「そんな・・・」
霊夢は自分の目に映っている光景に絶望した。それは昨日見た夢と同じで目線に薄暗く、王が座るような玉座が置いてある。そして右側にはうつ伏せで倒れている咲夜、左側には仰向けで倒れている魔理沙がいた。そんな中、自分の目線に現れたのは身長4mほどで大きな翼を持っていて太い腕が2本、細い腕が2本ある男、いわゆる悪魔が傷だらけの妖夢を片手で摘まみ上げている。そして男は信じられないくらい大きな口を開くとそのまま妖夢を口の中へ入れ、ゴクンという音を立てて彼女を丸のみした。
「ひっ!」
思わず声を発する霊夢。彼女に気づいたのか、悪魔の男はゆっくりと霊夢の元へ歩み寄る。
「いやっ!」
霊夢は声を上げて逃げようとするが足が言うことを聞かず、動かなかった。そして悪魔の男は霊夢の目の前まで来るとニヤリと不気味な笑みを浮かべた。
「あぐっ!?」
その瞬間、男の右の細い手が霊夢の首を締め上げた。霊夢は男の右腕から逃れようと両手で男の手首を掴み、抵抗するが鉄のように硬く、放れなかった。
「フフフ。」
男は苦しむ霊夢の顔を見て笑うと彼女の体を軽々と持ち上げた。
「ぐ、あぁ・・・」
宙吊りの状態になっている霊夢は足をばたつかせるが何も起こらなかった。
「うわぁぁぁぁっ!」
気がつくと霊夢は自分の布団にいた。そして今自分は布団から勢いよく起き上がっていた。
「もう、嫌っ!」
霊夢はゆっくりと隣に目を傾ける。そこには寝息を立てて眠っているユニがいる。その後に彼女は隣の部屋で寝ている悠岐のいる部屋の襖を開けた。そこにはユニと同様、寝息を立てて寝ている悠岐がいた。
「はぁ、どうして私だけこんな夢を見るのよ・・・。もう普通に寝たいのにっ!」
そう言うと霊夢は再び布団に潜り込み、眠ろうと試みた。だが先程の悪夢がトラウマになったのか、結局霊夢は寝ることが出来なかった。
悠岐とユニが起き、食事の支度を始めると霊夢はゆっくりと布団から起き上がり、テーブルに腰をおろした。そして悠岐とユニが食事をテーブルに乗せた時、二人は霊夢の顔を見て目を大きく見開いた。何故なら彼女の目は虚ろな感じになっており、目の下にはクマが出来ている。そんな彼女にユニが言う。
「霊夢、大丈夫?少し寝てたほうがいいんじゃない?」
「俺もユニに賛成だな。霊夢、お前はもう少し寝てていいぞ。飯はここに置いておくからな。」
「えぇ、ありがとう。そうさせてもらうわ。」
そう言うと霊夢は再び布団に潜り込み、すぐに寝息を立てて眠ってしまった。その後、悠岐とユニは黙って朝食を済ませると外に出て神社の掃除を始めた。と、神社に腰をおろすユニが悠岐に言う。
「霊夢、どうしたんだろうね。」
「悪夢でも見たんじゃないのか?それなら俺は半分悪魔だから夢を消せるんだけどな。」
「楓ちゃんは『毎日続くようであればすぐに誰かに相談する方がいい』って言ってたけど、すぐに消してもらわないといけないよね?」
「予知夢になる可能性が高いからな。今夜確かめて悪夢だったらすぐに消すとするよ。」
「そうだね、それが一番最適ね。」
と、二人が話している内に一人の少女がやって来た。腰まで伸びる黒髪に赤い目を持つ少女、楓がやって来た。が、彼女の隣に魔理沙はいない。それに気づいたユニが楓に言う。
「楓ちゃん、魔理沙は?」
「魔理沙は昨日不可解な夢を見て夜中に目が覚め、そのまま眠れなくなったらしい。だから今日は寝込んでるよ。」
「奇遇ね、今霊夢も寝込んでるよ。昨日何があったのか分からないけれど。」
「楓、奴の仕業の可能性が高い。魔理沙にも伝えておけ。」
「あぁ、分かった。」
「ねぇ、二人とも。奴っていうのは?」
「あぁ、奴っていうのは・・・」
「れーいーむぅー!」
悠岐が言おうとした瞬間、神社の鳥居の方から少女の声が響いた。それに気づいた三人は同時にその方向へ目を向ける。三人の目線に写ったのは桃が乗っている帽子を被り、青い髪をして腰に刀をかける少女がいた。少女は三人を見ると急に立ち止まり、三人を凝視しながら悠岐に言う。
「悠岐、この二人は?」
「こいつが俺と同じ半人半悪魔の出野楓、そしてこいつが八雲さんに幻想郷の守護を任された人間、ユニだ。」
「へぇ。それで、霊夢はどうしたの?」
「あいつは神社で寝てるよ。昨日は全然眠れなかったらしい。」
「霊夢らしくないわね、つまんない。」
悠岐と青い髪の少女が話してる中、楓が悠岐に言う。
「悠岐、あいつは誰だ?」
「あいつは比那名居天子。有頂天に住む総領娘さ。」
「つまり、天人か。」
「そうだ。」
悠岐と楓が話している中、天子が楓を指差しながら言う。
「あんた、私の遊び相手になりなさい。」
「・・・・は?」
