酒を飲み干したニルヴァーナは唐突に四人に問い掛ける。
「なぁ、話変わるんだが幻想郷の守護者って今何処にいるんだ?」
「ユニのことか?」
「ユニなら今人里の小屋で暁を見ていたような・・・見ていないような・・・。」
「急にどうした、ニル。」
彼の言葉に反応する悠岐、楓、百々。そんな三人とは別にニルヴァーナは再び口を開く。
「あいつなら母さんを何とか出来そうだなって思ってな。」
「……それデジマ?」
それを聞いた九十九は目を見開いて言った。そんな中、楓が首を傾げながら言う。
「そうか?ユニの切り札を考えても終焉ラグナロクしか浮かばないぞ。」
「違ったかな~。確か現世の奴に選ばれた奴だったんだよなぁ。」
「現世の奴?」
「現世の奴か。……暁が何か知ってるかもな。」
再び考え始める悠岐と百々。そんな二人とは別に楓が口を開いた。
「・・・アラヤのことか?」
「そう!ソイツだ。ソイツと契約した奴なら止められるかもな。」
「アラヤ……?」
「アラヤ?……私のとこの現世にはいなかったように思えたが。」
「お前らは知らないだろう。俺達の現世にいる奴なんだから。」
「クレッチが人類最強ならばアラヤは人類代表ってところかな。」
「なる……」
「ほど?」
悠岐と楓の説明に首を傾げながらも納得したように口を開く百々と九十九。それを見たニルヴァーナが目を細めて言う。
「あんまり理解して・・・!?」
突然何かの気配を感じたのか、ニルヴァーナはマントの方に目を向ける。
「ニルヴァーナ?」
「どしたニル?」
彼の行動に不思議に思った楓と百々が口を開く。そんな中、ニルヴァーナが口を開く。
「・・・集団がこの近くに来ている。」
「は?」
思わず声を上げる九十九。そんな中、悠岐がニルヴァーナに言う。
「・・・敵か?」
「敵では無さそうだ。男二人、女三人だ。」
「女三人と男二人ということは・・・。」
「この感じ……。人が4人に妖精が1人ってとこか。」
ニルヴァーナの言葉を聞いて楓と九十九はおおよその推測を立てる。そんな中、ニルヴァーナが笑みを浮かべて言う。
「クヒヒヒヒ、揉みごたえのありそうな胸だぜ。」
「変態は黙ってろ。」
「(´・ω・`)」
楓の言葉にニルヴァーナは先程までのテンションががた落ちしてしまう。そんな中、悠岐と九十九が話をしていた。
「ユニ達か?」
「……恐らくな。足音が4つしかない。」
しばらく沈黙が続く中、楓が口を開いた。
「会うか。」
「そうだな。」
「俺は遠慮しとくぜ。」
悠岐と楓の言葉にニルヴァーナは拒否した。と、百々が口を開いた。
「……でもよ、このマントはどうすんだ?」
「そうだな・・・とりあえず俺も会うか。」
「少しは助けてやるよ。」
「サンキュな九十九。」
そう言った瞬間、悠岐は百々を前に立たせ、背後から押した。そのタイミングを合わせて楓はマントを取った。
「……僕らの後ろに立たないで貰えるかな?」
「ごめんなさい、結構不安なのよ。」
場面は変わって外。そこではニルヴァーナの言うとおり、2人の男、琥珀と暁に3人の女、ユニ、霊夢、魔理沙が無縁塚付近を歩いていた。と、霊夢が辺りを見ながら言う。
「全く、悠岐達は何処へ行ったのよ?」
「まぁ地道に探そうぜ。しばらくすれば出てくるんだろう。」
そう魔理沙が言った時だった。突如岩の中から一人の少年が飛び出してきたかと思うとそのままユニの足下に仰向けで倒れた。
「えぇ……。」
「なんだぁ!?」
