ある日、雄介は近所のファミレスにいた。
雄介と同席しているのは顔を引きつらせる一誠に無表情な小猫、涙目な匙。
そして…、
「うまい!日本の料理はうまいぞ!」
「うんうん、これよ!これなのよ!これが故郷の味なのよ!」
彼らの目の前では2人の少女がガツガツと注文した料理を腹に収めていた。
よほど空腹だったのか平らげる速度が尋常じゃなかったりする。
そんな彼女たちを唖然と思いながら、雄介は先日のことを思い返していた。
☆
雄介が部室を訪れた時にはすでに全員が集まっていた。
だが、ソファーに座るリアスと朱乃と向かい合うように2人の女性が座っていた。
長い栗毛をツインテールにしている娘と肩まで伸びた青い髪に緑のメッシュを入れた娘。
部室内の空気がピリピリとしているのは入って来た時に分かった。
雄介はそそくさと部屋の片隅に集まっている一誠たちに歩み寄った。
近づくと、みんな緊張した面持ちをしていた。
その中で祐斗は怨恨の眼差しで睨みを利かせていた。
彼らの雰囲気や、少女たちが胸に下げた十字架を見れば、教会関係者であることは何となく察しがついた。
確認するように雄介は一誠に訊ねた。
「イッセーくん。あの人たちは…?」
「教会の人間だよ。どうやら部長と交渉があるみたいなんだ」
「交渉?」
一誠の答えに雄介は現役信徒たちに視線を向けた。
本来なら敵対関係である教会側が交渉を持ちかけるほどの状況。
どうやら思った以上に深刻な事態らしい。
内心で驚く雄介に、それにさ、と一誠が続ける。
「あの栗毛の女の子。“紫藤イリナ”っていうんだけど、例の写真に写ってた子なんだよ」
「え!?」
一誠の告白に再び驚き、今度は栗毛の女の子、イリナに視線を向けた。
例の写真と言われ、思い浮かんだのは祐斗を復讐者に変えた聖剣を写した写真。
一誠を含め全員がその写真に写っていた子が男の子だと思っていたばかりに、驚きは大きかった。
すると、雄介の視線に気づいたのか、イリナは一瞬驚いた表情をしたかと思うと、邪気のない笑みを向け軽く手を振って来た。
対応に困っていると、彼女の隣に座る青髪緑メッシュの娘が話を切り出した。
「先日、“神の子を見張る者”にカトリック教会本部ヴァチカン及び、プロテスタント側、正教会側に保管、管理されていた聖剣エクスカリバーが奪われた」
その言葉に雄介たちは目を見開いた。
「堕天使の組織に聖剣を奪われたの?失態どころの騒ぎではないわね。でも、確かに奪うとしたら堕天使ぐらいなものかしら。
彼女たちの会話から、先日フリードが手にしていた獲物がそれだと予想がついた。
だが同時に、聖剣がカトリック、プロテスタント、正教会の
「聖剣エクスカリバーそのものは現存していないの」
雄介の心の中の疑問を見透かしたようにリアスが答えた。
ついでに一誠も同じことを考えていたのか、リアスの言葉に呆気にとられていた。
「ごめんなさいね。彼らの中には悪魔に成りたての子がいるから、エクスカリバーの説明込みで話を進めてもらってもかまわないかしら?」
リアスの申し出にイリナが頷いた。
「イッセー君。エクスカリバーは大昔の戦争で折れたの」
「今はこのような姿さ」
一誠の方に顔を向けて言うイリナの言葉に続く形で青髪緑メッシュの少女が傍らに置いていた長い得物を手に取った。
それには呪術らしき文字が綴られた布が何重にも巻きつけられているのだが、彼女はそれをスルスルと解きはじめた。
そして、今まで隠されていたそれが姿を現した。
「これが、エクスカリバーだ」
冷たいほど美しいその姿を見た瞬間、例えようのない存在感に雄介は目を奪われた。
一誠たちも見たような表情を浮かべていたが、それは雄介が抱くものではなく、心の底から本能で恐怖するものだった。
「大昔の戦争で砕け散ったエクスカリバーだが、折れた刃の破片を拾い集め、錬金術で新たに7本の聖剣を作り出したのさ。これがそのひとつ、『
