仮面ライダークウガ 青空の約束   作:青空野郎

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EPISODE31 接触

時間稼ぎと言ったが、そのつもりは毛頭なかった。

雄介が動き出したのを見て、最初に戦闘員たちも駆け出した。

お互いの距離は縮まるのに時間はかからなかった。

雄介はまずは目の前のマスカレイドに一撃を入れた。

すぐ次に別のマスカレイドの腹部に左ブローを叩き込み、ひるんだところを顔面に一発。

今度はゾンビのような動きでクズヤミーが襲いかかってきたが軽く受け流して蹴りを叩き込んだ。

クズヤミーの体が吹っ飛び、後ろにいた他の戦闘員たちが巻き込まれた。

続いてダスタードが忍者刀を振るってくる。

雄介は腕と襟元を掴んで腹部に膝蹴りを入れた刹那にアッパーを決めた。

するとダスタードの体はきれいな放物線を描きながら宙を舞い、腹這いの状態で地面に激突した。

だがその矢先に別のダスタードたちが軽やかな身のこなしで得物の刃が雄介に向けてきた。

複雑に絡み合う放物線をギリギリのタイミングかわしていく雄介は体を捻りながら跳躍し、回し蹴りを放った。

着地したところを狙ってマスカレイドやクズヤミーが集まってきたが、再び跳躍、素早く体を逆方向に捻りながらの回し蹴りで蹴り飛ばした。

殴りかかってきたマスカレイドの攻撃をバク転でかわし、振り切った足払いで地面に倒す。

トドメに空中で前転し、踵落としを腹部に決めて叩きのめした。

だが、息をつく間もなくクズヤミーに背後から抱きつかれてしまい、動きを封じられてしまった。

もがく雄介にダスタードが迫るが、刀を持つ腕ごと蹴りあげられ、がら空きになった腹部を蹴りつけられた。

ダスタードはまっすぐな直線を描きながら勢いよく後方の電柱に体を打ち付ける。

そして、クズヤミーの拘束を強引に振りほどいた雄介は胸部に肘打ちを叩き込み、素早くその体を一気に背負い投げた。

振り向きざまにマスカレイドに裏拳を決めたところに迫りくるダスタードの突きをかわした後、一教でその腕を掴み脇腹に再び肘打ちの一撃を入れ、回し蹴りで決める。

直後にクズヤミーと取っ組み合いになるも、その状態のまま壁に叩きつけ、動きを止めた。

その一瞬に腹部に拳を叩き込み、体勢が崩れたところを殴り飛ばした。

そんな具合で戦闘員たちを薙ぎ倒していくと、とうとう怪人たちが動き出した。

最初にカマキリヤミー。

雄介に肉薄するカマキリヤミーの鎌が緑色の軌道を描く。

ダスタードの刀よりも鋭利な斬撃が次々と襲ってくるが、雄介は直感に従った動きですべて紙一重でかわしていく。

隙をついて背後に回り込み、背中を蹴りつけると今度はオリオンゾディアーツが迫る。

巨大な棍棒を振り回し、雄介を追い詰める。

空気を震わすほどの一撃を雄介が捌いていく度に、地面や壁が大きく抉られていく。

棍棒ばかり意識を向けていたせいか、不意に蹴りを叩き込まれそうになった。

わずかに反応が遅れ、雄介は腕をクロスさせ咄嗟に防御の姿勢をとったが、予想よりもはるかに重い衝撃に雄介の体は大きく吹っ飛んだ。

そして地面を転がり、立ち上がったところに追い打ちをかけるようにマグマドーパントが火山弾を、カマキリヤミーが斬撃を、オリオンゾディアーツがエネルギー弾を飛ばしてきた。

あっという間に雄介は炎上する爆炎に飲み込まれた。

3体の怪人たちは狂った獣のような双眸で立ち上る煙を見つめていた時だった。

 

「変身!」

 

