一誠の前に現れたのは、おそらく外国人であろう白髪の若い男。
恰好を見て神父だと判断した。
神父は一誠を見るなり、ニンマリと厭らしい笑みを浮かべた。
「やーやー。これはこれは、悪魔くんではあーりませんかー」
実にうれしそうに喋る目の前の神父はどうやら一誠のことを悪魔と認知しているようだ。
「俺は神父♪少年神父~♪デビルな輩をぶった斬り~、ニヒルな俺が嘲笑う~♪おまえら悪魔の首刎ねて~、俺はおまんま貰うのさ~♪」
突然、神父はわけの分からない歌を歌いだした。
「俺のお名前はフリード・セルゼン。とある悪魔祓いの組織に所属している末端でございますですよ。あ、別に俺が名乗ったからって、おまえさんは名乗らなくていいよ。俺の脳容量にお前の名前なんざメモリしたくないからやめてネ。大丈夫。すぐに死ねるから。俺がそうしてあげるから。最初は痛いかもしれないけどすぐに快感に変わるから。いっしょに新たな扉を開こうZE!」
よくもまあ、ペラペラとしゃべるもんだ。おまけに言動が滅茶苦茶だ。
戸惑いつつも一誠は生唾を飲み込みながらフリードに物申した。
「お前が、この人を殺したのか?」
「YES,I did!俺が殺っちまいました。だってー、悪魔を呼び出す常習犯だったみたいだしぃ、そんならもう殺すしかないっしょ」
実に楽しそうに返事を返してきた。
「だってだってぇ、悪魔と契約する時点で人間として最低レベルのクズっスよ?その辺ご理解いただ
けませんかねぇ?あー無理か。おまえさんクズの悪魔ですもんねぇ」
「人間が人間殺すってのはどうなんだよ!お前らが殺すのは悪魔だけじゃないのか?」
「はあ?悪魔の分際で俺に説教ですかぁ?このクソ悪魔ごときが?ハハハ、マジでウケるんですけど。いいか、よく聞けクソ悪魔。お前ら悪魔は人間の欲を糧に生きてるじゃねえか。悪魔に頼るってのは人間として終わってるんですよ。エンドですよエンド。だからこれ以上穢れる前に俺が殺してあげたわけなんですよ。つまり慈悲ですよ慈悲!アーメン!」
「悪魔でもここまでのことはしないぞ!」
「ん~?チミは何を言ってるんだい?悪魔はクソですよ。常識ですよ。あ、もしかして怒っちゃった?クソな存在同士、仲間意識でもわいちゃった?」
もはや話にならないと分かっていても売り言葉に買い言葉の討論が続く。
すると、フリードが懐から刀身の無い剣の柄と拳銃を取り出した。
そして空気を振動させる音とともに剣の柄から光の刀身が作り出された。
「さてさて、ではでは。こちらも生活懸ってるんでさっそく
フリードが一誠に向かって駆け出した。
光の刀身が真横に振るわれるが一誠は悪魔化の身体能力でかわした。
咄嗟に次の手を考えていると突然足に激痛が走り、膝をついてしまった。
見ると、フリードの持つ拳銃から煙が上がっている。どうやら撃たれたようだ。
しかし、銃声はしなかったことに疑問を抱いていると、
「どうかな?祓魔師特製の祓魔弾!光の弾だから銃声音なんて発しません!」
ご丁寧な説明が入った。
「死ね死ね悪魔!!死ね悪魔!塵になって宙に舞え!全ては俺様の悦楽のためにぃ!!」
フリードが狂った笑いを発しながら、一誠にとどめを刺そうと迫ってきた。
「やめてください!」
と、そこへ聞き覚えのある声が一誠の耳に飛び込んできた。
一誠とフリードの視線が声の主の方へと向けられる。
「アーシア…」
そこにいたのはシスターアーシアだった。
「おや?助手のアーシアちゃんではありませんか。結界は張り終わったのかな?」
しかし、アーシアがフリードの問いに答えることはなかった。
「!い、いやぁぁぁぁぁぁっ!」
アーシアは壁に打ちつけられている死体を見て悲鳴を上げたのだ。
「あれれ?もしかしてアーシアちゃんはこの手の死体を見るのは初めてだったのかな?それならとくとご覧あれ。悪魔に魅入られたダメ人間はこうやってしんでもらうのでやんすよ」