説明を終えた少女は封印するように再び布で手に持つ聖剣を覆い始めた。
そして、彼女に続いてイリナが懐から取り出したのは長い紐のようなものだった。
すると、その紐は意志を持ったかのようにうねうねと動き始め、やがて一本の日本刀へと形を変えた。
「私のは『
「イリナ…悪魔にわざわざエクスカリバーの能力をしゃべる必要はないだろう?」
「“ゼノヴィア”。いくら悪魔だからと言っても信頼関係を築かなければ、この場ではしょうがないでしょう?それに私の聖剣は能力を知られたからといって、悪魔の皆さんに後れを取ることはないわ」
自慢げに語るイリナにゼノヴィアと呼ばれた青髪緑メッシュの少女が溜息交じりに口を挟んだ。
だが、余裕綽々の様子でイリナは屈託のない笑みで返していた。
そんな彼女たちにかつてないほどのプレッシャーを放つ者がいた。
祐斗だ。
敵意、殺意、怨念、怨恨、憎悪、嫌悪、悪意…。
さまざまな黒い感情が入り乱れる形相で彼女たちと、聖剣を睨んでいた。
ものは違えど、つい先日に取り逃がしたばかりのそれと同類であるエクスカリバーが今こうして目の前に現れたのだ。
感情を表に出すなというほうが無茶な相談なのかもしれない。
雄介は最悪を想定して警戒するとともに、このまま無事に事態が収まることを祈るばかりだった。
そんな彼らの前で、リアスは真摯な態度で敵対組織と会話を再開させた。
「それで、奪われたエクスカリバーがこんな極東の国にある地方都市にあるのかしら?」
「現状、聖剣はカトリック、プロテスタント、正教会に2本ずつ管理し、残る一本は大昔の戦争も折に行方不明となった。そのうち、各陣営にあるエクスカリバーが一本ずつ奪われた。奪った連中はこの国に逃れ、この地に持ち運んだって話なのさ」
ゼノヴィアと呼ばれた少女の言葉にリアスは呆れたように額に手を当てた。
「なんともまぁ、私の縄張りは出来事が豊富ね。それで、エクスカリバーを奪った連中に心当たりは?」
リアスの問いに、ゼノヴィアは目を細めた。
「奪った連中は “神の子を見張る者”。その主犯格は堕天使幹部、コカビエルだ」
予想外の答えに雄介と祐斗以外の面子は目を見開き、リアスは苦笑を浮かべた。
「コカビエル…。古の戦いから生き残る堕天使の幹部。まさかこんなところで聖書にも記される者の名前が出てくるとはね…」
彼女たちの会話から、雄介はなんとなくではあるが現在の状況を把握することができた。
どうやら教会が悪魔に交渉を求めるほど事態は切羽詰まっているようだ。
ならば交渉の内容は聖剣奪還の協力かと思っていた。
だが、予想とは裏腹にゼノヴィアははっきりと言い述べた。
「私たちの依頼、いや要求とは私たちと堕天使のエクスカリバー争奪の戦いにお前たちは一切介入しないこと。つまり、今回の事件に関わるなと言いに来た」
的外れな内容にリアスは眉を吊り上げた。
「ずいぶんな言い方ね。それは牽制かしら?もしかして、私たちがその堕天使と関わりもつかもしれないと思っているの?」
「生憎、本部は可能性がないわけではないと思っているのでね」
リアスの瞳に冷たいものが宿るのがわかった。
だが、かまわずゼノヴィアは続ける。
「上は悪魔と堕天使を信用していない。神側から聖剣を取り払うことができればそちらも万々歳だろう?だから先に牽制球を放つことにした。もしもコカビエルと手を組むようなことがあれば、たとえ魔王の妹君であっても我々はあなたたちを徹底的に殲滅する。…これが私たちの上司からの言伝だ」
リアスの威圧に臆することなくゼノヴィアは淡々と言ってのけた。
「私が魔王の妹だと知っているということは、あなたたち自身も相当上に通じているようね。ならば、こちらも言わせてもらうわ。私は堕天使と手を組んだりはしない。グレモリーの名に懸けて、魔王の顔に泥を塗るようなマネは絶対にしないわ」
