仮面ライダークウガ 青空の約束   作:青空野郎

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EPISODE28 戦士

不意打ちのような爆発が収まると、重傷を負った雄介が横たわっていた。

何とか持ちこたえた意識の中で、無数の雨粒が煙をかき消す向こう側にひとりの堕天使の姿を認めた。

 

「油断したな。獲物は何かをやり遂げた瞬間に一番の隙を作るものだ」

 

静かに舞い降りながら呟くその刺客は2対の漆黒の翼を広げていた。

おそらく、先ほど雄介が倒した堕天使たちのリーダー的存在なのだろう。

雄介は痛む身体を抑えながら、ゆっくりと立ち上がる。

 

「ほお…。あれをくらってまだ生きているとわな。さすがひとりで私の部下たちを葬っただけのことはある」

 

堕天使が感嘆する声が聞こえたが、正直ギリギリの状態だった。

至近距離で爆発に巻き込まれた上に、雨で体温が奪われている。

寒さで手足がかじかみ、足はがくがく震え、降りしきる雨が全身に広がる火傷を刺激する。

いつ意識が飛んでもおかしくなかった。

そんなことを思っていると、目の前で堕天使が新たに光の槍を形成していた。

ここまでかと思い、目を閉じた時だった。

 

ドォンッ!

 

真っ暗な視界の中で、雨音に混じり一発の銃声が聞こえた。

恐る恐る目を開けると、自身の手を抑える堕天使がいた。

苦悶と憤怒の表情を浮かべているが、それは雄介に向けられてはいなかった。

堕天使の視線を追うように顔を向けると、そこにひとりの青年が立っていた。

 

「どうやらクウガの世界のようだが、グロンギ以外にも妙な連中がいるみたいだな」

 

黒い傘を片手に奇天烈な形状の銃を構え、面倒くさそうに呟く青年は硝子玉のような瞳を雄介に向けた。

 

「え…?」

 

「キサマ、何を…!?」

 

苛立つ堕天使を無視し、傘を投げ捨てる青年は中央に赤い秘石が埋め込まれた白いバックル状のアイテムを取り出した。

それを腹部に当てるとバックルからベルトが飛び出し、青年の身体に装着される。

ブゥン、とバイクのエンジン音のような効果音とともに、青年は左腰に携行されているホルダーから一枚のカードを取り出した。

そして、仮面の戦士が描かれたカードを片手に握り、青年は叫んだ。

 

「変身!」

 

【KAMEN RIDE…】

 

裏返しに持ち替えたカードをバックルの挿入口に装填するとバックルから音声と待機音が鳴り響く。

青年は間髪入れずに両側のハンドル部分を押した。

 

【DECADE!】

 

バックルを閉じたことでバックルが右に90度回転するとともに、音声を発する。

瞬間、青年の周りに9つの紋章と9つのシルエットが出現する。

それらが青年と重なると一瞬だけ発光し、次の瞬間には色を失ったシルエットと同一の姿の仮面にバックルから現れた7枚の赤いプレートが突き刺さる。

そして青年は、至る所に『10』を意味する『十』・『X』の意匠が取り入られているボディにマゼンダカラーが走り、緑の複眼にバーコードをモチーフにした仮面の戦士に姿を変えた。

 

「なッ…!?」

 

突然の光景に雄介は驚きを隠せなかった。

そして、それは堕天使も同じだった。

 

「キサマ…何者だ!?」

 

忌々しげに問う堕天使に青年は悠々と答えた。

 

「“仮面ライダーディケイド”」

 

金属を被せたような声でディケイドと名乗った仮面の戦士が堕天使に向けて銃を構えたその刹那、開戦の狼煙の如く銃口が轟音を放った。

 

                      ☆

 

「クッ…!」

 

いくつかの弾丸が被弾し、堕天使の動きが一瞬止まったところでディケイドは駆け出した。

専用武器、ライドブッカーを本型のブックモードから、剣型ソードモードに変形させて堕天使に斬りかかる。

堕天使は咄嗟に光槍を作り攻撃を受け止めた。

だが、ディケイドはすぐに機転を利かせライドブッカーを掬い上げるように振り上げ光槍を払い除けた。

そして、すかさず胸部から腹部にかけての前面に一撃を入れた。

 

