された講和条約の内容について協議していた。
「何だ! この内容は! 到底受け入れられる物ではない!」
「だが、戦況はこちらに不利だし、実質この戦争に負けたようなものだ。こちらの膨大な戦力をちらつかせて譲歩を引き出してプラントと交渉すればいい」
こんな内容は呑めないと政府高官の1人が激昂するが、近くにいた人物がそれを理詰めで宥める。
「それに戦後復興のためのエネルギー問題を解消する手段が手に入るのだ。悪い案ではあるまい」
「領土に関してはユーラシア連邦と東アジアが多少損をするでしょうが、スエズ返却が成されるのであれば悪い取引きではあるまい」
下手をすれば現在占領している地域全部寄こせと言われても、連合は反論が難しい立場なのだ。
「それよりも、宇宙施設建造禁止の方が困るな。しかし、これを受け入れないと連中はNジャマーキャンセラーの提供を行わないだろう」
「オーブを独立国家に戻すのは問題ない。元々マスドライバー目当てに侵攻したのだからな。それがない彼の国の占領は負担になっている。さっさと手放した方がいいだろう」
政府高官達は譲歩する所と妥協しない所を決めながら、講和条約締結に向けて交渉を進めるのであった。