煙の向こうからクウガ・マイティフォームに変身した雄介が飛び出してきた。

現れた赤い戦士に、怪人たちも迎撃に向かい出る。

雄介はオリオンゾディアーツが放つ棍棒攻撃を掻い潜り、マグマドーパントに蹴りを放った。

おしくも初撃は防がれてしまったが、すぐに体を時計回りに回転させた勢いに乗せて蹴り飛ばした。

次にカマキリヤミーが両手の鎌で斬りつけてきたが、バックステップを踏みながら器用にかわしていき、鎌を振り回す腕を籠手で止めて鳩尾にブローを一発かました。

カマキリヤミーが痛みで一瞬悶絶した隙に肘鉄を決め、さらに体を捻って顔面を殴りとばした。

地面を転がるカマキリヤミーと入れ替わるように今度はオリオンゾディアーツが襲ってきた。

雄介は大きく振り下ろされる棍棒の一撃を掌で弾いて、すかさず殴りつけた。

だが、残念ながら盾で止められてしまい、次の瞬間には棍棒のカウンターがクウガの生体装甲に放たれた。

鈍い音ともに、内臓にまで響くようなすさまじい衝撃が雄介を襲った。

さらに追い打ちをかけるように再びオリオンゾディアーツが棍棒を振り下ろしてきた。

咄嗟に雄介は体を反らしてギリギリのタイミングでかわし、盾を蹴りつけて後方に跳躍した。

距離を取った雄介は足元に落ちていたダスタードの短刀を手に取り、一気に駆け出した。

それに対しオリオンゾディアーツは雄介を叩き潰さんと言わんばかりの勢いで棍棒を振り上げたが、雄介の方が早かった。

 

「超変身!」

 

紫の瞳、紫のアマダム、紫のラインが走る銀鋼の鎧で纏われた、クウガ・タイタンフォームに超変身した雄介はタイタンソードを相手の鳩尾めがけて突き刺した。

タイタンソードの刀身がオリオンゾディアーツの鎧を貫いたのは感覚で分かった。

 

「ゴオオオ…ォォォオオオオッ!」

 

カラミティタイタンで送り込まれる封印エネルギーがその身の中で爆ぜ、火花を散らせながら壮絶な悲鳴をあげながらオリオンゾディアーツは爆発した。

しかし一安心したのもつかの間、今度は背後から迫るカマキリヤミーの殺気を察知した。

振り向きざまに鎌をタイタンソードで受け止めた雄介はがら空きになった腹部に掌底を食らわせた。

大きく仰け反るもなお、再び迫りくるカマキリヤミーを見て、雄介はタイタンソードを投げ捨て、叫ぶ。

 

「超変身!」

 

緑を基調とした生体装甲の姿、クウガ・ペガサスフォームに変わった雄介の超感覚がカマキリヤミーの動きを、呼吸を、気配を完全に捉える。

まるでスローモーションのような速度で振り下ろされる鎌を、手にしたペガサスボウガンで難なく弾き返し、雄介はカマキリヤミーの身体を踏み台に一気に駆け上った。

空中で後転しながらペガサスボウガンの標準を定め、トリガーを引いた。

 

「ジャァ、ギャアアアアアアアッ!」

 

ブラストペガサスを撃ち込まれた胸を抑えるカマキリヤミーは苦悶の表情を浮かべ、爆音を轟かせて消滅した。

 

「超変身!」

 

再度雄介はマイティフォームに戻ると、残ったマグマドーパントと対峙する。

怒り狂った様子で身体を上下させるマグマドーパントを見据えながら雄介はマイティキックの構えを取った。

 

「はッ!」

 

数瞬の沈黙を破り、雄介は力強く走り出した。

マグマドーパントが火山弾を飛ばしてくるが、臆することなく雄介は炎上する道を駆け抜け、暮れなずむ空に向かって飛び上がる。

 

「だあああああッ!」

 

そのまま必殺の一撃、マイティキックをマグマドーパントに放った。

 

「グロオオオオオオオオオッ!」

 

地面を跳ねながら横転するマグマドーパントがよろよろと立ち上がるが、最終的にその身に刻まれた封印の古代文字が発光し、轟音と共に爆発を起こしてこの世から屠られた。

 

