仮面ライダークウガ 青空の約束   作:青空野郎

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EPISODE37 魔王

ようやく心地よいと思える程度の夜風が吹き始めた初夏の夜、いつものようにオカルト研究部の部室を訪れた雄介はまず最初に呆気にとられた。

雄介にさわやかな笑みを向ける人物がリアスの実兄であり、同時に4大魔王のひとりでもある、サーゼクス・ルシファーだったからだ。

彼の後ろでメイド服姿の銀髪の女性、ルシファー眷属『女王』グレイフィアが小さく頭を下げた。

 

「くつろいでくれたまえ。今日はプライベートで来ているんだ」

 

サーゼクスに軽く手をあげて促され、跪いていた一同が立ち上がる。

 

「やあ、我が妹よ。しかし、いつ来てもこの部屋は殺風景だ。年頃の娘たちが集まるにしても魔方陣だらけというのはいかがなものだろうか」

 

部屋を見渡しながら苦笑するサーゼクスにリアスは怪訝な様子で問うた。

 

「お、お兄さま。ど、どうして、ここへ…?」

 

「何を言ってるんだ。授業参観が近いのだろう?私も参加させてもらおうと思っていてね。ぜひとも妹が勉学に励む姿を間近で見たいものだ」

 

そう言ってサーゼクスは一枚のプリントを取り出した。

彼の言うとおり、そのプリントには授業参観の案内を示唆する文章が並べられていた。

 

「グ、グレイフィアね?お兄さまに伝えたのは」

 

「はい。学園からの報告はグレモリー眷属のスケジュールを任されている私のもとへ届きます。むろん、サーゼクス様の『女王』でもありますので主へ報告も致しました」

 

相変わらずの淡々とした声音のグレイフィアの返答を聞いて、リアスは嘆息した。

どうやらあまり乗り気ではないようだ。

 

「報告を受けた私は魔王職が激務であろうと、休暇を入れてでも妹の授業参観に参加したかったのだよ。安心しなさい。父上もお越しになられる」

 

「お父さままで…!?」

 

リアスはさらに失望に似た声でつぶやいた。

確かに、なんとなくその気持ちはわからないでもない。

そんなことを考えていると、我に戻ったリアスがサーゼクスに食って掛かった。

 

「そ、そうではありません!お兄様は魔王なのですよ?魔王が仕事をほっぽり出すだけではなく、いち悪魔を特別視されてはいけますわ!」

 

しかし、声を荒げるリアスにサーゼクスは首を横に振って答えた。

 

「いやいや、これは仕事でもあるんだよ、リアス。実は3すくみの会談をこの学園で執り行おうと思っていてね。今回は会場の下見も兼ねているのだよ」

 

「――っ!ここで?本当に?」

 

リアスを筆頭に、サーゼクスの言葉に全員が一斉に驚きを隠せない表情を浮かべた。

 

「ああ。この学園とは何かしらの縁があるようだ。私の妹であるおまえと、伝説の赤龍帝、聖魔剣使い、聖剣使い、魔王セラフォルー・レヴィアタンの妹が所属し、コカビエルと白龍皇が襲来してきた。そして…」

 

「…?」

 

一度言葉を区切ったサーゼクスが視線を雄介に向けた。

おそらくクウガのことだろう。

 

「―――とにかく、これは偶然で片づけられる事ではない。さまざまな力が入り混じり、うねりとなっているのだろう。ハハハ、妹の眷属は楽しい者が多くて実におもしろい」

 

しかし結局、それ以上の意図は分からないままサーゼクスは何事もなかったかのように話を続けていく。

 

「アザゼルについてだが、特に警戒する必要はないだろう。彼の悪戯には困ったものだが、昔からああいう男だ。しかし、総督殿は予定より早い来日だったな。………おっと、すまない。つい長居をしてしまったようだ。これ以上ここで難しい話をしても仕方がないな。私はこれで失礼させてもらおう」

 

雄介が部室に来て5分も経たず、サーゼクスの一言をきっかけに本日の部活はこれにてお開きとなった。

 

                      ☆

 

「なるほど、妹がご迷惑をおかけしていないようで安心しました」

 

「いやいやとんでもない。むしろこっちが助かっちゃってるぐらいですから」

 

