第96話 知識の妖精と二人の鬼
場所は永遠亭付近。そこではある一人の青年が永遠亭へ向かっていた。青年を見た一人の少女、鈴仙は彼を見ると笑みを浮かべて中へ案内した。中に案内された少年はある女性の元へ行く。少年を見た女性が口を開く。
「あら、悠岐君じゃない。」
「どうも、ちょっと来てみました。」
「ユニや楓とは一緒ではないの?」
「生憎、楓はユニや魔理沙と一緒に人里へ行ってしまったので、今日は一人です。」
「あら、そうだったの。まぁ輝夜と話をしてゆっくりしていきなさい。」
そう言うと永琳は悠岐を輝夜のいる部屋の前まで案内した。輝夜の部屋の前まで来た瞬間、あることを思い出した永琳が口を開く。
「そういあば、今日は琥珀が来てるわ。少し話でもしたらどうかしら?」
「琥珀?」
「私の昔馴染みよ。話半分で会話するのを勧めるわ。」
「そうか、だったら少し話をするかな。輝夜ー、入るぞー」
ガラガラガラ
「ちょっと琥珀それハメ技でしょ!ふざけてるの!?」
「ハマる方が悪いって。・・・誰?」
そこには見知らぬ子どもとテレビゲームをして遊ぶ輝夜の姿があった。恐らく彼が「琥珀」なのだろう。
ガラガラガラ
襖を閉めると悠岐は汗をかきながら永琳を見て言う。
「ちょっと、今見ちゃいけないものを見た気がするんだが・・・」
「き、きき気のせいよ。ほら、見てみなさい。」
少し不安があるものの、悠岐は再び襖を開けた。
「死になさい琥珀!」
「そっちもハメ技決めてるじゃないか!!」
「勝てばいいよの!勝てば!!」
今度は輝夜がハメ技を決め、少年のキャラに抵抗すらさせずにHPを削っていた
ガラガラガラ
再び襖を閉めると悠岐はさらに汗をかきながら言う。
「気のせいじゃねぇ、間違いなく気のせいじゃねぇ!あいつら話してるんじゃなくてゲームやってんじゃねぇか!!」
「おおお殃禍で疲れているのよ。ほら、見てみなさい。」
「余計に不安なんですけど、またゲームやってそうで不安なんですけど!」
そう言いながらも悠岐は恐る恐る襖を開けた。
「E・HEROネオ〇で攻撃!」
「トラップ発動、魔〇の筒」
「またそれ!?ふざけんじゃないわよ!!」
扉を3度開けると、今度は日本では有名なカードゲームに興じている二人の姿があった。
「もういいや、入るよ。」
そう言うと悠岐は二人の元へ寄り、言う。
「よぉ、二人とも。ゲームの最中悪いんだが、俺は今日琥珀って奴と話がしたくて来たんだが・・・」
「悪いと思ってるなら少し待っててくれない?」
「そうよ。待ってなさい。そろそろ私が大☆逆☆転をするから。」
「はいはい、ワロスワロス。じゃあ古代の機械〇人で止め。」
「あぁぁぁ!?」
話しながら手を動かすことも忘れず、少年の勝利でゲームが終わった。
FXで有り金を全部溶かしたような顔をした輝夜を放置し、少年は顔を向けた。
「はじめまして、僕が琥珀だよ。一応『知識の妖精』をやってます。八意や輝夜とは昔からの馴染みだよ。」
最低でも永琳と同じ年齢であるはずの彼は少年のように無邪気な笑顔を向けた。
「お、おうはじめまして。俺は悠岐だ。ちなみに今やってたゲームは遊○王か?」
「そうだよ。やっぱり現代には面白いものが多いね。僕がいた頃のもなくなってないみたいだし。」
「俺もよく友達とやってたな。おっ、これはE・HEROバ○ルマンだな!」
「あぁ、そのカードね。ヴェー〇ー握ってない方が悪いよね。……で、僕に何のようなの?」
「実は宴会の時に八雲さんに言われたんだが、今後起こる異変の黒幕を知りたい。」
その言葉を聞いた途端、琥珀は先程まで浮かべていた笑みを消し、長年を生きた風格を辺りに漂わせた。
「それが僕で無ければならない理由は?生憎だけど、僕は『知識の妖精』だ。未来を見通すことなんて出来ないよ。」
突然の琥珀の風格に少し焦る悠岐だが口を開く。
「そうだな、すまねぇ。知識があるからっていって未来を見通すことは出来ないよな。」
悠岐が言った瞬間、何かを思い出したのか、輝夜が突然言う。
「私、一人だけ思い当たる奴がいるの。それは琥珀、あなたも知っている筈よ。」
そう言うと輝夜は右手に握りこぶしを作り、再び言う。
「あいつが・・・あいつがいなければ私は今頃月の都にいれたっていうのに!!」
悠岐の言葉に一瞬顔を曇らせた琥珀だが、気づかれる前に顔を戻し輝夜の言葉にツッコミを入れた。