「ガァッ…!」

 

呻き声とともに鮮血が舞った。

血が滴る傷口を抑えながら3歩ほど後退した堕天使がすぐに突きを繰り出してきたが、ディケイドにライドブッカーの刀身で巻き抑えられ、逆にがら空きになった腹部に鋭い蹴りを叩き込まれた。

無様に後方に身体を飛ばされる姿を見つめる仮面の視線に、堕天使怒りを覚え発狂したように光槍を振り回してきた。

だが、闇雲に繰り出す攻撃が届くことはなかった。

ディケイドはすべての攻撃を剣で払う、体を捻るなどの最小限の動きでかわしていく。

そして何度目かの攻撃をくるりと体を回転させてかわす。

その最中に、ディケイドライバーのバックルを展開し、カードを挿入する。

 

【ATTACK RIDE…BLAST!】

 

ディケイドライバーが音声を発すると同時にガンモードに変形させたライドブッカーの銃口を堕天使に向け、引き金を引いた。

するとライドブッカーの銃身がマゼンダカラーの分身を作り出しし、合計で5つの銃口が同時に火を噴いた。

一斉に連射される光弾を正面から受け、堕天使は小さな水飛沫を上げながら地面を転がる。

それを見据えるディケイドは別のライダーカードを再び目の前に掲げた。

 

「変身!」

 

【KAMEN RIDE…BLADE!】

 

カードを装填すると、ディケイドライバーからオリハルコン・エレメントと呼ばれるヘラクレスオオカブトの絵柄が浮かぶ青い光のゲートが眼前に放出された。

臆することなく光の壁を通過すると、ディケイドの姿は大きく変わっていた。

ディケイドライバーはそのままだが、赤い複眼と一本角を携えた仮面に、青を基調としたスーツに、白銀の鎧の胸部にはスペードのマークが存在を主張するように鎮座していた。

それは友と世界を救うために、運命と戦うことを選んだ戦士。

名を、“仮面ライダーブレイド”。

ブレイドにカメンライドしたディケイドは手に持つ専用武器、醒剣ブレイラウザーを手首で回し、堕天使に向かって駆け出した。

堕天使もすぐに光槍で応戦しようとするが、ディケイドの時よりも洗練された剣撃の前で、パリンという儚い音を立てて砕け散ってしまった。

 

「この…クソがァァぁあッ!」

 

得物を砕かれ、自棄気味になった堕天使が殴り掛かってきた。

しかし、ディケイドは冷静に対応し、カードをディケイドライバーに挿入した。

 

【ATTACK RIDE…METAL!】

 

刹那、鋼の強度にまで硬質化したディケイドに堕天使の拳がぶつかった。

 

「ガあァあァァァァッ!?」

 

ゴキッ、という不気味な音と一緒に悲鳴を上げたのは堕天使のほうだった。

殴った反動が拳から肩へと駆け抜け、肉が裂け、骨が砕けた。

思わぬカウンターをくらい、使い物にならなくなった片腕を抑える堕天使が向ける憤怒の視線を適当に流すディケイドはさらにカードを装填する。

 

【ATTACK RIDE…TACKLE!】

 

ディケイドはブレイラウザーを構え、眩い白光を放ちながら猛スピードで強烈なタックルを堕天使にかました。

重い衝撃をモロに受け、血反吐を吐きながら大きく後ろに飛ばされる堕天使に追い打ちをかけるようにディケイドはまた新たなライダーカードを取り出した。

 

「次はこいつだ。…変身!」

 

【KAMEN RIDE…RYUKI!】

 

ディケイドライバーが音声を鳴らすと同時に、3方向から迫る虚像がディケイドに重なった。

堕天使が盛大に肩で息をしながら立ち上がる時には、ディケイドの姿は変わっていた。

目の前に赤いボディの左手に龍を模した手甲と、同じく龍の意匠を施した鉄仮面の戦士が立っていた。

“仮面ライダー龍騎”。

かつて、望まぬ宿命に苦悩しつつも、命尽きるまで己の信念を貫いた龍の影を纏う騎士の姿を見る堕天使の心はすでに折れていた。

目の前の戦士に勝てないと悟り、堕天使は翼を広げ戦線離脱を試みる。

しかし、堕天使の逃走をディケイドは許さなかった。

 

「逃がすか」

 

【ATTACK RIDE…ADVENT!】

 

ギャオオオオオオオオオオオオオオオンッッ!

