仮面ライダークウガ 青空の約束   作:青空野郎

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EPISODE34 旅人

「やめろおおおおおおおおおおッ!」

 

刻々と崩壊へのカウントダウンが迫る中、駒王学園の校庭に雄介の叫びが響くが、コカビエルは手に握る光剣を振り下ろす。

皆、思わず目を背けてしまった。

だが、訪れたのはゼノビアの悲鳴でもなければ、鮮血が飛び散る音でもない、今までの喧騒が嘘のような静寂だった。

不思議に思い、ゆっくりと目を開くと、

 

「…何ぃ?」

 

怪訝な声を漏らしたのはコカビエルだった。

なぜなら、雄介たちの目の前ではゼノヴィアの命を奪おうとしていたコカビエルの凶刃が空中で止まっていたからだ。

いや、正確には光剣を持つ腕が掴まれていたのだ。

さらにはその手は何もない空間から突然伸びていると来ている。

そんな一種のホラーのような光景に驚くのは当然の反応だと言えよう。

しかし、そのすぐ後に手が生えている空間がカーテンのように揺らぎ始めた。

そして雄介はくすんだオーロラのような揺らぎから現れた、マゼンダカラーのトイカメラをぶら下げる人物の名前を叫んだ。

 

「士さん!」

 

「キサマは…」

 

鋭い視線で睨み付けるコカビエルだが、士はレンズのような硝子玉の瞳で見つめ返すだけだ。

雄介以外の全員が士の突然の登場に目を白黒させていた。

 

「なるほど。大体分かった」

 

だが士は特に気にした風もなく周囲を軽く見渡し、ひとり納得したように静かに呟いた。

同時に、士が万力のような力で締め上げるコカビエルの腕から徐々に握力は失われていき光剣がカラン、という軽い音を立てて地に落ちた。

士が放つ言い知れない雰囲気を感じ取ったコカビエルは無理やり腕を振りほどき、士と距離を取った。

 

「けほっ、けほっ…」

 

コカビエルから解放されたゼノヴィアは盛大に咳き込み、酸素を補充する。

 

「大丈夫、ゼノヴィアちゃん?」

 

「あぁ、なんとかな…」

 

ゼノヴィアに駆け寄る雄介が彼女の無事に安堵の息を漏らすと、眼前に立つ士を見上げた。

 

「士さん。なんでここに?」

 

「別に。ただ、忘れ物を届けに来ただけだ」

 

淡々と語る士を見やると、確かに彼は片手で何者かの首根っこを掴んでいた。

そして士はおもむろにその人物の背中を蹴りつけた。

蹴りつけられた人物は満足に受け身をとることもなく地面を転がる。

よく見るとその人物が身に纏う衣服はボロボロで全身傷だらけの重傷だった。

 

「…イベルデ」

 

最初に反応したコカビエルがその人物の名前を呟いた。

 

「申し訳ございません、コカビエル様…。不覚にも、私以外全員奴にやられてしまいました…」

 

負い目を感じるイベルデが起き上がり、頭を下げる。

イベルデには部下と怪人たちとともに、駒王学園の周囲に結界を張るソーナ・シトリーとその眷属悪魔の始末を命じていたはずだ。

コカビエルの部下であるイベルデは中級の中でも上位に立つ堕天使である。

そんな彼が今、目の前で見苦しい姿をさらしながら士に連れてこられたのだ。

コカビエルが答えを導き出すのに時間はかからなかった。

 

「…そうか。キサマが世界の破壊者、『悪魔』ディケイドか」

 

「悪魔…?」

 

コカビエルが口にしたその名を聞いて、リアスが呟く。

士から悪魔の気配を感じなかったからだ。

だが、同時にその存在の特異さに息を呑んでいた。

 

「なんでも、様々な世界を訪れてはそのすべてを破壊してきたという話だが…。なるほど、イベルデたちを返り討ちにしたところを見ると、実力は本物のようだな」

 

その言葉にリアスたちは懐疑的な視線を士に向けた。

 

「否定はしないな」

 

しかし士は特に気にした様子もなく短く肯定した。

俄かに信じられるような話ではないが士の言葉に皆、戦慄したように目を大きく見開く。

そんな時、コカビエルが何かを思いついたのか愉快そうに口元を歪めた。

 

