仮面ライダークウガ 青空の約束   作:青空野郎

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EPISODE33 騎士

ただ生きたかった。

施設から一人逃げ出し、暗い森の中で血反吐を吐きながら走る僕はただそれだけを考えていた。

しかし、僕の命の灯は確実に消えかけていた。

そんな時に僕は彼女と出会った。

 

「あなたは何を望むの?」

 

死に逝く間際の僕を抱きかかえ、紅髪の彼女が問うてくる。

かすれていく意識の中で僕はたった一言だけ呟いた。

 

「―――助けて」

 

僕の命を、僕の仲間を、僕の人生を、僕の願を、僕の力を、僕の才能を、僕の全てを―。

ただただ、乞うように、籠めて願った。

それが僕の、人間としての最後の言葉だった。

悪魔として生きる。

それが我が主の願いであり、僕の願いでもあった。

それでいいと思っていた。

けれど、やはり聖剣への憎悪と同志の無念を忘れることはできなかった。

いや、忘れてもよかった。

なぜなら僕には、今、最高の仲間たちがいるのだから。

イッセーくんも、小猫ちゃんも、そして雄介くんも、復習にかられた僕を助けてくれた。

そのとき思ってしまった。

僕には、僕を助けてくれる仲間がいる、それだけで十分じゃないのか?と。

でも同志たちの魂が復讐を願っているとしたら、僕は憎悪の魔剣をおろすわけにはいかなかった。

でも、その想いは先ほど解き放たれた。

同志たちは決して僕に復讐を願ってはいなかったんだ…。

 

「でも、すべてが終わったわけじゃない…!」

 

そう、こんな悲劇は2度と繰り返すわけにはいかないのだ。

 

「バルパーガリレイ。あなたを止めない限り、第2、第3の僕たちが生まれてしまう。そんなことは絶対にあってはいけないんだ」

 

「ふん、何を今さら。研究に犠牲はつきものだと昔から言うではないか。ただそれだけのことだぞ?」

 

鼻で笑うコカビエルの言葉に祐斗はさらに決意を瞳に灯した。

 

「木場ァァァァッ!フリードの野郎とエクスカリバーをぶっ叩けェェェ!」

 

一誠が腹の底から吼えるように叫ぶ。

 

「お前はリアス・グレモリー眷属の“騎士”で、俺の仲間で、俺のダチなんだよ!あいつらの想いと魂を無駄にすんなァァァァァッ!」

 

「祐斗!あなたの手で決着をつけなさい!あなたはこのリアス・グレモリーの眷属なのだから!私の“騎士”はエクスカリバーごときに負けはしないわ!エクスカリバーを超えなさい!」

 

「祐斗君!信じていますわよ!」

 

続いて声を張るリアスと朱乃が声援を届ける。

 

「…祐斗先輩!」

 

「ファイトです!」

 

小猫とアーシアの力強い声音が心に沁みてくる。

 

「祐斗くん!」

 

最後は、やはり振り向かなくてもわかる。

雄介の声だ。

 

「大丈夫!キミはいつだって一人じゃないんだ!だから今はみんなのために!そして自分のためにその光を掴むんだ!」

 

同志たちの想いが、仲間たちの優しさが背中を押してくれていた。

 

「ハハハ!いい年したクソッたれどもが、なァに泣いちゃってんるんですかァ?おまけに幽霊ちゃんたちと戦場のど真ん中で楽しく歌っちゃってさぁ。ホント、ウザいったらありゃしない。ああ、もう最悪。俺的にその歌大ッ嫌いなんスよねぇ。聞くだけで玉のお肌がガサついちゃう!もう嫌!もう限界!こうなったら、てめえら全員まとめて切り刻んで絶頂させてもらいますよ!この無敵な聖剣ちゃんでね!」

 

祐斗は決意の涙を流しながら、イカれた邪悪な笑みを浮かべるフリードを睨めつける。

 

「僕は、剣になる」

 

祐斗は行く。

いまこそ、同志たちの願いとともに…。

 

