仮面ライダークウガ 青空の約束   作:青空野郎

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EPISODE41 会談

「というように我々天使は―――」

 

「そうだな。このままでは確実に3大勢力ともに滅びの道を―――」

 

「ま、俺は特にこだわる必要もないけどな」

 

いよいよ始まった悪魔、天使、堕天使の3大勢力によるトップ会談。

水を打ったように静まり返った会場で悪魔、天使、堕天使、それぞれの字ネイの代表者の

会話だけが繰り返されている。

天使代表ミカエルが発言し、悪魔代表のサーゼクスが真剣な面持ちで首肯する。

その時々に堕天使代表のアザゼルが会談をオシャカにしかねない発言で茶々を入れてきたりする。

そのたびに空気が凍りつくような雰囲気を楽しんでいる分、さらにたちが悪かった。

しかし、そんなこんなで会談は滞りなく進んでいた。

そしてついにリアスの出番が回ってくる。

 

「さて、リアス。そろそろ先日の事件について報告してくれたまえ」

 

「はい、ルシファーさま」

 

サーゼクスに促されて前に出たリアスとソーナがこの間のコカビエル戦での一部始終での出来事を話し始めた。

自分の発言が一触即発の引き金になりかねないというプレッシャーの中で冷静に、そして淡々と自身が体験した概要を聞き入る3大勢力の面々を前に、極度の緊張からか少しだけ震えていた。

いくら豪胆な彼女でもこの場の空気は酷く辛いものがあるのだろう。

報告を受けて各陣営のトップたちもため息をつく、顔をしかめる、笑身を浮かべると反応はそれぞれだった。

 

「――――以上が、私リアス・グレモリーとその眷属が関与した事件の顛末です」

 

「私ソーナ・シトリーも彼女の報告に偽りがないことを証言いたします」

 

そうして、リアスがようやくすべてを語り終え、ソーナが補足を加えて区切りを打つ。

 

「ご苦労、下がってくれ」

 

ひとつ頷いたサーゼクスの一言で着席するリアスはわずかに安堵の表情を浮かべていた。

 

「ありがとう。リアスちゃん、ソーナちゃん☆」

 

セラフォルーのウインクに、特にソーナが羞恥で頬を染めていた。

 

「さて、リアスの報告を受けて堕天使総督の意見を伺いたい」

 

サーゼクスの問いに自然と全員の視線がアザゼルに注がれる。

 

「意見も何も、コカビエルが単独で起こしたことだからな」

 

アザゼルは全員の集中が集まる状況を楽しむように不敵な笑みを浮かべていた。

 

「与り知らぬことだと?」

 

「目的がわかるまで泳がせてたのさ。フフン。まさか俺自身が街に潜入してたとは奴も思わなかったようだがな。ここはなかなかいい街だぞ?」

 

「話を逸らさないでもらいたい」

 

強い口調でミカエルが指摘するが、アザゼル当人は肩を透かしておどけて見せた。

 

「だから白龍皇に頼んで処理したろ?で、その後は地獄の最下層(コキュートス)で永久冷凍の刑にする予定だったんだが、当の本人は本当の意味で地獄に落ちちまったって話じゃねぇか。白龍皇から事の顛末を聞いた時は思わず耳を疑ったよ」

 

「それに関しては私も同意見です。―――彼ですね、コカビエルを倒したという少年は」

 

得意げな表情を浮かべるアザゼルに嘆息を付きながらも同意するミカエルの発言を皮切りに、今度は皆の視線が雄介に集まった。

各陣営のトップたちから向けられる視線に雄介は観察されるような居心地の悪さを感じた。

さらにより一層空気が張り詰めたような感覚を覚えた途端に、喉が渇きを訴え、手の内側がじっとりと汗ばんでくる。

 

「えと……どうも、五代雄介です」

 

覚悟を決めて雄介はおずおずとした様子での自己紹介の後、大した反応が返ってくるわけでもなく、サーゼクス、セラフォルー、ミカエル、アザゼルのいずれも視線を交わしていた。

