仮面ライダークウガ 青空の約束   作:青空野郎

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EPISODE22 信頼

草木も眠る深夜。

一誠はあの日からアーシアとともに毎晩のように特訓を続け、その成果が開花の兆しを見せ始めていた。

 

「ごめん、アーシア。もう一回!」

 

今、一誠の目の前では衣服が引き裂かれたアーシアが下着姿の肢体を隠すように身を捩っている。

 

「はい。すぐ着替えてきます!」

 

しかしアーシアは怒るわけでもなく、羞恥に泣くわけでもなく、一誠の特訓に積極的に手を貸している。

そして一誠の魔力が、再び着替えてきたアーシアの衣服を容赦なく引き裂いていく。

傍から見ればその行為は鬼畜以外の何物でもない。

誤解のないように言っておくが、これはあくまでも特訓である。

そんな常軌を逸した行為を繰り返し、ようやく下着以外の衣服を消滅させるまでに至った。

 

「できましたね!」

 

「ダメだ!服だけじゃダメなんだ。すまないけど…」

 

ここ一番の成果に歓喜の声を上げるアーシアだが、一誠はまだ納得いかない様子である。

 

「大丈夫です!古着を沢山いただいているので。イッセーさん、頑張ってください!」

 

純粋というか、どこかずれているというか、とにかく下着姿のアーシアはとことんまで一誠に付き合う意を示す。

こうして夜が明けるまで、特訓という名の蛮行は続いた。

 

                      ☆

 

「ブーステッド・ギアを使いなさい、イッセー」

 

山籠もりを始めて数日後、本日の修業を始める前にリアスが一誠に言った。

 

「え?でも、この合宿中は使っちゃダメだって、部長が…」

 

「私の許可なしでは、ね。相手は祐斗でいいかしら?」

 

「はい」

 

リアスに促され、祐斗が一誠と対峙する。

 

「手加減はしないよ!」

 

木刀を構える祐斗の答える形で一誠がブーステッド・ギアを発動させる。

 

「ブーステッド・ギア!」

 

【BOOST!!】

 

一誠の言葉に反応した神器が音声を発することで力が倍になる。

 

「もう一度」

 

「ブースト!」

 

【BOOST!!】

 

「もう一度」

 

「ブースト!」

 

【BOOST!!】

 

「まだまだよ」

 

「ブースト!」

 

【BOOST!!】

 

「もう一回!」

 

「ブースト!」

 

【BOOST!!】

 

リアスに言われるまま倍加を繰り返し、すでに10回目を迎えようとしていた。

倍加を繰り返すといえば聞こえはいいが、実際は能力の増大に限界が存在する。

増大する力と、宿主にかかる負荷が比例するためだ。

もし増大に耐え切れず限界を超えてしまえば、宿主は全身の機能が停止するような感覚に襲われてしまうのだ。

 

「もっと!」

 

「ブースト!」

 

【BOOST!!】

 

「これで12回パワーアップしましたわ」

 

「ストップ」

 

リアスの指示で倍加を停止する。

 

「イッセー、わかる?今までのあなただったらここまでの強化に耐えられなかったはずよ」「あなた

だってちゃんと修行の成果が表れているの」

 

リアスに指摘で、本人にとっても自覚していなかった分驚きが大きい。

 

「いくぞ、ブーステッド・ギア!」

 

【EXPLOSION!!】

 

初めて聞くその音声を引き金に、ブーステッド・ギアの宝玉が光を放つ。

直後に、一層強い輝きが一誠を包んだ。

2分間かけて高めた力は尋常なものではないとわかる。

 

「あれは…?」

 

初めて目撃する光景にアーシアは疑問を抱いた。

 

「あの音声によって、イッセーは一定時間、強化された力を保ったままで戦えるのよ。祐斗!」

 

リアスの合図と同時に祐斗の姿が消えた。

気づいた時には“騎士”のスピードで接近する祐斗の木刀が迫っていた。

一誠は咄嗟の判断で腕を交差させて一撃を防いだ。

その事実に祐斗は少しだけ驚く様子を見せた。

その一瞬を隙と見た一誠は瞬時に拳を振るう。

しかし拳が当たる寸前、祐斗は持ち前の速度で後退し、拳が虚しく空を切った。

 

