場所は変わって無縁塚。そこでは九十九の掘った穴に入る悠岐、楓、百々、九十九、そして闘神ニルヴァーナがきた。穴の中に入った瞬間、ニルヴァーナは自分が身につけていたマントを外し、穴を塞ぐように広げた。その瞬間、マントが岩と同化したかのように岩にくっついた。それを見た悠岐と百々が口を開く。
「これは・・・。」
「そんなの持ってたけ、お前。」
「クヒヒヒ、母さんに内緒で作ったのさ。こうするとここが外から気づかれることはねぇのさ。」
「便利だな。」
「……あのババアに怒られても知んないからな。」
蝋燭に火を灯したニルヴァーナは真ん中に置き、九十九と楓に言う。
「怒られるんじゃねぇ。殺されるんだ。」
「お前ッ、そこまでして百々にエリュシオンのことを!?」
「覚悟は……出来てんのか。俺たちに接触した時点でもう。」
楓と百々の言葉に耳を傾けることなくニルヴァーナは穴の岩を殴り、言う。
「本当はしたくねぇよ!!俺が言うには違和感を感じるかもしれねぇが怖いんだ!!」
「エリュシオンが怖い?」
「当たり前だよ、悠岐。あのババアだと特にな。」
「過去に母さんを裏切ろうとして無惨に殺されたジジィがいた。俺はそいつが殺される様子を見てしまった。あれからだ!!俺が母さんを怖いと感じるのは!!ドゥームやカルマはその様子を見てねぇから母さんの怖さを知らねぇんだ!!」
「……ドゥームはもしかしたら気づいてるかもしれない。ただ、認めたくないだけで。」
ポツリと、ニルヴァーナの言葉に反応して九十九が口を開いた。彼女の言葉に反応してニルヴァーナが口を開く。
「・・・アイツならそうかもな。」
「お前、何が目的で私達に手を貸すんだ?」
楓の言葉にニルヴァーナは平常心を取り戻して言う。
「俺の目的は俺や母さん、そして百々や九十九が望む世界を作るだけさ。」
「俺と……」
「私の望む世界?」
百々と九十九が呟いた瞬間、悠岐が口を開いた。
「ニルヴァーナ、それは無理があるんじゃないか?エリュシオンは百々が大好きで九十九が大嫌いなんだろ?平行してやっていける世界を作るなんて・・・。」
「……平行する世界を作るつもりなんてないよ、あのババアは。」
「そもそもの話、エリュシオンは倒せるのか?」
「・・・今のお前らの力では勝てない。」
「今の私達の力では、か・・・。」
肩を落とす楓とは別にニルヴァーナの言葉のある部分が気になった百々は彼へ問いかけた。
「……『今の』?」
「すまねぇ、間違いだ。今のお前らじゃなくて今の百々なら勝てない。」
「どういう事だ、ニル。」
「百々、俺以外の闘神全員の名前を言ってみろ。」
ニルヴァーナに言われた百々は首を傾げながら考え、口を開いた。
「……すまん、まだドゥームとメメント・モリしか思い出せてないんだ。」
「これがヒントだぜ。」
彼の言葉に首を傾げる一同。そんな中、何かを閃いた楓が口を開く。
「・・・まさか、記憶?」
「その通りだぜgirl。母さんを倒す唯一の方法、それは百々の記憶全てを戻すことだ。」
ニルヴァーナの言葉に九十九だけが驚愕の色を示した。
「ニルヴァーナ……、アンタどれだけの記憶をアカシャから持ってきたの?」
「言ったろ?九十九。俺が奪えたのはカルマの図書館からだけだぜ。アカシャからは奪えない。」
「……あぁ、そうだったね。カルマの奴、気づいてないといいが……。」
「それを願いたいぜ。さて、話がだいぶずれちまったな。」
そう言うと彼は四人を見ながら口を開く。
「母さんの計画はお前らの察しの通り、百々と母さんの望む世界を作ることだ。」
「あぁ、それは分かってる。」
「そのためには母さんにとって邪魔な奴ら、九十九や現世の王達を抹殺するはずだ。」
