東方混沌記   作:ヤマタケる

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キュクロプスを犠牲にしてしまったものの、先へ進むことに成功したユニ達。


第164話 幻獣の王

扉の中には長い通路があり、一直線上にはまた一つの扉があった。ユニ達は通路を無言で歩く。と、魔理沙が口を開いた。

 

「この先に、エリュシオンがいるのか・・・。」

 

「いいや、まだだ。奴の前にテルヒがいる。いるとするならエリュシオンより先にアイツだ。」

 

彼女の言葉に九十九が言う。と、暁がユニを見て唐突に口を開いた。

 

「ユニさん、大丈夫ですか?」

 

「う、うん。大丈夫よ・・・。」

 

「キュクロプスを犠牲にしてしまったこと、まだ心残りあるのか?」

 

影裏の言葉にユニは黙って頷く。そんな彼女に楓が口を開いた。

 

「戦いに犠牲はつきものなんだ。私だってそうだ。いつも誰かが犠牲になってしまう・・・。」

 

そう言う彼女の刀を持つ右手には力が込められていた。それを見た百々は無言で彼女を見る。と、霊夢が口を開いた。

 

「ここにテルヒかエリュシオンのどちらかがいるのね。みんな、気を引き締めていくわよ。」

 

「うん。」

 

「分かってるさ。」

 

彼女に続いて九十九と悠岐が言った。そして霊夢がゆっくりと扉を開ける。扉を開けるとそこには広々とした何もない空間が広がっていた。真ん中にいる者以外は。

 

「ククク、よくぞここまで辿り着いたな。待っていたぞ。」

 

その声がする真ん中をユニ達は同時に見つめる。そこには体長6m、体高2mの全身青い毛で覆われた巨大な狼が立っていた。それを見た悠岐が口を開く。

 

「アイツがテルヒか・・・。」

 

「よぉテルヒ。久しぶりだな。」

 

悠岐に続いて百々がテルヒに言う。それを聞いたテルヒがニヤリと笑みを浮かべて再び言う。

 

「久しぶりだな、百々に九十九、そして幻想郷の守護者よ。」

 

「いざ見てみると大きいわね。」

 

「えぇ、久しぶり。まぁ、大きいのは仕方ない。だって幻獣だもの。」

 

九十九が言った後、霊夢が目を細めてテルヒを見ながら言う。

 

「それにしてもあのワニやオスカー、コウモリ達と比べたらだいぶ小さいわね。」

 

「姉さん、小さいものは決まって速いものです。気をつけましょう。」

 

「えぇ、分かってるわ。」

 

彼女に軽く忠告する暁。そんな中、テルヒがユニ達に言う。

 

「お前達の目的は分かっている。エリュの計画の阻止、だ。エリュは今ルシファーと交戦している。アイツの邪魔はこの幻獣の王である私が許さぬ。」

 

「ルシファーと?・・・多分ルシファーでも勝てないだろうな。」

 

「ルシファーの実力がどれくらいなのかは私が分かってる。エリュシオンに勝てないってことぐらいもな。コイツは多分、時間稼ぎのつもりだ。」

 

「まぁさっきアイツが言った通り、そのようらしいな。」

 

「ボク達とルシファーが合流しないようにのだね。」

 

「早くルシファーと合流するためにもコイツをさっさとやっつけようぜ!」

 

「あぁ、勿論だ。」

 

九十九、楓、影裏、琥珀、魔理沙、悠岐が色々と話し、戦闘態勢に入った時だった。5人を遮るかのように百々が目の前に立った。そして言う。

 

「悪い、みんな。ここは俺にやらせてくれ。」

 

「百々、どういうことだ?」

 

「ここはみんなでやったほうが効率がいい。」

 

「もっ、百々!!ここは私に任せてくれ!・・・みんなの仇を、討ちたいんだ。」

 

「サンキューな、悠岐に楓。九十九、お前の能力はここで使うべきじゃない。皆のためにも、ここは耐えてくれ。」

 

「・・・ヤバくなったら、私も参加するからね。」

 

悠岐、楓、九十九の言葉を聞いて百々は納得させ、1人テルヒの元へ向かう。と、ユニが魔理沙に言う。

 

「百々君、大丈夫かなぁ。相手は幻獣の中でも特にずば抜けた力の持ち主よ?勝ち目あるのかしら・・・。」

 

「なーに心配してるんだ?百々なら大丈夫だぜ!なんせアイツだからな!」

 

「・・・ちょっとよく分からないわね。」

 

そう話す2人とは別に百々はテルヒの元へ行き、言う。

 

「待たせたな、テルヒ。」

 

「仲間に遺言を残してきたのか?いいや、死なぬお前に遺言など必要ないか。では始めよう。」

 

そう言うとテルヒは百々との距離を取りながら彼の周りを歩き始めた。

 

「様子見か?」

 

「どうした?来ないのか?この距離なら私はお前を仕留められるぞ。」

 

「俺の能力を忘れたのか?何をやっても仕留めることなんて、できねぇよ。」

 

