東方混沌記   作:ヤマタケる

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テルヒの部屋へと入ったユニ達はテルヒと対峙し、百々は彼との戦いに挑む。


第165話 弱点

まるで棘が刺さっていないかのようにテルヒは平然と百々に近付いていく。そんなテルヒに驚く表情も見せずに百々が口を開く。

 

「面倒だし、ぶっちゃけ使いにくいぞこの能力。どうせならもっとシンプルな能力が欲しかったな。」

 

そう言いながら百々もまた、テルヒへと近づいていく。と、テルヒが百々を見たまま言う。

 

「さぁ、百々よ。次は何を再現してくれる?」

 

「うーん、そうだなぁ・・・。なら、こんなのはどうだ?再現、白狼天狗。」

 

「白狼天狗か。裏の世界で一体何匹狩ったことやら。」

 

「まだまだ重ねるぜ?追加再現、鴉天狗。」

 

「ほう、重ねられるのか。それは初耳だな。だが、それで私に勝てると思ったらそうでもないぞ?」

 

2人が話している中、霊夢と楓が冷や汗をかきながら言う。

 

「アイツ、初耳って言ってるのになんで笑顔でいられるのよ!?あの狼は何を考えているの?」

 

「私もそれは思う。アイツほど何を考えてるのか分からないヤツは初めてだ。これはきっと厳しい戦いになる。」

 

二人が話している中、百々が急に走り出し、テルヒに言った。

 

「行くぜ、準備はいいか?」

 

「ククク、来い。」

 

そう言って自分に向かって走ってくる百々を見てテルヒは歩くのをやめ、止まった。

 

「ドラァッ!」

 

無事であり、ヒヒイロカネへと変化している左腕を大きく振りかぶり、テルヒへと向けて放った。彼の放った攻撃はテルヒ顔に命中し、折れたテルヒの歯が一本血と共に吹っ飛ぶ。それを見た魔理沙が驚きながら言った。

 

「なっ、アイツ、どうして百々の攻撃を避けなかったんだ!?」

 

驚く彼女とは別に百々はテルヒに向かって言う。

 

「さぁ、来いよ。首輪付けて飼い慣らしてりゃる!!」

 

「・・・噛んだ?」

 

「噛みましたね。」

 

「締まらないねぇ・・・。」

 

噛んでしまった百々を見て呆れてしまう九十九と暁と琥珀。と、テルヒが不気味な笑い声をあげて言う。

 

「クククククク、それは一体何割の力を使った?」

 

「何割、か・・・。なぁ、何割って何だ?」

 

言葉の意味を理解できない彼を見てテルヒの顔に浮かんでいた不気味な表情から呆れた表情に変わり、ため息をついた。その後に口を開く。

 

「やれやれ、聞いた私が愚かだったようだ。エリュからあらかじめ聞いておいたのだが、案外弱くなったな、百々。その程度で私に勝つつもりか?」

 

そう言うとテルヒは頑張って考える百々に背を向け、後ろ足で百々に蹴りを入れた。

 

「あだっ!てめぇ、せっかく人が頭捻ってる時に攻撃しやがって!」

 

「・・・ごめん、多分割合のことが分かってないんだと思うの。」

 

九十九がテルヒにそっと言った。それを聞いたテルヒは少し残念そうに言った。

 

「エリュの言う通り、お前は知能不足のようだな。ただ力任せに私に勝とうなど、勝負を甘く見ているな?」

 

「あぁそうだよ!頭脳労働は九十九担当だからな!俺はお前をぶっ飛ばすだけだ!」

 

「やれやれ、困ったものだ。」

 

そう言うとテルヒは飛び上がり、百々の背後に移動する。

 

「っと、背後は取らせないぞ。」

 

背後を取られないように鴉天狗の翼を使い、空へと逃げる百々。

 

「天狗狩りは得意だ!」

 

そう言うとテルヒは逃げようとする百々に向かって飛び上がり、彼の足に噛みついた。

 