「あぁ、それで?」
「最終的にはあの創造神ガイルゴールを倒し、表を全て破壊するつもりだ。」
「表をすべて!?」
思わず驚愕の声を上げる百々と悠岐。そんな中、楓も驚きの声を上げる。
「なんて計画だ・・・。」
「あぁ、下手すればそれが成功するぜ。」
「アイツはこっちでも私の幻想郷と同じことをしようとしてんのか……。」
「それをこっそり俺とドゥームともう一体で止めようとしてるんだが・・・ドゥームはもういない。」
「……どうして?」
少し悲しげな声で聞く九十九にニルヴァーナは落ち着いて口を開く。
「話によると、博麗の巫女と何かしらの関係がある小僧に殺されたのさ。」
「霊夢と関係のある奴か……。もしかして、暁か?」
「そう、そいつさ百々。そいつに殺されたから俺とアイツでやるしかないのさ。」
「そうか……。仕方ないと言えば仕方ないのかもな。暁にとってドゥームは侵略者でしかないからな。」
九十九の言葉に少し耳を傾けたニルヴァーナは返事をすることなく話し続ける。
「少しやりずらくなった。俺とアイツでやり過ごすのは難しい。」
「ニルヴァーナ、気になったんだがアイツって何者だ?」
「……そう言えばその『アイツ』は記憶に無いな。ニル、アイツって誰なんだ?」
楓と百々の問いにニルヴァーナはすぐに答えた。
「テルヒ。テルヒさ。」
「テルヒ?」
初めて聞く名前に悠岐と楓は首を傾げてしまう。
「テルヒ……テルヒ……。ダメだ、思い出せねぇ。」
百々は頭を抱えるが、九十九はニルヴァーナの襟を殴りかかりそうな勢いで掴んだ。
「ニルヴァーナ、テメェふざけてんのか……?」
「九十九!?」
九十九の行動を見て思わず声を上げる楓。
「おいおい落ち着けよ九十九。俺がふざけてるように見えんのか?」
やれやれというポーズをとりながらニルヴァーナは言う。
「テルヒは私の友を食いちぎった張本人だぞッ!!」
岩の中に九十九の慟哭が響く。それを聞いたニルヴァーナは少し目を見開くものの、すぐに口を開いた。
「確かにあいつらを食いちぎったのはテルヒ。だがよ、母さんの驚異からお前を守り、八雲のババァに届けたのはテルヒだぜ?」
「ッ!それは、そうだけど……。」
「九十九。お前は家族を殺した母さんとあいつらを食いちぎったテルヒ、どっちが憎い?」
ニルヴァーナの言葉を聞いた楓は心の中で言う。
(これは選びづらい選択だな。もし私が九十九だったらどちらも選ぶだろうな。)
ニルヴァーナのその言葉に九十九は顔を歪めた。
「それは…………―――」
彼女は言葉を切り、一度深呼吸をしてから続きを紡いだ。
「―――どっちもよ。確かに母さんを殺したあのババアは憎い。でも、はじめて出来た友を殺したテルヒも憎いことに代わりはないわ。……だけどこれは私のエゴ。今大切なのは百々たちの幻想郷よね。私はもう過去の存在なんだから。」
彼女の言葉を聞いた楓は少し目を見開く。そんな彼女とは別にニルヴァーナは自分の襟を掴む九十九の手首を掴み、言う。
「なるほど、それがお前の答えか。お前らしいな。」
そう言いながらニルヴァーナはちゃっかりと九十九の胸を揉んでいた。
「ゲッ・・・。」
「なっ!?」
『コイツ何してんだよ!!』と言わんばかりの表情を浮かべて悠岐と楓が声を上げる。
「……悪☆即☆斬!」
顔を赤らめながら九十九はニルヴァーナの、と言うよりは男の急所を残っている左手で殴りつけた。
「……変態。」
そして、冷めた目でビクビクしているニルヴァーナを見下した。そんな中、ニルヴァーナは急所を押さえながら言う。
「クヒヒヒ、冗談だってさ。」
そう言いながら彼は服の中に入っていた酒を取りだし、一気飲みした。
「……( ˇωˇ )」
