仮面ライダークウガ 青空の約束   作:青空野郎

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EPISODE13 発動

緑の淡い光を放ちながらアーシアの体から出てきた神器“聖母の微笑”。

光を放ちながらゆっくりとレイナーレのもとに降りていく。

 

「これこそ私が長年欲していた力。これさえあれば私は愛を頂けるわ」

 

狂気に彩られた表情で、レイナーレはその光を抱きしめた。

途端に眩い光が儀式場を包み込む。

光が止んだ時、緑の淡い光を全身から放つレイナーレがいた。

 

「ついに手に入れた。至高の力!これで私は至高の堕天使になれる!私を馬鹿にしてきた者を見返すことができるわ!」

 

「ざけんな!」

 

高笑いをする堕天使に向かって一誠は駆け出した。

 

「悪魔め!」

 

「滅してくれる!」

 

駆け寄ろうとする一誠を黒装束の神父たちが立ちはだかる。

 

「どけ!てめぇらに構ってる暇はねぇんだ!」

 

しかし、祐斗と小猫がフォーローで彼らを吹っ飛ばす。

祐斗が闇の剣で光を喰らい、小猫の怪力が打倒する。

 

「木場…小猫ちゃん…」

 

そしていつの間にか、一誠の目の前に奥へと続く一本道が現れる。

祐斗と小猫が神父たちを端に抑えているのだ。

 

「サンキュー!」

 

それを見た一誠は一気に走り出す。

 

「アーシア!」

 

たどり着いた一誠の目の前では磔にされたアーシアがぐったりしている。

 

「アーシア…」

 

「ここまでたどり着いたご褒美よ」

 

レイナーレが指を鳴らすと、アーシアを捕えていた鎖が解かれる。

一誠は拘束から解放されたアーシアを優しく受け止める。

 

「アーシア、大丈夫か?」

 

「…イッセーさん?」

 

「迎えに来たぞ。しっかりしろ」

 

「はい…」

 

返事をするアーシアの声は今にも消えてしまいそうなほどに弱弱しかった。

 

「その子はあなたにあげるわ」

 

レイナーレが一誠と用済みとなったアーシアを見下すような視線を向ける。

 

「ふざけんな!この子の神器を元に戻せ!」

 

「馬鹿言わないで。私は上を欺いてまでこの計画を進めたのよ?残念ながらあなたたちはその証拠になってしまうの。でもいいでしょう?2人仲良く消えるんだから」

 

一誠が怒鳴るが、レイナーレはただ笑うだけ。

 

「兵藤君!ここでは不利だ!」

 

祐斗が叫ぶが今の一誠の耳には届かなかったようだ。

 

「初めての、彼女だったんだ…」

 

「ええ。見ていてとても初々しかったわよ。女を知らない男の子はからかい甲斐があったわ」

 

「大事にしようと思ってたんだ」

 

「ウフフ。私がちょっとでも困った顔をすれば即座に気を使ってくれたよね?でもあれ、全部私が仕組んでたのよ。だって慌てふためくあなたの顔、とってもおかしいんですもの」

 

「俺、夕麻ちゃんが本当に好きで、マジで念入りにプラン考えたよ。絶対いいデートにしようと思ってさ」

 

その一言を聞いて、レイナーレが高笑いをする。

 

「アッハハハ!そうねぇ、とても王道なデートだったわ。おかげでとってもつまらなかったけどね」

 

「夕麻ちゃん…」

 

「“夕麻”。そう、あなたを夕暮れに殺そうと思ったからその名前にしたの。なかなか素敵でしょう?なのに死にもしないですぐこんなブロンドの彼女作っちゃって。ひどいわひどいわ、イッセー君たら…。またあのクソ面白くもないデートに誘ったのかしらぁ?ああ、でも田舎育ちの小娘には新鮮だったかもね。こんな楽しかったのは生まれて初めてですぅ、とかなんとか言ったんじゃない?ハッハハハハハ!」

 

その言葉で一誠の怒りは限界を超えた。

 

「レイナーレエエエエエッ!」

 

「腐ったクソガキが気安くその名を呼ぶんじゃないわよ!穢れるじゃない!」

 

嘲笑するレイナーレ。

こいつのほうがよっぽど悪魔じゃねえか!