その日の夜、ポレポレの店内でサーゼクスとおやっさんがあいさつを交わしていた。

サーゼクスの横でリアスが、そしてその後方にグレイフィアが待機している。

会談が行われるまでの間、サーゼクスはリアス宅に滞在することになった。

しかしその隣に建つポレポレが雄介宅だと知るや否や、「ぜひとも妹がお世話になっている店のご主人にあいさつをしたいと思っていたのだよ」と、言い出した。

それを聞いてリアスは「ダメ!それだけは絶対にダメよ!」と、抵抗を試みていたが、やはりその程度で魔王とその『女王』を止められるわけもなく今に至る。

そんな光景を雄介は少し離れた場所から窺っていた。

サーゼクスが何を言い出すのか怖くて仕方がないのだろうか、落ち着きのない様子でリアスは顔を真っ赤にしていた。

時折、ちらちらとこちらに視線を向けてくるのはおそらく助けを求めるものだろう。

 

「リアスさん、ガンバ!」

 

しかし、雄介はいつもの笑顔とサムズアップで返すだけだった。

それを見て、まさか裏切られるとは思っていなかったのか、リアスは蒼白の表情を浮かべた。

雄介は普段からリアスの常軌を逸したスキンシップに一方的に翻弄されている。

恨めし気な視線が向けられてきたが、雄介はどこ行く風で受け流す。

リアスには悪いが、雄介はめったに見れない彼女の姿をもうしばらく堪能させてもらうことにした。

そうこうしているうちにサーゼクスとおやっさんの会話は盛り上がりつつあった。

おやっさんにはあらかじめサーゼクスの身の上はリアスの兄で、父親が経営している会社の跡継ぎであると説明してある。

 

「で、そちらのメイドさんは?」

 

「ええ、グレイフィアです」

 

おやっさんの問いにサーゼクスは答える。

 

「実は私の妻です」

 

「「え!?」」

 

サーゼクスの言葉に雄介とおやっさんは思わず驚きで声を絶句させてしまったが、グレイフィアは無表情のままサーゼクスの頬をつねった。

 

「改めまして、メイドのグレイフィアです。わが主がつまらない冗談を口にして申し訳ありません」

 

「い、いひゃい…いひゃいひょ、ぐれいふぃあ」

 

静かに怒るグレイフィアと涙目で笑うサーゼクス。

恥ずかしさが頂点に達したのかリアスは両手で顔を覆っていた。

まさか魔王と称される人物がこんな風に冗談を言うとは思わなかった。

グレイフィアも手馴れている様子だからこれが2人の日常なのだろう。

そんなやり取りを見ていると、思わず笑みがこぼれてくる。

 

「それではグレモリーさんも授業参観に?」

 

再度おやっさんが話しかける。

 

「ええ。仕事が一段落しているので、この機会に一度妹の学び舎を見つつ、授業の風景も拝見できたらと思いましてね。当日は父も顔を出す予定です」

 

「へえぇ、グレモリーさんのお父さんも」

 

「父は駒王学園の建設などにも携わっておりまして、私同様、良い機会だからと。本当はリアスの顔を見たいだけだと思いますが」

 

「それは楽しみですな。あ、そうだグレモリーさん!コーヒーはお飲みになりますか?実はとっておきの豆があるんですよ!」

 

そう言って立ち上がったおやっさんは厨房の戸棚から嬉しそうにコーヒー豆の入った袋を取り出してきた。

 

「それは素晴らしい。ぜひともいただきましょう!」

 

満面の笑みを浮かべる魔王サーゼクスは予想以上にフレンドリーなお方だった。

 

                      ☆

 

「そ、そんな…今日は雄介と寝てはダメなのですか?」

 

「すまない。今夜は彼と話しながら床に就きたいんだ。リアス、悪いけど今夜だけ五代くんを貸しておくれ」

 

就寝時間が近づいてきた深夜、雄介の部屋の前で悲しそうな表情を浮かべてサーゼクスに詰め寄っていた。

何でも言葉通り、サーゼクスは雄介と話をしながら眠りたいといいだしたのだ。

すでに来客用の布団を部屋に準備している。

毎夜のように雄介と一緒に寝ているリアスにとってこの宣告がよほど心底ショックだったのか、まるでこの世の終わりが来たかのような顔を蒼白させている。

そういえばと、以前にリアスの雄介への依存は日に日に増しているらしいと朱乃から聞かされたことを思い出す。

普段は凛としていて全校生徒憧れの大人の女性で通っているリアスだが、最近では家に帰るなり年相応の少女となって何かと雄介に甘えてくる。

 

