仮面ライダークウガ 青空の約束   作:青空野郎

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EPISODE18 飛来

あれからどれくらい時間が経ったのだろうか。

すでに日の沈んだ夜道に殴打音が響いていた。

ガドラが繰り出した拳を雄介はかいくぐり瞬時に殴りかかろうと拳を突き出した。

その動きに即座に反応したガドラは筋肉質な腕で防ぎ、再び拳を突き出す。

そんな小細工のない攻防がずっと繰り返されている。

さすがにお互い疲れの色が見え始めていた。

そこで2人は様子見で一度距離を取った。

しかし決して相手を視界から外すことはしない。

お互いにらみ合いながら横走りをする。

ある程度走ったところでぴたりと停止するが構えは崩さない。

先に動き出したのはガドラだった。

向かってくるガドラを雄介は跳躍、空中で回転し回避する。

着地を決め振り向くと、すでにガドラが目の前にまで迫っていた。

 

「クッ…!」

 

咄嗟に体を前に転がしてよける。

勢いに乗ったまま振られた拳はコンクリートの壁を簡単に砕いた。

しかも当のガドラの拳は傷一つついていない。

両者の距離はある程度離れている。

例えこの場で腕を伸ばしても相手に届くことはない。

雄介は再び襲いかかってくると思い待ち構える。

しかしこの判断は間違っていたと直後に気付く。

ガドラが雄介に腕を突き出したのだ。

だがそれは雄介を殴ることが目的ではなかった。

ガドラの前腕部分から鎖が伸びてきたのだ。

まっすぐ飛んできた鎖はそのまま雄介の首にきつくからみついた。

うまく呼吸ができずにいる雄介の姿をガドラはあざ笑うかのように口角を上げた。

そして鎖を握りしめ、ぐっと力を込めた。

雄介は強引に引きよせられ空中で一瞬無防備になってしまう。

そこをガドラの空いた左拳で殴られた。

着地の体勢が取れないまま雄介の体は近くに止めてあった車のボンネットにたたきつけられた。

立ち上がりガドラに向かって駆け出すのだがガドラの操る鎖に阻まれる。

その隙にガドラは雄介との距離を縮め襟首をつかみあげた。

仮面の下で苦悶の表情を浮かべる雄介にガドラは容赦のない一撃を加える。

今度は両手を組んで蹲る雄介の背中に一気に振り下ろした。

 

「がぁっ…!」

 

強い衝撃が雄介を襲い地面にねじ伏せられる。

だがすぐに体を起こし、ガドラを蹴りつけ再び距離を取った。

繰り広げられるチェーンデスマッチは雄介の不利を示している。

何とかして鎖を千切ろうと腕に力を込めるがびくともしない。

紫のクウガに変わって剣で断ち切るか、強化された腕力で引きちぎるか…。

いずれにしても姿を変えるために集中しようとするのだが、ガドラが鎖を操りそれを妨害する。

体勢が崩され膝をついたところにガドラは思い切り鎖を振る。

その動きにつられ、今度はコンクリートの壁に叩きつけられる。

 

「ぐ、くぅ…」

 

それでも雄介は衝撃で崩れ落ちる破片に紛れながらも立ち上がる。

だがその間にガドラに背後に回り込まれ羽交い絞めにさてれしまう。

雄介はすさまじい力で締め上げられ今にも意識を手放しそうになっていた。

しかしそれでも雄介はあきらめなかった。

薄れゆく意識の中、持てる力を振り絞り強烈なひじ打ちをガドラにくらわせた。

油断していたせいもあったのかガドラが後退してその場で蹲った。

思ったより雄介の一撃が響いたようだ。

さらには雄介の首に巻きついていた鎖も解けた。

この瞬間、両者の形成は完全に逆転した。

すかさず雄介はガドラの顔面を殴りつけた。

さらに雄介は攻撃の手を休めなかった。

畳み掛けるように右手でパンチ、パンチ。

左手でボディブロー。

再び右パンチ。

続いて左パンチ。

締めに右アッパーでフィニッシュを決める。

見事に叩き込まれるラッシュに打ちのめされガドラは一瞬だけ宙を舞い、その後は無様に地面を転がっていった。

ガドラは血反吐を吐きながらふらふらと立ち上がる。

それは明らかにガドラのピンチを物語っていた。

その姿をチャンスと見た雄介はガドラに止めを刺すために一気に駆け出す。

ガドラもそれを察知したのか、雄介の攻撃を防ごうと両腕を交わらせ前に突き出した。

しかし、それを見た雄介はとっさに機転を利かせた。

歩幅を調節し、ガドラの前に来ると跳躍する。

そして左足を突出しガドラを蹴りつけた。

蹴りを受け止め、踏ん張るためガドラは一瞬だけ身動きを封じられてしまう。

そこが雄介の狙いだった。

ガドラのクロスされた両腕を足場に利用しようと考えたのだ。

 

