仮面ライダークウガ 青空の約束   作:青空野郎

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EPISODE38 解放

駒王学園校内で撮影会を開いていたアニメキャラクターのコスプレ少女はなんと、四大魔王のひとり、セラフォルー・レヴィアタンだった。

ソーナ会長の実姉だけあってかなりの美人である。

………美人ではあることは間違いないのだが、なぜか釈然としないものが一誠にあった。

一誠の想像ではグラマラスでボインでスリットから太ももを覗かせる、大人の色香が迸る魅惑のお姉さま系の人物だった。

まさか目の前で魔法少女のコスプレ少女が魔王とは露ほどにも思わなかった。

これにはさすがの雄介も驚きを隠せないでいる。

 

「お久しぶりですセラフォルーさま」

 

「あらリアスちゃん☆おひさ~☆元気してましたか?」

 

語尾に☆がきらめくかわいらしい口調に挨拶をしたリアスも反応に困る様子で答える。

 

「おかげさまで。今日はソーナの授業参観に?」

 

「うん☆ソーナちゃんったらひどいんだよ!今日のこと黙ってたんだから!お姉ちゃん、ショックで天界に攻め込んじゃうところだったんだよ☆」

 

本気なのか冗談なのかいまいちよくわからないが、もしもそんな理由で攻め込まれたら天界の方々もたまったものではないだろう。

 

「雄介、イッセー。ごあいさつなさい」

 

「は、はじめまして、兵藤一誠です。リアス・グレモリーさまの下僕で“兵士”をやってます!よろしくお願いします!」

 

リアスに言われ、一誠は頭を下げて挨拶をする。

 

「ねえ、サーゼクスちゃん。この子が噂のドライグくん?」

 

「そう、彼が『赤い龍』を宿す者、兵藤一誠くんだ。そして…」

 

サーゼクスに対して『ちゃん』付けすることもそうだが、それが普段からの愛称なのかサーゼクス本人もそのことに突っ込みを入れないことに驚いた。

だが驚いてばかりもいられず、サーゼクスに視線で促される形で雄介も前に出る。

 

「五代雄介です。リアスさんと同じオカルト研究部に所属しています。あ、よかったらこれどうぞ」

 

「どうもありがとう☆夢を追う男、か。なるほどね。キミがそうなんだ。ふーん。へー。ほー☆」

 

差し出された名刺を受取るなり、レヴィアタンが興味深げに食い入るように雄介を見つめてきた。

 

「はじめまして☆魔王のセラフォルー・レヴィアタンです☆気軽にレヴィアたん、って呼んでね☆」

 

しかし、その真意は掴めないまま目の前で横チェキピースして挨拶をする魔王少女さまだった。

 

「グレモリーのおじさまもご無沙汰してます☆」

 

「ふむ。セラフォルー殿。これはまた奇抜な衣装ですな。いささか魔王としてどうかと思いますが…」

 

「あら、おじさま☆ご存じないのですか?今この国ではこれが流行なのですよ?」

 

「ほう、そうなのですか?これは申し訳ない。私が無知だったようだ」

 

「ハハハハ。父上、信じてはなりませんよ」

 

などという会話をグレモリー親子とセラフォルーがしている。

 

「ぶ、部長。想像をはるかに越えて軽いノリなんですけど。ルシファーさまもそうなんですが…その、特にレヴィアタンさまが…」

 

あまりの困惑ぶりに、額に手を当ててリアスがため息をつきながら言う。

 

「言うのを忘れていた――いえ、言いたくなかったのだけれど、現4代魔王さま方はどなたもプライベートが軽いのよ。…酷いくらいに」

 

身内の姿、言動に心底恥ずかしさを感じているのか、見ればソーナも顔を真っ赤にしていた。

その様子に気づいたセラフォルーがソーナの顔を心配そうにのぞきこむ。

 

「ソーナちゃん、どうしたの?お顔が真っ赤だよ?せっかくの再会なんだからもっと喜んでくれてもいいんだよ?『お姉さま!』『ソーたん!』って抱き合いながら百合百合な展開でもいいと思うんだよ、お姉ちゃんは!」

 

すさまじく難易度の高いセラフォルーの発言に、怪訝な表情で目元を引きつらせながらソーナは口を開いた。

 

「お姉さま。ここは私の学び舎で、私はここの生徒会長を任されているのです…。いくら身内とはいえ、お姉さまの行動は…そのような格好は容認できません」

 

