仮面ライダークウガ 青空の約束   作:青空野郎

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EPISODE23 装甲

雄介と祐斗がライザーの“兵士”4人を倒して一息ついた束の間、小猫が脱落したというアナウンスが聞こえた。

あらかじめリアスから説明は受けている。

ゲーム参加者が戦闘で再起不能と判断された場合、リタイヤとなってフィールドから強制的に転送されてしまうのだ。

そして、脱落者は転送先の医療施設が整ったエリアで治療を受ける。

小猫だけでなく、先ほど倒したライザーの眷属たちも同様の処置を受けることになっている。

別に死んだわけでもないのだが、仲間がやられたという事実は受け入れがたいものだ。

 

「小猫ちゃん…」

 

祐斗が悲しそうに呟く。

 

「大丈夫だよ」

 

その隣で小猫を見送っているのだろうか、真っ白な空を見上げながら雄介が言う。

 

「小猫ちゃんがやられたのは悔しいけど、まだ勝負は終わっていないんだ。きっちり勝って、後で小猫ちゃんに報告しに行こうよ」

 

雄介は自分の決意をサムズアップで表した。

もちろん、その意を汲み取らない祐斗ではない。

 

「そうだね。じゃあ、僕は一度イッセー君と合流するけど、雄介君はどうする?」

 

「俺はもう少しここに残って他に敵がいないか探してみるよ」

 

「わかった。それじゃ気を付けて」

 

「うん、祐斗くんもね」

 

互いの健闘を祈り、祐斗はその場を離れた。

その後、雄介はしばらくの間は足で周辺の探索を始めた。

やがて周辺に敵はいないと分かり、手段を変える。

 

「変身!」

 

雄介はアークルを出してクウガ・ペガサスフォームに変身し、以前リアスにもらった拳銃を取出しペガサスボウガンに変形させる。

そしてペガサスボウガンのトリガーを引いて弾丸を装填する。

雄介の意思に反応したのか、すぐさまゴウラムが飛来し、雄介の頭上で停止する。

 

「よろしくね、ゴウラム」

 

『@■〒○%♪ΩЖ∀』

 

雄介はゴウラムの脚を掴み、ゴウラムは理解不能な音声を発しながら上昇を始めた。

丁度、フィールド全体を見渡せる位置で停止し、ペガサスフォームの超感覚で森林地帯を詮索するが、敵の存在は感知できなかった。

ついでに辺りを見渡すとグラウンドでは一誠と祐斗が第2回戦を始めていた。

すぐに加勢に加わろうと思ったが、

 

「あれは…」

 

爆音が聞こえ別の方向に目を向けると、はるか遠くに朱乃の姿を認めた。

 

                      ☆

 

朱乃はテニスコート上空でライザーの“女王”ユーベルーナと戦っていた。

朱乃の雷とユーベルーナの爆発がぶつかり合うが、競り勝ったのは朱乃だった。

ユーベルーナは衝撃で地面に墜落する。

 

「“雷の巫女”。ここまでとは…」

 

ダメージの溜まった体を起こしながら、ユーベルーナは忌々しげに“雷の巫女”という通り名を持つ朱乃を見上げる。

 

「でも、あなたの魔力もすでに―」

 

「ご心配なく」

 

何かを言おうとするユーベルーナを遮る朱乃の巫女衣装はぼろぼろで、かなりきわどいことになっている。

しかし、その瞳はSの輝きが爛々と煌めいていた。

 

「少し休めば回復いたしますもの」

 

「ふん。そんな余裕、あるのかしら?」

 

余裕の笑みを浮かべたユーベルーナは懐から小さな小瓶を取り出した。

 

「それは…!?」

 

それを見た途端、朱乃の顔色が変わった。

 

「かかったわね」

 

ユーベルーナが持つ小瓶の中身はどんな傷も完治させるという“フェニックスの涙”。

規格外のアイテムだがルール上、2つまで使用することが認められている。

ここで彼女に完全回復されたら、朱乃の勝利は0に等しくなってしまう。

戦慄する朱乃の前でユーベルーナが小瓶の蓋を開け、フェニックスの涙を浴びようとした時だった。

 

ドォンッ!

