「二度と教会に近づいちゃだめよ!」
一誠がアーシアを教会へ送り届けたその日の夜、一誠は部室でリアスに怒られていた。
「教会は私たち悪魔にとっては敵地なの。踏み込めばそれだけで神側と悪魔側で問題になるわ。今回はシスターを送ってあげたあなたの厚意を素直に受け止めてくれたみたいだけれど、いつ光の槍が飛んできてもおかしくなかったのよ?」
「マジですか?」
一誠の状況の危機感をさらに煽るようにリアスは部長席の机を叩く。
「教会の関係者にも関わってはダメよ。特に“
紅の髪を揺らしながらリアスの凄まじい眼力が一誠を直視する。
端から見てもその真剣さが伝わってくる。
しかし、そのあまりの剣幕に一誠はマ○オの如く縮こまってしまう。
そんな一誠の姿を見たリアスはハッと気づいたように首を横に振った。
「ごめんなさい、熱くなりすぎたわね。今後、気を付けて頂戴」
「はい…」
「あらあら、お説教は済みましたか?」
「おわっ!?」
一誠とリアスの会話は終わった途端、いつの間にかいつものニコニコ顔の朱乃が背後に立っていた。
「朱乃、どうかしたの?」
リアスの問いに朱乃は少しだけ顔を曇らせた。
「討伐の依頼が大公から来ました」
☆
“はぐれ悪魔”
爵位持ちの眷属悪魔が主を裏切る、あるいは主を殺して野良犬と化した悪魔のことを指す。
その野良犬を見つけ次第、主人、もしくは他の悪魔が消滅させる。これも悪魔のルールのひとつだ。
現在、町はずれの廃屋にリアスを筆頭に朱乃、小猫、祐斗、一誠が魔方陣から現れた。
ちなみに、雄介は人間であるため魔法陣での移動ができないのでバイクで直接現場に急行する手筈になっている。
毎晩、この廃屋ではぐれ悪魔が人間を誘き寄せて食らっているらしい。
今回はそのはぐれ悪魔を討伐ようにと上級悪魔から依頼が来たのだ。
「…血の臭い」
周囲に背の高い草木が生い茂る不気味な雰囲気の中まず小猫が呟き、制服の袖で鼻を覆った。
辺りはシーンと静まり返っているが廃屋から敵意と殺意がはっきりと感じられる。
どうやら敵もこちらの存在に気づいているようだ。
「イッセー、いい機会だから悪魔としての戦いを経験しなさい」
足をガクガクと震わしている一誠に堂々と腰に手を当てて立っているリアスが言う。
「マ、マジっすか!?俺、戦力にならないと思いますけど…」
「そうね、それはまだ無理ね。でも、悪魔の戦闘を見ることはできるわ。今日は私たちの闘いをよく見ておきなさい。ついでに下僕の特性を説明してあげるわ」
「下僕の特性?」
怪訝な一誠にリアスが語り始める。
「悪魔・天使・堕天使の三つ巴の関係は前に説明したわね?長い戦いの中でどの勢力も疲弊し、やがて勝者も生まず終結したわ。悪魔も多くの純潔を失い軍団を率いることが出来なくなったの。そこで始まったのが少数精鋭の制度、“
「イーヴィル・ピース?」
「爵位を持った悪魔は人間界のチェスの “
リアスが説明する中、朱乃、小猫、祐斗は部屋をひとつひとつ覗きながら探索を続ける。
「そして今では爵位持ちの中で流行している“悪魔の駒”を使って強さを競う“レーティングゲーム”。簡単に言えば下僕を駒にした大掛かりなチェスね。これが地位や爵位に影響するようになっていったの」
「なるほど。じゃあ俺もそのうちそのゲームに駆り出されて戦うことになるんですか?」
初めて聞く単語を交えた小難しい内容を何とか理解した一誠が訊ねる。
「いいえ。私はまだ成熟した悪魔ではないから公式の大会には出場できないの。それに出場するにもいろいろと条件があるの。まずそれをクリアしないといけないから当分の間はゲームをプレイすることはないわ」