妙な迫力を感じさせるその光景は互いに意思疎通を図っているように見えた。

やがて用意されていた手元の資料に目を落としてミカエルが口を開いた。

 

「そしてもうひとり。彼とともにコカビエルを打破したという門屋士なる人物についてですが………」

 

続いて、同じように資料に目を通したサーゼクスたちも新たな話題に食いつく。

 

「先程のリアスの報告でもあったが、事前に提出された資料には『仮面ライダーディケイド』と表記されているな」

 

「他にも『悪魔』に『世界の破壊者』って、こりゃまたずいぶんたいそうな肩書が並べられてるじゃねぇか」

 

「確かソーナちゃんたちもこの人に助けてもらったんだよね?」

 

セラフォルーの問いに控えていたソーナが答えた。

 

「はい。駒王学園の外で結界を維持している最中にコカビエルの手下の堕天使に襲われそうになったところを救われました」

 

ソーナの言うとおり、門矢士は雄介の元に駆けつけるより前に、コカビエルの命令でソーナたちの抹殺を目論んでいた堕天使と怪人たちを殲滅していた。

結界の展開中に現れた刺客たち。

迎撃に出せる戦力もないまま窮地に追いやられたところを、何食わぬ顔で現れたのがディケイドに変身した士だった。

行きがけの駄賃だと言わんばかりに士はさまざまな戦士に姿を変えながら、次々と堕天使と怪人を倒していったという。

最後に堕天使のひとりを連れて士は結界の中に消えていったと補足した。

 

「なるほどな。しかし、コカビエルはあれでも大戦を勝ち残った『神の子を見張る者』のひとりだぞ?あいつがやられるなんざ、このディケイド氏って奴の実力は相当なもの手ことになるな」

 

ソーナの説明に研究者としての琴線に触れたのか、アザゼルはおもしろおかしそうに口角を上げていた。

 

「本来なら彼からも話を聞いてみたかったのですが………どうやらもうここ(・・)にはいないようで残念です」

「本人がいないってんならしょうがねえ。ここはお仲間(・・・)に聞くとしようじゃねえか。なあ、『仮面ライダークウガ』さんよ」

 

意味深なアザゼルの発言で、お仲間―――雄介に再び注目が集まった。

 

「解説よろしく頼むぜ」

 

やはり来たかと、雄介は内心で苦笑した。

今回の会談のために作成された資料にはクウガにも仮面ライダーという表記が追加されている。

それは今回の事件をきっかけに、雄介自身が選んだ覚悟と誓いの証である。

遅かれ早かれ話題に上がるだろうと予想はしていた。

雄介はリアスに視線だけを向けて様子を伺うと、雄介の視線に気づいたリアスは小さく頷いて合図を送る。

今一度、雄介は気を引き締めた。

 

「仮面ライダーは人々の自由と平和を守る戦士の名称です」

 

次元が隔てる向こう側には、それぞれの歴史を築き、独自の文明が発展した平行世界が存在する。

数多に存在する平行世界の中には、世界の繁栄をよしとせず、人類の安寧を脅かす悪鬼の怪人たちが跋扈する世界がある。

その世界ではグロンギのような怪人たちの暗躍に巻き込まれた人々が次々と命を落としていく。

歪んだ理想を掲げ、理不尽な欲望を振りかざし、罪のない命を弄ぶ怪人たちに人々は恐怖でおびえる日々を送る。

だが、社会の裏から忍び寄る怪人たちの前に敢然と立ち塞がる戦士がいた。

それが、仮面ライダー。

その中でも特に特異な存在であるディケイドはさまざまなライダーの世界を行き来する術を持ち、一部の仮面ライダーに変身し、能力と武器を発動することができる。

仮面ライダーは己が魂に刻んだ誓いを胸に、命と懸けて惨劇から自由を、悲劇から平和を守るために修羅の道を歩む。

笑顔を、魂を、願いを、夢を、孤独を、道を、正義を、未来を、運命を、物語を、罪を、欲望を、絆を、希望を、士道を―――さまざまな我を通し、彼らは果てしない戦いの中で迷い、悩み、泣き、苦しみながらもそれぞれの信念を背負い、信じる道を行く。