「雄介…!」

 

今もこうして寂しげな声音で雄介と寝ないと死んじゃう病にかかっていると本気で唱えるリアスが抱き着いてくる。

薄い生地越しに伝わる柔らかな感触が雄介の理性を揺さぶってくる。

しかしそんな雄介の葛藤もお構いなしにリアスは雄介を抱きしめる腕にさらに力を込める。

 

「一人で眠れる?私が隣にいなくても平気?私は平気じゃないわ。あなたが隣にいないというだけで―――」

 

「お嬢さま。そろそろご自分のお部屋に戻りましょう。今夜はお嬢さまのお部屋に御厄介になりますからね。それではサーゼクスさま、おやすみなさいませ」

 

「あぁあ、雄介ぇ………」

 

言い終える前にグレイフィアに腕を引かれ、名残惜しそうなリアスが離れていった。

そして、ぽつりと取り残された雄介とサーゼクス。

 

「さ、中に入ろうか」

 

「そうですね」

 

サーゼクスに促され、部屋に入る雄介。

2人きりになって改めて意識すると、雄介は底知れない緊張を覚えた。

エレガントな立ち振る舞いに、人当たりの良い人格。

そして、無意識にあふれ出ている魔のオーラが計り知れないものだと本能で理解する。

これが、幾千の悪魔たちを束ねる王―――魔王。

同じ空間で、同じ空気を吸うだけでも目の前の紅髪の男性が別格の存在であると思い知らされる。

それから特に会話のないままお互いが寝る準備に取り掛かり、電気を消した時だった。

 

「アザゼルに会ったそうだね」

 

「……はい」

 

窓から差し込む青白い月明かりが突然話しかけてきたサーゼクスと素直に頷く雄介を照らす。

 

「何かをされたわけではなさそうだが、何かは言われたのかな?」

 

「…今度、改めて会いに行く。と」

 

「そうか。…アザゼルは神器に強い興味を持つと聞く。もちろん、兵藤一誠くんの持つブーステッド・ギアも例外だはないだろう。現に彼と同じ神滅具を宿すものが彼のもとに身を寄せている」

 

「白龍皇、ですね?」

 

「ああ。そういえば、キミたちは一度会っているんだったね。そして、アザゼルはキミのもとにも訪れた。実際にコカビエルを倒したんだ。神器でなくてもアザゼルがクウガの力に…いや、正確にはキミ自身に興味を抱いたのだろう」

 

「俺自身に……一体、何のために?」

 

「それはわからない。けれど、アザゼルは天界、冥界、人間界に影響を及ぼせるだけの力を持った組織の総督だ。しかし、彼はコカビエルのような戦好きではない。過去の大戦で一番最初に戦から手を引いたのは堕天使だったぐらいだからね」

 

「……そう、ですか…」

 

雄介は言葉に詰まった。

確かに初めてアザゼルを前にした時、彼から敵意は感じられなかった。

むしろあの不適な笑みからは愉楽以外感じられなかったといってもよい。

しかし、だからと言って安心できるかと聞かれれば答えはNOだ。

そんな雄介の不安に気付いたのか、サーゼクスは頼もしい口調で語りかける。

 

「安心しなさい。キミの安全は私が保障しよう。妹はキミのことを大切に思っている。あんなに楽しそうなリアスは冥界でもそう見れなかった。きっと、今は毎日が楽しいのだろう。それはキミのおかげだと私は思っている」

 

サーゼクスという人物は心底リアスをいとおしく思っているのだろう。

今の一言に含まれているであろうリアスへの親愛が多分に感じられた。

 

「五代雄介くん。リアスを、妹をこれからもよろしく頼む」

 

もちろん断る理由は毛頭ない。

雄介は優しい笑みを浮かべて、力強く頷いた。

 

「はい!もちろんです!俺にとってもリアスさんは大切な友達(ひと)ですから!」

 

その言葉を聞いてサーゼクスはこれ以上のない歓喜に満ちた笑みを浮かべた。

 

「私を前に言い切るとはさすがだよ!ハハハハハハ!―――ありがとう。そうだ、五代雄介くん。キミのことは妹同様、雄介くんと呼んでもいいかな?」

 

