仮面ライダークウガ 青空の約束   作:青空野郎

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EPISODE02 変身

雄介に事情を説明してから少し時間が経っていた。

夕暮れの光が照らす部室にはリアスと朱乃だけが残っていた。

 

「五代雄介、か」

 

そう呟くリアスの手元には先ほど雄介に渡された名刺がある。名刺には雄介の言っていた洋食店の住所と電話番号が記されている。そして名刺を裏返すと『夢を追う男 五代雄介』と書かれていた。

 

「不思議なかたでしたね」

 

「不思議どころか異常よ」

 

そう言って紅茶を飲むリアスに朱乃が尋ねる。

 

「何か不満なことでも?」

 

「不満ではないんだけど、ちょっと拍子抜けだっただけよ」

 

「と言うと?」

 

「昨日の今日なのに自分の状況をちゃんと理解してるし、私たちのこともすんなりと受け入れちゃうし、話してて何度も調子狂わされてしまったわ」

 

「確かに、あんな顔をした部長初めて見ましたわ」

 

「さっきの自己紹介だってちょっとくらい怖がってもよかったじゃない?」

 

「逆に私たちが驚かさることになってしまいましたものね。これでは公爵家の面目丸つぶれですわね」

 

「うるさいわよ、朱乃」

 

「あら、照れてらしゃるのですか?顔、赤いですわよ?」

 

「違うわよ!夕日のせいよ!ほら、紅茶おかわり!」

 

「クスッ。はい、かしこまりました」

 

その場を離れた朱乃を見送ったリアスはもう一度雄介の名刺を見つめた。

 

「本当、変な子だったわ」

 

そう言いながらリアスは笑顔にサムズアップをする雄介の姿を思い出していた。

 

                      ☆

 

再び時は進み時刻は夜7時を越え、夜空には月が昇っていた。現在、雄介は自室のベランダに出て、佐渡桜子と電話で話していた。

 

「桜子さん、解読の方は進められそうですか?」

 

「進めますよ、仕事ですから。それよりも、五代君の方こそ大丈夫なの?あんなことになっちゃって…」

 

「うん。まあ、いいんじゃないですか?とりあえず死なずに済んだんですし」

 

「五代君、一歩間違えたら死んじゃうところだったんだよ!?」

 

「大丈夫ですって。俺、死ぬようなことしませんから。そのためには、桜子さんの解読が必要なんですって!」

 

「何よそれ?」

 

桜子の不満そうな声が聞こえる。

 

「古代文字の解読が進めばどう戦えばいいのか分かるでしょ。俺の野生の勘だけじゃすぐ無理が来ると思いますし」

 

「それは分かるけど…はぁ、素直にいいよとは言えないな。ねえ、五代君。巻き込んだ私が言うのもなんだけどさ、もうあんな事しなくてもいいでしょ?」

 

「そうですね。このままただの冒険野郎に戻れるといいですよね。好きになれないから、あの感触は…」

 

「あの感触って?」

 

「…」

 

あの感触を思い出しながら拳を握りしめる雄介。すると、雄介の頭上を黒い影が横ぎった。

 

「今の、まさか!?」

 

「どうかした、五代君?」

 

「ごめん桜子さん、また後でっ!!」

 

「え?ちょっと五代く―」

 

雄介は桜子との会話を打ち切り、黒い影をバイクで追いかけた。

 

                      ☆

 

 

「ククク、そろそろ終わりにしようか、小さな悪魔さん」

 

場所は近所の公園。そこに2つの影があった。1つは先ほど雄介と別れた小猫の姿だった。彼女は、腕からは血が滲んでいてその場に膝をついている。そして彼女の目の前にはスーツを着た男性が立っていた。しかし、その男性は背中から黒く染まった天使のような羽を生やしており、右手には、一本の槍が不気味な光を放っている。

 

「それでは、最後に聞いておこうか」

 

男は一歩ずつ小猫に近づいていく。

 

「そなたの主の名はなんと申す?見たところはぐれ者ではないはずだと思うのだが…」

 

「…」

 

だが小猫は何も答えず近づいてくる男を睨めつける。

 

「沈黙か。…まぁ、それでもよかろう。では―」

 

やがて男は小猫の目の前に立つと、手にした槍を振りかぶった。

 

「死ね」

 

男の槍が小猫に迫ろうとした時

 

ブゥゥゥゥゥン!!

