仮面ライダークウガ 青空の約束   作:青空野郎

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EPISODE27 聖剣

「で、こっちが小学校の時のイッセーなのよー」

「あらあら、全裸に海に」

「ちょっと朱乃さん!?って母さん何見せてんだよ!」

 

ひと騒動を終えた雄介たちは予定通りに一誠の自宅に集合していた。

だがオカ研会議は一誠の母親が持ってきたアルバムで崩壊した。

 

「イッセー先輩の赤裸々の過去…」

「小猫ちゃんもみないでぇぇぇぇえ!」

 

同時に一誠の涙腺が一緒に崩壊していた。

 

「これが、幼い頃のイッセーさん…」

 

その隣でアーシアがまじまじと一誠の黒歴史とも言うべき写真を見入っている。

なぜか頬は上気で赤く染まり、その表情はどこかうっとりとしていた。

そんな彼女の姿をリアスが安心した様子で見つめていた。

どうやら一誠の両親との会談は滞りなく終わったようだ。

 

「お、おい!木場!五代!お前らは見るな!」

 

雄介は祐斗と2人で別のアルバムを見ていると、それに気づいた一誠が飛び掛かってきた。

 

「ハハハ、いいじゃないか。もう少しイッセー君のアルバムを楽しませてよ」

 

だが、祐斗の軽快な動きでひょいひょいとかわされていく。

するとその時、祐斗の視線があるページにとまった途端、彼の雰囲気ががらりと変わった。

 

「どうしたの、祐斗君?」

 

突然の祐斗の様子の変化を不思議に思った雄介は一誠と一緒にそのページを覗き込んだ。

祐斗の視線の先にあったのは園児時代の一誠が写された一枚の写真だった。

そこには一誠と一緒に同い年の園児とその父親らしき人物も写りこんでいた。

祐斗は園児の父親、正確にはその人物が携えている模造品らしき剣を指差して訊ねた。

 

「これ、見覚えは?」

 

真剣に問う祐斗の声がいつもより低く聞こえた。

 

「うーん…。いや、何分ガキの頃過ぎて覚えてないんだけどな…」

「そっか。でもまさか、こんなことがあるんだなんてね…」

 

一誠が一人ごちていると、祐斗は苦笑を浮かべていた。

だが、その目には寒気がするほどの憎悪で満ちていた。

 

「これは聖剣だよ」

 

そこにはいつも祐斗の面影はない。

その日から祐斗は何かを考え込むようになった。

どこか遠い目をすることが多くなり、話しかけても上の空のことがしばしば。

駒王学園の学校行事の球技大会でも一人だけ非協力的な姿勢を見せていた。

明らかに様子がおかしいことは火を見るより明らかだった。

 

                      ☆

 

その日はあいにくの雨模様だった。

雨音と一緒に無数の雨粒が部室の窓ガラスを叩く音が聞こえる。

 

パン!

 

外の雨音に混じって部室に乾いた音が響いた。

 

「どう?これで少しは目が覚めたかしら?」

「…」

 

業を煮やしたリアスに頬を叩かれた祐斗は何も返さなかった。

と、先ほどまで無表情と無言で通していた祐斗が唐突にニコニコ顔になった。

雄介は懐かしく思うと同時に、なぜかその笑顔に悲哀を覚えた。

 

「もういいですか?球技大会も終わりました。もう練習もしなくていいでしょうし、夜の時間まで休ませてもらってもいいですよね?それと、少し疲れたので普段の部活も休ませてください」

「木場、お前マジで最近変だぞ?」

 

さすがに祐斗の変貌ぶりを無視することに限界を感じた一誠が問うた。

 

「キミには関係ないよ」

 

だが祐斗は作り笑顔で冷たく一蹴した。

 

「関係ないって…さすがに心配しちまうよ」

 

一誠の言葉に祐斗は苦笑を浮かべた。

 

「心配?誰が誰をだい?本来悪魔は利己的な種族だよ?まあ、今回は主に従わなかった僕がわるかったけどね」

 

祐斗の言葉に一誠は立場が完全に逆転していることに戸惑いを覚えた。

 

