仮面ライダークウガ 青空の約束   作:青空野郎

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EPISODE36 来訪

時は移ろい、季節は夏となったある日のことである。

コカビエル襲撃の日に崩壊したはずの旧校舎は次の日には何事もなかったかのように元通りになっていた。

これが慣れというやつだろうか、さほど驚くことはなかった。

その日、リアス・グレモリーは大変不機嫌だった。

話は数時間ほど前に遡る。

 

                      ☆

 

以前まではリアス目当ての客でごった返していたポレポレだったが、今ではそこそこの落ち着きを取り戻しつつある。

そんな中で一人、異様な客がいた。

見た目が異様という意味ではない。

二十歳代と思しき風貌に、浴衣を着る外国人らしきその男性客はかなりのイケメンである。

同じイケメンの祐斗をさわやかタイプとするならば、この男性はワイルドタイプのイケメンだ。

雄介たちが異様だと思ったのは、その男性が長く店に居座り続けているということだった。

お昼時にふらりと店に現れたその男性は定食や単品、ドリンク、デザートと、すべてのメニューを制覇する勢いで注文と完食を繰り返していったのだ。

もしものことを想定して食い逃げを警戒していたが、閉店間際までその男性が席を立つことはなかった。

食い逃げの可能性を消去した雄介はカウンターに座る男性に声をかけた。

 

「見かけない顔ですけど、もしかして最近引っ越されてきたんですか?」

 

ちょうど食後のコーヒーを飲み終えた男性が口を開く。

 

「まあな。久しぶりにこっちに出てきたんだ」

 

そして、次に男性が放った言葉が雄介を戦慄させた。

 

「せっかくだから現赤龍帝と、コカビエルを倒したっつう人間の顔を見ておきたかったんだ」

 

不敵な笑みを浮かべる男性の言葉に、一瞬理解が遅れた。

 

ガシャン!

 

何かが割れる音に視線を向けると、2人の会話が聞こえたのだろう、目を見開くリアスの足元にお皿の破片が散らばっていた。

 

「どうかした?リアスちゃん」

 

「え?…あ、ああ!ごめんなさい!思わず手が滑っちゃったみたいで…」

 

「ああ、大丈夫大丈夫。すぐに箒と塵取り持ってくるから」

 

そう言って、おやっさんは一度店内から姿を消した。

そして残された雄介、リアス、男性の3人。

雄介とリアスは警戒心を剥き出しに男性を睨めつける。

しかし、雄介たちの睨みを相変わらずの不敵な笑みで流す男性の背中から12もの黒い翼が広がった。

 

「あなたは、まさか…!?」

 

それを見たリアスがこれ以上ないほどの驚愕を露わにし、震える声で呟いた。

 

「俺はアザゼル。堕天使の総督をやっている」

 

緊張した空気に生唾を飲み込む音がクリアに聞こえた。

 

「そんなに睨むなって。別に戦おうなんて考えちゃいないさ」

 

アザゼルはごちそうさんと言い残し、諭吉を1枚置いて席を立った。

だが、背を向けるアザゼルに雄介は声をかけた。

 

「あの…」

 

「なに、釣りはいらねえよ」

 

背を向けたまま敵意がないことを示しながら、決まったと思ったアザゼルだったが、

 

「いや、代金足りないんですけど…」

 

「………マジで?」

 

いつか感じた何とも言えない瞬間だった。

 

                      ☆

 

「まったく、冗談じゃないわ」

 

ばしゃーん

 

不機嫌を露わにするリアスが怒気を孕んだ口調で呟く。

 

「いくら悪魔、天使、堕天使の3すくみのトップ会談が執り行われるからって、突然堕天使の総督私の縄張りに侵入し、営業妨害までしていたなんて」

 

ぴちょーん

 

「アザゼルは神器に強い興味を持つと聞くわ。きっとイッセーのブーステッド・ギアが目的で接触してきたのね。それだけじゃ飽き足らず、よもやいうに事欠いて私の可愛い雄介にまで手をだそうだなんて」

 

かぽーん

 

「大丈夫よ、雄介。何があっても雄介は私が絶対に守ってみせるわ」

 

リアスが囁くような声音が鼓膜を優しくたたく。

 

「そう言ってもらえるのは本当にうれしいですし、堕天使の総督が現れたことも気になりますが…」

 

だが、雄介はばつが悪そうに彼女から目を逸らしたまま膝を抱え、重く閉ざした口を開いた。

 

「今はなぜリアスさんが一緒に風呂に入っているかが気になります」

 

