仮面ライダークウガ 青空の約束   作:青空野郎

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EPISODE16 恩師

長野県九郎ヶ岳遺跡付近に設立された研究所に設けられた一室で考古学者の沢渡桜子はいた。

桜子が古代文字の解読を進めていると頃、研究室の扉が開かれた。

 

「オハヨウゴザイマス、桜子サン!」

 

片言の日本語で話しかけてきたのは“ジャン・ミッシェル・ソレル”。

彼は現在、駒王学院のフランス人教師であり、桜子と同じ考古学研究室に籍を置いている。

 

「おはよう。ジャン」

 

「イキナリダケドビックリシナイデネ」

 

「何?クマでも出たの?」

 

「NO,NO,NO。新シク出テキタ破片二古代文字ガ刻マレテルモノガアッタンデスヨ」

 

「古代文字?」

 

「YES。コレガソノ画像データダカラ見テクダサイヨ。多分、桜子サンノ研究シテルノト同ジモノダト思ウカラ」

 

「リントの文字?」

 

桜子はジャンに渡されたUSBメモリのデータをパソコンにインストールし始めた。

 

                      ☆

 

山道を走るバスに揺られながら、最後部の座席にリアスと神崎の姿があった。

 

「そうですか、五代の代わりに」

 

「はい。なんだか、そういうことになっちゃいまして…」

 

いざ本人を前にするとなんとなく申し訳ない気持ちが芽生える。

 

「相変わらずなんだなぁ、あいつ」

 

しかし神崎は当の雄介に怒りを覚えるわけでもなく、むしろ懐かしそうに呟いた。

 

「来ますかね、あいつ…」

 

「え?」

 

「来てくれるとうれしいんだが…」

 

雄介が約束を覚えてくれていたことはうれしいのだが、神崎はそれを素直に喜べないでいた。

 

「グレモリーさんは五代とはどういったご関係で?」

 

「同じ部活の後輩なんです」

 

リアスは決して嘘は言っていない。

ただ、そう説明するしかないのが事実だった。

 

「そうですか。それにしてもあいつ、よく覚えてたなぁ。実は私は、今日たまたまこれを見つけまして。5年前、五代が小学校を卒業する時に書いたものです」

 

神崎は隣に座るリアスに例のアルバムを見せた。

 

「あの、たまたまこれを見つけてなかったら?」

 

「当然、来なかったでしょうね」

 

リアスの疑問に、開き直ったかのようにきっぱりと答えた。

 

「そんな…」

 

「いや、失礼」

 

すぐさま照れ笑いで謝罪を入れる。

 

「でも先生もそれでよくいらっしゃる気になりましたね。普通来ないですよ?私なら絶対来るわけないって思っちゃいますよ」

 

「それがよかったんです」

 

「え?」

 

「願掛けするには丁度良かった」

 

神崎が引き締まった顔をしたまま、バスがトンネルに入った。

 

                      ☆

 

駒王学園の体育館で雄介たちは防具などの片付けをしていた。

 

「あらあら、みなさん揃いで。丁度よかったわ」

 

声のした方を向くといつの間にか朱乃が体育館に顔を出していた。

 

「朱乃さん。どうしたんですか?」

 

 

「実は現場に残された緑色の灰から分かったことがあるの」

 

「分かったことですか?」

 

「ええ。あれはギイガが吐いた体液が燃えたものだったのだけど、元の体液が物質に触れると爆発的な反応を起こす恐ろしいものなの。でもそれが逆に弱点になっているようなの」

 

「弱点に?」

 

「そう。あの体液が体のなかで生成されるときには280℃という凄まじい熱を発生するの。だから一定間隔で体を冷やさないとホメオスタシスが保てない。雄介君の証言でギイガが突然川に消えたって言うのはそのせいだと思うわ。多分、体のどこかに蒸気を吹き出す穴があるはずですわ」

 

「そういえば、確かに…」

 

雄介はあの時のギイガの行動を思い出しながら呟いた。

 

「おそらく、その穴は内臓に直結しているはずでしょうから、体の表面よりは弱いと思われます」

 

この朱乃の知らせで勝利への活路が開かれることとなる。

 