四人で色々やりとりしている中、百々一人だけいつの間にか眠っていた。それを見た九十九が口を開く。
「……ねぇ、百々寝てるんだけど。」
「起きろ百々。」
そう言うと楓は九十九と同様、寝ている百々の急所を狙って蹴りつけた。
「コフッ!」
急所を蹴られた彼は口から泡を吹いて動くことは無かった。それを見たニルヴァーナが笑いながら言う。
「おいおい百々、この程度で気絶するのか?男らしくないぜ。」
「お前が頑丈なだけだろ・・・。」
悠岐の言葉はニルヴァーナに届くことはなかった。そんな中、九十九が口を開く。
「言っとくけど百々は死なないだけで耐久は人間並みだからね?筋力に鬼の力を全部注いだ感じね。」
「分かってはいたがまさかこんなあっさり気絶するとは・・・。」
少し驚きながら楓は言う。
「まぁ、話が進まないから起こしましょう」
そう言って九十九は百々の元へ近づいていく。
「起きろ百々!!」
そう言うと彼は百々に馬乗りになり、往復ビンタをする。それを見たニルヴァーナと楓は苦笑いを浮かべる。
「悠岐、それじゃ起きないわ。」
「ん、そうか?結構強くビンタしたつもりだったんだななぁ。」
九十九は悠岐を百々の目の前から移動させた。
「起きろクソ兄貴!」
九十九は膝を気絶している百々の腹へと叩き込んだ。
「ゲブラゴフェ!?」
モロに膝蹴りを受けた百々は口から出してはいけないものを出した。それを見ていたニルヴァーナと楓は再び苦笑いを浮かべて言う。
「ウヒョォ、きったねぇ。」
「すごい乱暴だな。啓介を思い出すよ。」
さすがに目の覚めた百々は自分の現状を確認すると、
「ね、ねぇ……、俺、何か気に触る様な事した?」
そう言った。それに答えるように悠岐が言う。
「楓に股間蹴られて俺に往復ビンタされて九十九に膝蹴りされてゲロ吐いた。」
「ただのフルボッコじゃねぇか。……いや、寝てた俺も悪いとは思うけどよ。」
「さ、考えようか。母さんを倒す方法をな。」
続きを話そうとしたニルヴァーナに百々が口を開いた。
「あー、その前にひとついいか?」
「なんだ?」
「さっき俺は意識をより深い深層まで飛ばすために目を瞑っていたんだ。……それで寝たけどさ。んでまぁ、それでテルヒについて思い出したことがあるんだが、あってるか確認したくてな。」
それを聞いたニルヴァーナは驚いた表情をし、口を開く。
「お、おおそうか。なら言ってみな。」
「とは言っても容姿くらいだがな。……テルヒってさ、デカい狼じゃなかったか?」
「あぁ、そうさ。4mくらいあるデカイヤツだ。だが、他の奴らと比べればスゲー小さいがな。」
「他の奴ら?」
楓の台詞を無視して百々は話を続ける。
「……確か俺、そいつに乗せてもらった気がするんだ。」
「あぁ、よく母さんと一緒に乗ってたな。あの頃が懐かしいぜ。」
「やっぱりか……。確認したいことはそんだけだ。話の腰を折って悪かったな。」
「んじゃ、話戻すか。一応言っておくか?母さんの能力を。」
「是非とも教えていただきたいッ!」
ニルヴァーナの言葉を聞いた悠岐と楓は声を合わせ、同じ表情をして言った。
「是非とも。対策をたてるには必須と言っていいものだからね、あのババアも他の奴らも同じだけれど。」
「決まりだな。んじゃ言うぜ。母さんの能力、それは『能力を削除する程度の能力』だ。」
「能力を削除する程度の能力!?」
またしても悠岐と楓は声を合わせ、同じ表情をして口を開いた。それを聞いた百々は目を細めて言う。
「それは……何ともめんどくさい能力だな。」
「母さんに能力を消された奴は一生無力で力になれない奴になってしまうのさ。現世の女王さんもその内の一人だ。」
「女王陛下が能力を消された!?」
