仮面ライダークウガ 青空の約束   作:青空野郎

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EPISODE14 僧侶

少女の敵の堕天使を倒した後、一誠は静かに涙を流していた。

 

「…アーシア」

 

目の前で眠る少女の名前を呼ぶが、少女が返事を返すことはなかった。

そんな一誠の肩に優しく手を置く者が現れた。

 

「まさか、一人で堕天使を倒しちゃうなんてね。お疲れ様」

 

「遅ぇよ、イケメン王子」

 

振り向いた一誠はいつものスマイルを浮かべる祐斗に軽く毒づいた。

 

「キミの邪魔をするなって部長に言われていたんだよ」

 

「部長に?」

 

「その通りよ。あなたなら倒せると信じていたもの」

 

声のした方へ向くとリアスが紅の髪を揺らしながらこちらに歩み寄ってくる。

 

「用事が済んだからここの地下へジャンプしてきたの。そしたら祐斗と小猫が大勢の神父たちと大立ち回りしてるじゃない?」

 

「部長のおかげで助かりました」

 

「なんだ、心配して損した」

 

「部長。持ってきました」

 

一誠が安どのため息を漏らしていると、入口のほうから現れた小猫が気絶したレイナーレを引きずってきた。

 

「ありがとう、小猫。さて、起きてもらいましょうか。朱乃」

 

「はい」

 

朱乃が手をかざすと魔力で宙空に水の塊が発生させた。

それをそのまま気絶したレイナーレの顔に落とした。

 

「ゴホッ、ゴホッ!」

 

バシャッ!と水音がした後咳き込みながら目覚めたレイナーレをリアスたちは見下ろしていた。

 

「初めまして、堕天使レイナーレ。私はリアス・グレモリー。グレモリー家の次期当主よ」

 

「…グレモリー一族の娘か」

 

「どうぞお見知りおきを。どうせ短い間でしょうが」

 

澄ました顔で物騒なセリフを口にするリアス。

 

「それから」

 

リアスが懐から取り出したのは3枚の黒い羽。

それを見た途端、レイナーレの表情が曇った。

 

「あなたに同調していた堕天使ミッテルト、カラワーナ、ドーナシーク。彼らは私が消し飛ばしておいたわ」

 

「消し飛ばした?」

 

一誠の疑問に祐斗が答える。

 

「部長は“紅髪のルイン・プリンセス”。“滅殺姫”という異名があるんだよ」

 

「滅殺…そんな人の眷属になったんだ、俺」

 

「確かに、あの時のリアスさんは冷や汗ものだったな」

 

クウガの変身を解いた雄介が引き攣った笑みを浮かべていた。

 

「グレモリーの娘がよくも!」

 

レイナーレがリアスを恨めしく睨みながら声を荒げる。

しかし、リアスはそんな視線を気にすることなく嘲笑を浮かべる。

 

「以前ドーナシークにイッセーが襲われた時から複数の堕天使がこの町で何かを企んでたことは察してたわ。私たちに類を及ぼさなければ無視しておいたの」

 

そして何気なく一誠に視線を向けたリアスだが、ふと彼の左腕の神器に目が行った。

 

「イッセー。その神器…」

 

「あ。ああ、いつの間にか形が変わってて…」

 

「赤い龍。…そう、そういうことなのね」

 

突然驚いた様子を見せたかと思ったら、すぐの納得した表情を浮かべるリアス。

そして、その内容を静かに述べ始めた。

 

「堕天使レイナーレ。この子兵藤一誠の神器は単なる“龍の手”ではないわ」

 

「なに?」

 

リアスの言葉にレイナーレは怪訝そうに片方の眉を吊り上げた。

 

「それは持ち主の力を10秒ごとに倍加させ、一時的に魔王や神すらも超えることができる力を有すると言われている13種の“神滅具(ロンギヌス)”のひとつ。“赤龍帝の籠手”、“ブーステッド・ギア”」

 

その言葉を聞いたレイナーレが驚愕の表情を浮かべる。

 

「でもまあ、どんなに強力でもパワーアップに時間を要するから万能ではないわ。相手が油断してくれてたから勝てたようなものね」

 

「…確かにブーステッド・ギアの存在は完全に計算外だったわ。でも、今の私にはこの“聖母の微笑”がある!これさえあればこの程度のダメージなんて…」

 