思わず声を上げる魔理沙と少し驚く琥珀。そんな彼女とは別にユニは顔を真っ赤にしていた。無理もない、少年が倒れている場所はユニのスカートの中が見える場所なのだから。と、岩のほうから声が聞こえた。
「あ。」
「ちょっと吹き飛ばしすぎた。百々~、大丈夫か?」
「前が見えねぇ……。」
「ッ~・・・。この変態ッ!!」
そう言うと彼女は倒れる百々の顔にビンタを食らわした。ビンタを食らった彼の顔にはユニの手形がつく。
「ヒデビッ!?……ま、またこんな役周り……。」
「おいおい大丈夫かよ百々。」
そう言うと岩から出てきた一人の背の高い男は倒れる百々の服の腰の部分を摘まみ、ネズミの尻尾を持つようにして彼を持ち上げた。
「肉体よりも心が痛い……。」
涙目になる百々とは別にユニが九十九に言う。
「九十九ちゃんに悠岐君、楓ちゃん!どうしてこんなところに・・・。そういえば九十九ちゃん、この人は?」
「まぁ、色々あってな・・・。えーと……、こいつは私の知り合いのタマちゃんだ。」
「タマちゃん!?」
同時に声を上げるユニ、霊夢、魔理沙。そんな中、勝手に名前を変えられてしまった大男のニルヴァーナが少し慌てながら口を開く。
「なっ!?・・・あぁ、そうだ。俺の名前はタマだ。」
「タマちゃん……ブブッ。」
ヘンテコな名前に思わず笑ってしまう百々の頭の中に、言葉が響いた。
(百々テメェ後で覚えておけよ。)
声の主はタマちゃんと呼ばれてしまったニルヴァーナだった。言葉を聞いた百々はすぐに言葉を返す。
(まじスマーん。)
それに気づかずにユニは興味津々でニル・・・タマちゃんを見ながら言う。
「しかし名前にしては随分といい体してるわね、タマちゃん。」
「タマちゃんはな、名前の通り可愛かったんだよ昔は。でも男だからな。それが嫌で鍛えたんだと。」
九十九の言葉を聞いたユニは再びタマちゃんを見て言う。
「へぇ、そうなの?タマちゃん。」
「あぁ、そうだ。モテねぇ乙女チックな男は嫌でな、かっこよくなりたいって思って鍛えたのさ。」
「へぇ、すごいわね!!」
「こんなにゴツくなれるのね・・・。」
話を聞いた霊夢は唖然となりながら言う。
「努力ってすげぇな、楓。」
「だろ?百々。どう思う?琥珀。」
「……タマちゃん、ね。うん、すごい努力したんだと思うよ。」
琥珀はそう言ってニルヴァーナへと近づき彼の耳元で、
「今は黙っててあげるよ、炎の闘神ニルヴァーナ。」
そう言った。それを聞いたニルヴァーナも小声で言う。
「あぁ、頼むぜ。あの四人が気づかないようにな。」
「任せといて」
琥珀がタマちゃんから離れた瞬間、タマちゃんがユニ達を見て言う。
「そう言えば、お前らの名前は?」
「私?私はユニよ。」
「私は霊夢。こっちは弟の暁よ。」
「魔理沙だぜ。」
「私は暁と言います。」
「僕は琥珀。しがない妖精さ。」
皆の自己紹介が終わった瞬間、タマちゃんは胸に手を当てて言う。
「安心しな、俺はお前達の仲間だぜ。」
「本当!?」
彼の言葉に反応するユニ。そんな彼女とは別に九十九が口を開く。
「さっきまでそれのコトについて話してたんだ。」
「いい加減下ろして……。」
「あ、悪いな。」
そう言うとタマちゃんは百々の摘まんでいた服を放す。
「ゴフっ!」
百々はそのまま重力に従い、落下した。それに気にせずタマは話す。
「俺達はお前達も知っている敵、エリュシオンを倒すための作戦を考えている!」
「エリュシオンを倒す作戦……?」
彼の言葉に反応を示したのは暁だった。しかし彼に目を向けることなくタマちゃんは話を続ける。