「はあ…じゃあ部長。結局、俺の駒の役割や特性って何なんです?」
「そうね、イッセーは…」
そこまで言って、リアスは歩みと言葉を止めた。
理由はすぐに分かった。目の前の暗闇から今まで立ち込めていた敵意や殺意がいっそう濃くなったのだ。
何かが俺たちに近づいてくると悪魔歴の浅い一誠でもすぐに理解できた。
「不味そうな匂いがするぞ?でも美味そうな匂いもするぞ?甘いのかな?苦いのかな?」
地の底から聞こえるような不気味な声が聞こえてくる。
「うっ!なんだ、この臭い!?」
周囲に立ち込める血なまぐさい臭いに顔を顰めてしまうが、リアスは一切臆さず声の主に言い渡す。
「はぐれ悪魔“バイザー”。あなたを消滅しに来たわ!」
「ひゃははははははははははははははははははははははははは…」
辺りに異様な笑い声が響くと同時、何かがリアスたちの方に飛んできた。
最初は敵の攻撃かと思ったが違っていた。ドシャッと気持ちの悪い音とともに一誠の足元付近に転がってきたそれは、肉塊と成り果てた死体だった。
死体には既に、胸から下の体の部位がない。
無造作に食い千切られたであろう断面からは鮮血がしたたり落ち、内臓や肉片がこぼれかけている。
死体を視界に入れてしまった一誠は胃から逆流してくる吐瀉物を抑えるのに精いっぱいだった。
すると、ようやく暗闇からはぐれ悪魔の本体が姿を現す。
それは上半身は裸の女性、そして巨大な獣の下半身を合わせた全長は5メートルを超える異形だった。
両手には槍らしき得物を一本ずつ所持している。
「品性のかけらもない風貌だわ。とてもお似合いよ。主の下から逃げ、己の欲望の為に暴れまわるその行為…万死に値するわ。グレモリー公爵の名において、あなたを消滅させてあげる。光栄に思いなさい」
「小賢しい小娘ごときがぁ…その紅の髪同様に貴様の身を鮮血で染め上げてくれるわあああ!」
吠えるバケモノだが、リアスは鼻で笑うだけだ。
「雑魚ほど洒落の利いた台詞を吐くものね。祐斗!」
「はい!」
まずはリアスに指示を受けた祐斗が飛び出す。
「イッセー、さっきの続きをレクチャーするわ」
祐斗とバイザーが戦闘している中、リアスが先ほど中断した説明を再開させた。
「祐斗の役割は“騎士”、その特性はスピード」
リアスの言うとおり、祐斗の動きは徐々に速度を増していき、バイサーの攻撃を回避していき、遂には常人では目で追えなくなるほどの速度まで到達していた。
バイサーが槍を振るって攻撃するが、掠る気配すらない。
「そして、祐斗の最大の武器は剣」
一度足を止めた祐斗の手にはいつの間にか一本の西洋剣が握られていた。
そして、祐斗が再びその場から消えた次の瞬間、
「ぎゃああああああああああああっ!」
バイザーの悲鳴が木霊する。
見れば、銀行を放つ祐斗の長剣がバイザーの両腕を切断したのだ。
「これが祐斗の力。捉えきれないスピードと達人級の剣さばきから繰り出される高速の剣撃。これがあの子を最速の騎士にさせるわ」
「この…子虫があああ!」
巨大な足を振り上げるバイザーにパフォーマンスを終え、背を向ける祐斗と入れ替わる形で前に出る影が1つ。
「小猫ちゃん!?」
小猫はそのままバイザーに踏みつぶされてしまい、辺りに砂煙が舞う。
「大丈夫」
しかし、リアスはただ一言呟くだけ。
「小猫の特性は、“戦車”!」
煙が晴れると、そこには小さな体で巨体を持ち上げる小猫の姿があった。
「“戦車”の特徴はバカげたパワーと圧倒的な防御力。あの程度の攻撃じゃ小猫は潰せないわ」