恐怖で顔をゆがませるアーシアを見るフリードの様子は実に楽しそうだった。
すると、アーシアの視線が一誠の姿を捉えた。
「…フリード神父…その人は…」
アーシアの俺へと向ける視線に気付いたフリードはアーシアの発言を否定する。
「人?違う違う!こいつはクソの悪魔くんだよ?一体キミは何を勘違いしているのかな?」
「い、イッセーさんが…悪魔?」
その事実が余程ショックだったのか言葉を詰まらせてしまうアーシア。
「あれれぇ?もしかしてキミたちって知り合い?マジで?悪魔とシスターの許されざる恋ってやつ?ナニソレ最っ高!」
面白おかしそうにフリードが一誠とアーシアを見る。
「アハハハ!残念だけど人間と悪魔は相容れません!それに俺らは神に見放された異端の集団は堕天使さまの加護を受けないと生きてはいけないはみだし者ですぜぃ?まぁ、いいや。とりあえず俺さま的にはそこのクソ悪魔くんを殺さないとお仕事完了できないんで、おとなしくそこどいてくれないかNA?」
光の剣を突きつけるフリードだが、動けない一誠の前にアーシアが立ちふさがった。
それを見たフリードの顔が険しくなる。
「おいおい、マジかよマジですかァ?アーシアちゃ~ん。キミは今自分が何してるか分かってるんですかい?」
「はい。フリード神父…どうかこの方をお見逃しください」
「――っ」
その一言に一誠は声を詰まらせた。
「もう嫌です…悪魔に魅入られたからといって、人間を裁いたり、悪魔を殺したりなんて…そんなの間違っています!」
「はぁああああ!?ナマ言ってんじゃねえぞクソアマが!悪魔はクソだって教会で習っただろうが!お前、マジで頭にウジでも湧いてんじゃねえのか!?」
とうとうフリードが切れた。その表情には憤怒と嫌悪が浮かんでいた。
「悪魔にだっていい人はいます!」
「いねぇよ!バアアアカ!」
「それでも!イッセーさんは違います!イッセーさんは私を助けてくれました。例え悪魔だと知ってもそれは変わりません!」
死体を目撃し、一誠が悪魔だと知ってもなおアーシアは自分の意思を崩すことなくフリードに物言いした。
「キャッ!」
「アーシア!」
しかし、アーシアの叫びがフリードに届くことはなかった。それどころかアーシアの発言がフリードの怒りを買ってしまった。
フリードは銃を持ったままの手でアーシアを殴ったのだ。
床に転ぶアーシアの顔には大きな痣ができている。
「堕天使の姉さんたちからはキミを殺すなと念を押されてるんですけどねぇ。でもそれって裏を返せば殺さなきゃ何をしてもいいってことなんでござんすよ。OK?」
アーシアの怯えた瞳が狂気の笑みを浮かべるフリードを見つめる。
その光景を見ていると一誠の中で沸々と怒がこみ上がってくる。
「ああ、そうだ。その前にまずはそこのクソ悪魔くんを殺さないとねぇ」
思い出したかのようにフリードが再度、一誠に光の剣を向けてきた。
しかし今の一誠に、アーシアを置いて逃げるという選択肢はない。
「庇ってくれた女の子を前にして、逃げられるわけないだろ!」
一誠は激痛が走る体に鞭を打って立ち上がった時だった。
突如、床が光りだした。
「何事さ?」
疑問を口にするフリードをよそに光は徐々に魔方陣へと形を変えていく。
そして、そこから現れたのは、
「兵藤くん、助けに来たよ」
いつものスマイルを振りまく祐斗。
「あらあら、これは大変ですわね」
ドSモードの笑みを浮かべる朱乃。
「…神父」
フリードの存在に嫌悪の色を示す小猫。
「みんな!」
自分のピンチに颯爽と駆けつけてくれた仲間に感動していたその矢先、
「ようこそ!悪魔の団体さん!」
さっそくフリードが光剣で斬りつけてきた。
