仮面ライダークウガ 青空の約束   作:青空野郎

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EPISODE32 聖歌

真夜中の世界に煌々と輝く月が雄介と鳴滝の姿を照らしていた。

 

「あなたは…?」

 

「私は鳴滝。安心したまえ。キミに危害を加えるつもりはない」

 

雄介の問いに鳴滝は真意の読めない笑みを浮かべて答えた。

 

「はあ…」

 

敵意はないといわれても、気を抜けば鳴滝から放たれる怪しげな雰囲気に呑まれそうな感覚を覚え、雄介は警戒心を拭えないでいる。

 

「事態は急を要しているようだからさっそく本題に入らせてもらおう。五代雄介君。私と取引しないかね?」

 

「取引?」

 

「キミの返答によっては、私はコカビエルを止めるだけの力を提供する、ということだ」

 

「コカビエルを、止める?」

 

予想外の鳴滝の言葉に、雄介は思わず怪訝な声を漏らす。

そして、次に鳴滝が提示した条件に雄介は驚愕を覚えた。

 

「約束しよう。その代わりに、キミにはディケイドを倒してもらいたい」

 

「ディケイド…士さんを?」

 

「その通りだ」

 

怪訝な様子を浮かべる雄介に、鳴滝はさらに続けた。

 

「ディケイド今までに数多のライダー倒し、そのすべてを破壊してきた『悪魔』だ。その『悪魔』を倒せるのは、同じライダーであるキミだけなのだよ。このまま奴を野放しにしておけばこの世界も、いや、いずれ奴がこれから旅するすべての世界が破滅の一途を辿ることになるのだ」

 

今まで憮然と語っていた鳴滝だったが、だんだんとその表情が険しくなっていく。

 

「キミが今戦うべき敵はコカビエルではなく、ディケイドなのだよッ!」

 

鳴滝がディケイドの名を口にする度に押さえ込んでいた怒りが滲み出ているのがわかった。

躊躇のない叫びが夜の世界に響き、再び鳴滝は得意げな様子で怪しげな笑みを作った。

 

「…」

 

対し、鳴滝の話を清聴していた雄介は静かに瞑目した。

暗い静寂の中で、呼吸する音と心臓の鼓動がよく聴こえる。

やがて、ゆっくりと双眸を開き、口元を綻ばせながらその口を開いた。

 

「俺は士さんと戦うつもりはありません」

 

「何…?」

 

雄介の言葉に、初めて鳴滝はディケイドへの憎悪以外の感情で表情を歪めた。

 

「士さんはそんなことを望むような人じゃありませんよ」

 

あの日、あの時、雄介は確かに門矢士の硝子玉のような瞳の奥に宿る不屈の強さと純粋な優しさを見た。

 

「それに、もし仮にあなたの言うとおり士さんが世界を滅ぼす存在だとしても、それはまた別の問題です。今は、目の前で誰かの笑顔が奪われようとしてるんです」

 

「キミは今のために世界を捨てる気なのか?例えコカビエルを倒せたとしても、奴が訪れた以上、この世界が滅ぶ運命は変わらないのだぞ」

 

「なら、またその時に考えます。だから俺は、今もこれからも世界よりみんなの笑顔を守るために戦います」

 

そして、己を縛る枷を断ち切るように、雄介は決意を込めて高らかに言い放った。

 

「俺が戦うべき相手は、俺が決めます!」

 

それを最後に雄介は仲間の元へ向かうために、夜の道を駆けていった。

鳴滝は闇夜に消えていく雄介の背中を見つめながら忌々しげに呟いた。

 

「…愚かな」

 

もちろん、その言葉を聞いた者はいない。

ただ、闇夜の世界に静かに溶けていくだけだった。

 

                      ☆

 

リアスは祐斗以外の眷属とともに駒王学園に突入していた。

学園の外ではソーナ率いるシトリー眷属が被害を最小限に抑えるために結界を張ってくれている。

今回のリアスたちの役割は時間稼ぎ(オフェンス)

相手は伝説に名を馳せる規格外の存在。

故に必然的にリアスの兄である魔王サーゼクス・ルシファーに協力を要請することになったのだ。

サーゼクスの加勢が到着するまでの1時間の死戦を生き延びることがリアスたちの課題(ノルマ)