「俺たちは仲間なんだからさ、これからもお互いの足りない部分を補うようにしていかなきゃダメなんじゃねえか?」

 

その言葉を聞いた祐斗は、今度は表情を陰らせた。

 

「仲間、か…。相変わらずキミは熱いね。…イッセー君。ここのところ僕は基本的なことを思い出していたんだよ」

「基本的なこと?」

「ああ。僕が、何のために戦っているのかをね…」

「部長のためじゃないのか?」

「違うよ」

 

祐斗から笑顔が消えて、地の底から響くような声色が室内にこだました。

 

「僕は復讐のために生きている。“聖剣エクスカリバー”。それを破壊するのが僕の目的なんだ」

 

殺意を込めた瞳と決意を秘めた表情を浮かべていた。

その姿を見て誰も、何も言えなくなっていた。

その後、祐斗はみんなに背を向けて部室を出て行った。

雄介は後を追おう思ったが、追いついたとしても祐斗の神経を逆撫でするだけだと考え直し、部室に残ることを選んだ。

部室を見渡すとやはり全員の雰囲気が沈んでいた。

 

「ようやく忘れてくれたと思ってたけど、そうでもなかったみたいね」

 

沈黙を破るようにリアスがため息をついた。

 

「リアスさん」

 

重い雰囲気の中で雄介がリアスに声をかけた。

 

「何かしら?」

 

返事をするリアスだが、雄介が続けるであろう内容に察しがついていた。

 

「祐斗君が聖剣に拘る理由に心当たりありますよね?」

 

予想通りと言わんばかりにリアスはしばしの間瞑目すると、静かに口を開いた。

 

「聖剣計画」

「聖剣、計画?」

 

確認するような雄介の言葉にリアスは静かにうなずいた。

 

「そう。祐斗はその計画の生き残りなのよ」

「数年前まで、キリスト教内で聖剣を扱える者を育てる計画が存在していたの」

「…初めて知りました」

 

どうやら、一時は聖女として祭られていたアーシアにすら知らされない極秘の計画のようだ。

 

「聖剣は悪魔にとって最大の武器。私たち悪魔が聖剣に触れればたちまち身を焦がし、斬られればなす術もなく消滅してしまう。神を信仰し、悪魔を敵視する使徒にとっては究極とも言える兵器ですわ」

 

リアスの隣にいた朱乃が聖剣について説明を入れてくれた。

やはり、ゲームや小説に出てくるそれと同一だと解釈してもよさそうだ。

 

「そして、祐斗は聖剣エクスカリバーと適応するために、人為的に養成を受けた一人なの」

「じゃあ、木場は聖剣を使えるんですか?」

 

一誠の質問にリアスは首を横に振って答えた。

 

「残念ながらあの子は聖剣に適応できなかった。それどころか、祐斗と同時期に養成された者たちも全員適応できなかったらしいわ」

 

あれほど剣に精通し、数多くの魔剣を扱う祐斗ですら聖剣は扱えなかったらしい。

だが、あれほど聖剣に憎悪を抱いている姿を見ると返って納得できた。

 

「適応できなかったと知った教会関係者は聖剣に適応できなかったという理由だけで祐斗たち被験者を不良品と決めつけて処分に至った」

 

処分、という言葉が心に重くのしかかった。

リアスたちも不快に思ったのか、目を細めている。

 

「そんな…。主に使える者がそのようなことをしていいはずがありません」

 

アーシアに至っては真実を知って瞳を涙で潤ませていた。

信頼していた者たちに何度も裏切られれば当然の反応だろう。

 

「教会の者たちは私たち悪魔を邪悪な存在だというけれど、人間の悪意こそがこの世で一番邪悪だと思うわ」

 

そう呟くリアスの瞳は憂いを帯びていた。

 

「私があの子を悪魔に転生させた時、瀕死の中でも強烈な復讐を誓っていたわ。生まれた時から聖剣に狂わされた才能だったからこそ、悪魔として生きることを有意義に使ってもらいたかった。祐斗の剣の才能は聖剣にこだわるにはもったいないもの」

 

聖剣に無残に奪われた祐斗の人生を悪魔に転生させることで少しでも救いたい。

それがリアスのささやかな願いだった。

 