「仕留められるさ。」

 

そう言うとテルヒは突然壁に向かって走り出したかと思うとそのまま壁を登って壁を走り始めた。

 

「あの巨大で壁を走れるの!?」

 

「嘘でしょ!?」

 

「まるでシフですね。」

 

「それに中々速いな。他の幻獣達が鈍く感じるぜ。」

 

驚くユニと霊夢とは別に暁と悠岐は落ち着いてテルヒの行動を見る。そんな中、百々が口を開いた。

 

「壁走りか?甘い甘い!再現、いでよ御柱!!」

 

そう言った瞬間、百々の隣に大きな柱が現れ、そのままテルヒ目掛けて投げつけた。。それを見たテルヒが少し驚いたような顔をして言った。

 

「ほう、八坂神奈子の能力か。既にエリュから情報は得ている。」

 

そう言うとテルヒは柱の間を器用に避けた。それを見た楓が驚きながら言う。

 

「あの巨大で避けた!?」

 

「チィッ!本人にもっと使い方学んどくべきだったか!」

 

柱を擦り向けたテルヒは一瞬にして百々の前に移動し、爪を向ける。それを見た影裏が声を上げる。

 

「早い!あのでかい体でなんてスピードだ!!」

 

「再現、硬質化!」

 

「能力だけでなく物質も再現出来るとは・・・。まるで、トランス能力ですね。」

 

暁が呟く中、テルヒは笑みを浮かべて百々に言った。

 

「切り裂くと思ったか?」

 

そう言うと彼はペッと百々の顔に唾を吐いた。

 

「だぁっ!?くっせぇ!!」

 

「バカ百々!!唾くらいで硬質化を解いちゃだめよ!」

 

「っ!しまっ・・・。」

 

霊夢が警告した時には手遅れだった。気づいた時には既にテルヒの爪は百々の右腕をとらえた。」

 

「グッ、ガァああぁ!!」

 

勢いよく振り下ろされた爪は、百々の右手をそのまま彼から切り離した。切り離された右腕を開いている左手で押さえながら百々は口を開く。

 

「ど、どうにか右手だけに出来たか・・・。」

 

「叫び声を上げている場合か?」

 

そう言うとテルヒは尻尾で百々の足をかけ、転ばせた。

 

「うおっ、危ねぇ!」

 

転んだ彼にテルヒが再び口を開いた。

 

「折角だ。アルカディアと同じ運命を歩ませてやろう。」

 

そう言うとテルヒは転んだ百々の頭を押さえつけ、立てないようにした。そんな状態にされた百々が言った。

 

「おいおいおい!このまま頭を潰すつもりか!?」

 

「頭を潰すのではない。」

 

そう言うと彼は大きな口を開け、彼の左肩に近付ける。それを見て何かを察したユニが口を開く。

 

「まっ、まさか!?」

 

「待て待て待て!それはまずいって!!」

 

百々の言葉に耳を傾けることなくテルヒは彼の左肩に噛みついた。その瞬間、ゴキッという音と共に血が飛び散った。

 

「・・・テルヒ、どうだ?ヒヒイロカネは美味いか?美味いよなぁ、なんせ血が飛び散るほどだからなぁ!」

 

「チッ、やはりそうであったか。まぁ良い。別の策も考えている。」

 

少し悔しそうに言うテルヒは百々の左肩に噛みついたまま彼の肩を捻り始めた。それを見た楓が口を開いた。

 

「ヤバくないか!?右腕をやられたってのに今度は左腕が!!」

 

「デスロールはヤメロォ!再現、ハリネズミ!!」

 

ヒヒイロカネに変化している百々の左腕が鋭く伸び、テルヒへと向かった。

 

「チッ。」

 

咄嗟に下がったテルヒだが避けきれなかった針が顔の数カ所に刺さり、そこから血が垂れ始める。と、影裏が言う。

 

「危ないところだったな。もし遅かったら間違いなく左腕もやられてたぞ。」

 

「あー、死ぬかと思った・・・。こっちとら物質再現は慣れてないんだよ。」

 

ヒヒイロカネの棘を戻しながら百々はボヤく。そんな彼とは別にテルヒは垂れる自分の血を舐めながら言う。

 

「ハリネズミの針を使うのは大した考えだ、私も油断したよ。だが、今のお前の状態は中々危険なものだな。」

 

ニヤリと笑みを浮かべて言うテルヒだが彼も棘が刺さった箇所を気にしており、少し痛そうな表情を浮かべている。そんな彼に百々が再び口を開く。

 

「おうよ、右腕の損傷が右手だけになったのはマシだがドバドバ血が出てるからな。長引けば出血死だ。」

 

「お前の能力は面倒だ。だからそれに対策せねばならん。さぁ百々よ、この程度まだ序の口だろう?もっと私を楽しませてくれ!」




お互いに傷を覆ってもなお引かない百々とテルヒの戦い。
百々に勝ち目はあるのか!?
次作もお楽しみに!

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