「イッセー!魔力の塊を撃つのよ!」

 

悔しがっていると、リアスの指示が聞こえた。

一誠はその指示に従い、体に流れる魔力を掌に集中させる。

しかし、集まったのは米粒ほどの小さな塊。

 

「やっぱこれだけか…」

 

「撃ちなさい!」

 

悲観的になる一誠にすかさずリアスが指示を飛ばした。

 

「こん、のおおぉぉぉぉぉおおっ!」

 

どうにでもなれという勢いで一誠は極小な魔力の塊を殴りつけた。

途端に米粒大の魔力が巨岩サイズの大きさに変貌を遂げた。

速度のある巨大な魔力の塊が祐斗に迫るが、あっさりとかわされてしまう。

そのまま目標を失った魔力の塊は、遥か先に聳える隣の山に飛んでいった刹那、凄まじい爆音が轟いた。

迫る爆風を凌いだ後、恐る恐る顔を上げると、一誠は言葉を失った。

 

「うっそぉ…」

 

「あらあら…」

 

「山が…」

 

「なくなってしまいました…」

 

雄介、朱乃、小猫、アーシアが言葉を繋げる。

彼らの目に、一誠の一撃で大きく抉られた山の全容が飛び込んできた。

 

「これが、俺の、ちか、ら…」

 

あまりの光景に呆気にとられる一誠だったが、一秒もしない内に全身にかつてないほどの脱力感を覚えた。

 

「イッセーさん!」

 

すぐアーシアが腰を抜かしたように地面に座り込む一誠の元に駆け寄る。

 

「さすがに力を使い切ったみたいね。祐斗、彼はどうだった?」

 

予想通りと言わんばかりの表情でリアスが問いかける。

 

「はい。正直驚きました。あの一撃は正に、上級悪魔クラスの一撃!」

 

一誠の一撃の凄まじさを証明するかのように前へ出した祐斗の木刀が、刀身の根元からボキリと折れた。

それを確認したリアスは、一誠に向かって自信満々に言い渡した。

 

「イッセー!あなたはゲームの要。恐らくイッセーの攻撃は状況を大きく左右するわ。私たちを、そして何より自分を信じなさい」

 

「みんなを…。自分を…」

 

一誠は言葉を噛みしめながら、自分の中に自信が満ちていくのが分かった。

 

「あなたをバカにした者に見せつけてやりましょう。相手がフェニックスだろうと関係ないわ。私た

ちがどれだけ強いか、奴らに思い知らせてあげましょう!」

 

「「「「「「はい!」」」」」」

 

全員の力強い返事が澄み切った青空に木霊する。

全員の気持ちが一つになったのは言うまでもなかった。

決意を新たに結束を深め合った山籠もり修行は順調に進み、無事に終わりを告げる。

そして、決選当日を迎えた。

 

                      ☆

 

すでに月が昇る深夜の自室で雄介は時間を確認していた。

今から自宅を出れば丁度いい時間に部室に到着する。

おやっさんには部活(・・)だと伝えてある。

 

「よしっ!」

 

気を引き締めて部屋を出ようとしたとき、背後から気配を感じた。

だが、何故か、すぐにそれが殺気などの類のものではないとわかった。

 

「キミは…」

 

振り向くと、窓の向こうでその存在が雄介をじっと見つめていた。

 

                      ☆

 

深夜11時半を過ぎた頃。

一誠たちはすでに部室に集まっていた。

皆がそれぞれ一番リラックスできる方法で待機している。

リアスは部長席で、朱乃はソファに座り、優雅にお茶を飲んでいる。

朱乃の隣では小猫がオープンタイプのグローブをはめている。

その向かいで祐斗は剣の手入れをしている。

さらにその反対側に座る一誠とはさまれる位置にアーシアが座っている。

沈黙する空気に耐えられなくなったのか一誠が口を開いた。

 

「そういや、五代はまだ来てないのか?」

 

リアスの未来がかかっている大事な一戦なのに、と内心で不安になる。

そんなことを考えていた時、ドアをノックする音が聞こえた。

やっと来たかと思いながら顔を向けるが、現れたのは予想とは違う人物だった。

 

