「おい、起きろ。起きろよ楓。」
「んぁ・・・なんだ九十九。」
「ちょっと頼みたいことあんだけど、いいか?」
「別に構わないが・・・何の用なんだ?」
目を擦りながら楓は言う。そして彼女は枕元にあったスマホの電源を付ける。スマホの画面には2時30分を示されている。そして彼女は九十九の方を見る。
「……と、トイレに付いてきてくれ。」
少し恥ずかしそうに九十九は言う。それを聞いた楓は目を見開いて言う。
「と、トイレ!?まぁ、確かに帝王城は広いし夜になると暗くなるからな。仕方ないな、行くか。」
「わ、悪い。どうしても幽霊が苦手でさ。」
「幽霊が苦手とかお前は妖夢か。」
そう言いながら彼女は枕元にあった自分のスマートフォンを手に取り立ち上がる。
「ほら、行くぞ。」
「だって殴れないだろ……って、待て!置いてくな!」
「早く来いよ。」
そう言いながら楓はスマホの明かりを便りに薄暗い廊下を歩く。
「……やっぱスマホって便利なもんだなぁ。」
楓のスマホを見て九十九はそんなことを言った。それを聞いた楓はすぐに言う。
「本来なら懐中電灯とか使いたかったんだけどな。ないから仕方ない。あーあ、充電が40%切っちゃった。」
「……スマホいぞんしょー。」
「悠岐よりはマシだ。あいつなんて異変とか仕事がない時は四六時中いじってるからな。」
「ふーん。っと、着いた着いた。絶対に待ってろよ!」
念を押すように九十九は言う。その声はほんの少しだけ震えている。
「あっちょっと待て!そこは・・・。」
楓が呼び止めようとしたがその時は既に遅かった。九十九がトイレだと思って開けた扉の奥には寝息を立てながら寝ている巨大な黒いドラゴンがいた。それを見た九十九は少し驚いたものの、冷静さを取り戻し、口を開く。
「……なんだ、ただのドラゴンか。驚かせやがって。起こさないようにっと。」
ドラゴンを起こさないようにゆっくりと扉を閉めた。そんな彼女に楓が口を開いた。
「起こしたら食われると思うんだ。こいつは慣れていない奴には容赦なく襲うらしい。」
「ふーん。……てかトイレどこ?」
「もう少し先の場所の筈だが、暗くて良く分からんな。」
「光は出せなくもないんだが……。」
その時だった。突如二人の背後からコツコツと何かがこちらへ向かってくる足音が響いた。それを聞いた楓は背後を振り返り、言う。
「・・・誰か来る?」
「足音からして、戦うような人じゃないな。」
「・・・んじゃあ幽霊か?」
「……((((;゜Д゜))))」
「行ってみるか。」
そう言うと彼女は足音のする方向へ歩み始めた。
「ま、待ってくれ!私も行くから!?」
へっぴり腰のまま九十九は楓を追う。
そんなふたりを見つめる1人の人物がいたりした。
「……何してんだあいつら。まぁ、いいか。」
足音が聞こえた方へ少しずつ進んでいく楓と九十九。と、楓が辺りを見回しながら言う。
「・・・あれ、誰もいないぞ。」
「……え、マジで幽霊?」
「あら?お二人は・・・。」
「ッッッ!?」
背後から突然女性の声が響いた。
「キャァァァ!?」
思わず叫び声を上げる九十九。そんな彼女とは別に楓は咄嗟に背後にスマホを向ける。背後にいた存在を見た楓は手を震わせながら言う。
「あ、ゆ、優理花さん!?」
二人の背後にいたのはとし背が高く、黒い鮮やかな髪の女性だった。彼女は電気等を何も持っていなかった。彼女の足元には体長1mほどの蜘蛛もいる。
「……お化けじゃ、ない?」
「優理花さん!!びっくりするじゃないですか!!」
「ごめんなさいね、私は夜の見回りは電気等を持ち歩かないんです。代わりに
「……く、蜘蛛かぁ。びっくりさせないでくれよ。」
「うふふ、ごめんなさいね。ところで二人はどうしてこんなところに?」
「九十九がトイレ行きたいって言うので付き添いで来たんです。」
楓の言葉に、九十九は思い出したように言った。
「あ、あの……トイレ教えて、下さい。そろそろ、げ、限界で……。」
「トイレですか?トイレならあそこにありますよ。」
そう言う彼女の指差す先には『ぶっ殺す、いつか!!』と書いてある扉があった。
「……とい、れ?」
「えぇ、ユニちゃんのお兄さんのモルトさんが貼って行ったんです。私と交際しているグランチさんに嫉妬しているみたいで。」
「えぇ……。」