しばらく両者の間に拮抗状態が続いたが、ゼノヴィアがフッと笑って沈黙を打ち切った。
「その言葉が聞けただけでもいいさ。一応、コカビエルが盗んだエクスカリバーを持ってこの町に潜んでいるという事実をそちらに伝えておかなければと思ってね。でないと何か起こった時に
ゼノヴィアの言葉を聞いたリアスは強張った表情を緩和させ、軽く息を吐いた。
「正教会からの派遣は?」
「上は今回の話を保留にした。それどころか私とイリナが奪還に失敗した場合を想定して、最後に残った1本を死守する魂胆なのだろうさ」
潔いというか、軽率というか…、とにかく呆れた様子でリアスが問う。
「2人だけで奴らからエクスカリバーを奪還するつもりなの?無謀ね。死ぬわよ?」
「でしょうね」
「私もイリナと同意見だが、できるなら死にたくはないな」
イリナとゼノヴィアの両名は真剣な眼差しで平然と言い切った。
雄介は一瞬、彼女たちが何を言ったのかわからなかった。
「まさか死ぬ覚悟で日本に来たというの?相変わらず、あなたたちの信仰は常軌を逸しているわね」
リアスは本日何度目かの呆れ声を漏らした。
「私たちの信仰をバカにしないでちょうだい、リアス・グレモリー。ね?セイノヴァ」
「まあね。それに教会は堕天使に利用されるぐらいなら、エクスカリバーがすべて消滅してもかまわないと結論を出した。私たちの役目は最低でもエクスカリバーを堕天使の手からなくすことだ。そのためなら、この命など惜しくはない」
2人の覚悟を目の当たりにした雄介は内心で困惑していた。
彼女たちの信仰心がまるで理解できない。
いや、理解したくないし、理解するつもりもないのが正直なところだった。
「…」
「…」
そんなことを思っている内に、いつの間にか両者が見つめあったまま会話は途絶していた。
そして、イリナとゼノヴィアが目で合図を送りあうとおもむろに立ち上がった。
「それでは、そろそろお暇させてもらうかな。イリナ、帰ろう」
「そうね。それじゃ、おじゃましました」
そのまま部室を去ろうとした2人だが、ふとゼノヴィアの視線が一ヶ所に止まった。
「兵藤一誠の家で見かけた時、もしやと思ったが『魔女』アーシア・アルジェントか。まさか、この地で会おうとはな」
彼女が口にした『魔女』という言葉にアーシアはビクッと体を震わせる。
それに気付いたのか、イリナもまじまじとアーシアを見つめ始めた。
「へえ~。あなたが一時期噂になっていた『魔女』になった『聖女』さん?悪魔や堕天使を癒す力のせいで教会から追放されたと聞いていたけれど、悪魔になっていたとは思わなかったわ」
「…あ、あの…私は…」
2人に言い寄られ、対応に困ってしまうアーシア。
「大丈夫よ。ここで見たことは上には伝えないから。聖女さまの周囲にいた方々が今のあなたのことを聞いたらショックを受けるでしょうからね」
「…」
イリナの言葉にアーシアは、今度は複雑極まりない表情を浮かべた。
「しかし、悪魔か。聖女と呼ばれていた者が堕ちるところまで堕ちたものだな。まだわれらの神を信じているのか?」
「ゼノヴィア、悪魔になった彼女が主を信仰しているはずないでしょう?」
呆れた様子でイリナは言うが、ゼノヴィアは即座に否定した。
「いや、彼女から信仰の匂いが感じ取れる。抽象的な言い方かもしれないが、私はそういうのに敏感でね。背信行為をする輩でも罪の意識から信仰心を忘れない者もいる。それと同じものが彼女から伝わってくるんだよ」
ゼノヴィアが目を細めると、イリナは興味深そうにまじまじとさらにアーシアを見つめる。
「そうなの?アーシアさんは悪魔になった今でも主を信じているのかしら?」
イリナの問いかけに、アーシアは暗い表情でぽつりぽつりと呟き始めた。
「…ただ、捨てきれないだけです。ずっと、信じてきたものですから…」
それを聞いたゼノヴィアは布に包まれた聖剣を突き出し、見下すような視線で言った。