「でもあの子は忘れられなかった。聖剣を、聖剣に関わった者たちを、教会の者たちを…」

 

それだけで十分だった。

雄介は静かにソファーから立ち上がり、部室の扉に手をかけた。

 

「雄介?」

 

突然の雄介の行動にリアスが問いかけた。

 

「ちょっと祐斗君を探してきます。祐斗君、傘を持ってきてなかったはずですから」

「危険よ。今のあの子は復讐に取りつかれているわ。今のあの子は普通じゃないのよ?」

「それは違います」

 

制止を呼びかけるリアスの言葉を雄介はきっぱりと否定した。

 

「例え普通じゃない祐斗君でも、それも本当の祐斗君なんです。そういう祐斗君もいるんです。…怖くてイヤだけど、どうしようもなくいちゃうんです」

 

それでも、と雄介は続けた。

 

「笑った顔も、本当の祐斗君ですから」

 

それだけ言い残して、雄介は祐斗の後を追いかけた。

 

                      ☆

 

祐斗は土砂降りの中を傘もささずに歩いていた。

冷たい雨が熱で上がった思考をいい感じに冷やしてくれている。

祐斗は“木場祐斗”を与えてくれた恩人に反抗したことを激しく後悔していた。

だが、どうしても聖剣への復讐を忘れることはできなかった。

今でもあの時の悪夢を思い出せる。

犠牲になった同志たちのことを思うと、これ以上の幸せを得ることを自ら拒む。

そんな感じで自信を戒めていると、雨に打たれる感覚がなくなった。

ふと上を見上げると、目の前にはくすんだ灰色の空ではなく、鮮やかな空色が広がっていた。

 

「風邪ひいちゃうよ」

 

後ろから聞き慣れた声が聞こえた。

振り向かなくても誰だかわかる。

 

「何しに来たんだい?」

 

そのまま祐斗は静かに訊ねた。

 

「俺は悪魔じゃないからね。心配だから、っていう理由じゃダメかな?」

 

空色の傘を差す雄介も静かに答えた。

 

「さっきリアスさんから聞いたんだ。祐斗君のことや、聖剣のこと」

「…」

 

雄介の言葉に祐斗は沈黙を示した。

 

「俺はいつでも祐斗君の力になるよ」

「…ふざけるな」

 

しばしの沈黙の後に返ってきたのは祐斗のドスの効いた声だった。

 

「一度でも生きることに絶望したこともないキミに、僕の気持ちがわかるわけがないだろ…!」

 

それは同意を求めるものではなく、肯定を示す言葉。

振り向いた祐斗の視線は今まで見たことのないほどの怒りを露わにしていた。

今にも襲ってきてもおかしくない様子だ。

だが雄介は笑顔で祐斗の殺気を受け止めながら口を開いた。

 

「あたりまえだよ」

 

予想外の返答に当惑を隠せない祐斗に構わず雄介は続ける。

 

「人の気持ちになるなんて、誰にもできないよ。…思いやることなら、なんとかできるけ

どね」

 

同情でもなく、侮蔑でもない、祐斗の全てを受け入れようとする雄介の言葉が心に響いた。

 

「俺たち友達なんだから、もうバンバン言ってくれていいんだよ!…ね?」

 

雄介がそう言った時だった。

 

ぴちゃ

 

雨とは違う水の音を捉えた。

視線を向けると2人の眼前に神父がいた。

十字架を胸につけ、神の名のもとに聖を語るその人物は今の祐斗に接触させてはいけない存在である。

雄介はこのまま戦闘になるかと思っていたが、実際はそうはならなかった。

よく見ると神父の腹部は血で滲ませ、口から血反吐を吐くと、その場で倒れ伏した。

 

「「ッ!」」

 

何が起こったのかわからないでいると、2人は異常な気配を察知した。

瞬時に雄介は横に跳んでその場を離れ、祐斗は魔剣を創り出した。

 

ギィィィインッ!