 

「ぐっ!?」

 

「!」

 

何者かがバイクに乗って乱入してきたのだ。その人物は少し進んだ場所にバイクを止めると、ヘルメットを外し小猫のもとに駆け寄ると、

 

「小猫ちゃん、大丈夫!?」

 

五代雄介は心配そうに小猫に声をかけた。

 

                      ☆

 

小猫と男性の間に割り込んだ雄介は小猫の安否を確認すると彼女を庇うように立ち上がると男性を睨めつけた。

 

「まさか仲間がいたとはな。まぁいい、2人まとめて葬ってくれる」

 

「あの翼、堕天使か!?」

 

「だとしたら、どうなのかね?」

 

「小猫ちゃん、はやく逃げて!」

 

それだけ言うと雄介は堕天使に向かって走り出した。

 

「五代先輩っ!」

 

小猫の声が聞こえたが雄介は足を止めるわけにはいかなかった。

まず、雄介が堕天使の腹部に蹴りを一発。次に拳を一発。

すると、腕に白い籠手が現れた。続けて蹴り、拳、体を回転させ裏拳を叩き込んでいくと徐々に体が変化していきもう一度拳を叩き込むと雄介の姿は白い戦士に変わった。

そのまま雄介は拳や蹴りを堕天使の体に叩き込んでく。

しかし堕天使は少しふらつくが雄介は様子がおかしいことに気が付いた。

 

「どうやら変わった神器を持っているようだがこの程度か…」

 

堕天使は服についたほこりを払いながら余裕な表情を浮かべていた。

そして再びこちら見向かって歩み寄ってきた。

 

「くっ、…はぁっ!」

 

雄介も負けじと再度挑みかかったが、

 

「ふん」

 

「なっ!?」

 

雄介の拳は簡単に防がれてしまった。

そして、その隙をついて堕天使の槍が雄介を襲った。

そのまま堕天使の攻撃は止むことなく雄介の体を何度も切りつけた。

 

「ぐわぁっ!」

 

小猫の元まで飛ばされ倒れこむ雄介。

そして雄介の体から白い鎧が消えてしまった。

 

「ぐうぅっ…」

 

「五代先輩っ!」

 

小猫は自身の傷口を押さえながら雄介の名を呼ぶ。

しかし当の本人はまともに返事をすることすらできなかった。

そうこうしているうちに堕天使は槍を構えていた。

 

「それでは、今度こそ終わりだ」

 

堕天使の槍が雄介と小猫に迫ろうとした時、

 

「私の下僕と友人に手を出さないでもらえるかしら?」

 

聞き覚えのある声とともに堕天使の槍が弾かれ、2人の目の前にリアス、朱乃、裕斗の3人が立っていた。その姿を見た堕天使は、

 

「なるほど、そちらはグレモリー家の眷属でしたか」

 

「悪いけど、あなたとは話すことは何もないわ」

 

リアスの言葉をきっかけに3人は堕天使に殺気を放つ。

 

「ふむ、これは少々状況がよろしくありませんね。ここはおとなしく引き上げることにしましょう」

 

そう言って堕天使は羽を広げると宙に舞った。

 

「それではまた会いましょう、悪魔の諸君」

 

そう言い残し堕天使の姿は月の光が照らす闇夜に消えていくのであった。

 

                      ☆

 

夜中に勃発した堕天使との戦闘は五代雄介の敗北で幕を閉じた。

そして雄介は強制的にオカルト研究部の部室に連行された。

今は雄介の近くでけがを負った小猫が朱乃の治療を受けていた。

 

「あの、小猫ちゃんは大丈夫なんですか?」

 

「平気よ。あなたが庇ってくれたおかげで軽傷ですんでるし、朱乃は優秀だもの」

 

雄介の心配を取り除くようにリアスが紅茶を飲みながら答えた。

 

「そうですか」

 

小猫の無事に安心しながらも、雄介は落ち込んでいた。

 

「…」

 

リアスはそんな雄介を見つめると口を開いた。

 

「まずは、あなたに礼を言っておくわ。小猫を助けてくれてどうもありがとう」

 

「いえ、俺は小猫ちゃんを守りきれませんでした。それに結局はまた助けられました。こちらこそ、ありがとうございました」

 

「そんなことはないわ。あなたがいなかったら小猫は確実に殺されてたわ」

 

「でも…」

 

「とにかく!2人が無事でよかったわ。でしょ?」

 

「…はい」

 

「さて、それじゃあ、なんであなたが現場にいたのか答えてくれるかしら?ただの偶然ってわけじゃないんでしょ?」

 