そう、今雄介とリアスは現在進行形で入浴中なのである。

くっきりと浮き出る細い鎖骨。

豊かに実った豊満な双胸。

きゅっと引き締まったくびれ。

丸みを帯びた弾力感のあるお尻。

つややかな光沢を放つ美脚。

その一糸纏わぬ艶やかで悩ましい肢体が惜しげもなく雄介の背後で展開されているのだ。

あの、かぽーんという風呂独特の音について真面目に考えながら平静を装うよう努めるが、胸の高鳴りが収まることはない。

 

ぴと

 

唐突に雄介は背中に程よい柔らかさと重みを感じた。

恐る恐る振り返ると、リアスは雄介の肩に顎を乗せ、しなやかなで温かな手を胸に回している。

要するに、雄介はリアスに抱きつかれていた。

極上の感触を誇るたわわな果実が惜しげもなく背中に押し付けられ、鼻腔をくすぐる洗い立てのシャンプーの香りとリアス自身の甘い仄か香りがイケナイ想像を促す。

そして、満面の笑みで一言。

 

「雄介は私とお風呂に入るのは嫌?」

 

「!!?」

 

そんな言い方はひきょうだと思う。

好き嫌い以前に、年ごろの男女が同じ湯船につかるというのは道徳的にいかがなものか。

だが結局、雄介は金魚のように口をパクパクさせることしかできなかった。

その日、雄介がのぼせてしまったのは言うまでもなかった。

 

                      ☆

 

本日もまた晴天なり。

この日、オカルト研究部は生徒会からの命令でプール掃除を任されていた。

プールを最初に使っていいということ条件でリアスも快諾し、照りつける真夏の日差しの下、ブラシを手に雄介はプールの底に蔓延るコケや汚れに一生懸命格闘していた。

それはもう徹底的に。

汚れと一緒に溜りに溜まった煩悩を落とす勢いで。

そうして1時間後、鼻につくカルキ独特の匂いとともにプールに貯めた清涼な水面が日の光を反射する。

 

「ほら、雄介。私の水着どうかしら?」

 

眼前で披露されるリアスの身に着けるのは赤いビキニ姿に、顔を赤面させた雄介は思わず視線を逸らした。

極端に小さすぎる赤い布面積。

それもただの布きれだと思ってしまう代物は下乳が見えるなんてレベルじゃない。

 

「あらあら、部長ったら張り切ってますわね。うふふ、よほど雄介くんに見せたかったみたいですわね。ところで雄介くん、私の方はどうですか?」

 

そして朱乃も登場する。

彼女はリアスと対局的な真っ白な水着を着用している。

やはりこっちも面積は小さい。

 

「イッセーさん。ど、どうですか…?」

 

別の場所で、アーシアがもじもじしながら一誠と向き合っていた。

アーシアが身に纏っているのは、学校指定のスクール水着だった。

 

「アーシア、感動だ!お兄さん感動した!」

 

片手で鼻血を抑えて、満面の笑みの一誠がサムズアップで答える。

 

「えへへ、ありがとうございます。イッセーさん」

 

褒められてアーシアもまんざらでもない様子だ。

そんなやり取りを見ていると、これまたスクール水着を着た小猫の肩に手を置いたリアスが微笑みながら声をかけてきた。

 

「それでね、雄介。悪いのだけれど…」

 

                      ☆

 

「はい、いち、に、いち、に…」

 

雄介は小猫の手を取って、彼女のバタ足の練習に付き合っていた。

泳げない小猫の練習に付き合ってあげてほしいというリアスの指令の元、現在に至る。

当の小猫は、ぷはぁと息継ぎしては一生懸命にバタバタと足を動かしている。

なんだか、その懸命さが無性にかわいく思ってしまう。

 

「頑張れ、アーシア!」

 

その隣では、雄介と同じように一誠がアーシアの練習に付き合っている。

と、よそ見をしているうちにいつのまにか雄介はプールの端に到着していた。

無事に25メートルを泳ぎ切ることができたが、勢いが余って小猫が雄介にぶつかってしまい、偶然にも抱きつくような体勢になってしまった。

発展途上ではあるが、柔らかな感触が直に触れられる。

 

「おっと、ごめん。大丈夫小猫ちゃん?」

 

後ろめたさを悟られないように平静を装い、小猫に話をかける。

 

「はい。こちらこそ、付き合わせてしまってゴメンなさい」

 

「いいよいいよ。気にしないで」

 

そう言って、雄介は小猫の頭をやさしく撫でた。

特に嫌がる素振りを見せない小猫は照れているのか、その頬はほんのり赤みがかっていた。

それから約一時間の間、雄介は小猫の練習に励んでいった。

 

                      ☆

     

「リアスさん、なにか用ですか?」

 