バイザーの足を力任せに持ち上げた小猫はそのまま体勢を崩させる。
「吹っ飛べ…」
そして空中に飛び上がり、そのどてっぱらに拳を打ち込んだ。
文字通り、バイザーの巨体が後方へ大きく吹っ飛んだ。
「弱…」
そう呟き、ほこりを払うように手を叩く小猫を見ながら一誠は絶対に逆らうまいと心に誓った。
「そんな馬鹿な…。こんな小僧どもに…」
全身に血を流し、かすれ声で呟くバイザー。
「最後に朱乃ね」
「はい、部長。あらあら、どうしましょうかしら?」
朱乃はいつものニコニコ笑顔で倒れこんでいるバイザーのもとへ歩き出した。
「朱乃は“女王”。私の次に強い最強の存在。“兵士”“騎士”“僧侶”“戦車”のすべての力を兼ね備えた無敵の副部長よ」
「ぐぅぅぅぅ…許さぬぞ…」
朱乃を睨みつけるバイザー。しかし、朱乃はそれを見て不敵な笑みを浮かべる。
「あらあら、まだ元気みたいですわね?それでは、これはどうでしょう?」
朱乃が天に手をかざすと、その刹那、バイザーに雷が落ちた。
「アバガガバガッバガガバッガガガ…」
激しく感電するバイザー。
「朱乃は魔力を使った攻撃が得意なの。そして…」
目の前ではバイザーは煙を上げ、全身丸焦げとなってしまった。
「あらあら、まだ行けそうですわね?どこまで耐えられるかしら?」
再び雷がバイザーを襲う。
「ギャアアアアアアアッ!」
再び感電するバイザー。すでに断末魔に近い声を上げている。
にもかかわらず、朱乃の雷が止むことはなかった。
「あら、まだ元気そうですわね?それでは次行ってみましょうか」
「ガアアアアアアアアアッ!」
三度悲鳴を上げるバイザー。
と、ここで一誠はあることに気付いた。
よく見ると、雷を落とす朱乃の表情は、冷徹で怖いほどの嘲笑で輝いていた。
いや、比喩ではなくマジで。心の底からこの状況を楽しんでいた。
頬は興奮で紅潮し、双眸は快感で煌めいていた。
「何より、彼女は究極の“S”なのよ」
と、さらりと告白するリアス。
「いや、“S”ってレベルじゃないんですけど!どう見ても“
「ええ。普段は優しいけれど、一旦戦闘となれば相手が敗北を認めても自分の興奮が収まるまではその手が止まることはないわ」
「どこの星の女王様ですか!?」
「サディスティック星じゃないかしら?」
「こっちから聞いといてなんですけど、真面目に答えないでください!」
「大丈夫よ。朱乃は味方にはとても優しいから怖がる必要はないわ」
「あらあら。どこまで私の雷に耐えられるのかしら?ねぇ、バケモノさん、まだ死んではダメよ?トドメは私の主なのですから。うふふふふ」
相変わらず、目の前で朱乃は雷を放ちながら絶頂していた。
「…いや、すいません。やっぱりそれでも怖いものは怖いんですけど…」
それから数分間、朱乃による雷のサービスが続いた。
しかし、
「こんなことが…あって…たまるかあああああああああ!!」
雷に撃たれながらもバイザーの体は叫びとともに変化が起きた。
ブチ…ブチブチブチブチブチ!
無理やり肉片を引き千切る様な音とともにバイザーの胴体が上下に分裂したのだ。
女性の上半身からは足が生え、陰部は獣の毛皮でかろうじて隠されていた。
一方、獣の下半身の方は前面に巨大な牙だけがずらりと並び、間から涎が垂れている。
グロオオオオオオオオオオオオオオオオ!
獣らしい咆哮を上げたバイザーの下半身は朱乃を飛び越えリアスに襲い掛かった。
「部長!」
一誠が叫ぶがリアスから余裕の笑みが消えることはなかった。
獣の牙がリアスに迫ろうとした、その時だった。
ブウウウウウンッ!
