仮面ライダークウガ 青空の約束   作:青空野郎

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EPISODE35 和解

暗雲が晴れた夜空には月が輝く。

門矢士こと仮面ライダーディケイドとの見事なコンビネーションで堕天使幹部コカビエルを撃破した雄介。

死戦は終わりを迎え、コカビエルが展開していた破壊の魔方陣も消失した。

町は救われ、皆が安堵の表情を浮かべていた。

 

「あ、あれ…?」

 

「雄介!」

 

前触れもなく膝から崩れ落ちかけた雄介をリアスが支えた。

密着する彼女の身体から柔らかさと温かさが伝わってくる。

 

「すいません。ちょっと力が抜けちゃって…」

 

「無理もないわ。あのコカビエルを倒したんだもの。本当にお疲れさま」

 

雄介を優しく抱き留めるリアスが全てを包み込むような穏やかな笑みを向けて言う。

他の皆も肩の荷が下り、達成感に満ちた笑みを見せていた。

雄介も皆の笑顔を守れたことをただうれしく思い、笑みを返した。

 

「どうやらおもしろいことになっているようだな」

 

この場にいる全員が勝利の余韻に浸っていたその時、突然に空から声が聞こえてきた。

その声に言い知れない緊張感と恐怖が全身を駆け巡る。

全員が夜空を見上げると同時、それは夜空から降ってきた。

直線を画く白い閃光が夜の世界を切り裂き舞い降りる。

そして全員の瞳に、一切の曇りも陰りも見せない白が映った。

各所に宝玉が埋め込まれた白い全身鎧は顔まで包まれているため、その者の表情が窺えないでいる。

背に広がる8枚の光の翼は闇夜の中で神々しいまでの輝きを放っている。

そして、その白き鎧は知る者に『赤龍帝の鎧』を連想させた。

同時に、目の前の存在を把握した。

 

「…“白龍皇”、“白い龍(バニシング・ドラゴン)アルビオン”」

 

その名を口にしたのはリアスだった。

“赤い龍”と存在を対成す“白い龍”。

神秘的な輝きを纏う純白の姿に一瞬で心身を射抜かれ、その美しさに心を魅了されてしまう。

神滅具のひとつ、“白龍皇の光翼(ディンバイン・ディバイディング)”。

赤龍帝は所有者の力を倍加させ、何かに譲渡する。

白龍皇は相手の力を半減させ、自らの糧とする。

そして鎧を顕現しているその姿は禁手“白龍皇(ディバイン・ディバイディング)の鎧(・スケイルメイル)”。

心の奥底までつかまれる感覚に全身が震え、生唾を飲み込む。

皆、先程の一戦で力を使い果たしてしまったため、これ以上戦う余力は持ち合わせていないのだ。

全員が相手の出方を窺っていると、白龍皇は足元の黒い羽根を一枚拾い上げ、面白そうに小さな笑いをこぼした。

 

「まさかコカビエルがやられるとはな…。ふふふ、アザゼルが聞いたらきっと驚くぞ」

 

だがそれも束の間、白龍皇は興味を無くしたように黒い羽を捨てた。

 

「さて、せめてフリードは回収しておくか」

 

気を取り直したように白龍皇は倒れこむフリードのもとへ足を運び、腕に抱えた。

そして何事もなかったかのように光の翼を広げ、空へ飛び立とうとした時だった。

 

『おい、無視か。白いの』

 

初めて聞く声だった。

視線を向けると、声の発信元と思しき一誠の籠手の宝玉が赤い光を発していた。

 

『起きていたか、赤いの』

 

白龍皇の鎧の宝玉も白い輝きを放っていた。

それぞれの宝玉に宿る赤龍帝と白龍皇が会話を始めたようだ。

皆が固唾を飲んで見守る。

 

『生憎な。だがせっかく出会ったのにこの状況ではな』

 

『いいさ、いずれ戦う運命だ。こういうこともある』

 

『しかし、白いの。以前のような敵意が伝わってこないが?』

 

『赤いの、そちらも敵意が段違いに低いではないか』

 

『お互い、戦い以外の興味対象があるということだな』

 