「はい。実は、ベランダで桜子さんと古代文字の解読状況について話してたんです。そしたら、堕天使が飛んでいくのが見えて、後を追いかけたらあの場所で小猫ちゃんが襲われてたんです。それで助けなきゃ、って思ってそのまま戦ってました」

 

「なるほどね。理解したわ」

 

そう言ってリアスは1度紅茶をすする。

 

「私はあなたに感謝しているの。これは嘘偽りのない正直な気持ちよ。でも…」

 

リアスはティーカップを机に置くと睨むように雄介も見た。

 

「五代君。これ以上私たちに関わらないで」

 

「え?」

 

雄介はリアスの一言が衝撃過ぎて思わず聞き返してしまった。

 

「そうでしょ?あなたは“人間”でわたしたちは“悪魔”。所詮、あなたと私たちとでは住む世界が違うの。…ここ最近、女性の死亡事件が多発しているのは、知っているかしら?」

 

「?…ええ、一応は」

 

「その犯人がさっきの堕天使なのよ。」

 

「!?」

 

「奴は人間の女性ばかりを狙いいたぶって殺すことを趣味にしている最低なやつよ。そんな殺すことを何とも思わない連中とこの先人間であるあなたが戦っていけばいずれ、けがでは済まなくなるわよ」

 

「でも…」

 

反論しようとした雄介だが、

 

「あなたが戦う力を得たと思うのは勝手よ。でもあなたが戦う義務はないの。これは私たちの問題。はっきり言って部外者であるあなたに中途半端に関わってほしくないの」

 

リアスの鋭い視線と言葉に雄介は何も言うことができなかった。

そんな雄介を目の前にリアスは再び紅茶に口をつけた。

 

                      ☆

 

 

「よかったんですか?あんなこと言って」

 

すでに雄介のいない部室で祐斗がリアスに尋ねた。

 

「いいのよ。あれぐらい言わないと彼、また首を突っ込むでしょ?」

 

「ですが、やはり少し厳しすぎたのでは?」

 

朱乃の言うことはもっともだ、と思うリアスだがその気持ちを胸の中で押し殺した。

 

「さっきも言ったけれど、私たちの都合で関係のない彼を巻き込むわけにはいかないわ」

 

その言葉を最後に部室は沈黙に支配された。

 

                      ☆

 

 

「中途半端、か…。」

 

時刻は9時を回っていた。

部室を後にした雄介は公園でバイクを回収し、気分転換で、近所にある24時間営業のスーパーで食材を購入した帰りのことだった。

 

「本当にこのままでいいのかな…」

 

気分は晴れずそう呟きながら歩いていると、不意に一軒の家の前で足が止まった。

家の奥から念仏が聞こえてきた。

 

「ここって…」

 

雄介は知っていた。

ここはリアスが言っていた例の堕天使の手にかかって殺された一人の女性の家だった。

すると、雄介の目の前に一人の少女が飛び出してきた。

悲しみでいっぱいなのか、雄介の存在には気づいていない。

少女は塀の壁にすがると、

 

「ぐすっ…えぐっ…お姉ちゃん…ぐすっ…」

 

泣きながらその場で崩れ落ちた。

少女の涙を流す姿を見ていると雄介は胸を締め付けられるような感覚に襲われた。

そして、悔しさをかみしめるかのように拳を壁に叩きつけるのであった。

 

                      ☆

 

日にちが変わり、駒王学園での昼休憩。

雄介はテラスの椅子に腰かけ青空を見上げている。

現在、雄介は“赤い戦士”について考えていた。

 

「ここ、いいかな?」

 

声のした方を向くと祐斗と小猫の姿があった。

雄介は二人に笑顔を向けながら、

 

「いいよ」

 

「それじゃ、失礼して」

 

「おじゃまします」

 

祐斗と小猫が椅子に座り持参した昼食を広げる。

 

「小猫ちゃん、けがはもう大丈夫?」

 

「はい、もう治りました」

 

「そっか、それならよかった…」

 

小猫のけがが治ったことを知って雄介の悩みは一つ解消された。

 

「昨日のこと、まだ気にしてるのかい?」

 

祐斗が心配そうに尋ねてきた。

 

「ん?いや、それもあるんだけど…“赤い戦士”のこと考えてたんだ」

 

「赤い戦士?」

 

「俺が見たイメージでは戦士は赤い体をしてた。けど俺が変身した時は白い体だった。本当は赤じゃなきゃいけなかった気がするんだ。俺の気持ちが半端だったからなりきれなかった…」