「輝夜がここにいるのは君が蓬莱の薬を飲んだからでしょ?勝手に因縁の相手みたいにしないの。アレでも迷惑でしょーに。」
ゴホン。と彼はワザとらしい咳をして悠岐に顔を向けた。
「さて、ビジネスの話をしようか。」
「・・・結局輝夜の因縁みたいな奴って誰なんだ?」
「あれ。君は輝夜が一方的に因縁の相手と見ているアレの事を知りたいのかな?それともこれから起こる異変の黒幕について知りたいのかな?」
「・・・両方とも知りたい。」
「生憎、お前に払える対価はないんでな、1つにしよう。黒幕を知りたい。」
「そ。なら黒幕について教える対価だけど―――」
琥珀は口を三日月のように歪ませて、言った。
「―――フランドール・スカーレットを連れてきてくれ」
「・・・は?フラン!?」
「そう、フランドール・スカーレットさ。君なら彼女に信用されてるし、簡単だろう?」
「本当に呼んできていいんだな?」
「もちろん。彼女を縛り付ける手立てはあるし、あと3時間ほどで日の出だ。彼女で実験するには事足りる」
「どうしてフランで実験するんだ?」
そう言った瞬間、穏やかだった悠岐の黒い瞳が一瞬にしておぞましい赤い瞳に急変した。
「おお怖い怖い。それにしてもどうしてねぇ、で彼女が1番言いくるめやすいから。かな?」
「俺は嘘をつく奴が苦手でな、そういうパターンはもうお見通しなのさ!」
琥珀は頭に手を当てて、ため息をついた。
「……君には分からないだろうね。知識の妖精は自分が体験したことの無い事でも知識として知っている。つまりは事象Aを行えば事象Bが起こるということを理解している。そんな僕を満たすのは知識では知りえないその過程なんだ。AからBが起こる間に湧き出てくる感情、僕はこれが知りたい。だから僕は―――
」
彼は悪気のない、そんな雰囲気で次の言葉を紡いだ。
「―――吸血鬼であるフランドール・スカーレットを太陽の光で焼き殺した時に起こる感情が知りたいだけだよ」
それを聞いた瞬間、悠岐は瞳を赤くしながら言う。
「お前の言うとおりにしなくて良かったぜ。お前の言うとおりにしていればフランが死ぬところだった。知識を得たいならガイルゴールにでも聞けばいい話だろう。それともお前はなんだ?人の怒りの感情や絶望の感情を知りたいっていう・・・!?」
その瞬間、悠岐の脳裏に突如ある名前が浮かんだ。
エリュシオン
「……やっと送れた。やれやれ、君は随分とガードが硬いね。アレは僕を毛嫌いしてるみたいだから名前を呼ぶだけで呪われるんだよ。それが異変の黒幕さ」
「聞いたことがあるぞ。ユニや霊夢、そして輝夜も言っていた奴だ。」
「私が言っていた奴?まさか!!」
「大正解。流石は輝夜、いい頭してるね」
琥珀はゴホンとまたワザとらしい咳をした。
「名前は分かるんだが、結局奴って何者だ?」
「さて、対価も頂いたしそろそろお
窓から外へ出ようと足を窓枠へかけた時、彼は悠岐の質問にこう答えた。
「それを言うのもダメなんだ。ただ一つだけアドバイスをしよう」
輝夜と悠岐に背を向けたまま指を一本立てた。
「妖怪の山にある何でも屋に行くといい。アレをよく知ってるのがいるからね」
「・・・あぁ、そうさせてもらう。」
「毎度有り。次の利用をお待ちしているよ」
琥珀は背中から漆黒の羽を生み出し、飛び立った。
「行っちゃった・・・まだラストデュエル終わってないのに。」
場所は変わって妖怪の山。そこでは琥珀のアドバイスで何でも屋の元へ悠岐と輝夜が向かっていた。
「そろそろ例の何でも屋につく頃ね」
「あぁ、そうだな。」
そう言うと二人は目の前にある建物を見て足を止める。
「だか――前は――ってんだろ!!」
「はぁ!?そ――て―ぇ――だろうが!!」
建物の外からも聞こえる二つの怒号に輝夜は顔をしかめた。
「・・・中で何してんだ?」
「……考えたくもないわ」
「そもそも考えようとしてねぇだろお前。」
「本当に考えたくもないのよ……。声からして私の恩人かも知れないの……」
頬を少しだけ赤く染めた輝夜は大きなため息を付いた。
「輝夜の恩人?へぇ、そいつがこの中にいるのか。」
そう言うと悠岐は扉をノックし、言う。
「すいませーん!」
しかし聞こえるのは相変わらずの怒号のみ。恐らく聞こえて無いのだろうか……。
