「ふぁぁ、良く寝た。」
体を布団から起こし、背伸びをして起きたのはユニだった。布団から起き上がったユニは外を見た瞬間、目を大きく見開き、言葉を発する。
「・・・まだ夜だ。」
外は月の光で薄暗いような明るいような光景だった。そんな中、彼女の目にあるものが入った。
「・・・悠岐君?」
彼女は言葉を発する。彼女の目線には神社に腰をおろし、満月を眺める悠岐がいた。ユニに気づいたのか、悠岐は彼女の方を見ると笑みを浮かべて言う。
「起きたのか、ならこっち来いよ。」
そう言うと彼はユニに隣に座るように手招きをした。それを見たユニは霊夢を起こさないように移動し、悠岐の隣に腰をおろした。と、悠岐が口を開いた。
「なぁ、ユニ。俺の話を聞いてもらってもいいかな?」
「悠岐君の話?」
「いや、無理して聞かなくてもいいんだ。」
「ううん、大丈夫よ。話してくれるかしら?」
「じゃあ改めて話すな。」
そう言うと彼は一呼吸して口の中に溜まっていた唾を飲み込み、口を開いた。
「実は俺と楓にはもう二人仲間がいたんだ。その二人も俺達と同じ、半人半悪魔だった。」
「半人半悪魔って四人もいたんだね。」
「まあな。それで俺が今話すのは男のほうだ。あいつの名前はマイン。あいつは優秀な能力を持っていてな、四人の中でも強い方だった。」
「マイン君の能力って?」
「『言葉を現実化させる程度の能力』」
「言葉を現実化させるってことは・・・。」
「つまり、具現化だよ。あいつは強かった。」
「へぇ、一度会ってみたいわ。」
「ユニ、それは二度と叶わない夢だ。もうあいつはこの世にいない。」
「えっ?」
「あいつは・・・あいつは俺達を守るために冥狼神アヌビスに一人立ち向かい、そして命を落とした。」
「・・・・・」
その瞬間、悠岐は部屋の方へ寝そべり、目を右腕で覆い隠した。彼の目から何かが零れていたのに気づいたユニはその場所を凝視する。流れていたのは涙は涙でも、血の涙だった。と、悠岐が言う。
「俺は・・・俺はあいつを守ってやれなかった。何故あそこで二人を連れて逃げてしまったんだ・・・。あの時俺もマインと共に奴と戦っていたなら、あいつは死なずに済んだのに・・・。」
彼は途切れにしゃっくりをしながら話した。そんな彼の右腕は血の涙でいっぱいだった。
「!?」
と、悠岐が左手に何か違和感を感じ、左手を見て目を見開く。彼の左手をユニが握っていたからである。そんな彼女に悠岐が口を開く。
「ユ、ユニ。お前・・・」
「分かるよ、悠岐君。あなたの手から伝わる彼に対する思い、温もりが・・・。」
「わ、分かってくれるのか?」
「えぇ、分かるわ。」
「・・・ありがとう、ユニ。少し気分が楽になったみたいだ。」
「それな何よりだわ。楽になってよかった。」
そう言うと彼女は悠岐にニコッと笑顔を見せた。その瞬間、悠岐の顔が赤くなり始めた。照れているのだとユニは察した。そして言う。
「悠岐君、顔を洗ってきたらどうかしら?血の涙であなたのお顔が汚れてるわよ。」
「え?あ、あぁそうだな。ちょっと洗ってくる。」
そう言うと彼は洗面台へ行き、顔を洗いにいった。そんな中、ユニが独り言を呟いた。
「・・・楓ちゃんにもう一人のこと聞こうかな。」
気がつくと自分は布団で寝ていた。そんな中、彼女を見ながら霊夢が言う。
「あんた、昨日何してたのよ。」
「いや、悠岐君がここに座って月を眺めてたから一緒に眺めて話してて悠岐君に顔を洗いに行かせて気づいたら寝てたって感じかな?」
「・・・何よそれ。」
「どうやら悠岐君、眠くなってそのまま寝ちゃったみたいね。」
「・・・・」
二人が話している中、呑気な笑顔で悠岐が起きてきた。そして二人に言う。
「おはよう!ってお前らなんか変な顔してるがどうした?」
「・・・いや、気にする必要もないわ。気にしないで。」
ユニの言葉を聞いて悠岐は少し躊躇いがあるものの、気にしないでおくことにした。
「おーい、ユニ!」