 

雨の中で銀光が走り、火花が散った。

殺気を向けた者は今さっき絶命した聖職者と同じ格好をした神父だった。

 

「やっほ。おひさだね」

 

嫌悪を覚える笑みを見せる神父を認めた時、祐斗は不快な表情を見せた。

 

「…まだこの町に潜伏していたようだね?今日は何の用かな?悪いけど、今の僕は至極機嫌が悪くてね」

 

祐斗は眼前の神父、フリード・セルゼンに怒気を含んだ口調で告げる。

だが、フリード本人は嘲笑うだけで軽く流した。

 

「そりゃまた都合がいいねぇ。おれっちとしてはキミとの再会劇に涙涙でございますですよ!」

 

相変わらずのふざけた口調が祐斗の神経を逆撫でする。

 

「祐斗君、知り合い?」

 

隣にいる雄介が訊ねた。

 

「イヤな意味でね。名前はフリード・セルゼン。いつか話したはぐれ悪魔祓いだよ」

 

簡単な説明だったが雄介は以前の堕天使との一戦で祐斗と剣を交えた神父だと理解できた。

すると、フリードが雄介に視線を向けてきた。

なるほど、話で聞いた通り目を合わすだけでも殺気を感じさせるほどの危険人物だった。

 

「おんやぁ?そう言うそちらさまは初めて見る顔だね?もしかしなくても、その悪魔君の知り合いかなかNA?」

「…友達だよ」

 

目の前のイカれた神父に警戒しながら雄介はアークルを出現させ、祐斗は左手に新たな魔剣を創り出した。

 

「なるほどなるほど。つまりキミはそっちタイプの人間ってことか。なら、ここで殺っちゃっても問題ナッシング!だネ」

 

フリードがニヒルな笑みを浮かべると、彼の持つ長剣が聖なる光を発した。

その光を目にした祐斗はさらに憎しみの色を濃くした。

 

「実は丁度、神父狩りに飽きてたところでさぁ…」

 

フリードが足元に転がる神父の死体を踏みにじり、蹴とばした。

 

「お前さんの魔剣と俺様の聖剣、どちらが上か試させてくれないかNA?もちろん、お礼は殺して返すからさ!」

 

フリードは殺気で歪んだ笑みを浮かべたまま、手に持つ聖剣エクスカリバーを振るってきた。

隣にいた祐斗も迎え撃つように駆け出した。

 

「祐斗君!?」

 

甲高い音ともに2本の闇剣をクロスさせて聖剣を受け止める。

しかし、闇の剣が聖なる光を喰らう前に刀身が折れた。

聖剣の刃が祐斗に迫る寸前、祐斗は後ろに跳んで斬撃をかわした。

さすがに、聖剣の脅威を理解するほどの冷静さは残っているようだ。

 

「ヒャッホウッ!」

 

すかさずフリードが聖剣で横なぎに斬りかかってくる。

 

「クッ…!」

 

瞬時に祐斗は新たな魔剣を創り出して一閃を防ぐ。

だが競り合った数秒後、すぐに2本の魔剣が悲鳴を上げた。

 

「チッ…」

 

珍しく舌打ちした祐斗は咄嗟に身体を反らして難を逃れた。

その際に髪の毛の毛先が宙を舞った。

そんなこと気にせず祐斗はその場からバク転し、一度フリードと距離を取った。

だが、着地とともに膝から崩れてしまった。

体の内側から力が抜けていく感覚が祐斗を襲った。

雨に打たれているにも関わらず、気が付くと頬に焼けるような痛みが走った。

手の甲で頬を擦るとわずかに血が滲んでいた。

おそらくかわした時に頬を掠ったのだろうと理解した。

同時に掠っただけの威力に畏怖を覚えた。

だが、それでも憎悪に染まった表情は崩さない。

 

「ヒュー!さっすがは聖剣エクスカリバー。くそ悪魔の魔剣もざっくりいっちゃうなんて、伝承に伝わる力は伊達じゃないNE!」

 

聖剣の光がフリードの異常な笑みに狂気の影を映し出す。

 

「さてさて、そんじゃ、次行ってみよう!」

 

再びフリードが祐斗に向かって走り出す。

対する祐斗も迎え撃てるように三度、創り出した魔剣を構える。

 

「変身!」

 