「こちとら、天狗じゃなくて鬼なんだよ!再現、ビックフット!」

 

噛みつかれた足が突如として大きくなった。

 

「ゴリラか!ならこうすればよい!」

 

そう言うとテルヒは体を大きく揺すり始め、その勢いでさらに飛び上がって百々の小さな背中に飛び乗った。

 

「ビックフットはゴリラじゃなくて雪男だよ〜。・・・まぁ聞こえないか。」

 

「あんなデカい図体して百々の背中に飛び乗れるのかよ!!?」

 

ボソッと呟く琥珀とは別にテルヒの行動を見て驚く悠岐。そんな中、百々がテルヒに言う。

 

「翼を引きちぎりに来たか!させるかよ、再現解除!」

 

「・・・待て百々!狙いは翼じゃない!!」

 

「え、まじ?」

 

「その通りだ。わざわざ解除してくれるとはありがたい。」

 

影裏が急いで言うも一歩遅く、テルヒは落ちていく百々の首元に噛みつき、地面に叩きつけた。

 

「百々君!!」

 

「狙いは、首か・・・。だい、じょうぶだユニ。俺は死なねぇからな。」

 

彼を心配するユニに安心させるように言う百々。そんな中、テルヒが彼に近付きながら言う。

 

「愚かだな、百々。昔のお前ならこれくらいは分かっていたはずだ。」

 

そう言うとテルヒは百々の傷口である左肩を右脚で踏みつけた。

 

「グッ・・・。」

 

「今のお前の実力を知ればエリュはさぞかしがっかりするだろうな。この程度でやられるお前を、エリュならば目をつけないだろう。」

 

そう話しながらテルヒは傷口を踏む力を徐々に強くしていく。そんな彼に百々が言う。

 

「テ、テルヒ・・・。お前は一つ忘れてる・・・。」

 

「・・・?」

 

「俺は、あん時とは知識量が違うんだよ!!再現、天邪鬼『鬼人正邪』」

 

「ぬ、させぬぞ!!」

 

百々が力を発揮しようとする前にテルヒは咄嗟にもう片方の足で彼の顔を踏みつけた。踏みつけてテルヒはふとした、違和感を覚えた。先程まであった右脚の感覚が無くなっているのだ。

 

「これは・・・?」

 

「悪いな、テルヒ。お前のケガと俺のケガ、『ひっくり返し』たぜ?」

 

顔から何か細いものに突き刺されたような怪我をした百々がそう言いながら笑った。そんな彼とは別にテルヒは後退し、冷静に口を開いた。

 

「面倒だな。これでは私が不利になるではないか。」

 

そう言うとテルヒは頭をグルグルと回転させ始めた。すると、頭の中からコロンと音を立てて地面に何か落ちた。

 

「な、なんじゃありゃ・・・?」

 

「・・・よく、分からない。」

 

落ちたものを見て首を傾げる魔理沙と九十九。そんな二人とは別にテルヒがクスクスと笑いながら言った。

 

「エリュが予備に、とくれたのだ。」

 

そう言うとテルヒは地面に落ちた何かを食べ始めた。

 

「・・・もしかして回復薬か?」

 

「あれはまさか!!?」

 

「知っているのか雷電!!」

 

百々、楓、暁が言った後にテルヒがゆっくりと口を開く。

 

「即時回復の薬。これを服用すればどんな重傷を負ってもすぐに完治することが出来る。」

 

「・・・啓介がくれたのと同じだ。確かあれは少しだが服用した者を強化させる作用もあったはず・・・。」

 

「何ですって!?」

 

「おいおいおい、せっかく『ひっくり返した』のにやり直しか!?もういっそのこと戦いへのやる気を『ひっくり返す』か?」

 

楓の一言を聞いて驚く霊夢とは別にテルヒは足を構えて言う。

 

「生憎だが我々幻獣達の意思は全てエリュによって管理されている。エリュを倒さねばその能力は通用せんぞ!」

 

