「こ、ここは・・・。」
目を覚ますとそこには木で作られた天井が広がっており、辺りには竹の香りが漂う。そんな中、布団で寝ていた少女、綿月依姫は辺りを見回す。
「あら、起きたのね。」
聞き覚えのある声が聞こえた瞬間、依姫は咄嗟にある方向を見る。そこにいたのは長い銀髪を三つ編みにしていて特殊な配色の服を着ている女性がいた。彼女を見た瞬間、依姫は布団慌てて起き上がり、彼女の前に膝をついて言う。
「ごっ、ご無沙汰しておりました。お師匠様。」
「こちらこそ久し振りね、依姫。」
久し振りに自分の師匠である永琳に会えたことを依姫は非常に嬉しく思っている。と、依姫が永琳に言う。
「そういえばお師匠様、ここは一体・・・。それとお姉様は?」
「ここは永遠亭。地上の兎達に作ってもらった屋敷で豊姫は隣の部屋で気持ちよく寝てるわ。」
「そ、そうですか・・・。」
「まぁ、それはさておき。依姫、どうして地上に来たの?本来なら都久親王や細愛親王かサグメが行く筈なのに・・・。」
「え?ご存じないんですか?私とお姉様はお師匠様から手紙が届いたので都久親王達に地上への出撃命令が下されたのですよ。」
「おかしいわね、私は月の都に手紙なんて送ってないわ。」
「えっ!?」
彼女の口から放たれた言葉を聞いて依姫は思わず目を見開くことしか出来なかった。そんな中、永琳が再び口を開く。
「もしかしたら何者かが私に成りきって私の代わりに手紙を送ったのかもしれないわね。」
「でも、どうしてそんなことを・・・。」
「依姫や豊姫のようにあの妖怪と土着神と戦わせるつもりだったのだと思うわ。」
「!!」
「幽香や諏訪子は幻想郷の中でもかなりの力の持ち主よ。あなたや豊姫と互角の勝負で戦えるのも頷けるわ。」
「ですが、一体誰がそんなことを・・・。」
「調べていく必要がありそうね。」
場所は変わって玄武の沢。そこではある気配を感じ、すぐさま駆けつけた八坂神奈子がいた。彼女は辺りにいる二人の兵士に気づかれないように身を潜めていた。と、一人の兵士が言う。
「なぁ、聞いたか?ペルセポネ様がやられてしまったらしいぞ。」
「マジかよ、それだったらアヌビス様に懸けるしかないか。」
「そのアヌビス様だけど紅魔館の連中を倒したらしいぜ!」
(!!)
その言葉を聞いて神奈子は目を見開いた。そんな彼女には気づかず、兵士が言う。
「それで、肝心のアヌビス様は今は一体何を?」
「だが、それ以降アヌビス様からの連絡が途絶えた。」
「まさか、アヌビス様まで奴らに・・・。」
「そんなことはねぇさ!アヌビス様はきっと奴らと戦っているだけだ。」
「そうだな。そう信じよう。」
「あ、それとさっきあった連絡なんだが・・・。2番隊の奴らが現世へ行くための道が何者かの結界によって幻想郷から現世へ行けなくなっているらしいぞ。」
「なんだそりゃ。」
「だから数分したら俺達もその場所に行かなければならない。」
「もう行ってもいいんじゃないか?」
「そうだな、行くとしよう。」
そう言うと兵士二人は何処かへ走って行ってしまった。それを見届けた神奈子は玄武の沢の奥へと足を踏み入れる。
「・・・?」
何か不思議に思った神奈子は思わず口を開く。
「何故だ・・・。間違いなくここから気配がする筈なのに。」
そう言うと神奈子は辺りを見回す。と、突然神奈子は普通のと何の変わりもない岩肌を見て違和感を覚える。
「この岩・・・。何か違和感が沸くね。」
そう言うと彼女は岩肌に手を伸ばした。その瞬間、彼女の手が岩の中へと入ってしまったのである。
「!?これは・・・。」
少し慌てたものの、神奈子は冷静を取り戻し、ゆっくりと岩の中へと入っていった。岩肌を抜けるとそこには洞窟のような穴があり、奥は暗くて何も見えない状態だった。
「客かな?」
突然洞窟の奥から声が聞こえた瞬間、神奈子は咄嗟にその方向を見つめる。徐々に足音が彼女に近づく。神奈子は緊張しながら奥を見つめる。と、再び声が響く。
「おやおや、これは・・・。」
奥からやって来たのは長身で後ろ髪を束ねていて悠々とした歩き方で両腕を背に回している男だった。男は神奈子を見て口を開く。
「こうやって卿と言葉を交えるのは初めてだな。八坂神奈子。」
「私も、あんたと話すのは初めてだ。メルト・グランチ。」
メルト・グランチ。嘗て幻想郷を支配しようと企んでいた帝王だが霊夢達の手によってそれを打ち砕かれた。と、メルト・グランチが神奈子に言う。
「正直驚いたよ。私の推測であればここへ始めに来るのは八雲紫だと思っていたがまさか卿だとはね。」
「何故あんたは再びここへ?まさか再び幻想郷を支配するつもりなの?」
「まさか。カオスがいる状況の中で私までも支配すると?」
「では何のために?」
「ただの物見遊山だとも。帝からの命令により幻想郷の監視を任されたのだが、この状況ではねぇ。」
「・・・。」
「本来会う筈のない者達の被害を減らすのも、カオスの軍勢達を現世へ浸入させなくするのも一苦労だよ。」
「まさか、現世への道を塞いだというのは!!」
「そう、この私だ。風見幽香と綿月依姫が戦う際に結界を張ったのも私だ。」
「何故幻想郷を支配しようとしたあんたがこのようなことを・・・。」
「単純な話だ。この世界を壊したくないからだ。」
「!?」
「何だね?私の発言がそんなにも奇想天外なことだったかな?」
「いや・・・。あんたらしくないと思ってな、ついつい驚いているよ。」
「まぁ、仕方あるまい。2年前を考えればそう思ってしまうのも無理もない。」
「帝王殿、私達に・・・いや、幻想郷に力を貸してくれないか?この世界を救うためには貴殿のような王の力が必要なんだ。」
「極力力は貸す。卿も少しは誰かの力になれるようにしたらどうかね?」
「・・・そうだね。私も他の者の力になれるようにせねばならないね。」
そう言うと彼女は洞窟を飛び出し、何処かへ飛んで行ってしまった。それを見たメルト・グランチは笑みを浮かべて言う。
「さて、私も準備しなければならないな。さぁ、忙しくなる。」
そう言うと彼は洞窟の奥へ行ってしまった。
幻想郷に再び現れた帝王梟雄メルト・グランチ。だが彼の目的は幻想郷の支配ではなかった。
ついにユニ達はカオスと対峙する。次作もお楽しみに!