「失礼します」

 

「こんばんわ、ソーナ」

 

現れたのはソーナと椿姫の2人。

 

「生徒会長と副会長。…どうして?」

 

「レーティングゲームは両家の関係者に中継されるの。彼女たちはその中継係」

 

「はあ…」

 

一誠はリアスの説明で納得する。

 

「自ら志願したのです。リアスの初めてのゲームですから」

 

「ライバルのあなたに恥じない戦いを見せてあげるわ」

 

自信に満ちた笑みをソーナに向けるリアス。

その時、時計が開始10分前を指した。

部室の魔方陣が光りだし、グレイフィアが現れる。

 

「皆様、準備はよろしいですか?」

 

「ええ、いつでもいいわ」

 

「え?でも、部長!まだ五代の奴が来てないんですけど…?」

 

「大丈夫よ」

 

慌てる一誠に対し、リアスは余裕の笑みで返した。

しかし、グレイフィアが冷静に告げる。

 

「ですが、ゲーム開始の時間は変更できません。残念ですが、現時点で五代様は失―」

 

「すいません!遅れました!」

 

失格と言いかけたグレイフィアの言葉を遮る声が聞こえた。

 

「遅いわよ、雄介」

 

一同の視線の先で雄介が部室に足を踏み入れていた。

窓から。

 

「いやぁ。ホント、すいません。ちょっといろいろありまして…。あ、シトリー会長にグレイフィアさんもこんばんわ」

 

軽い調子で挨拶し、のんきなテンションの雄介。

それを見た一誠は何も言えなくなり、軽く安堵する。

他のみんなも緊張がほぐれたのか、部室にはいつもの和やかな雰囲気が漂い始めていた。

その光景に珍しくグレイフィアやソーナたちが驚きの表情を見せた。

関心を抱きながらも、グレイフィアが淡々と説明を再開する。

 

「開始時間になりましたら、この魔方陣から戦闘用フィールドに転送されます。ゲーム用に異空間で作られた使い捨ての空間ですから、どんな派手なことをされてもかまいません。存分に修行の成果を発揮してください」

 

グレイフィアと入れ替わる形でソーナが言う。

 

「私は中継所の生徒会室に戻ります。武運を祈っていますよ、リアス」

 

「ありがとう。でも、中継は公平にね」

 

「当然です。ただ個人的にあの方があなたに似合うとは思えないだけで…」

 

部室を後にしようとしたソーナは背中越しにリアスを見る。

多くは語らなかったが、それが彼女なりの思いやりなのだろう。

そしてソーナと椿姫が部室を出ていくのを確認して、再びグレイフィアが口を開く。

 

「ちなみに、この戦いは魔王ルシファー様もご覧になられますので」

 

刹那、部室の緊張感はさらに高まるのが分かった。

特にリアスが心底驚く様子を見せた

 

「そう。お兄様も…」

 

その言葉に一誠は一瞬、耳を疑った。

 

「え?あ、あの。今、お兄様って…」

 

「部長のお兄さんは魔王様だよ」

 

戸惑う一誠に裕斗がさらりと答えた。

 

「魔王!?ホントですか、部長!?」

 

「…ええ」

 

静かに肯定するリアスに祐斗が説明を続開する。

 

紅髪の魔王(クリムゾン・サタン)こと、サーゼクス・ルシファー。それが今の部長のお兄さんさ。サーゼクス様は大戦で亡くなられた前魔王、ルシファー様の後を引き継いだんだ」

 

祐斗の説明で、魔王の名前は現在では個人名ではなく役職として機能していると理解した。

 

「それでリアスさんはグレモリー家の跡継ぎに…」

 

「そうだったんだ…」

 

一誠や雄介が納得したところで彼らの目の前に新たな魔方陣が現れた。

それを見て全員が一層気を引き締める。

 

「そろそろ時間です」

 

グレイフィアに促され、リアスが立ち上がる。

 

「行きましょう」

 

リアスを先頭に全員が魔方陣に集結する。

そして光が彼女たちを包み込む。

転移が始まった。

 