「だああああぁっ!」

 

狙い通り、動きが止まっている一瞬で雄介は力を込めた右足でガドラの顔にマイティキックを叩き込んだ。

着地を決める雄介に再び地面に倒れこむガドラ。

そして立ち上がろうとするガドラの右頬には“封印”を意味する古代文字が刻まれていた。

立ち上がるころにはすでに“封印”の古代文字から広がるヒビが全身に回ろうとしていた。

そして、

 

「が、ぐゥが…がああぁぁぁぁぁぁぁぁあっ!」

 

雄介の勝利のゴングのように爆音が響いた。

 

                      ☆

 

「ふう…」

 

戦いを終え、雄介が変身を解いた時だった。

不意に何かの気配を感じた。

ごく最近、そう。

今朝の夢で感じた感覚に似ている。

その気配を頭上に強く感じ、雄介は上を見上げた。

そこにいたのは、巨大なクワガタだった。

間近で見るとその大きさと容姿がよくわかる。

全長は雄介の伸長に達するだろうか。

姿は鋼鉄でできているのか夜空に浮かぶ月光を反射し、幻想的な雰囲気を醸し出している。

そのクワガタが空中を移動するたびにブオン、ブオンと重厚な羽音が響く。

そしてクワガタは雄介を品定めするかのようにある程度頭上を旋回した後、その場を離れ夜空の彼方へと飛んで行ってしまった。

 

「今のは…」

 

呆然と夜空を見上げる雄介だったが、同時に夢で見たときと同じ懐かしさを感じていた。

最初にガドラとの戦闘が始まった場所に戻ると、まずプスプスと煙を上げるトライチェイサーが雄介を出迎えた。

 

「そういえばあの時壊れちゃったんだよな。はあ…。帰ったらリアスさんに謝らなきゃな」

 

愛機の損傷に落ち込みながら雄介は押しながらその場を後にしたのだった。

 

                      ☆

 

そんな雄介の姿を遠めで見つめる者たちがいた。

 

「もしもの時は手を貸そうと思っていたけれど、その必要はなかったみたいですね」

 

生徒会メンバーもとい、下僕悪魔を引き連れたソーナは雄介の背中を興味深げに見つめ微笑んでいた。

 

「フフ、なるほど。通りでリアスが気に入るわけだわ」

 

他メンバーは感心や驚愕などの色を示している。

全ては先ほどの雄介の戦闘を見た結果の反応だ。

 

「サジ。そういえば、あなたさっき五代君程度なら楽勝とか言ってたわね。どうせなら後日、彼と手合わせしてみたら?」

 

ソーナが後ろに控えるサジに含み笑いを向けた。

すると当の本人はピクピクと口角を動かしながら降参といわんばかりに両手を挙げていた。

 

「勘弁してくださいよ会長。さっきの戦い見てたでしょう?経験が浅い今の俺が挑んでも返り討ちにされるのが落ちですよ」

 

その潔さに副会長の椿姫を含め何人かのメンバーがくすくすと笑っている。

羞恥で頬を染める匙が声を荒げて反論するが、説得力がまるでない。

そんな光景を一瞥するソーナは目を細め、考え込むように呟いた。

 

「“戦士クウガ”ですか…。神器でもないのに悪魔や堕天使を屠る力を有しているとは。でも、確か以前にどこかで…」

 

ソーナの言葉に答える者はいない。

ただソーナの呟きは、夜風に流されていくだけだった。

 

                      ☆

 

一方、同時刻。

すでに行きかう人々の喧騒が失せた深夜の駅のホームに2つの影が現れた。

薔薇タトゥを入れた女性はぐれ悪魔“バルバ”と蝙蝠のはぐれ悪魔“ゴオマ”だ。

2人が向き合うなりバルバが口を開いた。

 