「ふむ、世界の破壊者を名乗るに値するその力に興味が湧いた。どうだ?ディケイドよ。俺はこれから覇権をかけた戦争を仕掛け、世界を手に入れる。キサマが望むならその力を存分に振るってみたくはないか?」

 

「どういう意味だ?」

 

コカビエルの意味深げな言い方に士は眉根を寄せた。

 

「俺とともに来い」

 

と、コカビエルは怪しく笑いながら端的に言った。

リアスたちは少なからず衝撃を受け、息を詰まらせる。

緊張する空気の中で皆、どう反応すればいいのかわからないでいるのだ。

そんな雰囲気の中で士は半眼を作り、静かに答えた。

 

「バカかお前は?」

 

「なにぃ…」

 

士の返答にコカビエルは眉を顰めた。

 

「世界を手に入れるって、どこかの悪の秘密結社じゃあるまいし、今時流行らないぞ?まあ、そんな幼稚な発想しかできないなら当然か」

 

挑発するように嘲笑を浮かべる士にコカビエルは苛立ちを覚えた。

 

「キサマはこの世界を破壊しに来たのではないのか?」

 

コカビエルが怒気を含めた声音を発するが士は呆れ返るように大きな溜息をひとつ吐いた。

 

「誰に吹き込まれたかはなんとなく予想はつくが、俺はそんなものに興味はない」

 

眼を細め、コカビエルを睨めつける士の硝子球の瞳には強い意志を宿っている。

 

「今まで旅をして分かったことがある。それは、誰もが繋がりを持っているということだ。その繋がりを信じ、自分のすべてを託せる。それが仲間だ。仲間の力は時に、常識を超える。そしてここにもひとり、仲間を想い、仲間を信じる男がいる!みんなが笑顔でいられる明日を守るために、傷つくことを恐れず戦う男がいる!…そんな奴がいるから、世界は面白いんだ」

 

いつの間にか士の力強い言葉に全ての視線が集まる。

そして士は背中越しに意識を雄介に向けた。

 

「行くぞ雄介。俺たちは、仮面ライダーだからな」

 

「…はい!」

 

士の言葉に雄介は強く頷き立ち上がる。

雄介もまた揺らぎない決意を瞳に宿すとともにアークルを出現させ、ディケイドライバーを装着する士と肩を並べる。

 

「悪魔は所詮悪魔ということか。不快だ。…まったくもって不快だ!何なのだ…!一体キサマは何者なのだ!?」

 

コカビエルの怒号に士は高らかに言い放った。

 

「通りすがりの仮面ライダーだ。覚えておけ!」

 

と。

そして雄介と士は叫びを重ねた。

 

「「変身!」」

 

【KAMEN RIDE…DECADE!】

 

アークルが赤の音を響かせ、ディケイドライバーが電子音を発する刹那、雄介は赤い成体装甲に、士はマゼンダカラーのボディに包まれる。

そしてこの瞬間、同じ地にクウガとディケイド、2人の仮面ライダーが並び立った。

 

「仮面ライダー…?」

 

唖然とした面持ちでリアスが独り言のようにその言葉を唱えた。

他の皆も目の前の光景に大きく目を見開いく。

しかし士はそんなリアスたちの反応に気にする様子はなくライドブッカーから取り出したカードを悠々とドライバーに装填した。

 

【FINAL FORM RIDE…KU KU KU KUUGA!】

 

「ちょっとくすぐったいぞ」

 

「え?」

 

背中に回る士の怪しげな台詞に思わず雄介は疑問の声を漏らした。

 

「うお!お、おおォぉッ!?」

 

士が雄介の背中を開く様な仕草で触れると、雄介の身体は苦悶と戸惑いの声とともに文字通り形を変える。

さらに、その光景に驚いたのは雄介だけではなかった。

 

「雄介!?」

 

「あらあら、まあまあ…」

 

「…なんと」

 

リアスたちそれぞれがこれ以上ないほど目を見開きながら驚愕と猜疑と困惑が入り混じった反応を示す。

手足や首がありえない方向に曲がり、身体中の成体装甲に金属のようなパーツが追加されていき姿を変えた雄介であるそれを認めた時、一誠がたまらず叫ぶ。

 