「そうか。ならば今すぐ私たちに斬られるといい。今なら神の名のもとに断罪しよう。罪深くとも、我らの神は救いの手を差し伸べてくださるはずだ」
そのままアーシアに近づこうとするゼノヴィアだが、彼女の前に一誠が立ちはだかった。
「触んな」
怒気を含んだ口調でアーシアを庇うように立つ一誠が告げる。
「あんた、さっきアーシアのことを『魔女』だといったな?」
「ああ。少なくとも今の彼女は『魔女』と呼ばれるだけの存在ではあると思うが?」
平然と言ってのけるゼノヴィアへの怒りで一誠は奥歯をギリギリと噛み鳴らした。
「ふざけんな!自分たちで勝手に『聖女』に祭り上げておいて、少しでも求めていた結果が違ったら今度は『魔女』呼ばわりして見捨てんのかよ?そんなのおかしいだろッ!?」
激高する一誠は腹からこみあげてくる感情を吐き出すかのようにさらに続ける。
「アーシアの苦しみを!アーシアの優しさを!誰もわからなかったくせに何が神様だ!現にその神様だってアーシアが助けを求めた時に何もしてくれなかったんだぞ!?」
「神は愛してくれていたよ。それでも何も起こらなかったとすれば、彼女の信仰が足りなかったか、もしくはそれが偽りだったというだけだ」
だが怒りを露わにする一誠に、ゼノヴィアは悪びれることはなく、冷静に、淡々と、さも当然だと言わんばかりに返答した。
その態度がさらに一誠の沸点を上げる。
「君はアーシア・アルジェントのなんだ?」
今度は向こうが聞いてきた。
だから一誠は正面から鋭い目つきを睨み返し、ハッキリと告げた。
「家族で、仲間で、友達だ!だからアーシアは俺が守る。もしお前たちがアーシアに手を出すって言うなら、俺はお前ら全員を敵に回してでも戦うぜ」
一誠の挑戦的な物言いにゼノヴィアはさらに目を細めた。
「それは我ら教会への挑戦か?一介の悪魔に過ぎないくせにずいぶん大きな口を叩く。まるでしつけがなっていないな。教育不足もいいところだ」
「イッセー、お止め―」
「ちょうどいい。なら僕も相手になろう」
リアスは今にも一触即発しそうな両者を落ち着かせようとしたのだが、彼女を遮るように祐斗が前にでた。
「誰だ、キミは?」
問いかけるゼノヴィアに、祐斗は特大の殺気を放ちながら不敵に笑った。
「キミたちの先輩だよ。最も、“失敗作”だけどね」
その瞬間、部室全体に無数の魔剣が出現した。
最悪は免れたが、雄介の願いは虚しく穏便に事が終わることはなさそうだった。
☆
流れで一誠と祐斗はゼノヴィア、イリナの両名と腕試しすることになった。
戦闘の途中、なんやかんやでアーシアと小猫の衣服が弾け飛ぶというハプニングが発生したが、結果的に、力量を読み違えた一誠と冷静な判断力を無くした祐斗の敗北に終わり、
「ひとつだけ言っておこう。『
去り際にゼノヴィアが最後にそう言い残した。
☆
「「ありがとうございました!」」
「ありがトーテムポールさん。また来てねー」
すでに日が沈んだ時刻、雄介とリアスとおやっさんはポレポレを出る最後の客を見送った。
と言っても、まだ閉店までには時間がある。
「なあ、雄介…」
食器を片づけたテーブルを拭いていた雄介におやっさんが小声で声をかけてきた。
「どうかした?おやっさん」
「いやね。…ほら、アレ」
おやっさんが指さす先で、リアスが洗った食器を拭いていた。
だが、その姿からは悲しげな雰囲気を放ち、その瞳は愁いを帯びていた。
「はあ…」
そして時々食器を拭く手が止まったかと思うと、その度にため息を漏らしていた。
「リアスちゃん、さっきからあんな感じなんだけど…何かあったのか?」
「えっと…」
ゼノヴィアとイリナの2人が帰った後、リアスが制止するのも聞かず、祐斗もその場から姿を消した。
その時の祐斗の瞳には、リアスの顔は映っていなかった。
そんな彼をリアスは悲観な表情で見つめることしかできないでいた。