九十九が困惑してる中、トイレ(?)の扉が開かれた。
「ふぅ。スッキリした。……ん、楓さんに九十九さん。こんばんわ。あ、優理花さんトイレの場所を教えていただきありがとうございました。」
「うふふ、いいのですよ暁君。助け合うのが当たり前ですから。」
そう言うと彼女は優しさに満ち溢れた笑みを浮かべた。
「では、失礼します。おやすみなさい。」
「おやすみなさい。」
部屋へ戻る暁に手を振る優理花。と、楓が口を開いた。
「・・・まさか、男女混合、ですか?」
「ここは男女混合で嫌な人のためのトイレなのですが私が教え間違えてしまいましたね。」
「そんなのいいから!私はこのトイレを使わせてもらう!」
「あー入っちゃった。」
「よっぽど我慢していたのですね。」
数分後、スッキリした顔の九十九が出てきた。
「スッキリしたぜェ……。」
「落ち着きましたか?」
そう言った瞬間、辺りにギュロロロという音が響いた。
「……雷?」
「・・・。」
雷と言う九十九とは別に楓は顔を赤くしていた。
「お腹が空いたのですか?」
「ッ!?」
優理花の言葉を聞いた瞬間、楓は声にならない声を上げる。そんな彼女とは別に九十九が口を開く。
「あー、そう言えば百々も空腹の時そんな音だしてたな。」
「・・・お腹、空きました。」
「素直でよろしい。夜食はあまりよくありませんが何かお作りしましょうか?」
「いいんですか!?」
「私もご一緒していいのか?」
「構いませんよ。」
「やったー!!」
「ヨッシャア!!」
優理花の言葉を聞いた瞬間、二人は喜びの声を上げる。そんな二人に優理花が口を開く。
「では私の部屋に行きましょうか♪」
「そういえば部屋ってここから近いのか?」
「少し歩けばすぐ着きますよ。」
「それは安心した。」
「うわっ、ゴキブリ!?」
突然彼女は九十九の足元から聞こえたガサガサという音のする場所を指差して叫んだ。
「んだよ、ゴキブリ程度で情ねぇ。」
そう言って九十九はその手でゴキブリを潰した。
「ちょっと手、洗ってくるわ。」
「あ、このゴキブリ、最近
「うっわ、汚ぇ……。」
優理花の言葉を聞き、ブンブンと自分の腕を振りながらトイレに戻る九十九。その瞬間、カタカタと九十九のズボンから何かが落ちた。
「あ、ちょっと九十九ちゃん!ズボンから何か落としましたよ。」
そう言うと優理花は九十九のズボンから落ちたものを拾う。
「手洗うまで持っててくれー。」
「分かった~。」
「楓ちゃん、彼女は幻想郷の方なのですよね?」
「えぇ、そうですが?」
「どうしてスマホをこんなにもっているのかしら?」
そう言う彼女の手にはそれぞれ赤、青、紫色のスマホがあった。
「これは?」
「何故3つもスマホを?」
「九十九~、なんでお前スマホ持ってるんだ?」
「やぁ、悩める少女たち。ボクが答えてあげようか?」
窓の外から、そんな声が聞こえた。
「・・・琥珀・イーグナーウス。知恵の妖精さん、教えてくださいな。」
彼女の対応は冷静だった。
「……うーん、その冷静対応は初めてだね。で、君は聞きたいのかな。楓ちゃん?」
「・・・聞きたい。」
「いいよ。なら教えてあげる。……と、言いたいんだけどそろそろ彼女が帰ってくるね。明日のこの時間、城の東塔で待ってるよ」
琥珀はそう言って窓から消えた。それと入れ替わるように九十九が戻ってきた。
「ただいま。っと、どうした二人とも?」
「九十九ちゃん、このスマホは一体どこで手にいれたの?」
そう言うと優理花は3つのスマホを九十九に見せる。
「ん、あぁそれな。それは……友人の遺品だよ。」
「友の、遺品?」
「とりあえず私の部屋に行きましょう。」
「ん、そうだな。腹減ったしな。」
そう言って笑う九十九の顔は、少しだけ寂しそうだった。
少女移動中・・・
部屋に行くと優理花は冷蔵庫を漁り始め、楓は椅子に座る。そして九十九に言う。
「友の遺品と言ったが、お前は現世にいたのか?」
「あぁ。私は幻想郷に行かず、ずっと現世に住んでたんだ。」
「そこで出会った友の物なのか。友はどうなったんだ?」
「……死んだ。エリュシオンに全員殺されてな。」
「エリュシオン・・・アイツ、なんでお前の周りに酷いことばかりするんだ?」
「人を恨んでいるからですよ。」
そう言ったのは優理花だった。そして再び言う。