                      ☆

一方、祐斗、一誠,小猫、匙がフリードと戦闘を行っている場所は周囲が魔剣の刃が生え並ぶ空間となっていた。

祐斗は“騎士”の速度で咲き乱れる刃を足場にして縦横無尽に魔剣の世界を駆け回る。

その際に足場に利用した魔剣をフリードめがけて抜き放った。

四方八方から無数の魔剣がフリードに迫っていく。

 

「うはっ!これは面白いサーカス芸だね!この腐れ悪魔がァッ!」

 

しかし、狂気の表情を浮かべるフリードは的確に飛んでくるすべての魔剣を打ち落としていった。

 

「俺様のエクスカリバーは『天閃の聖剣(エクスカリバー・ラピッドリイ)』!速さだけなら負けやしないんだよッ!」

 

フリードの持つ聖剣の切っ先がブレだし、ついには消えた。

それだけの速度で聖剣が動いているということだ。

やがて、周囲の魔剣をすべて破壊し尽くしたフリードが祐斗に斬りかかる。

 

バキィィィンッ!

 

破砕音を立てて、祐斗が両手に持っていた魔剣が粉々に砕け散った。

 

「死・ネ!」

 

フリードの凶刃が無防備になった祐斗に振り下ろされそうになった時、

 

「やらせるかよ!」

 

そう叫んだ匙が、手の甲にかわいらしくデフォルメされたトカゲの頭部を装着した。

その口元から黒いベロを飛ばし、フリードの右足に巻きつけ、間髪入れずに引っ張った。

当然、ベロと繋がっているフリードの体勢が崩れた。

 

「このッ…うっぜぇッ!」

 

咄嗟にフリードが聖剣でベロを斬り払おうとしたが、実態がないかのようにその刃はすり抜けた。

すると、匙とフリードを繋ぐトカゲのベロが淡い光を放ち始め、フリードから匙の方向に流れて行った。

 

「クッソ!このベロ、斬れないだけじゃなく俺様の力まで吸い取っていやがるのか!?」

 

初めてフリードが忌々しげな表情を見せた。

 

「どうだ!これが俺の神器『黒い龍脈(アブソーブション・ライン)』だ!こいつに繋がれた以上、お前さんの力は俺の神器に吸収され続ける!そう、ぶっ倒れるまでな!」

 

一誠は匙が神器を所有していたことと彼の持つ神器“黒い龍脈”の能力に驚いた。

 

「チィッ!よりにもよってドラゴン系の神器か!厄介な系統な上にまったくもって忌々しいんだっつうのォッ!」

 

激しい怒気を露わにするフリードが再度エクスカリバーを振るうが、匙の神器は依然として無傷を保った。

 

「木場!文句なんて言ってる場合じゃない!とりあえずこいつを倒せ!エクスカリバーはその次でいいだろ!こうして敵対してるだけでもわかる!こいつ、マジで危ねぇ!このまま放置してたんじゃ俺や会長たちにまで害がありそうだ!俺の神器で弱らせておくからこのまま一気に叩け!」

 

匙が提案するが、祐斗は複雑そうな表情を浮かべた。

彼の中で、自分の力では勝てない悔しさとここでフリードを倒しておくべきだという事実がせめぎ合う中で決断を下し、静かに魔剣を創り出した。

 

「不本意だけど、確かにキミはここで始末したほうがよさそうだ。まだ奪われたエクスカリバーは2本残っている。そちらの使い手に期待させてもらおう」

 

しかし、そう言って歩みを進めようとした時だった。

 

「ほう、“魔剣創造”か。使い手の技量次第では無類の力を発揮する神器だ」

 

突然、この場にいる彼らの耳に第3者の声が届いた。

視線を向けると、神父の格好をした初老の男性が立っていた。

 

「バルパーのじいさんか」

 

フリードの言葉に一誠たちは耳を疑った。

 

「バルパー・ガリレイ…ッ!」

 

かつてないほどの殺気を乗せた視線で祐斗は憎々しげにその名を口にした。

 

「みんな!」

 

丁度そこへ雄介が駆け付けた。

 

「五代!無事だったか!」

 

「あの怪物たちは?」

 

「大丈夫。全部片づけたから」

 

小猫の問いに雄介は答えた。

 

