夕暮れに染まったとある小学校の校庭では数人の子供たちのサッカーを楽しむ声が響いていた。
そこから少し離れた場所で初老の男性教師が寂しげにため息をついていた。
その背中は寂さを物語っている。
「どうしたんですか、神崎先生?」
神崎先生と呼ばれた男性が振り返るとジャージを着た体育教師が歩み寄ってきた。
「…枯れてしまったよ」
体育教師が神崎の視線を追うとそこには色を失い無残に枯れた花が植えられたプランターが並んでいた。
「あぁ…」
それを見た体育教師が悲しそうにため息交じりの声を漏らした。
「はあ…分からんな。生徒たちから言い出して作った花壇だったのに、当番を決めないでおくとこうだ。どうして平気なのかな?」
「平気じゃないんでしょうけど…」
すると体育教師の足元にサッカーボールが転がってきた。
「先生!」
子供たちに呼ばれ、体育教師は子供たちにボールを蹴り渡す。
「サンキュー!」
ボールを受け取った子供たちは再びボールを追いかけていく。
体育教師は無邪気な子供たちの姿を一瞥すると、神崎に視線を向ける。
「子供たちもどんどん変わってますからね」
「親の方だって、何を考えてるんだか分からない時があるよ」
体育教師は神崎の言葉に同意するように頷く。
「何が起こるか分からない世の中ですから。神崎先生も、たまには息抜きしてください」
開き直るかのような体育教の言葉に神崎の返事は、
「はあ…」
寂しそうなため息だった。
「じゃ」
そして体育教師はその場を去っていった。
その背中を見ながら呟いた。
「…分からんよ」
神崎の言葉を聞いたものはいなかった。
それから少し時間が経ち、閉館後の博物館に数人のはぐれ悪魔たちが集っていた。
「そろそろ次のゲームを始めるぞ」
バラのタトゥーの女がグゼパを他のはぐれたちに見せつけるように掲げる。
「今度こそ俺の番だ!」
口一番に蝙蝠のはぐれ悪魔“ゴオマ”が名乗りを上げた。
意気揚々と前に出てグゼパをつかみ取ろうとしたのだが、横から伸びた手がゴオマよりも一瞬早くグゼパをかっさらった。
「悪いが今回は俺にやらせてもらうぞ」
ゴオマの視線の先にはイカのはぐれ悪魔“ギイガ”が不快に思わせる笑みを浮かべながらグゼパを腕にはめた。
「ギイガ、貴様ぁ…!」
ゴオマがギイガに迫ろうとしたのだがバラタトゥーの女が片手を伸ばして進路を妨げられてしまった。
「ギイガ、何人だ?」
「1日で156人だ」
人差し指をピンと立てながら今回のノルマを宣言する。
「わかった。行け」
バラタトゥーの女に促され、ギイガは博物館から去って行った。
「“バルバ”ァ…なぜ邪魔をした!」
ゴオマがバラタトゥーの女“バルバ”に怒り狂った視線を向ける。
「グゼパをはめた時点でゲームは開始される。それがルールだ。あきらめろ」
それだけ言い残し、バルバも他のはぐれたちを引き連れて博物館を出て行った。
そして残されたゴオマはやり場のない怒りを抱きながら、近くに設置されていたガラスのショーケースを殴りつけた。
☆
同時刻、閉店後のポレポレでご機嫌な様子の雄介がカレーの下拵えをしていた。
「ご苦労様」
雄介の後ろで店のカウンターのテーブルに座るリアスがこちらを見つめていた。
リアスにとって閉店後のポレポレで一息をつくことが習慣になりかけていた。