「ご、五代が…ゴウラムになっちまった!?」

 

彼らの目の前にいたのは重厚な羽音を響かせ宙に浮く黒鋼のクワガタ。

そう、それこそ装甲機ゴウラムそのものだったのだ。

念のために視線の向きを変えると、本物のゴウラムは未だに後方にあるトライチェイサーと合体していた。

 

「ここまで来ると、ホントに何でもありみたいだね…」

 

口元をひきつかせながら祐斗が呆然と呟いた。

これがディケイドの持つ能力のひとつ、ファイナルフォームライド。

この力でクウガを“クウガゴウラム”へと超絶変形させたのだ。

 

『これは…?』

 

当然だがクウガゴウラムが雄介の声を発する。

 

「これが俺とおまえの力だ」

 

雄介の疑問に士が答える。

 

『そうか…よし!』

 

あっさりと納得した雄介は士を背中に搭乗させコカビエルに向かって直進した。

音速で詰める士はブッカーソードに創り出した光剣を手にするコカビエルが迎え撃つ。

すれ違いざまにガキィン!という甲高い音が響く。

 

「がッ…!」

 

競り負けたのはなんとコカビエルだった。

雄介はすぐに方向を変え、再び攻撃をコカビエルにしかける。

だがコカビエルは横に跳んで2撃目をかわすと体勢を整えるために黒翼を広げて飛翔した。

 

『ゴウラム!』

 

追撃に向かう雄介の呼びかけに反応したオリジナルのゴウラムがトライチェイサーとの合体を解除してコカビエルに迫る。

 

「チィッ…!」

 

驚愕を露わにしながら舌打ちするコカビエル。

投擲される光槍を雄介とゴウラムが鋼の顎で砕き、両者の背中を器用に乗り換える士が剣戟でコカビエルを攻める。

だが、コカビエルも負けじと三者の攻撃を捌いていく。

 

【ATTACK RIDE…INVISIBLE!】

 

装填されたカードの効果でマゼンダカラーのボディがぶれ、やがてその姿が虚空に消失した。

コカビエルが戸惑いを見せた隙に雄介とゴウラムが左右から挟み込むようにコカビエルに突進する。

 

「ぐ、この!…―ッ!」

 

咄嗟に両の手の光剣で受け止め、鋼顎との間で火花を散らす。

だが、先ほどリアスの一撃を受け止めたことが災いし、計り知れない衝撃に両腕が悲鳴を上げ、苦悶を浮かべる。

その時、背後から射すくめられるような殺気を感じて視線だけ向けると、頭上で士が斬!とブッカーソードを振り抜いた。

 

ザシュッ

 

声を出す間もなくコカビエルの黒い翼が噴き出す鮮血とともに宙を舞った。

 

「――――――ッ!」

 

声にならない悲鳴をあげ、一瞬で全身を走る激痛にバランスを崩される。

地に着いた士はクウガの紋章が描かれたカードを取出した。

 

【FINAL ATTACK RIDE…KU KU KU KUUGA!】

 

すると、まるで呼応するかのようにコカビエルの胴体を捉えた雄介は大きなカーブを描きながら旋回、そして錐揉み回転しながら最高速度で急降下する。

士もその動きに合わせるように跳躍した。

 

『オオオオオオオオオッ!』

 

「はああああああああッ!」

 

空中で2人の雄叫びが重なり、クウガとディケイドの合体技“ディケイドアサルト”がコカビエルを挟みつぶした。

 

「がはァッ…!」

 

コカビエルは吐血しながら無様に地に堕ち、少し離れた位置に士と変形を解いた雄介が地に足をつける。

畳み掛けるように走り出す雄介と士だが、飛来した光槍で装甲が火花を散らせた。

 

「コカビエル様の邪魔はさせん!」

 

2人の前に立ちはだかるのは敵意の眼差しを向けるイベルデだった。

改めて構えを作る雄介だが、士が手でそれを制した。

 

「面倒だ、俺が片づける」

 

気だるそうに呟く士の一言にイベルデの沸点が超えた。

 

「世迷言を!今度はあの時のようにはいかぬぞ!必ずキサマをこの手で―」

 