「そんな!ソーナちゃんにそんなこといわれたらお姉ちゃん悲しいよ!お姉ちゃんが魔法少女に憧れているって知ってるでしょう!きらめくスティックで天使、堕天使をまとめて抹殺なんだから!」

 

「お姉さま、ご自重してください。魔王であるお姉さまがきらめかれたら小国が数分で滅びます」

 

きらめく笑顔で物騒極まりない発言をするセラフォルーに、努めて静に説得するソーナ。

雄介の無言のアイコンタクトを察したのか、リアスが顰め面で頷くところを見ると、冗談というわけではないようだ。

どうやら、目の前のコスプレ美少女、セラフォルー・レヴィアタンという人物は魔法少女なんてかわいいものではない―――魔王少女さまだと悟った瞬間だった。

 

「なあ、匙。前のコカビエルが襲来してきたとき、会長はお姉さんを呼ばなかったみたいだけど…これを見る限り、仲が悪いからってわけじゃなないよな?」

 

「逆ですわ」

 

一誠の疑問に朱乃が答えた。

 

「セラフォルーさまが妹君であるソーナ会長を溺愛しすぎているので、呼ぶと逆に収拾がつかなくなるとか」

 

「確かに、妹が堕天使に汚されると知ったら、下手すれば即戦争になっていたかもしれません。あそこはセラフォルーさまを呼ばずにルシファーさまを呼んで正解ですよ。しかし、俺も初めてお会いしたけど、これは……」

 

苦笑する匙の気持ちは分からないでもない。

雄介も魔王としてそれでいいのかと思ってしまうほどの重症な軽さに困惑が隠せないでいる。

 

「もう…たえられません!」

 

とうとう、冷静沈着なクールビューティで通っていたソーナが目元を潤ませて走り去っていった。

 

「待って!ソーナちゃん!置いていかないで!」

 

それを見て、セラフォルーはソーナの後を追って走り出した。

 

「ついてこないでください!」

 

「いやぁぁぁん!お姉ちゃんを見捨てないで!ソーたぁぁぁぁあん!」

 

「『たん』付けはお止め下さいとあれほど!」

 

「会長!悪い兵藤、俺は会長のフォローをしなきゃだから後は頼んだ!」

 

雄介たちはただただ魔王姉妹(+匙)の追いかけっこを見送ることしかできなかった。

とりあえず何かの拍子で学校が消し飛ばされないことを祈っておく。

 

「うむ。本日もシトリー家は平和だ。そう思うだろう、リーアたん?」

 

「お兄さま、私の愛称に『たん』を付けて呼ばないでください」

 

「そんな……リーアたん。昔はいつもお兄さまお兄さまと私のうしろをついてきてくれていたあのリーアたんにとうとう反抗期が……」

 

今度はグレモリー兄妹のほうで恥ずかしい会話が始まっていた。

サーゼクスのわざとらしくショックを受ける反応には少しばかりから顔も入っているのだろう。

同時に、リアスは家では「リーア」と呼ばれていることがわかった。

 

「お兄さま!どうして今、幼少時の私のことを―――」

 

パシャリ

 

恥ずかしさで顔を赤く染めて怒るリアスを遮ったのは、一回のシャッター音。

 

「いい顔だ、リアス。よくぞ、よくぞここまで立派に育ってくれた……。ここに来られなかった妻の分まで私は今日張り切らせてもらおうぞ!」

 

紅髪の男性が感無量の様子で怒ったリアスを写真に撮っていた。

 

「お父さままで!もう!」

 

どうやらこの人がリアスの父親のようだった。

さらに顔の赤みを増したリアスを傍目に見ていた雄介は呆気にとられていた。

初めて見る魔王一家の光景。

勝手ながらも重苦しい想像とはかけ離れた光景。

魔王の一族としての威厳の欠片もない、賑やかで暖かな雰囲気は人間の親子関係と何も変わらないものだった。

雄介が茫然としていると、朱乃が心底愉快そうに微笑みながら話しかけてきた。

 

「魔王さまと、その御家にはおもしろい共通点があるのですよ」

 

「共通点?」

 

「魔王さまは皆さまおもしろい方々ばかりなのです。そして、その兄弟は例外なく真面目な方ばかりなのです」

 