しかしその一撃を祐斗が剣で受け止めた。ガキン!と金属音が部屋に響いた。
「悪いけど、彼は僕たちの仲間でね。こんなところでやられてもらうわけにはいかないんだ!」
「クソ悪魔の分際でおアツいですなぁ。もしかしてキミたちってそういう関係?どっちが受けでどっちが攻めなの?ヒャハハッ!」
つばぜり合いを繰り広げるさなかにもかかわらず、フリードはおちょくっていた。
「下品な口だ。とても神父とは思えない。…いや、だからこそ“はぐれ悪魔祓い”をやっているわけか」
フリードの様子に祐斗は珍しく嫌悪の表情を浮かべていた。
「下品でサーセンね!でも俺的にクソな悪魔を狩って絶頂できればそれで満足なんでござんすなのですよ!」
相変わらずフリードはケタケタと不気味に笑っている。
「悪魔を狩ることを生きがいとし、さらに快楽を求め続ける。…どうやらあなたは私たちにとって1番有害なタイプのようですね」
そばにいる朱乃も敵意と戦意をフリードに向けている。
「てめぇらクソ悪魔どもだけには言われたくありませんなぁ」
「悪魔にだってルールはあります」
微笑みながら言う朱乃だが、その視線は明らかに鋭い。
「いいねぇいいねぇ。お姉さんの殺意がビンビン伝わって来ちゃいますよぉ!やっぱり殺意は向ける方も向けられる方も最高だNE!」
しかし朱乃の殺意がフリードの興奮をさらに高ぶらせていく。
その時だった。
「なら、消し飛びなさい」
声とともに一誠の隣に現れたのは我らが主、リアスだった。
「ごめんなさい、イッセー。まさか依頼主のもとにはぐれ悪魔祓いが訪れるなんて思わなかったの」
謝るリアスは一誠の姿を見るなり、目を細めた。
「イッセー、ケガをしたの?」
「あ、すみません。ちょっと撃たれちゃって…」
咄嗟に反笑いで誤魔化す一誠。怒られるのではないかと思っていたがリアスは冷淡な表情でフリードを見つめていた。
「どうやら私のかわいい下僕をかわいがってくれたみたいね?」
一目でわかった。リアスは、今、キレている。
「はいはい、かわいがってあげましたよぉ。本当は全身くまなくザクザク切り刻む予定でござんしたが、どうも邪魔が入りまして―――」
そこまでだった。
ボンッ!
ヘラヘラしていたフリードの後方に位置する壁の一部が消し飛んだ。
リアスが魔力の弾丸を発射したのだ。
「私は、私の下僕を傷つけられるのは我慢ならないの。特に、あなたのように下品極まりない輩ならなおさらね」
リアスの迫力がこの空間を支配した。
「部長!ここに堕天使らしき影が複数近づいています!このままではこちらが不利になってしまいます!」
何かの気配を感じ取ったのか、叫んだのは朱乃だった。
それを聞いてリアスはフリードを人睨みすると、
「朱乃、イッセーを回収しだい帰還するわ。ジャンプの用意を!」
「はい!」
リアスに促され、朱乃は魔法陣の展開に取り掛かった。
「部長!この子も一緒に!」
「無理よ。この魔方陣は私の眷属しか跳べないの」
愕然とする一誠の視線には涙を流しながらも笑うアーシアの顔。
「アーシア…」
「イッセーさん。また、会いましょう」
それが一誠とアーシアが最後に交わした言葉だった。
「逃がすかって!」
フリードが切り込んでくるが小猫が近くのソファーを投げつけた。
それをフリードが光剣で薙ぎ払う頃にはすでに転移は完了していた。
部室に戻っても思い出すのはアーシアの最後の笑顔だけ。
これが、一誠が己の弱さを痛感した瞬間だった。
☆
「そんなことがあったんですか?」
次の日、部室で雄介は昨夜の出来事の説明を聞いていた。
「なんか、すいません。仲間がピンチだったっていうのに、俺だけ…」
リアスたちがひと悶着している間雄介はカレーの仕込みをしていたのだ。
謝る雄介だが、リアスたちが咎めることはなかった。