クウガもその魂を受け継いだ仮面ライダーのひとりであり、そして今も時空を越えて新たな仮面ライダーが誕生し続けている。

………的なことをトップ陣営からの質問に雄介は答えていった。

一通りの説明を終えた後はしばし水を打ったような静寂が支配した。

さすがに異世界の話ともなればスケールが大きすぎる。

沈黙する各陣営のトップたちは考えを巡らせているのかもしれない。

リアスたちもどんな反応をすればいいのかわからないでいるのだろう、ただただ表情で動揺を露わにするのが精一杯な様子だった。

しかし、そんな誰もが出方を窺う状況の中で、サーゼクスアクションを起こした。

 

「なるほど。冥界や天界のような隣接世界ではなく、全く異なる次元に隔絶された異世界―――平行世界を自在に行き来できる、か。どうやら我々の認知する世界という概念は存外、小さきものなのかもしれないな」

 

「神器とは違う技術を用いて創られた力ねえ。こりゃ傑作だな。少なくともコカビエルに匹敵、あるいはそれ以上の力を持った連中がゴロゴロいるってわけだろ?ハハハッ、もし神が生きてたらきっと青ざめてただろうな」

 

嘆息交じりに沈黙を破ったサーゼクスとは対照的に、アザゼルが白い歯を見せて挑発的な笑みをミカエルに向けた。

遠まわしに主である神を侮辱されてイリナがアザゼルを睨み返した。

怒りで表情を歪ませている彼女を尻目にミカエルは自嘲の吐息を漏らしていた。

 

「おっしゃる通り、返す言葉もありませんね。彼の言うことが本当ならば、もしもすべての仮面ライダーが集結し、当時の大戦に参加していればまた違った結果が生まれていたかもしれません。……しかし、とりあえずこれで現状を把握することができました。話を戻しましょう。そもそもはコカビエルが事を起こした動機です。コカビエルがあなた方に不満を抱いていたと」

 

寄り道から戻り、改めて切り返すミカエルにアザゼルは苦笑を浮かべる。

 

「ああ、戦争が中途半端に終わっちまったことが相当不満だったようだな。俺は戦争なんぞ、いまさら興味はないがな」

 

「不満分子ってことね?」

 

鋭い声音でアザゼルを睨めつけるのはセラフォルーだった。

やはり魔王の肩書を背負う人物である。

いつもの調子を狂わせるポジティブな雰囲気は完全に消え失せ、空気を緊張させる気迫は本物だった。

だが、それでも尚アザゼルは綽々とした笑みを崩さない。

それはやせ我慢でもなければ虚勢でもないことはすぐに感じて取ることができた。

 

「お前さんらもいろいろあるらしいじゃねえか」

 

「それは今回の件とは関係ない。今回の会談の目的は―――」

 

「もうめんどくせえ話はいい。とっとと和平を結んじまおうぜ。お前さんらも元々そういう腹積もりだったんだろ?」

 

正に唐突の瞬間だった。

サーゼクスの追及を自棄気味に遮り、事も無げに言ってのけるアザゼルの発言がこの場にいる者を驚愕させた。

確かに今回の会談の目的は3すくみの勢力が和平を結ぶことであるが、決して耳をかっぽじながら持ち出すべき提案ではないはずだ。

 

「今の3竦みの関係はこの世界の害になるだけだ。異論はねえだろ?」

 

再び、皆の反応を楽しむかのように笑みを浮かべるアザゼル。

これが堕天使を総べる総督としての余裕なのか、それともただのバカなのか。

とにかく思わぬ形で歴史的瞬間に直面した雄介たちはアザゼルの発言に、ただただ呆気にとられるばかりだった。

まんざらでもない面持ちで提案するアザゼルに、あきらめたかのようにミカエルは嘆息しつつも微笑を浮かべた。

 