 

鼓膜を破るような咆哮とともに現れたのは龍騎が使役する契約モンスター、“無双龍ドラグレッダー”である。

ドラグレッダーはその炎のような真紅の巨体をくねらせ、龍騎に変身したディケイドの周りを漂う。

ディケイドはパンパンと手を払うように叩く仕草を見せた後、その場で跳躍した。

先ほどまでの怒りは完全に消え失せ、代わりに恐怖で染まる表情を浮かべている。

逃げることを選んだことに悔しさを噛みしめ、復讐を心に誓いながら一目散に空を翔る堕天使だが、ふと背後に至大な気配を感じた。

咄嗟に振り向くと、雄叫びを轟かせるドラグレッダーの背に乗るディケイドが迫っていた。

堕天使がその迫力に言葉を失い、顔をひきつらせた刹那、爆音が空中に響いた。

数秒と経たないうちに、煙の中から現れたのはどしゃりという音を立てて腹ばいに墜落する堕天使と、元の通常形態で着地を決めるディケイドだった。

ふらつく足で立ち上がる堕天使は血と泥水で汚れた肢体をさらしていた。

そんな堕天使にトドメと言わんばかりにディケイドは自身の紋章が描かれたカードを引き抜いた。

 

【FINAL ATTACK RIDE…DE DE DE DECADE!!】

 

ディケイドライバーが音声とともに読み込んだカードの能力を解放する。

堕天使とディケイドとの間に10枚のホログラム状のカード型エネルギーが出現した。

ディケイドはライドブッカー・ソードモードの刀身を撫でると、先ほどと同じようにカード型のホログラムを潜り抜けた。

一枚ずつ通過するごとにライドブッカーの刀身が放つマゼンダカラーの光が増していく。

すでに堕天使には、反撃する気力も攻撃をよける余力も残されていなかった。

 

「はあああっ!」

 

堕天使が最後に見たのは最後の一枚を潜り、眼前に躍り出るディケイドの姿だった。

 

「ぐあああああっ!?」

 

断末魔とともに、ディケイドの必殺の斬撃“ディケイドスラッシュ”の一閃が堕天使を地獄に葬った。

揺らめく炎を冷めた視線で見つめるディケイドはディケイドライバーに手を掛けた。

バックルのハンドルを開くと、マゼンダカラーのボディが色褪せるのと合わせて、シルエットとなったディケイドの姿が弾けるように離反し、青年の姿に戻った。

いつの間にか雨が止んでいた。

 

                      ☆

 

雄介は雨が止んでいたことも忘れ、目の前の戦闘を見入っていた。

次々と姿を変えるディケイドの力は圧倒的と言わざるを得なかった。

仮に、万全の状態で戦いを挑んでも返り討ちにされるのがオチだろうとさえ思った。

 

「ほら」

 

声をかけられ我に返ると、傘を回収した青年が目の前に立っていた。

 

「あ、ありがとうございます…」

 

お礼を言い、傘を受け取る雄介はおずおずと訊ねた。

 

「えっと、あなたは…?」

 

雄介の問いに硝子玉のような瞳で見つめる青年はゆっくりと口を開いた。

 

「“門矢士”。お前と同じ、“仮面ライダー”だ」

 

「仮面、ライダー?」

 

雄介は初めて聞く言葉に疑問を覚え、思わず聞き返した。

 

                      ☆

 

以前にレイナーレが拠点として利用していた廃れた教会に若い男の堕天使が佇んでいた

 

「…」

 

装飾の凝った黒いローブを身に纏うその堕天使は聖壇に飾られている折れた十字架を無言で見上げていた。

 

「ご報告します。“コカビエル” 様」

 

堕天使中枢組織“神の子を見張るもの”幹部・コカビエルの背後に一人の堕天使が現れた。

 

「聞こう」

 

コカビエルは静かに、されど威圧感のある声で促した。

 

「たった今この町に教会本部から派遣された聖剣所有者が到着したもようです。いかがいたしましょう?」

 

「捨て置け。まだ時期ではない。それよりもバルパー・ガリレイに因子の調整を急がせろ」

 