「そうさ。奴は九十九のいた幻想郷のようにこの幻想郷を壊すつもりだ。それを阻止するために俺達がエリュシオンを倒さなきゃならないんだ!(こんなこと言ってごめんな、母さん。)」
思わずニルヴァーナは心の中で本音を語ってしまう。それを聞いていたのか、九十九が心の中で言う。
(ニルヴァーナ、辛いのか。)
(そりゃ辛いぜ。母さんがこんなこと聞いてたら俺は死ぬぞ。)
(少しは守ってやる。だからそのまま頼む。)
(頼むぜ。)
「そうね!私達はこの世界を守らなきゃいけないのに!!私もタマちゃんを見習わないと!!」
ニルヴァーナと九十九が心の中で話している中、目をキラキラさせながらユニは言う。
「そ、そうだな。」
「あ、あぁ。」
(心が痛い。)
ユニに共感する振りをする百々と九十九にとってこれは辛いことであった。
「楽しそうだね、ニルヴァーナ。」
「!?」
突然の声に悠岐と楓は辺りを見回す。
「誰だ!?」
続けて魔理沙が声の主を探すように叫ぶ。と、九十九がタマちゃんを見て言う。
「ニルヴァーナ?タマちゃんアンタ、ニルヴァーナって知ってる?」
「九十九、そのノリはもう終わりだ。ちょいと面倒な奴が来たな。」
そう言う彼の目はある方向をじっと見ながら睨んでいた。
「面倒な奴?」
九十九はそう行ってニルヴァーナへ向けていた視線を声の主に向けた。
「っ!か、カルマ……。」
九十九が彼の名前を言った瞬間、カルマは百々と九十九に向かって言う。
「久しぶりだね、伊吹百々、星熊九十九。」
「……あー、また記憶にない奴か。」
「母さんに言われて来てみれば・・・ニルヴァーナ、どうして君がそちら側へ行っているんだ?まさか、母さんを裏切るつもりかい?」
「・・・か、勘違いするんじゃないぜカルマ。俺はこいつらが油断したところを皆殺しにするためにここにいるだけだ。」
そんな残酷なことを言うニルヴァーナだが心の中では必死に九十九と百々に訴えていた。
(九十九、百々、これは嘘だ。他の奴にも嘘だと伝えてくれ!)
それに気づいた九十九と百々はニルヴァーナに合わせるように口を開く。
「ニルヴァーナ、アンタ!(もう琥珀が行ってる)」
「お前が渡してきた記憶は嘘だったのか……?(さすがは知識の妖精)」
「そんな!!タマちゃんは私達の仲間だと思ってたのに!!」
「裏切ったな!!(よく考えたな。だが、霊夢、魔理沙、ユニ、暁には伝わってないようだな。)」
「……ふぅん。」
ユニ達のやりとりを見たカルマはきょとんとしながら言う。
「なんだ、僕の気のせいだったか。」
「んじゃ、俺は木の上でお前の戦いぶりを見てるとするか。」
そう言うとニルヴァーナは高く飛び上がり、木の上に乗った。そんな中、百々は必死に何かを思い出そうとしていた。
「カルマ……カルマ……。ダメだ、思い出せねぇ。」
それを見たカルマは百々に向かって言う。
「そりゃそうさ。君の記憶はアカシャによって奪われたんだからね。僕の事を思い出せるわけがない。」
「そうか。ま、でもよ―――」
百々はそう言って構えの姿勢を取った。
「―――倒すのに記憶なんか、要らねぇよな。」
彼の言葉を聞いた瞬間、九十九の頭の中にニルヴァーナの声が響く。
(九十九、奴との戦いで俺が助言を送る。その指示に従いながら戦え。)
(サンキュー、ニルヴァーナ。)
「さぁ、始めようか。ニルヴァーナがいなくとも、僕一人でこいつらを始末するよ。」
ニルヴァーナが手助けしているのに気づかずにカルマは戦闘体制に入った。
ユニ達との合流、突如現れるカルマと裏切る振りをするニルヴァーナ。この先に待ち受けているのは!?
次作もお楽しみに!