・・・懐かしい。
「この子が百々よ、伊吹百々。みんな仲良くしてあげなさいよ。」
「・・・興味ないな。」
「・・・。」
「何故人間を?」
「お母さんが言うなら・・・。」
いつからだったかなぁ。あいつが俺達の元へ来たのは。忘れちまった。ドゥームとアカシャは興味を持ちそうにねぇし、メメントモリとカルマに至っては仕方なくやってるみてぇだし。なんなら俺はあいつと親しくなってみるか。
「ヨォ、俺の名はニルヴァーナ。よろしくな、百々。」
「あ、あぁ。よろしくな!」
・・・懐かしい。
「ププッ、お前何してんだよ。七並べは1が置かれたらもう13しか置けないんだぜ。」
「なっ、そうなのか!?初めて知った・・・。」
「嘘つくんじゃねーよ、百々。わざとだろ?」
「そんなわけあるか!」
「クヒヒヒヒ、おもしれぇ奴だな。」
昨日言ったことをすぐに忘れるようなあいつとトランプで遊んでいたのが懐かしいな・・・。
「ニル、何か美味しい飲み物とかないのか?」
「あるぜ、ここに最高にうまい酒がな!!」
「コラァ、ニルヴァーナ!!」
「やべっ、母さんだ!逃げるぞ百々!!」
「えっちょ、ニル!?」
百々に酒を飲ませようとして母さんによく怒られたな。懐かしい。
ある日、百々が急にいなくなりやがった。俺は部屋の隅々まであいつを探した。だが見つからなかった。母さんに聞くと、
「・・・ごめんね、ニルヴァーナ。彼はずっと私達と一緒にいられる訳じゃないから、親元へ返してきたの。」
本当にごめんね。そういう母さんの悲しげな顔は今でも忘れない。その時は何故か俺も悲しい顔になっちまった。俺が言うのもあれだが恥ずかしい。
「見ろよドゥーム。コイツ、百々に似てねぇか?」
「言われてみれば・・・。似ていなくはないな。」
「俺は思うんだ、ドゥーム。もしかしたら、こいつを殺せば百々も死ぬんじゃねぇかってな。」
「なぬ!?俺は危険だな。このドゥームにそんなことは出来ない。」
「だろ~、なんなら俺達でこっそり生かしてやろうぜ。オイ可愛い子ちゃん、名前なんて言うんだ?」
「えぐっ、ひぐっ・・・。」
「泣いているぞ。お前が泣かせたのではないか?」
「んなわけねぇだろ?なぁ、可愛い子ちゃん。」
「私、九十九。星熊九十九。」
「・・・聞いたか?ドゥーム。」
「無論。さぁ、我々と来るがよい星熊九十九。貴様を現世へ逃がす。」
あの世界を襲撃した時も懐かしかったな。ドゥームと九十九に出会って表の世界へ逃がしたこと。幸い、母さんやメメントモリ、カルマに気づかれなくて助かったぜ。
そんなことを思い出すニルヴァーナの腹には光線によって空いた穴が空いていた。
「ガハッ・・・。」
その影響で吐血したニルヴァーナはゆっくりと倒れていく。そんな中、彼は再び過去を思い出していた。
「ニル、相談があるんだ。実は俺、メメントモリやカルマに嫌われてる気がするんだ・・・。」
「メメントモリやカルマに嫌われてる気がする?んなもん気にしてくていいだろぉ~。」
「で、でも・・・。」
「たとえメメントモリがお前を嫌おうとカルマが嫌おうと俺はお前の永遠の友だぜ、百々。」
「ニル・・・。」
「・・・え?アカシャが私を裏切る?」
「そうなんだ母さん。俺が便所から帰って来て部屋に入ろうとしたらアカシャがドゥーム、メメントモリ、カルマに話していやがったんだ!!」
「なるほど、アカシャがねぇ。なんとなく予想出来てたけれどまさか異変の時にとは・・・。伝えてくれてありがとう、ニルヴァーナ。」
「これくらい当然さ、母さん。大事なことを伝えるのが息子の務めだろ?」
「フフッ、そうね。それとニルヴァーナ、アンタ黙ってることあるでしょ?」
「黙ってること?んなもんあるわけ・・・。」
「どうせアンタのことだから百々に少し手を貸すんでしょ?」
「そ、そそそんなわけないぜ母さん。(やべぇ、なんでバレてるんだ・・・。)」
「別に構わないけれど、メメやカルマにバレないようにね。」
「え?今母さんなんて・・・。」
「そんじゃあアンタに極秘任務よ。アカシャを討伐しなさい。それだけよ。」
「クヒヒヒヒ、任せてくれよ母さん。」
「期待しているわ。百々を支えてあげられるのはアンタしかいないんだから。アンタは私が知らない百々のことを知ってる、多分。アンタは私の自慢の息子。胸張ってやっていきなさい。」
今に戻り、倒れながら空を見て心の中で語る。
(俺って馬鹿な野郎だなァ。あんなに自信満々で言ったのに関わらず完敗。自分が情けなく感じるぜ。あ~あ、もっとアカシャの対策していればよかった。)
そう語りながらニルヴァーナはゆっくりと銃口を空に向け、笑みを浮かべながら再び語る。
(ドゥーム、母さん、九十九、そして百々。あばよ、次会う時は来世でな・・・。)
そう語る彼の目には微少に涙が零れていた。そして辺りに大きな銃声音が響いた。その瞬間、ニルヴァーナの体がみるみる消えていき、そのまま彼は光の塵と化していった。
そんな中、一人身を潜めていたエリュシオンがある方向を見て言う。
「・・・ニルヴァーナ?ダメ、ダメよニルヴァーナ。まだ、行っちゃダメ。まだ死んじゃダメよ。私を一人にしないで・・・ニルヴァーナ!!」
彼女は涙を流しながら地面に膝をつき、泣き崩れてしまった。しかしそんな彼女を慰める者もいなければ出会う者もいなかった。
アカシャとの戦いに敗れたニルヴァーナはそのまま天国へ・・・。
次作もお楽しみに!