「確かに、私もそのつもりでした。これ以上3すくみの関係が悪化してしまえば、種の存続が危ぶまれてしまうでしょう。戦争の大元である神と魔王は消滅したのですから」

 

「そこでだ、問題は3すくみの外側にいながら、世界を動かすほどの力を持っている赤龍帝、白龍皇。お前らの意見を聞きたい」

 

ここで話題の矛先が一誠とヴァーリに向けられた。

 

「俺は強い奴と闘えればいいさ」

 

アザゼルの後ろで平然と笑むヴァーリ。

 

「戦争しなくたって、強い奴はごまんといるさ」

 

「だろうな」

 

呆れを交えてアザゼルが皮肉るが、ヴァーリ当人は鼻を鳴らして一蹴するだけで特に気にした様子は見せない。

 

「じゃ、赤龍帝、お前はどうだ?」

 

アザゼルの視線が今度は一誠に向けられ、意見を求めてきた。

しかし、いざ出番が回ってくるとなにを言えば良いのか分からず、一誠は頬をかきながら答えた。

 

「いや、いきなりそんな小難しいこと振られても、よく分からないです。頭が混乱していて、世界がどうこう言われても正直、実感がわきません」

 

一誠のたどたどしい答えに、アザゼルはにやりと口角を上げた。

ひとつ、なんとなくわかったことがある。

アザゼルがわざとらしい笑みを浮かべた時は十中八九、ろくでもない事を言いだしかねないのだ。

 

「なら、恐ろしいほど噛み砕いて説明してやろう。兵藤一誠」

 

今も一誠に向けている、わざとらしい笑みでいったい何を言い出すのだろうか……。

 

「俺らが戦争してたら―――女は抱けないぞ?」

 

やはりしょうもない内容だった。

してやったりな笑みに、逆に悪意を感じる。

しかし、今の一言に一誠はというと………

 

「――なん…だと……?」

 

今までにないくらいの衝撃を受けた反応を示していた。

 

「和平を結べば戦争する必要もなくなる。そうしたら、そのあと大事になるのは種の繁栄と存続だ」

 

「種の繁栄!?」

 

さらに食いつく一誠。

堕天使総督さんは一誠の性格をよく熟知していらっしゃること。

 

「おうよ。お前さんの夢であるハーレム作って子づくりに励むことができる。毎日ハーレムでとっかえひっかえでレッツパーリーすんのも自由ってわけだ」

 

恥ずかしげもなく言うアザゼルの説明に、一誠の心は確実に揺れ動いている。

トドメにアザゼルは最後の砦を崩しにかかった。

 

「和平なら毎日子づくり。戦争なら子づくりなし。どうだ、わかりやすいだろ?」

 

「和平でお願いします!ええ、平和が一番です!エッチしたいです!」

 

一瞬で声高らかに欲望を開放する一誠であった。

鼻の下を大きく伸ばしただらしのない姿に、雄介たちは呆れを通り越して苦笑いを浮かべることしかできないでいる。

 

「―――ハッ!?」

 

我に返った一誠は自分の発言を思い返すと、ごまかすようにコホンと咳を一つこぼした。

 

「とにかく!俺はリアスさまと仲間を守るためにしか使いません。これは絶対です」

 

気を取り直して言葉を紡ぐ一誠。

嘘偽りのない精一杯の言葉に、誰もが穏やかな笑みをこぼしていた。

話も良い方向に片付きつつある中、頃合を見計らったミカエルが切り出した。

 

「赤龍帝殿。私に話があるといっていましたね?」

 

「覚えてくださってたんですか?」

 

「もちろん」

 

一誠からミカエルへの話。

おそらく、予め神社の儀式の際に約束をとりつけていたのだろう。

約束通り、機会を設けてくれたことに好印象を抱いたが、すぐに表情を引き締め直して一誠は一度アーシアに視線を向けた。

心配そうに見つめ返す彼女のために一誠は改めて決意を固めて、ミカエルに問うた。

 

「アーシアを、どうして追放したんですか?」

 

一誠の質問に動揺の波紋が広がったのが分かった。

特にアーシアが顕著に反応を示していた。

あれほど神を信じていたアーシアをなぜ追放したのか?