「・・・開けてもいいかな?」
「……すきにして」
「分かった、開ける。」
即答すると悠岐はそっと扉を開けた。
扉を開けた瞬間、ナニカがすごい勢いで飛んできた。それは悠岐の額へ吸い込まれるようにクリンヒットした。
それを食らった悠岐は気絶もせず、叫びもしなかった。ただ流れてくる自分の血と飛んできたものに驚いていた。飛んできたもの、それはこけしだった。こけしを見た悠岐は額から流れてくる血を見て輝夜に言う。
「こけしを投げただけで額から血が流れるってあるか?」
「ま、まぁ鬼の全力なら有り得るんじゃない?」
「じゃああそこにいるのは鬼・・・」
「だ、大丈夫ですか!?」
「お客さんか?もうし訳ない!!」
店から出てきた2人は悠岐の傷をみるとそう声をかけた。その2人は頭に角を生やした男女だった。1人は左右に生える小さな二本角が特徴の羽織袴を着た男で、もう1人は額の中心から生える小さな一本角が特徴の浴衣を着た女だった。
「俺が半分悪魔で良かったな。もし人間だったら確実に即死だぞ。」
「死んでもワタシが蘇生は出来るから大丈夫だよ」
女が間髪入れずにそう言った。
「アホか」
その言葉に対して男の方がゲンコツを1発女の頭に叩き込んだ。
「あの~、名前聞いてもいいか?」
「ん、あぁ、悪かったな。名乗らないで」
男の方は悠岐にそう言葉をかけた後にしっかりと立ち直し名乗った。
「俺は百々。伊吹百々だ。宜しくな。んでこっちは―――」
「九十九。星熊九十九だよ。宜しくな、お客さん」
百々の言葉を切るように九十九は悠岐へ名乗った。
「百々に九十九か。俺は悠岐だ。よろしく」
「おう、宜しく。……んで、アンタは一体俺らに何を頼みに来たんだ?」
「あんまり名前を出したくはないんだが・・・」
「エリュシオンについて聞きたいの。」
『エリュシオン』の名を聞いた時、百々は頭に?を浮かべたがそれと反対に九十九は顔をしかめ、唇を強く噛み締めた。
「アンタら、何処でそいつの名を知ったんだい?」
「なぁ、エリュシオンって誰だ?」
「エリュシオンの名前はユニや霊夢、そして
「……そう、か」
「なぁ、だからエリュシオンって―――」
「百々、アンタ確か人里の鈴木さんに頼まれごとしてたよな」
「確かに……されてたが」
「納期が明日までの事忘れてない?」
「…………やっべぇ!」
「二人の話はワタシがやるからアンタは行ってきな」
「悪い九十九、任せた!」
百々はそう言って人里へ向かった。
「……中に入りな、2人とも。茶くらいは出してやる」
「ありがとう」
「悪かったな、アイツを追い払うまで待ってもらって」
店の応接室に2人を案内し、緑茶と羊羹を出し終えた九十九は椅子に座りながらそう言った。
「あぁ、大丈夫だ。」
「アイツには……、百々にはこの話は絶対に聞かせらんないからな……」
「それなりのことがあったのか?」
「あるよ。とんでもないくらい大きな理由がね……」
九十九は力を入れすぎたのか。その両手からは血が垂れていた。
「お、おい九十九?」
「……悪い。力の加減が効かなかった」
それでも彼女は手を拭こうとせず、そのままポツリポツリと百々の話を始めた。
「百々はさ、アタシのこと腹違いのキョウダイだと思ってるんだ。でも、違うんだよ。ワタシとアイツは―――」
九十九は1度言葉を切り、息を整えるように深呼吸をしてから言葉を紡いだ。
「―――同じ存在なんだ」
「お、同じ存在だと!?」
「正確には別世界における同存在ってとこ。元々ワタシはここの住人じゃない。ここによく似たべつの幻想郷出身なんだ。でも、今はその世界は無い。アンタたちが言ってたエリュシオンに滅ぼされたんだ」
自身の世界が滅ぼされた光景を思い出しながら彼女は口を開く。
「世界を滅ぼされた!?」
「そう。何故か知らないけどエリュシオンはさ、百々の事をすごく気に入ってるみたいで、百々と似た存在であるワタシの事が気に食わなかったんだろうね。ワタシのいた世界ごと一緒に滅ぼそうとしたよ」
「そんな、酷い・・・」
「でも滅ぼされる寸前にワタシはあっちの紫がここまで送ってくれて難を逃れたんだ。全ては、エリュシオンに復讐するため、にね」
そう言う九十九の目は先ほどとは違い、闇に染まっていた。
輝夜と九十九と何かしらの関係があるエリュシオン。その秘密とは!?
次作もお楽しみに!