「あなたが悔やむ必要はないわ、雄介。私たちもはぐれ悪魔祓いの存在に気付いた時点で急なことだったの」
「でも…」
「まあまあ、雄介君。こうしてみんな無事に生きて戻ってこれたんだからいいじゃないか」
「裕斗の言うとおりよ。イッセーを連れ戻すという目的は果たせたんだからあなたもこれ以上引きずらないこと。いいわね?」
「…はい、分かりました」
「よろしい」
しぶしぶだが納得した様子の雄介を見てリアスはニッコリとほほ笑んだ。
「ところで、さっきから話に出てきた“はぐれ悪魔祓い”って一体?」
「そうね。いい機会だから話しておきましょうか。まず“悪魔祓い”には2通りあるの。一つは神の祝福を受けた者たちが行う正規の悪魔祓い。そしてもう一つ、“はぐれ悪魔祓い”よ」
「“はぐれ”ってことはやっぱり…」
「ええ。雄介が予想している通り、悪魔祓いの中には悪魔を殺すことに生き甲斐や悦楽を覚えてしまう輩がいるの。そうなれば彼らは例外なく神側の協会から追放されてしまうわ。でも神の加護を得られなくなった彼らは今度は堕天使のもとへ走る。その集団が“はぐれ悪魔祓い”よ」
「それって、はぐれたちと堕天使の悪魔を滅ぼしたいっていう利害が一致してるってことですか?」
「そうよ。そして堕天使の加護を得た彼らは悪魔と悪魔を召喚する人間にまで手をかけるの。正直、正規の連中よりも性質が悪いわ」
「“はぐれ”って悪魔だけじゃなかったんですね。あれ、そういえば兵藤くんはどうなったんですか?」
「体の方は完治とは言えないけど心配ないわ。でも、心のほうがね…。あのシスターを助けられなかったことがよっぽどショックだったようね。でもあの子には頭を冷やす必要があるから念のため大事を取って学校を休ませたわ」
「そう、ですか…」
一誠のことを考えると雄介はそれ以上何も言えなかった。
☆
少し時間は遡る。
「はあ・・・」
一誠はアーシアと初めて出会った公園のベンチで項垂れていた。
こうしている今もアーシアのことを考えていた。
「強くなりてぇな・・・」
そう呟いた時だった。
「イッセーさん?」
聞き覚えのある声とともに、一誠の視界に金色が映った。
「・・・アーシア?」
☆
「こうやって食べるのですよ、姫君」
一誠はアーシアと昼食は近くのハンバーガーショップでとることにした。
食べ方のわからないアーシアのために、手本としてハンバーガーにかぶりつく。
「そ、そんな食べ方があったなんて…驚きです!」
何とも新鮮な反応が返ってきた。
すぐさまアーシアも一誠に習ってハンバーガーにかぶりついた。
「おいしいです!ハンバーガーっておいしいんですね!」
目を輝かせながら感想を口にした。
今度はポテトを口に運ぶアーシアを眺めながら、一誠は考えていた。
なぜ彼女はあの公園にいたんだ、と。
あの時は休み時間だから出てきたといっていたが、どう見ても何かに怯えていたように見えた。
しかし、悩んでいても仕方がないと思い、一誠は一つの結論を出した。
「アーシア」
「は、はい」
「今日は思いっきり遊ぼうか」
「え?…はい!」
それからはアーシアを連れゲーセンでレーシングゲームで新記録をたたき出したり、一緒にプリクラをとったり、クレーンゲームで有り金の大半を生贄に人形を獲得した。
手に入れた人形をアーシアにプレゼントすると、
「今日いただいたこのラッチュー君は今日の出会いが生んだ素敵なものです。この出会いは今日だけのものですから一生大切にしますね」
嬉しそうに人形を胸に抱いていた。
☆
「いやー、遊んだ遊んだ」
「はい…少し疲れました…」
日が傾くころ、2人は苦笑しながら、歩いていたが、一誠は不意に訪れた足の違和感に躓きそうになった。
「いてて…」
同時に、痛みも走った。どうやら、昨日に受けた傷はまだ完治には至っていないようだ。