「ちょっと悩み事があるみたいなんだけど…。でも、時間をかければ解決することだから大丈夫だと思うよ」
だから雄介は心配をかけまいと、無理に浮かべた笑みでそれとなくごまかすことにした。
「そっか。それならいいんだけどな…」
だが、やはりおやっさんの顔から不安の色が消えることはなかった。
「それと、雄介。そろそろ醤油が切れそうだったからついでに買い出しに行ってくる。店番は任せたぞ」
「了解。気を付けてね」
おやっさんを見送り、店内には雄介とリアスの2人だけとなった。
チリンチリンとドアベルが静かな店内に響き渡る音に、リアスは我を取り戻した。
「あれ?おじさまは?」
「今買い出しに出たところです」
「そう…」
また、リアスは本日何度目かのため息をこぼした。
今にも押しつぶされそうなリアスの姿は見ていられるものではなかった。
声をかけようとしたその時、雄介の声は再び店内に鳴り響くドアベルの音に遮られた。
「いらっしゃいませ!」
ベルの音に気付いたリアスが営業スマイルで客を迎えた。
自分の私情を仕事に持ち込まない切り替えの早さはさすがだと思った。
「いらっしゃいま、せ…!」
リアスに続いて訪れた人物を認めた時、雄介は言葉を詰まらせた。
「店、まだやってるよな?」
「士さん…」
雄介に不敵な笑みを向けたのは、仮面ライダーディケイド、門矢士その人だった。
☆
「どうぞ」
雄介は料理を食べ終えた士のテーブルに食後のコーヒーを運んだ。
「頼んでないんだが?」
訝しげな表情で士が訊ねた。
「気にしないでください。昨日のお礼でから」
「別に。ただ、同じライダーとして、やられるのを黙って見過ごすほど外道でもなかったってだけだ」
「それでも、助けてもらったことには変わりませんから」
雄介の言葉に士はそうか、と納得してコーヒーに口をつけた。
「悩んでるみたいだな」
「え?」
不意の士の呟きに雄介は虚を突かれた感覚を覚えた。
「俺は写真家だからな。そういう変化には敏感なんだよ」
「…聞いてもらっていいですか?」
なぜそんなことを言ったのか、雄介は内心わからなかった。
ただ、目の前の人物なら答えを知っているような気がしたので、いっそのことこのまま流れにまかせて見ようと思った。
視線に促され、失礼しますと士の向かいに座る雄介は静かに口を開いた。
「クウガも、仮面ライダーなんですよね?」
「まあな。それについては昨日教えただろ?でも、どうやらここは仮面ライダーは都市伝説にすらならないパターンの世界みたいだからな」
「なら、仮面ライダー、ってなん何ですか?」
「正義の味方、ってやつだろ」
雄介の問いに、当然という口調で士は即答した。
もちろん、そんな単純な答えが雄介の求める答えのはずがなかった。
「だったら、その正義って一体…」
雄介は悩んでいた。
クウガになったあの日から、雄介はたくさんの笑顔を守るために命を懸けて戦ってきた。
それが自分の正義なのだと信じてきたからこそ、戦うことに迷いはなかった。
しかし、ゼノヴィアとイリナの信仰心を知ると、その正義が揺らぎ始めたのだ。
彼女たちは神のために命を捨てる覚悟でこの地を訪れた。
最初は、その行為は偏執的なものだと思った。
だが同時に、ふと思ってしまった。
彼女たちの正義を否定することは、自分の正義も否定することになるのではないか、と。
もちろん、彼女たちの正義は行き過ぎると思うところもあるが、根本は雄介の正義と似ているところがある気がする。
だがしかし、もしその考えを認めてしまうと今まで自分を支えて来たモノが崩れるような気がして、心の底から恐怖した。
だから縋るような思いで、雄介はコーヒーを口にする士の答えを待った。
「さあな。俺にもわからん」
返ってきたのは無色の答えだった。
「え…?」
その返答に、雄介は言葉を失った。
だが、士は構わずさらに続けた。