小猫との練習も一段落し、プールサイドの広げられたビニールシートの上で寛いでいると、雄介はリアスの使い魔のコウモリに連れられて彼女のもとを訪れていた。

 

「ええ」

 

短く答えて、リアスはサンオイルの入った小さな小瓶を雄介に手渡した。

 

「悪魔は日焼けしないわ。けれど、太陽の光は外敵なの。それで背中を塗ってくれないかしら?」

 

そう言って、徐に、そして何の躊躇いもなくリアスは赤いビキニのブラを外した。

そうして押さえるものも無くなってしまったため、ぷるんとリアスの大きな生乳が目の前に露わになった。

 

「リ、リリリリアスさん!?何やってんですか!?何脱いじゃってるんですか!?」

 

大きく後ずさりながら動揺を見せる雄介。

そんな簡単に、それも男の目の前で白昼堂々と行うのは如何なものか。

 

「ふふふ、一緒にお風呂に仲じゃない」

 

そんな雄介の反応を面白おかしそうに笑って楽しむリアスはビニールシートの上でうつ伏せになる。

そのせいで、ただでさえボリュームのある豊乳が横からはみ出てしまう。

わー、すげー、ほんとにはみだしてらぁ、などと本能で現実逃避してしまいそうになる。

 

「さあ、お願いね」

 

長い紅髪をどかし、リアスは陶器のような白さを誇るきれいな背中をさらす。

あきらめて溜息を溢す雄介は手に落としたオイルを馴染ませる、緊張した面持ちでゆっくりと手をリアスの背に伸ばした。

弾力のある肌に触れ、ゆっくりと丁寧にオイルを塗り込んでいく。

何度も思うが、改めてリアスの肌はすごい。

意識していないと、いつまでも触っていたくなるほどの柔らさだ。

 

「ねえ、雄介…」

 

「は、はい!」

 

集中していると、不意にリアスが話しかけてきた。

 

「私の体で、雄介が触れていないところは無くなってきたわね。なんだか、この体が雄介に支配されていきそうだわ」

 

「―――ぶっ!」

 

耳に飛び込んできたリアスの刺激的で妖艶なセリフに、雄介は吹き出した。

この人はいま自分が言ったことを理解しているのだろうか。

そんな雄介にリアスはさらに追い打ちをかけてきた。

 

「胸にもオイルを塗りたい?」

 

「…冗談ですよね?」

 

何かとんでもないセリフを聞いてしまったような気がし、雄介は思わず聞き返した。

本当に冗談であってほしいと心の底から願うばかりだ。

しかし、雄介の災難はさらに続く。

 

「あらあら、部長だけずるいですわ」

 

「―――――ッ?!?」

 

たった数分で精神をがりがりと削られていく雄介の後ろから朱乃が抱き着いてきた。

背中に感じるむにゅん、という柔らかな感触。

やはり朱乃は雄介の背中に胸を押し付けている。

しかし、なぜか朱乃が身に着けているはずの水着の布の感触はなかった。

そこから導かれる答えは至極単純。

非難の言葉を口にし、肩から顔をのぞかせる朱乃の表情で確信した。

朱乃は今、水着を着用していない。

その事実がさらに雄介を戦慄させた。

 

「ちょっと朱乃!私のオイル塗りがまだ終わってないのよ?そ、それにそんな風に私の雄介を誘惑しないでと言ったはずよね?」

 

明らかに不機嫌な様子のリアスが上半身を起こす。

となれば、必然的にリアスの乳房が眼前に晒されてしまう。

 

「雄介くん、部長が怖いですわ。私は日頃頑張ってくれているかわいい後輩を労わってあげようとしただけなのに…あむ」

 

かみっ

 

「んにぃっ!?」

 

突然、雄介は朱乃に耳を甘噛みされた。

色っぽい息を吹きかけ、絶妙な力加減で舌を這わせて雄介を悶えさせる。

そんな雄介の様子に、朱乃は面白そうにくすくすと笑みをこぼす。

 

「本当、雄介くんはかわいいですわ。部長、雄介くんを私に下さらない?やはり将来、独り立ちする時にこの子を連れて行きたいですわ」

 

「ダメよ!雄介は私のよ!絶対にあげたりしないんだから!」

 

「こんなに素敵にかわいい子、他にはいませんわ。では、たまにエッチにかわいがるくらい、いいですわよね?」

 

「それもダメよ!雄介には私以外の女を知ってほしくないの!それこそ、あなたが相手では雄介は獣になってしまうわ!」

 

「あらあら、随分な言い方ですわね。男の子は獣くらいがちょうどいいと思いますわよ?部長がぐずぐずしている間に、雄介君の貞操を…」

 

「あげないわよ!冗談じゃないわ!」

 

上半身を隠そうともせず噛みつくリアスに余裕の笑みを崩さない朱乃がさらに抱きつく腕に力を込める。

なに、この画?

