ヴァンの攻撃を食らったクレイジーハンドは何も言わずに地面に倒れる。それを見たユニが思わず口を開く。
「凄いよヴァンさん!あの化身を容易に倒すことが出来るなんて。」
「一応私は元帝王軍でメルト・グランチ様の配下だった。後に私の努力が認められて今はセコンド様や陛下の元で働けている。」
「流石だぜ、ヴァンさん・・・。」
「私は・・・。」
その声が聞こえた瞬間、ユニ達は声がした方向を見る。そこにはヨロヨロになりながら立っているクレイジーハンドがいた。彼を見た魔理沙が口を開く。
「しつこいぞ!!何度立ち上がるつもりだ!!」
「私は、ガイルゴール様のお役に立てるまでだ。それまで私は何度だって・・・。」
続きを言おうとした時だった。突如クレイジーハンドが背後から頭を撃ち抜かれた。
「なっ!?」
クレイジーハンドの頭を撃ち抜いたものがユニと楓の間を通りすぎ、後ろにあった木がメキメキという音を立てながら倒れた。
「クレイジーハンド!」
思わずユニは彼の名前を叫ぶ。そんな中、ヴァンが木が倒れた場所へ行く。そして何かを拾う。
「こ、これは・・・。」
彼の言葉を聞いたユニ達はヴァンの元へ行き、言う。
「どうしたんだ?ヴァン。」
「先程クレイジーハンドの頭を撃ち抜いたのは・・・厚さ15mmの特殊徹甲弾だ。」
「徹甲弾?それは何なんだぜ?」
「鉄といったものを貫くための銃弾だ。だが、こんなに大きい弾は見たことがない。」
「魔理沙、何処かで銃声は聞こえたか?」
「いいや、私のの耳には聞こえなかったぜ。楓はどうだ?」
「私も聞こえなかった。」
「一体誰が・・・。」
一同が話している中、何者かに頭を撃ち抜かれたクレイジーハンドが光となって消えていった。それを見たユニが口を開く。
「クレイジーハンドが、消えていったわ。」
「化身は不死身と言われているからな。恐らく逃げたのだろう。」
「・・・ドウシタノ?カエデチャン。」
唐突にピンが楓に言う。そんな中、楓は死んだ啓介を見て過去を思い出していた。
「こいつはお前にやる。グローブでも何でも呼べ。」
時は数年前。影舷隊の敷地内の狭い部屋で啓介が楓にグローブのようなものを渡した。それを見た楓が口を開く。
「え、いいのか?啓介。これはお前が大事にしてきたものじゃないのか?」
「いいんだ。今の俺にとってこれは小さいし必要ないのさ。それにお前、悠岐達には内緒で手にマメ出来てるの俺知っているからな。」
「なっ、啓介!!」
彼の言葉を聞いた楓は赤面しながら彼の名前を言う。そんな彼女に啓介は笑いながら言う。
「ハハハ。さて、本題だがお前にはもう1つ渡すものがあるんだ。」
そう言うと彼は立ち上がり、部屋の隅に置いてあった刀を手に取り、楓の前に持ってくる。そして刀を抜いて彼女の前で見せる。
「これは・・・。」
「嘗ての影舷隊団長が使っていた二刀流の1つ、氷竜の剣だ。もう1つは悠岐の漆黒の刃。これは今日からお前のものだ。」
そう言うと彼は刀をしまい、それを楓に渡す。それを受け取った楓は呆然となりながら刀を見る。そして啓介に言う。
「わ、私でいいのか?私は女だし、これは啓介が受け取るべきじゃ・・・。」
「いいや、お前だ。何故なら俺はお前に強くなってほしいんだ。」
「えっ?」
「俺はな、楓。お前に悠岐みたいに強い人になってほしいんだ。そしてこの世界を守ってほしい。」
「啓介・・・。」
懐かしい啓介との思い出を思い出している中、悠岐が楓の肩を軽く叩き、言う。