「だってそうだろ?みんながみんな、全く同じ正義を持ってるわけじゃないんだ。正義なんて言うモノの存在自体が曖昧なんだからな。その価値観が人それぞれなのは当然だろ」
カチャリ、とカップを皿に置く音が妙によく響いた。
「誰がどんな正義を持つとしても、それはそいつの自由だ。でも、自分の正義すら貫けないやつに何かを守ることなんてできないと思うがな」
士は初めて見たときと同じ、硝子球の瞳で雄介をまっすぐ見据えた。
その視線に雄介は心の中の後ろめたさを見透かされたような気がして、思わず目を逸らしてしまった。
「正義を貫く、ですか。…すごいですね。そこまで言い切れるなんて。…ちょっと羨ましいです」
自分にもそこまでの覚悟があれば、と思った。
士は首から下げたトイカメラを手に取った。
自身の姿が映るレンズを、硝子玉のような瞳で見つめ返しながら言った。
「そんなに大層なもんじゃないさ。旅をしているとな、必ずどこかで道に迷ってしまうんだ。何度もな。でも、その度に仲間が正しい道を教えてくれた。だから俺は、俺を信じてくれる仲間を、仲間と歩んでいく明日を守るために戦う。それが俺の正義ってやつだ」
強い覚悟と迷いのない決意を硝子球の瞳に込めて、はっきりと士は言った。
その言葉は、雄介を包んでいた暗闇に一筋の光を齎した。
「仲間を、明日を守る、ですか…」
雄介は自分の心に刻むように呟いた。
いつの間にか自分の顔に笑顔が戻っていたことに気付いた。
「コーヒー、ごちそうさん。なかなかの味だったよ」
雄介の変化を見届けたかのように士は立ち上がった。
「士さん!」
慌てて雄介は背中を向ける士を呼んだ。
「ありがとうございます!」
振り向いた士に笑顔とサムズアップを向けた。
その笑顔に迷いの影は微塵もなかった。
士も釣られたように笑みを浮かべ、
パシャリ
手に取ったトイカメラのシャッターを切った。
あまりに自然な動きだったため、雄介は写真を撮られたと認識するまでの一瞬、キョトンとなってしまった。
「やっぱり
そのまま士はポレポレを後にした。
☆
翌日、雄介は晴れた気分で町中を歩いていた。
「どうすればいいのかな?」
しかし、八方塞の状態は変わらず、悩みながら何げなく呟きながら青空を見上げた。
当然、憎いくらいに青く澄み渡る晴天が答えを教えてくれるわけがなかった。
はあ、とため息をひとつ吐いていると、
「嫌だァァァァァッ!俺は帰るんだァァァアッ!」
突然、聞き覚えのある声の悲鳴が聞こえたのでそちらに視線を向けた。
「っていうか兵藤!それはそっちサイドの問題だろ!?俺はシトリー眷属だぞ!?関係ねえ!関係ねええええええッ!」
「そう言うなって。俺が知ってる悪魔で協力してくれそうなのはお前だけなんだよ」
「ふざけんな!そんなことしたら会長に殺されちまうだろォがぁッ!」
見れば号泣する匙を逃げないように捕縛する小猫、そして毒気を抜かれた様子で立ち尽くす一誠という珍しい組み合わせだった。
「お前んところのリアス先輩は厳しくても優しいんだろッ!?でもな!俺んところの会長は厳しい上に厳しいんだよォッ!」
しかし、恐怖で青ざめる匙の絶叫は適当に頷く一誠といつもの無表情の小猫に流されるのであった。
☆
一誠たちから話を聞くと、予想をはるかに上回る驚きの内容だった。
だが同時に、それなら両者の利害が一致する内容でもあった。
その手があったかと感心してしまった。
でもそれは下手をすれば互いの関係が悪化するかもしれない危険な賭けでもある。
命がけの交渉だが、仲間のためにと雄介も同行することを決めた。
もちろん、リアスたちには内緒でだが…。
とにかく、まずは彼女たちと接触しなければ何も始まらないので、一行は町中を探索することにした。
探索開始から20分したところで、なんとなく雄介が口を開いた。
「できれば早く見つかってくれればいいんだけどね…」