そう言うとテルヒは百々に向かって走り出した。

 

「さっきより速いぜ!?」

 

「『ひっくり返・・・っと、ヤベェ間に合わない!」

 

先程より速くなったテルヒを見て驚く魔理沙。ひっくり返そうとした百々であるが既にテルヒは彼の目の前まで迫っており、そのままテルヒは百々に突進を食らわした。突進を食らった百々は勢いよく壁に叩きつけられる。

 

「グホッ・・・。さっ、きよりも威力が、上がってる。」

 

「休んでいる暇はないぞ!」

 

再びテルヒは百々の元へ走っていく。

 

「ちっ!居場所を『ひっくり返す』!!」

 

「チッ。」

 

急ブレーキをかけ、テルヒは百々のいる方へと顔を向ける。

 

「・・・再現解除。」

 

「少しだけだが強化された私から逃れるとは大したものだ。」

 

「事前に、お前の話を聞いておいてよかった。」

 

「・・・何を言っている?」

 

突然不可解なことを言い出した百々にテルヒは目を細めて言った。そんな彼に百々が再び言う。

 

「九十九から話は聞いていたんだよ。・・・本当は使いたくなかったんだが、仕方ないか。」

 

百々はそう言って懐から1本のペンを取り出した。それは、一般的に『Gペン』と呼ばれるものだ。」

 

「まさか・・・!!?」

 

そのGペンを見た瞬間、テルヒの表情が変わった。

 

「付喪再現は、道具に宿った記憶を再現する。九十九からお前がこのじーぺんの持ち主に手も足も出なかったことは聞いてんだよ!」

 

「チッ・・・。」

 

舌打ちをするテルヒの顔に汗が流れており、どこか焦っているような感じになっていた。それを見た影裏が口を開いた。

 

「あの野郎、さっきまであんなに威勢を張っていたのに急に焦り始めたぞ?一体どういことなんだ?」

 

「事情は後で説明するぜ影裏。さぁ、行くぞテルヒ。反撃開始だ!」

 

そう言うと百々の持つGペンが宿った記憶を頼りに動き、どんどん仲間を描いていく。

 

「・・・こんな時のエリュだったな。」

 

そう言ってテルヒは一呼吸置くと百々に向かって走り始めた。

 

「ブロック展開!」

 

「チッ!」

 

目の前に展開されたブロックをテルヒはすかさずに避ける。

 

「そこだ!いけ重力バリア!」

 

「ぐっ!?」

 

百々によって展開された重力バリアに引っ掛かり、テルヒの動きが鈍くなった。

 

「これがGペンの持ち主の力・・・。」

 

「君ならやれると思ったよ、百々君。」

 

ユニと琥珀が彼の戦いを見て言葉を発する中、百々は立て続けに攻撃を仕掛ける。

 

「落雷よ!」

 

「ぐあっ!!」

 

重力バリアの中では思うように身動きが取れずにテルヒは百々の放った落雷を食らう。

 

「かっちょいいぜ百々!」

 

「本当ですね!」

 

魔理沙と暁も思わず笑顔を浮かべる。

 

「追撃だ、いけターバンズ!!」

 

Gペンより描き出された少年達がテルヒへ向かい、攻撃を仕掛ける。

 

「・・・。」

 

何も言葉を発さずにテルヒは彼の放った攻撃を受ける。

 

「・・・テルヒ、が何もしない?」

 

「今がチャンスだ!いけ、百々!!」

 

少し警戒して様子を伺う九十九と百々に言葉を投げかける楓。彼女の言葉を聞いて百々が口を開いた。

 

「・・・あぁ。籠よ、あの者を捕らえろ!」

 

少年達から放たれた籠はテルヒを捕らえ、そのままテルヒは籠に閉じ込められた。

 

「・・・諦めたのか?」

 

「随分とすんなりだねぇ、テルヒくん。」

 