「なんだよ。なんだよ。なんですかぁ?少しは使える連中だと思っていたのにたった一人にやられるなンて、とんだザコキャラじゃありませんかァ!こんなことなら聖剣ちゃんの練習台に使っておくべきだったぜ…」

 

心底あきれた様子で吐き捨てるフリードにバルパーが訊ねた。

 

「お前も人のことは言えんぞ、フリード。何をしている」

 

「それがね、じいさん。このわけのわからねえトカゲくんのベロが邪魔で逃げられないんすよ!」

 

フリードが“黒い龍脈”のベロが巻き付かれた右足をあげて、バルパーに見せつけた。

 

「ふん。聖剣の使い方がまだ十分ではないか…。お前に渡した『因子』をもっと有効活用したまえ。そのための私の研究だ。体に流れる聖なる因子をできるだけ聖剣に込めろ。そうすれば自ずと斬れ味は増す」

 

「了解ィ」

 

すると、フリードが持つ聖剣の刀身に聖なるオーラが集まりだし、眩い輝きを解き放った。

 

「そらよ!」

 

ブシュッ!という小刻みのいい音を立てて、とうとう匙の神器は切断されてしまった。

これでフリードを捕える術がなくなってしまった。

 

「そんじゃ、名残惜しいけど、おれっち様はこの辺でお暇させてもらうぜ!今度会ったときは最高にバトろうぜ!」

 

フリードが捨て台詞を吐いて逃げようした時だった。

 

「逃がさん!」

 

雄介たちの横を凄まじいスピードで通り過ぎていく人物がいた。

 

ギィィィインッ!

 

現れた人物の持つ聖剣とフリードの聖剣が高く鋭い音を立ててぶつかり合った。

 

「フリード・セルゼン!バルパー・ガリレイ!反逆の徒であるお前たちを、神の名のもとに断罪する!」

 

フリードと聖剣を交えるゼノビアが叫んだ。

 

「やっほ。イッセーくん」

 

いつの間にかその場にイリナも駆けつけていた。

 

「ハッ!俺の前で憎ったらしい神の名を出すんじゃねぇよ!このビッチが!」

 

ゼノビアと剣戟を繰り広げていたフリードが懐から、以前に逃亡時に使用した光の球を取り出した。

 

「じいさん、撤退だ!コカビエルの旦那に報告しにいくぜ!」

 

「致し方あるまい」

 

「あばよ!教会と悪魔のクソ連合!」

 

フリードは歪んだ笑みを浮かべながら球体を路面に投げつけた。

途端に球体からカッ!と、視力を奪うほどの眩い閃光が放たれた。

ようやく視力が戻った時にはフリードとバルパーの姿はすでに消えていた。

 

「追うぞ、イリナ!」

 

「うん!」

 

逃げられたと悟った時、ゼノビアとイリナが追跡するために駆け出した。

 

「僕も追わせてもらおう!逃がすか、バルパー・ガリレイ!」

 

祐斗も2人に続いて姿を消した。

 

「木場!ったく!なんなんだよ…!」

 

一誠は苦虫を噛み潰した表情で毒づくことしかできなかった。

 

「力の流れが不規則になってると思ったら…」

 

「これは困ったものね」

 

その場に取り残された雄介は変身を解除して一誠、小猫、匙とともに息を整えた時、背後から聞き覚えのある声が聞こえた。

声につられて恐る恐る振り返ると、

 

「どういうことか説明してもらうわよ」

 

険しい表情のリアスとソーナの姿がそこにあった。

雄介たちは一気に青ざめた。

 

                      ☆

 

「エクスカリバー破壊って、あなたたちね…」

 

極めて不機嫌なご様子のリアスさまは額に手を当てた。

場所を近くの公園に移した後、雄介、一誠、小猫、匙の4人は噴水の前で正座させられていた。

 

「サジ。あなたもこんな勝手なことをしていたのですね?」

 

「す、すみませんでした会長ッ!」

 

よほど怖いのだろうか、ソーナに冷たく詰め寄られている匙の顔は危険なほどに青ざめていた。

 

「ようするに、祐斗はそのバルパーを追って行ったのね?」

 