突如鳥居の方から少女の声が響いたため、三人はその方向に目を向ける。そこには腰まで伸びる黒髪、赤く染まる目に冷気が漂う刀を腰にかける少女、楓がやって来た。そして言う。
「人里に妖怪が現れたらしい。急いで退治に向かおう。」
「何ですって!?急ぎましょう。」
「魔理沙は先に向かった。恐らくあの妖怪は一人で倒せる相手じゃない。」
そう言うと霊夢とユニは空に舞い上がり、人里へ向かった。悠岐と楓は走って人里へ向かった。
「はぁぁぁぁぁっ!」
「くらいやがれ!!」
人里では魔理沙と慧音が異変を駆けつけて突如現れた妖怪と戦っていた。二人が戦っているのは全身が黒い肌で覆われており、背丈は2mほどでジャッカルの頭をしていて青い目をしていて黒い杖を持っている妖怪である。妖怪は魔理沙と慧音を見て言う。
「愚かな・・・。たかが人間と半人半獣の分際でこの私を倒すと言うのか。」
「当たり前だ。貴様は人里の人達を襲った。そんな貴様を許しはしない!」
「舐めてると痛い目に会うぜ。なんせ私は妖怪退治専門の霧雨魔理沙だからな!」
「妖怪退治専門か・・・。くだらぬモノだな。」
「慧音、魔理沙!」
二人の元へやって来たのは先程楓から連絡を受けた霊夢とユニだった。そんな中、ユニが妖怪に言う。
「あなた、妖怪じゃなさそうね。」
「えっ!?」
ユニの言葉を聞いて三人は驚きを隠せなかった。そんな中、ジャッカル男が口を開いた。
「人間と半人半獣は気づいていなかったようだが、お前はよく気づいたな。私は冥狼神アヌビス、カオス様の命令により幻想郷をいただく。」
「なんだと!?」
「そのために、まず邪魔なお前達を排除するまでだ。」
「そんなことはさせない!幻想郷の守護者である私があなたを退治する!」
「さて、すぐに終わりに・・・!?」
アヌビスがユニ達に攻撃しようとした時だった。突如背後から気配を感じたアヌビスは後ろを振り返り、杖で攻撃を防ぐ。後ろから攻撃を仕掛けてきたのは悠岐だった。彼の目は既に赤く染まっていた。そんな彼とは別にアヌビスが口を開いた。
「久しぶりだな、小僧。」
「あぁ、久しぶりだなアヌビス。テメェに会いたくてウズウズしていた。テメェを殺したくてな!!」
悠岐が叫んだ瞬間、彼の後ろから楓が飛び上がり、刀を降り下ろす。
「何っ!?」
杖は悠岐の攻撃を防いでいるため、アヌビスはどうしようもなかったように見えた。だがアヌビスは空いている左手で楓の攻撃を受け止めた。
「なっ!?」
「甘いな、小娘。」
そう言うとアヌビスは悠岐と蹴り飛ばし、楓を殴り飛ばした。
「ぐっ!!」
「がはっ!」
二人は同時に霊夢達の元へ飛ばされ、三人の目の前で止まった。そんな中、アヌビスが口を開いた。
「その程度では私を倒すことなど出来まい。私はそろそろ失礼させてもらう。また暇があったら殺り合おう、小僧、小娘。」
その瞬間、アヌビスの姿が一瞬にして消えた。そのまま霊夢達は倒れ込む悠岐と楓の元へ行き、言う。
「大丈夫?悠岐。」
「楓、大丈夫か?」
「大したことはない。」
「問題ない。」
とは言うものの、二人が強がっていることは三人とも理解した。何故なら二人はまだ多少血を吐いている。
「おや?君達がここにいるなんて珍しいね。」
突然声をかけられたため、五人は同時に声の方向を見る。そこには眼鏡をかけていて白髪に青い服を着ていて何冊か本を持っている青年がいた。そんな彼に魔理沙が言う。
「香霖じゃないか!」
「やぁ、魔理沙。ん?君は悠岐君だね?啓介君からある程度は聞いてるよ。」
香霖は悠岐の方を見て彼に言う。悠岐もそれに答えるために口を開いた。
「やぁ、霖之助さん。啓介が世話になったな。」
「それにしても血を吐いているけど、大丈夫かい?良かったら香霖堂まで運ぶけど?」
「ありがとう、そうさせてもらうよ。」
そう言うと悠岐は霊夢と慧音に肩を借りながら歩き、楓は霖之助に背負ってもらいながら香霖堂へ向かった。
人里に現れた冥狼神アヌビス。果たして目的とは!?
次作もお楽しみに!