悲しむ二人とは別にエリュシオンはナイフの刺さる左目を押さえながら言う。
「よくも私の目をやってくれたわねヴァン・グレイダー。まぁ、いい。始末できただけマシだわ。」
と、ビオラが握っていたヴァンの手を放し、エリュシオンを見て言う。
「あなたは私とセコンド様で始末します。ヴァンを殺された恨みは大きいですよ。」
「覚悟するがいい、異形の者よ。」
そう言うと二人は戦闘体勢に入った。それを見たエリュシオンは笑みを浮かべながら言う。
「フフフ、正義を気取るのねセコンド。アンタはかつて帝王メルト・グランチと共に幻想郷を破壊しようとした存在。」
「そんな過去などもう余には必要ない!!」
そう言うとセコンドは勺をエリュシオンに振り下ろす。
「フフッ。」
エリュシオンはそれを笑みを浮かべながら容易く避けた。そんな中、ビオラが息絶えたヴァンに言う。
「ヴァン、あなたの仇は必ずとって見せます。ですので今はゆっくりと休んでいてください。」
そう言うとビオラはセコンドとエリュシオンが戦っている場へ向かう。
「動震『大地の刃』」
スペルカードを発動するとセコンドは勺に溜めていたエネルギーをエリュシオンに放つ。それを見たエリュシオンはスペルカードを取りだし、発動する。
「完防『イージス』」
その瞬間、エリュシオンの回りに紫色の結界が現れ、そのままセコンドの放った攻撃を防いだ。
「そんな、セコンド様の攻撃を防ぐなんて!!」
思わず声を上げるビオラ。そんな彼女とは別にエリュシオンは再びスペルカードを発動する。
「貫通『ゲイボルグ』」
その瞬間、エリュシオンの空いている左手に緑色の槍が現れた。そして口を開く。
「さぁ現世の絶対なる支配者セコンド。アンタはこの攻撃に耐えられるかしら?」
そう言うと彼女は槍をセコンド目掛けて投げつけた。それを見たセコンドはエリュシオンに言う。
「良かろう、其の方の攻撃、見事耐えて見せようぞ!」
そう言うとセコンドは勺を構え始めた。
「セコンド様は私がお守りします!!」
その声が聞こえた瞬間、セコンドの前にビオラがやって来てエリュシオンの攻撃を防いだ。それを見たセコンドが彼女に言う。
「ビオラ!!」
「ご無事ですか?セコンド様。」
「ビオラ、無茶はするな。例え其の方の能力であろうと油断は禁物だ。」
「申し訳ありません、セコンド様。」
二人が話している中、エリュシオンは目を細めて言う。
「そっか、確かアンタの能力は『攻撃を受けない程度の能力』だったわね。だからどんな強大な力を持った攻撃であろうと回りに被害をもたらすことなく防げる。ガイルゴールもよくそんな能力与えたわね。」
「・・・何が言いたいのです?」
「簡単なことよ。アンタを始末する、それだけよ。」
その言葉を聞いたセコンドはエリュシオンに言う。
「そう容易くはやらせぬぞ。ビオラにヴァンと同じ運命を辿らせる訳には行かぬ!!」
「無理無理、私の能力を分かってない以上はそんなこと出来ないわ。」
「やってみなければ分かりません!!」
そう言うとビオラは光の玉をエリュシオンに向けて放った。それを弾いたエリュシオンは笑みを浮かべて言う。
「さっきのヴァン・グレイダーとの戦いを見てなかったの?」
「・・・いいえ、見てましたとも!!」
そう言った瞬間、ビオラの顔に笑みが浮かんだ。それを見たエリュシオンは首を傾げる。そんな彼女とは別にビオラが急に叫んだ。
「今ですセコンド様!!」
「なっ!?」
その言葉を聞いた瞬間、エリュシオンは咄嗟に後ろを振り返る。それと同時に彼女の背後にいたセコンドが彼女の左腕を斬り落とした。
「ッッ!!?」
斬り落とされた場所からは鮮血が垂れる。その激痛に思わず声を上げるエリュシオン。そんな彼女とは別にビオラはスペルカードを発動する。
「雷鳴『天命の雷』」
そう言った瞬間、空から一つの雷がエリュシオンに向かって落ちてくる。それを見たセコンドは咄嗟に避ける。
「ぐわぁぁぁ!!」
雷を受けたエリュシオンは声を上げる。そして雷が落ちた場所が爆発した。間一髪で雷を避けたセコンドはビオラの元へ行き、口を開く。
「危ない行為だったが、よくやったビオラ。」
「いえ、これもセコンド様の配下の役目です。」
ビオラが話している中、セコンドは爆発した場所を凝視し、言う。
「・・・奴は、倒せたのか?」
「分かりません。倒せればいいのですが・・・。」
「倒せるわけないでしょう?」
「はっ!!」
後ろから声が聞こえたため、二人は咄嗟に後ろを振り返る。
「ぐはっ!!」
その瞬間、セコンドが背後にいた者に蹴り飛ばされた。
「セコンド様!!」