「仲間の、友たちの剣となる!今こそ僕の願いに応えてくれ!“魔剣創造”ッ!」

 

さらに増す輝きの中で祐斗の神器と同志の魂が混ざり合い、同調し、カタチを成していく。

魔なる力と聖なる力がひとつになり、昇華していく。

そして現れたのは神々しい輝きと禍々しいオーラを纏う剣。

 

「禁手、『双覇の聖魔剣(ソード・オブ・ビトレイヤー)』。聖と魔を有する剣の力、その身で受け止めるといい」

 

祐斗は手元の聖魔剣を掴みフリード目掛けて走り出した。

“騎士”の特性であるスピードで何度もフェイントを入れてフリードの視界から脱する。

ギィンッ!という甲高い音とともにフリードは祐斗の一撃を防いだ。

しかしフリードの持っているエクスカリバーを覆うオーラは祐斗の聖魔剣によってかき消された。

 

「ッ!本家本元の聖剣を凌駕するのか、その駄剣が!?」

 

それにはフリードも驚かずにはいられなかった。

 

「それが真のエクスカリバーなら勝てなかっただろうね。でも、そのエクスカリバーでは、僕と、同志たちの想いは断てやしない!」

 

「チィ!」

 

 舌打ちをしたフリードが祐斗を押し返し、後ろに跳び下がった。

 

「伸びろォォォォォ!」

 

フリードの叫びにエクスカリバーの刀身が意志を持ったかのようにうねり始める。

先端が枝分かれし、神速で宙を無軌道に激しく動きながら祐斗に降り注ぐ。

統合された『擬態の聖剣』と『天閃の聖剣』の能力だ。

鋭い突きが縦横無尽に迫ってくるが、祐斗はそのすべてを防いでいく。

 

「なんであたらねェんだよォッ!無敵の聖剣様なんだろォ!?昔から最強伝説を語り継いできたんじゃないのかよぉ!」

 

声を荒らげるフリードの姿には明らかに焦りの影がにじみ始めている。

 

「なら、こいつならどうだァ!」

 

途端に、聖剣の先端が消えた。

これは『透明の聖剣』の力だ。

しかし祐斗は刃に乗せられた殺気を感じ取り、すべての攻撃をいなしていった。

 

「んなッ!?」

 

フリードは目元を引きつらせ、驚愕を露わにする。

 

「そうだ。そのままにしておけよ」

 

すると、そこへ横殴りにゼノヴィアが介入してくる。

彼女は聖剣を左手に持ち、右手を天に向けて広げた。

 

「ペトロ、バシレイオス、ディオニュシウス、そして聖母マリアよ。我が声に傾けてくれ」

 

呪文のように言霊を発すると、空間に生じた歪みに手を入れた。

その歪みの中で何かを掴むと、次元の狭間からそれを引き出した。

そこにあったのは聖なるオーラを放つ一本の剣だった。

 

「この刃に宿りしセイントの御名において、我は開放する。“デュランダル”!」

 

聖剣デュランダル。

エクスカリバーと並ぶほど有名な伝説の聖剣で、切れ味だけなら最強を誇る剣である。

 

「デュランダルだと!?」

 

「貴様、エクスカリバーの使い手ではなかったのか!?」

 

これにはバルパーどころか、コカビエルも驚きを隠せないでいた。

 

「残念ながら私は元々デュランダルの使い手なのだ。ただエクスカリバーの使い手も兼任していたにすぎない」

 

ゼノヴィアはエクスカリバーとデュランダル、2本の聖剣を構える。

 

「バカな!私の研究ではデュランダルを扱える領域までは達してはいないぞ!?」

 

「それはそうだろう。ヴァチカンでも人工的なデュランダル使いは創れていない」

 

「ならば、なぜ!?」

 

「それは、私はイリナたちのような人工聖剣使いではなく、数少ない天然の存在だからだ」

 

それを聞いて、バルパーは絶句してしまう。

 