「はい。多分、あの2人も一緒だと思います」

 

「あと、何かあったら連絡をよこしてくれると思うんですが…」

 

リアスの問いに雄介と一誠が答えた。

 

「復讐の権化と化した祐斗が悠長に連絡をよこすかしら」

 

リアスの言葉に内心で同意していると、彼女の視線が小猫に移った。

 

「小猫」

 

「…はい」

 

「どうしてこんなことを?」

 

「…祐斗先輩がいなくなるのは嫌です」

 

小猫は静かに自分の思いを口にした。

それを聞いて、リアスの表情が困惑の色に変わった。

そして、諦めたように溜息をひとつ吐いた。

 

「過ぎたことをあれこれ言うつもりはないけれど、ただ、あなたたちがやったことは大きく見れば悪魔の世界に影響を与えるかもしれなかったのよ?それはわかるわね?」

 

「すいませんでした、リアスさん」

 

「すみません、部長」

 

「…ゴメンなさい、部長」

 

精一杯の気持ちを込めて雄介、一誠、子猫の3人は深々と頭を下げた。

3人とも、これで許してもらえるとは思っていなくても、どうしても頭を下げずにはいられなかったのだ。

 

ベシッ!ベシッ!ベシッ!

 

真剣な雰囲気に割り込むかのように、突然何かを叩く音が聞こえた。

おもむろに視線を向けると、一瞬何が起こっているのかわからなかった。

なぜなら…、

 

「あなたには反省が必要ですね」

 

「うわぁぁぁん!ごめんなさい!許してください、会長ォォォッ!」

 

「ダメです。罰としてお尻叩き千回です」

 

ベシッ!ベシッ!ベシッ!

 

匙がソーナに尻を叩かれていた。

よく見るとソーナの手には青い魔力がこもっている。

いろいろな意味で痛そうだった。

 

「雄介、余所見しない」

 

「は、はい!」

 

リアスに注意され、雄介は視線を戻した。

 

「使い魔を有との探索に出したから、発見しだい部員全員で迎えに行きましょう。そのあとのことはその時に決めるわ。いいわね?」

 

「「「はい」」」

 

リアスの言葉に3人は同時に返事をした。

それを聞いて、リアスは雄介、一誠、小猫をぎゅっと抱きしめた。

じんわりとリアスの温もりが伝わってくる。

 

「バカな子たちね。本当に、心配ばかりかけて…」

 

優しい声音と同じくらいの瞳でリアスは雄介たちを見つめた。

そんな彼女に申し訳ない気持ちと感謝の念でいっぱいになる。

 

「会長ぉぉぉ!なんかあっちはいい感じに終わってますけどぉぉ!」

 

「よそはよそ。うちはうちです」

 

涙を流しながら訴える匙と一般家庭のお母さんのような物言いをするソーナ。

いまだに終わりを見せないお仕置きを遠巻きに眺めていると、不意にリアスが口を開いた。

 

「さて、イッセー。お尻を出しなさい」

 

「へ?」

 

一誠の口から素っ頓狂な返事が漏れた。

にっこりと微笑むリアスの右手は紅いオーラで包まれていた。

 

「下僕の躾は主の仕事。あなたもお尻叩き千回よ♪」

 

リアスの布告に一誠はお尻を庇うような姿勢で硬直した。

 

「雄介。言っておくけどあなたも同罪よ♪」

 

「ですよねー…」

 

雄介は苦笑いを浮かべることしかできなかった。

 

                      ☆

 

その日の深夜、いつものように一誠とアーシアが一緒に寝ていると、かつてないプレッシャーを感じて目を覚ました。

ベッドから飛び起きて窓を見下ろすと、兵藤家の前からこちらを見上げる人影に一誠は静かに激高した。

 

「クソ神父…!」

 

一誠に挑発的で下品な笑みを向けるフリードが手招きをしている。

急いで学生服に着替えて家の外に出ると、顕在するふざけた口調で話しかけてきた。

 

「やっほー、イッセーくん、アーシアたん。ご機嫌麗しいねぇ。あ、もしかして元気に仲良く合体してた?それはごめんネ。空気読めないのがウリなの、僕ちん」

 