そう思ってしまうほどの憎悪が一誠の中で生まれる。

気が付くと涙が流れていた。

その涙には怒り、悲しみ、空しさなど、様々な感情が入り乱れている。

一誠はレイナーレをひと睨みすると、アーシアを抱えてその場から駆け出した。

 

「兵藤君、逃げろ!僕と小猫ちゃんで道をふさぐ!行くんだ!」

 

「早く逃げて」

 

祐斗と小猫の2人が一誠の邪魔をしそうな神父を薙ぎ倒していく。

そのおかげで一誠は無事に儀式場の入り口にたどり着くことができた。

振り返ると未だに神父たちと奮闘する2人の先輩悪魔の姿。

 

「木場、小猫ちゃん。帰ったら絶対俺のことイッセーって呼べよ。絶対だからな!いいか!俺たち!仲間だからな!」

 

それだけ告げると2人が微笑んだ気がした。

一誠はその場を後にして、そのまま一気に地下の廊下を駆け抜けていった。

 

                      ☆

 

一方その頃。

協会の裏手の雑木林でもすでに堕天使との戦闘は行われていた。

3本の光の槍がリアスに向かって飛んでくるがすぐに朱乃が障壁を張り、攻撃を防いだ。

 

「やってくれちゃうじゃん」

 

「しかし、その程度の障壁いつまでもつか」

 

「貴様らの張った結界が仇になったな」

 

近くの巨木に腰掛けるミッテルト、カラワーナ、ドーナシークが見下すような視線を向けている。

 

「ああ、それとも結界解いて逃がしてくれちゃう?ノノノノ~ン。ウチらがあんたら逃がさねぇっす。あんたの下僕っちも今頃ボロカスになってるだろうしねぇ。特にほら、レイナーレ姉さまにゾッコンだったあのエロガキ。あいつなんてとっくに」

 

「イッセーを甘く見ないことね。あの子は私の最強の“兵士”だもの」

 

ミッテルトもセリフを遮ったリアスは余裕の表情を浮かべている。

 

「“兵士”?ああ、あんたたち、下僕をチェスに見立ててるんだっけ?“兵士”って前にズラァって並んでるあれでしょう?」

 

「要するに捨て駒か」

 

堕天使たちが皮肉を口にするがリアス、朱乃、雄介の3人は特に取り乱す様子もなくただ無言で堕天使たちを見上げていた。

 

「あらあら、うちの部長は捨て駒なんて使いませんのよ」

 

                      ☆

 

階段を登り切り一誠はアーシアを抱えたまま聖堂に出てきた。

こうしている今も腕の中のアーシアの様子がおかしい。

一誠は彼女を近くの長椅子に寝かせた。

 

「アーシア、しっかりしろ。ここを出れば、アーシアは自由になれるんだぞ。俺といつでも、遊べるようになるんだぞ!」

 

一誠の言葉にアーシアは小さく微笑んだ。

 

「わたし、少しの間だけでもお友達ができて、幸せでした」

 

握るアーシアの手からは生気が感じられない。

 

「何言ってんだ!まだ連れて行きたいところがいっぱいあるんだからな!カラオケだろ?遊園地だろ?ボーリングだろ?ラッチュー君だって、もっとたくさん取ろうぜ。他にはそうだ、おれのダチにも紹介しないとな。松田、元浜ってちょっとスケベだけどすっげぇいいやつなんだ。絶対アーシアと仲良くなってくれるからさぁ。みんなでワイワイ騒ぐんだ。馬鹿みたいにさぁ」

 

笑いながら話しかけているつもりなのに涙が止まらない。

もうじき彼女は死んでしまうと頭では理解している。

しかし、心がその事実を否定してしまう。

 