『そういうことだ。ことらはしばらく独自に楽しませてもらうよ。たまには悪くないだろう?また会おう、ドライグ』

 

『それもまた一興か。じゃあな、アルビオン』

 

「いや、どういうことだよ!?お前は何者で、何をやってんだよ!」

 

会話を終え、別れを告げる二天龍に納得がいかない様子で一誠が前に出た。

だが、憤怒の表情を見せる一誠に白龍皇は一言だけ残した。

 

「すべてを理解するには力が必要だ。強くなれよ、いずれ戦う宿敵くん」

 

そして白龍皇は白き閃光となって夜空の彼方へと飛び去った。

後には不気味なほどの静寂が残った。

だがこれで本当に危機は去った。

そんな中で不意に祐斗は視線がバルパーの死体に移した。

ヴァチカンの本部には彼の研究を引き継いだ者がいるのだろう。

そう考えると、本当の終わりとは言えない。

いつかその者と対峙した時、手に持つ聖魔剣をどうするか決めるのは祐斗次第である。

そんな憂いの表情を浮かべる祐斗の肩に優しく手を置く者がいた。

 

「やったね、祐斗くん」

 

振り向けば笑顔の雄介がそこにいた。

 

「さすがだぜ、色男!」

 

雄介に続いて一誠が頭を叩いてきた。

 

「へぇ、それが聖魔剣か。白と黒が入り混じっててキレイなもんだなぁ」

 

興味津々な様子で一誠が祐斗の聖魔剣を覗き込む。

 

「雄介くん、イッセーくん。僕は―」

 

「ま、今は細かいことは言いっこなしだ。とりあえず一旦終了でいいだろう?聖剣も、お前の仲間のこともさ」

 

「そういうこと」

 

何かを言いかけた祐斗を一誠が遮り、雄介もまた彼の言葉に同意するようにサムズアップをする。

 

「…木場さん。また一緒に部活できますよね?」

 

心配そうな面持ちでアーシアが訊ねてきた。

神の存在が否定され、心中はショックなのにも拘らずこうして心配してくれる彼女の優しさは本物だ。

 

「祐斗」

 

優しい声音で祐斗の名を呼ばれ、振り返るとリアスが笑みを浮かべていた。

 

「祐斗、よく帰ってきてくれたわ。それに禁手だなんて、とても誇らしいわ」

 

「…部長、僕は…みんなを、命を救ってくれたあなたを裏切ってしまいました…。お詫びする言葉も見つかりません…」

 

今になって祐斗は溢れ出てくる申し訳ない気持ちでリアスから視線を逸らしてしまった。

だがリアスはそんな彼の頬を優しくなでる。

 

「でも、あなたはこうして帰ってきてくれた。それだけで十分。彼らの想いを無駄にしてはダメよ」

 

「部長…」

 

祐斗の頬に熱いものが伝う。

それが涙であると理解すると同時、祐斗は何度も首肯する。

 

「はい…。僕はここに改めて誓います。木場祐斗はリアス・グレモリーの眷属『騎士』として、あなたと仲間たちを終生お守りします」

 

その時の祐斗は偽りも辞令でもない、本当の笑顔を浮かべていた。

 

「ええ。ありがとう。そしてこれからもよろしく頼むわ」

 

「お帰り、祐斗くん」

 

リアスに雄介はもちろん、一誠、アーシア、朱乃に小猫が笑顔で祐斗を迎える。

 

「ただいま…。みんな、ただいま…」

 

本当の意味で祐斗が帰ってきた瞬間だった。

 

「さて、それじゃ…」

 

だが、そのまま感動的に終わることはなかった。

 

「ぶ、部長…?」

 

思わず口元を引きつらせる祐斗。

リアスが紅いオーラを手に宿し、ニコリと微笑みかけていた。

ただ、その微笑には今までの穏やかさは失せてしまっている。

それどころか背筋が凍えてしまうものを感じてしまう。

あんなにも素晴らしい笑顔なのに…。

それを見た瞬間、雄介と一誠が揃ってお尻を庇うように直立した。

 