「何かいいことでもあった?」
「明日、人と会う約束してるんですよ」
「あら、もしかして彼女かしら?」
「もう、俺のすっっっごく大事な人で、ずーっと前から約束してたんです」
「…」
「リアスさん、どうかしました?」
「い、いえ。なんでもないわ。ところで、あれから古代文字の解読の方はどうなったの?」
不覚にも普段よりもうれしそうな笑顔の雄介に一瞬見とれてしまったとは言えないリアスは話題を逸らすことでそれとなく誤魔化すことにした。
「あ、それなんですけどね。実はさっき長野の桜子さんから連絡があったんですよ」
本当に?と聞くリアスの問いに頷き、雄介はリアスと向かい合うようにカウンターに肘をついた。
「なんでも、まだクウガには別の色あるみたいなんですよ」
「へえ、そうなの」
「はい。でも色はわかんないんですけど、どうやら今度は剣を持ってるみたいなんですよ」
「剣?」
「はい。何とかの如く剣で斬りつけるって書いてあったみたいで」
「ということは、クウガにはこれで5つ目の形態の存在が明らかになったわけね。何にせよ、クウガについては沢渡先生の解読に期待するしかないわね」
「ですね」
こうして、他愛もない世間話を交えながら夜は更けていった。
☆
次の日の早朝、小学校教師の“神崎昭二”は自宅で押し入れに眠っていた荷物の整理をしていた。
畳の床一面には、今まで数多の生徒たちが残していった書写、絵画、文集、卒業アルバムなどと言った作品が散らばっている。
「あら、何よ?掃除するとか言って散らかして」
背後から神崎の妻が声をかけてきた。
「すぐにしまうよ」
「何よ、急に…あらぁ、懐かしいわね。前の学校の時の?」
神崎の妻は近くに積まれていたアルバムを手に取った。
「あぁ」
妻の言葉におぼろげな返事で返す神崎。
「そういうの、見始めるとすぐ夜になっちゃうわよ」
「あぁ」
神崎はその場を後にする妻に再度、おぼろげな返事を返した。
そのあと、おもむろに手に取ったアルバムの1ページに目が留まった。
そのページには、『先生の言葉にだいかんどー!ぜったい約束はたします。5年後の○月☓日教室で見て下さい』と書かれていた。
「…俺の言葉?約束?」
日にちを確かめるためカレンダーを見ると、今日がその5年後の○月☓日だった。
「おーい。ちょっと出かけてくる」
それが分かると神崎はいてもたってもいられず、掃除をほっぽり出すのだった。
☆
大河が流れる近くのベンチで2人の女子高生がテストの答案を見比べていた。
「え?ひっどー。数学34点?」
「うるさいなぁ。あんたはどうなのよ、あんたは」
「私は数学43点」
「現国が28点のくせに威張らないでよ」
「まぁ、うちらはお友達ってことよ」
「「はぁ…」」
お互いの成績の悪さを慰めあっていると突然川から水しぶきが上がった。
そして彼女たちの目の前に現れたのはイカの様な姿をしたはぐれ悪魔の“ギイガ”だった。
「きゃああああっ!!」
ギイガの奇怪な姿を見た2人は一目散に逃げ出した。
しかしすぐに1人が転倒してしまう。
「大丈夫!?」
もう1人の少女が咄嗟に駆け寄るがギイガは彼女たちに何かを吐きつけた。
それはそのまま転倒した少女の制服にベトリと墨が張り付く。
「きゃっ!」
少女が悲鳴を上げた途端、
ドカアアアン!
