仮面ライダークウガ 青空の約束   作:青空野郎

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EPISODE26 平穏

とある空地にそれは現れた。

そこには以前1軒の教会が立っていたのだが、とある事情で全焼してしまい今は空き地として放置されていた。

その場所に突然、オーロラのような揺らぎが発生した。

ただ、そのオーロラは誰もが知る色鮮やかなものではなく、灰色のような鈍く、くすんだ

光を放っている。

すると、カーテンのような揺らめきの中から一人の男性が現れた。

それをきっかけにオーロラは景色に溶け込むように消えていった。

一人残された男性。

空き地に風が吹くと男性のロングコートが揺れる。

 

「ここが新しい旅の舞台か…」

 

周りの景色を一瞥した後、男は晴れ渡る青空を見上げた。

そして何を思ったのか、コートのポケットから取り出したのは1枚のカード。

緑の複眼とマゼンダカラーをベースに黒いラインがバーコードのように並んだ仮面の戦士が描かれていた。

 

「ま、なんとかなるだろ」

 

しばらくカードを見つめていた男だが、気を取り直したように歩き始めると、首にぶら下げた二眼レフのトイカメラが踊るように揺れた。

 

                      ☆

 

ある日の朝、雄介はとっくの昔に目を覚ましていた。

ただ、目は覚めているのだが、ベッドから出れないでいた。

 

「はあ…」

 

思わずため息が漏れた。

 

「うぅん…。すぅ…すぅ…」

 

横から艶めかしい吐息が耳をくすぐり、チラリとその原因に目を向けた。

そこにいたのは紅髪の美女、我らがオカルト研究部の部長、リアス・グレモリーさま。

そのまま視線を落とすと自分の左腕がリアスに抱き着かれていた。

その極めつけが今の状況である。

毎晩いつの間にかベッドに潜り込み、朝目覚めると隣で抱きつかれている。

…裸で。

一誠なら泣いて喜びそうな画である。

初めてこの状況を目の当たりにしたときは思わず叫びそうになった。

一度、寝る前に扉や窓に鍵をかけたことがあった。

だが、彼女にとってその程度のセキュリティでは何の障害にも成り得なかった。

逆にリアスの機嫌を損ねる結果になってしまい、満足するまで解放してくれなかった。

…裸で。

そして、すでにこの抱き枕状態が何日も続いていた。

しつこいようだが、裸で…。

状況が状況なので、一度目が覚めると二度寝などできやしない。

ただ今回は腕だけだということを考えると、比較的マシな方だった。

ひどい時には全身抱きつかれて身動き一つできなかった。

 

「…ぅん…」

 

フニ

 

「―――ッ!」

 

リアスが雄介の左腕を抱く腕に力を込めた。

訂正、実際そうでもないかもしれない。

二の腕から伝わるリアスの体温と柔らかなふたつの大きな膨らみが雄介の理性を刺激する。

下手に動こうとすれば理性が決壊しかねないので動けない。

思春期真っ只中の雄介にとって、この状況はまさに生き地獄以外の何物でもない。

そんなことがありながらも、今まで一線の越えなかった自分を褒めてもいいはずだ。

 

「…あら、起きてたの?」

 

迫りくる誘惑と格闘していると、目を覚ましたリアスが声をかけてきた。

 

「お、おはようございます…。リアスさん…」

 

ひきつった笑顔で何とか挨拶をする雄介。

対して、リアスは悪戯っぽい笑みを浮かべると、さらに雄介の腕を抱く力を込めてきた。

狭い面積全体に柔らかな感触が伝わってくる。

胸がああああああっ!太ももがああああああっ!

思わず意識がそっちに集中してしまう。

 

チュッ

 

「!!!?」

 

今度は頬にキスされた。

 

「おはよう。雄介」

 

ささやく様な声で、リアスは頬を赤く染めながら小悪魔的な視線で見つめていた。

 

                      ☆

 

その日のお昼時、一般的な飲食店にとって一番の仕入れ時である。

それはポレポレも同じだ。

 

「4番テーブル、ポレポレランチ3つ入りました!」

 

「了解!」

 

「カウンターのお客様、ナポリタン追加です!」

 

「わかりました!」

 