 

「ところで、雄介くん」

 

すると、反応に困っていた雄介に朱乃が耳元で話しかけてきた。

 

「部長の乳は吸えましたか?」

 

「………はい?」

 

長い沈黙の後に、ようやく出たのはそれだけだった。

今この人は何と言ったのだろうか?

 

「あらあら、かわいそうに。部長ったら、雄介くんをかわいがっているのにそういうところはガードが堅いのですね」

 

雄介の反応を見た朱乃はしばし納得したように呟くと、今度は悪戯っぽく口角を上げ、さらにその唇を雄介の耳に近づけ、ゆっくりと口を開いた。

 

「だったら、私が代わりに吸わせてあ・げ・ま・す・わ♪」

 

……………。

耳を疑った。

表情が固まった。

思考が飛んだ。

理解しようとすれば脳が沸騰しそうになる。

それでも何かを言わなければと思ったときだった。

 

ヒュッ!…ボンッ!

 

何かが横を通り過ぎ、後方で破砕音が聞こえた。

ゆっくりと首を回すと、先ほどまでそこにあったはずのプールの飛び込み台がひとつ消えていた。

 

「朱乃。ちょっと調子に乗りすぎよね?よもやあなた、私の眷属だということ忘れたわけじゃないでしょうね?」

 

聞こえてきドスの効いた声。

恐る恐る視線を戻すと、目の据わったリアスが紅い魔力を纏った手のひらをこちらに突き出していた。

 

「あらあら、そんなふうにされてしまいますと私も困ってしまいますわ―――リアス、私は引かないわよ」

 

朱乃は朱乃で丁寧な口調が一拍を置いたあとには怒気を含んだものに変わっていた。

あれ?寒い。

さっきまであんなに熱かったのになんか歯がガタガタ震えてる。

冬なんて生やさしい。

夏真っ盛りなはずなのにここだけ氷河期のようだ。

こういう状況を何というんだけ?

ああ、そうか…。

これが世間一般で言う………修羅場だ。

 

「雄介はあげないわよ。卑しい雷の巫女さん」

 

「かわいがるぐらいいいじゃないの。紅髪の処女姫さま」

 

上半身丸出しの美少女2人がそれぞれ紅と金の魔力を迸らせ、間近で睨み合っている。

ホントナニコノ画?

 

「あなただって処女じゃない!」

 

「なら今すぐ彼に処女をもらってもらうわ!」

 

「ダメよ!雄介は私の処女がいいって言ったの!」

 

「すいません!そんなこと言った覚えないんですけど!」

 

しかし、雄介の必死の叫びは虚しくスルーされる。

 

「だいたい、朱乃は男が嫌いだったはずでしょう!よりにもよってどうして雄介に興味を抱くのよ!」

 

「そういうリアスも男なんて全部同じに見えるなんて言ってたわ!」

 

「雄介は特別なのよ!」

 

「私だって雄介くんはかわいいわよ!やっとそう思える男の子に出会えたのだからちょっとぐらい雄介くんを通じて知ってもいいじゃない!」

 

リアスと朱乃が空中を飛び交い、とうとう口論からケンカとは呼べないレベルの女の戦いへとシフトした。

破砕音が巻き起こり、あっという間に学園のプールが見るも無残に破壊の爪あとが刻まれていく。

 

「イッセーさんのバカ!」

 

「アーシア!頼む聞いてくれ!これにはわけが!」

 

「どうしたイッセー、早く子供を作ろう」

 

「ゼノヴィアァァァァァァァッ!」

 

遠くは遠くで一誠の絶叫が木霊するのが聞こえた。

何このカオス?

 

「ハハ、ハハハハ…。…はあ」

 

雄介の乾いた笑いと溜息が蝉の声とともに、真夏の晴天に溶けて消えていった。

 

                      ☆

 

時間は過ぎていき、真夜中となった。

昼間の出来事が嘘のように闇の静けさが人の寝静まった世界を包み込んでいる。

夜の道を雄介はいつものように部室のある旧校舎に向かうためバイクを走らせていた時だった。

エンジン音に混じり妙な羽音を捉えた。

同時に、こちらに向けられる強烈な殺気を感じ取った。

 

「まさか、グロンギ!?」

 