「…何か用か?」

 

しかしアーシアを庇うように一誠が問うが、本人は嘲笑しながら肩を竦めるだけだった。

「イッセー!アーシア!」

 

「2人とも無事!?」

 

すると、一誠とアーシアの後方に出現した紅く光る魔方陣から雄介とリアスが駆けつけた。

 

「やはり堕天使か…」

 

何かに気付いたリアスが忌々しげに空を見上げた。

最初はフリードがプレッシャーの主だと思っていたが、リアスに続いて視線を上げると、その考えは間違えていたとすぐに分かった。

夜空に輝く月をバックに浮かんでいたのは、10もの漆黒に染まる翼を広げる一人の堕天使だった。

装飾の凝った黒いローブに身を包むその堕天使が視線でリアスを捉えるや否や苦笑を浮かべた。

 

「初めましてかな、グレモリー家の娘。実にその紅色の髪が麗しいことだ。忌々しい兄君を思い出して反吐が出そうだ」

 

開口一番に挑戦的な物言いをする堕天使に対し、リアスは冷淡な表情で返す。

 

「ごきげんよう。落ちた天使の幹部、コカビエル。私の名前はリアス・グレモリーよ。お見知りおきを。ひとつ付け加えさせてもらうなら、グレモリー家と我らが魔王は最も近く、最も遠い存在。この場で政治的なやり取りに私との接触を求めるなら無駄だわ」

 

コカビエル。

その名を聞いて雄介たちは驚愕する。

堕天使中枢組織“神の子を見張るもの”の幹部であり、聖書にその名を記される伝説の存在。

そして、今回の一連の事件の黒幕。

それが今、突然に目の前に現れた人物なのだ。

よく見ると、コカビエルは腕に人を抱えている。

 

「これは土産だ」

 

「お、おわっ!」

 

即座に一誠が反応し、こちらに投げ出された人間を受け止めた。

一誠の目に飛び込んできたその人物の正体は、フリードたちを追跡していたはずのイリナだった。

見れば、全身傷だらけで息も荒い。

 

「お、おい!イリナ!」

 

一誠が名前を呼びかけるが、イリナは苦しそうに呻くだけだった。

 

「俺たちの根城まで来たのでな、それなりに歓迎してやった。2匹逃がしてしまったがな」

 

コカビエルは嘲笑しながら言う。

どうやら彼の話だと、ともに追跡した祐斗とゼノヴィアは逃げ切れたようだ。

 

「アーシア!」

 

すぐにアーシアを呼んでイリナの治療を頼んだ。

アーシアの体から緑の光が発せられ、イリナの体を包み込むと徐々に傷がふさがっていく。

安定する呼吸と緩和する表情に安心すると、初めて気づいた。

イリナはエクスカリバーを持っていなかったのだ。

だが、不意に抱いた疑問などお構いなしにコカビエルは会話を続ける。

 

「魔王と交渉などというバカげたことはしない。まあ、その妹を犯して殺せば、サーゼクスの激情が俺たちに向けられるのかもしれないな。それはそれで悪くない」

 

そんなコカビエルをリアスは侮蔑した目で睨んだ。

 

「なら、私との接触は何が目的かしら?」

 

「お前の根城である駒王学園を中心にこの町で暴れさせてもらう。そうすればサーゼクスも出

てくるだろう?」

 

リアスの問いに嬉々と語るコカビエルに全員が目を見開き、驚愕を露わにした。

 

「そんなことをすれば再び堕天使と神、悪魔との戦争が勃発するわよ」

 

「願ったり叶ったりだ。エクスカリバーでも盗めばミカエルが戦争を仕掛けてくると思ったのだが、寄越したのは雑魚の悪魔祓いと聖剣使いが2人だ。つまらん。あまりにもつまらんのだよ!だから悪魔の、サーゼクスの妹の根城で暴れるんだよ。考えるだけでもわくわくするだろう?」

 

実に楽しそうなコカビエルの言葉にリアスが舌打ちする音が聞こえた。

それほど今の彼女の感情は苛立ちで荒れているのだろう。

 