なるほど、と雄介は思った。

確かに、以前のサーゼクスの行動や言動を見ていれば、朱乃の説明を裏付けるのに十分だった。

きっとフリーダムすぎる性格のせいで真面目にならざるを得なくなったのだろう。

 

「おっと、もうこんな時間か。すまないがこの後私は理事長と約束があるゆえ、失礼させてもらう。サーゼクス、後は頼めるな?」

 

「はい、父上」

 

そう言って、リアスの父親はこの場を後にして行った。

 

「ボクは教室に戻ります。それでは」

 

続けて祐斗もサーゼクスに一礼して教室に戻って行った。

 

「リアス」

 

「なんでしょうか、お兄さま」

 

「少しいいだろうか。朱乃くんも一緒に来てくれるかな?」

 

「はい」

 

「すまないね。少し彼女たちを借りるよ」

 

そう言い残してサーゼクスはリアスと朱乃を連れていずこかへ消えていった。

最後に残された雄介、一誠、アーシアの3人が顔を見合わせる。

 

「うーん、戻るか」

 

「はい」

 

「そうだね」

 

結局3人は一度教室に戻ることを選択したのだった。

 

                      ☆

 

「ほぉ!さすがリアスちゃん、良く映ってますな!」

 

テレビの画面に映し出されたリアスにおやっさんが感服していた。

 

「ハハハハ!やはり娘の晴れ姿を視聴するのは親の務めというものです!」

 

そして、日本酒を飲みながら豪快に笑うのはリアスの父親だった。

このリアスの父親、酒を飲んだ途端人が変わったように陽気になっている。

このリアスの父親、おやっさんと挨拶を交わすなり一時間と経たず意気投合して今では一緒に酒をあおっている。

営業終了後のポレポレにサーゼクスとリアスの父親が訪れ、今はリビングで今日の授業参観の鑑賞会が開かれていた。

 

「――早く終われ早く終われ早く終われ早く終われ早く終われ早く終われ早く終われ早く終われ!」

 

雄介とリアスはというと、リビングの端っこで呪詛の如く念じながら生殺しのような時間を耐えぬいていた。

おやっさんはポレポレでの仕事があったために授業参観に顔を出さなかった。

故に雄介は意気揚々と鑑賞会に参加しようと高を括っていたのだが、先ほどまでテレビには紙粘土制作に没頭する雄介の姿が流されていた。

どうやらおやっさんがサーゼクスと話をつけていたらしい。

雄介自身撮影されていることに全く気付かなかった。

 

「これは……かつてないほどの地獄だわ………」

 

雄介の隣でリアスが顔を最大に紅潮させながら、ぷるぷると全身を震わせていた。

 

「見てください!うちのリーアたんが先生にさされて答えているのです!」

 

ハイテンションで解説し始めたサーゼクスに、とうとうリアスが限界を迎えた。

 

「耐えられないわ!お兄さまのおたんこなす!」

 

「リアスさん!」

 

丁度、両手で顔を覆いながらリアスがリビングから走り去って行った後、スパーン!とグレイフィアがハリセンでサーゼクスを張り倒していた。

 

「からかうにしても少しばかりやりすぎです」

 

「申し訳ありませんでした…」

 

サーゼクスが床に倒れ伏しながら謝るという異様な光景に苦笑いを浮かべながら、雄介はリアスの後を追いかけて行った。

 

「付かぬことをお伺いしますが、彼のご両親は?」

 

雄介が出て行った後、リアスの父親が話を切り出してきた。

 

「あいつの両親はずいぶん昔に幼い雄介を残して死んじいましてね。それからは僕が引き取って親代わりを」

 

「それはすばらしい。とても立派なことです。それに、彼のように品行方正な青年は本当に珍しい」

 

「自慢の忘れ形見ですよ。でなければ、あの2人に顔向けできませんからね」

 

「そうですか。ですが、先ほどから何か悩み事がおありの様子だとお見受けしますが…」

 

さすがは魔王を輩出した一族のひとりである。

無意識のうちに表情に出ていたおやっさんの微妙な心の変化を見抜いていた。

リアスの父親の指摘に顔を少しだけ曇らせながらおやっさんはぽつりぽつりと話し始めた。

 

「大したことじゃないんですけどね。…ほら、もうすぐ学校も夏休みじゃないですか。なのにあいつ、最近冒険の話をひとっつもしないんですよ」

 

「冒険、ですか?」

 

「あいつは父親に似て無類の冒険好きでしてね。本当なら今頃、あそこで本広げて冒険の計画を立ててるんですよ」

 