「祐斗、勝手なことをした罰として、あなたもお尻叩き1000回よ♪」

 

魔王の加勢が到着したのはそれから30分以上経過してからだった。

 

                      ☆

 

コカビエル襲撃から数日が過ぎた日のことだった。

雄介、一誠、アーシアが何気ない平穏を噛み締めながら部室に顔を出した時、

 

「やあ、赤龍帝」

 

堂々とした立ち振る舞いで彼らに挨拶をしたのは駒王学園の制服を身にまとった聖剣使いゼノヴィアだった。

 

「なっ…なんで、お前がここに!?」

 

動揺を隠せない一誠が指を突き付けた。

しかし、それだけではなかった。

その時、バッと彼女の背中から黒い翼が広がった。

それはすでに見慣れた悪魔の翼。

 

「ええええええええええええええええええええええええええええええええええええっ!?」

 

さらに衝撃を受けた一誠の絶叫が部室中に木霊した。

アーシアも驚きで目を見開き、雄介はポカンとなってしまっていた。

 

「すでに神はいないと知ったんでね、破れかぶれでリアス・グレモリーから“騎士”の駒をいただいて悪魔に転生したんだ。で、ついでにこの学園にも編入させてもらった。今日から高校2年の同級生でオカルト研究部の一員だ。よろしくね、イッセーくん♪」

 

「いや、真顔でかわいい声を出すな」

 

気が動転してしまい、一誠は思わず半眼でツッコんでしまった。

ツッコむべきポイントが違う気がするのだが、それはただの思い過ごしなのだろうか?

 

「むう。イリナの真似をしてみたのだが、うまくいかないものだな」

 

「つーか転生って…。部長、貴重な駒をいいんですか?」

 

勢い余る一誠の問いに、リアスは実に楽しげに答えた。

 

「まあ、デュランダル使いが眷属にいるのは頼もしいわ。これで祐斗とともに剣士の二翼の誕生ね」

 

開いた口が塞がらないとは正にこのこと。

だが確かに、伝説の聖剣を持つ剣士が味方なのは心強い。

レーティングゲームの際もその力が活躍することは間違いないだろう。

 

「でも、これはまた思い切ったことをしたね…」

 

雄介が呆然と呟いた。

 

「そう、私はもう悪魔だ。後戻りはできない。いや、でもこれで本当に良かったのか?いやいやしかし神がいない以上、私の人生は破綻したわけだ。いやいやいや、だからといって魔王の妹という理由で悪魔に降るというのはいかがなのだろうか…」

 

ゼノヴィアは何やらぶつぶつと呟きながら頭を抱えてしまっていた。

さらには祈りのダメージに悶絶している始末だ。

どうやら、また個性的な子がリアスの眷属に加わったということだ。

 

「ところでイリナは?」

 

部室を見渡す一誠が不意に覚えた違和感を疑問として口にした。

 

「イリナなら私のエクスカリバーを合わせた5本とバルパー・ガリレイの遺体を持ってヴァチカンに帰還したよ。あの時統合したエクスカリバーを破壊してしまったせいで『かけら』という状態になってしまったが、それでも結果的には奪還の任務には成功したわけだ。なに、『かけら』が無事なら錬金術で鍛えて再び聖剣にできる」

 

「でも、エクスカリバーを返してよかったのか?てか、教会を裏切っていいのか?」

 

さらに怪訝そうに訊ねる一誠に、ゼノヴィアは自嘲気味に答えた。

 

「ああ。一応あれは返しておかなければマズいんだ。それに幸い私にはデュランダルがあれば事足りる。教会を出たことに関しても問題ない。あちらに神の不在を問うたら何も言わなくなったよ。つまり神の不在を知った私はめでたく異分子になったわけだ。教会はとにかく異端を酷く嫌うからね。たとえ、それがデュランダル使いでも切り捨てる。…アーシア・アルジェントの時と同じようにね」

 

彼女の話に、雄介たちは異分子を弾く教会の徹底さに呆れと同時に嫌悪を抱いてしまった。

 

「そう考えればイリナは運がいい。あの時戦線を離脱していたおかげで真実を知らずに済んだのだからね。私以上に信仰が深かった彼女のことだ。神がいないと知れば心の均衡はどうなっていたかわからない」

