場所は変わって魔法の森。そこではユニ達とかくかくしかじか話し合って見回すことにした楓がいた。
「・・・全く、私一人で行動させるとはな。」
一人でぶつぶつ愚痴を言っている中、彼女は突然足を止めてしまう。彼女の目線に映っていたのはキノコをせっせと集めている少年がいた。少年を見た楓が彼に話しかける。
「お前、こんなところで何しているんだ?危険だから安全な所へ避難するんだ。」
「これは、毒キノコか・・・。」
そう言って目の前の少年は手に持ったキノコを口に運んだ。
「なっ!?」
楓は思わず声を上げる。無理もない、今少年は自分で毒キノコと言っておきながらそれを口に運んだのだから。それを見た楓が少年に言う。
「お、おい。大丈夫なのか?」
「ん?……あぁ、大丈夫だよ。えーと……。」
「?」
「名前、なんだっけ君」
「私か?私は出野楓。お前の名前は?」
「……あぁ、そうだった。楓、カエデちゃんだったね。僕は琥珀。どこの誰でもない、ただの琥珀だよ。」
「・・・私を知っているのか?」
「知ってるもなにも、僕はなんでも知ってドベェ」
目の前の少年『琥珀』は言葉の途中で口から血を吐き出した。
「なっ!?おい大丈夫か?さっきのキノコが原因じゃないのか?」
そう言うと彼女は血を吐く琥珀の背中を優しく擦った。
「だ、大丈夫だよ。ありがとうね。それにしても……なるほどね。あのキノコを食べるとこんな感覚になるのか……。」
「しかしお前、どうしてあれが毒キノコだと知って食べたんだ?」
「知ってたから食べたんだ。知識としてあのキノコを食べると何が起こるのか、それを知ってるのならあとは体験してみるしかないだろう?」
「体験を求める、か。何処かの誰かさんが嫌うタイプだな。」
「はは、人類最強には絶対会いたくないね……。」
まだ毒が残っているのか、顔色が悪いまま琥珀はそう返事をした。
「顔色が悪いぞ。少しここらで休んだらどうだ?今起こってる状況は良くないが・・・。」
「いや、それは遠慮しておこうかな」
座り込んでいた彼は立ち上がり目の前の空間を睨みつけながら言った。
「向こうさんもそうしてはくれないみたいだしね。」
「さっき人里で少し異変があったらしくてな、今や幻想郷は大騒ぎだ。」
「あれ、いま目の前から殺気を感じたんだけど気のせい?……まぁ、いいや。それにしても、人里で異変ね。まぁあそこにはワーハクタクと蓬莱人がいるから大丈夫じゃない?」
勘違いをしていた彼は欠伸をしながらそう言う。まるで、自分は関係ないと言っているかのようだ。
「よく分かったわね、琥珀イーグナーウス」
その声が聞こえた瞬間、楓は咄嗟に辺りを見回し、琥珀はため息を吐いた。
「!?誰だ!」
「勿論だとも。」
琥珀が言った瞬間、二人の前に女性としては長身で腰まで伸びる銀髪に青い瞳の女性が姿を現した。
「!?」
「やぁ、神となった元人間さん。いったいなんの御用かな?」
「おや、私の名前は呼ばないのかしら?」
女性の問い掛けに琥珀は両手を上げてやれやれのポーズを取った。
「分かってるくせに。呪いを掛けたのは君なんだから。」
「琥珀、こいつは一体!?」
「悪いけど呪いのせいで名前は言えないよ。それでも説明できる範囲でならしてあげられるけど、どうするカエデちゃん?」
「代わりに私がしてあげる。」
二人の話に女性が首を突っ込んだ。琥珀はため息をつき言った。
「君もなかなかバッサリくるよねぇ……。」