視線を巡らせる先のテーブルに雄介の姿を重ねながら、おやっさんは静かに本心をこぼした。

 

「ここにいてくれることは素直にうれしいんですけど、やっぱりあいつには、冒険が一番似合ってるんですよね……」

 

                      ☆

 

雄介が二階に上がると、部屋の扉の前で膝を抱えて座り込むリアスがいた。

 

「リアスさん…?」

 

不覚にも、不機嫌そうに頬を膨らませる姿が何ともかわいらしかった。

 

「えっと、とりあえず部屋に入りますか?」

 

リアスは無言で頷いた。

そして部屋に入るなり、リアスはベッドに飛び込み、今度はうつ伏せのまま黙り込んでしまった。

どうも声をかけづらい状況ではあったが、雄介はリアスに話しかける。

 

「いやあ、見事におやっさんとリアスさんの親御さんなかよくなっちゃいましたね」

 

「………」

 

リアスから返ってきたのは無言だった。

しかし、それでも雄介は続ける。

 

「ちょっと盛り上がりすぎなところもありますけど、俺はよかったと思ってます。あんなに楽しそうなおやっさんは久しぶりですから」

 

「……わかってるわ。私だって父とおじさまが楽しそうに話していてうれしいのよ」

 

ようやく返事を返してくれたことに雄介は内心で安堵する。

 

「ねえ、雄介」

 

「はい?」

 

「雄介は私と出会えて幸せ?」

 

「――え?」

 

予想外の質問に一瞬言葉を失う雄介だったが、リアスは続ける。

 

「私は幸せよ。もうあなたのいない未来なんて考えたくもないわ。光栄に思いなさい」

 

リアスの言葉を照れくさく思いながら雄介はポリポリと頬をかく。

同時に、彼女の想いに本心で答えなければと思った。

 

「俺も同じです。俺もリアスさんといることがとても楽しいです」

 

「雄介……」

 

うれしそうに顔を上げるリアスに、雄介は二の句を繋げる。

 

「それに一誠くんや祐斗くん。朱乃さんに小猫ちゃん、アーシアちゃんとゼノヴィアちゃん。みんなと一緒にいられて本当に幸せです」

 

「………はあ。そうよね。確かにそれがあなたの魅力のひとつだけど、さすがにちょっとショックだわ」

 

盛大なため息を吐きながら、心底残念そうにリアスは呟いた。

 

「……?」

 

しかし当の雄介はリアスの反応の原因がわからずかしげてしまっている。

そんな雄介に業を煮やしたのか、リアスは立ち上がり、そして――

 

「―――ッ!!?」

 

何の前触れもなく、唐突に口がふさがれた。

人生2度目のキスだった。

それを理解した時、やわらかく官能的なリアスの唇の感触が伝わってくる。

内心で激しく狼狽していると、不意にリアスの舌先が雄介の唇をチロリとなめた。

 

「お楽しみのところ邪魔してすまないね」

 

そのままリアスの舌が雄介の口に侵入しようとした瞬間に、サーゼクスが割って入ってきた。

 

「お兄さま、いつからそこに?」

 

さすがのリアスも羞恥を残しながら、それでいて名残惜しそうに距離を開ける。

 

「ちょっと抜け出してきたのだよ。昼間の話の続きをしようと思ってね」

 

そういえばと、昼間にリアスと朱乃はサーゼクスに呼び出されていたことを思い出していた。

疑問に思う雄介に、サーゼクスは予想外の一言を口にした。

 

「もうひとりの“僧侶”についての、ね」

 

それは、雄介がリアスに出会う前にすでにいたという、2人目の“僧侶”のことだった。

 

                      ☆

 

その次の日の放課後、雄介は旧校舎一階の「開かずの教室」とされていた部屋の前に立っていた。

部屋の前にはすでに全員集まっている。

この部屋は外側からも厳重に閉められており、中に入ることができないでいた。

話ではこの部屋の中にもうひとりの“僧侶”がいるらしい。

今まで何に使われているのか、一切説明がなかったが、どうやら雄介を含め、一誠、アーシア、ゼノヴィア以外のメンバーは知っていたようだ。

フェニックス家とのゲームもコカビエルとの一戦でも姿を現さなかったのは、その謎の“僧侶”の能力が危険視され、当時のリアスでは扱いきれないため、サーゼクスから封印するように言われていたらしい。

