機動戦士ガンダムSEED ザフトの名参謀? その名はキラ・ヤマト   作:幻龍

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第17話

 カオシュンのマスドライバーを破壊する少し前。ザフトは最後のマスドライバーであるギガフロートを手中に収めるべく、その施設を管理するジャンク屋に最後通牒を送った。

 その内容はギガフロートはザフト勢力圏内に移動して以後、許可があるまで一切の移動を禁じることと、ザフト側が落としたレアメタルを勝手に回収して自分達の物にした事件を始めとする、無法な行いをしたジャンク屋に対する処罰とその賠償を請求するというものだった。

 

 ジャンク屋ギルドは無論この通牒に反発。ザフトの最後通牒を拒否し、マルキオ師を通じてザフトに抗議と交渉を行うことにした。

 

 ジャンク屋ギルドの抗議を受けて、マルキオ師と親しいシーゲルは参謀本部に赴き、参謀総長室にギガフロート攻略作戦についての詳細を話す為集まっていたキラ達に対して、最後通牒を撤回するように求めた。

 

「これはどういうことなのだ!? ジャンク屋ギルドに最後通牒を送りつけるなど何を考えている!?」

 

 シーゲルは普段温厚な彼としては珍しく、怒りを露わにしてキラ達に説明を求めた。

 

「シーゲルさん。これも戦略の為です。せっかく、連合が所有するマスドライバーを全て破壊しても、ギガフロートが残っていれば意味はありません。連合がここを奪取すべく軍を派遣するのは時間の問題です」

「確かにその可能性は充分にあるが、あれはそう簡単に見つかるものではない。ジャンク屋ギルドも絶対に軍事利用させないだろう」

「それは些か楽観的です。連合が本気を出せばすぐに見つかってしまいますよ。そして、連合の軍事力に彼らが敵うわけありません。まず、奪われるでしょうね」

 

 シーゲルの楽観的意見をキラは首を横に振りながら否定し、アウグストもキラの意見に賛同する。

 

「マスドライバーを全て使用できなくしない限り、連合は交渉にすら乗ってきませんよ。それにジャンク屋ギルドは最後通牒が出るまでこちらの抗議を無視していました。連中が連合の言うことを聞かないというのは納得できますが、彼等にマスドライバーを守りきるだけの戦力は存在しません。そして、マスドライバーを連合が手に入れたら彼らは交渉の席につくことはないでしょう」

 

 アウグストは戦略的な面でもギガフロート奪取は合理的だと言う。シーゲルは何とか反論しようと同じ穏健派であり、評議会議長のカナーバを見ながら自分の考えを述べる。

 

「だが、ジャンク屋ギルドは我らの物資購入にも一役買っている組織だ。彼等を敵に回せばそれらに支障を来たすことになるぞ!」

「シーゲル。あなたの立場と気持ちは理解しているつもりです。しかし、我らのやることはプラントを独立させることです。その為に必要なことをアウグスト参謀総長もキラ参謀長も言っているのです。私は彼等の意見に賛成します」

「カナーバ!?」

 

 シーゲルはカナーバがこのような強硬な策に対して賛成していることに驚いた。表向きは賛成していても、心の内では彼女は反対しているはずだと思っていただけに、シーゲルの衝撃は大きかった。

 

「シーゲルさん、これはすでに評議会で承認されたことです。採決の時も賛成多数で可決されました。今更あなた1人がこちらに来て騒いでも覆りません。マスドライバーを保持するのはあくまで講和が結ばれるまでにしています。ジャンク屋ギルドもマスドライバーが戻ってくるのなら黙るでしょう」

「むむむ……」

 

 キラは正論でシーゲルの反論を封じ込め、反論を封じられたシーゲルは思わず唸る。

 シーゲルとしてはマルキオ師との関係からしても、何とかプラントとジャンク屋ギルドとの関係悪化を防ぎたい。しかし、目の前にいる3人の人物は、今やプラントでザフトを凌駕する影の組織(シーゲル視点)のトップ3だ。この3人は実質プラントの政治を動かしているといっても過言ではない。おまけにその組織の根は民間組織まで深く浸透しているせいで、彼等の政策に反対する者は少ない。それどころか良い結果を齎すことが多いので、シーゲルはその不手際を責めて譲歩を引き出せないでいる。最も彼はジャンク屋ギルドとの関係を悪くしない為に彼等に話し合いを持ちこんだ以上そう簡単には引けなかった。

 

 しかし、キラはシーゲルがまた何か文句を言ってくるかもしれないので、これ以上彼が何も言わないように畳み掛けることにした。

 

「前回のドレッドノートの件もそうですが、あまり勝手なことを仰らないでください。こっちも余裕があるわけではないんです。だから、今回の作戦は必要なんです。プラントの為にね」

 

 キラはドレッドノートの件を持ち出してシーゲルに釘を刺す。

 シーゲルはキラの言葉に反論することもできず、完全に沈黙するのであった。

 

 数時間後。カオシュンが陥落したとの報を聞き、ザフトはギガフロートを奪取すべく大規模な部隊を派遣。ジャンク屋ギルドは無論抵抗したが、数と練度で勝るザフトMS相手に敗退し、ギガフロートはザフトの手に落ちるのであった。

 

 

 