「この国で生まれて、イッセーさんと同じ学校に行けたら、どんなに良かったか…」

 

「行こうぜ、いや行くんだよ!」

 

アーシアの手が一誠の頬を撫でた。

 

「私のために泣いてくれる…私、もう、何も…」

 

そして、

 

「ありがとう」

 

それを最後に、一誠の頬に触れていた彼女の手が、静かに、落ちた。

 

「アー、シア…」

 

一誠はただ呆然とアーシアの死に顔を眺めている。

 

「なんでだよ…」

 

なんでこの子が死ななきゃいけないんだ?

なんで誰もこの子と友達になってあげなかったんだ?

なんで堕天使に利用されなきゃいけないんだ?

なんで俺がこの子のそばにいてあげられなかったんだ?

なんで。なんで。なんでなんでなんでなんでなんで!なんでだ!!

一誠の中をさまざまな“なんで”が埋め尽くす。

 

「なあ神様!いるんだろ!この子を連れて行かないでくれよ!」

 

一誠は教会の天井に向かって叫んだ。

 

「頼む!頼みます!この子は何もしていないんだ!ただ友達がほしかっただけなんだ!俺が悪魔だからダメなんすか!?この子の友達が悪魔だからナシなんすか!?なあ頼むよ神様ぁ!」

 

一誠は無我夢中で天に訴えかける。

 

「悪魔が教会で懺悔?たちの悪い冗談ね」

 

しかし、返ってきたのは嘲笑するレイナーレの皮肉の言葉だった。

 

「レイナーレ…!」

 

一誠は憎しみを込めた視線をレイナーレに向けた。

 

                      ☆

 

再び朱乃が飛来する3本の光槍を防ごうとするが今回は仕損じてしまう。

 

「きゃあっ!」

 

障壁が砕かれた衝撃で地面に膝を着いてしまう。

 

「朱乃さん!」

 

追い打ちのように朱乃に光槍が飛来するが雄介が彼女の前に躍り出て光槍を薙ぎ払った。

3人の頭上の歪んだ空中に堕天使たちが黒い翼を広げていた。

 

「貴様はよほどあの小僧をかっているようだが能力以前にあいつはレイナーレ様に勝てやしない」

 

「だって元カノだもんねぇ。レイナーレ様からあいつの話を聞いたわ。もう大爆笑!」

 

「言うな、ミッテルト。思い出しただけで腹が捩れる」

 

「まあ、酒の肴にはなったがな」

 

堕天使たちは可笑しく笑いながら光槍を作り出し、投擲した。

槍の向かう先には仁王立ちをするリアスがいる。

 

「部長!」

 

「リアスさん!」

 

雄介と朱乃が叫んだ直後、リアスから放たれた赤いオーラが堕天使の槍を弾いた。

 

「弾いただと!?」

 

「…笑ったわね?」

 

放出されるオーラがリアスの美しく、長い紅髪を逆立てる。

 

「私の下僕を笑ったわね?」

 

今のリアスの声色や雰囲気などには明らかに怒気を孕んでいた。

 

「朱乃さん、これって…」

 

仮面の下で顔を引き攣らせた雄介が朱乃に視線を向ける。

 

「あらあら、怒らせる相手を間違えたようですわね。お馬鹿さん」

 

それを最後にリアスが放った黒い魔力の波動が悲鳴すら上げる暇すら与えないまま、堕天使たちを一瞬で飲み込んだ。

 

                      ☆

 

場面は再び教会の聖堂に戻る。

 

「ほら見て。ここへ来る途中“騎士”の子にやられちゃったわ」

 

レイナーレは自身の傷口に手を当てた。

その指には指輪がはめられている。

指輪からアーシアの時と同じ緑色の光が傷を癒していく。

 

「素敵でしょう?どんなに傷ついても治ってしまう。神の加護を失った私たち堕天使にとってこれは素晴らしい贈り物だわ」

 

レイナーレは嬉しそうに嗤う。

 