「だが、このデュランダルは使い手の私ですら手に余る暴君でね。触れるものすべてを斬り刻んでしまう。ゆえに常時異空間へ閉じ込めておかないと危険極まりない代物なのさ。…さて、フリード・セルゼン。お前のおかげでエクスカリバーとデュランダルの頂上決戦ができる。私は今歓喜に打ち震えているぞ。一太刀目で死んでくれるなよ?せいぜいエクスカリバーの力を存分に揮うことだ!」

 

ゼノヴィアの感情の高ぶりに呼応するかのように、デュランダルの刀身がフリードのエクスカリバー超えるほどの聖なるオーラを迸らせる。

その輝きは祐斗の聖魔剣以上の力を発揮していた。

 

「そんなのアリですかァァァ!?なにこのチョー展開!クソッタレのクソビッチが!そんな設定いらねぇんだよォォォッ!」

 

フリードは殺気をゼノヴィアへ向け、枝分かれした不可視の刃で彼女を襲おうとする。

 

ガギィィン!

 

しかし、たった一薙ぎでエクスカリバーは砕かれたその姿を現す。

さらにデュランダルの剣圧は校庭の地面を大きく抉った。

 

「所詮、折れた聖剣ではこのデュランダルの相手にもならないということか…」

 

つまらなそうに嘆息するゼノヴィア。

そのすさまじい一撃は彼女の持つ『破壊の聖剣』を優に超えていた。

 

「マジかマジでマジですか!?伝説のエクスカリバーちゃんが木端微塵の四散霧散かよ!酷い!これは酷すぎる!かぁーっ!やはり折れたものを再利用しようなんて思うのがいけなかったのでしょうか?それでも僕は人間の浅はかさ、教会の愚かさ、その他諸々いろんなものを垣間見て成長していきたいと思います!」

 

フリードの殺気が弱まった瞬間、祐斗は一気に距離を詰める。

対応できず、咄嗟に聖魔剣をエクスカリバーで受け止めようとするが、

 

バギィィィン!

 

鳴り響く儚い金属音とともに、聖剣エクスカリバーは完全に砕け散った。

 

「見てくれたかい?僕らの力は、エクスカリバーを超えたよ」

 

静かに呟く祐斗はフリードを斬り払った。

 

                      ☆

 

祐斗に切り伏せられ、倒れるフリードの鮮血がグラウンドの地面を赤く染めていく。

祐斗は天を仰ぎ、聖魔剣を強く握りしめる。

感無量という感情よりも目標を失った喪失感が大きく占める。

生きる理由のひとつが、生きていい理由のひとつがなくなったのだから。

だが、その表情には清々しさが浮かんでいた。

 

「せ、聖魔剣だと…?あり得ない…。反発しあうふたつの要素が混じり合うなんてことはあるはずがないのだ…」

 

余韻に浸っているところに、バルパーの狼狽する声が聞こえた。

祐斗は改めて、目の前の怨敵を視界に捉える。

 

「バルパー・ガリレイ。覚悟を決めてもらう」

 

聖魔剣の切っ先を向け、すべての決着をつけるために構えを取る。

 

「…そうか、わかったぞ!聖と魔、光と闇、それらをつかさどる存在のバランスが大きく崩れているとするならば説明はつく!つまり、魔王だけではなく、神も―」

 

しかし、それ以上続けることは叶わなかった。

何か思考が達したかに見えたバルパーの胸を光の槍がズンッ!と貫いたのだ。

慌てて祐斗が地面に突っ伏したバルパーに駆け寄り生死を確認するが、すでに絶命した後だった。

 

「バルパー、お前は優秀だったよ。そこに思考が至ったのも優れているがゆえだろうな。だが、俺はお前がいなくても別にいいんだ。最初から一人でやれる。…クックックッ…。クハハハハ…。カァーハッハッハハッハハハハハッ!」

 

コカビエルは哄笑を上げ、ゆっくりと地に足をつけた。

圧倒的な重圧とともに堕天使の幹部はついに雄介たちの前に立つ。

不敵な笑みを浮かべ、彼は言う。

 

「限界まで赤龍帝の力を上げて、誰かに譲渡しろ」

 