アーシアを利用し、殺した堕天使以上の怒りを一誠は天使サイドに抱いていたのだ。

先ほどと一転し、一誠の真剣な様相を察したミカエルが真摯な態度で語り始めた。

 

「そのことにいては、申し訳ないとしか言えません。神が消滅した後、『システム』だけが残りました。加護と慈悲―――奇跡をつかさどる力と言い換えてもよいでしょう。悪魔祓い、十字架などの聖具がもたらす効果も『システム』によって齎されているのです」

 

どうやら、リアスたち悪魔が十字架、聖書や聖水でダメージを受けるのは、神が造ったという『システム』の影響によるものらしい。

ミカエルは話を続ける。

 

「今は私を中心にかろうじて起動させている状態です。故に、システムに悪影響を及ぼす者を遠ざける必要がありました」

 

「アーシアが悪魔や堕天使を回復できる力を持っていたからですか?」

 

一誠の疑問にミカエルは静かに首肯した。

 

「信者の信仰は、我等天界に住まう者の源。信仰に悪影響を与える要素は極力排除しなければシステムの維持はできません」

 

「だから、予期せず神の不在を知る者も排除の対象となったのですね?」

 

そう言って、話の間に入ってきたのはゼノヴィアだった。

ミカエルは再び頷いた。

 

「はい。そのため、あなたもアーシア・アルジェントも異端にするしかありませんでした。申し訳ありません」

 

そしてミカエルはアーシアとゼノヴィアに向けて頭を下げた。

予想外のミカエルン行動に、アーシアとゼノヴィアが目を丸くし、反応に困っていた。

そして真実を知った人物がもう一人いた。

かつてゼノヴィア同じ志を持っていたイリナだった。

ゼノヴィアとは件の任務を境に、有耶無耶なままそれきりだったため、彼女に対してある種の憎しみを抱いていた。

しかし、ゼノヴィアが教会を抜けた本当の理由に平静を失っていた。

そう、ゼノヴィアは決して裏切ったわけではなかったのだ。

イリナが動揺を隠せない視線を向ける先で、ゼノヴィアは首を横に振っていた。

 

「どうか、頭をお上げください。ミカエルさま。長年教会に育てられた身。多少の後悔はありましたが、今は悪魔としてのこの生活に満足しております」

 

柔らかく微笑むゼノヴィアにアーシアが続いた。

 

「ミカエルさま。私も今、幸せだと感じています。大切な人がたくさんできました」

 

アーシアとゼノヴィア、2人の笑顔には軽蔑の念もなければ、怨嗟の念もない。

2人の言葉に胸のつかえが取れたのかミカエルは安堵の表情を見せた。

 

「あなたがたの寛大な御心に感謝します」

 

事の行く末にほっと胸を撫で下ろす中で、アーシアを見つめていたアザゼルが唐突に口を開いた。

 

「そういや、俺のところの部下がそこの嬢ちゃんを騙して殺したらしいな」

 

対岸の火事を見るかのようなアザゼルも物言いに、一誠の頭がカッとなった。

 

「他人事みたいに言うな!」

 

一誠の私怨の叫びが室内に響く。

 

「落ち着きなさい、イッセー!」

 

先ほどの一誠の質問はミカエルからの特別措置によるもの。

すぐにリアスが諌めてくるが、頭に血が上った一誠はさらに声を荒げた。

 

「あんたに憧れてた堕天使の女が!あんたのためにアーシアを殺したんだよ!」

 

感情が抑えられないまま一誠が叫んだ刹那、アザゼルの雰囲気がガラリと変わる。

表情からは笑みは一切消え去り、鋭い視線で一誠を睨め返していた。

 

「―――ッ!」

 

射竦められるようなプレッシャーを本能で悟った一誠はそれ以上二の句を繋げなかった。

暴走しかけた一誠を黙らせるとアザゼルは再び一転して不敵な笑みを浮かべた。

 