「空を飛ぶ“あれ”が出たか。面白くなりそうだ」

 

「そんなにすごいものなのか?」

 

しかし、バルバは答える代わりに用件だけを言い渡す。

 

「そんなことより、ガドラはどうした?」

 

「戻らない」

 

イラつきを顔に出しながら答えるゴオマ。

 

「なら、ギャリドを呼べ」

 

その命令を渋々受け入れたゴオマは夜が明けないうちに駅のホームを駆け抜け、夜が明けに内に闇が支配する世界へ飛び去って行った。

 

                      ☆

 

日が変わり、改めて雄介たちは部室に集まっていた。

 

「相変わらず、傷の治りが驚異的ね」

 

リアスが感心したように呟いた。

あの後雄介は秀一のところで診てもらったところ、常人で言う全治2週間の全身打撲だと診断されていたのだ。

しかし、今の雄介は体内にあるアマダムの力で完治している。

 

「でも、こっちはこっちでいろいろと重症なのよね」

 

リアスが呆れたように雄介から視線を変える。

雄介も彼女の視線を追っていると…。

 

「ぐすっ、えぐっ…。す、スラたろぉ…。俺は…俺はお前のこと絶対に忘れにからなぁ…」

 

一誠が盛大に打ちひしがれていた。

 

「あの、イッセー君何かあったんですか?」

 

なんとなくリアスに尋ねてみる。

 

「別に。ただ、少し欲望に素直になりすぎて墓穴を掘っただけよ」

 

「ああ、なるほど」

 

フォローをする様子を見せないリアスを見ながら雄介は納得した。

一誠のいつもの病気が発動したと理解するのにその一言で十分だった。

窓を開けて「スラ太郎ぉぉぉぉお!」と吠える一誠に「うるさいです」と小猫が一発叩き込み黙らせる。

もちろん、そんな一誠に同情する者はいない。

雄介は何事もなかったかのようにある話題を繰り出した。

 

「そういえばちょっと気になるのが、あいつと戦ってた後俺のところにでっかいクワガタみたいなのが飛んできたんですよ」

 

「クワガタ?」

 

「うまくは言えないんですけど…こう、初めてベルトを見たときと同じような…」

 

「なら、それについて何か分かるかもしれませんわ」

 

その時、まだ部室に来ていなかった朱乃が現れた。

彼女は何か分厚い封筒を携えていた。

 

「ずいぶん遅かったみたいだけど、何かあったの?」

 

「ええ。丁度長野の沢渡先生が新たに解読した古代文字の資料を受け取りに行ってましたので」

 

                      ☆

 

長野県九郎ヶ岳北遺跡で写真1の破片群が出土した。

研究のために一時研究施設の保管庫に部分ごとに保管されていた。

しかし、昨日午後二時二分。

調査に当たっていた研究員らの目撃する前で保管庫が大破。

そしてその保管庫から謎の飛行隊が飛び去った。

 

                      ☆

 

以上が配られた資料の内容だった。

雄介、リアス、朱乃、小猫、祐斗がテーブルを囲んで資料に目を通していた。

 

「でも、どうやって飛んだんだろ?その破片の塊」

 

開口一番で雄介が疑問を抱いた。

 

「みんな、ちょっとこれを見て」

 

いつの間にか別の資料を見ていたリアスがそれをテーブルに広げた。

こちらは新たに桜子が解読した古代文字の一覧だった。

 

「沢渡先生によると“昆虫の姿をかたどりしもの”。これがその破片にあった古代文字の意味みたいね」

 

「昆虫って甲羅のある虫か…。やっぱりそれって雄介君の言ってたクワガタのことなのかな?」

 

「で、その昆虫の姿を象りしものが何なのかってことだけどね」

 

リアスがまた別の資料を指し示す。

 

「いっぱいありますね…」

 

そこにはひとつの古代文字に対したくさんの訳が並んでいた。

訳す手段を知らない雄介たちは軽く唖然としてしまう。

 

「どうやら意味が絞りきれなかったみたいね。私としては“馬のごとく守る僕よ”が一押しかしらね?」

 

「う~ん。でも、この“守る”ってとこ、ほらこっちの“鎧”でもよくないですか?」

 

「でもそこが“鎧”だとすると“馬の鎧となる僕よ”となりますわね」

 

「なんかかっこよくないですか?」

 