この日のポレポレは珍しく早い段階で満席になった。

一組が出れば入れ替わるように別の一組が席に着く。

かつてないほどの盛況で雄介は調理場を右往左往していた。

ここまで忙しいのは初めてかもしれない。

いつもならカウンター内で新聞を読んでいるおやっさんも店内を走り回っていた。

そしてもうひとり、店の中を走る人物がもう一人。

 

「ポレポレランチできました!」

 

雄介が注文された料理をカウンターに置いた。

 

「わかったわ」

 

料理を手に取りテーブルに運ぶ。

彼女が通り過ぎるとその場にいる全員が振り返る。

そのほとんどが男性客。

中には料理そっちの気で彼女に見とれる客もいた。

 

「お待たせしました。ポレポレランチになります」

 

ポレポレのエプロンを身に着けたリアスが笑顔で接客していた。

 

                      ☆

 

「ありがトーテムポールさん」

 

おやっさんがダジャレで最後の客を見送り、ポレポレはようやく休憩に入った。

そのままおやっさんは材料の在庫を確認するために店の奥に引っ込んだ。

 

「あぁあぁぁ、疲れたぁ…」

 

調理場で格闘していた雄介はカウンターにへばり込んで疲労をさらけ出す。

頬から伝わるカウンターのひんやりとした感覚が妙に気持ちよかった。

体力的にはまだ平気だと言えるが、さすがに慣れない状況に身を置くと精神的に来るものがある。

だが、経営面ではいいことなので文句はない。

 

「お疲れさま、雄介」

 

声をかけられ体を起こすと、リアスがお茶を出してくれた。

 

「ありがとうございます。リアスさんもお疲れ様です」

 

一言労をねぎらって雄介はお茶を一口含んだ。

お茶の仄かな苦みが疲れの溜まった体に沁み渡り、思わずため息が出た。

何とも言えない脱力感に浸っていると、不意に左半身に柔らかな重みを感じた。

視線を向けると、隣に座ったリアスが雄介に体重を預けるように肩にもたれかかってきた。

雄介の二の腕に押し当てられる大きな胸が、ふにゅんと形を変える。

 

「…リアスさん?」

 

すでに何度か似た状況に遭遇した雄介だがやはりなれないものは慣れないというのが正直な気持ちだった。

 

「働くというのもいいものよね」

 

雄介の気も知らずにリアスが語り始める。

 

「悪魔の仕事をやり遂げた時の達成感も素晴らしいわ。けど、今みたいに義務的なものではなくて、こうやって…好きな人と…一緒に働く充実感は何物にも代え難いわ」

 

こてん、とリアスは頭を雄介の肩に乗せながら呟く。

リアスの動きと連動し、彼女の紅い髪がさらりと揺れる。

紅髪から漂う仄かな甘い香りが雄介の鼻孔をくすぐる。

 

「え…?」

 

リアスの甘える仕草に緊張してしまい、彼女の言った内容の一部を聞き逃してしまった。

 

「フフ。なんでもないわ。ただ、あなたがいなければ今の私はここのはいなかった。本当に感謝しているわ、雄介」

 

甘えるような声でリアスは雄介の腕を抱きしめながら上目使いで見つめてきた。

 

「―――ッ!」

 

心臓を射抜かれるような感覚と見詰め合う事に羞恥を覚え、雄介は思わず視線を逸らした。

 

ぐうぅぅぅぅ…

 

いろいろな意味で危険を覚えたところに、何とも言えない無言の空気に腹の虫が鳴る音が無駄によく聞こえた。

 

「…?」

 

「…」

 

リアスが不思議そうにしている隣で雄介は別の類の羞恥を覚えていた。

今思えば、開店時からまともに休憩を取っていなかったのだ。

タイミング的に良かったのか悪かったのかの議論はこの際どうでもいい。

 

「そういえば、お昼はまだだったわね?フフフ。ちょっと待ってて。今から何か作るから」

 

可笑しそうに笑うリアスは席を立ち厨房に入っていった。

 

「じゃあ俺、その間表掃除してきまぁす…」

 

そう言い残して、雄介は気分転換もかねて外に出た。

 

「はあぁぁぁぁあ~…」

 

表に出るなり、雄介は盛大な溜息を吐き出した。

ふと上を見上げると、いつもと変わらない青空が広がっている。

 

「ん、ンン~…!…はぁっ」

 