 

ゼノヴィアの言うとおり、今回の真相はイリナだけでなく、アーシアや彼女自身の生き方を否定されたようなものだ。

そう考えると、心中察して余りある。

 

「ただ、私が悪魔になったことを残念がっていたね。理由が理由だった故、何とも言えない別れだった。次に会うときは敵かな」

 

目元を細め、遠い目をするゼノヴィアの言葉に、数瞬部室内に殺伐とした沈黙が流れてしまった。

それを察してか、タイミングを見計らうようにリアスが口を開いた。

 

「教会は今回のことで悪魔側、つまり魔王に打診してきたそうよ。『堕天使の動きが不透明で不誠実だったため、真に遺憾ではあるが連絡を取り合いたい』と。それにバルパーの件についても過去に逃がしたことに関して自分たちにも非があると謝罪してきたわ」

 

物憂げに嘆息するリアスがさらに続ける。

 

「堕天使総督アザゼルからも、今回の真相が神側と堕天使側に伝えられたわ。エクスカリバー強奪はコカビエルの独断行為で他の幹部は知らないことだった。3すくみの均衡を崩そうと画策し、再び戦争を起こそうとした罪により、『地獄の最下層(コキュートス)』で永久凍結の刑の執行を考えていたそうよ。結局、無駄に終わったようだけれどね」

 

そう言って、口元を綻ばせ雄介に視線を向けた。

 

「まさか、コカビエルが人間に倒されるなんて誰が予想したでしょうね」

 

「確かにコカビエルを打破したキミの実力は本物だ。できれば一度ご教授願いたいところだね」

 

「いやぁ、そういわれても…ね?ほら、俺だけの力じゃありませんからね」

 

からかうようなリアス言葉と本気か冗談かわからないゼノヴィアの物言いに雄介は羞恥半分、謙譲半分で苦笑を浮かべた。

 

「彼、ディケイドといったかしら?思わず彼の力に戦慄を通り越して愕然としてしまったわ」

 

さらにリアスは話を繋げる。

 

「近いうちに天使側の代表、悪魔側の代表、そしてアザゼルが会談を開くらしいわ。なんでもアザゼルから話したいことがあるみたいなの。その時にコカビエルのことを謝罪するかもしれないなんて言われているけど、あのアザゼルが謝るのか、甚だ疑問だわ」

 

肩をすくめながら、リアスは忌々しげに言う。

3大勢力の代表者が一堂に集まるということは普通では考えられないことだ。

そこで何を話すかは想像もつかないが、どちらにしろ、今後の世界に影響を与えることは間違いなさそうだ。

 

「私たちもその場に招待されているわ。事件にかかわってしまったから、そこで今回のことを報告をしなくてはいけないの」

 

「マジっすか!?」

 

リアスの言葉に驚いたのは一誠をはじめ、全員が驚愕の表情を浮かべていた。

だが、驚愕も一周回れば自然と冷静を取り戻してしまう。

そういえばと、一誠はずっと疑問に抱いていたことをゼノヴィアに訊ねた。

 

「なあ、ゼノヴィア。『白い龍』は堕天使側なのか?」

 

「そうだ。『白い龍』はアザゼル率いる『神の子を見張るもの』の幹部を含めた強者の中でも4番目か5番目に強いと聞く。すでに完全な禁手状態を見るに、現時点でライバルのキミよりも断然強い」

 

その答えに一誠はただそうか、と相槌を打つだけで特に驚くことはなかった。

初めて見た時に嫌でも圧倒的な実力の差を突き付けられたのだ。

ここは素直に開き直って前途多難な現実を認めるしかないとありのままを受け入れることにした。

一誠がひとりで納得していると、ゼノヴィアがアーシアに視線を移した。

 

「クリスチャンで神の不在を知っているのは私とキミだけだ。もうキミを断罪するなんて言えやしないな」

 

その瞳に皮肉と哀しみの影を映し、そっと顔を伏せる。

 