レイナーレが奪った神器を発動し自身の体を癒そうとする。

しかし、レイナーレの腹部に打ち込まれた封印の文字が光りだした。

雄介が逃げようとするレイナーレを捕えた時に打ち込んだものだ。

直後、レイナーレを包みかけていた淡い光が儚く霧散してしまった。

その光景にその場にいた全員が、特にレイナーレが驚愕の反応を見せた。

 

「なっ…一体何が!?」

 

すると、冷静に状況を分析したリアスが呟いた。

 

「へぇ、驚いたわね。どうやらクウガの力は神器の力まで封印するみたいね」

 

リアスの言葉にレイナーレの表情が一気に青ざめた。

 

「さて、ご自慢の切り札も無駄と分かったところで、そろそろあなたには消えてもらうわ。堕天使さん」

 

リアスが一歩踏み出すと、レイナーレが媚びた視線を一誠に向けてきた。

 

「イッセー君」

 

その声色は天野夕麻のものだった。

 

「助けて。あんなこと言ったけど堕天使としての役目を果たすため仕方がなかったの」

 

「夕麻ちゃん…」

 

途端に一誠は悲痛の表情を浮かべてしまう。

 

「まずい!小猫ちゃん」

 

小猫と共に駆け出そうとする祐斗だが、リアスは2人を片手で制した。

無言で一誠を見るリアスの代わりに、雄介が祐斗と小猫に振り向き頷いた。

それに何かを察した2人も成り行きを見守ることにした。

 

「私、本当にあなたのことが大好きよ!愛してる!だから私を助けて、イッセー君!」

 

夕麻を演じるレイナーレが涙を浮かべながら一誠に懇願する。

しかし、一誠が出した答えは、

 

「部長…頼みます」

 

ただそれだけ言い、レイナーレに背を向けた。

その言葉を聞いた途端、レイナーレの表情が凍りついた。

 

「私のかわいい下僕に言い寄るな」

 

そして、絶望感に浸るレイナーレを見下ろすリアスが掌に黒い魔力の塊を生み出す。

 

「消し飛べ」

 

リアスの手から放たれた一撃で聖堂に堕天使の断末魔と共に黒い羽根が散った。

 

                      ☆

 

聖堂に舞い散る黒い羽根の中に淡い光が宙に浮かんでいた。

アーシアの神器“聖母の微笑”だ。

レイナーレが消滅したことで解放されたようだ。

リアスがその温かな光を手に取った。

 

「これを彼女に返しましょう」

 

一誠はリアスから手渡された指輪をアーシアの指に嵌めた。

 

「部長、すみません。あんなことまで言った俺を、部長やみんなが助けてくれたのに…俺、アーシアを守ってやれませんでした…」

 

優しく微笑むリアスに申し訳ないと思った一誠は心から謝罪した。

 

「いいのよ。あなたはまだ悪魔として経験が足りなかっただけ。誰もあなたを咎めやしないわ」

 

流れる一誠の涙を指で拭いながらリアスがやさしく語りかける。

 

「でも…でも、俺…」

 

「前代未聞だけど、やってみる価値はあるわね」

 

そういってリアスは懐からあるものを取り出した。

それを一誠に見せる。

 

「これ、なんだと思う?」

 

「チェスの…駒?」

 

「正しくは“僧侶”の駒ですわ」

 

後ろに控えていた朱乃が補足する。

朱乃の言うとおり、リアスの手にあったのは彼女の髪と同じ紅い“僧侶”の駒だった。

 

「“僧侶”の力は眷属の悪魔をフォローすること。この子の回復能力は僧侶として使えるわ」

 

リアスは紅い駒を持ったままアーシアのほうへ足を向ける。

 

「部長、まさか…」

 

「このシスターを悪魔に転生させてみる」

 

リアスの体が紅い魔力が覆われると、アーシアの体の下に紅い魔方陣が現れる。

いよいよ悪魔転生の儀式が始まるのだ。

 

[我 リアス・グレモリーの名において命ず 汝 アーシア・アルジェントよ

 我の下僕となるため いま再びこの地へ魂を帰還させ 悪魔となれ

 汝 我が“僧侶”として 新たな生に歓喜せよ!]