 

一発の銃声とともにフェニックスの涙がユーベルーナの前から姿を消した。

彼女の近くで小瓶の欠片とフェニックスの涙だった水滴が舞う。

朱乃もユーベルーナも、一瞬何が起きたかわからなかった。

すぐに銃声がした方を向くと、遥か遠くでゴウラムにぶら下がり、ペガサスボウガンの銃口を向けるペガサスクウガの姿を見つけた。

 

「馬鹿な!まさかあの距離でフェニックスの涙を撃ち抜いたとでもいうの!?」

 

思わず取り乱してしまうユーベルーナ。

 

「あらあら、戦闘中に余所見は禁物ですわよ?」

 

油の切れた機械のようなぎこちない動きで見上げると、“優しく”声をかける朱乃の手にバチバチと雷が走っていた。

恐怖で顔を引き攣らせながらユーベルーナが悟ると同時に、轟音が響いた。

 

『ライザー様の“女王”1名、リタイヤ』

 

                      ☆

 

フィールドに伝わるアナウンスを聞いて一息ついた時、朱乃から通信が入った。

 

『雄介君、聞こえますか?先ほどはありがとうございました。おかげで助かりましたわ』

 

「いえ、無事で何よりです」

 

『ウフフ。ですが、先ほどの戦闘でほとんど魔力を使い切ってしまいました。ですから少し休ませてもらいますわ』

 

「わかりました。俺はこのままイッセー君たちの加勢に行きます」

 

『そうですか。それではお気をつけて』

 

「はい。朱乃さんもまた後で」

 

通信を終え、雄介はゴウラムの脚から手を放した。

 

「超変身!」

 

掛け声とともに雄介はペガサスフォームからマイティフォームに超変身して着地を決める。

ペガサスフォームの超感覚には制限時間が設けられている。

もしペガサスフォームのままで制限時間をオーバーしてしまうと、その後約2時間変身不能となってしまうというデメリットがあるのだ。

時間ギリギリでマイティフォームになった雄介は一度、旧校舎へ移動した。

旧交舎の玄関横にトライチェイサーが置かれてあった。

すぐに雄介は愛機にまたがり森の中を駆けながら、コントロールパネルのダイヤルを弄る。

すると、ブラックヘッドと呼ばれるカラーリングの車体が一瞬でゴールドヘッドのカラーリングに変わり、ところどころにクウガのマークが浮かび上がる。

その直後のことだった。

雄介を追ってきたのか、頭上でゴウラムが飛来してきた。

 

「ゴウラム?」

 

疑問に思っていると、突如ゴウラムが前と後ろ(甲虫でいう胸部と腹部の境目)で分離し、トライチェイサーと合体した。

黒鋼の顎が牙のように前方に伸び、鎧の如き装甲を纏ったそれを見て、雄介の中で謎が解かれた。

 

「馬の鎧って、これか!」

 

『■○Ψ♯∑▼☆☓Ф@』

 

再び、理解不能の音声が響く。

もしかしたら「融合完了」とでも言っているのかもしれない。

 

「よし、行くぞ!」

 

気合を入れ直し、雄介は『馬の鎧』を纏ったトライチェイサー改め、“トライゴウラム”を走らせた。

 

                      ☆

 

グラウンドでは、“兵士”のニィとリィ、“僧侶”の美南風、“騎士”のシーリス、“僧侶”であるレイヴェルを合わせて、今この場に残りのライザーの眷属たちが集結した。

観客を決め込んでいる彼女たちの前で祐斗は“騎士”のカーラマイン、一誠は“戦車”のイザベラと対峙していた。

 

                      ☆

 

祐斗vsカーラマイン

音速の世界で両者の闇と炎の得物を交える。

風を切る音ともに競り負けたのは祐斗の魔剣だった。

 

「光喰剣が…!」

 

「残念ながらその攻撃は私には通用しない!」

 

だが、祐斗は臆した様子も見せず、逆に不敵な笑みを見せた。

 

「それなら、これはどう…?」

 

「凍えよ、炎凍剣(フレイム・デリート)!」

 

祐斗が低く唸るように言うと、刀身をなくした剣が凍っていく。

刀身を作り上げた氷が割れるとともに、新たな魔剣が現れ。

祐斗は冷気を漂わせる氷の魔剣を手にしていた。

 

「キサマ!神器を2つも…!」

 

再び、両者が得物を交える。

しかし、刃が触れた途端、カーラマインの炎が冷え固まっていく。

そして、パリンと儚い音を立て、崩れて消えた。

だが、彼女は攻撃の手を休めなかった。

早々に剣を捨て、腰に携えていた短剣を手に取り、天に掲げて叫ぶ。

 

「なんの!我ら誇り高きフェニックス眷属は炎と風と命を司る!キサマの負けだ!」

 