墨が爆発し、彼女たちが手にしていたテスト用紙が燃え上がった。
☆
その日のお昼時、オカルト研究部の部室にリアスとその下僕悪魔たちが集合していた。
「あれ、五代の奴はまだ来てないんですか?」
「彼は今日、用事があるって言って出かけてるのだけれど、事情を話して先に動いてもらってるわ」
「その事情というのはもしかして…」
祐斗の言葉にリアスは頷き、説明を始めた。
「今しがたはぐれ悪魔が現れたわ」
「本当ですか部長!あれ?でもはぐれ悪魔って夜にしか活動しないんじゃ…」
リアスの言葉に悪魔初心者の一誠が疑問を抱く。
「本来ならね。でもここ最近そういう妙な輩が出現しているの。近くの河川敷で爆破事件が起こったのは知ってるかしら?」
「ええ。さっきまで救急車のサイレンも聞こえていましたし…」
「私もイッセーさんと家を出るときにちらっとニュースでやってたのを見ました。何でもテロリストの仕業じゃないかって…あ、もしかして」
「ええ。アーシアの思ってるとおりはぐれ悪魔が起こしたものよ。ちょっとこれ見て」
と、リアスはビニール製の袋をテーブルに置いた。
袋に入れられていたのは濃い緑色の粉末だった。それはまるで、
「灰、ですか?しかし、こんな色…」
「それは私の使い魔に採取させたものよ。犠牲者全員の遺体から少しずつだけど採取されてるの。気になって調べてみれば、案の定、微量だけど魔力が付着してたわ。みんな、話が大きくなる前に片付けるわよ」
「「「「「はい!」」」」」
リアスの言葉を皮切りに眷属たちはギイガ討伐に向けて部室を出ていく。
そして、最後にリアスが部室を出ようとした時、彼女の携帯が電話の着信音を鳴らした。
携帯の画面には雄介の名前が記されていた。
「どうしたの?雄介」
もう敵を発見したのかと思いながら電話に出ると、当の本人はただ一言だけ告げた。
「リアスさん。俺の代わりに約束の場所に行ってください」
「は?」
珍しくリアスは素っ頓狂な声を漏らした。
☆
一方的に要件を告げ、一方的に電話を切った後雄介ははぐれ悪魔の探索を再開させた。
本当は約束の場所に行きたいという思いを抑え、バイクを走らせる。
そして、心の中で約束に遅れることを謝った。
「先生、すいません。遅れます」
☆
場所はとある積み荷を降ろすためのガレージ。
ここで荷物の積み下ろしの作業員たちは突然現れたギイガに襲われていた。
作業員たちは皆、ギイガの異形の姿に怯え、逃げ惑っている。
「貴様たちも俺のスミで餌食にしてやる」
ギイガはそんな彼らの姿をあざ笑うかのようにゆっくりと近づいていく。
そして、口を拭い、スミを吐こうとしたときだった。
高鳴るエンジン音とともに雄介がウィリーで乱入してきた。
その後も、雄介は巧みにバイクを操りギイガを牽制する。
いつしか、その場には雄介とギイガしか残っていなかった。
それを確認すると、バイクから降りた雄介は即座にアークルを出現させる。
「変身!」
赤の音が鳴るとともに雄介の体は赤い装甲に覆われ、赤いクウガに姿を変えた。
「キサマ、クウガか!?」
クウガの登場にギイガは同様の仕草を見せた。
「フン、この“白銀の殺戮者メ・ギイガ”に勝てるかな?」
しかし、すぐに挑戦的な笑みを浮かべ、いきなりスミを吐きつけてきた。
スミはそのまま雄介の方に飛んで行き、左肩に触れると同時に爆発した。
「ぐあぁっ!」
爆発の衝撃で体勢を崩された雄介ははぜた左肩に目を向けると、肩の走行が軽くえぐられ、煙を上げていた。
「なんて奴だ…」
ギイガの攻撃に肝を冷やした雄介は体勢を立て直し、間合いを取った。
「死ぬがいい」
一方、ギイガは次々とスミを連射してくる。
正面は危険だと判断した雄介は爆発の嵐をかいくぐりながらギイガの後ろに跳び、羽交い絞めにする。
自由を奪った雄介はすかさず、ギイガの肩や脇腹に拳や肘打ち、膝打ちを叩き込んでいく。
「はあっ、だあっ、うりゃぁっ、だぁっ…!」
しかし、しばらく続けてみるが攻撃に手応えのないことに気付く。