「でも変じゃない。虫がどうやって鎧になるわけ?」

 

リアスたちは馬の鎧となる虫を想像してみるが、やはりしっくり来ないようだ。

 

「それは…気合で」

 

予想を斜め上を行く返答にリアスたちは苦笑いを浮かべた。

 

「う~ん。じゃあとりあえず、“馬の鎧”にしておきましょうか?」

 

「はい。まあ、なんにしても、いいやつってことでしょ?」

 

「だといいんだけどね…」

 

「そう信じましょうよ」

 

不安げに顔を曇らせるリアスに雄介は無垢な笑顔とサムズアップで返した。

 

「そう言えば…」

 

雄介がある方向に視線を巡らせる。

 

「あれがアーシアちゃんの使い魔ですか?」

 

その先にはアーシアが腕に小動物を抱いていた。

 

「ええ、蒼い雷を司る龍“蒼雷龍(スプライトドラゴン)”。本来は心の清い者にしか心を開かないそうよ。普通は悪魔には下らないはずなのに」

 

「アーシアちゃんがシスターだったことが影響してるのかも知れませんね」

 

見ると蒼雷龍がアーシアの胸に気持ちよさそうに頬ずりをしている。

一目でアーシアに懐いていると分かる。

そこにいつの間にか復活した一誠が詰め寄った。

 

「あ、ラッセーてめえ!アーシアに何しやがっtア☆○@△Д÷Σ〒Φ!?」

 

どうやら蒼雷龍の名前はラッセーというらしい。

どこかイッセーと響き似ているのは気のせいだろうか。

とにかく、何かが気に障ったのだろう。

ラッセーが近づいた一誠に電撃を放ったのだ。

一誠は奇妙な悲鳴を上げた後黒こげになりぷすぷすと煙を上げながら倒れてしまった。

 

「ラッセー君たら。おイタはいけませよ」

 

そんなラッセーにアーシアが優しく注意する。

ラッセーはいたずらっ子のようにクペーと鳴くだけで反省しているようには見えなかった。

 

「へえ、ラッセー君っていうんだ。俺は五代雄介。よろしく」

 

雄介が興味本意でラッセーに手を伸ばそうとしていた。

 

「あ、待て五代!そいつは…」

 

再び起き上がった一誠が叫ぶのと雄介の指がラッセーに触れようとするのがほぼ同時だった。

 

バチッ

 

「痛ッ…!?」

 

雄介の指先に小さな痛みが走り反射的に手を引っ込めた。

痛みの正体がラッセーの雷なのはすぐに分かった。

そしてラッセーの異変にも気づいた。

 

「ど、どうしたんですか、ラッセー君?」

 

ラッセーに先程までの、のびのびとした様子とは打って変わって体を震わせながらアーシアの腕の中で丸まっていたのだ。

まるで雄介に怯えるかのように。

後でリアスから聞いたのだがドラゴンの雄は他の生物の雄を毛嫌いする習性があるらしい。

さっきみたいに一誠に電撃を放ったのもその習性によるものだ。

しかし、雄介の時はそれとはまるで違っていた。

一誠の場合を嫌悪による威嚇とするならば、雄介の場合は恐怖による威嚇。

それ故に雄介に対しては最小限の雷しか放たなかったのだろう。

あくまで、自分の身を守るために…。

 

「え、えっと…。なんか、ごめんね」

 

戸惑いを覚えながらも、とりあえず謝る雄介。

 

「い、いえ。気にしないでください。それじゃ、おやすみなさい。ラッセー君」

 

アーシアは笑顔で返し、ラッセーを落ち着かせ寝かしつけるのだが、どこか沈んだ空気が部室内に満ちていた。

みんな、何を言えばいいのか迷っていた時だった。

 

「みんな、今は考えても仕方ないわ。それよりも、アーシアが使い魔を持てたことを祝してパーっと行きましょ。今日はわたしのおごりよ」

 

パンパンと手をたたきながらリアスが部室を支配していた暗い雰囲気を吹き飛ばしてくれた。

その言葉に一誠を含め、皆がはしゃぐ。

その姿を見ていると雄介は悩んでいることがばからしく思えてしまい、いつの間にか全員に笑顔が戻っていた。

そのおかげで、みんなは笑顔でこの日を過ごすことができた。




次回、やっとフェニックス編です。
また長くなるんだろうな…。

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