すると、彼女と祐斗を中心にグラウンドに炎が渦を巻き始める。

熱風を纏った1撃が祐斗の氷魔剣を破砕した。

しかし、祐斗は余裕の笑みを崩さない。

刀身をなくした柄を手に叫ぶ。

 

風凪剣(リプレッション・カーム)!」

 

祐斗の持つ柄に円状の刃を持つ刀身が生成される。

円の中心に鎮座する不可思議な渦が渦を巻き始めた。

途端に旋風が豪快な音を立て、熱風を吸い込んだ。

すると、辺りは嘘のようにしんと静まり返った。

 

「キサマ、一体いくつ神器を持っているんだ!?」

 

予想だにしない展開にさすがにカーラマインが焦慮を見せた。

焦りを含めた疑問に祐斗は首を振って否定した。

 

「僕は複数の神器を持ってるわけじゃない。…創ったのさ!」

 

「創った…だと?」

 

「“魔剣創造(ソード・バース)”。すなわち!」

 

祐斗が地面に掌をつける。

 

「意思通りに魔剣を創り出せる神器さ!」

 

すると地面からさまざまな刀身の魔剣が勢いよく飛び出してきた。

思わずカーラマインは剣を握る力を強めた。

 

                      ☆

 

一誠vsイザベラ

いまだ朱乃はユーベルーナと戦闘中なのか、遠くの方で轟音と爆音が聞こえる。

その騒音を耳の端に置きながら、一誠はイザベラの猛攻を死にもの狂いでよけていた。

ブーステッド・ギアの強化中は攻撃ができないため、逃げの一手しかないのだ。

 

【BOOST!!】

 

丁度、戦闘が始まり5回目のパワーアップを知らせる音声が流れた。

だが、その隙を突かれてイザベラに一撃いれられる。

そのまま吹っ飛ばされるも、うまく受け身をとってダメージを減らす。

 

「ほお、以前ミラに一蹴された時とは全く違う。リアス・グレモリーはよく鍛えこんだようだな」

 

「そりゃ、俺だってだてに木場や小猫ちゃんたちと修行してたわけじゃないからな!そう簡単に負けてたまるかってんだっ!」

 

【BOOST!!】

 

一誠の意志に答えるようにブーステッド・ギアが強化を知らせる。

 

「よしっ!行くぞ、ブーステッド・ギア!」

 

【EXPLOSION!!】

 

体中に強大な力が集まる。

 

「ドラゴン波ならぬ、ドラゴンショット!」

 

体に流れるイメージを感じ取り、極小に圧縮された魔力を撃ち出す。

巨大化し迫る魔力に、思わずイザベラは回避行動をとった。

目標を失った赤い閃光は轟音と共に地面を抉りながら、遥か前方に飛んで行った。

爆音が止むころには学園の風景が一変していた。

 

「だいぶ力をセーブしたつもりなのにな…」

 

目の前の光景に唖然のする一誠。

 

「やはりあの神器は危険だ…。ここで私が倒しておかねば!」

 

肝を冷やし警戒心を露わにしたイザベラは全力で一誠を倒しにかかった。

しかし、焦りに任せた一撃をかわすことは今の一誠にとっては容易なことだった。

迫る拳を掻い潜り、一誠は空いた懐に1撃を叩き込んだ。

それを確認した一誠は不敵な笑みを浮かべ、もう一つの修行の成果を発揮した。

 

「弾けろ、“洋服崩壊(ドレス・ブレイク)”!」

 

叫び、パチンと指を鳴らすと目の前でイザベラの衣服が弾け飛んだ。

すかさず一誠は露わになる裸体を脳内に保存する。

これぞ、一誠が新たに編み出した新必殺技。

その名も“洋服崩壊”!

一誠が脳内で女の子の服を消し飛ばすイメージを延々と繰り返し、魔力の才能の全てを注ぎ込んだ暴挙の結晶。

一誠らしいといえば一誠らしいのだが、知り合いでなければ通報していたかもしれない。

反射的に自分の大事な部分を隠すイザベラ。

一誠は間髪入れずに、右手で作り出した魔力の塊を彼女に放った。

イザベラは膨大な魔力の波動に飲み込まれ、赤い光とともにこの場から消えた。

 

『RESET』

 

『ライザー・フェニックス様の“戦車”1名、リタイヤ』

 

ブーステッド・ギアの効果が切れる音声とともにグレイフィアの音声が耳に届いた。

 

「よっしゃぁぁぁぁぁっ!」

 

初撃破を成した一誠が歓喜の声を上げた。

 