その証拠にギイガは涼しい顔をしているではないか。
「まさか、効いてないのか!?」
「フン」
ギイガは雄介の攻撃の手が止まった隙をついて後方に走り出した。
止まることもできず雄介は壁にぶつかる。
拘束から逃れたギイガはその際にがら空きとなった雄介の腹部に肘打ちを決めた。
続いて、雄介が怯んだところにすかさず蹴りを入れる。
「う。があっ!」
そして最後に数メートルほど転がり、地面に蹲る雄介に向かってスミを飛ばした。
「ぐあああああああっ!」
爆発音に叫び声が重なる。
爆風で雄介の体が宙を舞い、そのまま地面に墜落した。
「クッ…グ、うぅ…」
思っていたよりもダメージが大きかったのかうまく体を動かすことができない。
そんな雄介にギイガがゆっくりと近づいてくる。
「死ぬがいい、クウガ!」
トドメと言わん勢いでスミを吐き出そうとするギイガ。
雄介がまずいと思ったその瞬間、突然ギイガの腹からぷしゅーっと白い蒸気が生きよい良く噴き出した。
「…チッ」
それに気づいたギイガは一度不満げな表情を浮かべた後、そばに流れる大河に飛び込んだ。
水しぶきの直後、雄介は慌てて大河を覗き込むがその時点で既にギイガの姿をとらえることはできなかった。
☆
駅のホームで発射待ちの電車の中で神崎は例のアルバムを眺めていた。
神崎は期待と不安が入り混じっている瞳でアルバムを見つめている。
やがて定刻が訪れたのか発車の合図のベルが鳴り響いた。
「あぁっ!待って待って!」
電車のドアが閉まる直前、美しい紅色の髪を靡かせた女性が車内に駆け込んだ。
「…はあ、間に合った…」
女性は電車に間に合ったことに安堵のため息をつく。
そして、
「でも、どうして私が?」
少し納得のいかない顔で紅髪の女性、リアスが呟いた時、ドアが閉まり電車が走り始めた。
☆
ギイガとの戦闘後、雄介は近くにいた子猫、祐斗と合流していた。
「大丈夫ですか、五代先輩?」
小猫が僅かに痛みが残る肩を抑える雄介の姿を見ながら心配してくれている。
「大丈夫。これぐらいならすぐに治るから」
「それで、どうだったんだい?」
祐斗の問いに、雄介は率直な感想を述べ始めた。
「…強かったよ。俺にとどめさしかけたとき、腹から蒸気出して逃げたけど。爆発があるから前からじゃだめだし、後ろに回っても衝撃が吸収される体だし…」
ぶつぶつと呟きながら考えていると、雄介は思い出した。
それが雄介を一つの可能性に導いた。
「そうだ、剣!」
「剣、ですか?」
小猫が雄介の言葉に眉をひそめた。
「桜子さんが言ってたんだよ。クウガにはまだ別の色があって、そいつは剣を使う奴だって。…剣なら何とかなるかもしれない」
そうと決まれば、という勢いで雄介は祐斗にあることを頼んだ。
☆
何度か電車を乗り継ぎ、たどり着いたのは都会から離れた田舎町だった。
その駅で降りたのはリアスと神崎の2人だけ。
次に2人が向かったのは近くに設置されたバス停だった。
しかしバス停の時刻表を見ると、次に“約束の場所”へ向かうバスが来るまでかなり時間が空いていた。
「えー?うーん…」
当然、この事実にリアスと神崎は渋い顔をしてしまう。
神崎はどうしようかと視線を巡らせると、ある一軒家に目が止まった。
その家の扉には“喫茶木古里”と書かれた看板が立てかけられていた。
神崎はそちらに歩みを進めた。
「田舎ぜんざいですね?」
「はい」
還暦を迎えたであろう女性の店員に注文を済ませた神崎は愚痴をこぼすように語りかけた。
「あの、バスずいぶん減りましたね?昔はたくさんあったのに…」
「人がいなくなっちゃったからねえ。こちらに住んでらしたの?」
「いえ、勤めてまして」
「そうですか」
「私ね、教え子に会うんですよ。5年前、6年生だった生徒にね」
「そうですか」
「でも、来るかな?」
「はい?」
「来ないと私ね、教師を辞めなきゃならない…」
不安げに表情を曇らせる神崎を慰めるかのように出された緑茶の中に茶柱が立っていた。
☆