しかし、両者の間にマイティクウガに変身した雄介が割り込んだ。

フリードの腕にしがみつきながら、仮面越しに不快を誘う笑みを睨みつける。

 

「はっ!くそったれな人間のくせに神器持ちたぁ生意気だねイ!」

「…」

 

フリードは勘違いをしているようだが、場合が場合だ。

何より、指摘される度にいちいち説明するのが面倒なので雄介は何も言わなかった。

 

「雄介君!これは僕の戦いだ!邪魔をするな!」

「だからって放っておけるわけないだろ!」

 

背後で祐斗が激昂してきたが、雄介は声を荒げて言い返した。

 

「ちょっとちょっと!おれっちを無視するなんてひどいじゃないのヨ!」

 

フリードが雄介の腹部を蹴りつけて、引きはがした。

 

「そんなに急がなくてもなぁ、そこのクソ悪魔を殺したらさぁ、すぐに殺してやるからよぉ、おとなしく引っ込んでろぉッ!」

 

一気に接近してきたフリードが聖剣を逆袈裟方向に斬り上げた。

 

「ガアッ!?」

 

雨が降りしきる中で火花が散った。

頭を大きく揺らしながら邪悪な笑みを浮かべるフリード。

雄介にとって、初対面の人間に対し今までにないほどの恐怖を抱いたのは初めてだった。

そんなことを思っていると、フリードの足取りが祐斗に向いていた。

当の祐斗は聖剣のダメージでまだ動けないでいた。

それを見た雄介は近くに転がっていた傘を拾い上げると、一気に駆け出した。

 

「超変身!」

 

雄介はマイティフォームからドラゴンフォームに超変身すると同時に、持っていた傘もドラゴンロッドに変形させる。

すぐさまドラゴンフォームの速度でフリードの前に躍り出た。

丁度、祐斗を仕留めようとしていた一撃をドラゴンロッドで受け止め、再び抑え込んだ。

 

「させないよ。絶対に…!」

「オタクもしつこいねぇ…。もしかしてボクちゃんのファン?」

「はあぁあっ!」

 

返事をする代わりに雄介はふざけるフリードを競り押し、わずかに彼の体勢を崩した。

すかさず雄介は、その隙をついてドラゴンロッドを突き出した。

 

「おっと、アッブネ…!」

 

フリードは反射的に横に跳んで攻撃をかわした。

だが、次に見た時には、雄介の姿が視界から消えていた。

辺りに視線を巡らせていると、頭上に気配を感じた。

即座に上を見上げるとドラゴンロッドを振るう雄介がいた。

 

「んなっ…!?」

 

呆気にとられながらも再びギリギリのタイミングでかわすフリード。

 

「うっぜえんだよっ!」

 

すぐに両断しようとフリードが斬りかかってきた。

しかし聖剣が雄介を捉える寸前、一瞬にして雄介の姿が弾けるように消えた。

 

「はぁっ!?」

 

当惑しながらもフリードは気配を探ろうと試みるが、直後に身体の自由が利かなくなった。

 

「ンだこりゃあっ!?」

 

気が付くとフリードは、背後に回り込んだ雄介に羽交い絞めにされていた。

 

「はーなーせコルァッ!」

 

逃れようと盛大に暴れるフリードだが、首の後ろをドラゴンロッドで固定され、完全に自由を奪われている。

とりあえずこのまま彼の手から聖剣を奪えば問題は解決するはずだ。

丁度、雄介がその後の処理について考えていた時だった。

 

「―ッ!?」

 

本能的に何かを察知した雄介はフリードを突き飛ばし、その場から離れた。

甲高い音がした後、2人のいた足元に一本の光の槍が突き刺さっていた。

何事かと思い視線を上げると、頭上に一対の黒い翼を広げる堕天使たちがいた。

全部で3人の堕天使が雄介に立ち塞がるようにフリードの前に舞い降りる。

 

「こんなところで油を売っていたのか、フリードよ。その聖剣は貴様のおもちゃではないのだぞ?」

 

堕天使のひとりが呆れ気味に嘆息した。

 

「いやいや、わざわざご足労かけてすいませんねぇ。いやね?とにかく聖剣に慣れろと言われたもんだから私なりに努力していたわけなのですよ、はい」

 