                      ☆

 

転移先はゲームの舞台は駒王学園を模した疑似空間だった。

しかしその完成度に感心している暇もなく、雄介たちは動き始める。

現在、一誠と小猫は体育館でライザーの眷属たちと戦闘を始めていた。

丁度その頃、拠点となる旧校舎の森の中に4つの人影が現れた。

ライザーの“兵士”、シュリヤー、マリオン、ビュレント、ミラの4人だ。

 

「なんか、やけに霧が出てきたわね…」

 

辺りを警戒しながら一歩踏み出した時、前方から魔方陣が出現し魔力の矢を放った。

しかし、難なくかわしていく4人。

 

「トラップ?にしてはやけに子供だましね」

 

「初心者らしい、かわいい手ね」

 

その後も、事前にトラップを解除しながら進むと彼女たちの目に旧校舎が映り始めた。

 

「あれが敵本陣ね」

 

レーティング・ゲームのルールでは“兵士”が敵本陣に到着すると“昇格”することが可能になる。

そして彼女たちの目の前には敵本陣の旧校舎がそびえ立っている。

しかし、チャンスと思った直後、旧校舎全体が歪みだし、彼女たちの目の前で溶けるように姿を消した。

 

「どういうこと…?」

 

「残念だったね」

 

戸惑いを隠せない4人に声が届いた。

すると、奥の方と、その反対側から霧に紛れ歩み寄る人影が2つ。

雄介と剣を携えた祐斗だ。

 

「もうここから出られないよ。君たちはうちの“女王”が張った結界の中にいるからね」

 

スマイルを浮かべる祐斗の言うとおり、彼らの周りを囲むように頭上で巨大な魔方陣が浮かび上がる。

今までのトラップはただの囮で、敵をこの場所におびき寄せる。

これがリアスたちの本当の狙いだったのだ。

 

「しまった。トラップに気を取られすぎて…」

 

つい、初歩的なミスを犯したことに歯噛みをするが手遅れだ。

 

「ただでさえこっちは人数が少ないからね。足りない部分は知恵で補わせてもらったよ」

 

雄介が人差し指でこめかみをたたく。

その行為が癇に障ったのかビュレントが目を細めながら言う。

 

「わりと好みだから言いたくないんだけど、もしかして4対2で勝てると思ってるの?」

 

「試してみるかい?」

 

「こっちはもとから、そのつもりだったからね」

 

自信に満ちた瞳で祐斗は鞘から剣を抜き、雄介はアークルを出現させる。

2人の雰囲気に彼女たちは警戒を強める。

 

「変身!」

 

雄介の叫びを合図に2人が駆け出した。

祐斗が剣を振りかぶり、マイティフォームに変身した雄介が殴り掛かかる。

それを見た4人はその場で跳躍し一度2人と距離をとる。

 

「やはり神器持ちだったか…」

 

マリオンが毒づくように言う。(注:クウガは神器ではありません)

攻撃をかわされた2人はその場で背中合わせになり、それぞれの敵と対峙する。

構図的には雄介vsミラ、ビュレント、祐斗vsシュリヤー、マリオンとなっている。

 

「そういえば、こうして2人で戦うのは初めてだね?」

 

「そうだね。雄介君、背中は任せたよ!」

 

「うん!」

 

サムズアップで問う祐斗にサムズアップで答える雄介。

2人は背中越しに、拳と剣を構えて語り合いながら最後に気合いを入れ直し、そして、同時に目前の敵に向かって駆け出した。

 

                      ☆

 

「はああぁぁぁぁあっ!」

 

雄叫びをあげながら疾走する雄介を迎え撃つようにミラが駆け出す。

その後方でビュレントが周囲にサッカーボール大の魔力弾を召喚する。

そしてミラを援護するように魔力弾を発射する。

しかし、雄介にとって、その程度では足止めにもならない。

小規模の爆発を怯むことなく駆け抜けると、すぐ仮面に棍が迫る。

だが、雄介は首を傾けてかわす。

すぐに第2撃目が来るが、今度は掌で弾いていなした。

そして、即座に掌底を繰り出しミラの体を突き飛ばす。

 