「異端視、か。異端の徒に堕ちた私を見る彼らの態度は忘れられない。今ならキミの気持ちが痛いほどよくわかるよ」

 

そう声を震わせ、もう一度アーシアに視線を向けたゼノヴィアは深々と頭を下げた。

 

「アーシア・アルジェント。私はキミに謝らなければならない。主がいないのならば、救いも愛もなかったわけだからね。すまなかった。キミの気が済むのなら殴ってくれてもかまわない」

 

再び部室は沈黙に包まれた。

頭を下げているためゼノヴィアの表情は窺えないが、彼女の謝罪は本心からくるものだろう。

皆が行く末を見守る中で、アーシアは静かに口を開いた。

 

「頭を上げてください、ゼノヴィアさん。私はそのようなことをするつもりはありません。確かにあの時はつらく悲しい思いをしました。けれど、こうして大切なヒトに、大切な方々に出会うことができました。私は皆さんといられる今この瞬間が本当に幸せなんです」

 

聖母のような微笑みでゼノヴィアを許したアーシア。

 

「…ありがとう」

 

ゼノヴィアはただ一言、心の底からの喜色の頬笑を見せた。

 

「では、私はそろそろ失礼する。この学園に転向するにいたって、まだまだ知らねばならないことが多すぎるからね」

 

「あ、あの!」

 

名残を振り払うように部室を出ようとしたゼノヴィアを咄嗟にアーシアは呼び止めた。

 

「今度の休日に、みんなで遊びに行くんです。ゼノヴィアさんもご一緒にいかがですか?」

 

満面の笑顔のアーシアにゼノヴィアは少しでけ大きく目を見開いたがすぐに苦笑を表す。

 

「いや、今回は遠慮させてもらおう。まだ気持ちの整理がついていないんだ。ただ…」

 

「ただ?」

 

不安げに首をかしげるアーシアに、ゼノヴィアは笑顔で問うた。

 

「よかったら今度、私に学園を案内してくれないかい?」

 

「はい!」

 

アーシアは今日一番の笑顔を浮かべて強く首肯した。

そして、ゼノヴィアは今度は祐斗に不敵な視線を向けた。

 

「我が聖剣デュランダルの名にかけて、そちらの聖魔剣使いとも再び手合わせしたいものだね」

 

「いいよ。今度は負けない」

 

自身と力強さを感じさせる笑顔で返す祐斗を確認して、ゼノヴィアは部室を後にした。

雄介たちも、緊張の糸が解けたように安堵の吐息を漏らした。

やはりオカルト研究部はこうでなくては。

 

「さ、ようやく全員が揃ったのだから、部活も再開するわよ!」

 

『はい!』

 

ポン、と手を鳴らすリアスに全員が元気よく返事をする。

その日、雄介たちは久しぶりに談笑を楽しんだ。

 

                      ☆

 

カラオケの一室で雄介はマイクを片手に高らかに歌っていた。

『青空になる』

雄介の大好きな歌であり、幼いころに両親を失った傷を癒してくれたモノのひとつである。

この前向きな歌詞に何度励まされたことか。

外野で一誠、松田、元浜がやんややんやと野次を飛ばし、アーシアが楽しそうに目を輝かせている隣でクラスメイトの桐生が選曲を行っている。

小猫はカラオケそっちのけで次々とアイスやらピザやらを小柄な身体に収めていき、祐斗は優雅にコーヒーを飲んでいた。

本日、雄介たちは休日を利用して、猛烈な勢いで遊び倒していたのだ。

人心地ついて席に戻る雄介がドリンクを一口含んでいると、ポケットにしまい込んでいた携帯のバイブが振動した。

おもむろに取り出すと、メールの受信ボックスに一通の着信が入っていた。

差出人はリアスからだった。

受信されたメールには写メが添付されている。

雄介がもう一度ドリンクを口に含みながら何気なく、疑うことなく添付ファイルを開くと、

 

「ぶうぅぅぅぅぅぅッ!?」

 