“僧侶”の駒が紅い光を発しながら、ゆっくりとアーシアの胸に沈んでいく。

そして、アーシアの二度と開くことがなかったはずの瞼が開かれた。

 

「アーシア!」

 

「あれ?」

 

二度と聞けないと思っていたアーシアの声に、こみ上げてくるものを止められなかった。

 

「私は悪魔を回復させるその力が欲しかったから転生させただけ。あとはあなたが守ってあげなさい。先輩悪魔なんだから」

 

リアスが優しい笑みを一誠に向ける。

 

「イッセーさん?あの、私…」

 

何が起こったのかわからないのか怪訝そうに首をかしげる彼女に一誠は抱きしめていた。

 

「さあ、帰ろう。アーシア」

 

本日何度目かの涙を流す一誠だが、今回の涙に込められているものは全くの別物だった。

 

「…はい」

 

アーシアは考えることを止め、今は一誠の抱擁を受け入れることにした。

 

                      ☆

 

次の日、一誠は部室を訪れていた。

 

「おはようございまーす」

 

「あら、ちゃんときたわね」

 

室内にはリアスだけがソファーに座り、優雅にお茶を飲んでいた。

 

「どうやら堕天使にやられた傷は大丈夫のようね」

 

「はい。アーシアの治療パワーでばっちり完治です」

 

と、一誠は笑顔で答えた。

 

「ふふ、さっそく“僧侶”として役立ってくれたみたいね。堕天使が欲するのも頷けるわ」

 

「あの、部長」

 

「なに?」

 

「気になってたんですけど、“悪魔の駒”は全部で16体なんですよね?それで“王”と“女王”が1つずつ、それに“騎士”と“戦車”に“僧侶”が2つずつってことは残りが俺と同じ“兵士”が8つになるわけだから、俺の他にあと7人“兵士”が存在できるんですよね?」

 

「いえ、私の“兵士”はイッセーだけよ」

 

対面の席に腰掛ける一誠の質問にリアスは首を横に振った。

 

「人間を悪魔に転生させるとき“悪魔の駒”を用いるのだけれど、その時転生者の能力次第で駒を通常より多く消費しなくてはいけなくなるの」

 

「???」

 

頭の中に疑問符を浮かべる一誠にリアスは説明を続ける。

リアス曰く、チェスの世界には『女王の価値は兵士の九つ分。戦車の価値は兵士の五つ分。騎士と僧侶の価値は兵士の三つ分』という格言が存在する。この価値基準は“悪魔の駒”においても同様らしい。転生者においてもこれに似た現象が適応されることがあり、現に一誠を悪魔に転生させるためには“兵士”の駒を全て消費しなければならなかった。つまり、一誠には“兵士”8つ分の価値があるということになる。それがわかった時にリアスは一誠を眷属にしようと決めたのだ。当初はその理由がわからなかったのだが昨夜の堕天使との一戦でその理由が判明した。一誠に宿っていたのは思考の神器と呼ばれる“神滅具”のひとつ“赤龍帝の籠手”。それが一誠に“兵士”8つ分の価値を与えた理由だったのだ。

以上、第2回リアスの悪魔講座でした。

 

「あなたを転生させるとき私の手持ちの駒は“騎士”、“戦車”、“僧侶”がひつずつ、“兵士”が8つしかなかったわ。でも“兵士”を8つ消費しなければあなたを転生させることはできなかったの。“兵士”の力は未知数。私はその可能性に賭けたわ。その結果、あなたは最高だった」

 

リアスは一誠の頬を撫でながら嬉しそうに微笑む。

 

「“紅髪の滅殺姫”と“赤龍帝の籠手”。紅と赤で相性はバッチリね。イッセー、とりあえず最強の“兵士”を目指しなさい。あなたにはそれができるはず。だって私ののかわいい下僕なんだもの」

 

そう言ってリアスの顔が少しずつ一誠の顔に近づいていく。

慌てる一誠をよそに、やがて彼女の唇が一誠の額に触れた。

 

「これはおまじない。強くおなりなさい」

 

一気に一誠の頬が紅潮する。

 

「と、あなたをかわいがるのはここまでにしないとね。新入りの子に嫉妬されてしまうわ」

 

嫉妬?何のことだろうと思っていると、

 

「イ、イッセーさん…」

 

聞き覚えのある声の方へ振り向くと笑顔をひきつらせたアーシアが立っていた。

 

「ア、アーシア?」

 

「そ、そうですよね…。リアス部長は綺麗ですから、そ、それはイッセーさんも好きになってしまいますよね…」

 

雰囲気で何となく解る。彼女は今、怒っている。

 

「いえ、ダメダメ。こんなことを思ってはいけません!ああ、主よ。罪深い私をお許しください…」

 

すぐさま手を合わせ神に懺悔するアーシア。

だが、その途端に、

 

「あうっ!」

 

と、痛みを訴え頭を押さえる。

 