「はっ。それともうひとつ…」

 

「なんだ?」

 

「実は先ほど、フリード・セルゼンを迎えに行ったガイザス部隊4名が消滅したとの報告が…」

 

「…相手は?」

 

どうやらコカビエルは部下が殺されたことを何とも思わなかったようだ。

 

「報告によりますと、ひとりはグレモリー家の娘に加担する人間。そしてもうひとり、正体不明の人間とのことです」

 

その知らせにコカビエルは眉をひそめた。

しかし頭を垂れ、跪きながら背後に控える堕天使にコカビエルの表情を知る術はない。

故に今はコカビエルの言葉を待つのみである。

 

「ふん。よもや人間如きに後れを取るとは…。さぞ無様な死に様をさらしたのであろうな」

 

しばしの沈黙の後にコカビエルが口にした言葉は部下を侮蔑するものだった。

 

「しかし、逆に知りたいものだな。奴らを葬ったその人間とやらに…」

 

コカビエルは口元を歪め、薄い笑みを浮かべながら報告に上がった人物に興味を持った時だった。

 

「知りたいのなら教えて差し上げようではないか」

 

「「!?」」

 

突然、教会内に第3者の声が響き渡るとともにコカビエルの左方向にくすんだ光を放つオーロラが出現した。

そして、オーロラから吐き出されるように姿を現したのはひとりの壮年の男だった。

壮年の男は黒縁の眼鏡とフェルト帽、帽子と同色の薄汚れたコートが特徴的な、どこか古ぼけた格好をしていた。

 

「何奴だ!?」

 

コカビエルの前に躍り出た堕天使が男に光槍を向けた。

 

「私の名は“鳴滝”。そうだな、とりあえず『預言者』と名乗っておこう」

 

「預言者、だと…?」

 

堕天使が鳴滝にさらに槍の先端を突き付けてきた。

 

「まあ、落ち着きたまえ。私は君たちと争うつもりはない」

 

鳴滝は両手を上げ、敵意がないことを示した。

コカビエルは何かを企んでいそうな笑みを浮かべる鳴滝を一瞥した後、。

 

「…いいだろう、用件を聞こう。イベルデ、下がれ」

 

「いや、しかし、コカビエル様―」

 

「下がれ」

 

イベルデという堕天使が異議を唱えようとしたが、コカビエルはただ一言で制した。

 

「は、はっ。失礼いたしました」

 

コカビエルの迫力に気圧されたイベルダは槍を下げ、そそくさと後ろに戻った。

 

「さすがは“神の子を見張るもの”幹部のコカビエル。話が早くて助かる」

 

「それで、その預言者とやらが一体何の用だ?」

 

コカビエルは鳴滝の含み笑いを一蹴し、さっそく本題を問い質した。

 

「用件も何も、先ほど言っていただろう?この世界に『悪魔』が現れた。君の部下の一人を葬ったのも、その『悪魔』だ」

 

この世界に、と言い始めたところで鳴滝から笑みが消え、無表情へと変わった。

 

「ふん、何かと思えば…。悪魔など、今までに腐るほど消し去ってきたわ」

 

鳴滝の言葉にコカビエルは落胆と同時に鼻を鳴らした。

だが、鳴滝は能面のような無表情のまま、淡々と告げる。

 

「私に言う『悪魔』は君の知る悪魔とは違う。むしろ、それ以上に凶悪な存在だ」

 

「なに…?」

 

その言葉に、初めてコカビエルが怪訝そうな表情を浮かべた。

 

「言っておくが、奴を甘く見ないほうがいい。現に奴は、これまでに多くの世界を破壊している」

 

鳴滝は無表情では隠しけれないほどの秘めた思いを瞳に宿し、語る。

 

「破壊、だと…?」

 

「言葉通りの意味だ。そして奴が訪れた以上、この世界も例外ではない。間もなくこの世界も奴の手によって破壊される」

 

「なるほど。…して、その悪魔とやらの名は?」

 

鳴滝の言葉に興味を持ったのかコカビエルはフッとその口角を上げ、横目で視線を向けた。

 

「その悪魔の名は、世界の破壊者、仮面ラァアアイダ…ディケイド」

 

その名を口にする鳴滝の瞳は激しい憎悪で満ち満ちていた。

 