「そうだよな。でも2人とも極秘任務中だってことを考えると、長期戦覚悟したほうが―」
「えー、迷える子羊にお恵みを~」
「どうか、天の父に代わって哀れな私たちにお慈悲をォォォッ!」
「「「「…」」」」
なんか簡単に見つかった。
その後、遠巻きに見ていた雄介たちに気付いたイリナ、ゼノヴィアの2人がひもじそうな視線を向けてきた。
ぐぅぅぅ、と腹を鳴らし地べたに崩れる彼女たちの姿を見てると、昨日部室で啖呵を切った人物と同一だとはとても思えなかった。
「えっと…。今から食事に行くんだけど、キミたちもどう?」
戸惑いがちに一誠が訊くと、彼女たちは素直に頷いた。
何とも言えない一時だった。
☆
「ふぅ、落ち着いた。だが、まさかキミたち悪魔に救われる日が来ようとは、世も末だな」
「おいおい、奢ってもらっておいてそれかよ…」
あらかた料理を胃袋に収め、皮肉を言うゼノヴィアに一誠は口の端をひきつらせた。
「はふぅー、ご馳走様でした。ああ、主よ。心優しきこの悪魔たちにご慈悲を」
セイノヴァの隣に座るイリナが合掌した後、胸の前で十字を切った。
「「「うっ!」」」
その瞬間、悪魔である一誠、小猫、匙の3人は頭痛に襲われ、頭に手を当てた。
「あ、ゴメンなさい。つい十字を切ってしまったわ。てへっ」
少しばかり悪びれた様子でかわいらしく笑うイリナ。
一応、故意ではなかったようだ。
「で、私たちに接触した理由は?」
水を飲んで人心地ついたゼノヴィアが改めて訊いてきた。
さっそく本題に入り、気を引き締め直した一誠が答える。
「あんたら、エクスカリバーを奪還するためにこの国に来たんだよな?」
「そうね。それについてはこの前に説明したとおりよ」
空になったコップをテーブルに置き、イリナが肯定した。
「でも、同時に『教会は堕天使に利用されるぐらいなら、エクスカリバーがすべて消滅してもかまわない』とも言ってたよな?」
「…何が言いたい?」
再度確認するように訊ねるような言い回しをする一誠の言葉に何かを感じ取ったのか、ゼノヴィア目を細めて問うた。
そして、真剣な表情を浮かべる一誠の告白に2人は目を丸くして驚いた。
「エクスカリバーの破壊に協力したい」
どうもどうも!
ご無沙汰してます。
青空野郎です。
今回は更新が遅れることになってしまって申し訳ありませんでした。
なんか、新学期が始まろうとしているこの忙しい時期に、さらに立て続けに予定が舞い込んで来てしまいパソコンに触れることのない日が続いてました。
それに加え、今回はなんか端折りすぎた感があったりなかったり、みたいな感じになってしまいました。
まあ、そこら辺は適当に流してやってください(笑)
と、言っていましたが、やはりもの足りなさを感じて少しばかり追加しました。
そしたら1万字超えちゃいました(笑)
★お知らせ★
前々から考えていたことなんですが、聖剣編終了を目処に新しい作品を投稿しようかなと考えています。
つきましては、みなさまにアンケートに協力していただきたいと思っています。
①仮面ライダーキバ×けいおん!
②仮面ライダーフォーゼ×インフィニット・ストラトス
③仮面ライダーウィザード×ドッグ・デイズ
仮面ライダーばっかりですけど、候補として今現在考えている作品は以上の3つです。
みなさまにはどの作品がいいか、番号とできれば理由も含めて感想欄に投稿してください。
他にもダメだしなどの意見を書いてくれても構いません。
(誹謗中傷などの書き込みは勘弁してください)
とにかく、みなさまの意見をお聞かせください。
ちなみに、アンケートと言ってますが、別にこれは多数決ではありません。
あくまで、みなさまの意見を基に自分が判断するのでその辺はご了承ください。
締め切りは聖剣編終了話投稿日にします。
それでは、アンケートの御記帳のほう、何卒よろしくお願い致します。