 

「五代先輩でも気持ちが半端になるなんてことあるんですね」

 

「あるさ、そりゃ…」

 

そう言いながら、雄介は作った拳をもう片方の手で包み込んだ。

そんな雄介の姿を祐斗と小猫はただ見つめていた。

 

                      ☆

 

夕暮れが照らす帰り道を小猫と祐斗が歩いていた。

あれから、2人が雄介と言葉を交わすことはなかった。

常に無表情で通っている小猫の表情はどこか暗かったことに祐斗は気付いた。

 

「やっぱり、雄介君のことが心配かい?」

 

「…私、初めて見ました。五代先輩のあんなつらそうな顔」

 

「彼、初めて会った時からどんな時でも笑顔だったからね」

 

「頭では分かってるんです。五代先輩のためには仕方がないって、理解はしてるんです。でも…」

 

「僕も同じ気持ちだよ。でも、部長が言った通りこれ以上雄介君を巻き込むわけにもいかないんだ」

 

「…はい」

 

「大丈夫だよ。きっとすぐに立ち直ってまたいつもの笑顔を見せたくれるさ。信じよう、雄介君を」

 

「そうですね…」

 

祐斗の励ましに小猫の顔から暗い色が少し消えた。

やがて分かれ道に差し掛かった。

 

「それじゃあ、小猫ちゃん。また後で」

 

「はい、お疲れ様でした。祐斗先輩」

 

祐斗と別れ小猫が角を曲がった瞬間、黒く染まった天使の羽が彼女の視界を覆った。

 

                      ☆

 

営業を終えた喫茶店で雄介は明日の料理の仕込みをしていた。

すると、店のドアが乱暴に開け放たれた。ドアに取り付けているベルが激しく揺れる。

 

「あ、すいません。今日はもう終わり…」

 

「雄介君!」

 

駆け込んできたのは、肩で息をする祐斗だった。

 

「どうしたの祐斗くん?そんなに慌てて」

 

「小猫ちゃん来てないかな?」

 

「小猫ちゃん?いや、見てないけど、どうかしたの?」

 

「実は、放課後から連絡が取れないんだ。みんなであちこち探してるんだけど、まだ見つからなくて…。それでもしかしたらって思ったんだけど、ここも違ったみたいだね」

 

「俺も手伝うよ!」

 

そう言って雄介がエプロンを外した時だった。

床に紅く光る魔方陣が出現したかと思うと、慌てた様子の朱乃が現れた。

 

「祐斗くん、大変よ!」

 

「どうかされたんですか?」

 

「小猫さんが昨日の堕天使に攫われたようですの!」

 

「なんですって!?」

 

「どうやら町はずれにある教会に連れて行かれたようです。今、リアスも向っています!」

 

「分かりました!僕たちもすぐに…」

 

祐斗の言葉を遮るように突然ドアのベルが鳴り響いた。

祐斗と朱乃が気付いた時にはすでに雄介の姿は店の中から消えていた。

 

                      ☆

 

リアスは教会に踏み込んでいた。

彼女の目に飛び込んできたのは堕天使と十字架に張り付けられた小猫の姿。

リアスに気付いた堕天使は、彼女にとって不愉快以外の何ものでもない笑みを浮かべながら、

 

「これはこれは、グレモリー家のお嬢様ではありませんか。何のご用件かな?」

 

「決まっているでしょ!私の下僕は返してもらうわ!」

 

「おやおや、まさか主自らこちらまで赴いてくるとは感動的ですな。」

 

「生憎だけど、あなたの話に付き合ってる暇はないのよ!」

 

「ふむ、それもそうですね。あの白い悪魔にも来てほしかったのですけれど、まぁいいでしょう。グレモリー家次期当主を誘い込むことには成功したのですから。では…」

 

堕天使が小猫の方を向くと、

 

「この子にもう用はありませんね」

 

手から放たれた電流が小猫を襲い、聖壇周辺が炎上した。

 

「きゃああああああああああああっ!!」

 

「小猫!止めなさい!」

 

小猫の悲鳴を聞いてリアスは咄嗟に駆け出した。

すると堕天使が彼女に向かって小さな小瓶を投げつけてきた。

空中で小瓶が爆ぜると中の液体が降りかかった。

リアスの体に異変が起きたのはそのすぐ後だった。

 

「くっ…!」

 