「部下の暴走は俺の責任でもある。だから俺は、俺にしかできないことでお前らを満足させてやるよ」

 

「なに?」

 

「イッセー」

 

しかし、意味深なアザゼルの言葉に疑問を持った一誠をリアスがなだめようとした時だった。

雄介は腹部が疼く様な違和感ともうひとつ、体の感覚が停止するような感覚に襲われた。

そう、それは何度か経験した、アークルが神器に反応する感覚、そしてギャスパーの神器が発動した時の感覚だった。

 

                      ☆

 

「今のは……」

 

小さく呟く雄介は目に飛び込む光景に唖然とした。

感覚にしてわずか一瞬に世界は色を失ったモノクロな世界に一変していた。

それは既に何度か体験したギャスパーの力で時間が停止した世界。

 

「時間が停止したのか?」

 

「らしいな」

 

事態を把握しきれていない一誠にヴァーリが反応を返した。

周囲を見渡せば、雄介の他に時間が停止した世界で動いている者と停まっている者と分かれていた。

 

「上位の力を持った俺たちはともかく―――」

 

まずはアザゼルをはじめとする、各陣営のトップであるサーゼクス、セラフォルー、グレイフィアとミカエル。

 

「俺たちは、ドラゴンの力」

 

白龍皇ヴァーリと赤龍帝一誠。

いつの間にかブーステッド・ギアが発動していた。

どうやら互いに、二天龍の魂が宿る神滅具が抵抗したようだ。

 

「そっちの連中は聖剣が力を防いだんだな」

 

ヴァーリの視線を追うと、祐斗は聖魔剣を、ゼノヴィアはデュランダルをそれぞれ携えていた。

両者とも、聖剣の波動を盾にすることで時間停止から免れたのだ。

 

「私が大丈夫なのはイッセーのおかげよ」

 

そして最後にリアス。

彼女は時間が停止する寸前に一誠の左腕に触れていた。

恐らく、一誠に宿るドライグの力が彼女もいっしょに守ってくれたようだ。

そういう意味では、偶然とはいえ運が良かったと言えるだろう。

残る朱乃、小猫、アーシア、さらにはソーナと椿姫は残念ながら、停止世界の住人となってしまっていた。

雄介はどうにか冷静を取り戻すが、事態はさらに急変する。

突如発生した爆音とともに、校舎が大きく揺れた。

慌てて会議室の窓に近づくと、雄介は大きく目を見開いた。

雄介の視界に映ったのはローブを着こみ、フードを深く被った黒装束の集団だった。

巨大に描かれた魔法陣から現れる黒い人影は空も、校庭も埋め尽くされている。

 

「何なんだあの連中!」

 

「あれは魔術師ね」

 

驚愕する雄介の疑問に答えたのはセラフォルーだった。

 

「魔術師?」

 

「いわゆる魔法使いのことだね。まったく、魔女っ娘の私を差し置いて失礼なのよ!」

 

さりげないセラフォルーの魔女っ娘へのこだわりはさておき、再び衝撃で校舎が揺れる。

 

「一体何が起こってるんですか?」

 

「テロだよ」

 

「―――ッ!」

 

いつの間にか近くに来ていたアザゼルの言葉に思わず耳を疑った。

全身の血が凍るような感覚が全身を駆け巡り、今人倒れてしまいそうな錯覚に襲われる。

 

「俺たちは今攻撃を受けているのさ。まったく、いつの時代も和平を結ぼうとする時に限って邪魔が入っちまう。勘弁してもらいたいもんだな」

 

含み笑いを浮かべてアザゼルは肩を竦めるが、雄介は気が気ではない。

そもそも、なぜ時が止まってしまったのだろうか。

 

「しかし、この力は………」

 

「おそらくは、あのハーフヴァンパイアの小僧を強制的に禁手状態にしたんだろう」

 

「ギャスパーを!?」

 

「停止能力を持つ者は滅多に存在しない。おそらくは敵の手に落ちたと見るべきだろう」

 

まさかギャスパーが利用されるとは思いも寄らず、雄介は言葉を失う。

ギャスパーを旧校舎に残してきたことが完全に仇になってしまった。

 