「これで私の堕天使との地位は盤石ね。ああ、偉大なるアザゼルさま。シェムハザ様。お2人の力になれるの」

 

「知るかよ」

 

一誠は舞台の演技のように語るレイナーレを睨み付けながら、そう吐き捨てた。

 

「堕天使とか悪魔とか、そんなもんこの子には関係なかったんだ!」

 

「神器を宿した選ばれた者の、これは宿命よ」

 

「何が宿命だ!静かに暮らすことだってできたはずだ!」

 

「無理ね。神器は人間にとって分に余る存在。どんなに素晴らしい力でも異質なものは恐れられ、爪弾きにされるわ。それが人間という生き物だもの。こんな素晴らしい力なのにね」

 

「でも俺は!俺はアーシアの友達だ!友達として守ろうとした!」

 

「でも死んじゃったじゃない。その子死んでるのよ?守るとか守らないとかじゃないの。あなたは守れなかったの!あの時も!そして今も!」

 

一誠は悔しさを噛みしめると同時に拳を握りしめる。

 

「…わかってるよ。だから許せねぇんだ。おまえも。…そして俺も!全部許せねぇんだ!」

 

想いなさい。

リアスの言葉が脳裏をよぎる。

だから一誠はアーシアを強く想う。

 

「返せよ」

 

神器は想いの力で動くの。その想いが強ければ強いほど、必ずその想いに応えてくれるわ。

 

「アーシアを返せよおおおおおおおおおっ!」

 

【DORAGON BOOSTER!!】

 

一誠の叫びに応えるように彼の神器の宝玉から眩い光が放たれた。

籠手に何かの紋様が浮かぶと同時に全身に力が駆け巡る。

 

「うああああああああああああああああああああっ!」

 

そのまま嘲笑するレイナーレ向かって一気に駆け出した。

しかし、レイナーレは繰り出された拳を華麗に躱した。

 

「言ったでしょう?“1”の力が“2”になっても私にはかなわないって!」

 

【BOOST!!】

 

レイナーレの言葉を無視する一誠に2度目の変化が訪れた。

神器の甲の宝玉に浮かぶ文字が“Ⅰ”から“Ⅱ”へ変わる。

同時に全身に流れ込んでくる力が増していく。

 

「でやああああああああああああああっ!」

 

「へえ。少しは力が増した」

 

再度、溢れる力を拳に乗せて一気に詰め寄るがこの攻撃も同じように避けられてしまう。

次の瞬間、レイナーレの両手の光が槍を形成していく。

そして、投擲された槍が一誠の両足を貫いた。

 

「がぁっ…」

 

全身に響く激痛に思わず声が漏れた。

 

「光は悪魔にとって猛毒。触れれば忽ち身を焦がす。その激痛は悪魔にとって最も耐え難いのよ?あなたのような下級悪魔では」

 

「それがどうした…」

 

嘲笑するレイナーレの言葉を遮った一誠は両足に突き刺さる光の槍を掴む。

手と足から肉を焦がす臭いが鼻につく。

 

「これくらい、アーシアの苦しみに比べればぁ!」

 

全身に走る激痛にいつ意識が飛んでもおかしくない。

しかし一誠は握る手にさらに力を籠め一気に槍を引き抜いた。

 

「どぉってことねぇんだよ!」

 

抜いた途端に両足の傷口から鮮血が溢れ出た。

 

【BOOST!!】

 

槍に貫かれ、攻撃が止まってしまった今でも左腕の籠手は音声を発する。

しかし、ここで限界が来たのか体から力が抜け、その場でしりもちをついてしまう。

 

「大したものね。下級悪魔の分際でそこまで頑張ったのは褒めてあげる」

 

と、レイナーレは柳眉をわずかに跳ね上げる。

 

「でもそれが限界ね。下級悪魔程度ならもうとうに死んでもおかしくないのに。以外に頑丈ね。でも、今度こそこれで本当のお別れよ」

 

レイナーレは片手を軽く上げ光の槍を作り出す。

 

「バイバイ、イッセー君」

 

夕麻の笑顔で光の槍を一誠に向かって投げた。

槍が一誠の体を貫こうとする、その時だった。

 

ガキィィンッ!

