「なぁ、ここでなにしてるんだ?」
悠岐が鈴奈庵に集まる民衆の一人に話しかけた。
「なにって、あれ見てみろよ兄ちゃんたち……」
男の指さした先には本居小鈴が貼り付けられており、彼女の後ろには赤い文字で『天誅』と書かれていた。
「誰だか知らねぇが、ひでぇ事するよな……。あんないい子によ。」
それを見た魔理沙が口を開く。
「天誅?」
「誰があいつにあんなことを・・・。」
「っ!お、おい、あれ見てみろ!」
百々が指さした所には『天誅』と同じように赤い文字で
『伊吹百々、次はお前だ』
そう書かれていた。それを見た瞬間、悠岐が少し焦ったような口調で口を開く。
「あれって、お前に予告されてるってことじゃないのか!?」
「気をつけろ百々。敵がどこから来るか分からない!」
魔理沙の言葉を受け取った百々は顔を歪ませた。
「……俺だけに来るなら何も言わねぇよ。だけどよ、関係ない誰かを巻き込むってのは許せねぇ。」
「安心しな百々。俺は人を傷つけるような奴は昔から嫌いでな、そういう奴は懲らしめたくなるんだ。」
そう言った悠岐の目は赤く染まっており、既に刀を抜く準備をしていた。
「そう思うのはいいけどよ、こんな人の多い場所で刀なんて抜くなよ。」
そう言う百々も、両手に妖力を纏わせていた。それを見た悠岐は笑みを浮かべて言う。
「抜くつもりはないが、お前も妖力を漂わせてるじゃねぇか。お互い様だ。」
「はっ!違いねぇ。」
「・・・?」
突然何かの気配を感じた魔理沙がある方向を見つめる。それに気づいた悠岐が彼女に言う。
「どうした魔理沙?何かいるのか?」
「あいつ、いつからいたんだ?」
そう言うと魔理沙は民衆のいる場所とは逆の方向を指差した。それを見た百々が口を開く。
「……九十九、か?にしても、なんかいつもと違うような……。それに、輝夜は?」
「・・・!?百々、あいつに気をつけろ!!」
「は?何言って―――っ!?」
彼の言葉を止めるように九十九が百々へ向けて、弓を放った。それを見た百々が言う。
「九十九、まだ冗談で済ませられるぞ……」
「いいや、百々。あいつはお前の知るいつもの九十九じゃない。あいつ、まるで何かに操られているような感じがする。」
悠岐が言った瞬間、彼女は新たな矢を弓に番えた。
「……『
「っ!ぜ、全員逃げろ!!」
「ゲッ!」
百々の台詞と同時に悠岐と魔理沙は別方向に逃げた。放たれた矢は彼らの立っていた場所に着弾した。すると、その場からナニカが吹き出た。
「絶対に吸うなよ!イチイの毒だ!!」
百々の言葉を耳にした二人は毒の広がる空間から素早く離脱した。
「チッ、毒系の攻撃を使う奴は苦手なんだよなぁ。」
そう言うと悠岐は矢を放った九十九を睨む。
「毒だけじゃ無い。」
悠岐の言葉に百々は否定を示した。彼の言葉に魔理沙がすぐにくらいつく。
「何かまた面倒な効果があるのか!?」
「アイツの能力は千変万化だ。引き出しはあれだけじゃない。」
「なるほど、様々な効果の矢を打ってくるってことか!!」
そう言った瞬間、悠岐の頭の中に一つの疑問が浮かんだ。
(そういえば九十九は誰に操られているんだ?近くにそいつがいる筈!)
何かを閃いた悠岐が魔理沙と百々に言う。
「百々!お前は俺と九十九を惹き付けてくれ。魔理沙は近くに怪しい奴がいないか見てくれ!」
「なっ、わ、分かったぜ!」
「了解したが九十九の能力はそうじゃない!アイツの能力は『fateを使う程度の能力』だ!」
「fate?なら話は早い。俺はfate知っているからな!!」
「fateを使う程度の能力!?」
「あぁ。」
「どんな能力なんだ?」
チラリ、と百々は九十九に視線を送った。彼女は何もせずにただこちらを眺めるだけだった。彼女を見ながら百々は魔理沙に言う。
「九十九の世界には様々な英雄を記録する『座』ってのがあるらしい。あいつはその『座』にアクセスして英雄の力をその身に宿す。そんな能力だ。」
「なんだそりゃ・・・」
「英雄の力を使える奴だ。これはかなりめんどくせぇ。」
「でもアイツは鬼としての誇りを持ってる。普段は能力を使おうとしねぇ。だから俺もどんな能力があるか分からねぇ。」
「注意していくぞ百々。その間に魔理沙は頼むぜ。」
「あぁ、分かったぜ!」
九十九の瞳は光を宿さず、ただ百々を写していた。
「……こい」
「いくぞ!」
百々の台詞と同時に悠岐は刀を抜き、九十九に振り下ろす。
「甘い……」
悠岐の振り下ろした刀を九十九は軽やかに躱し、代わりに矢を1発悠岐に向けて放った。
「それはお互い様だぜ。」
九十九の放った矢は悠岐の顔の横を過ぎていった。そんな彼の顔には笑みが浮かんでいた。
「かすりも、しない。」
「俺のこの目が避けるタイミングを教えてくれるんだぜ!」
そう言うと彼は九十九の腹を蹴りつけた。
「……『静謐』」
九十九の言葉に、百々は驚いたように声を上げた。
「悠岐ぃ!その足を退けろ!!」
「ッ!!」
百々の言葉を聞いた悠岐がはすぐさま足を退けた。しかし、遅かったのだろうか。彼女に触れていた彼の靴は毒によって溶けていた。
「大丈夫か!?」
「クソッ!二万円もした靴が毒で溶けちまった。魔理沙の奴、まだ見つからないのか?」
「気をつけろ。今のアイツは『静謐のハサン』になってる。アイツの身体はすべて毒だ。触れたら死ぬぞ。」
「本来なら燃やし尽くしたいところだが仲間だ。そんなことは出来ない。」
そんな中、箒に乗って空から敵を探していた魔理沙があるものを見つける。
「な、なんだあいつは。屋根の上で百々達を見てやがるぜ。」
そう言うと魔理沙はスペルカードを発動した。
「彗星ブレイジングスター!」
「うおっと!?きゅ、急に何をするんだ!?最近の女の子は暴力的ってか!」
「そこかぁ!!」
そう言った瞬間、悠岐は屋根の上にいた者の足を掴んだ。
「おっと、不味った!!」
「感謝するぜ魔理沙!!」
そう言うと彼は男を無理矢理屋根から降ろし、そのまま地面に叩きつけた。
遂に九十九を操っていた正体を見つけた悠岐。一体誰なのか!?
次作もお楽しみに!