                      ☆

 

イザベラとの決着をつけて息を整える一誠に、遠くで祐斗と戦闘していたカーラマインが及び腰で苦笑を浮かべた。

 

「しかしひどい技だ。いや、女にとって恐ろしい技というべきか…」

 

「僕も初めて見たけど、なんというか…うちのイッセー君がスケベでごめんなさい」

 

「身もふたもない謝り方すなぁ!」

 

礼儀正しくぺこりと頭を下げる祐斗に一誠は居たたまれなくなる。

その時丁度、ライザーの“女王”の脱落を知らせるアナウンスが流れた。

その知らせがライザー陣営に大きな衝撃を与えた。

 

「まさか、こちらの“女王”が落とされるとはな…。そちらの“女王”もなかなかやるようだ」

 

「さすが朱乃さんだぜ!」

 

素直に賞賛を述べるカーラマインに自慢げに鼻をこする一誠。

すると、突然レイヴェルが話しかけながらある方向を指差した。

“女王”がやられたのもかかわらず、その表情は余裕の笑みを浮かべていた。

 

「そこの兵士さん。あれ、なんだかわかりますか?」

 

追うように視線を向けると、新校舎の屋上に炎の翼を羽ばたかせる人影と、黒い翼を羽ばたかせる人影を見つけた。

そして、黒い翼の人物を見た瞬間、思わず叫んだ。

 

「部長!?」

 

一誠たちの視線の先でアーシアを抱えたリアスが屋上に降り立っていた。

 

「“滅殺姫”、“聖母の微笑”、“雷の巫女”に“魔剣創造”。そして“ブーステッド・ギア”。御大層な名前が並んでおりますけど、こちらは不死鳥(フェニックス)。不死なのですわ!」

 

「だが、フェニックスにだって弱点はある!」

 

あきらめを見せない一誠が叫びをレイヴェルは鼻で笑う。

 

「ユーベルーナがやられたのは予想外でしたが、最終的にレーティング・ゲームは“王”を落とした方が勝利です。お分かりになります?これがあなたたちにとって、どれだけ絶望的か!」

 

レイヴェルが手を振って合図を送ると、残りの下僕悪魔たちが一誠を囲んだ。

 

「カーラマイン。その“騎士”の子はあなたに任せますけれど、あなたが負けたら私たちは一騎打ちなんてむさ苦しいことはしませんわよ?これ以上、フェニックス家の看板に泥を塗るわけにはいかないの。いいわね?」

 

カーラマインはレイヴェルの迫力のある言葉に渋々頷いた。

 

「二ィ!リィ!」

 

レイヴェルの声に応えたのは猫耳を生やした2人の“兵士”のニィとリィ。

 

「この“兵士”たち、見た目以上にやりますわよ!」

 

彼女の声を合図に“兵士”の2人の姿が視界から消えた。

気づいた時には、2人が一誠に飛び掛かろうとしていた。

咄嗟に防御の構えを取る一誠だったが、それはいい意味で無駄に終わった。

なぜなら…、

 

「うおおおおおおおおっ!」

 

ブルォォォォォオオオンッ!

 

叫びと重厚な駆動音と共に、巨大な影が一誠の目の前を横切ったからだ。

気づいた時には一誠に迫る2人の“兵士”が宙を舞い、そのまま地面と激突した。

すぐに乱入者の正体を確認すると、一誠と祐斗の叫びが重なった。

 

「五代!」

 

「雄介君!」

 

彼らの目の前には、トライゴウラムで颯爽と駆けつけたクウガがいた。

 

                      ☆

 

突然の雄介の登場の仕方に、敵味方問わず唖然としていた。

先ほどまで得物を交えていた祐斗とカーラマインも戦闘を中断させている。

 

「イッセー君、大丈夫?」

 

雄介に訊ねられ、一誠は我に返る。

 

「あ、ああ…。何とかな。それより五代。それって…?」

 

戸惑いを覚えつつ、一誠が存在感のあるマシンを指さす。

他の皆の視線もその一点に注がれている。

 

「馬の鎧だよ」

 

「え?」

 

さらっと答える雄介に、さらに戸惑いを覚えた。

 

「ほら、桜子さんの解読の。甲虫の形をしたものが、馬の鎧になるって言う」

 

「もしかして、バイクが馬なのか?」

 

一誠は雄介が愛用しているトライチェイサーを思い浮かべ、目の前の装甲車とのギャップに困惑を隠せないでいた。

 

「まあ、古代にバイクはないからね」

 