ネタでもやってんのかと言わんばかりに悠岐と楓はまたまた声を合わせ、同じ表情をした。
「……どなた?」
女王のことを知らない百々と九十九は首を傾げる。そんな二人に楓が言う。
「現世の女王でさっき会ったメルト・グランチのオッサン次に権力のあるお方だ。まさか能力を削除されるなんて・・・。」
「でもよ、能力が無くなるだけで死ぬわけじゃないんだろ。ならいいじゃねぇか。」
「良くねぇよ百々。現世で能力のある奴にとって能力を消されることは絶望的なんだぜ。あー言い忘れていたが、女王さんは視力を失い、さらには臣下も殺されたぜ。」
「ヴァンが!?それに陛下の視力も・・・。」
悠岐と楓の息はピッタリだった。言葉を発するタイミングも表情も全く同じだった。
「能力を失ったうえに片方の光と仲間を失ったのかその女王さんは……。あんのクソババアめ!」
歯を食い縛りながら九十九は言う。そんな彼女とは別にニルヴァーナは再び言う。
「さらに近くに居合わせた帝のオッサンもやられたらしいぜ。軽傷程度で済んだらしいがな。」
「エリュシオンめ・・・。一体何処まで人を殺せば気が済むんだ!!」
そう言う楓の目からは赤い液体、血の涙が流れていた。と、百々が口を開いた。
「……でもよ、能力を消すのに対策出来るやつなんているのか?俺が死なないのも能力の力だからよ、消された瞬間俺はただの人間になるんだが?」
「だから困ってんだよ。母さんに対抗出来る奴が誰一人としていねぇんだよ。」
「確かに、五大王もガイルゴールも能力を削除されれば完全に無力化されてしまう。私も悠岐も九十九も同じだな。」
「って事は、クレッチのおっさんみたいな自身の身体能力に自信のあるやつしか戦えないのか。」
「そういうことさ。・・・てゆうかクレッチのおっさんって誰だ?」
初めて聞く名前にニルヴァーナは戸惑ってしまう。そんな彼に悠岐が口を開く。
「現世では人類最強と言われていて能力を持たない男さ。」
「恐らくお前なんて相手にならないんだろうな、ニルヴァーナ。私や悠岐も同じだが。」
「ん?そんなに強いのか?そのクレッチって奴は。」
「強いな、とんでもなく。」
九十九の言葉にニルヴァーナは速攻で言葉を発する。
「母さんとでは?」
「・・・分からんな。」
少し悩んだ悠岐は答えを出した。そんな中、百々が口を開いた。
「まず俺はエリュシオンがどのくらい強いのか知らねぇからなぁ……。」
「まぁ、クレッチの話は後だ。これからやることを考えよう。」
「あぁ、そうだな。」
「そうだな。」
ニルヴァーナの言葉に賛成するように楓と九十九が口を開いた。再びニルヴァーナは話を始めた。
「正直言って何も対応出来ねぇんだよなぁ。母さんの能力。」
「そんなに強いのか?」
「見て分からなかったか?百々。奴を見た瞬間、私は微かではあるが震えが止まらなかった。」
「・・・俺もだ。」
楓に共感するように悠岐が口を開いた。そんな二人百々が口を開く。
「……いや、俺は震えなんて感じなかった。それよりも……なんか、懐しさを感じたな。」
「記憶がねぇからどんな人なんて知らねぇだろうな。ならばこれは分かるか?百々、エリュっていう名前は覚えてるか?」
「……いや、なにも思いつかねぇ」
「ニルヴァーナ、あんまりコイツに負担をかけさせんなよ。」
「あぁ、ワリィな九十九。それと、少し話しすぎて喉が渇いた。少し休憩しよう。」
そう言うとニルヴァーナは服の中から酒の入ったビンを取りだし、飲み始めた。四人はそれを黙ってみていた。と、悠岐は心の中で語る。
(こいつ、何本酒隠し持ってるんだ?)
ニルヴァーナから告げられるエリュシオンの計画。悠岐達はただ驚愕の言葉を漏らすばかり・・・。
次作もお楽しみに!