「御託はいい、来るなら来い。…変身」

 

イベルデの叫びを凍えるような声で一蹴する士は取り出したライダーカードを装填する。

 

【KAMEN RIDE…KABUTO!】

 

ドライバーの音声とともに光に覆われ、士の姿が変わる。

『ヒヒイロノカネ』と呼ばれるメタルチックな赤い金属アーマーにカブトムシのような一本角が特徴的な仮面。

威風堂々と立つその姿こそ光を支配せし太陽の神と呼ばれし、天の道を往き、総てを司る戦士、“仮面ライダーカブト”。

続けて士は1枚のカードをドライバーに装填する。

 

【ATTACK RIDE…CLOCK UP!】

 

専用武器、カブトクナイガンを構えると同時に士は忽然とその場から姿を消した。

慌てて目で追おうとするイベルデだが、次の瞬間には彼の身体は不自然に宙に浮いた。

さらには何かに弾かれるように吹き飛ばされる。

クロックアップ空間と呼ばれる世界では周りの時間が止まるかのような静寂が支配する。

降り注ぐ雨粒は水滴の形を保ち空間を漂い、揺れ落ちる木の葉は空中で静止する。

そんな停止世界の中でただひとり、カブトに変身した士だけが駆け抜ける。

残像すら残さない、光すら追い抜く圧倒的な速度で肉薄する士は立像と化したイベルデを斬り裂き、殴り飛ばし、蹴り上げる。

 

【FINAL ATTACK RIDE…KA KA KA KABUTO!】

 

ゆっくりと落ちるイベルデにタイミングを合わせ、士は振り向き様にエネルギーが収束する右足で必殺の一撃、“ライダーキック” を食らわせた。

 

「こ、コカビエル様あああああああああっ!」

 

【CLOCK OVER!】

 

5秒と掛からず、虚しい叫びを最後にイベルデは爆発霧散した。

 

                      ☆

 

「す、すげぇ…」

 

「あの速度、僕ですら追い切れないなんて…」

 

「もし彼が敵だったらと思うと、ゾッとするわね」

 

一連の戦闘を遠巻きに眺めていた一誠が一人ごち、祐斗は“騎士”をも凌駕するカブトの速度に素直に感嘆を漏らす。

そして冷や汗を頬に垂らしがら苦笑を浮かべ素に戻る朱乃は敬語を忘れていた。

今も雄介と士はコカビエルを果敢に攻めたてている。

気付けば皆、眼前で繰り広げられる戦闘に釘付けになっていた。

例え何度倒されても、またその度に立ち上がる2人の仮面の戦士の雄姿に目を離せないでいる。

 

「あれが、仮面ライダー…」

 

再びリアスがその言葉を静かに反芻した。

 

                      ☆

 

コカビエルは内心はかつてないほど荒れていた。

生意気にもたかだか脆弱な人間2人が自らに歯向かうだけでなく、そんな彼らに追いつめられる屈辱で腸が煮えくり返る。

こんなことになるとはコカビエル自身思ってもみなかった。

さらには、何度ねじ伏せようとも立ち向かってくる雄介と士に戦慄すら覚える。

ギリリと砕けんばかりに歯を軋り、鋭い双眸は一層に増して血走る。

 

「ふざけるなアアアアッ!」

 

怒りで大きく光剣を振り回すが士がクナイガンの射撃で剣筋をずらし、雄介の拳がコカビエルの顔面を捉えた。

 

「はああっ!」

 

「グガアッ…!」

 

殴り飛ばされ地面を転がるコカビエル。

 

「おのれ、おのれエエエエ!」

 

我を失い、喚き散らすコカビエルだが、ふと、視線がリアスたちを目に留めた。

その途端、頭に上った血が下がり、ニヤリと口元を大きく歪めた。

なに、冷静になれば簡単なことだった。

要は、彼らの支えを、守るべき大切なものを奪えばいいのだ。

手を天に掲げ、コカビエルは体育館を消し飛ばした巨大な光の槍を出現させた。

それを見て、雄介は背筋が凍るような感覚に襲われた。

その悪寒の正体はすぐに分かった。

自分たちの後ろにはリアスたちがいる。

このままではリアスたちも巻き添えになってしまう。

 

「させるか!」

 