対してあっさりしている雄介。

 

「いや、でも、大丈夫なのか?それ…」

 

「大丈夫だと思うよ。ほら、ここにクウガのマークも入ってるし」

 

そう言って雄介が指差した場所、トライゴウラムのフロント部分にはクウガのマークが大きく描かれ

ていた。

ゴウラムのことに関しては彼の中ではもう解決したことのようだ。

雄介がキリのいいところで世間話を切り上げ、本題に移る。

 

「それより、ここは俺に任せてイッセー君はリアスさんのところに行って!」

 

雄介が一誠にリアスの加勢を促した時、フィールド全体を揺るがすほどの爆音が響いた。

もしやと思い屋上を見上げると、空中で紅い魔力と炎の魔力がぶつかり合っていた。

煙が晴れると、服すら無傷のライザーに対し、制服の所々が破けているリアスが対峙していた。

 

「早く!」

 

再び雄介がさらに強く促す。

それを見て、一誠は決意を固めて強く頷いた。

 

「たのんだぞ!」

 

この場を雄介に託して走り出す。

 

「まさか、このまま行かせるお思いですか?シーリス!」

 

「御意!」

 

レイヴェルに促され“騎士”のシーリスが背中に背負った大剣を抜く。

そしてそのまま背を向ける一誠に飛び掛かろうとする。

 

「させるか!」

 

しかし、それは急加速して両者の間に割り込んだ雄介によって阻まれてしまった。

雄介はそのままトライゴウラムをブレーキターンさせ、装甲を纏った後輪をシーリスにぶつけた。

シーリスは咄嗟に機転を利かせて大剣を盾に衝突を防いだ。

しかし、それでも等身大の鉄球で殴られたような衝撃に耐えきれず後方に吹っ飛ぶが、何とか踏みとどまる。

そして気づいた時には、一誠はすでに新校舎の入り口を潜っていた。

進行を許したことに歯痒い思いを抱きながらレイヴェルとシーリスが雄介を睨みつける。

 

「イタたたたた…」

 

「あぶなかったニャ」

 

すると、今まで倒れていたニィとリィの2人が起き上がった。

どうやら2人とも、獣人の敏捷さで衝突する寸前に体を捻ってダメージを流したようだ。

2人はすぐに何が起きたか思い出し、シーリスと美南風とともに臨戦態勢に入る。

その視線を正面で受け止め、アクセルを捻ると、トライゴウラムのマフラー音が威嚇する獣の呻き声ように響く。

そして、彼女たちに向かってトライゴウラムを発進させた。

すぐに雄介の後方にいた“僧侶”の美南風が十二単の袖から数枚のお札を取出し、目の前で1列になるように並べる。

するとお札が発光し、光を帯びた鎖が飛び出す。

後ろから蛇のようにうねる光る鎖が、猛スピードで突っ込んでくる装甲車を停めようと絡み付く。

しかし、実際は装甲車の速度が落ちるどころか、幾重にも絡み付く鎖をゴムのように引きちぎった。

それを見たニィ、リィ、シーリスの3人は正面からでは受けられないと悟り、跳躍してかわす。

すぐにブレーキをかけ方向転換する。

その際、装甲上の都合で後輪部分の装甲が地面と接触し火花を散らした。

そして、再びアクセルを噴かせ突撃する。

最初に動いたのはシーリスだった。

彼女は大剣を構え、獲物に襲い掛かる獅子の如く跳躍した。

それを見た雄介もトライゴウラムを走らせたまま一度両足をサドルに乗せ、彼女を迎え撃つように跳躍した。

 

「ッ…!?」

 

「はあああああああっ!」

 

予想外の行動にシーリスは大剣を振り下ろすタイミングを失い、空中で体勢を崩した。

その隙に雄介は彼女の顔面を殴りつけて、地面に叩き付けた。

一方、残されたニィ、リィ、美南風に勢いが衰える様子を見せない無人の装甲車が迫る。

もう1度、美南風が今度は5枚のお札を目の前に並べる。

そして5芒星の形に添って印を切ると、1枚1枚から炎の弾丸が飛び出した。

何十もの弾丸がトライゴウラムに着弾し、爆発を起こす。

一瞬、停めたかと思ったのだが、すぐに煙幕を突き破る装甲車が現れた。

瞬時にニィとリィ本能に従っては横に跳んだので、難を逃れることができた。

しかし、美南風は十二単に足を取られ、気づいた時にはトライゴウラムの牙先が目前に迫っていた。

悲鳴を上げる間のなく跳ね飛ばされ、空中で意識を失い、地面に落ちる前に光に包まれ、戦場から姿を消した。

 