「大丈夫か、アーシア?」

 

「…頭痛がします」

 

「当り前よ。悪魔が神に祈ればダメージくらい受けるわ」

 

さらりと、リアスが言う。

 

「うぅ、そうでした。私、悪魔になっちゃったんでした。神様に顔向けできません」

 

「後悔してる?」

 

ちょっと複雑そうな顔をするアーシアにリアスが訊く。

しかし、アーシアはリアスの問いに首を横に振って答えた。

 

「いいえ。どんな形でもこうしてイッセーさんとこうして一緒にいられるのが幸せです。本当にありがとうございます!」

 

思わぬ讃辞に一誠は再び頬を紅潮させた。

その隣でリアスもうれしそうに微笑んだ。

 

「そう、それならいいわ。今日からあなたも私の下僕悪魔としてイッセーと一緒に走り回ってもらうから」

 

「はい!がんばります!」

 

と、ここで一誠は元気よく返事をするアーシアの変化に気付いた。

 

「アーシア、その恰好…」

 

そう。アーシアは駒王学園の制服に身を包んでいたのだ。

 

「に、似合いますか?」

 

一誠の指摘にアーシアはくるりと一回転しながら恥ずかしそうに訊ねる。

 

「最高だ!後で俺と写メとろう!」

 

「え、は、はい…」

 

あまりのかわいさに興奮する一誠の反応にアーシアは困惑してしまう。

 

「アーシアにもこの学園へ通ってもらうことになったのよ。あなたと同い年みたいだから2年生ね。クラスもあなたのところにしたわ」

 

「マジですか!?」

 

その言葉でさらにテンションを上げる一誠だった。

 

「よろしくお願いします、イッセーさん」

 

「ああ、後で俺の悪友2人も紹介するからな」

 

ぺこりと頭を下げるアーシアを見ながら一誠の脳内では2人の悪友、基、悔しがる松田と元浜の姿が想像される。

 

「おはようございます。部長、イッセー君、アーシアさん」

 

「…おはようございます。部長、イッセー先輩、アーシア先輩」

 

「おはようございます。リアスさん、イッセー君、アーシアちゃん」

 

「ごきげんよう。部長、イッセー君、アーシアちゃん」

 

部室に祐斗、小猫、雄介、朱乃が入ってくる。

みんなが一誠を“イッセー”と呼び、アーシアを一員と認めてくれていた。

 

「丁度よかったわ。雄介、頼んでいた件はどうなったかしら?」

 

「はい、大丈夫です。訳を話したらぜひ使ってくれって言ってくれましたから」

 

リアスの問いに笑顔とサムズアップで雄介が答えた。

周りを見ると一誠とアーシア以外の全員が含み笑いを浮かべていた。

 

「うふふ、ちょっとね。さて、全員揃ったところで早速行きましょうか」

 

「行くって、どこにですか?」

 

「行けばわかるわ」

 

一誠の質問がウィンクひとつで軽く往なされてしまう。

 

「さ、早く行きましょう」

 

リアスに促され部室を出ていく一同。

そして、雄介も続いて部室を出ようとした時だった。

 

「!」

 

何かの気配を感じ取り、後ろを振り向いた。

しかし、その気配の主の正体を認めることはできなかった。

 

「雄介、どうかした?」

 

「あ、いえ。すぐに行きます!」

 

リアスに呼ばれ、もう一度視線を巡らせるがやはり気のせいだと思い直し雄介はそのまま 部室を後にした。

 

                      ☆

 

窓から部室を覘ける止まり木に1羽の鳥がとまっていた。

その鳥は赤く、まるで炎の揺らめきのような模様をしていた。

鳥は部室から誰もいなくなったことを確認すると用がなくなったのか、真っ赤な翼を広げ大空に羽ばたいて行った。

 

                      ☆

 

「なんだこのカレー!メチャクチャうまいぞ、ちくしょー!」

 

洋食店ポレポレの店内で一誠は雄介特性カレーをがっついていた。

 

「本当です。このカレーって食べ物も初めて食べましたけどとってもおいしいです!」

 

一誠の隣でアーシアもカレーをおいしそうに頬張っていた。

現在、ポレポレのドアには“CLOSE”と書かれたプラカードがぶら下がっている。

つまり、本日のポレポレはリアスたちの貸切状態になっているというわけだ。

リアスが雄介と一誠とアーシアの入部の歓迎会をしようという提案の下で雄介がおやっさんに直談判を行った結果、そういうことならと快く了承を得たのである。

 