「私の眷属がテロリストに利用されるなんて、これほどの侮辱はないわ!」

 

雄介の隣に立つリアスの表情は憤怒に染まっていた。

抑えられない感情が紅いオーラとなって全身から迸っている。

こうしている今も、ギャスパーの力で停止させられた各勢力の警護の者たちがテロリストたちの手によって次々と葬られていく。

今はサーゼクス、ミカエル、アザゼルの3名が展開する強力無比な防御結界のおかげで新校舎には大した被害は出ていない。

窓の外を眺めながら、3大勢力のトップたちが真剣な面持ちで話し込む。

 

「転移魔術……この結界にゲートを繋ぐ者がいるようですね」

 

「逆に、こちらの転移用魔方陣は完全に封じられています」

 

「やられたな」

 

「ええ、このタイミングといい、リアス・グレモリーの眷属を逆利用する戦術といい――」

 

「裏切り者が……?」

 

ミカエルの言葉を繋げたのはイリナだった。

予想外の言葉に戦慄が走る。

 

「どちらにしろ、このままじっとしているわけにもいくまい」

 

「ギャスパーくんの力がこれ以上増大すれば、我らとて……」

 

「サーゼクスたちまで……あいつにそこまでの力が?」

 

おそらく、もう攻撃でこちらの動きを抑え、やがて時間停止の影響がサーゼクスたちにまで及んだ瞬間に校舎ごと屠るという算段なのだろう。

さすがは“特異な駒”の転生悪魔であるギャスパーの潜在能力は驚嘆に値する。

 

「とにかくハーフヴァンパイアの小僧をどうにかしないと危なっかしくて反撃もできやしねえ」

 

呆れるように息を吐くアザゼルの言うとおり、このまま事態を放置すればどうなるかは火を見るより明らかだ。

しかし、外は魔術師たちの魔力光線の雨となっている。

あの中を掻い潜りながら旧校舎にたどり着くのは至難の業であるのもまた事実であった。

そんな切羽詰まる状況の中でリアスが進言した。

 

「お兄さま、旧校舎に未使用の“戦車”の駒が保管してあります」

 

「“戦車”……なるほど、『キャスリング』か」

 

「キャスリング?」

 

「“王”と“戦車”の駒を一手で入れ替えるチェスにおける特殊なルールさ」

 

つまり、リアスは瞬時に旧校舎に転移する事が可能だということだ。

確かに、瞬間移動なら外に出る必要もない上、一気に敵陣の中央に突貫することができる。

 

「だが、リアス一人を送り込むには……」

 

「ギャスパーは私の眷属です。私が責任を持って奪い返してきます」

 

「サーゼクス様の魔力をお借りできれば、もう一方なら転移は可能かと」

 

「なら、俺も行かせてください!俺が部長を、ギャスパーを守ります!」

 

強い意志を瞳に宿すリアスに一誠も手を上げて進言する。

 

「テロリストごとハーフヴァンパイアを吹き飛ばせば簡単じゃないか?」

 

緊迫する雰囲気に水を差すようにヴァーリがごく自然に言ってのけた。

 

「なんなら、俺が行ってもいいぞ?」

 

「和平を結ぼうって時だぜ?ちったぁ空気読めよ、ヴァーリ」

 

さすがのアザゼルも不適な笑みを浮かべるヴァーリに呆れたのか大きな嘆息で一蹴した。

 

「じっとしているのは性に合わなくてね」

 

「なら、外で敵をかく乱してこい。白龍皇がでれば奴らも少しは乱れるだろうよ」

 

「了解」

 

すると、アザゼルの命令に従うヴァーリの背中に白く光る翼が展開された。

あれが白龍皇の神滅具、『白龍皇の光翼(ディバイン・ディバイディング)』。

一誠の赤龍帝の籠手とは違い、左右の対象が取れた出で立ちには独特の美しさがあった。

ヴァーリは翼を広げると、窓から飛び立ち夜空に飛翔する。

 