正門から堂々と学園の敷地内に足を踏み入れてすぐ、リアスたちは目の前には異様な光景が広がっていた。

校庭の中央に4本の聖剣が神々しい光を放ちながら宙を浮いている。

丁度、校庭全体に描かれた怪しげな魔法陣の中央にバルパー・ガリレイがいた。

 

「なんだよ、これ…」

 

「4本のエクスカリバーをひとつにするのだよ」

 

絞り出すような声音で一誠の口からこぼれた疑問にバルパーが答えた。

 

「バルパー、あとどれくらいでエクスカリバーは統合する?」

 

上から聞こえた声に視線を向けた時、宙に浮く椅子に座り、こちらを見下ろすコカビエルの姿があった。

 

「5分もいらんよ」

 

「そうか。では、頼むぞ」

 

コカビエルはバルパーからリアスに視線を移して訊ねた。

 

「結局、サーゼクスが来るのか?それともセラフォルーか?」

 

「お兄様とレヴィアタン様の代わりに私たちが―」

 

ドォォォオオオオンッ!

 

リアスの言葉は突然轟いた爆音にかき消された。

辺り一帯に広がる爆風に耐えながらその発信源に目を向けた時、思わず言葉を失ってしまった。

本来、リアスたちが認める場所にあるのは体育館なのだが、今はその影も形もなくなっていた。

 

「つまらん。…まあいい、余興ぐらいにはなるか」

 

体育館のあった場所には巨大な光の柱が突き刺さっていた。

すぐに、それはコカビエルが放った光の槍だと悟る。

改めて、リアスたちは今までの敵との次元の差を知った瞬間だった。

コカビエルは突き付けられる現実に度肝を抜かしているとリアスたちを一瞥しながら吐息した。

 

「さて、地獄から連れてきた俺のペットと遊んでもらおうかな」

 

コカビエルが指を鳴らすと、暗闇の奥からズシンズシンと地響きを立てながら現れ出でる存在がいた。

10メートルはあろう黒い巨体、闇夜に鈍く血のような真紅の輝きを放つ双眸に背筋が凍るほどに凶悪極まりない牙をむき出しにする犬の様な頭部を持つ3つ首の獣。

 

オオオオォォォォォォォォォォオオオオオオンッ!

 

牙と牙の間から白い息を漏らしながら3つの首が同時に辺り一帯を震わせるほどの咆哮にリアスが忌々しげに呟く。

 

「ケルベロス…!」

 

「ケルベロス?」

 

「ええ。地獄の番犬の異名を持つ有名な魔物よ。本来は地獄、冥界へ続く門の周辺に生息しているのだけれど、まさか人間界に持ち込むなんて!」

 

「それって、やっぱりヤバいんスか?」

 

一誠の質問にリアスは臨戦態勢を取りながら答えた。

 

「かなりのレベルでね。でもやるしかないわ!消し飛ばすわよ!」

 

「はい、部長!!いくぜ、ブーステッド・ギア!」

 

【BOOST!】

 

ブーステッド・ギアを発動し、気合を入れる一誠に、リアスが言う。

 

「イッセー、私たちはあなたのフォローに回るわ」

 

「力をためて、俺がトドメってことですか?」

 

「いいえ、あなたにはサポートに徹してもらうわ。高めた力を仲間に譲渡するの。ブーステッド・ギアはあなた自身をパワーアップさせる神器であると同時に、チーム戦でメンバーの力を飛躍的に上昇させるものでもあるわ」

 

「わかりました!」

 

一誠の返事を聞いて、リアスは朱乃とともに翼を広げて空へ舞った。

それを見て威嚇を向けていたケルベロスの首のひとつがリアスに向かってゴウッ、と炎を吐いた。

 

「甘いですわ」

 

しかし朱乃が前に入り、瞬時に炎を凍らせた。

 

「くらいなさい!」

 

入れ替わるようにリアスが滅びの一撃を炸裂させた。

しかし、迎え撃つように今度は別の首が火炎弾を放つ。

リアスの魔力弾とケルベロスの火炎弾が周囲に衝撃を散らしながら空中で激しくぶつかり合う。

すると、その間に3つ目の首が三度火炎弾を放ち、リアスの一撃に押されそうだった火炎弾を後押しした。

炎の勢いが一層に増し、さすがのリアスの魔力弾も押され気味になっている。

そこに、追い打ちをかけるように、ケルベロスはさらにもう一撃放とうと、鋭い牙がのぞく口から炎を漏らしていた。

 