「ヴァンから聞いたよ。啓介は、死んだんだな。」
「・・・ああ、そうだ。」
二人が話している中、ヴァンが何かに気づき、啓介に近付く。そして胸ポケットの中に入っていたものを取り出した。それを見た瞬間、悠岐がヴァンに言う。
「おいヴァン。それは何だ?」
「すまない、二人にはずっと黙っていたことなのだが、実は啓介は密かにルーシーに思いを寄せていたんだ。これは啓介とルーシーの写真が入っているペンダントだ。」
「啓介がルーシーに!?」
「有り得ない、啓介が・・・。」
「あいつはずっとルーシーと共に生きてきた。二人は腐れ縁だったんだ。だが、あの事件によってルーシーの死後、啓介は絶望に陥った。そんな中、啓介は私にこう言った。」
そう言うと彼は口の中に貯まっていた唾を飲み込み、再び口を開く。
「『俺はあいつらを守る。ルーシーを守れなかった分あいつらを守って見せる。』と言った。」
彼の話を聞いていたユニや魔理沙の瞳に涙が流れ始めた。そんな中、悠岐が握り拳を作り、言う。
「啓介、俺は恥ずかしい。影舷隊団長としてお前を守る筈なのに俺はお前を守れなかった。こんな俺を許してくれ。だがな、俺はお前を殺したクレイジーハンドだけでなくこの異変を起こしたガイルゴールにとっては鬼になってやるぜ。啓介、お前の思い、俺が受け取った!!」
と、ヴァンがユニ達を見て言う。
「さぁ、行こう。残すはガイルゴールのみだ。奴を倒せば全てが終わる。」
「ああ、行こうぜ。」
そう言うと魔理沙、ピン、ユニはヴァンの後を追う。と、ユニはあることに気づき、後ろを振り返る。悠岐と楓がまだ移動していないのである。と、楓が悠岐に言う。
「どうしてなんだ・・・どうしてそんな平然としてられるんだ、悠岐!!」
「平然と?何を言っているんだ楓。」
「分からないのか?啓介が死んだんだぞ!!悲しいとも思わないのか!!」
「・・・思わないわけ、ねぇだろ・・・。」
彼が言った瞬間、楓はあることに気づく。悠岐の両手には握り拳が作られていて体が震えていた。と、悠岐が後ろを振り返る。そんな彼の瞳には血の涙が流れていた。そして彼は言う。
「この異変で、誰が死んでもおかしくないとは思っていた。だが・・・だが、何で啓介が死ななくちゃいけなかったんだ!!」
そう言った瞬間楓の目から大量の涙が流れ始めた。それを見たユニも涙を流す。そんな中、楓が悠岐に飛びつき、声を上げながら泣き始めた。彼女に便乗したのか、悠岐も泣き始めた。魔法の森では二人の悪魔の泣く声が響いた。
「マスター、クレイジー・・・。」
無縁塚から幻想郷の様子を見ていたガイルゴールが一言呟いた。そして再び口を開く。
「お前達がこんなに早く負けてしまうとはな・・・。一度目と二度目とは大違いだな。」
そう言った瞬間、ガイルゴールは後ろを振り返る。そこには長身の男二人がいた。二人を見たガイルゴールが口を開く。
「そうとは思わぬか?地王セコンドに帝王メルト・グランチ。」
「この異変もこれで幕を閉じて見せよう、神よ!!」
「卿を倒せば、全てが終わる。容赦なく行かせてもらうよ、ガイルゴール。」
メルト・グランチが言った瞬間、草影から二人の少女と一人の女性が現れた。三人を見たガイルゴールは目を細めて口を開く。
「東風谷早苗、洩矢諏訪子、八坂神奈子・・・。面倒な者を集めたものだ。まぁ、いい。お前達の力、鑑みさせてもらうぞ。」
何者かに奇襲されて力尽きたクレイジーハンド。遂に幻想郷と現世は神ガイルゴールとの戦いに挑む。
次作もお楽しみに!