禁手化(バランス・ブレイク)!」

 

【VANISHING DRAGON!BALANCE BREAKER!!!】

 

白い軌跡を画きながら敵陣の真ん中に躍り出たヴァーリに神器が呼応し、白き輝きが放たれた。

刹那の内に光が止んだ時には、ヴァーリは純白の全身鎧を纏っていた。

前に一度だけ見たことがある、白龍皇の力を具現化させた白龍皇の(ディバイン・ディバイディング・)(スケイルメイル)

穢れを知らない白き龍の皇がその圧倒的な存在感を示していた。

白龍皇の登場に、魔術師たちが一斉に魔力弾を放った。

しかし、ヴァーリには届かない。

ヴァーリは障壁を展開し、敵の攻撃を一発一発的確に防いでいたのだ。

集中砲火を受けているにもかかわらず、涼しげな様子でヴァーリは軽く手を払った。

火の粉を払うようなごく単純なしぐさ―――刹那、ヴァーリを中心に白い閃光が爆ぜた。

なす術もなく、大勢の魔術師たちの身体が塵となって消滅していく、まさに一方的な蹂躙劇だった。

 

「強ぇ……めちゃくちゃ強えじゃねえか……」

 

ヴァーリの一騎当千の戦いぶりに、一誠は感嘆の声を漏らした。

しかし同時に、突きつけられる宿敵との圧倒的な力の差に劣等感を抱いていた。

 

「だが、あの強さは危険な臭いがする」

 

何かを感じ取ったゼノヴィアが表情を険しくさせているが、今は考えても何も始まらない。

 

「部長、必ずギャスパーを取り戻しましょう!」

 

改めて気を引き締める一誠にリアスも強く頷く。

 

「あ、ちょっと待ちな」

 

そんな時、アザゼルが一誠に声をかけた。

僅かながらも警戒する一誠の前で、アザゼルは懐をまさぐっていた。

 

「こいつを持って行け」

 

アザゼルが一誠に手渡したのは、見知らぬ文字が刻みこまれた2つの腕輪だった。

訝しく思う一誠にアザゼルが言う。

 

「その腕輪が代価の代わりになってくれるはずだ」

 

「代価……禁手化になれるってことか?」

 

思いもよらぬ贈り物に一誠は喜びを覚えた。

以前からアザゼルは神器への強い興味から研究を重ねていると聞いていたが、いざその実力の一端を目の当たりにするとただただ驚愕するばかりだった。

 

「最後の手段にしておけよ。体力の消費までは調整できんからな」

 

補足として説明するアザゼルの忠告に、一誠は表情を引き締めた。

思い出すのは以前のライザー・フェニックスとのレーティング・ゲームでの失敗。

 

「もうひとつはハーフヴァンパイアにつけろ。暴走を抑える効果がある。いいか、よく覚えておけ。今までは運よく勝てたようだが、お前は人間に毛が生えた程度の悪魔だ。力を飼いならせなきゃ、いずれ死ぬぞ。お前自身が神器の弱点なんだからな」

 

「わかってるさ……!」

 

アザゼルの言葉で痛いところを突かれて一誠は苦い顔をする。

しかし、改めて自身の弱さを再認識し、同時にギャスパー奪還の決意をさらに固めるのだった。

 

                      ☆

 

準備が整い、リアスと一誠は魔法陣の上に待機している。

 

「リアスを頼んだぞ、兵藤一誠くん」

 

「はい!」

 

サーゼクスの言葉に一誠は勇ましく答える。

 

「2人とも、気を付けて」

 

そして懸念する雄介に力強くサムズアップを掲げ、2人は転送の光に包まれる。

最後に2人がいた場所に、紅い“戦車”の駒が転がっていた。

 




お待たせしました!
ようやく続きを投稿することができました!
前回の投稿が去年の12月16日?
ハハハ………もう3ヶ月も経ってらぁ……………。
ウィザードやってる間に3ヶ月も経ってらぁ…………。
ああ、無常なり。
以上、早く仮面ライダー大戦が見たい青空野郎でした。

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