「ククク、じゃあ話すわよ。一回しか言わないからちゃんと聞くようにね。私の名前はエリュシオン。星熊九十九のいた幻想郷を破壊した張本人。そしてその子、琥珀イーグナーウスが私の名前を言えないのは私が呪いをかけたからよ。その呪いとは、名を言えば記憶が消える呪い。」
「名を言えば記憶が消える呪いだと?」
「そう♪だから私の名前を言えないのよ。」
「人の名前を言えないというのはなかなか辛くてね。君を表した言葉がそろそろ100を超えそうだよ。」
「ククク、いい様ね。アンタが辛くしている様子を見るのは好きよ。」
「例えばだけど『手入れをしてない人のような長さ髪と女とは思えない位のバカでかい身長に見るだけで吐き気がする顔』とかだね。」
終始ニヤニヤとしながら彼は言った。
「アンタ、それは私のことを言っているの?」
琥珀を睨みながら言う彼女の目は鋭く、楓は少し怯んでしまった。琥珀は楓を自身の後ろに下がらせながらも、煽りを続ける。
「どうかな?結構上手く表現出来てると自負してるんだけど」
「別にアンタと戦うつもりなんてないわ。なんせ、アンタは知識では油断ならぬ相手だけれど力では眼中にないわ。」
「別にぃー戦うつもりでぇー煽ってた訳じゃぁーないんですよぉー?」
(・・・なんだコイツ、うざい。)
心の中で言う楓とは別にエリュシオンは手に握り拳を作り、怒りを我慢するような表情を浮かべて言う。
「煽りとは思ってない。中々表現出来ていていいと思っていただけよ。」
「……意外と高評価で驚きの琥珀さんですよ。」
言葉が出ないようだ。恐らくそこまで言われるとは思ってなかったのだろう。と、彼の後ろにいた楓が言う。
「おい琥珀、あんなに煽って大丈夫なのか?奴が何かしてくるかもしれないぞ。」
「大丈夫さ。彼女は1度言葉にしたことは曲げないしっかりした性格をしてるから。戦いにはならないよ。……多分。」
「多分!?」
二人が話している中、エリュシオンが口を開いた。
「随分と面白いわね、琥珀イーグナーウス。星熊九十九のいた幻想郷のようにまた幻想郷を壊したくなった。」
「壊すことに関しては何も言う気は無いよ。というか止める力も実力も無いし。」
「下がってろ琥珀。こいつの相手は私がやる。」
そう言うと楓は琥珀の前に立ち、刀を構える。
「ならサポートくらいはしようかな。この幻想郷は居心地がいいからね、ひいきさせてもらうよ。」
楓に続くように琥珀は黒い翼を出現させ、自身の周りに『文字』を浮かばせた。そんな二人を見たエリュシオンが笑みを浮かべながら口を開く。
「アンタ達、私と戦うつもり?アハハ、笑わせないで。今のアンタ達が私と戦ったところでアンタに勝ち目はない。」
「やったこともないくせに勝手に決めつけるな!!」
「勝てるとは思ってないさ。ただ派手にやれば誰かが気付いてくれるでしょ。」
「誰かが気づく、ねぇ。私そういうの嫌いなのよね。だからアンタ達との戦いはお預けにしてあげる。」
「逃げるつもりか?」
「そうしてくれるとありがたいね。」
「逃げはしないわ。代わりを呼ぶだけよ。アンタ達の相手にはちょうどいいかもね。」
「私達にとってちょうどいい相手?そんなの関係ない。戦いに相性なんて関係ない!!」
「戦いは感情論じゃあ無いんだよ、カエデちゃん。君だってゲームで魔王を倒す時にレベル1で挑まないでしょ?それと同じさ。」
「・・・そう、だな。」
話す二人を無視するかのようにエリュシオンが右手に赤い光を宿し、口を開く。
「さぁおいでなさい。頽廃に爛れし炎の闘神、ニルヴァーナ!!」
そう言った瞬間、エリュシオンの背後に突如として長身で赤い髪、骨が透けている左腕を持つ男が現れた。