「隙あり」

 

だがそれは横から飛び込んできた小猫の拳打によって阻まれた。

 

「さらにもう一撃ですわ!」

 

朱乃が指先を天に向けると夜空に稲光が走る。

そのまま指先を振り下ろすと一瞬の閃光の後、激しい雷撃がケルベロスに襲来した。

動きが止まったそこに、ダメ押しにリアスの魔力弾が加わった。

しかし、その一撃でケルベロスが消滅することはなかった。

やはり、火炎弾との衝突で威力のほとんどを削られてしまったようだ。

確かに魔力弾が直撃したケルベロスだが、依然としてその眼光は鋭い光を放っている。

 

グルルルルルルル…

 

目の前の光景に戦慄を受ける一誠がまだ限界まで高まっていない倍化に歯噛みをしていると背後から危険な唸り声が聞こえてきた。

恐る恐る振り返ると、やはりそこにいたのは2匹目のケルベロスだった。

 

「もう1匹いるのかよ!」

 

ガルォアァッ!

 

咆哮をあげながらケルベロスはそのまま一誠とアーシアのもとへ向かって駆け出した。

残念なことに、ブーステッド・ギアには倍化中に攻撃をしかけると倍化がリセットされてしまうという弱点がある。

つまり、今の一誠には逃げの一手しかないことになるのだ。

アーシアを抱えて逃げようかと考えていると、

 

「イッセー!構わずに1度自分の力を高めなさい!」

 

と、リアスが倍化使用の許可を出した。

情けないと思うと同時にもったいないと思いながらも、致し方ないと決心した時だった。

 

ズバァッ!

 

突然、向かってきたケルベロスの首の1つが宙を舞った。

塵となって散っていく首が、斬りおとされたものだと分かった時に目の前に現れたのは、長剣のエクスカリバーを振るうゼノヴィアだった。

 

「加勢に来たぞ」

 

いうないなやゼノヴィアは駆け出し、首をひとつ失って絶叫を上げるケルベロスの胴体を斬りつけた。

破壊力のある一振りに、ケルベロスの胴が一刀両断される。

 

「これが魔物に無類のダメージを与える聖剣の一撃だ!」

 

そしてトドメとばかりに煙が上がる胸元に聖剣を深く突き刺すと、ケルベロスは灰塵と化して宙へ霧散していった。

すると、思わずその鮮やかな手並みに見とれていた一誠にその時が来た。

 

「部長!朱乃さん!やっとケルベロスを屠れるほどの力が溜まりました!」

 

それを聞いて、リアスと朱乃が一誠のもとへ降下する。

 

「イッセー、お願い!」

 

「はい!いくぜ!“赤龍帝からの贈り物”!」

 

【TRANSFER!】

 

リアスと朱乃の肩に手を置き、神器を発動させる一誠を介して圧倒的な力が譲渡される。

刹那、溢れ出す凄まじい魔力にリアスは不敵な笑みを浮かべ、朱乃も頷く。

 

「いけるわ。朱乃!」

 

「はい!」

 

返事をする朱乃は再び白魚のような指を天高く掲げる。

そのまま亀裂のように空に発生する雷を支配する指がケルベロスに向けられた。

ケルベロスも本能でそれを察したのか、その場から逃げる体勢をとった。

 

「逃がさないよ」

 

だが、逃げようとしていたケルベロスの四肢が地面から現れた無数の剣に貫かれた。

すでに見慣れた攻撃を放つ人物は、やはり祐斗だった。

 

「朱乃さん、今です!」

 

「天雷よ!鳴り響け!」

 

朱乃は校庭の半分以上を埋め尽くすほどの雷の柱を、魔剣によって身動きができなくなったケルベロスに落とした。

 

ドオオオオオオオオオンッ!