「はい、それはもちろん」

 

「ありがとう。では、雄介くんも私のことを名前の方で呼んでくれないかな?あ、お義兄(にい)さんでもかまわないからね」

 

「お、お兄さん!?」

 

再度雄介は言葉に詰まった。

しかし今度は違う意味で。

何を持ってお兄さんなのかがいまいちよくわからない。

よくわからないが、とても光栄なことなのだろうか…。

 

「いや、さすがにお兄さんは失礼だと思うので…サーゼクスさん、でいいですか?」

 

「フフフ、ではそういうことにしておこうか。うーん、しかし残念だ。せっかくなら、お義兄さんと呼ばれてみたかったのだが…。まあ、今はこれでいいのかもしれないね」

 

「……?」

 

「さて、それでは今日はそろそろ寝よう。明日は学校なのだろう?おやすみ、雄介くん」

 

何がなんだかわからないままで、結局ひとりで自己完結してしまったサーゼクスの一言で2人は眠りについていった。

 

                      ☆

 

サーゼクスの来訪から数日が経った。

サーゼクスとグレイフィアは人間界に来た次の日から町に繰り出していた。

下見だと言ってはいたが、暇なときに2人に付き添った雄介からしてみればただ観光しえいるようにしか見えなかった。

いやしかし、魔王であるサーゼクスからしてみれば、自分には想像もできないような視点で物事を捉えているのかもしれない。

だからゲーセンで遊んで冥界での設立を目論んでたり、マク○ナルドで全メニューを制覇して冥界にもチェーン展開を考えていたり、魔王の絶大な魔力で神社にお参りしたり、ア○メイトで衝動に駆られて思わず引いてしまうほどの大人買いをしたり、一見外遊としか思えない行動のひとつひとつに真摯にあたっていたのだと思う。

あ、いつの間にか2○時間テレビのチャリティ募金にありえない金額を寄付している。

10㎝は優に超えているであろう札束を目の前に周りの人たちは反応に困っている光景に軽く頭を抱える。

 

「はあ……」

 

これが何度目のため息かを数えるのはそろそろ面倒になってきた。

 

                      ☆

 

そして参観日当日がやって来た。

科目は英語。

世界各国を冒険してきた雄介にとって高校で習う内容はさして苦でもない。

いつもより割増しに緊張の雰囲気が漂う教室。

しかし、この日なぜか机に配られたのは紙粘土。

怪訝に思う生徒たちに担当教師は言う。

 

「いいですかー。いま皆さんに渡した紙粘土で好きなものを作ってみてください。動物でも人でもなんでもいい。自分が今頭の中に思い描いたありのままの表現を形作ってくださーい。そういう英会話もあるのです。ではレッツトライ!」

 

レッツトライじゃねえだろォォォォォォォッ!

生徒を代表して一誠が心の中でシャウトした。

ねえよ!どこの世界に紙粘土で授業する英語があるんだよ!そんな英会話なんて聞いたことねえよ!

 

「む、難しいです…」

 

「これが経済大国日本の片鱗か…」

 

後ろから聞こえた声。

振り返るとアーシアとゼノヴィアはすでに制作に取り掛かっていた。

意外と元教会コンビの2人は妙なことに順応が早かった。

 

「アーシアちゃん、ファイトよ!」

 

「アーシアちゃん、かわいいぞ!」

 

さらに聞き覚えのある声に視線を向けると一誠の両親が息子そっちのけでアーシアにエールを送っていた。

ビデオカメラを向け、見事な親バカを発動する父母に嬉しそうにするアーシアを見ていると、一誠も自然と頬が緩んでくる。

気づけば渋々ながらも周りで紙粘土に手を伸ばし始める生徒も現れ始めている。

気を取り直して一誠も紙粘土に向き直る。

紙粘土独特の感触に何とも言えないまま一誠は静かに目を閉じる。

脳内で妄想を働かせ、そして1番最初に思い描いたものは………

 

『イッセーさん♪』

 

裸体で微笑むアーシアの姿だった。

雄介が毎晩リアスと寝ると同じように、一誠もまた毎晩のようにアーシアと同じベッドで寝ているのだ。

すでにアーシアの身体のありとあらゆる箇所を触れ、肌の質感を完全に記憶している一誠。

こうして目をつむるだけで、成長途中のひかえめなおっぱいの絶妙な感触を思い出すことができる。

細くくびれた腰回りもうっすらと脂肪が乗っていてやわらかい。

さらにはスラリとした美脚もスベスベで張りと弾力に満ちている。

ああ、アーシアのおっぱい!腰!おしり!太もも!