                      ☆

 

リアスと神崎を乗せたバスは目的地付近のバス停に到着した。

 

「こっちです」

 

バスから降りた2人は神崎の案内でバス停から延びる坂道を登っていく。

 

「あの、願掛けって…」

 

「もうすぐです」

 

「え?」

 

「この坂を上ると小学校ですよ」

 

「はあ…」

 

そうして、坂を上がること数分。

とうとう、2人の目の前に“約束の場所”が姿を現した。

しかし、小学校の校門は、工事用のフェンスに遮られていた。

近寄ると近日中に取り壊しを行うことを知らせるプレートがかかっていた。

それを見た途端、神崎は顔を曇らせてしまった。

 

「ここもなくなってしまうのか…。私が信じていたものはどうやら消えていく運命のようです。」

 

心のどこかで期待していた分、目の前の現実が神崎の心に重くのしかかってしまう。

 

「五代に連絡取れませんか?」

 

「え?」

 

「これでは、帰るしかないでしょう」

 

神崎の顔はなんだかさみしそうだった。

だが、そんな神崎にリアスはひとつの提案をした。

 

「この門、乗り越えてみませんか?」

 

「え?」

 

「雄介は絶対来ますから!」

 

と、自信満々に答えるのだった。

 

                      ☆

 

「雄介はこの教室で学んだんですね」

 

廃校となり、今は誰もいない校舎の一室で手近な席に座り室内を見渡していた。

 

「かつてはあそこに子どもたちの明るい声がありました。みんなと遊ぶ五代の、人懐っこい笑顔を今も覚えています」

 

神崎は窓から廃れた遊具がころがる校庭を眺めていた。

 

「まさか来るはずはない、そう思いながら私はあの笑顔にどこか期待していたのかもしれない」

 

「…」

 

神崎は絞り出すように真意を語り始めた。

 

「私はね、教育というものが分からなくなったんです。上からは子どもたちにゆとりを与えろと言われる。親たちからは成績を上げろと言われる。子どもたちは別に未来に期待はないと言う。だったら私は子どもたちに何を与えたらいいのか。それとも、与えるものなんてないのか。…何のために教師でいるのか分からなくなりました。もう教師を辞めようかとさえ思ったりしました」

 

振り返った神崎の表情は真剣なものだった。

 

「だから、願掛けをしたんです。もしも今日のことを五代が覚えていて、連絡などしなくても来てくれたなら、私が教師でいた意味が少しはあるんだと考え、このまま続けてみよう。そのかわり、五代に会えなかったら、教師を辞めよう。…教師らしくない、いい加減な考えです」

 

多少、自分勝手な考えかもしれないが、それでもこの願掛けにしか最後の希望を見出せなくなるほど、今の神崎は追い詰められていたのだ。

そんな神崎の本心を聞いた上で、リアスは、

 

「たまには、いいんじゃないんですか?」

 

「え?」

 

リアスの返答が予想外だったのか神崎は驚いた。

 

「雄介、先生と会うの本当に楽しみにしていました。すごく尊敬してるんだと思います」

 

しかし、それでも神崎の苦しみが消えることはなかった。

 

「私なんかの、どこが良かったのか…。今の私は、それが知りたい」

 

自分が歩んできた道に完全に自信を無くし塞ぎ込んでしまう神崎を見ていられなくなったリアスは話題を変えることにした。

 

「ところで、雄介のご両親は今どうなされてるんですか?」

 

「五代の両親はあの子が小学校3年生の時に亡くなりました。五代の父親は戦場カメラマンで母親は医者だったんです。7年前に2人とも海外で紛争に巻き込まれてしまい…両親の死を知った五代はこっちの胸が痛くなるほど泣いていました」

 

「そう、ですか。雄介にそんな過去が…」

 

いつも笑顔を絶やさない雄介からは想像することができなかった。

 

「リアスさん、あなたから見て五代はどうですか?」

 

「私の知る限り、彼ほどまっすぐで、心のきれいな人間いないと思います。今もみんなの笑顔を守るんだって2000番目の技で一生懸命頑張っていますよ」

 

リアスの言葉に神崎は眉をひそめた。

 

「2000の技。…そうか!」

 