霧吹きよろしく、たまらず盛大に吹き出してしまった。

さらには飲み損ねたドリンクが気管に入り込み、咽てしまうダブルパンチに苦しんでしまう。

雄介が開いた写メールには割ときわどい水着を着用したリアスが誘うような艶かしいポーズをとっているではないか。

リアスは朱乃と一緒にショッピングを楽しんでいるらしい。

近いうちにプール開きがあるということは事前に聞いていた。

おそらくはそれを兼ねての途中報告なのだろう。

ただ、本文にさり気なく添えられた『水着を物色中。雄介が好きそうなのを選ぶわね♡』という短い文章に、本当に反応に困ってしまっていた。

 

「おい五代なんだそのお宝画像はッ!?」

 

いつの間にか一誠が鼻血を垂らしながら食い入るように覗き込んでいた。

 

「リアス先輩の超貴重なセクシービキニショット!学園中にバラ撒けば高値で売れること間違いなしだぞ!」

 

「ちょっ五代!それ送れ!」

 

さらに我先にと割り込んでくる元浜に松田。

コカビエルに負けないぐらいの血走った目つきが本当に怖いです。

 

「…五代先輩、エロエロなこと考えてましたね」

 

背筋が凍ると錯覚するような低い声音で小猫にジト目を向けられた。

悪いことをした覚えはないのだが、本能的に視線を合わせられない。

そこは、あれだ。

健全な青少年なので勘弁してもらいたいと、雄介は情けなくも内心で留めておく事にした。

 

「部長さんのことを考えていたんですか?」

 

涙目で不機嫌を訴えるアーシアが一誠の頬を引っ張った。

 

「こら兵藤!私の天使ちゃんを泣かせるとはいい度胸してるじゃない!」

 

「罰として一緒にデュエットでもしやがれこの鬼畜!」

 

「てかいっそのこと死んでしまえ野獣!」

 

なんかうまい具合に一同の矛先が一誠に向かった。

ちょっとしたカオスに染まりつつあるカラオケの一室。

雄介はタイミングを見計らってそっと、部屋を出た。

世間一般ではこれを戦術的撤退という…多分…。

 

                      ☆

 

ドリンクバーでドリンクを追加した雄介が部屋に引き返していた途中、付近の椅子に祐斗が座っていた。

 

「あれ、どうしたの祐斗くん?」

 

「うん、ちょっとね…」

 

最初は照れ隠しに苦笑を浮かべていた祐斗だったが、その表情を神妙なモノに変えて切り出した。

 

「雄介くん。もう一度キミにお礼を言いたかった。…ありがとう」

 

「いいさ。祐斗くんの同志も許してくれた。リアスさんもみんなも許してくれた。それでいいじゃない」

 

「雄介くん…」

 

雄介は強く握りしめる拳を見つめながら、改めて決意を口にする。

 

「あの時祐斗くんが言ってくれたように、俺はこれからもみんなの笑顔のために戦う。クウガとして。…仮面ライダーとして」

 

微塵の迷いのない口調でそう宣言した雄介に、祐斗はふと、最近聞くようになった言葉について訊ねた。

 

「前から聞こうと思ってたんだけど、その仮面ライダーって一体何なんだい?」

 

その疑問に、雄介は自慢げに、そして誇らしく答えた。

 

「ヒト々の自由と平和を守る戦士のことだよ」

 




本日発売のムービー大戦アルティメイタムパーフェクトパックを買いました。
いや~、やっぱムービー大戦はいいすっね。最高!

さて、これにてようやく聖剣編終了です。
ディケイド投入といった寄り道もしたが、こうして無事終わりまで漕ぎ着けることができました。

そして最後に、以前から開催していた新作アンケートの集計を締め切らせていただきます。
多くの投票ありがとうございます。
自分の独断と偏見で新作は…

仮面ライダーウィザード×ドッグデイズに決定しました!

理由としては、あれです。消去法で決めました。
キバもフォーゼもなんか、方向性が無茶苦茶になって放送事故ならぬ執筆事故になりそうだったので今回はウィザードにさせていただきました。

再度皆様に謝辞を述べさせていただきます。
皆様、本当にありがとうございます!
ということで正式タイトル『仮面ライダーウィザード FANTASTIC DAYS』
近日投稿決定!
お楽しみに!

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