突然扉を突き破り、ウィリー走行で現れたバイクが獣を弾き飛ばした。
近くでバイクを止め、運転手はヘルメットを外しこちらを向くと、
「すいません、遅れました!」
バイクから降りた雄介がリアスに近づいた。
「大丈夫よ。それより雄介、早く変身しなさい」
「はい!」
返事をした雄介が獣の前に進み出る。
「イッセー、よく見ておきなさい。あれが、雄介の力よ」
リアスに言われたとおりに一誠は雄介を見つめると丁度、雄介が変身の手順を踏み始めたところだった。
まず両手を腹部にかざしアークルを出現させる。
次に右手を左前方に突出し、左手はアークルに添える。
そして右手を右に、左手を左にスライドさせるように動かし、
「変身!」
いつもの言葉を叫んだ後、最後に右手を左手に重ねた。
すると、アークルから“赤”の音が鳴り響き赤い装甲が雄介の体を包んだ。
これで、雄介はクウガへの変身を完了した。
「姿が変わった!?」
一誠は目の前の光景に驚きの声を上げてしまった。
「あれが雄介の力、“戦士クウガ”よ」
「戦士、クウガ…あれも神器なんですか!?」
「いいえ。あのクウガのベルト、アークルは神器ではないの」
一誠の疑問をリアスは即、否定する。
「まず“神器”は神が創造したもの。それに対して“アークル”は古代の民族が創った遺産なの。今までいろいろ調べてはみたんだけど、“アークル”についてわかったことはそれぐらいなの」
「そうなんですか…」
☆
雄介はクウガに変身してすぐに戦闘を開始した。
「雄介君、あなたはそちらの獣の相手をお願いしますわ」
「わかりました!」
朱乃に言われたとおりにバイザーは彼女に任せ、雄介は獣と対峙する。
「グルルルルルルル…」
獣がうなり声をあげ威嚇をするが、それでも雄介は怯むことなく構えをとる。
「グルゥアッ!」
いきなり、獣の口から覗く巨大な牙が雄介に迫る。
「ふんっ」
しかし、雄介は獣の突進を正面から受け止めた。
お互いが競り合い、一歩も引かない状態がしばらく続くが、
「はあぁっ!」
「グロボッ!」
雄介のアッパーが獣の顎にヒットした。その衝撃で、数本の牙が砕かれる。
「ガラァッ!」
次に、獣が前足で攻撃してくるが、雄介は跳躍でかわし獣の背中に着地する。
「ふんっ、はあっ、だあっ!」
すかさず雄介は背中を殴りつける。
「グル…ガッ、ラァッ!」
獣は激しく体を揺らし、雄介を引きはがす。どうやら、ダメージは通っているようだ。
「くっ…うわあっ!」
獣の体から投げ出された雄介は咄嗟に身体を転がして受け身をとる。
「ガラアッ!」
獣は今度は勢いよく体を回転させ、尻尾で攻撃してきた。
「ふんっ!」
これもまた正面から受け止める雄介。
「はあぁ…りゃあああっ!」
さらに力を籠め、雄介は背負い投げの要領で獣を投げ飛ばした。
「グルガァッ」
床に激突した衝撃で床が砕け、砂埃が舞う。
「はあ、はあ…」
「ガルルル…」
息を整えながら雄介が見つめる先には体を起こす獣の姿。
しかし、見るからに虫の息状態だった。
「ガラアアアアアッ!」
獣の前足の鋭い爪が襲い掛かるが、雄介は前転でかわし懐に潜り込む。
「ふん…」
そして、そのまま床に手を付き、
「はあっ」
付いた手をバネのように動かし、
「だあああっ!」
勢いに乗せて獣の顎にマイティキックを叩き込んだ。
「グボラアッ」
蹴り飛ばされた獣がふらついた足で立ち上がるが、その顎にはクウガの“封印”の古代文字がしっかりと刻まれていた。
「グル…ガラ…ガア…」
刻まれた古代文字から亀裂が生じる度に獣がうめき声をあげる。そして、
「グラアアアアアアアアアアアッ!」
断末魔とともに獣の体は爆散した。
「爆発しちまった…」
爆風で一度目を覆った一誠はクウガの背中を見つめていた。
「さて、あっちは終わったみたいだし、残るは…朱乃!」
一方、朱乃の方はというと、彼女は未だに雷の集中砲火を続けていた。
「はい。それでは、トドメは部長にお任せしますわ」
ようやく、サドることに満足したのか朱乃がリアスと交代した。
一体、バイザーはどれくらいの雷を受けてしまったのか…うん、考えるのは止めておこう。
そして、ようやくトドメということでリアスは、完全に戦意を失い地面に伏すバイサーに手をかざす。
「最後に言い残すことは?」
「殺せ」
リアスの問いの答えはその一言だった。
「そう、ならば消し飛びなさい」
ドンッ!