 連合上層部はカオシュンのマスドライバーが自爆し、ギガフロートもザフトに奪取されたことを聞き、政府高官や役人達は顔を青褪めた。

 

 ザフトに全てのマスドライバーを奪われてしまったのだ。これでは宇宙での反攻作戦は少なくとも、修理中のマスドライバーが再建するまで待たなくてはならなくなった。それに対してザフトはギガフロートを懐に抱え込み、自分達だけ物資を効率よく打ち上げることができる。これに危機感を抱かない者はこの場にはいなかった。

 

 当然この状況を打開すべく話し合いが何度も行われたが、これといった意見は出てこなかった。

 

「どうするのだ!? カオシュンは確かに落としたが肝心のマスドライバーは破壊されてしまった。これでは勝利と喧伝するのは難しいぞ!」

「カオシュンもそうだが、ギガフロートも奪われてしまったことの方がまずい。あれは民間の資本も合わせて建設した物だ。何とか取り返さないとそっちの方面から抗議が来るぞ!」

「それよりも、国内で厭戦気分が高まってきた。このままではいくつかの国の政府が倒れかねない」

 

 連合上層部のほとんどの人達は、こうなれば和平も止むを得ないのではと考え始め、具体的な講和案を練る動きにまで発展する有様だった。しかし、この動きに待ったを掛けたのがブルーコスモスの盟主アズラエルだった。

 

 彼は怒りの表情を浮かべて、講和に傾きそうな政府高官に講和撤回を求めた。

 

「何を言っているんですか、みなさん。ここで屈服すれば戦後コーディネイター共に、私達はどれだけ圧迫されるかわからないのですよ!」

「だがな、アズラエル。プラントに直接攻め込むことは不可能だ。マスドライバーもないし、我らは宇宙拠点であるプトレマイオス基地を失っているのだぞ。例え、ギガフロートを奪還できても軍や物資輸送船等は、宇宙に上がった途端ザフトに狙い撃ちにされるしかない」

「ここは捲土重来の為に引くべきではないか?」

 

 政府高官達の言葉にアズラエルは怒りのままに反論したかったが、ここで感情的になれば自分の意見は通らなくなると思い耐える。

 

「……仕方ありませんね。だが、このまま負け続けでは交渉の際に足元を見られるのは間違いありません。そこで、講和するにしても、戦争を続行するにしてもここで一度決戦を挑むのはどうでしょうか?」

「決戦だと!? もし、敗北したらそれこそどんな条件を出されるかわからないぞ!」

 

 一部の者達がアズラエルが提案する決戦に対して、難色を示す。彼等の言い分はもし負けたら、それこそどんな条件を出されるかわかった物ではないからだ。連合は確かに物量でプラントを圧倒的に上回っているが、現在は原子力発電が使用不能になっているので、民衆の生活を犠牲にしてそれを維持しているに過ぎない。もし、敗北すればその損失を補填する為に更なる苦しみを与えることになり、国によっては革命が起こるかもしれないことを危惧していた。それに対して今講和すれば強大な軍事力を保持したまま、交渉に臨めるので有利な条件で講和することも可能なので、彼等の反論は筋の通った物だったが、アズラエルはその意見に頷くことはなかった。

 

「何を言っているんですか!? 今交渉すればこちらも譲歩することになり、戦後復興の元となる金は一銭も手に入らない。そんなことになれば国民は納得しませんよ!」

「確かにそうだが、それは膨らみ過ぎた軍事予算を削れば捻出できるのでは?」

「その程度の額は雀の涙程にしかなりません。だから、決定的な勝利を治めるのです! 戦争を継続するにしても講和をするにしても決戦は必要です」

「……わかった。しかし、どこで決戦を行うのだ? アラスカはもうないし、グリーンランドの基地はザフトの連中の拠点から離れすぎている。連中が赴いてくるわけがない」

 

 アズラエルの意見で決戦をする方針に傾いてきたが、肝心の決戦を行う場所をどこにすべきかで今度は揉めることになった。

 連合の大軍が布陣できる場所でザフトが遠征してくる場所等ほとんどないといってもよかった。

 

「連中からは仕掛けてこないでしょう。何せ有利なのは向こう側ですからね。だったらこっちから赴くしかないでしょう」

「それで、どこを攻めるのだ?」

 

 政府高官達からの視線を受けてアズラエルは自身満々に言い放つ。

 

「ジブラルタルが最適でしょう。あそこなら大西洋とスエズ基地から挟み撃ちにできます」

「だが、ザフトが構築したジブラルタル-アフリカのラインは強固だ。証拠に未だ我が軍は戦線を突破できないでいる」

「今まではマスドライバーの奪還を優先していましたので、主力は回せませんでしたが、今回は文字通り総力を挙げて制圧作戦を実行します」

「悪くない手だな。少なくとも何らしかの戦果を以て講和しなければ、これまで苦難に耐えてきた国民が納得しないだろうしな」

「決まりですな。それでは決戦を行ってその戦果を以て講和するということで、みなさんよろしでしょうかな?」

「私も賛成です。アズラエル理事もいいですか?」

「1人だけ我が侭を言うほど愚かではありません。しかし、やるからには勝ってくださいよ」

 

 連合上層部はこうして有利な講和を行うための決戦を行う方針を決定するのであった。

 


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