「やぁ、ニルヴァーナ。髑髏の調子はどうだい?」
「おいおいどうした母さん。テンション低いじゃないか。」
「フフッ、そうね。」
琥珀を無視するかのようにニルヴァーナがエリュシオンに言った。
「・・・無視されてるぞ、お前。」
「いやまぁ、嫌われる事や憎まれる事はいっぱいしたから納得だけどさ」
「琥珀、ニルヴァーナはエリュシオンの下僕なのか?」
自身の翼をいじって遊んでいた琥珀は楓からの質問に遅れながらも答えた。
「彼は彼女の息子だよ」
「息子!?」
驚く楓にニルヴァーナが口を開く。
「フフッ、分かってないぜgirl。俺はただの母さんの息子。そして俺は母さんのように可愛い人間ちゃんを解放してやるのよ。」
「解放だと!?」
「へー。それの一人が伊吹百々かい?」
琥珀の言葉と同時にニルヴァーナはエリュシオンの肩に触れ、言う。
「そうさ。なぁお前ら、悩んだりしたって楽しくないだろ?苦しんだり悲しんだりしたって、つまらないだろ?」
「・・・?」
「それは人それぞれさ。中にはその過程が大好きな困った人もいるみたいだよ……。」
「人里で異変起こしたあいつも楽しそうだったけどな。自分の欲望に忠実で。」
「あー、彼はほら、あれだから……。」
「何勝手なこと言っているんだ!!」
「お前達だって、余計なことを考えないで済んでるのは昔の記憶を無くしたからだぜ?」
「昔の記憶だと!?」
「ちょっと話している所いいかな?」
「?」
琥珀の言葉を聞いてエリュシオンとニルヴァーナは同時に声を上げる。そんな二人とは別に琥珀が口を開いた。
「ニルヴァーナ、君は何のために出てきたの?ただカエデちゃんと話すためなのかい?」
「そんなわけあるか。俺は母さんの頼み事で、お前らを処理しに来たのさ。まぁ少しくらい話したって構わないだろ?」
「まぁ、構わないけどさ……」
琥珀はそう言って右手を上げる。
「僕は待つ必要無いよね?」
上げた右手を振り下ろすと、ニルヴァーナに気づかれないように配置していた『爆』の文字が彼を囲むように爆発した。
「おっと!」
それに咄嗟に反応した二人は攻撃を避ける。そんな中、琥珀が楓に言う。
「カエデちゃん、知るべき事と知らないほうがいい事があるのを覚えた方がいいよ。君の性格じゃあ後々痛い目をみるからね。」
「あぁ、分かった。」
二人が話している中、エリュシオンはニルヴァーナに背を向けて言う。
「んじゃ、アンタに任せるわよ。」
「任せな、母さん。」
そう言った瞬間、エリュシオンは霧のように消えていった。
「なら良し。さぁ炎の闘神ニルヴァーナ。こんなものじゃあないでしょう?」
「さぁ、最高にクールでドープなショーといこうじゃないの。」
そう言った瞬間、彼の周りに目の光ったドクロが現れた。
「ロケンローだぜぇー!」
ニルヴァーナが叫んだ瞬間、ドクロが一斉に二人の前を浮遊し始めた。
「なんだこれは!?」
琥珀が言った時だった。二人の周りを浮遊していたドクロが一斉に爆発した。
「くっ!」
「あ、足持ってかれた」
そういう琥珀は右足が吹っ飛んでいた。
「琥珀!!」
「仲間を気にしないで、弾けていこうぜぇー!!」
そう言うとニルヴァーナは再びドクロを二人の方へ飛ばした。
「この身体はもうダメかな。」
琥珀は楓の前に翼を使って移動した。そして言う。
「さて、少しでもダメージを抑えておこうか」
そう言って飛ばしてきたドクロを右手で殴り飛ばした。
「すまない琥珀!!」
そう言うと彼女はニルヴァーナの元へ走っていく。
「くらえ!!」