 

地を揺らすほどの轟音がケルベロスの絶叫を掻き消し、その体を無に帰した。

そして間髪入れずにリアスは巨大な魔力の塊をコカビエルに撃ち放った。

 

「くらえ!」

 

いつもの10倍以上の大きさを誇る滅びの魔力が宙に浮く椅子に踏ん反り返るコカビエルに迫る。

しかし、コカビエルは片手を突き出す、ただそれだけだった。

凄まじい轟音と共に拡散する衝撃波の中でコカビエルは片手でリアスの一撃を受け止めていた。

そのまま手のひらを上へ向けると、リアスの放った魔力の塊は軌道をずらされ闇夜の彼方へと消えていった。

 

「なるほど。赤龍帝の力があれば、ここまでリアス・グレモリーの力が引きあがるか。…面白い。実にお面白いぞ」

 

手のひら立ち上る煙を見ながら、コカビエルは嬉しそうに哄笑を上げる。

馬鹿げているとしか言いようのない現実に、リアスは小さく眉を寄せ、奥歯をぎりりと噛んだ刹那。

 

ガルルルル…

 

どこからともなく聞こえた、鼓膜を震わす唸り声に視線を向けると、現れたのは3匹目のケルベロスだった。

 

「まさか、3匹目!?」

 

突然のことで全員の反応は遅れてしまった。

 

ガルルアアァッ!

 

巨大な四肢に似合わない速度で駆ける先にいたのはリアスだった。

声を出す間もなく、醜悪な涎を垂らす凶悪な牙がリアスの身体を穿こうとした瞬間。

 

ドゴオオオオオオンッ!

 

けたたましい駆動音を響かせて駆けつけた存在に、ケルベロスの巨体はきれいな放物線を描きながら吸い込まれるように校舎に大きく弾き飛ばされた。

 

「お待たせしました!」

 

トライゴウラムに跨るマイティクウガがそう言った。

 

「雄介…」

 

「大丈夫ですか、リアスさん?」

 

いつの間にか地面にへたり込んでいたリアスに歩み寄る雄介が手を差し出す。

 

「え、ええ…。ありがとう。おかげで助かったわ」

 

立ち上がるリアスのもとに他のみんなも駆け寄ってくる。

瓦礫が崩れる音に視線をやると、砂塵の中に立つケルベロスのドス黒い鮮血を吹き出す脇腹には封印の古代文字が刻まれていた。

もがき苦しむように足元をふらつかせるケルベロスだが、トライゴウラムの一撃“トライゴウラムアタック”で刻み込まれた封印の文字が強く発行すると断末魔とともに爆発し、散った。

 

                      ☆

 

「あいつは、まさか…」

 

赤い戦士の姿を遠巻きに見つめているコカビエルは、不意にこころ覚えを抱いた。

ぼそりとつぶやく中で、頭の中にある情景が思い出される。

遡るは遥か太古の記憶。

立ち込める煙霧、不快を覚える血を焦がす匂いが漂う戦場。

雑駁に転がる無数の死体が灰燼となって消えていく。

それはまさに地獄とも見まごうありさまだった。

そして、煉獄の炎が揺らめく焦土と化した大地に立つ存在がひとつ。

それは…

 

「―完成だ」

 

しかし、バルパーの声でコカビエルの意識は引き戻された。

眼下では4本の聖剣があり得ないほどの光を発し始めていた。

その光景にコカビエルは拍手を送る。

 

「これで、7本にわかれたエクスカリバーの内の4本が1つになる」

 

途端に神々しい輝きが校庭全域を覆い尽くす。

あまりの眩しさの中で目を凝らして中央を見れば、4本の聖剣がひとつに重なるのが分かった。

そうして眩い光が消失した時、そこにあったのは青白い光を放つ1本の聖剣だった。

 

「エクスカリバーが一本になった光で下の術式も完成した。後20分もしないうちにこの町は崩壊するだろう。解除するにはコカビエルを倒すしかない」

 

バルパーが口にしたことに全員が絶句する。

バルパーの言葉を肯定するように校庭全域に展開された魔方陣に光が走る。

 

「フリード!」

 

「はいな、ボス」

 

コカビエルが名前を呼ぶと、暗闇の向こうからフリードが歩いてきた。

 

「陣のエクスカリバーを使え。最後の余興だ」

 

「ヘイ、了解ィ。いやいやまったく、俺のボスは人使いが荒くて困ったものですよ。でもでも?チョー素敵使用になったエクスなカリバーちゃんを使えるなんて光栄の極み!みたいな?ヒャハハ!そんじゃちょっくら、目の前のクソったれな連中どもをチョッパーしちゃいますかね!」

 

イカれた笑みを見せながら、フリードはエクスカリバーを握ると、おもむろに振り下ろした。

ブゥンッ!と空気を震わす音とともに、光を放つ刃の太刀筋で幻想的な軌跡が描かれた。

それを本能的に、瞬間的に察知した全員がそれぞれ左右に跳ぶ。

一拍遅れて、遠雷のような崩落音が響いた。

振り向くと丁度、旧校舎に向かって一直線に地面は抉られていた。

 