アーシアと行動を共にしていた一誠は小猫に途中経過を報告していた。
「もしもし、小猫ちゃん?イッセーだけど、こっちは全然ダメだ。そっちはどうだった?」
「先程、五代先輩が敵と遭遇しましたが逃げられてしまったみたいです」
「そっか。でも、もしかしたらこの近くにいるかもしれないな。それで、五代の奴は無事なのか?」
「はい。今祐斗先輩と剣道をしています」
「…え?」
電話越しの返答に思わず間の抜けた声が漏れてしまった。
☆
「もう一度お願いします!」
一誠がとアーシアが駒王学園の体育館に顔を出した時、ちょうど館内に雄介の声が響いた。
今、雄介は剣道の胴着を着込み、剣道の防具を纏い、竹刀を構えていた。
そして雄介と対峙していたのは同じような格好をした祐斗だった。
「面!」
雄介が勢いよく踏み込んで竹刀を振るう。
しかし、雄介の竹刀が祐斗に迫るころには既にこちらが面を持って行かれてしまっている。
剣の扱いに慣れるためとはいえ、これで何度目だろうかと思い返してしまう。
「勝てない。どうすれば…」
そんなことを思いながらもめげずに竹刀を振り回すが、祐斗にことごとく隙を突かれてしまう。その差は圧倒的だった。
「どうした雄介君?遠慮せず攻めて来い!」
「遠慮なんか、してないんだけどね!」
ついには祐斗の攻めを防ぐことに精いっぱいになってしまう。
「防御に気を取られすぎだよ!そのせいで攻撃が疎かになってるんだ!」
しかし、その言葉で防戦一方だった雄介は閃いた。
「そうか!」
すぐに雄介は行動に移した。
内容は至極単純。構えを解いて、面をさらけ出したのだ。
「面!」
当然、迫る祐斗の竹刀が雄介の面に直撃する。
「雄介君?」
突然の雄介の行動に祐斗は戸惑ってしまうのも無理はない。
祐斗だけでなく、端で稽古を見ていた一誠、アーシア、小猫も同じ反応を示した。
「俺、分かったよ」
「?」
雄介の言葉にさらに疑問符が増えてしまう。
「もう一度お願い。今度は何があっても攻め続けて!」
疑問を抱きつつも祐斗は雄介に言われた通り竹刀を振るう。
「面!」
再び祐斗の打突が雄介の面にクリティカルヒット。
「雄介君?」
「いいから!続けて!」
雄介に促され、祐斗は三度竹刀を振りかぶった。
「面!…面!…」
祐斗が攻め始めた時、雄介も動き出した。
相変わらず面をさらした状態で一歩ずつ前進し始めたのだ。
「面!…面!…面!…面!…」
祐斗が攻め続ける中、雄介は怯むことなくゆっくりと歩みを進める。
立ちふさがる雄介が邪魔で、前進することができない祐斗は引き面を繰り出すことしかできない。
「面!…面!…面!…面!…面!…面!…」
何度も面を食らい続ける雄介だがその歩みは止まることはなく、着実に祐斗を後ろに追いやっていく。
そしてついに祐斗の背中が体育館の壁に接触した。
その瞬間、雄介は竹刀を振り上げ、祐斗の竹刀を弾き飛ばした。
雄介はそのまま竹刀を振りかぶり、
「面!!!」
バシィッ、と渾身の一撃が祐斗の面に炸裂した。
直後、雄介は仰向けで地面にへばり込んでしまった。
「どういうつもりだい?」
祐斗は乱暴に面を外し、乱れた息を整える雄介に尋ねた。
「あいつにも、避けずに攻めようと思う」
雄介の一言に、祐斗は率直の感想を述べた。
「紙一重の戦いだよ」
祐斗の言葉に雄介は決意に満ちた眼差しで頷いた。
☆
バスの時間が迫り神崎は木古里を後にした。
バス停へ向かうと、ベンチには時間を持て余していたのか持参した小説を読んでいるリアスが座っていた。
神崎は彼女の隣に腰を下ろした。
ちらりと神崎を見つめるリアスの視線が、今度は神崎のカバンに向けられた。
そのカバンの名札には“神崎”と書かれていた。
それを見たリアスはまさかと思いながら声をかけた。
「あの…」
「え?」
「神崎先生、ですよね?」
丁度その時、“約束の場所”へ向かうバスが2人の目の前に停車した。
神埼先生の回はザイン(サイ)ではなく、ギイガ(イカ)でいきます。
ザインもいつか出せたらいいなと思っています。