「戦闘狂め…!」

 

リアスが忌々しく呟くが、コカビエルは狂喜に狂う高笑いを上げるだけだった。

 

「そうだ!そうだとも!あの三つ巴の戦争が終わってから俺は退屈で退屈で仕方がなかった!アザゼルもシェムハザも次の戦争に消極的でな。それどころか、神器なんてつまらんモノを集めだしてわけのわからない研究に没頭し始めた。そんなクソの役にも立たないモノが俺たちの決定的な武器になるとは限らん」

 

リアスは奥歯を鳴らし、静かに拳を握り締める。

 

「だからこそ、俺はお前の根城で聖剣をめぐる戦いをさせてもらうぞ、リアス・グレモリー。サーゼクスの妹、レヴィアタンの妹、それらが通う学び舎だ。エクスカリバー本来の力を解放すればさぞ混沌が楽しめるだろう。戦争としては丁度いい」

 

すると、コカビエルと同調するようにフリードの歪んだ高笑いが響く。

 

「ひゃははは!どうよ?俺のボスってイカレ具合が素敵に最高でしょう?おまけにこんなご褒美までもらっちゃったら俺も張り切らないわけがないんだよねぇ」

 

そう言ってフリードが取り出したのは合計4本のエクスカリバーだった。

 

「まず右手にございますのが『天閃の聖剣』、左手にございますのが『夢幻の聖剣(エクスカリバー・ナイトメア)』。続いて腰にございますは『透明の聖剣(エクスカリバー・トランスペアレンシー)』。ついでにその娘さんから『擬態の聖剣』もゲットしちゃいました。もう一人の持っていた『破壊の聖剣』もほしいところですなぁ…。ヒャハッ!俺って世界初のエクスカリバー大量所持者じゃね?しかも聖剣を扱えるご都合な因子をバルパーのじいさんからもらっているから全部使えるハイパー状態なんだぜ?無敵素敵!俺って最高じゃん!ひゃはははははっ!」

 

よほど愉快なのか、フリードは心底おもしろおかしそうに哄笑をあげる。

 

「バルパーの聖剣研究もここまでくれば本物か。俺の作戦についてきた時は正直怪しいところだったがな」

 

やはり、コカビエルとバルパーが手を組んでいるのは間違いないようだ。

黒い10枚の翼を羽ばたかせ、口元を歪ませたコカビエルが声高らかに言い放った。

 

「いよいよだ。さあ!戦争を始めようではないか!魔王サーゼクス・ルシファーの妹、リアス・グレモリーよ!」

 

そしてコカビエルはフリードとともに夜の闇へと姿を消した。

奴らが向かう先は既に決まっている。

 

「雄介!イッセー!アーシア!学園へ向かうわよ!」

 

「「はい!」」

 

リアスが転送用の魔方陣を展開させた。

すぐに負傷するイリナを抱えてイッセーとアーシアが魔方陣に乗るが、雄介は動かなかった。

 

「雄介…?」

 

再度リアスが名前を呼ぶが、雄介は首だけ向けて答えた。

 

「すいません。みんなは先に行ってください。俺もすぐに追いつきますから」

 

一瞬、この非常時に雄介が何を言ってるのかわからなかった。

非難しようとしたリアスだったが、雄介の強い意志の籠った瞳を見て何かを感じ取った。

 

「わかったわ。それじゃまたあとでね」

 

お互い頷きあって、リアスたちは紅い光に包まれてこの場から姿を消した。

そして訪れた束の間の静寂の中で雄介は口を開いた。

 

「もうここには俺たち以外誰もいません。そろそろ出てきてもいいんじゃないんですか?」

 

振り返る雄介が見詰めたのは兵藤家の塀越しに位置する横道だった。

 

「…ふっ。さすがは五代雄介、仮面ライダークウガだ」

 

降参したように塀の向こうから現れたのは黒縁の眼鏡を掛け、古ぼけたフェルト帽と、同色の薄汚れたコートが特徴的な出で立ちをした壮年の男、鳴滝だった。

 




前半は最近定番化してきた戦闘員との乱戦でまとめてみました。

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