リアスはその場で膝から崩れ落ちてしまった。

 

「どうです?苦しいでしょう?」

 

リアスはすぐにかけられた液体の正体に気付いた。

 

「これは…聖水!?」

 

「その通りです。しかもこの私が調合した特別製です」

 

「くっ、この程度で…っ!?」

 

何とか立ち上がろうとするがうまく力が入らない。

 

「無理はしない方がいい。この聖水は動けば動くほど体に染み込んでいきますからねぇ。…さて、おしゃべりはここまでです。当初の予定とは少し違いますが…あなたにはここで消えてもらいましょう」

 

堕天使は不愉快な笑みを崩さぬまま槍を構えた、その時だった。

 

バタンッ!

ブウウウウウウウウウン!!

 

突然教会の扉が開け放たれたかと思うとバイクに跨った雄介が乗り込んできた。

雄介がその場で転倒するとバイクはそのまま堕天使に迫っていった。

しかし堕天使は難なく避けるとバイクは燃える炎の中に突っ込み、爆発した。

しかし、雄介は気にした様子はなくヘルメットを外すとリアスのもとに駆け寄る。

 

「大丈夫ですか、リアス先輩!」

 

「五代君!?」

 

雄介は突き出された槍をリアスを抱きかかえてかわす。

 

「何しに来たの!?」

 

「戦います、俺!」

 

「あなた!まだそんなこと言ってるの!?」

 

予想通りの答えにリアスは思わず雄介の胸倉を掴みあげた。

だが、雄介は動じることなく彼女の腕を振り払う。

雄介は走り出すと、堕天使の腕にしがみついた。

 

「こんな奴らのために!」

 

振り払われながらも堕天使の攻撃をかわし間合いを取る。

 

「これ以上誰かの涙は見たくない!」

 

再度堕天使にしがみつく。

 

「みんなに笑顔で、いてほしいんです!」

 

が、やはりまた振り払われた。

 

「だから見ててください!」

 

聖堂の床に倒れながらも雄介は叫ぶ。

その瞳には強い決意が宿っていた。

 

「俺の!―――変身!!」

 

雄介は立ち上がり一度クロスさせた両腕を大きく広げると、アークルが出現した。

それを両手で包むようにかざす。

次に左腕はアークルに添え、右腕を左前方に突き出し、右腕を右方向に、左腕は左方向に、それぞれスライドさせるように動かした後、右腕を左腕に重ねると堕天使に決意を込めた拳を振り上げた。

 

「うらぁっ!」

 

雄介が堕天使を殴りつけていると、アークルから激しい音が鳴り響き、腕、脚、胴と徐々に姿が変わっていく。

そして雄介が堕天使を投げ飛ばした時には今までの白い姿とは異なり、長くたくましく伸びた金角に、赤い鎧を纏った戦士の姿に変わっていた。

ついに“赤い戦士”になった雄介の頭の中にひとつの古代文字が浮かび上がった。

しかし雄介はなぜか読めないはずのその文字の意味を理解することができた。

 

「“クウガ”…そうか、“クウガ”か!」

 

教会に燃え盛る炎が、降臨を祝うかのように赤いクウガを照らしていた。

 

                      ☆

 

雄介の姿が以前見た白い戦士ではなく、赤い戦士に変わったことにリアスは驚かれずにはいられなかった。

丁度そのとき祐斗と朱乃が現場に到着した。

 

「リアス、無事ですか!?」

 

よほど心配だったのか、駆け寄る朱乃の呼び方が部長からリアスに変わっていた。

 

「ええ、何とかね。それよりも、小猫をお願い」

 

「分かりましたわ。」

 

指示を受けた朱乃が小猫の救出に向かった。

 

「あれ、雄介君…ですよね?」

 

祐斗も“赤い戦士”を見つめながら驚いたように呟いていた。

 

「その通りよ。“クウガ”って言うらしいわ」

 

「“クウガ”ですか…」

 

リアスと祐斗、小猫を救出した朱乃はクウガと堕天使の戦いを見つめていた。

 

                      ☆

 

雄介と堕天使はしばらく睨み合っていたが、最初に動いたのは堕天使の方だった。

堕天使が攻めてくるが雄介は跳躍してかわした。

すぐに堕天使の槍が迫ってくる。

しかし雄介は振り返ることなくがら空きになった堕天使の腹に蹴りを入れた。

 

「がっ…!?」

 

「はあっ!」

 