                      ☆

 

「仮面ライダー、か…」

 

次の日の放課後、雄介は誰もいない部室で一人ごちていた。

あの後、少しだけ士から話を聞いてから、その言葉が雄介の中で妙に渦巻いていた。

世界には仮面ライダーと呼ばれる戦士が数多く存在するようだ。

そして、どうやらクウガもその仮面ライダーのひとりらしい。

それを含めて、士が変身するディケイドはさらに多くのライダーに変身する能力を有している。

士にクウガのライダーカードを見せられた時は驚きを隠せなかった。

それともうひとつ、祐斗のことが気がかりになっていた。

今朝見かけた祐斗は誰が見ても分かるほどの怒りの表情を露わにしていた。

結局その日は、祐斗が笑顔を見せることはなかった。

 

「あらあら、何か悩みごとですか?」

 

雄介が進展しないままの状況に頭を悩ませていると、後ろから朱乃の声が聞こえた。

 

「あぁ、朱乃さん。お疲れさまで…」

 

後ろを振り向き、朱乃の姿を見た雄介は思わず立ち上がってしまった。

なぜなら、朱乃はいつもの制服姿ではなく、白装束の着物で身を包んでいた。

さらには、いつもはポニーテールでひとつに括ってある艶のある黒髪を下している。

そこまでなら珍しいですねの一言で済むのだが、実際はそうではなかった。

今の朱乃の肢体を包み込んでいる白い生地が濡れて、肌が透けて見えていた。

おまけに水気で長い黒髪が張り付き官能的な雰囲気を醸し出していた。

そんな朱乃の姿を雄介は無意識のうちに凝視してしまっていた。

 

「フフ。そんなに見つめられるとなんだか恥ずかしいですわ」

 

雄介の視線に気付いた朱乃は、わざとらしく豊満な胸を強調するように手を回し、その身を捩らせた。

 

「いっ、いや、その、朱乃さん。その格好…」

 

朱乃の言葉でようやく我に返った雄介は戸惑いがちに訊ねた。

 

「これですか?フフ。実は先ほどイッセー君と『儀式』を行っていたものですから」

 

『儀式』という言葉が指す内容。

それは一誠の体の、正確には一誠の左腕に溜まっているドラゴンの力を散らすというもの。

ライザー・フェニックスとの一戦交わした時、一誠は不完全とはいえ、“禁じ手”を得た際に、その代償として左腕を内に宿る赤龍帝に支払ったとのことらしい。

つまり、今の一誠の左腕はドラゴンの腕と言っても過言ではないのだ。

それ故、定期的に朱乃の言う『儀式』を行うことによって、一誠のドラゴン化した左腕を一時的に元の状態を保っているのだ。

そして、その『儀式』を行うことができるのは、上級悪魔であるリアスと朱乃の2人。

どうやら今回は朱乃の番で、今し方『儀式』を終えたところらしい。

 

「…こんな風に」

 

そんなことを考えていると、朱乃はおもむろに雄介の手を取った。

 

「え?」

 

ちゅぷ

 

「ぇいぃッ!?」

 

動揺していたせいか、気づいた時には卑猥な水音を立てて、朱乃が雄介の指を口に含んだ。

何とも言えない感覚が指から伝わってくる。

 

「ぁあ、あああ、あぁぁあぁあ朱乃さんッ!?」

 

顔を真っ赤にする雄介は言葉を失ってしまうが、以前としてその指は口に含まれたままだ。

 

ちゅぴ、ちゅぱ…ちゅっ…

 

雄介の反応を楽しむかのように、朱乃は卑猥な音を立てて雄介の指を吸引している。

その瞳に宿るSの光と、悪戯っぽい笑みを見ていると、その行為はわざとだと分かった。

やがて、唇から離れた指には朱乃の唾液の糸がツーッと垂れていた。

 

「うふふ。そんな初心な反応を見せられると、こちらとしてもサービスしたくなってしまいますわ」

 

「サ、サービス…?」

 

「ええ。私も後輩をかわいがってもバチは当たらないと思いますもの」

 

そう言うと、朱乃はソファーを乗り越え、訝しげな面持ちの雄介に体を近づけてきた。

 

「えっと、朱乃さん?…うわっ!?」

 