別の堕天使が、手を捏ねながら調子の良さそうなことを言うフリードの仕草を興味なさげに一瞥しながら呟いた。

 

「とにかく、一度戻れ。ガリレイ殿がお待ちだ」

「了解しました!そんじゃお二人さん。ボクちゃんはこれで失敬させてもらうけど、また機会があれば正々堂々、存分に殺し合おうジェイ!」

 

指でJの字を形作りながらそう言い残し、フリードは足早にその場から去って行った。

 

「待て!フリード!」

 

フリードの行為に声を荒げたのは祐斗だった。

どうやらすでに聖剣の毒気は抜けていたようだ。

立ち上がり、“騎士”のスピードで駆け出した。

 

「祐斗君!」

 

残念ながら、雄介の叫びは届かなかった。

 

「ひとり逃がしたか。…まあいいだろう」

 

もう一人の堕天使が面倒臭そうに呟き、視線を残った雄介に向けた。

 

「生憎、我々の計画を知る者に生きていられるといろいろと面倒なのだ。貴様に恨みはないが、ここで消えてもらう」

 

唐突に殺意を向けられ、どうやら戦闘は避けられそうにないと悟った。

腹をくくり、雄介は堕天使たち向かってゆっくりと歩を進め始めた。

すぐに堕天使たちが光の槍を形成し、投擲する。

だがドラゴンロッドを振るい、飛来する光槍を弾き返した。

その光景に多少驚いた様子を見せる堕天使たちだが、すぐに第2、第3の槍を放ってきた。

しかし、そのどれもドラゴンロッドで叩き落された。

逆に地に落ちる光の槍が次々と爆発を起こし、煙が雄介の姿を隠すことになった。

煙幕の向こうで雄介の次に手を警戒していると、不意に堕天使の一人の体が前方に飛んだ。

すぐに一人の堕天使が光の槍で襲い掛かってきた。

何もできず地面を転がる堕天使。

その背中で封印の古代文字が雨の中で爛々と光を放っていた。

 

「ガッ…ぐぅっ…がああアアアアああッ!」

 

ふらついた足取りで立ち上がった時には、堕天使は断末魔とともに爆音が響いた。

残り2人の堕天使が後ろを向くと、ドラゴンロッドを突き出すクウガの姿がいた。

同志の最期に戦慄する残りの堕天使たちが即座に光の槍で襲ってくる。

だが、雄介はドラゴンロッドを巧みに扱い攻撃を捌いていく。

振り下ろされる槍を受け止めたところで、もう一人の堕天使が飛び掛かってきた。

光の槍が雄介を斬りつける寸前、再び雄介の姿が弾けるように消えた。

斬撃が空を切り、堕天使たちは周囲を見渡していると音もなく目の前に雄介が出現する。堕天使の動きが一瞬止まったところをすかさず、腹部にスプラッシュ・ドラゴンを決める。

すぐにもうひとりの堕天使が仕掛けてきたが、三度姿を消した。

今になって実力の差を知り、畏怖を覚えた堕天使は辺りを警戒する。

背後に気配を感じ、振り向いた時には光の槍が手元から弾かれ、脇腹にスプラッシュ・ドラゴンを叩き込まれていた。

先ほどと同様に、封印の古代文字が発光し、堕天使は爆発した。

雨で炎上する炎が鎮火される様子を見ながら、雄介は内心でやはりと思っていた。

ドラゴンフォームは水を司るクウガの特殊形態である。

雨の降りしきる天候が味方し、雄介に更なる瞬発力を与えてくれたのだ。

それはさておき、変身を解いた雄介が今後のことについて考えていた時、足元でカンッ、という聞き覚えのある音が聞こえた。

何気なく足元に視線を向けると、いつか見たように光の槍が地面に深々と突き刺さっていた。

長年に亘って培われた本能がまずいと警鐘を鳴らした時には、雄介は突然の爆発に飲み込まれてしまっていた。




先日、プレミアムバンダイでウィザードスタイルのパーカーを購入しました。
地味に高かったすねぇ…(´▽`*)

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