「私たちにチャンスを与えるというの!?ふざけないで!」

 

「ふざけないで?ふざけているのはお前たちの方だ。俺を倒せると思っているのか?」

 

全身を射抜くほどの眼光に凄まれているのだけで、体中を恐怖で支配される。

これが古より聖書に記される堕天使のプレッシャー。

全身を走る震えはフェニックス家との一戦とは比べものではなかった。

 

「…イッセー。神器を」

 

リアスの言葉に一誠が応じる。

 

【BOOST!】

 

機械的な音声とともに赤い閃光が宝玉から発せられる。

それからの数分間は誰も一歩も動けない中で一誠の倍増を待つ。

眼前の堕天使はただ立っているだけにも拘らず、そこから隙ひとつ見つけることはできなかった。

飛び込めば、返り討ちに合うビジョンだけが脳を過ぎり、うかつな行動を封じられている。

おそらく、この場にいる全員がその状況だろう。

生唾を飲み込み、ただ時が来るのを待つことしかできないでいた。

そして、やがてその時が来る。

 

「―きた!」

 

一誠の声に赤龍帝も籠手が眩い光を放った。

 

「で、誰に譲渡する?」

 

興味津々に訊いてくるコカビエルの問い答えるように手を向けたのはリアスだった。

 

「イッセー!」

 

「はい!」

 

【TRANSFER!】

 

リアスの呼びかけに一誠は力を譲渡する。

宝玉からの光がリアスに渡り、彼女の体を覆う紅い魔力のオーラが膨れ上がる。

生みだされる絶大な魔力の波を両手に集中させるリアス。

一目みるだけでくらえば塵ひとつ残さないであろうと思えるほどの質量だった。

くらえば間違いなく大概の者は簡単に消し飛ばされるだろう。

しかし相手は…

 

「フハハハハハ!いいぞ!その魔力の波!俺に伝わる力の波動は最上級の魔力だ!もう少しで魔王クラスの魔力だぞ、リアス・グレモリー!お前も兄に負けず劣らずの才に恵まれているようだな!」

 

心底嬉しそうにコカビエルは笑うだけだった。

狂喜に彩られているその表情は、戦に喜びを感じるものだ。

 

「消し飛べェェェェェッ!」

 

そして、リアスの手から最大級の魔力の塊が滅びの力を帯びて撃ち出された。

地の底まで響き渡る振動を周囲に撒き散らし、強大な魔力がコカビエルに迫る。

それにコカビエルは堕天使のオーラの源である光を集めた両手で迎え撃とうとしていた。

 

「おもしろい!実におもしろいぞ!魔王の妹!リアス・グレモリー!」

 

鬼気迫る様子で叫ぶコカビエルはリアスの放つ最大の一撃を真正面から受け止める。

 

「ぬぅぅぅぅううううううんッ!」

 

そしてリアスの一撃は徐々にその勢いを失い、カタチを崩していった。

その光景に全員が旋律する。

しかし、流石のコカビエルも無傷はすまなかったようだ。

身にまとう黒いローブの端々は敗れ、魔力を受け止めた手からは血が流れている。リアスもリアスで、先ほどの攻撃で疲弊したのか、肩で激しく息をしていた。

次に一誠が魔力を全開まで溜めてもリアスには渡せないだろう。

雄介は神器を無効化してしまうので除外。

残りは朱乃、祐斗、ゼノヴィア、小猫。

一誠が自身を強化すると言う選択肢もあるが、やはりどれも決定打に欠けている。

しばしの間、彼らの状況は膠着していた。

 

「雷よ!」

 

その時、朱乃が天雷をコカビエルに落とした。

 

しかし、彼女の雷はコカビエルの黒き翼の羽ばたきで儚く焼失してしまう。

 

「俺の邪魔をするか、バラキエルの力を宿すものよ!」

 

「私をあの者と一緒にするなッ!」

 