雄介は青空に向かって深呼吸しながら背伸びをした。

外の澄んだ空気が心地よく感じることができた。

そして何げなく、後ろを振り向いた。

視線の先にあったのは、空高くそびえる新築の建物。

 

「はあ…」

 

無意識にまたため息がこぼれた。

雄介はあの、始まりの日を思い出していた。

 

                      ☆

 

その日の早朝、いつものように雄介は目を覚ました。

ムクリと体を起こすが、ベッドから出るそぶりをみせなかった。

頭の中は昨日のリアスのキスことでいっぱいだった。

一夜明けた今でも、意識すればあの柔らかな感触を思い出せた。

途端にカッと顔が熱くなった。

押し寄せる羞恥を振り払うように首を振ると、ベッドを抜け出して自室の窓を開けた。

差し込む朝日に眩しさを感じながら、新鮮な朝の空気をめいっぱい吸い込む。

背伸びをしていると、ふと、目の前の景色に違和感を覚えた。

 

「…え?」

 

思わず間の抜けた声が出た。

一夜にして、ひとつ通りを挟んだ向こう側に巨大な建物が出現していたのだ。

普通なら驚きはするが、動作が止まるほどではない。

ただ、大きさが尋常じゃなかった。

敷地はポレポレの倍を軽く超え、高さは少なく見積もっても6階はあるだろうか…。

マンションだと言われても頷けるほどの真新しい、立派な一軒家がそびえ立っていた。

突然のことで軽くパニックを起こすが、こんなことをしでかしそうな人物に心当たりがあった。

雄介はすぐに部屋を飛び出し、階段を駆け下りる。

 

「おやっさん大変だ!お隣さんが―」

 

ポレポレの店内に顔を出すと、言葉を失った。

 

「あら、おはよう。雄介」

 

雄介に挨拶をしたのは、今まさに思い浮かべていたリアスその人だった。

この時間にリアスがポレポレを訪れることは別に珍しいことではないのだが、この時はいつもと違っていた。

 

「なんで…?」

 

雄介は挨拶を忘れて目の前のリアスを見つめていた。

 

「フフ、どう?似合うかしら?」

 

あどけない笑みを浮かべるリアスはポレポレのエプロンを着用し、朝食の準備をしていたからだ。

お玉片手に味噌汁を作る彼女のエプロン姿は様になっている。

 

「おお、起きたか雄介」

 

何が起こっているのか分からず戸惑っていると、カウンターの端で新聞を読んでいたおやっさんがのんきな挨拶をしてきた。

 

「おやっさん、これは…?」

 

だが、まず雄介は現時点の状況についての説明を求めた。

 

「ああ。それじゃ、紹介するよ」

 

おやっさんは新聞をたたみながら立ち上がり、リアスに手を向けた。

 

「今日からここで働いてもらうことになったリアス・グレモリーちゃんだ」

 

おやっさんの紹介に促されるように、リアスが満面の笑みを向けた。

 

「よろしくね、雄介」

 

「…へ?」

 

だが雄介はしばらくの間、今の事態が呑み込めなかった。

ただ、その日にリアスが作った朝食が、まぁおいしかったことおいしかったこと…。

あの後リアスから話を聞いて、やはり思った通り、突如出現した建築物はリアスの新居だった。

ただ、新居の敷地面積は一般的な一軒家の3~4倍は軽く超えていた。

以前までそこに住んでいたお隣さんは、急に好条件の土地が手に入ったらしく、そっちに引っ越したそうだ。

裏で間違いなくグレモリー家が絡んでいるとすぐに察しがついた。

さすがグレモリー家、恐るべし…。

正直、もう何でもありだと思った。

 

「大丈夫よ。平和的な解決だったわ。みんな、幸せになれたのよ」

 

サムズアップしながら笑顔で自慢げに言うリアスを見ていると、さすがの雄介もツッコむことをあきらめた。

今思うと、その日からこの手のスキンシップが格段に増していた。

登下校時に腕を組んでくる他、暇さえあればいきなり抱きついて来たり、膝枕を誘って来たりなどをしてくる。

何度か抵抗の意思を見せるとその度に本気で泣かれそうになるので、今はもうされるがままになっている。

休みの日には朝からポレポレを手伝い、バイトが終わるとしばらくは雄介の部屋で雄介に甘えてくる。

やっと自宅に帰ったと安心し眠りにつくと、次の朝には生まれたままの姿でベッドに潜り込んでいる。

ここ毎日はその繰り返しだ。

つまり、リアスは悪魔稼業以外で1日のほとんどの時間を雄介宅で過ごしていることになる。

そうなると時々、リアスの新築の存在意義を本気で考えてしまうことがあり、以前に一度それとなく彼女に訊ねてみたことがあった。

 