これまた様子を伺う悠岐とテルヒを捕らえた籠の目の前に移動した琥珀がそう声をかける。それをスルーしてテルヒが口を開いた。

 

「フフフ、見事なものよ百々。」

 

そう言うとテルヒは籠の中で寝る体勢に入った。その瞬間、ガチャリと何処からか音がした。

 

「誰!」

 

「今の音は?」

 

咄嗟に音のしたほうを警戒する九十九と霊夢。そんな中、テルヒがある方向へ顔を向けて言った。

 

「行け、もう私に戦う理由などない。」

 

「先に行くための扉が空いたのか!」

 

「そうみたいですね。」

 

「そうか、テルヒを倒したから先へ行けるようになったのか。」

 

悠岐、暁、影裏が話している中、百々がテルヒのいる籠の前に行き、言う。

 

「・・・テルヒ、そこで待ってろよ。エリュシオンを倒して、お前に首輪をつけてやるからな。」

 

「フフフ、少しの気遣い感謝するぞ。だが一つ警告しておこう。」

 

「・・・何?」

 

彼の言葉を聞いて目を細める九十九。そんな彼女含め、部屋にいる全員にテルヒが言った。

 

「エリュは強いぞ、お前達の想像する何百倍もな。」

 

「何百も、か・・・。」

 

テルヒの一言でエリュシオンの底知れぬ強さを察する楓。そんな彼女とは別に百々と九十九が言う。

 

「分かってる。それでも、やらなきゃいけないんだ。世話になった俺がな。」

 

「その通り。私も親友が世話になったんだ。お礼参りくらいはしないとね。」

 

「覚悟はできているようだな、ならばこの先の道は行け。それと百々、お前に頼みがある。」

 

「なんだ?」

 

そう言ったものの、テルヒは百々に何かを言いたそうにしているが少し躊躇っている。そしてテルヒは決心したかのように表情を切り替えて言った。

 

「あの子に・・・あの子に会ってやってはくれないか?お前ならあの子が何処にいるか微かに覚えているはずだ。あの子は、お前のことを何十年、いや何百年も待っている。」

 

「・・・下、だよな。」

 

「あぁ、そうだ。あの子ならお前達をエリュの部屋まで案内してくれるはずだ。」

 

「あの子?」

 

「昔の知り合いだよ。分かった、任せろ。ただーーー」

 

ユニに軽く説明した百々はテルヒを捕らえていた籠を消した。

 

「!?」

 

「ちょ、何してるんだ百々!」

 

彼の行動に驚きの声を上げる悠岐と魔理沙。そんな二人を気にせず百々は再び口を開く。

 

「ーーーお前も一緒にこい。そんなアイツもその方が喜ぶ。」

 

「・・・私を助けるか。ククク、お前は昔から変わらないな、百々。」

 

「知らんな。敗者の命は勝者のもんだ。」

 

「まぁいいだろう。私もあの子のところまでなら同行しよう。ついて来い、あの子はこっちにいる。」

 

そう言うとテルヒは大きな身体を起こし、扉の空いた方向へゆっくりと歩き始めた。テルヒに続いてユニ達もその後を追う。

 

「・・・さて、パンドラボックスに希望は残っているかな?」

 

最後に残った琥珀がそう呟き、先行したみんなを追って行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

場面は変わって鋼鉄城の外。そこにはエリュシオンとの戦いで力尽きたルシファーの翼を掴み、引きずるエリュシオンが鋼鉄城を見ていた。そして口を開く。

 

「ありゃ、もうこんなところまで来ているのね。テルヒ、ゆっくり休んでいなさい。後は私が全てを終わらせるから。亡き息子達のために、そして私と百々が暮らせる世界に。」

 

そう言って彼女はルシファーの翼を掴んだまま飛び上がり、鋼鉄城へと戻っていった。




テルヒを倒すことに成功した百々はテルヒに連れられ、『あの子』のいる場所へ。
あの子の正体は一体・・・。
次作もお楽しみに!

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