第0話 過去の悲劇
「おぉ、なんて可愛らしい子なんだ!」
時は16年前、忘れ去られた人達が訪れる場所、幻想郷。その中の人里ではある一組の夫婦に新たな命が誕生した。
「見ろ!僕達にも子供が出来たんだ。」
「オギャア、オギャア!」
「あぁ、なんて可愛い女の子なんでしょう!折角だからいい名前をつけてあげましょうよ。」
「僕が決めていいかい?」
「えぇ、構いませんよ。それで、名前は何と言うのですか?」
「ユニだ。とても女の子らしい名前だろう?」
「あなた、これからは私達がユニを大切にしていきましょう。」
だがそんな幸せは崩れていった。10年後、夫が急死した。それが信じられなかったのか、妻はショックを受け、遂には部屋から出なくなった。10歳になったユニは母親の様子を見ようと部屋をノックした。
「お母さん、出てきてよ。」
「・・・・」
彼女が呼び掛けても返事はなかった。そしてユニは再び口を開いた。
「私だってお父さんが死んじゃったことは信じたくないよ。けど、これが現実だから仕方ないじゃない。だからこれからは私と一緒に生きよう。」
そう言うとユニは部屋の扉のノブに手をかけた。どういう訳か、鍵は開いていた。部屋の中を見た瞬間、彼女は思わず悲鳴を上げた。
「いっ、いやぁぁぁぁぁ!」
そこにあったのは・・・・・・
無惨な姿をして息絶えた妻がいた。彼女の右手には血が付着しているナイフが握られていた。そして首元にはナイフで刺した傷跡が残っていた。
「お、おか、おかあさ・・・うぷっ!?」
部屋には死臭と血の臭いが漂っていたため、ユニはその臭いを嗅ぎ、耐えきれなくなりその場でげぇげぇと唸りながら吐いた。そして言った。
「どうしてみんな死ぬの?そんなに私のことが嫌いなの?それともお母さんはお父さんの死をそんなに受け入れたくなかったの?どうして、どうして・・・」
彼女の目からは大量の涙の粒が零れていた。と、その時だった。突如彼女の背後に目玉だらけの世界、スキマが現れた。そしてそこから美しい姿をした女性が姿を現した。そして泣くユニに言った。
「可哀想に、まだ幼いあなたが大切な家族を失ってしまうなんてね。」
突如背後から声がしたため、ユニは後ろを振り返る。そしてそこにいる女性に言った。
「・・・あなたは、誰?」
「私の名前は八雲紫、こう見えてもスキマ妖怪よ。」
「スキマ妖怪が私に何の用なの?」
「あなたにはやってもらうことがあるの。それは幻想郷の守護。」
「幻想郷の守護?私に出来るというの?」
「あなたにしか出来ないことよ。あなたは『あらゆるものを呼び寄せる程度の能力』の持ち主なんだから。」
「あらゆるものを呼び寄せる程度の能力?」
「そう、それがあなたの持つ能力。あなたは気がつかなかったようだけど、あなたは生まれつきその能力を持っていた。それこそ、幻想郷を守護するのに必要不可欠な存在なの。」
「私が、この世界を?」
「私についてきなさい。あなたの進むべき道を教えてあげるわ。」
そう言うと彼女は再びスキマを開いた。そしてユニに手招きするとそのままスキマの奥へ入っていった。ユニは少し不安だったが、それでもスキマの中へ入っていった。
そして、ユニの幻想郷での生活が幕を開けた。