「私、暇なの。有頂天にいても何もやることがない。だから私の遊び相手になってちょうだい。」
「『遊び相手』ということは、戦えって私に言っているのか?」
「それ以外考えられることはあるか?」
「・・・・ない。」
そう言うと楓は冷気が漂う刀、氷龍の剣を右手に持ち、戦う構えをした。天子も同様、非相の剣を両手で持ち、戦う構えをする。まず攻撃を仕掛けたのは天子だった。彼女はスペルカードを取りだし、発動する。
「霊想『大地を鎮める石』」
天子の放った攻撃が楓に向かっていく。だが楓はその場を動こうとしない。そして楓の目の前ま攻撃が来た瞬間、楓はスペルカードを取りだし、発動した。
「反射『自業自得』」
その瞬間、天子の放った攻撃が楓の目の前で止まった。そして攻撃は天子の元へ向かっていく。
「えっ、ちょ・・・・」
天子は咄嗟に反応することが出来ず、先程自分の放った攻撃を食らった。そんな中、楓が口を開いた。
「まさか弾幕を操れる私に弾幕を放ってくるとはな。少し驚いたぞ、比那名居天子。」
煙が上がっている中、天子はヨロヨロとなりながら楓に近づいた。そして笑みを浮かべながら言う。
「いいわね、もっとやりなさい。」
「へ?」
「どうしたの?躊躇わないでもっとやりなさいよ。」
「じ、じゃあ遠慮なくやらせてもらう。」
そう言うと楓は氷龍の剣を天子の尻に殴り付けた。その瞬間、彼女は微笑みながら叫ぶ。
「もっと、もっとよぉ!!もっとやってちょうだぁぁい!」
この瞬間、楓は錯覚した。
(こいつ・・・ドMだ・・・)
そして楓は氷龍の剣をしまうと天子に背を見せて言う。
「私は遠慮しておくよ。このままお前をやり続けるとお前を殺してしまうからな。」
そのまま楓は霊夢のいる神社の中へ入っていった。その姿を天子は黙って見ていた。そんな彼女に悠岐が言う。
「あいつは初対面のマゾは殺さないから安心しな。」
「つまんない人ね。もっとやってもらいたかったわ。でもいいや、十分満足したし。」
そう言うと天子は何処かへ飛んでいってしまった。二人は天子を見送ることなく、神社の中へ入っていった。
中に入ると霊夢は楓と何か話していた。そんな二人にユニが言う。
「霊夢、楓ちゃんと何話してたの?」
「昨日の夜のことだ。どうやら悪夢を見ているようだ。」
「今夜消すか?」
「悠岐お願い。速く消して。」
霊夢は悠岐の首襟を掴みながら言う。そんな彼女に悠岐は霊夢の両手首を掴み、言う。
「分かった。」
そして夜が訪れ、楓が魔理沙の元へ帰った後、悠岐とユニは霊夢の枕元で座り、霊夢を見守る。彼女は既に眠っていた。
「もう、いやだ・・・」
あの光景が再び目線に写る。薄暗く、王が座るような玉座が目線にあり、右側にはうつ伏せで倒れている咲夜、左側には仰向けで倒れている魔理沙がいる。そして自分の目線に現れる身長4mほどで細い腕と太い腕をそれぞれ二本ずつ持っている大男、悪魔が片手で傷だらけの妖夢を摘まみ上げている。そして信じられないくらい大きな口を開き、彼女を口の中へ入れるとゴクンという音を立てて彼女を丸のみした。
「ひっ!」
同じことを二度も見ているのに彼女は何故か声を上げてしまう、そして悪魔の男がゆっくりと近寄る。
「嫌っ!」
逃げようとするが足が言うことを聞かず、動かない。そして目の前まで来るとニヤリと不気味な笑みを浮かべる。
「あぐっ!?」
その瞬間に右の細い手で首を締め上げられる。抵抗するが鉄のように硬く、放れない。そして体を軽々と持ち上げられる。
「ぐ、あぁ・・・」
そのまま意識が遠くなりかけた時だった。突如悪魔が苦しみだし、霊夢の首を放してしまう。そして彼女はそのまま地面に落ちていく。
「いやっ!」
「霊夢、霊夢!!」
ユニの叫び声に霊夢ははっと目を覚ます。彼女は身体中汗だくになっており、ユニの手をぎゅっと握っていた。
「ユ、ユニ。私・・・」
「やっぱり悪夢を見てるのね。ずっと魘されてたわよ。」
「ゲホッ、ゲホッ。」
と、奥から誰かが咳き込む声が響いたため、霊夢はその方向へ歩み寄る。そこには地面に血を吐きながら咳き込む悠岐がいた。そんな彼に霊夢が言う。
「悠岐大丈夫!?」
「あ、あぁ大丈夫だ。それよりも、こいつを見てくれ。」
そう言うと彼は右手に持っていたものを二人に見せる。それは直径20cmほどの黒い玉であり、所々に悠岐の吐いた血が付着する。そんな中、悠岐が言う。
「これが、霊夢に悪夢を見させていた元凶。そしてこいつを見させていたのはカオスだ。」
「カオス?」
霊夢とユニは同時に声を発する。そんな二人に悠岐が言う。
「話すと長くなるが、それでもいいか?」
「勿論。」
「いいわよ。」
「分かった。それじゃあ話すぞ。」
霊夢を苦しめていたカオスとは一体何者なのか!?
次作もお楽しみに!