 

聖堂内に甲高い音が響いた。

一誠に迫っていたはずの槍は地面に転がっている。

一誠とレイナーレの間に割り込んだ何者かが光の槍を弾いたのだ。

 

「…レイナーレ」

 

来訪者は忌々しげにレイナーレを睨む。

そして突然の来訪者の背中を虚ろな瞳で見つめた一誠はその人物の名前を呟いた。

 

「…五代…?」

 

青のクウガに変身し、ドラゴンロッドを携えた雄介の体にパラパラと小さな木片が降り注いでいた。

見れば天井には穴が空いている。どうやらここから突入して来たようだ。

 

「兵藤くん、大丈夫?」

 

一誠の状態に気付いた雄介は慌てて彼のもとに駆け寄った。

足から大量の血を流す姿がとても痛々しい。

 

「…笑えよ、五代」

 

一誠がやけくそ気味に笑いながら呟く。

しかし、その頬には溢れる涙が流れている。

 

「守るって決めたのに、結局死なせちまった。俺が弱いから、あの子を死なせちまったんだ…」

 

一誠の心は今にも後悔の念に押しつぶされてしまいそうなほどの重症だった。

 

「俺、もう悲しくて、悔しくて涙が止まらねぇんだ…」

 

「兵藤くん…」

 

そんな一誠に雄介は一言語りかけた。

 

「泣けばいいんだよ」

 

「え?」

 

思わず一誠は虚ろな瞳で雄介を見つめた。

 

「泣くことは負けじゃないんだ。悲しかったら、悔しかったら泣けばいいんだよ。泣いて、そこからまた強くなればいいんだ。だから、今は思う存分泣いたっていいんだ」

 

「五代…」

 

その場で立ち上がり一誠を一瞥した雄介は背中越しに言い放った。

 

「大丈夫。キミが泣く時間くらい、俺が稼ぐから!」

 

そして雄介はゆっくりと歩を進めレイナーレと対峙する。

 

「どうやらそこの下級悪魔のお仲間みたいね。でも、残念ながらあなたたちのお目当てのシスターはそこで死んでるわ」

 

レイナーレに促され、雄介は周囲に視線を巡らせる。

そして視線が止まった先には静かに眠るアーシアの姿がある。

 

「でも仕方ないわ。それが彼女の運命なのだから」

 

「ふざけるな」

 

即座に否定されたことが気に入らなかったのかレイナーレは不快な表情を作る。

 

「何が運命だ。お前は自分勝手な理屈を並べて、自分自身の無能さを棚に上げて、自分自身のやっていることを正当化してるだけだ。そんな自己満足、俺は絶対に認めない」

 

自分の野望を自己満足呼ばわりされたレイナーレが声を荒げた。

 

「黙れ!たかが低級の存在が一人増えたところで至高の存在となったこの私に敵うわけ―――」

 

そこまでだった。

気づいた時にはレイナーレの体は宙に浮いていた。

レイナーレ自身が飛翔したわけではない。

さっきまでレイナーレがいた場所でドラゴンロッドを振った雄介がいた。

レイナーレは高速で接近した雄介に反応出来ず、頬をドラゴンロッドで打たれたのだ。

 

「これ以上好きにはさせないし、あの子の神器も、絶対に返してもらう!」

 

ドラゴンロッドの先端を向ける雄介が無様に墜落したレイナーレを睨む。

 

「低級の分際で…よくも!」

 

起き上がったレイナーレもまた、怒りの表情で雄介を睨み返していた。

そして、睨み合う両者は同時に駈け出した。

 

                      ☆

 