「少しでも雄介のそばにいたかったの」

 

と、答えられた時には何も言えなかった。

もう何が何だか。

逆に笑うしかなかった。

 

                      ☆

 

「ふぁわあぁ~…」

 

4時限目の授業が終わり、雄介は盛大にあくびをかました。

 

「寝不足か?」

 

隣の席に座る一誠が訊ねてきた。

一誠の後ろでアーシアが心配そうに見つめているのが見えた。

 

「ん?うん。まあ…少しね」

 

雄介はそれとなくごまかした。

毎晩リアスさんに全裸で抱き着かれてるんだ、などと馬鹿正直に告白すれば一誠が発狂することは間違いないだろう。

 

「時に五代…」

 

「うわっ!?びっくりした…」

 

突然、背後から話しかけられ後ろを振り向く。

そこにいたのは一誠の悪友である松田と元浜。

元浜が眼鏡を上にあげる仕草とともに、レンズがギラリと光を反射した。

 

「ここ最近、お前がリアス先輩と一緒に登下校しているという情報をつかんだのだが…?」

 

「―――!」

 

その話題は個人的にタブーな話題だった。

思わず視線を逸らす。

 

「あまつさえ腕を組みながらという所業!説明を求める!」

 

号泣しながら松田が詰め寄ってくる。

 

「マジか、五代!それは初耳なんだが!?」

 

いつの間にか、鼻息を荒らしながら近づく一誠に挟まれる形になった。

 

「いや、そのぉ…。えぇと…」

 

3人の妙な威圧感に雄介は内心で冷や汗をかいていた。

何とか切り抜けようと思考を張り巡らす。

 

「ア。ソウダ。俺、購買デパンデモ買ッテコヨウカナァ…」

 

若干の棒読みをして逃走を試みる。

素早い動きで3人の包囲網をかいくぐり、そのまま教室の出入り口に向かう。

 

「あ!待ちやがれ五代!」

 

後ろの方から一誠が停止を呼びかけてくるが、それで足を止める雄介ではない。

一秒でも早くこの場を切り抜けたいと思った雄介は乱暴に扉を開け放つ。

だが廊下に一歩踏み出した時、目の前に誰かがいたのが見えた。

危ないと思った時にはもう遅かった。

咄嗟に勢いを殺すことはできたが、慣性の法則の働きで雄介は目の前の人物とぶつかってしまった。

しかし、予想された痛みはなく、ふにゅんと柔らかくも温かい感触を顔全体に感じた。

不思議に思い雄介は顔を上げた。

 

「あら、よかったわ。まだここにいてくれて」

 

わずかに頬を赤く染めながら笑みを向けるリアスの顔が眼前にあった。

どうやら雄介は頭からリアスの胸にダイブしてしまったらしい。

温かい体温に、柔らかなふたつの大きな膨らみ、紅髪から漂うほのかないい匂い。

 

「…いや、あの、わざとじゃないんですけど…ごめんなさい…」

 

謝りながら、雄介はゆっくりと胸から離れる。

うれしいハプニングではあったが、喜んではいられない。

唐突に話題に出ていた人物が現れたのだ。

自然と周りの視線が集まり、ざわめく声が聞こえる。

目の前の光景に硬直する者もいる。

だが、そんな雰囲気を無視するようにリアスが訊ねてきた。

 

「フフ、別にいいわよ。それより雄介、お昼はまだよね?」

 

「え?ええ…」

 

戸惑いながらも頷く雄介は自然と嫌な予感を覚えた。

軽く警戒していると、リアスは手に持っていた小さな風呂敷に包まれた物を雄介に見せた。

 

「お弁当作ってきたの。部室で食べましょ?」

 

その場にいた全員の耳にリアスの言葉がエコーして聞こえた。

 

「…え?」

 

リアスの言葉で開きかけていた口が止まった。

 