リアスの言葉で神崎の中で燻る謎が解けた。

 

「約束というのはそのことです。5年の間に2000の技を身に着ける…あいつは確かに、そう約束しました!」

 

「じゃあ、守ったんですね。雄介」

 

「とんでもない奴だ」

 

神崎の表情には穏やかで、うれしそうな笑みがこぼれていた。

 

「多分それができたのは、みんなの笑顔のために頑張りたい、っていつも雄介が思ってきたからだと思います。これ、知ってますか?」

 

と、リアスはサムズアップをした。そして神崎も同じようにサムズアップをしていた。

 

「え?」

 

「これは…。これは…!」

 

自身のサムズアップした拳を見ながら神崎の様子が変わった。

 

「どうしたんですか?」

 

神崎は何かに突き動かされるかのように教卓に立つと、

 

「五代雄介、こういうのを知ってるか?」

 

再びサムズアップを示す。

 

「古代ローマで満足できる、納得できる行動をした者にだけ与えられる仕草だ。お前もこれに相応しい男になれ!両親が亡くなって確かに悲しいだろう。でもそんな時こそ、自分を支えてくれる人たちみんなの笑顔のために頑張れる男になれ!いつでも誰かの笑顔のために頑張れるって、すごく素敵なことだと思わないか?先生は…先生は、そう、思う」

 

「先生…」

 

神崎の頬には一筋の涙が流れていた。

リアスが五代雄介のルーツを知った瞬間だった。

 

                      ☆

 

学園から離れた港で、ギイガは暴れていた。

周りを囲むパトカーを盾に警官たちが拳銃を発砲する。

しかし、ギイガに打ち込まれた弾丸は時間が逆行するように身体から弾かれた。

その後何事もなかったかのようにギイガはスミを飛ばす。

1台のパトカーが激しく炎上し警官たちが逃げ惑う。

 

「逃げ回らずに死ぬがいい!」

 

ギイガが2発目のスミを吐こうと手で口を拭う仕草をする。

その時、逃げる警官たちと入れ替わる形でバイクで駆ける雄介が迫った。

そのすぐ後、一誠たちも現場に到着した。

前回同様ある程度バイクで牽制した後、雄介はバイクから降りてギイガと向き合った。

 

「キサマ…」

 

すぐさま一誠たちは戦闘態勢に入り、雄介は紫のアマダムが光るアークルを出現させた。

前に突き出した右手を右に、アークルに添えた左手を左にスライドさせる。

 

「今度こそ、死ね!」

 

変身の最中にもかかわらず、ギイガがスミを雄介に飛ばしてきた。

目の前から迫るスミを見つめながら雄介は叫んだ。

 

「変身!」

 

叫ぶと同時、雄介の体は爆炎に包まれた。

 

「五代!」

 

「「雄介君!」」

 

「五代先輩!」

 

雄介の名前を呼ぶ仲間たちだが、すぐに安心した表情になった。

爆炎が晴れ、そこに立っていたのは紫の瞳に、銀を基調に紫のラインが走る鋼の鎧を纏ったクウガの姿だった。

 

「なるほど、これが新しいクウガの姿か」

 

「今回は紫のようですね」

 

紫のクウガの姿に祐斗と朱乃が感想を口にした。

雄介は“トライアクセラー”と呼ばれるトライチェイサーのハンドルを取り外した。

これはトライチェイサーの始動キーであり、警棒の役目を持っている。

紫のクウガでトライアクセラーを掴んだことで早速効果が発動する。

バイクのハンドルに過ぎなかった代物は一瞬で紫の大剣“タイタンソード”に形を変えた。

柄には紫の霊石が埋め込まれている。

 

「よし・・・」

 

そしてギイガと対峙していた雄介はゆっくりと歩き出した。

 

「死ね!」

 

ギイガが威迫目的でスミを飛ばす。

すぐに雄介の真横で爆発が起こる。

 

「死ね!死ね!死ね!」

 