しかし、リアスが四大魔王、大王バアル家、大公アガレス家からフェニックス家との一戦とコカビエルとの一戦が評価された。

それにより今なら、そのもうひとりの“僧侶”を扱えるだろうと判断され、封印状態を解禁してもよいということを昨夜、サーゼクスを通して伝えられたのだ。

「KEEP OUT!!」のテープが幾重にも張り巡らされており、呪術的な刻印も刻まれている「開かずの教室」の扉。

 

「一日中ここに住んでいるの。一応、深夜には術が解けて旧校舎内だけなら自由に出歩けるのだけれど、中にいる子自身がそれを拒否しているの」

 

「要するに、引きこもりってことですか?」

 

雄介の質問にリアスはため息をつきながら頷いた。

 

「でもこの子が眷属の中でも一番の稼ぎ頭だったりするのですよ」

 

「マジですか!?」

 

驚く一誠に祐斗が説明してくれる。

 

「パソコンを解して、特殊な契約を行っているんだ」

 

「しかし、封印されるほどの危険な力とはどんなものなんだ?」

 

ゼノヴィアの疑問ももっともだ。

 

「さて、扉を開けるわ」

 

リアスの言葉で扉の封印が消滅し、いよいよ硬く閉ざされていた扉が開かれた。

 

「イヤァァァァァァアアアアアアッッ!」

 

突如、旧校舎内にとんでもない声量の絶叫が響き渡った。

何事かと思いながらも、とりあえず特に驚くこともしないリアスたちの後に続いて雄介は教室の中に足を踏み入れた。

カーテンが閉め切られていて薄暗い部屋の中は、ぬいぐるみなどが並べられていて意外とかわいらしく装飾されている。

そして部屋の中央には黒い大きな棺桶が鎮座していた。

リアスはその棺桶に声をかける。

 

「ごきげんよう。元気そうでなによりだわ」

 

「な、何事なんですかぁぁぁぁ!?」

 

「封印が解けたのですよ?もうお外に出られるのです。さあ、私達と一緒に――」

 

「イヤですぅぅぅぅぅ!ここがいいですぅぅぅぅぅ!外怖いんですぅぅぅぅぅッ!」

 

いかにも引きこもりらしい発言が朱乃の言葉を遮った。

しかしかまわず優しい声音で朱乃が棺桶の蓋を外すと、そこにいたのは、血のように赤い双眸とアーシアよりも暗い金髪の隙間から伸びた僅かに尖った耳が特徴的な女子の制服を着た美少女だった。

少女は棺桶の中で力なく座り込み、リアスたちから逃げようとおびえた視線を向けている。

唖然とする雄介にアーシアは首を傾げ、ゼノヴィアも「?」と疑問符を浮かべている。

逆に事情を察している木場は苦笑いを小猫ちゃんはため息をついていた。

 

「おおっ!女の子!しかも外国の!」

 

そんな中で一誠がおびえて震える少女に喜びの声を上げた。

しかし歓喜に舞っていた一誠に、リアスは首を横に振って言った。

 

「確かに見た目は女の子だけれど、この子は紛れもない男の子よ」

 

「………。……へ?」

 

理解できない言語に我が耳を疑った一誠は一瞬言葉を詰まらせてしまった。

そしてそれは雄介たちも同じだった。

リアスの言葉に雄介、アーシア、ゼノヴィアの3人は反応することさえ忘れてしまう始末だった。

 

「いやいや、どう見ても女の子じゃないですか部長。………え?マジで?」

 

「女装の趣味があるのですわ」

 

未だに信じられないでいる一誠の横から朱乃が平然と言った。

 

「ええええええええええええええええええええええええええええええええええええええッッ!!?」

 

あまりの衝撃に、とうとう一誠は大声を張り上げてしまった。

 

「ヒィィィィィィィッ!ゴメンなさぁぁぁぁぁい!」

 

一誠の声に驚いて悲鳴を上げる金髪美少女――否、金髪美少年だった。

 

「う、ウソだァァァァァァァァァァァァァァッッ!!」

 

何とも無慈悲な理不尽に一誠は頭を抱えながらその場で崩れ落ちてしまった。

 

「完全に美少女なのに男だなんて……。こんな残酷な話があってたまるか!似合っている分余計真実を知ったときのショックがデカい!てか、引き籠りなのに女装趣味ってどういうことだよ!誰に見せるための女装だよ!?」