「イッセーさん、あの時のケガ、治っていないんですね?」
アーシアの表情が曇った。すると身をかがめて一誠の患部に手のひらを当てた。
「ちょっと失礼します」
そして、患部に温かく、優しい光が照らされる。
「これでどうでしょうか?」
アーシアに言われ、一誠が軽く足を動かすと、
「すげえよ、アーシア。全然痛くない!…これって、神器だよね?」
「はい、治癒の力を持った神器です」
少し大袈裟に足を動かす一誠の姿を見て、アーシアもうれしそうに微笑んだ。
「俺も一応神器持ちなんだけど、まだ効果がよくわからないんだ。それに比べたらアーシアの力はすごいよ。これって俺みたいな悪魔でも治せるんだな」
何気に呟くが、アーシアは複雑そうな表情をして、少しだけ俯いた。
そして、彼女の頬に一筋の涙が流れた。
その量は次第に増していき、とうとうその場で咽び泣いてしまった。
一誠はどうしたらいいか分からなかったが、とりあえずアーシアと一緒に近くのベンチに腰を下ろした。
そこで語られたのは“聖女”と祭られた少女の末路だった。
欧州のとある地方で生を受けた少女は生まれてすぐに親に捨てられてしまった。
教会兼孤児院でシスターと他の孤児たちと一緒に育てられ、少女が八つの時偶然、負傷した子犬を不思議な力で治療したことが知られた。
それからは少女は多くの人から“聖女”として崇められた。
待遇に不満はなく、教会の関係者もよくしてくれる。
それに少女はケガした人を治すことにうれしさを感じていた。
少女は力をくれた神に感謝した。
しかし、同時に寂しさを感じていた。
この頃から少女には友達と呼べる者が一人もいなかったのだ。
そして、ある日、少女に転機が訪れた。
たまたま少女は、近くに現れた悪魔を治療してしまったのだ。
それは少女が持つ優しさゆえの行動だった。
その行動が少女の人生を反転させてしまった。
それをきっかけに少女は“聖女”から“魔女”と罵られ、呆気なく教会から捨てられた。
やがて、行き場をなくした少女が辿り着いたのははぐれ悪魔祓いの組織、堕天使の下だった。
「…きっと、私の祈りが足りなかったんです。私、抜けているところがありますから…」
語り終えた少女、アーシアは笑いながら涙をぬぐった。
想像を絶する彼女の過去を知った一誠は言葉を失ってしまった。
「これも主の試練なんです。私が全然ダメなシスターなので、こうやって修行を与えてくれているんです。今は我慢の時なんです」
笑いながら、自分に言い聞かせるようにアーシアは言う。
「イッセーさん、私、夢があるんです。普通にお友達とお買い物したり、おしゃべりしたり…お友達と、いっぱい、いっぱい…」
嗚咽を漏らすアーシアの目には涙で溢れていた。
そんな彼女の姿が見ていられなくなり、一誠は彼女の眼を真っ直ぐ見つめながら叫んだ。
「俺が友達になってやるよ!」
「え?」
一誠の言葉にアーシアはキョトンとなる。
「いや、もう友達だろ?今日いっぱい話して、いっぱい遊んだ!これからも買い物だってなんだって付き合ってやるさ!だから!」
一誠は自分の気持ちをアーシアにぶつける。
そして、
「イッセーさん…」
一誠の気持ちが届いたのかアーシアは口元を手で押さえながら再び涙を溢れ出させていた。
でも、今の涙は悲しそうなものではないと一誠にはわかった。
その時だった。
「無理よ」
2人の気持ちを否定するかのように、第3者の声が耳に入った。
声がした方に顔を向けた時、一誠は絶句した。
「ゆ、夕麻ちゃん…」
そこにいたのは一誠を一度殺した張本人、天野夕麻だった。
「なんだ、生きてたの。しかも悪魔?うそ、最悪ぅー」
一誠の驚いた声音に、彼女はくすくすとおかしそうに笑いを漏らす。
「レイナーレ様…」
アーシアが怯えた顔で堕天使の名前を呟いた。
はい、やっと原作の中間地点です。