なんか鼻の穴から赤い欲望が垂れだしているけれど知るかんなもん。

脳内メモリに刻まれた、鮮明に映るヴィジョンをもとに一誠はただただ紙粘土をこねていく。

 

「ひょ、兵藤くん……」

 

突然名前を呼ばれ、妄想に耽る一誠の肩に手を置かれる。

我に返り振り向くと、そこにいたのは驚愕で全身を震わせる担当教師だった。

どうやら一誠の手元を見て驚いているらしい。

釣られて一誠も自身の手元に視線を移すと…

 

『おおっ!』

 

クラスから歓声が沸いた。

ついでに言うと、一誠自身も感嘆の息を漏らしていた。

机の上には紙粘土で作られたアーシアのフィギュアが鎮座していた。

まさにミニアーシア。

おっぱいの形、お尻の形、太もものラインなど、細部まで繊細にそして完璧に再現されている。

その完成度に一誠自身信じられず、目をパチクリさせている。

脳内に焼付いたアーシアメモリーをもとに手を動かしていたらとんでもない奇跡が起きていた。

 

「す、すばらしい…。兵藤くん、キミにこんな才能があっただなんて…。やはりこの授業は正解だった!またひとり生徒の隠された能力を私は引き出したのです!」

 

涙で目元を濡らす先生の言葉に続いて、生徒たちが騒然とする。

 

「それ、まさか、アーシアちゃんか?アーシアちゃんなのか!?チクショー!イッセーの野郎やっぱりアーシアちゃんとデキていやがったのか!」

 

「ウソだ!俺たちのアーシアちゃんが…俺たちの天使がこんな野獣とォオオオオオッ!」

 

「認めねぇ!俺は絶対ぇ認めねぇぞ!美女と野獣のランデブーはディ○ニーだけで十分だ!」

 

絶叫する者、膝から崩れ落ちる者、頭を抱える者など、皆それぞれが衝撃を表現する。

 

「5千!」

 

「いや、6千!」

 

「俺は7千出すぞ!それでアーシアちゃんの肢体を堪能するんだ!」

 

「ふざけろ!俺が買うんだ!是非とも今夜のお供に8千!」

 

誰が言ったのかは分からなかったが、その瞬間、教室は一気にオークション会場へと変わってしましまい、お札が飛び交う。

当然授業どころではなくなってしまったのは言うまでもない。

その後、授業を台無しにしたことで英語教師はこっぴどく叱られたようなのだが、それはどうでもいいことである。

 

                      ☆

 

そしてお昼休み。

 

「よくできています。私、感動しました!」

 

微笑むアーシアが件の紙粘土像を大事そうに抱えていた。

結局、一誠はアーシアの像を断固として売らなかったのだ。

 

「俺も最初見たときは本当にびっくりしましたよ」

 

「ふふ、さすが毎日アーシアちゃんの身体を見て、触っているイッセーくんですわね」

 

「ま、イッセーらしいといえばイッセーらしいのだけれど…」

 

雄介と会話をするのはリアスと朱乃。

一誠とアーシアと一緒に飲み物を買いに出たとき、自販機の前で偶然遭遇したのだ。

今も目の前でハートマークが浮かび上がるような雰囲気で笑い合う2人が微笑ましい。

 

「ところで、雄介は何を作ったのかしら?」

 

と、雄介の顔を覗き込むようにリアスが嬉々とした表情で尋ねてきた。

 

「俺のは別にたいしたものじゃありませんよ」

 

「そんなことはどうでもいいのよ。私は雄介の作ったものを知りたいの」

 

囁くような声音でさらに顔を近づけてくるリアス。

口から漏れ出る吐息がくすぐったい。

 

「もしかして、イッセーみたいに私の像を作ってくれたのかしら?」

 

「い、いやぁ、さすがにそれは……」

 

「ふふふ、冗談よ」

 

雄介の反応を十分楽しんだのか、クスクスと面白おかしく笑いながら雄介から顔を離すリアス。

 