突然出てきたバラキエルという名。

コカビエルと同じ、堕天使の幹部の一人であり、“雷光”の二つ名を持つ雷の使い手である。

単純な戦闘力では、堕天使の総督であるアザゼルに匹敵すると聞く。

先ほどの会話からして、バラキエルは朱乃の…。

朱乃の激昂に、コカビエルは哄笑をあげる。

 

「まさか悪魔に堕ちていたとはな!まったく、愉快な眷属を持っているな、リアス・グレモリーよ!赤龍帝、聖剣計画の生き残り、バラキエルの娘。ハハハ!お前も兄に負けず劣らずのゲテモノ好きのようだ!」

 

「兄の、我らが魔王への暴言は許さない!そして何よりも、私の下僕への侮辱は万死に値するわッ!」

 

「ならば滅ぼしてみろ!魔王の妹!紅髪の滅殺姫よ!」

 

リアスの怒りの叫びを鼻で笑うコカビエルの挑戦的な物言いに全員が覚悟を決める。

最初に祐斗とゼノヴィアが駆け出した。

先に斬りかかるゼノヴィアに、コカビエルは光の剣を創り出し迎え撃つ。

 

「さすがはデュランダルというべきか。一度壊れたエクスカリバーとは違い、こちらの輝きは本物だ!しかぁしッ!」

 

波動を放つコカビエルがゼノヴィアを宙に浮かし、彼女の腹部に蹴りを入れた。

 

「所詮は使い手次第。娘!お前ではまだデュランダルは使いこなせんよ!先代の使い手はそれはそれは常軌を逸するほどの強さだったぞ!」

 

ゼノヴィアは空中で体勢を立て直し、地面にうまく着地すると、再度駆け出す。

今度は祐斗も合わせて斬り掛かる。

 

「コカビエル!僕の聖魔剣であなたを倒す!もう誰も失うわけにはいかないんだ!」

 

「ほう!聖剣と聖魔剣の同時攻撃か!おもしろい、来い!それくらいでなければ俺は倒せんぞッ!」

 

コカビエルは2本目の光剣を手に、2人の剣戟を捌いていく。

どうやら剣の技量でもコカビエルのほうが上のようだ。

 

「そこ!」

 

「はあっ!」

 

コカビエルの後方から小猫と雄介が殴りかかるが、

 

「甘いわ!」

 

黒い翼が刃物と化し、雄介と小猫を容赦なく斬り刻んだ。

生身の小猫は体から鮮血を噴き出していた。

 

「雄介君!小猫ちゃん!」

 

「よそ見をしてる場合か!」

 

コカビエルが一瞬の隙が生まれた祐斗に光剣を振るう。

 

「なっ!?」

 

驚く祐斗の目前で、競り合う聖魔剣にひびが入っていた

聖剣や魔剣といった類の剣の堅強さは持ち主の意志次第なのである。

持ち主の集中力が一瞬でも途切れれば、その間だけ硬度が減少してしまうのだ。

 

「カアッ!」

 

虚を突かれた一瞬にコカビエルは全身から衝撃波を放ち、祐斗とゼノヴィアはなす術もなく吹き飛ばされてしまった。

肩で息をしながら体制を整える中で、改めて実力の差を思い知る。

しかし、弱気になっている場合ではない。

この戦いに勝たなければ、彼らに待っているのは“死”だけなのだ。

視界の端を見やると、地面に倒れる小猫のもとに一誠とアーシアが駆け寄る。

アーシアが神器を発動し、小猫の傷を癒し始めた。

これで一命は取り止められるだろう。

内心で安堵していると、不意にアクセルを吹かす音が耳に届いた。

視線を向けると、トライゴウラムに駆る雄介がコカビエルに迫っていた。

しかし、そのすれ違いざま、コカビエルに光剣で斬りつけられた。

 

「がああッ!?」

 

クウガの赤い成体装甲が火花を散らし、雄介の体が宙を舞う。

さらには地面を転がる際に変身が解けてしまっていた。

 

「雄介!」

 

「雄介くん!」

 

痛みが走る傷を手で押さえ、口の端から血を滲ませる雄介にリアスと朱乃が駆け寄った。

 