蹴り飛ばされたセコンドの元へビオラが向かおうとした時だった。グサッという音と共にビオラの左目に何かが刺さった。
「ぐっ!?」
突然の出来事に頭が混乱するビオラは空いている右目で左目に刺さっているものを見る。彼女の左目に刺さっていたのは人の右手の親指だった。
「おやおや、この程度で私を倒せるとでも思っていたのかしら?ビオラ・ハイラルド。」
その声が聞こえたのと同時にエリュシオンが笑みを浮かべてビオラの側に現れた。右手の正体はエリュシオンだったのだ。
「くっ、なんで・・・。」
ビオラは刺さるエリュシオンの手を掴み、放そうとするが固く、放れなかった。それと同時に驚きの声を上げる。無理もない、先程セコンドによって斬り落とした筈の右腕とヴァンによって刺された筈の目が何事もなかったかのように元に戻っているからだ。と、エリュシオンが笑みを浮かべて言う。
「この程度で死ぬくらいなら誰だって苦労しないわよ。そして、折角だから教えてあげる。私の能力は『能力を削除する程度の能力』。つまり相手が保持している能力をこの世から抹消することが出来る。」
「ま、まさ、か・・・。」
「そう♪私はビオラ・ハイラルド、アンタの能力を削除させてもらったわ。」
彼女の言葉を聞いた瞬間、ビオラの頭の中が空っぽになった。そんな彼女とは別にエリュシオンが再び口を開く。
「そうだ、おまけにもうひとつやってあげる。アンタのそのヘッドフォンを壊して耳の真実を暴いてあげる。」
「エリュシオン、止めろ!!」
咄嗟にエリュシオンに言うセコンド。そんな彼を見て彼女は見下すような目をして言う。
「残念だけど、止めるつもりはないわ。人間に恨みのある私が人間の言葉を聞くと思う?」
「止めろ!!」
「答えは、NOよ。」
そう言った瞬間、エリュシオンはビオラがつけているヘッドフォンを指で弾いた。その瞬間、ヘッドフォンが粉々に砕け、中から血が飛び散った。そのままビオラは倒れてしまう。
「ビオラ!!」
すぐに彼女の元へセコンドが駆け寄る。そんな中、エリュシオンがセコンドに背を向けて言う。
「これから私は幻想郷へ向かう。現世は少し来るのが早すぎた。じゃあ、また会いましょう。」
そう言うとエリュシオンは霧のように消えていった。それと同時に屋上の扉が開き、白い服を着た男達がやって来た。そしてセコンドに言う。
「帝王軍の救護部隊です。怪我人は!?」
「・・・余はいい。ビオラとヴァンを頼む。
ビオラとヴァンが救護部隊に救護されている中、セコンドはその様子を黙って見ていた。と、そんな彼の元へ一人の人物がやって来た。それに気づいたセコンドが人物に言う。
「・・・グランチか?」
「然り。」
やって来たのは長身で後ろ髪を束ねていて両腕を背に回している男、メルト・グランチだった。と、メルト・グランチが口を開く。
「残念だな、まさかヴァンが死ぬとはね・・・。」
言葉を発する彼の声は少し震えていた。そんな彼にセコンドが言う。
「奴との戦いに犠牲はつきものだ。だが、何故ヴァンが死ななければならなかったのだ・・・。それに、ビオラに至っては聴力、片方の視力、そして能力を失った。」
「帝の優秀な者がこの有り様になるのだから奴は相当侮れぬ相手だな。」
「あぁ、そうだな。故にグランチ、何故救護部隊が来るのが遅くなったのだ?」
「あぁ、それはだな。卿は分からないがこちらに巨大不明生物が出現したのだよ。」
「なんだと!?」
「死傷者は確認されていないのだが、建物による被害が多かった。」
「その巨大不明生物とは?」
「身長約15m、推定体重10トン、そして人間に近い動きをしたゴリラだった。」
「・・・ゴリラだと?」
「動物園から脱走の報告もなければ飼育している住人もいない。恐らくエリュシオンとやらが送ったのだろう。」
「そいつはどうした?」
「帝王軍で始末し、今は研究部隊に研究させている。」
「・・・グランチ、1つ頼みがある。」
「なんだね?」
「・・・。」
セコンドは手に握りこぶしを作り始めた。そんな彼の手から血が垂れる。そして口を開く。
「・・・幻想郷へ向かってくれ。エリュシオンは今そちらに行っている。」
「幻想郷にか。分かった、マーグルを連れて行こう。ビオラは優理花に任せておく。」
「分かった、頼んだぞ。」
「承知した。」
そう言うとメルト・グランチは何処かへ行ってしまった。それを見届けたセコンドは空を見ながら言う。
「頼んだぞ。黒き友、氷の友、そして招来の友達よ。」
エリュシオンによって様々なものを失ったビオラ。幻想郷へ向かうメルト・グランチ。
次作もお楽しみに!