「そういえば、リアスさん。サーゼクスさんはもう来ているんですか?」

 

安堵の息を吐いて、今度は雄介が問うた。

 

「…ええ。父も一緒に来たわ」

 

その質問を聞くなりリアスの表情は一変し、額に手を当て、ため息を吐きながら答える。

 

「あ、部長。それにみんなも」

 

しばし談笑していたところに飲み物を買いに来たのだろうか、祐斗が現れた。

 

「あら、祐斗もお茶?」

 

「いえ、何やら魔女っ子が撮影会を開いていると聞いたので、ちょっと見に行こうかと」

 

廊下の先を指さす祐斗の返答に、雄介とリアスは互いの顔を見合わせながら首を傾げた。

 

                     ☆

 

カシャカシャカシャ!

 

フラッシュをたく音が響き渡る廊下の一角でカメラを持った男たちがたむろしている。

人だかりができていて、今いる位置からでは何を撮影しているかがわからない。

何とか人垣を潜り抜けると、やはり祐斗の言っていた通りそこには魔女っ子のコスプレをした美少女の姿が飛び込んできた。

一誠曰く、目の前の魔女っ子は「魔法少女ミルキースパイラル7オルタナティブ」というアニメキャラのコスプレだそうだ。

説明するときの一誠の様子が若干暗かったのは気のせいだろうか…。

 

「なっ!」

 

珍しく驚く声を上げたのは雄介の隣に到着したリアスだった。

その狼狽ぶりからして尋常じゃない様子が見て取れる。

 

「オラオラどいたどいた!天下の往来で撮影会たぁいいご身分だぜ!」

 

叫びながら人だかりに飛び込んでいくのは生徒会の匙だった。

他の生徒会の女子たちも匙に続いて撮影現場に突入していく。

 

「ほらほら散った散った!今日は公開授業の日だぞ!こんなところで騒ぎを起こすな!」

 

生徒会の介入により、人だかりが蜘蛛の子を散らすように去っていく。

そして残ったのは雄介たちと匙たち、そして騒ぎを起こしたコスプレ少女の3組。

 

「あんたもそんな格好をしないでくれ。もしかして親御さんですか?そうだとしてもその場に合う衣装ってものがあるでしょう。困りますよ」

 

「えー、だってこれが私の正装だもん☆」

 

注意を促す匙だが、ミルキー少女はかわいらしくポーズを取って聞く耳を持たない。

ギリギリと奥歯を鳴らす匙だったが、リアスを確認するなり頭を下げた。

 

「これはリアス先輩。ちょうどよかった。今魔王様と先輩のお父さんをご案内していたところなんですよ」

 

匙が廊下の向こうに視線を向けると、ソーナ会長の先導のもと、紅髪の男性2人が近づいてきた。

 

「何事ですかサジ?問題が起きたらすみやかに解決しなさいといつも言って―――」

 

厳格なソーナがそこまで言いかけた時、ミルキー少女を見るなり言葉を失った。

 

「あ、ソーナちゃん!見ーつけた☆」

 

逆にミルキー少女はソーナを見つけるなり嬉しそうに彼女に抱きついた。

ソーナの知り合いなのだろうか。

さすがに匙も対応に困った様子で固まっている。

雄介も疑問に思っていると、サーゼクスがミルキー少女に話しかけていた。

 

「ああ、セラフォルーか。キミも来ていたんだな」

 

セラフォルー。

どこかで聞いたような気がしたが、雄介が記憶を遡る前にリアスが一言で答えてくれた。

 

「レヴィアタンさまよ」

 

……………………………………。

雄介は一瞬、リアスが何を言っているのかが理解できなかった。

一誠も同じなのか、ハトが豆鉄砲を食らったような顔をしている。

そんな2人にリアスはもう一度言ってくれた。

 

「あの方はセラフォルー・レヴィアタンさま。現四大魔王のおひとりであり、そしてソーナのお姉さまよ」

 

………………。

…………。

……。

 

「「えええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええッッ!!??」」

 

数拍置いた後、駒王学園の廊下に雄介と一誠の絶叫が木霊した。

 




更新遅れて大変申し訳ありませんでした!
自分でもまさかここまで更新が息づまるとは思いもしませんでした。
本当にすいませんでした!Orz

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