『ライザー様の“僧侶”一名、リタイヤ』

 

そのまま標的を失っても尚、直進を続けるトライゴウラムは直線上にそびえ立つ新校舎の壁を突き破り、校内に消えていった。

直後、地面を揺るがすほどの振動とともに新校舎の大半の部分が瓦礫に山と化した。

その光景を見た全員が揃って戦慄を覚えた。

そんな中で雄介は内心でゴウラムに謝りながら着地を決めると同時にニィとリィが飛び掛かってきた。

雄介は咄嗟に後方に飛んでかわす。

 

「ニィ!リィ!どうやらその殿方は予想以上に戦闘に慣れているようですわ!何の策もなく突っ込めば返り討ちにあってしまいます!今は焦らしながらでも相手の体力がなくなるのを待ちなさい!そうすれば勝機が見えてくるはずです!」

 

橋で一連の光景を見ていたレイヴェルが指示を飛ばす。

それに従い、2人の“兵士”の動きが変わった。

素早い動きで雄介を翻弄し、フェイントを混ぜた攻撃をしてくる。

文字通り、雄介を焦らす戦法だ。

しかし、負けじと雄介は2人の動きに食らいつく。

放たれる拳は体を捻ったり、腕で弾いたり、足を狙う攻撃は足を上げたり、バク転でかわすなどの最小限の動きで攻撃を見切っていく。

 

「ああ、もう!むかつくニャア!」

 

「どうして当たらないニャ!?」

 

ニィとリィの2人はなかなか効果的な攻撃が入らないことが気に入らないのか、地団太を踏んでいる。

今まで雄介は世界中の様々な場所を冒険してきた。

実際、その間に命の危機に直面したことも何度かあった。

それに加え、今回の修行や、クウガの戦闘の経験が積み重なり体力面で大きな成長を見せた。

そんな雄介にとって、多少の持久戦を繰り広げるのは造作もない。

ニィとリィのコンビネーションを捌いていると、シーリスが大剣を支えにして立ち上がる。

すぐに彼女のもとに駆け寄るニィとリィ。

3人は雄介を睨みながら、気を高めるように構えると、ニィとリィの拳から、シーリスの大剣から、それぞれ炎が迸った。

そしてタイミングを合わせ、雄介に飛び掛かった。

雄介はそれを見据え、アークルに手をかざした。

アークルのアマダムが赤から紫に変わり、辺りに紫の音が鳴り響く。

 

「超変身!」

 

雄介はマイティフォームからタイタンフォームに超変身した。

そして、3人の攻撃を正面から受け止めた。

雄介は微動だにせず、衝撃が周囲に拡散する。

何事もなかったかのように3人を見つめる雄介。

最初に根を上げたのはシーリスの大剣だった。

幅の広い刀身にヒビが走り、砕け散る。

刃の欠片が舞う向こう側で3人が驚愕を浮かべている。

そして、雄介は特に放心状態の著しいシーリスに張り手を食らわせた。

その衝撃で彼女の手から大剣だったものが離れ、雄介はそれを掴み取る。

刃は折れているが、それでも十分に“斬り裂くもの”として活用できる。

シーリスの得物は瞬時にタイタンクウガの武器であるタイタンソードに形を変えた。

ニィとリィがすぐにその場を離れようと試みるが間に合わなかった。

 

「はあああっ!」

 

叫びながら雄介の横一文字の斬撃がニィ、リィ、シーリスの3人に襲来した。

そのまま3人が光に包まれ消失するのを見届ける。

 

『ライザー・フェニックス様の“兵士”2名、“騎士”2名、リタイヤ』

 

「どうやら、そっちも終わったみたいだね」

 

アナウンスの内容に疑問を持つと、後ろから祐斗に声をかけられた。

振り向くと、制服の所々が切り裂かれた祐斗がこちらに歩み寄ってきた。

彼の姿を見ると、よほどの激戦だったことが見て取れた。

 

「祐斗くんもお疲れ様」

 

賛辞を交し合っていると、フィールド全体を赤い光が覆った。

 

「今のは…?」

 

視線を巡らせると、新校舎の屋上でライザーと対峙する赤い龍を模した鎧を纏った人物を視界にとらえた。




次回、いよいよクライマックスだぜ!
このセリフ聞くとモモタロス思い出すよね?
え?そうでもない?
あ、そう…。

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