「人間のくせになかなかやるじゃない…!」

 

うまく着地し、ビュレントともに雄介を睨む。

現時点で2人は目の前の戦士に油断していたことを反省する。

改めて気を引き締め、本気で雄介を潰しにかかった。

だが、その後の攻撃も雄介はバク転や跳躍、体をひねるといったアクロバティックな動きで次々とかわしていく。

次第になかなか決定打を与えられないことにミラとビュレントが苛立ちを持ち始めた。

いつの間にか雄介は2人に挟まれる形になっていた。

ようやく追いつめたと思い、周囲に魔力弾を漂わせ、棍を構える2人は笑みを浮かべる。

にもかかわらず、雄介は慌てる素振りを全く見せない。

その時、遠くの方で閃光とともに雷の轟音が聞こえた。

その方向は一誠と小猫が向かった体育館からだった。

 

『ライザー・フェニックスさまの“兵士”2名、“戦車”1名、戦闘不能』

 

何ごとかと思った矢先、審判を務めるグレイフィアのアナウンスがフィールド中に響いた。

 

「イッセー君と小猫ちゃん、上手くやったみたいだね」

 

雄介が幸先のいい結果に拳を握り締め、仮面の下で喜びを露わにする。

対してまさかやられると思っていなかったのか、ライザーの眷属たちは大きく目を見開いていた。

だが、すぐに気を取り直し、彼女たちは目の前の敵に集中する。

そして、先に動いたのはミラだった。

跳躍し、勢いよく炎を灯した棍を振り下ろす。

雄介はそれを籠手で防いだ。

鈍い痛みが腕から伝わってくるが、そんなことは些細なことだ。

耐えられると思わなかったのか、ミラの動きが驚愕で一瞬止まった。

雄介はその一瞬をチャンスととらえ、素早く棍を掴んでミラごと全力で振り切った。

 

「はあぁっ!」

 

棍のリーチを利用して、浮遊感に襲われるミラの小柄な体は棍から離れ、反対側にいたビュレントに叩き付けられた。

 

「きゃあっ!?」

 

激しい衝撃に後方に吹っ飛ぶ2人を確認して、雄介は横に棍を天高く放り投げ、動く。

アークルに手をかざすとアークルのアマダムが赤から青に変色する。

そのまま雄介は変身する時と同じように両手を動かし、叫んだ。

 

「超変身!」

 

辺りに青の音が響き渡り、雄介は赤いマイティフォームから青いドラゴンフォームに超変身した。

 

「色が、変わった…?」

 

痛みを堪えながら起き上るビュレントが驚愕する。

気にせず雄介はタイミングよく回転しながら落下してくるミラの棍を掴み取り慣れた手つきで振り回す。

そして、2人に向けて構えた時、ミラの棍はドラゴンクウガの専用武器であるドラゴンロッドに形を変えた。

 

「そんな、私の棍が…」

 

ミラが目の前の事実に呆然とする。

その横でまずいと思ったビュレントが臨戦態勢に入る。

しかし、魔力弾を召喚すると同時に目の前で雄介の姿が消えた。

実際は“騎士”にも匹敵する速度で動いているだけなのだが、冷静を失った2人には目で追うことすら叶わなかった。

気づいた時には2人の体はドラゴンロッドの一撃で打ち上げられていた。

霞む目で自分たちの背後にいた雄介の姿をとらえた時、体に打ち込まれた封印文字が発行し、爆ぜた。

2つの爆発音の後、地面には気を失った2人の“兵士”が横たわっていた。

 

                      ☆

 

その光景を離れた場所で祐斗たちが目撃していた。

 

「まさか、2人がやられるなんて…!」

 

祐斗の相手をするシュリヤーが驚愕を露わにする。

メイド服を翻しながら祐斗と対峙する2人だが、正直、押され気味だった。

“騎士”特有のスピードと鋭い剣撃に翻弄されながらも、マリオンの両腕と両足に魔力を纏わせる接近戦とシュリヤーの魔力弾の援護射撃でどうにか持ち堪えている状況だ。

しかし、そこに同志たちが次々と脱落する事実に衝撃を受けた。

 