「ぶ、部長…。そ、それは、一体…?」

 

雄介の後ろで一誠がよろしくない滑舌で喋りながら、震える指でリアスの持つ弁当箱を指さした。

そのそばでなぜか松田と元浜がガタガタと震えていた。

雄介はこれ以上の事態の悪化は避けたく思い、無言で首を横に振りながらリアスにアイコンタクトを送る。

 

「お家でお世話になってるんだから、お弁当を作るくらい当然でしょ?」

 

残念ながら、雄介の淡い願いは儚く砕け散った。

その瞬間、教室内とその周辺がシンと静まり返った。

雄介はバツが悪そうに片手で顔を覆った。

 

「「「ご~だ~い~くぅん~…?」」」

 

凍てつくような静寂の中で、背後から地の底から呻くような声をかけられた。

振り向くと、ふらついた足取りでこちらに歩み寄ってくる松田、元浜、そして一誠の3人。

なんか、3人の雰囲気が怖かった。

 

「…」

 

視線を戻すとリアスが邪気のない笑みを浮かべている。

ここまで来ると逆に思考がクリアになった。

雄介は上を見上げながらしばし瞑目する。

そして、明瞭になった思考でとった行動はひとつ。

 

「おおおおおおおっ!」

 

何の前触れもなく、雄介はリアスの手を握りながら廊下を駆け抜けていった。

その間に雄介に向けられる突き刺すような視線や阿鼻叫喚の叫びはこの際無視することにした。

 

                      ☆

 

「はい。雄介、あ~ん」

 

「あ、あーん…」

 

あの後、全力疾走で部室に着くなりソファーに座るリアスが弁当の卵焼きを掴んだ箸を雄介の口元に運んできた。

もしかしなくても、あの嬉し恥ずかしの『あ~ん』というやつである。

ドキドキしながらも、雄介は口を大きめに開けて待ち構える。

卵焼きを口に含み、ゆっくりと咀嚼すると卵の甘さとほど良い塩加減の絶妙な調和が口の中に広がってくる。

 

「あ、おいしい…」

 

雄介の感想に、リアスが無邪気な子供のような笑みを浮かべる。

 

「フフ、よかったわ。それじゃ、雄介。あ~ん」

 

弁当が半分ほど減ったところで今度はリアスが口を開けてきた。

 

「え、えと…。リアスさん?」

 

「あ~ん」

 

雄介の疑問にリアスは頬を赤らめたまま口を開いて待ち構えるだけ。

要するに、自分にも『あ~ん』で食べさせてくれということだ。

 

「…はあ」

 

抵抗をあきらめた雄介はおずおずとリアスの手から箸を受け取った。

そして弁当箱の中からから揚げを掴み、緊張を覚えながらリアスの口元に運ぶ。

 

「はい、あーん…」

 

子供のような笑みを浮かべながら咀嚼するリアスがとてもかわいく見えた。

やがて雄介は最初から最後まで『あ~ん』でお弁当を食べ終えた。

 

「ごちそうさまでした」

 

「お粗末さまでした」

 

食べている間がとてつもなく長く感じられた。

リアスはそんな雄介を見ながら嬉しそうに微笑んでいた。

 

「そうそう、雄介」

 

不意に、弁当箱を片付けながらリアスが思い出したように話しかけてきた。

 

「今日のオカルト研究部会議はイッセーのお家で行おうと思ってるの」

 

「イッセー君の家で、ですか?」

 

「えぇ、実はそろそろ旧校舎を全体的に掃除する時期なの。だから今日使い魔たちに掃除させようと思って」

 

「でも、なんでイッセー君の家なんですか?」

 

雄介はどうせならリアスの馬鹿でかい新居でもいいのではと内心で思っていた。

 

「雄介はアーシアが今イッセーのお家でお世話になっているのは知ってるでしょう?今回の活動はその様子見も兼ねてるの」

 

「あぁ、なるほど…」

 

その説明で雄介は納得した。

丁度その時、昼休みの終わりを告げるチャイムが鳴った。

 

「それじゃ、雄介。またあとでね」

 

チュッ

 

去り際にリアスが雄介の頬にキスをして部室を後にした。

 

「…」

 

雄介は授業開始寸前まで呆然としていた。




リアスのパートだけで聖剣に全く触れなかっただと…?

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