「まだだ!聖魔剣よ!」

 

再度聖魔剣に力を込めた祐斗は、コカビエルの周囲に聖と魔のオーラを放つ刃を出現させた。

これで相手の動きを制限できる。

あとは一気に攻めたてるのみ。

 

「これで囲ったつもりかぁッ!」

 

不敵な笑みで叫喚するコカビエルは10の黒翼を刃へと変え、周囲の聖魔の刀身を砕いた。

飛び散る刃の破片を潜り抜ける祐斗が斬りかかるが、コカビエルは動じることなく聖魔剣を右手の人差し指と中指で受け止めた。

受け止められた聖魔剣はぴくりとも動かせないでいる。

咄嗟に2本目の聖魔剣を振るうも、それも左手の2本指で止められてしまった。

だが、尚も食らいつく祐斗は口に3本目の聖魔剣を創造し、勢いよく首を振る。

さすがに3度目の斬撃を予想してなかったのか、コカビエルは後方に退いた。

咄嗟に確認すると、コカビエルの頬に一本の薄い切り口が走っていただけだった。

今の攻撃でも、その程度のダメージしか与えられなかったことに愕然としてしまう。

 

「どうした?これで終わりか?」

 

コカビエルが腕を天高く掲げると、はるか上空に発生した無数の光の槍が雨のように飛来した。

 

「「「グアアアアアアアアアアッ!」」」

 

「「「「「キャアアアアアアアアアアッ!」」」」」

 

轟く爆音に悲鳴が重なる。

大地を振るがす震動と大気を震わす衝撃に全員が宙を舞い、地に堕ちる。

 

「こんなものか…」

 

地に伏せる姿を見て、退屈そうにコカビエルは嘆息を漏らした。

舞い上がる砂煙に咳き込み、口内を這う血と砂の味の刺激にみんなが希望を失いかけていた。

 

「まだだ…」

 

だが不意に、雄介の声が聞こえた。

見れば、苦悶の表情を浮かべながらも立ち上がる雄介がいた。

 

「絶対に、あきらめない。負けるわけには、いかないんだ…」

 

絶望的な現実に全員が諦めかける中で、雄介一人だけがその瞳に光を失っていなかった。

そんな中で、余裕の顔を晒すコカビエルは苦笑を浮かべながら口を開いた。

 

「しかし、仕えるべき主を亡くしてまで、おまえたち神の信者と悪魔はよく戦う」

 

突然のコカビエルの謎の発言に全員が眉を顰めた。

 

「…どう言う、こと?」

 

怪訝そうな口調でリアスが訊く。

その反応にコカビエルはまるで無知な者を見下すかのように、盛大に高笑いをあげた。

 

「フハッ、フハハハハハハハハハッ!そうだ!そうだったな!お前たち下々まであれの真相は語られてなかったな!ならば冥土の土産に教えてやるよ!先の三つ巴の戦争で四大悪魔だけでなく、神も死んだのさ!」

 

『―ッ!?』

 

その言葉に全員が耳を疑った。

 

「知らなくても当然だ。神が死んだなどと誰が言える?先ほどバルパーが気付いたようだが、3大勢力の中でもこの真相を知るのはトップと一部の者たちだけなのだからな」

 

全員信じられないという様子で固まっている。

一瞬、コカビエルの視線が雄介を捉えたような気がした。

 

「さらに言えば、神を殺したのは魔王ではなく、たったひとりのバケモノだったのだよ」

 

「なん、…だとッ!?」

 

さらに突きつけられた新事実に、特にゼノヴィアが強く反応した。

コカビエルはさらに淡々と語り続ける。

 

「我らの三つ巴の大戦時、二天龍の激突とは別に、それらとは比べものにならないほどの戦いを繰り広げる者たちがいた。神はその片割れに殺されたのだ。当時、我々は畏怖の念を込めてこう呼んだ。“神殺し”。…とな」

 

「神、殺し…」

 

雄介がゆっくりとその言葉を反芻する。

無意識にリアスに視線を向けるが、本人も訳が分からないのか、ただ首を横に振るだけだった。

 