そう言うと彼女はニルヴァーナの肩を斬りつけた。
「狙うべきはお腹だからね!あ待って待ってドクロ多いから多っ・・・。」
琥珀は言葉を最後まで繋げられず爆発に巻き込まれた。そんな中、楓は違和感を感じていた。肩を斬りつけた筈なのに手応えがない。恐る恐る彼女はニルヴァーナの肩を見る。
「効いてないぜ、可愛い子ちゃん!!」
そう言うとニルヴァーナは楓の腹を蹴った。
「ガハッ!!」
腹を蹴られた彼女は木にぶつかり、その場で吐血する。
「カエデちゃん、大丈夫?」
爆発に巻き込まれたハズの琥珀が楓の前に現れ、彼女の体を起こした。
「うっ、く・・・。」
相当なダメージを受けたのか、楓は腹を抱えたままだった。
「ありゃりゃ。『治癒』の文字を当てておこうか。……それにしてもニルヴァーナ、女の子相手にずいぶん酷いことするね。」
「母さんの頼み事は断れなくてな、お前達を容赦なく始末するのが俺のやり方よ。」
「まぁ、君たち闘神らしい考え方だ。……さて、ニルヴァーナ。」
ニヤリと琥珀が笑った。
「足元にご注意を。」
「なんだ?」
そう言うとニルヴァーナはゆっくりと下を見る。そこには『一撃失神』の文字があり、ニルヴァーナはそれを踏んでしまっていた。
「しばらくは固まってなさいな。」
「うおぉ!いてぇよ!」
「さ、カエデちゃん逃げるよ。」
「あ、あぁ。」
「逃がしはしないぜ!!」
その叫び声が聞こえた瞬間、琥珀に向かって酒のビンが投げつけられた。
琥珀「『爆炎』」
酒ビンが当たる前に突如して起こったそれによりビンは溶けてなくなってしまった。
「つーかまえた。」
その声が聞こえた瞬間、ニルヴァーナは楓を抱えていた琥珀を蹴りつけた。
「チッ。『転移』」
琥珀は『転』と『移』の文字を楓に付け、人里へ飛ばした。そしてニルヴァーナの方を向き、言う。
「まったく、しつこい男は嫌われるよ?」
「母さんに失神無効のスキルつけてもらって正解だったぜ。それに、お前が飛ばしたあのdevilgirlの元にはドクロを飛ばしてやったぜ。到着しても怪我するのに変わりはない。」
「……ドクロって、これの事?」
彼の右手には飛ばしたはずのドクロが握られていた。
「なっ、お前いつのまに!?」
「ちょちょいと自分に『速』を打ち込んでね。……それよりもさ、これ止めてくれない?さっき適当に『拡』と『大』を打ち込んだら剥がれなくなってさ……」
琥珀の額に汗が浮き出る。
「このまま爆発したら僕らヤバいんだけど……」
「誰が止めるかよ。」
「いや、知ってたけどさ。とりあえず『停』と『止』を2度書きしておこうかな。……で、これからどうするの?」
ドクロを握ったまま琥珀はニルヴァーナへ問いかける。
「僕個人としてはみのがしてほしいんだけど」
「あの可愛い子ちゃんは仕方なく見逃すが、お前は逃す訳にはいかないぜ。」
そう言った瞬間、ニルヴァーナはスイッチを押すかのように右手の親指を閉じた。
「え、ちょ、」
「……あ。」
琥珀の能力により範囲が『拡大』し、威力も『拡大』したドクロが彼らを襲った。
「ペェェェェェイィィィィィン!!」
魔法の森にニルヴァーナの叫ぶ声が響いた。爆発が治まった後、ニルヴァーナは一人立ち上がり、口を開く。
「あいつがいるかもしれねぇから声を上げたが、いないようだな。さて、俺は用事を済ませたし、母さんの言われた通りにするか。自分のやりたいことをやるってな。ヒヒヒ、待ってな、百々!」
楓の負傷、琥珀の消失。そんな中、ニルヴァーナは百々の名を言う。一体何故・・・。
次作もお楽しみに!