「過去にエリュシオンは人に裏切られたことをきっかけに人を酷く恨むようになってしまったらしいです。まさか表の世界まで及ぶなんて・・・。」
「それと、私の存在かな。アイツにとって百々は特別なんだ。だけど、そんなアイツは百々と鏡合わせの私という存在を許せなかった。半人半鬼という存在は百々だけで十分だったんだろうな。」
「だが、仲間を殺してまでも・・・。」
「なんでか知らんがアイツはそこまで百々にこだわってる。ま、それが弱点とも言えるんだけどな。」
「ですが、それだけで戦えると思いますか?彼女は能力も身体能力も桁外れだとグランチさんから聞きました。百々君だけでなんとかなる相手だとは思いません。」
「なんとかなるんだよ、これが。エリュシオンという存在へのJOKER。それが伊吹百々という存在だからな。」
ま、今までの累計からみた予想だけどな。九十九はそう言って締めくくった。そんな中、楓は口を開く。
「本当にうまくいくのか?私からすれば百々を気にしているようには思えない。その根拠に私達に容赦なくメメントモリやカルマを送りつけたじゃないか。」
「メメント・モリもカルマも恐らく百々を捕獲するために送られてきたはずだ。だけど、エリュシオンは2人の『感情』を度外視していた。だからあの二人はあんな風になったんだろうな。」
「出来ましたよ♪」
話す二人に優理花は肉丼持ってきた。
「いただきます!!」
そう言うと彼女は速攻で肉丼に食らいつく。と、九十九が優理花に言う。
「……これなんの肉?」
「牛肉ですよ。」
「牛丼か。……なんか、食べたことある味と違うんだよなぁ。」
「鬼なら人肉を食べるというのは聞いたことありますが、あなたは人肉を食べたことあるの?」
「あ、そういう訳じゃなくてだな。」
ほんの少し、言いにくそうにしながらも九十九は言葉を続けた。
「さっき話した友人……赤いスマホ本来の持ち主と食った牛丼よりも暖かいなって思ってよ。」
「私、あなたの友人のこと分かる気がします。」
唐突に何かを言い出す優理花。そんな彼女に九十九が口を開く。
「……そうか?あのゲーマーのことを?」
「恐らくですが、あの神ガイルゴールに力を与えられた高校生達のことですよね?」
その言葉を聞いた時、九十九の顔が少しだけ鋭くなった。
「……なんでそう思った。」
「私、こう見えてある守護者と契約を結んだ者なんですよ。彼が言っていたのですが特別な力を得た高校生にはそれぞれスマホが与えられていると。そのスマホの色の意味は火、水、木、光、闇を意味しているとね。」
「……なるほどな。それなら知ってておかしくないか。」
「話についてこれん・・・。」
「その友人達を殺すエリュシオンは侮れぬ相手ですね。恐らくですがセコンドさんやグランチさんといった五大王の方々でも相手にならないほどの力を持っています。」
「だろうな。アイツらは周りのヤツらから『爆絶なる者達』として恐れられていたからな。」
「爆絶なる者達?」
「あなたはまだ知ることはないですよ、楓ちゃん。」
「ま、今度な。」
「そう言えば、幻獣達のデータが分析されましたよ。」
そう言うと優理花はパソコンを二人の元へ持ってきた。
「……この屋敷パソコン回線まで通ってんのかよ。」
「通りますよ。私達の部下の調査によりますとエリュシオンのところの幻獣はワニ、ピラニア、ゴリラ、鷹、コウモリ、バッファロー、ユニコーンの7種類がいます。」
「……狼はいないのか?」
「狼?何のことですか?」
「・・・?」
「……いや、なんでもない。忘れてくれ。」
「そうですか。まぁともかく、これらが分かったのでそれぞれの動物の習性を理解すれば幻獣達は敵ではないですよ。」
「そうだといいが……。アイツのことだ。変な芸仕込んでても違和感ねぇよ。」
「そうですね、何してもおかしくありません。」
そう言うと彼女は時計を見て再び言う。
「あら、もうこんな時間・・・。二人とも、今日はもう眠りなさい。決戦の時に体が動きませんよ。」
「結構話し込んだみたいだな。ならサクッと寝るかぁ……。」
「明日昼寝しよ。」
そう言うと二人は優理花の部屋を出る。
九十九の友人、エリュシオンの幻獣。夜の女子会は楽しくもなく、盛り上がることもなかった。
次作もお楽しみに!