目の前の攻防を見つめていた一誠はふいに視線がアーシアの方に動かした。

アーシアの救出を許してくれたリアスと朱乃。

自分のわがままに付き合ってくれた祐斗と小猫。

立ち上がるチャンスをくれた雄介。

そして、悪魔である自分に最後まで笑顔を向けてくれたアーシア。

みんなの顔が一誠の脳裏に浮かんでくる。

 

「…このままじゃ、いけないよな」

 

いつの間にか、一誠はそんなことを口にしていた。

 

「せっかくみんなが協力してくれてるのに、俺がへばってたんじゃ恰好がつかないもんな。…うるさくてごめんな、アーシア。すぐに、終わらせるから。俺は、もう大丈夫だから」

 

だんだんと、虚ろな瞳に光が戻っていく。

 

「神様、じゃダメか。やっぱ、悪魔だから魔王か?いるよな。きっと、魔王」

 

天井を見上げながら独り言のように呟く。

 

「俺も一応悪魔なんで頼み、聞いてもらえますかね?」

 

当の昔に限界を迎えた体に力を入れる。

 

「頼みます」

 

少しでも体を動かそうとすれば全身を激痛が襲う。

それでも一誠は少しずつ体を床から持ち上げる。

 

「あとは何もいらない、ですから…」

 

とうとう立ち上がった一誠の姿にレイナーレが驚愕の表情を浮かべた。

 

「だから、あいつを…一発殴らせてください!」

 

叫ぶ一誠の背中に悪魔の羽が広がった。

その姿が威圧感を放ち、レイナーレに恐怖を与える。

 

「う、ウソよ!立ち上がれるはずがない。体中を光が内側から焦がしてるのよ?光を緩和する能力を持たない下級悪魔が耐えられるはず…」

 

「ああ、痛ぇよ。超痛ぇ。今にも意識がどっかに飛んでっちまいそうだよ…」

 

一誠は足をガクガクと震わせながらも、一歩ずつ、着実にレイナーレに近づいていく。

 

「でも、それ以上に、てめぇがむかつくんだよ!」

 

【EXPLOSION!!】

 

その機械的な音声と共に一誠の神器が変形する。

腕に巻かれていた状態の神器が肘を超すぐらいにまで伸長し、露出していた指は赤い装甲に覆われ龍の爪のようになる。

そして何より、神器の宝玉から放たれる輝きが凄まじかった。

その輝きはレイナーレがアーシアの神器を吸収した時のものと同等、もしくはそれ以上。

そして籠手から溢れんばかりの力が一誠の体に流れ込む。

今なら目の前の堕天使を倒せる、と思えるぐらいの力強さだった。

 

「すごい…」

 

雄介が感嘆の声を漏らしているそばでレイナーレは明らかに一誠に怯えていた。

 

「この波動は中級…いえ、それ以上!?あ、ありえないわ!ただの龍の手がどうして!?」

 

とっさにレイナーレは手に光の槍を作り出し、勢いよく投擲した。

しかし、その攻撃はあっさりと一誠の横殴りの拳に払われた。

それを見たレイナーレの表情がさらに青ざめた。

 

「う、ウソよ!」

 

危機感を本能で悟ったレイナーレは黒い翼を広げこの場から逃げ出そうとした。

 

「逃がすか!」

 

しかし、その行動は雄介によって阻まれた。

目の前に躍り出た雄介のスプラッシュドラゴンがレイナーレの腹部をとらえた。

 

「行け、兵藤君!」

 

そのままレイナーレの体を一誠に向けてぶん投げた。

あっという間に一誠とレイナーレの距離が縮まる。

 

「私は至高の―――」

 

「吹っ飛べ!クソ天使!」

 

何かを言いかけていたレイナーレに一誠は持てる全ての力を込めた左拳を振り切った。

 

「ぎゃああああああああああああああっ!!」

 

レイナーレはまっすぐな直線を描きながら、教会のステンドグラスを突き破り夜空の彼方へと飛んで行った。

 

「…ざまーみろ」

 

一誠が堕天使に一矢報いた瞬間だった。

 




やっとイッセーが覚醒しました。

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