さらにギイガがスミを飛ばし続け、次々と雄介の周りで火柱が立ち上る。

しかし、雄介の歩みがとまることはなかった。

爆発の嵐の中、ゆっくりと、一歩ずつ、確実にギイガとの距離をつめていく。

そうこうしているうちに、雄介はギイガの眼前に迫っていた。

すかさずギイガが雄介にスミを放った。

放たれたスミはまっすぐ雄介に向かっていく。

そして次の瞬間、爆発が雄介を飲み込んだ。

 

「五代のやつ、本当に大丈夫なのか?」

 

近くで見ていた一誠が気が気じゃないじゃない様子で声を上げた。

その隣でアーシアも同じ気持ちなのか両手を組んで祈るようなポーズで雄介を見つめていた。

 

「大丈夫です」

 

しかし、2人が抱いていた不安は同じように雄介の姿を見つめている小猫の言葉で消えていった。

小猫の視線は2人と違い自信に満ち溢れえているものだった。

 

「大丈夫です」

 

そしてもう一度同じ言葉をつぶやく。

祐斗と朱乃もその言葉に同意するように頷いた。

そして爆炎が晴れていくと、片手をつきだしたままで立っている無傷の雄介がいた。

 

「何!?」

 

ギイガには何が起こったかのかはすぐに理解した。

雄介は爆発を片手だけで受け止めたのだ。

その事実にうろたえるギイガの姿にチャンスと思った雄介はタイタンソードを掴む腕に力を込めた。

 

「はああああああああああっ!」

 

叫びとともにタイタンソードを構え、

 

「だあああああああああああああっ!」

 

紫のクウガの必殺技、“カラミティタイタン”で真正面からギイガの体を貫いた。

その部分に“封印”の文字が浮かび上がりギイガの体に亀裂が走る。

 

「ぐっ、がぁっ…があああああああああああっ!!!」

 

そのままギイガは断末魔とともに爆発した。

それを見届けた後、雄介は変身を解いて一目散にバイクに飛びついた。

 

「雄介くん?」

 

「ごめん!俺急ぐから後はお願い!」

 

それだけ言い残し、雄介は夕日を背にバイクを走らせていった。

 

                      ☆

 

外はすでに日が沈み、夜空には月が顔を出していた。

 

「これを見つけて本当に良かった…」

 

アルバムを見つめる神崎の顔はすごく晴れやかだった。

 

「ええ」

 

「こんなのもありましたよ。あいつらしいでしょ?」

 

神崎がめくったページには笑顔の雄介の似顔絵に、サムズアップした右手、そして『だいじょーぶっ!』と書かれていた。

それを見たリアスの顔から思わず笑みがこぼれた。

 

「雄介ですね」

 

「本当に、五代雄介です。ハハハハ」

 

「ウフフフ」

 

すると遠くの方からバイクのエンジン音が聞こえ、ヘッドライトの明かりが見えた。

 

「雄介…」

 

約束の場所に到着した雄介はフェンスを乗り越え恩師の元に駆け付けた。

5年ぶりに再会を果たした2人がまず最初に交わしたのは言葉ではなく笑顔とサムズアップだった。

 

                      ☆

 

長野の研究室で桜子は遺跡から発掘された破片に刻まれた古代文字の解読に没頭していると、本日2度目、扉が開かれた。

 

「桜子サン!マタイキナリダケドビックリシナイデネ!」

 

扉を開けて入ってきたのはまたしてもジャンだった。

しかし今回は前回よりもあわてた様子で駆け込んできた。

 

「どうしたの?今度こそクマが出た?」

 

「NO,NO,NO。ソレドコロジャナイヨ。ドウシテカ分カラナイケド、今マデ出テキタ破片ガ独リデニ寄リ集マッテ、イクツカノ。塊ニナッチャッタノヨ」

 

思わずセリフが倒置法になるほどの事態のようだ。

 

「え?」

 

「ソノアト破片動カナカッタケド。トニカク来テモラエマスカ?」

 

ジャンに促され、桜子は謎の破片が回収された建物に向かった。

そこには2人を含む研究員たちの視線の先に、ジャンの言うとおり、今まで発掘された破片がひとつの形を成していた。

その形はどことなくクワガタムシを思わせる。

そしてその中心には霊石アマダムが埋め込まれていた。




ようやく4フォーム揃いました。
次回、使い魔篇に行きます。

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