振り向いた先にいたのは、蝙蝠を連想させる肢体のグロンギ、ズ・ゴオマ・グだった。

ゴオマも雄介を確認するなり、急降下して迫ってきた。

縦横無尽に襲い掛かってくるが、雄介は巧みにハンドルを操作してすれすれのタイミングで回避していく。

だが、やはりこのままでは埒が明かないと思い雄介は進路を変えることにした。

誘導に似せられ、ゴオマが後を追ってくる。

そのままうまい具合に廃工場へ誘い込んだ雄介はバイクを降りてゴオマと向き合う。

 

「変身!」

 

すぐさまアークルを出現させ、クウガに変身した。

 

「そうか、貴様がクウガだったのか!」

 

クウガの姿を認めた途端、ゴオマはその双眸に怪しい光を宿し、涎を拭い取るような仕草を見せた。

先ほどまで誰かを襲っていたのか、生え揃う鋭い牙には赤い血が付着していた。

 

「はあ!」

 

最初は構えを取った雄介が殴り掛かった。

しかしそのこぶしが届く前にゴオマは軽々と跳躍して雄介の背後をとった。

そして振り返る暇を与えず雄介を羽交い絞めにする。

 

「どうした?その程度かクウガァァア!」

 

嫌悪を感じさせる濁声で腕の中でもがく雄介を挑発するゴオマ。

しかし、この程度で根を上げるほど雄介はやわではない。

力任せにゴオマの脇腹に肘鉄を食らわせた。

そうしてゴオマがひるんだ瞬間を見逃さず、素早くゴオマの腕を掴んで勢いよく背負い投げた。

ゴオマの体は空中で弧を描き、けたたましい音を立てて廃材の山に墜落した。

 

「クウガァ…殺す!」

 

廃材を払いのけて起立するゴオマが鋭い爪を振りかざして飛び掛かってきた。

だが、冷静に動きを見極める雄介は赤い籠手で詰め攻撃を受け止め、まずは一発ゴオマの顔面に叩き込んだ。

続けてゴオマの脇腹に蹴りを入れ、最後に回し蹴りで蹴り飛ばした。

血反吐を吐きながらゴオマは埃と砂塵を巻き上げながら地面を転がっていく。

 

「チィッ!嫌な匂いのする奴だ…!」

 

吐き捨てるように毒づくゴオマが激高した表情で雄介を睨めつけてくる。

対して雄介は拳を構えて、間合いを取りながら対峙し、どちらからともなく向かい合いながら走りだした。

その際に進路の邪魔になる廃材は蹴り飛ばして、できるだけ相手を視界の内に留めておく。

そして、ある程度走ったところで両者は同時に立ち止まる。

 

「………」

 

「キルルルル…」

 

しばしの間お互いが動きを見計らうように睨み合っていたが、やがて痺れを切らして再びゴオマが飛び掛かってきた。

しかし雄介はその勢いを利用し、逆にゴオマを巴投げの要領で投げ飛ばした。

受け身も取れず背中を地面に叩き付けられたゴオマは呻くように立ち上がる。

その姿を見て好機と察した雄介はマイティキックの構えを取った。

だが、ゴオマは雄介が構えを作る一瞬の隙を突いて口から超音波を放った。

不可視の波動が辺りに火花を散らせ、小さな閃光をとなる。

思わず眩しさで目をくらませた雄介が気が付いた時には、視界からゴオマの姿は消えていた。

周囲を見渡しながら警戒するが、ゴオマの気配は感じられなかった。

 

「逃げたか…」

 

雄介が呟いた後はただただ、いつもと同じ夜の静けさが残るだけだった。

 

                      ☆

 

突然のゴオマの襲撃を乗り越えた雄介は、その後何事もなく駒王学園の旧校舎に到着した。

急ぎ足で階段を上り、部室の扉の前に立ち、いつものようにドアノブを握り、何気なく扉を開いた。

 

「失礼しまーす」

 

だがしかし、雄介の目に飛び込んできた部室の様子はいつもと違っていた。

一誠、アーシア、祐斗、朱乃がその場で跪き、ゼノヴィアは疑問符を上げる表情を、そしてリアスは驚愕の表情を浮かべていた。

その原因はすぐに分かった。

同時に、その原因を目の当たりにした雄介も目を見開いた。

 

「やあ、久しぶりだね。五代雄介くん」

 

メイド服姿の『女王』グレイフィアを連れた、リアスの実兄にして現魔王サーゼクス・ルシファーがにこやかな微笑みを向けて雄介に挨拶をした。

 




どうも、皆さん!
更新遅れて大変申し訳ありません。
というわけで、ようやくDXD第4巻突入です。

あと、最近ウィザードの方も連載スタートしました。
どうぞそちらの方も応援よろしくお願い逸します!

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