 

「だ、だって女の子の服の方がかわいいもん」

 

「もん。じゃねえよ!!野郎の癖に俺の夢を一瞬で散らせやがってぇぇぇぇぇぇッ!俺はな!俺はアーシアとおまえでダブル金髪美少女“僧侶”を夢見てたんだぞぉぉぉぉぉぉぉッ!」

 

「人の夢と書いて、儚い」

 

「あ、上手い」

 

「いや、それシャレになってないから!」

 

最終的に小猫の無情な一言にトドメを刺され、一誠はツッコみながら号泣する。

 

「と、ところでこの方たちは誰ですか?」

 

瞳を涙で潤ませた視線を向けながら女装少年がリアスに訊いた。

 

「あなたがここにいる間に増えた眷属よ。“兵士”の兵藤一誠、“騎士”のゼノヴィア、あなたと同じ“僧侶”のアーシア、そして五代雄介。彼は一応人間だけど私に力を貸してくれているの」

 

「人、間……?」

 

「よろしくね」

 

「ヒィィィッ!ふ、増えてるぅぅぅぅぅ!」

 

「あらら………」

 

やさしく声をかけたつもりだったが、結局怖がられてしまい調子を崩されてしまう雄介たち。

しかし、コスプレ美少女の次は女装癖のある男の娘ときた。

ある意味悪魔は人間より自由なのかもしれない、と雄介は驚愕しながら心の中でそう思った。

 

「お願いだから外に出ましょう?もうあなたは封印されなくてもいいのよ?」

 

「嫌ですぅぅぅぅぅ!どうせ僕が出て行っても迷惑かけるだけなんですぅぅぅぅぅッッ!」

 

やさしく言うリアスに尚も拒絶の反応に、とうとう一誠は見るに見かねて少年に近づいた。

 

「いいからほら、部長が外に出ろって―――」

 

だが、一誠が少年に近づいて腕を取って引っ張っていこうとした時だった。

 

「ヒィィィィィ!」

 

少年の絶叫と共に、目の前が一瞬真っ白に染まった。

 

「……………あれ?」

 

恐る恐ると目を開いた雄介はすぐに異変に気付いた。

雄介の周りには、一瞬の時を切り取ったようなモノクロの世界が広がっていた。

 

「リアスさん?」

 

声をかけるが、残念ながらリアスから返事が返ってくることはなかった。

 

「イッセーくん?みんな?」

 

他のメンバーも同様に反応する者はだれ一人いなかった。

ためしに肩を揺すってみても石像のようにピクリとも動かない。

それはまるで―――

 

「時間が、止まってる……?」

 

「ど、どうしてあなたは動けるんですか?」

 

「え?」

 

何もかもが停止した世界の中で、今起きている現象に戸惑いながら腹部に手を添えた刹那、背後から聞こえた声に思わず雄介は振り返った。

 

「ご、ゴメンなさいぃぃぃぃぃッ!」

 

しかし雄介と視線が合うなり少年は再び絶叫し、部屋の片隅に逃げ込んでしまった。

 

「……あれ?」

 

「おかしいです。何か今一瞬…」

 

「ああ、何かされたのは確かだね」

 

丁度その時、謎の現象から解放されたのか、一誠、アーシア、ゼノヴィアは驚き、他の皆はため息をつくだけだった。

 

「怒らないで!怒らないで!ぶたないでくださぁぁぁぁぁぁいッ!」

 

相変わらず怯えている少年に疑問に感じていた雄介たちに朱乃が説明してくれた。

 

「その子は興奮すると、視界に映したすべての物体の時間を一定の間停止させることができる神器をもっているのです。しかし彼は神器を制御できないため、魔王サーゼクスさまの命でここに封じられていたのです」

 

朱乃の説明で雄介は納得した。

時間を止めたため、すべてが停止した。

至極単純な理由だった。

しかし、時間を停止させたにも関わらず、部屋から出てないところを見ると、引きこもりとしてはかなりの重症である。

リアスは少年を後ろからやさしく抱きしめて、雄介たちに言った。

 

「この子はギャスパー・ヴラディ。私の眷属『僧侶』。いちおう駒王学園なの。―――そして転生前は人間と吸血鬼のハーフなのよ」

 




とりあえずセラフォルーとギャスパー出せました。
そしてそして、本日ようやく鎧武はじまりましたね。
とりあえず、opかっけぇ!

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