雄介が再びクウガゴウラムへとファイナルフォームライドするのと、コカビエルが光の柱を投擲するのが同時だった。

 

『オオオオオオオオオオオオオオッ!』

 

大きな力が衝突するが、徐々に雄介が圧されていく。

 

「ハハハハハ!終わりだ!そのまま砕け散れェッ!」

 

狂ったように高笑いを上げるコカビエルだが、士は仮面の下で静かに口を開いた。

 

「言っただろ?仲間の力は時に常識を超えると」

 

【KAMEN RIDE…DEN-O!】

 

新たなライダーカードを読み込んだことで、現れ出でた光の粒子が全身に張り付き、プラットフォームと言う黒と白を基調とした基本素体となる。

その直後、上半身の周りを踊るように旋回する赤いオーラアーマーがそれぞれの部位に装着される。

最後に頭部を走る赤い電仮面が真っ二つに割った桃の形を成した。

時を超えて俺、参上!最初から最後まで徹底的にクライマックスな戦士“仮面ライダー電王”である。

本来ならばここで「俺、参上!」という決め台詞とともに仰々しいポーズを取るのだが、生憎と士はそんな恥ずかしい真似をすることはなかった。

以前そのせいで痛い目に遭い、軽くトラウマになっていたのだ。

とにかく、しないと決めたらしないのだ。

それはさておいて、士はすかさずカードをドライバーに挿入した。

 

【FINAL ATTACK RIDE…DE DE DE DEN-O!】

 

士が手に持つ電王の武器、デンガッシャー・ソードモードのオーラソードに赤いフリーエネルギーが走る。

すると、赤いオーラソードが柄部分と分離し、膠着するクウガゴウラムにガスッと刺さった。

 

「「「…あ」」」

 

その光景にリアス、一誠、小猫の3人が間の抜けた声を漏らした。

 

『アへんッ!?』

 

「はああああああッ!」

 

雄介が奇妙な悲鳴を発したが、士は特に気にしない。

そのまま電王・ソードフォームの必殺技“エクストリームスラッシュ(俺の必殺技パート2)”の要領で、クウガゴウラムに接続したデンガッシャーのオーラソードを振り回す“ディケイドライナー”が巨大な光の槍を打ち砕いた。

 

「バカな…」

 

青ざめるコカビエルの前で、マイティフォームに戻った雄介が肛門を抑えながら内股でピョンピョンと跳ねていた。

未だにリアスのお仕置きのダメージが残っていたため、先程の仕打ちには堪えるものがあったのだ。

 

「ちょっと士さん!ひどいじゃないですか!あ~、痛かったぁ…」

 

「気にするな。ほら、行くぞ」

 

痛みで身を攀じる雄介に非難を飛ばされるが、士は胸を軽く小突くだけで適当に流してライダーカードを装填する。

 

【KAMEN RIDE…HIBIKI!】

 

リン、という涼やかな鈴の音とともにディケイドのマゼンダカラーのボディが紫の炎に包まれた。

全身に燃え盛る紫炎を振り払うと、現れたのは深淵な紫のボディに2本の角を生やす赤い仮面の、まるで禍々しくも猛々しい鬼のような出で立ちの戦士だった。

常に己を鍛え抜き、魔を清める戦鬼“仮面ライダー響鬼”。

三度カメンライドした士は召喚した響鬼の専用武器、音撃棒・烈火をクルリと回す。

 

「超変身!」

 

士の態度に不満が残るが、気を取り直して雄介もドラゴンフォームに姿を変えた。

 

「祐斗くん!」

 

ドラゴンフォームに変身した雄介が名を叫び、祐斗はその意図を察する。

 

「雄介くん!」

 

祐斗が聖魔剣を投げ渡し、雄介は即座にそれをドラゴンロッドに変形させ駆け出した。

それに続くように士も烈火を構えて走る。

コカビエルは光剣を両手に迎撃に出るが、2つの鈴の音が混じる棒術に翻弄されてしまう。

 

【ATTACK RIDE…ONIBI!】

 

カードを装填し、士は響鬼の仮面から紫の鬼火を放った。

全身を浄化の火炎で焼き尽くされ、傷口が抉られる。

たまらず苦しみもがくコカビエルに、士はさらに容赦のない追撃を加える。

 