「そう言ってもらえると俺もうれしいよ。他にもリクエストがあったら遠慮なくいってね。ジャンジャン作るから」

 

雄介が新たな料理と一緒に厨房から出てくる。

テーブルにはカレーの他にもさまざまな料理が並びその中心にはリアスの手作りケーキが鎮座していた。

みんながみんな、思い思いの料理を手に取り、談笑し、笑い、絆を深めている。

雄介はそんな光景を見つめていた。

 

「五代!ナポリタン追加で頼むわ!」

 

「了解!」

 

追加の注文が入り、雄介はすぐさま厨房に入って包丁を手に取った。

リズムよく野菜を刻んでいるとリアスが声をかけてきた。

 

「何だかうれしそうね、雄介」

 

「はい。やっぱりみんなの笑顔を見ているとこっちまでうれしくなっちゃうんですよね」

 

「ふふ、あなたらしいわね」

 

「そうですか?でもそう言うリアスさんだって新しい眷属が増えたからなのか、いい笑顔してますよ。このパーティだって、最初俺のところにここを会場として使わせてくれって頼んだときは正直びっくりしましたから。おまけに、あんな立派なケーキまでつくって」

 

「べ、別にたまにはみんなで集まってこういうのもいいでしょう?それとも何か不満でもあるのかしら?」

 

「いえ、ぜんぜん」

 

不機嫌そうに尋ねてくるリアスだがすぐにそれは照れ隠しのための虚勢だと分かった。

その証拠に、今のリアスの頬は赤く紅潮していた。

そんな彼女を背中越しに見ていると指先に鋭い痛みが走った。

 

「痛っ!」

 

よそ見をしていたのがいけなかったのか雄介の指先から血が流れている。

どうやら手にした包丁で誤って切ってしまったらしい。

 

「どうしたの?」

 

雄介の様子の変化に気づいたリアスが尋ねてくる。

 

「いや、ちょっと包丁で切っちゃっただけです。えーと、消毒液と絆創膏はと…」

 

雄介は傷口を水で流し、消毒液と絆創膏を探そうと辺りを見渡していると、

 

「あの、よかったら私が治しましょうか?」

 

いつの間にか厨房を覘いていたアーシアが治療を申し出た。

確かに腹に開いた風穴ですら癒すことができるアーシアの神器“聖母の微笑”ならば、ちょっとした切り傷程度、すぐに治すことができる。

雄介はアーシアの提案を受け入れることにした。

 

「それじゃあ、お願いしようかな」

 

「はい、お任せください。」

 

さっそく神器を発動させるアーシア。

いつもの淡い光が差し出された指先を包み込む。

その時、雄介は腹部に違和感を感じた。

その瞬間、レイナーレの時と同じように、淡い光は傷口を塞ぐことなく霧散してしまった。

 

「…」

 

予想外の結果に雄介たちは唖然としてしまった。

 

「どうしてでしょうか?イッセーさんの時は上手くいったのに…」

 

動揺を隠せない様子のアーシアが呟く。

 

「アーシアちゃんの“聖母の微笑”は、人間はおろか、堕天使や悪魔すら癒せてしまう代物。これではまるで、昨日の堕天使の時と同じですわね」

 

朱乃も珍しく驚いた表情をしている。

 

「もしかして、俺がクウガだから…?」

 

「どういうことだい、雄介君?」

 

「いや、さっきアーシアちゃんが治そうとしてくれた時、クウガのベルトがなんというか…拒絶したって感じがしたんだ」

 

曖昧な感覚に戸惑いながら雄介は腹部を軽くさすっていた。

 

「拒絶、ねぇ…。もしかしたらクウガには、いえ、アークルには神器の能力を無効化する力があるのかもしれないわね」

 

「マジですか!?部長!」

 

「確かな確証があるわけじゃないけど、それなら昨日の現象の説明がつくわ」

 

「神器を無効化する、ですか。クウガとは一体…」

 

「「「「「「…」」」」」」

 

残念ながら、朱乃の漏らした疑問に答えられる者は、今、この場にはいなかった。

 

「確かに、ちょっと気にはなりますけど今はパーティを楽しみましょうよ!」

 

「そうね。雄介の言うとおりだわ。さ、今は難しいことは考えずにパーティを楽しみましょう」

 

結局、気になることはあるが、とりあえず今は笑ってこの時間を楽しむことにした。

 




やっと終わったぜ…。
次回、クウガ路線に戻ります。

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