「おい、ドライグ!どういうことだ!?あいつが言ってることは本当なのか!?」

 

一誠が声を荒げて神器に宿るドライグに問うていた。

 

『…すまない、相棒。実は、よく覚えていないのだ』

 

「覚えてないって…、はあ!?」

 

『むぅ…。魂を神器に封じ込められたせいなのか、どうも当時の一部の記憶が曖昧で思い出せないのだ』

 

申し訳なさそうなドライグが声を発する。

 

「俺も一度だけ神殺しの姿を見たことがある。その時奴はすでに悪魔、天使、堕天使の他に、様々な種族たちの数百万という命を滅ぼしたあとだったがな。憎たらしいくらいに妬ましかったが、さすがの俺もあの時は逃げることしかできなかった」

 

当時の記憶を思い返すコカビエルは静かに拳を握りしめ、忌々しげに顔を歪めている。

みんなはコカビエルが告げた驚愕の事実に放心状態となっていた。

 

「…ウソだ。…ウソだ…」

 

「…主はいないのですか?主は…死んでいる?では、私たちに与えられる愛は…」

 

少し離れたところで、項垂れるゼノヴィアとアーシアの姿があった。

今まで信じてきた存在が否定されたのだ。

神に仕えることを使命として生きてきた信徒故、厭世的になるなというほうが無理だろう。

その精神的ダメージは計り知れなかった。

 

「そうだ。神の守護、愛はなくて当然なんだよ。神はすでにいないのだからな。ミカエルはよくやっているよ。神の代わりに天使と人間をまとめているのだからな。ただ、そこの聖魔剣の小僧が聖魔剣を創り出せるのも聖と魔のバランスを司る神と魔王がいないからこその特異な現象なのだがな」

 

コカビエルの言葉を聞き、ついにアーシアはその場にくずおれた。

 

「アーシア!アーシア、しっかりしろ!」

 

一誠が彼女を抱え、呼び掛けるが、当の本人は唇を小刻みに震わせ上手く発声できないでいた。

 

「正直に言えば、もう大きな戦争など故意にでも起こさない限り、再び起こることはない。それだけ、どの勢力も先の戦争で泣きを見たのだ。お互い争い合う大元である神と魔王が死んだ以上、継続は無意味だと判断しやがった。おまけにアザゼルの野郎も戦争で部下のほとんどを亡くしたせいか『二度目の戦争はない』と宣言しやがった。一度振り上げた拳を下ろすだと?はっ、ふざけるなッ!あのまま続けていれば、俺たちが勝っていたかもしれないのだ!それを奴は、奴はッ!」

 

憤怒の形相で強く持論を語るコカビエルだった。

 

「うわあああああああああああああっ!」

 

「ゼノヴィア!?」

 

そんな時、錯乱したように発狂するゼノヴィアが駆け出した。

慌てて祐斗が叫ぶが、彼女がその足を止めることはなかった。

怒りにまかせてゼノヴィアはデュランダルを振るうが、コカビエルはつまらなそうに光剣で払い、彼女の首を締め上げた。

 

「グぁうッ…」

 

苦しげに顔を歪めるゼノヴィア。

必死にもがいて振りほどこうとするが、さらに力を籠められ嗚咽を漏らしている。

 

「俺はこれを機に戦争を始める!われら堕天使こそが最強だと愚かなサーゼクスに、ミカエルに見せつけてやるのだ!…だがまずはその前に、俺の邪魔をしようとしたお前たちのために、この娘には見せしめになってもらおう」

 

そう言って、コカビエルは光剣をゼノヴィアに突き付けた。

 

「や、やめろおおおおおおおおおおッ!」

 

それを見た雄介の叫びも虚しく、コカビエルは狂った笑みを浮かべていた。




先週の木曜日にようやくスーパーヒーロー大戦Zを観に行きました。
いや~、ツッコみどころ多すぎてある意味面白かったです(笑)

そして次回、ようやくディケイドだします。

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