反射的に下がろうとした雄介だが、後ろに置いてあったテーブルに躓き、体を倒してしまった。

 

「ふふ。…えい♪」

 

むにゅ

 

「!?」

 

突然、テーブルを背にする雄介の体に冷たい感覚が走った。

しかし、すぐに温かい感覚と同時に柔らかな感触を覚えた。

 

「あ、朱乃さん!?」

 

構図としては今、雄介は覆いかぶされる形で朱乃に抱きつかれていた。

そのため視線を落とすと、雄介の胸板に押し付けられている朱乃の柔らかな胸でできた谷間がこれでもかというぐらい強調されていた。

これも男の性。

悲しいかな、雄介は朱乃から視線を逸らせないでいた。

困惑を隠せないでいる雄介に妖艶な微笑みを浮かべる朱乃が艶っぽい声で囁いた。

 

「私、これでも雄介君のこと気に入っているんですよ?」

 

「俺のことを、ですか?」

 

疑問で返す雄介に朱乃の吐息がかかる。

 

「ええ。最初はかわいい後輩でしたけど、最近は違うの。今まであなたの戦う姿を見て、特にこの間のフェニックスとの一戦。何度倒れても立ち上がり、ついには不死身と呼ばれるフェニックスを打ち倒した。あんな素敵な戦いを演じた殿方を見たら、私も感じてしますわ」

 

「か、感じる…?」

 

「時々、あなたのことを考えると胸のあたりが熱くなって、どうしようもない時があるの。こうして雄介君で遊んでいると、いじめっ子としての本能が疼きますわ。…これって、恋かしら?」

 

「い、いや、俺に言われても…」

 

残念ながら、雄介は朱乃の疑問に対する回答を見つけることはできなかった。

 

「でも、あなたに手を出すとリアスが怒りそう。彼女、あなたのこと…。うふふ、罪な男の子ですわね、雄介君は」

 

と、朱乃は雄介の首に手を回し、ただでさえ近かった距離をさらに詰めてきた。

声を上げる間のなく、互いの鼻先が触れ合い、朱乃の長いまつ毛が雄介の瞼にあたる。

吸い込まれそうなほど澄んだ瞳に狼狽する雄介が映り込み、あと少し力を加えるだけでキスしてしまうほどの距離に迫り、朱乃はゆっくりと艶のある唇を動かした。

 

「ねえ、雄介君。私と―」

 

朱乃がなにか言いかけた時、突然部室の扉が開け放たれた。

そちらに視線を向けると、

 

「リアスさん…?」

 

そこには紅い魔力を身に纏い、紅髪を逆立てるリアスが立っていた。

 

「朱乃。一体これはどういうことかしら?」

 

不機嫌全開の声音でリアスは近づいてきた。

その瞳に宿る殺気は気のせいだと思いたい。

 

「うふふ。ただかわいい後輩くんとスキンシップを取っていただけですわ」

 

対し、朱乃はリアスの怒気など気にすることなく淡々と答えた。

 

「そう。…でも、どう見てもそれ以上の、それ以外のことをしようとしてなかった?」

 

「あらあら、心配しなくても、本番をするつもりはありませんわよ?」

 

朱乃はリアスを挑発するかのように、余裕な笑みを向ける。

 

「本番じゃなくても限度があるわ。私だって、まだ…」

 

「それはそちらが動くのが遅いからでは?本を読むのもいいですけれど、まさか常にマニュアル通りに事を運べるとでも?」

 

「…」

 

「…」

 

ついには無言でにらみ合う2人から妙な迫力を感じ取れた。

運よく一触即発とはならなかったが、その日、機嫌を損ねたリアスは自宅へ帰らず雄介の部屋で一夜を明かしたことはまた別の話である。

ただ、雄介は初めて見た頬を膨らませて怒るリアスをかわいいと思っていた。




今年のスーパーヒーロー大戦に私の大好きな水樹奈々さんが出るということでテンションが上がりました。
何が何でも見に行きたいと思っています。
…ただ、どうせ出てくれるならウィザードの劇場版か、ムービー大戦で出てほしかったです。
そして主題歌を担当してほしかったです…。
………
……

頼む!
スーパーヒーロー大戦で挿入歌的な何かを!

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