「よくもっ…!」

 

一時の感情に流されたマリオンが祐斗を通り過ぎ、雄介に飛び掛かろうとしていた。

 

「雄介君!」

 

「行かせないわ!」

 

すぐに援護に向かおうとした祐斗だったが、シュリヤーの射撃で足止めを食らってしまった。

すでにマリオンは祐斗が動いても間に合わない位置にいた。

油断しているのか、雄介はこちらを振り向かない。

せめてこいつだけでもと思いながら魔力を纏わせた手刀で雄介の背後に迫る。

 

                      ☆

 

背後から迫る手刀よりも祐斗の声が先に雄介に届いた。

ところが、それでも雄介は振り向かなかった。

手刀が雄介を襲うとした寸前、雄介が叫んだ。

 

「ゴウラム!」

 

刹那、マリオンは真横から強烈な衝撃とともに浮遊感を覚えた。

何事かと思い、視線を向けるとマリオンの体は巨大なクワガタの黒鋼の顎に挟まれていた。

上昇しながら、それでもすべてを理解できないでいるとクワガタが急降下を始める。

気づいた時には、轟音とともにできたクレーターの真ん中でマリオンが気絶していた。

クワガタは彼女から離れて、重厚な音を立てながら雄介の周囲を旋回する。

 

「ありがとう、ゴウラム」

 

雄介は優しい声でゴウラムと呼んだクワガタの額を撫でた。

 

「マリオンまで…」

 

目の前の光景にシュリヤーはかつてないほどの戦慄を覚えた。

 

「驚いてるところ悪いけど、隙だらけだよ!」

 

不意に聞こえてきた声で我に返り、反射的に祐斗の一撃をかわすことができたが、分が悪いのは火を見るより明らかだった。

一人残されたシュリヤーは苛立ちと恐怖で後ずさる。

すると突然、後ろに下げた片足がひざ近くまで地面にめり込んだ。

 

「な、なに!?」

 

無理やり足を引き抜こうとするのだが、上手く抜けないでいる。

シュリヤーは予想外のハプニングで完全にパニックを起こしていた。

そして、その隙をついて迫る祐斗が一撃で彼女を切り伏せた。

すると、4人の体が光に包まれる。

次第に体が透けていき、ついには完全にこの場から姿を消した。

 

『ライザー・フェニックス様の“兵士”4名、リタイヤ』

 

すぐに、雄介と祐斗の勝利を告げるアナウンスが流れた。

 

「お疲れ、祐斗君」

 

変身を解いた雄介が近づいてくる。

 

「そっちもお疲れ様」

 

言葉を交し合った後、雄介はその場にしゃがみ込んだ。

 

「いやぁ、まさか本当に役に立つなんて…」

 

雄介の目の前には不自然に陥没した穴がひとつ。

 

「でも、よくそんなトラップ知ってたね」

 

「うん。前に冒険した時、アフリカ民族の人たちがこれで獲物を捕らえて狩りをするところを見たことがあったからね」

 

そう、これは冒険の知恵から用いた雄介式のトラップ。

悪魔たちが仕掛ける魔力的なものではなく、ありきたりな物理的なトラップ。

故に悪魔たちの盲点をついた戦略を投入し、見事成功した。

落とし穴もそうだが、祐斗の一番の関心は別のところにあった。

 

「雄介君、あれは?」

 

祐斗の視線の先には地面に着地してこちらを見つめるゴウラムだった。

 

「ゴウラムのこと?」

 

「ゴウラム…?もしかして前に言ってた馬の鎧かい?」

 

見た目がクワガタだったのですぐに合点がいった。

 

「たぶんね。せっかくだから連れてきたんだ」

 

「へえ、これが…。思ってたよりずいぶん大きいんだね」

 

祐斗が感心した時、本日3度目のアナウンスが流れた。

 

『リアス・グレモリー様の“戦車”1名、リタイヤ』

 

雄介と祐斗は驚きを隠すことはできなかった。




ようやくレーティング・ゲームに入りました。
読んでわかるとおり、内容を原作と少し変えました。
ミラ以外の“兵士”の区別がわかる人、ぜひ教えてください!

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