【FINAL ATTACK RIDE…HI HI HI HIBIKI!】

 

カードを挿入すると、響鬼が音撃を叩き込む際に使用する太鼓、音撃鼓・火炎鼓がコカビエルの前面に大きく展開される。

一気に距離を詰め、炎が灯る烈火で火炎鼓を強く猛打する、“音撃打・爆裂強打の型”を叩き込んだ。

 

「グャアアアアアアアアッ!」

 

膨張する火炎鼓が爆ぜ、コカビエルは絶叫を上げる。

魔の存在である堕天使のコカビエルには今の清めの一撃は強く響いたようだ。

辛くも覚束ない足取りで立ち上がるが、背後に回った雄介にドラゴンロッドで、正面を通常形態に戻った士がブッカーソードで肩口を押さえられ、身動きを封じられてしまった。

 

「超変身!」

 

【ATTACK RIDE…SLASH!】

 

そこを同時にタイタンフォームに超変身した雄介と、刀身を強化させた士の斬撃が袈裟方向に走った。

コカビエルが赤く染まった黒い羽を辺りに散らせる。

すかさず雄介と士は意識を失いかけたコカビエルを蹴り飛ばした。

すでに理性の失われた眼差しでコカビエルは再度マイティフォームに戻った雄介とライドブッカーの刀身を指で撫でる士が見つめる。

 

「俺は、これから戦争を始めるのだ…。それを、それをこんなところでえああああああッ!」

 

とうとう乱心したコカビエルが今までと比べ物にならない物量の光槍を無茶苦茶に雨飛させた。

矢庭にリアスと朱乃が障壁を張って一誠たちを守るが、その範囲は雄介と士までには届かなかった。

校舎を砕き、地面を穿つ見境のない蹂躙によって巻き起こる爆発が雄介と士を飲み込んだ。

 

「雄介ェッ!」

 

悲痛に愛しい人の名を叫んだリアスだったが、その憂慮は杞憂に終わることになる。

 

ブウゥゥゥッゥゥゥウウウンッ!

 

視界を奪う猛煙の深部から耳を劈くような駆動音が轟きわたった。

一刹那後、煙を突き破り現れたのはトライチェイサーとマシンディケイダーで駆るクウガとディケイドの姿だった。

いまだに静まることのない爆破の中を臆することなく、けたたましい轟音を鳴動させ並走する2人のライダーがコカビエルを追い詰める。

士が最後のカードを取り出し、指でコンコンと叩く。

 

「決めるぞ、雄介」

 

「はい!」

 

もちろん、雄介はサムズアップで答える。

そして2人は背後で起こる、一際大きな爆発を利用してジャンプアクションを決めた。

 

【FINAL ATTACK RIDE…DE DE DE DECADE!】

 

士がカードを装填すると同時に、2人はさらに天高く跳躍した。

雄介は空中で前転し、士は眼前に現れる10のホログラム状のカード型エネルギーを潜り抜ける。

 

「うりゃあああああああああああッ!」

 

「はあああああああああああああッ!」

 

互いに右足を突き出し、炎を纏う“マイティキック”と金色のエネルギーを纏う“ディメンションキック”のダブルライダーキックがすでに瀕死寸前のコカビエルに炸裂した。

一瞬金縛り状態になったコカビエルは壮絶な衝撃に後方へ大きく吹き飛ばされ、雄介と士は舞い降りるように着地する。

 

「バカな。この俺が、こんなところで…」

 

フラフラと立つコカビエルに、バーコードのラインが円形に展開し、その中心にクウガの封印文字が深々と刻まれていた。

それを認めた矢先、身体の内側から弾ける様な感覚に錯覚を覚え、コカビエルは獰猛な目つきで雄介を睨めつけた。

 

「この力…そうか、やはりキサマが…キサマがァ…」

 

何かを言いかけようとするコカビエルに雄介と士は彼に背を向ける。

コカビエルの全身から火花が散り、亀裂が走る。

やがて許容量を超えた身体は耐え切れなくなり膝を着いた。

 

「がァァアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!」

 

ドオォォォォォォォォォン

 

背後で巻き起こる爆発が2人の戦士の勝利を演出した。

 