堕天使がひるんだところを雄介は、体を回転させて殴りつける。

後ずさりながらも堕天使は余裕の笑みを浮かべると聖水の入った小瓶を取出し、雄介に投げつけた。

先程と同じように小瓶が爆ぜ、中の聖水が飛び散るが、悪魔でもない雄介には何の意味も成さなかった。

そのまま雄介は堕天使に向かって走り出す。

 

「何!?」

 

「おりゃあっ!」

 

雄介は堕天使が驚愕しているところをすかさず殴りつけた。

 

「ぶはっ!?」

 

床を転がりながら雄介を見つめる堕天使の顔から笑みは完全に消えていた。

 

「何故だ、何故貴様は悪魔のくせに聖水が効かない!?」

 

「残念ね、私は彼は悪魔だなんて一言も言ってないわよ?」

 

混乱している堕天使の疑問に答えたのは、朱乃に支えられたリアスだった。

 

「彼は私の眷属でもなければ悪魔でもない。…彼は人間よ」

 

「何だと!?」

 

リアスの言葉が堕天使にさらなる衝撃を与えた。

 

「馬鹿な!ただの人間にこんなことが…ひいっ!」

 

一歩ずつ近づいてくる雄介の姿は堕天使にとって恐怖以外の何ものでもなかった。

 

「うぅっ…わああああああああっ!!!」

 

とうとう自棄になった堕天使が槍を振り回してくるが、雄介は片手で払うと左足で相手の腹部を蹴りつけた。

咄嗟に左足を掴まれたが、その足を軸に雄介は跳びあがる。

 

「うりゃぁ!!」

 

今度は右足で胸部に蹴り、“マイティキック”を叩き込むと堕天使の体は教会の外まで飛んで行った。

外には既に太陽が昇っていた。

ふらふらと立ち上がる堕天使だが、胸にはまた別の古代文字が浮びあがっていた。

 

「そんな…この私が、人間に、人間に負けるはずが…まさか、ぐふっ…そんな…あああああああああ!!!?」

 

断末魔と共に爆発を起こし堕天使はこの世から永遠に消え去った。

 

「はあ、はあ、はあ、はあ…」

 

堕天使の最後を見た雄介の右足からは白い煙が昇っていた。

 

                      ☆

 

あれから少し時間が経ち一行は場所を近くの公園に移していた。

 

「今回もまた助けられたわ。ありがとう、五代君」

 

「ありがとうございます、五代先輩」

 

「いえ、これは俺が勝手にやったことですから気にしないで下さい。2人が無事で本当に良かったです」

 

リアスと小猫のお礼に照れながらも、雄介は気を引き締めリアスと向かい合った。

 

「リアスさん」

 

「…何かしら?」

 

リアスも何かを感じたのか雄介の視線を正面から受け止めていた。

その様子を小猫、朱乃、祐斗の3人はただ見つめていた。

 

「俺、戦いますから」

 

「…」

 

リアスは何も言わないが、雄介は続ける。

 

「これは義務とかそういうのじゃありません。やりたいからやるんです。俺、『中途半端』はしません。きちんと関わりますから!それに…」

 

雄介はサムズアップをすると、

 

「俺、クウガだし!」

 

と、笑顔をリアスに見せつけるのであった。

それを見たリアスはため息をひとつこぼし、しばらく目をつむったかと思うと、いきなり黒い魔力の塊を雄介に向かって放った。

雄介に迫る魔力の塊は彼の左肩をぎりぎりの位置ではずれ、背後で小さな爆発が起きた。

その光景を目の当たりにしたオカルト研究部の部員はただ驚いていた。

しかし雄介は未だにポーズを崩さずリアスに笑顔を向けていた。

それを見たリアスは、フッと笑みを浮かべると、

 

「どうやら、あなたの覚悟は本物みたいね。…分かったわ。」

 

リアスは一度朱乃、小猫、祐斗の3人に視線を向けると彼女たちはリアスの考えていることが分かったらしく笑顔でサムズアップをした。

それを確認したリアスは改めて雄介と向かい合うと、

 

「五代雄介君」

 

「はい」

 

「我々はあなたを我がオカルト研究部の一員として歓迎します。これからはあなたには戦士クウガとして活躍してもらう予定だから覚悟しておきなさい、雄介!」

 

リアスは雄介に負けないくらいの笑顔とサムズアップを返すのだった。

 

「はい!」

 

雄介の返事が青空にこだました。




やっと変身できた…。
さ、今度はドラゴンフォーム行ってみようか。

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