冷徹な一言とともにリアスの手から巨大な黒い魔力の塊が撃ち出された。
魔力の塊がバイザーの全身を余裕で包み込んでいく。
そして、魔力が宙に消えたとき、バイザーの姿も完全に消えていた。
それを確認したリアスは息をつく。
「終わりね。みんな、お疲れ様」
リアスが部員たちにそう言うと、一誠以外のメンバーはいつもの陽気な雰囲気を放っていた。
これで、はぐれ悪魔討伐が終了した。
しばらくは悪魔の戦いの凄まじさに驚愕していた一誠だが、ここであることを思い出した。
「そういえば部長、聞きそびれてたんですけど…」
「何かしら?」
リアスは一誠に笑顔で応じる。
「俺の駒…というか、下僕としての俺の役割ってなんですか?」
「ああ、イッセーの役割は…」
一誠の疑問に、微笑みながらリアスは言った。
「“兵士”よ」
一誠は一番下っ端の駒でしたとさ。
☆
「はあ…出世の道は遠いな」
バイザー討伐から数日が経ち、そんなことを言いながら今日も一誠は深夜にチャリを飛ばしていた。
しかし、なんやかんやで悪魔ライフを楽しんでいる自分がいるのは否定しなかった。
そして今日こそ契約をとるぞと意気込んで、ついたのは一軒の家。
さっそく、一誠はブザーを押そうとしたわけだが、ふと気づいた。
「あれ?玄関が開いてる…」
現在時刻は夜中の11時前。
普通に考えて玄関を開けたまま放置していいような時間ではない。
何か言い知れない不安が一誠を襲う。
本当にこのまま入ってしまっていいのだろうかと思いながらも気付いたら足を踏み出していた。
玄関から中を覗くと、廊下に灯りはついていない。二階も同様のようだ。
ただ、唯一一階の奥にある部屋から微かではあるが光を確認できる。
異常な空気を感じながら一誠は足音を立てないように廊下を進んでいく。
開いているドアから顔だけを出して中を覗き込むと、灯りの正体は電灯じゃなくてロウソクのものだった。
「…ちわース。グレモリーさまの使いの悪魔ですけど…。依頼者の方、いらっしゃいます?」
自信のない声を出してみるがそれでも返事はない。
仕方ないので意を決して、中へと入ることにした。
見たところ、どこにでもあるリビングの風景だ。
しかし、視線を壁に向けた途端、一瞬一誠の思考が吹っ飛んだ。
目の前には一つの死体が上下逆さまで壁に貼り付けられている。
体中を切り刻まれ、傷口からは贓物らしきものがこぼれている。
体は巨大な釘で磔にされ、床はすでに血だまりとなっていた。
そして、死体のすぐ横に“everyone who sins is a slave to sin”と血文字で書かれている。
先日のバイザーに食われた犠牲者の方がまだ幾分かマシだとさえ思ってしまうほど、目の前の遺体は無残なものだった。
とうとう一誠は腹から込み上がってくるものを吐いてしまった。
「な、なんだ、これ…」
「『悪いことする人はおしよきよー』って、聖なるお方の言葉を借りたのさ」
突然聞こえてきた声に一誠は振り向いた。
…あれぇ?
3,4話で捌く予定が全然終わる気しない。
どこまで行くんだろ?