                      ☆

 

「まさか、本当に倒したというのか?あのコカビエルを…」

 

変身を解く雄介と士の姿を見ながら唇をわなわなと振るわせて呟くのはゼノヴィアだった。

 

「おのれディケイドォォオオオオオッ!」

 

しかし、そんな独り言は突然の第3者の怒号によってかき消された。

全員がその方へと視線を向ける。

そこにいたのは一人の男性。

雄介以外の皆は誰という風に首を傾げるが、ただひとり士は心底呆れたように溜息を吐く。

 

「俺のところに来た堕天使がアンノウンやオルフェノクを連れていた時はもしやと思ったが、やはりお前の仕業だったか…鳴滝」

 

士と鳴滝の両者が敵意の篭る視線をぶつけ合う。

 

「またしても新たな物語を繋げたか…。これでまたすべての世界が崩壊へと一歩近づいてしまった。だがお前を滅ぼすまで私は諦めん。ディケイドよ、次の世界で会おう。そこがキサマの墓場となるのだ!」

 

憤怒の表情でそう言い残し、鳴滝は背後に出現したくすんだ揺らぎに飲み込まれ、この世界を去って行った。

 

「士さん、あの人は一体…?」

 

「さあな。いつも俺の行く先々に現れていい加減こっちも迷惑してるんだよ」

 

硝子球の瞳に虚無の感情を乗せる士に雄介は苦笑を浮かべた。

と、ここで雄介は士にお礼を言っていないことに気付いた。

 

「士さん、ありがとうございます」

 

「なんだ、いきなり?」

 

深々と頭を下げる雄介に士は訝るような視線を向けた。

 

「私からもお礼を言わせてもらうわ」

 

2人のもとに歩いてきたのはリアスだった。

 

「あなたのおかげで私たちは誰も失わずに済んだ。本当に感謝してるわ。ありがとう」

 

謝辞を述べるリアスから視線を逸らし、士は口を開いた。

 

「俺はこの世界での役目を全うしただけだ。そして、どうやらその役目も終わったようだ」

 

士の意味深な言葉に雄介が問うた。

 

「行くんですか?」

 

まあな、と肯定して士は二の句を続ける。

 

「さっきも言っただろ。俺は通りすがりの仮面ライダーだ。これからも俺は旅を続け、ディケイドの物語を繋げていく。それだけだ」

 

穏やかに笑みを浮かべて、雄介たちに背を向けて歩き始めた士の前に先ほどと同じ灰色にくすむオーロラが現れた。

さよならは言わない。

代わりにサムズアップを掲げて旅人の背中に向かって雄介は叫んだ。

 

「何か困ったことがあったらいつでも呼んでください。俺でよかったら全力で力になりますから!」

 

表情は分からなかったが、確かに彼もまたサムズアップを掲げながら灰色の揺らぎの中へと消えていった。

そして、門矢士はクウガの世界から旅立った。

 

                     ☆

 

『光写真館』

士は今の自分の居場所へ帰っていた。

長い間営業してきた歴史を感じさせる建物で、現在では使われていない漢字が店の看板に使われている。

展示されている写真にも歴史のある古い物が飾られている。

その中でも特に目立つ背景ロールには神秘的な絵が描かれている。

あまりにも物静かだったために誰もいないのかと思ったが、違った。

スタジオ内に設置されたテーブルに腰掛け我が物顔でコーヒーを飲む男がいた。

 

「…空き巣にしてはずいぶんと呑気な奴だな」

 

「フン。そんなせこい連中と一緒くたにされるのは心外だな」

 

士は静かにコーヒーを啜る男に向かって皮肉をぶつけるが、男は士の言葉を鼻で笑うだけで一蹴した。

 

「待っていたぜ。門矢士、またの名を仮面ライダーディケイド」

 

ゆっくりとした動作で立ち上がった男は不敵な笑みを士に向けた。

 

「俺はキャプテン・マーベラス。宇宙海賊だ」

 

後に、この出会いがすべての仮面ライダーとスーパー戦隊が集結する“スーパーヒーロー大戦”へと続くのだが、それはまた別の話である。

 




いや~、士のセリフを考えるのに結構苦労しました。
次回でようやく聖剣編完結です。

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