「そんな、私たちの部室が…」

 

両手で口元を覆うアーシアが愕然とした様子で声を漏らした。

他のみんなも怒りや悲観を作っている。

そんな中で、ゼノヴィアは祐斗に話しかけた。

 

「リアス・グレモリーの“騎士”、共同前線が生きているならばともにあのエクスカリバーを破壊しようじゃないか」

 

「いいのかい?」

 

祐斗の問いにゼノヴィアは不敵に笑った。

 

「最悪、私はあのエクスカリバーの核になっている『かけら』を回収できれば問題ない。フリードが使っている以上、あれは聖剣であって聖剣ではない。聖剣とて、普通の武器と同じだ。使うものによって場合も変わる。…あれは異形の剣だ.」

 

「くくく…」

 

2人のやり取りを見てバルパーが笑う。

 

「バルパー・ガリレイ。僕は『聖剣計画』の生き残りだ。いや、正確にはあなたに殺された。悪魔に転生したことで生き永らえている」

 

至って冷静にバルパーに告げる祐斗だが、その言葉、その目には憎悪の炎が宿っていた。

バルパーの返答次第では一触即発の状態だ。

 

「ほう、あの計画の生き残りか。これは数奇なものだ。こんな極東の地で会うことになろうとは、妙な運命を感じるよ。ふふふ」

 

人を小バカにするようなイヤな笑い方をするバルパーは突然語り始めた。

 

「私はな。聖剣が好きなのだよ。それこそ、夢にまで見るほどまでに憧れていた。幼少の頃はエクスカリバーの伝記に心を躍らせたものだ。だからこそ、自分に聖剣使いの適性がないと知った時は心の底から絶望したよ。だが、それでも聖剣への未練は捨てきれなかった。次第にその想いは高まり、聖剣を使える者を人工的に作り出す研究に没頭し始めたのだよ。そして、ついに完成した。くくく…。君たちのおかげだよ」

 

「完成?お前は僕たちを失敗作だと断じて処分したんじゃないのか?」

 

眉を吊り上げ、怪訝な様子の祐斗。

またそれは、この場にいる全員も同じだった。

だが、その思いとは裏腹にバルパーは首を横に振った。

 

「研究の過程で聖剣を使うのに必要な因子があることに気づいた私は、その因子の数値で適性を調べた。被験者の少年少女全員にその因子はあるものの、どれもこれもエクスカリバーを扱える数値を満たしていなかったのだ。そこで私はひとつの結論に至った。ならば、因子だけを抽出し、集めることはできないか?とな」

 

「なるほど。つまり聖剣使いが祝福を受ける時、体に入れられるのは…」

 

「そうだ、聖剣使いの少女よ。持っている者から聖なる因子を抜き取り、結晶を作ったのだ。こんな風にな」

 

そう言って、バルパーは懐から聖なる光りが迸る球体を取り出した。

 

「これにより、聖剣使いの研究は飛躍的に向上したよ。それなのに教会の者どもは私から研究資料を奪い、挙句の果てに私だけを異端として排除したのだ。貴殿を見るに、私の研究は誰かに引き継がれているようだ。ミカエルめ。あれだけ私を断罪しておいて、その結果がこれか。まあ、あの天使のことだ。被験者から因子を抜き出すにしても殺すまではしていないか。その分だけは私より人道的と言えるか」

 

皮肉めいて愉快そうにバルパーは笑う。

 

「要するに、お前は聖剣適性の因子を抜くために、同志たちを殺したのか?」

 

祐斗の言葉に一層殺気が増した。

 

「そうだ。これはその時のものだ。3つほどフリード達に使ったがね。これは最後のひとつだ」

 

「ヒャハハハハ!俺以外の奴らは途中で因子に体がついていけなくて死んじまったけどな!うーん、そう考えると俺様はスペシャルだねえ」

 

なるほど、と合点がいった。

やはり現時点でも聖剣使いを人工的に生み出すためには犠牲を払わなければならないらしい。

祐斗もゼノヴィアもバルパーの研究から始まった因果に巻き込まれたということだ。

 

「バルパー・ガリレイ…!自分の欲望のために一体どれだけの命をもてあそんできたというんだ…」

 

声を絞り出す祐斗の手が震え、怒りから生み出される魔力のオーラが身体を纏う。

 

「ふん。そこまで言うのならば、この因子の結晶は貴様にくれてやる。なに、すでに環境さえ整えれば量産できる段階にきているからな」

 

は興味を無くしたかのように鼻を鳴らすバルパーは因子の結晶を宙に放り投げた。

ころころと転がる結晶はやがて祐斗の足元に行き着いた。

祐斗は静かに屈み込み、それを手に取ると、哀しそうに、愛おしそうに、懐かしそうに結晶を撫でる。

 

「みんな…」

 

祐斗の頬を涙が伝い、悲哀と憤怒の表情を浮かべていた。

その時だった。

落ちる涙が結晶の上で弾けると、淡い光を放ち始めた。

光は徐々に拡大していき、やがて校庭全体を包む。

校庭の各所から光がポツポツと浮かび、それは人のカタチを成していった。

 

「どうやらこの戦場に漂う様々な力が因子の球体から魂を解き放ったのですね」

 

思わず眼前に広がる幻想的な光景に見とれていると、隣にいた朱乃が説明してくれた。

祐斗は彼らを見て懐かしそうに、哀しそうに口を開く。

 

「皆!僕は…僕は!」

 

彼らが聖剣計画で処分された者たちだということはすぐに理解できた。

 

「ずっと、…ずっと思っていたんだ。僕が、僕だけが生きていていいのかって…。僕よりも夢を持った子がいた。僕よりも生きたかった子がいた。僕だけが平和な暮らしを過ごしていてよかったのかって…」

 

悲痛に叫ぶ祐斗に霊魂の一人が微笑みながら優しく訴える。

 

『自分達のことはもういい。キミだけでも生きていてくれ』

 

思いが伝わったのか、祐斗の双眸からさらに涙があふれた。

すると、魂たちは口をパクパクとリズミカルに同調させ、歌いだした。

 

「…聖歌」

 

アーシアがそう呟くのが聞こえた。

祐斗も涙を流しながら聖歌を口ずさみだす。

それは彼らが辛い人体実験の中で唯一夢と希望を繋ぎ止める手段。

それは過酷な生活の中で唯一知った生きる糧。

聖歌を歌う魂たちと祐斗は幼子のような、純粋無垢な笑顔に包まれていた。

刹那、魂たちが青白い光を放ち、祐斗を中心に眩く輝く。

 

『僕らは、一人では駄目だった―』

 

『私たちは聖剣を扱える因子が足りなかった。けど―』

 

『皆が集まれば、きっとだいじょうぶ―』

 

彼らの歌声に友を、同志を、仲間を思う温かさを感じた。

 

『聖剣を受け入れるんだ―』

 

『怖くなんてない―』

 

『たとえ、神がいなくても―』

 

『神が見ていなくても―』

 

『僕たちの心がいつだって―』

 

「―ひとつだ」

 

魂たちが天にのぼり、ひとつの大きな光となって祐斗のもとへ降りてくる。

そして、やさしく神々しい光が祐斗を包み込んだ。

神器は所有者の想いを糧に変化と進化を繰り返す。

だが、所有者の想いが、願いが、この世界に漂う“流れ”に逆らうほどの劇的な転じ方をした時、神器はまた別の領域に至る。

それこそが、“禁手”。

その時、闇夜の天を裂く光が祐斗を祝福しているかのように見えた。

 




5月に発売される、『仮面ライダー・バトライドウォー』のPVを見て、マジ興奮しました。
絶対買います!
PS3持ってないからまとめて買います!

この小説を執筆する際に、クウガに関する資料を閲覧するのですが、その時にふと、いまさらながらひとつ疑問を抱きました。
それは、「本編の先代クウガはアルティメットフォームになったのか?」ということです。
そう考えた根拠は2つ。
1つ目はゴウラムについて。
ゴウラムには、クウガがアルティメットフォームになって理性を失い暴走すると、砂となって消滅するという設定があるらしいのですが、実際は破片として遺跡から発掘されました。
2つ目はバルバが言った一言、「今度のクウガはやがてダグバと等しくなるだろう」について。
「今度は」という言い回しはまるで、先代のクウガはアルティメットフォームになることはなかったということになるのでは、と違和感を覚えました。
…本当に今更なんですが、皆さんはどう思われます?

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