ナザリックへと消えた英雄のお話   作:柴田豊丸

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宴の熱狂の最中で:後編

 少女はこの時を待っていた。イヨ・シノンの周囲から人気が失せ、彼の保護者である【スパエラ】の面々から横やりが入らなくなるこの時を。

 リウル・ブラムは宿に帰ったし、ベリガミニ・ヴィヴィリオ・リソグラフィア・コディコスは二階に取った寝室で寝入っている。ガルデンバルド・デイル・リブドラッドは喧騒の彼方で力比べのチャンピオンとして挑戦者たちと激闘を繰り広げている。今回仕事を共にした【戦狼の群れ】の面々もほぼ同様に不在か、それぞれが自由に離れた場所にいる。今が好機だった。

 

 無論彼らは歴戦の凄腕だ。例えば裏組織の刺客の如き者が場に居れば、如何に酔っていようと感知し得たかもしれない。しかし少女は知識面頭脳面は兎も角、技能や身体能力としては一般人並みの存在でしかない為、体捌きや所作から異常を察知する事は出来ない。当たり前だ、異常など無いのだから。

 少女の護衛は真実少女の護衛でしかない上に、本当の目的を知らされていない。当人たちも『気まぐれな少女がお忍びで物見遊山に出てきた』としか思っていないのだ。実際普段から頻繁に城下をうろついているので慣れたもの、目立たず離れた場所で場に溶け込んでいる。

 

 目的であった少年自らリウル・ブラムの傍に行く為に宴の中心から離れ、そしてリウル・ブラムがすぐさま少年から離れた。この誂えたかのような好都合な状況、少女が見逃す筈は無かった。

 

 こうして少女、自称マリーは活沸の牡牛亭一階の酒場の隅っこで、まんまとイヨ・シノンの隣の席に何食わぬ顔で座っているのだった。

 

「ま、そんなに畏まらないでくれ給え。お互い初対面だが歳は近いし、フランクに行こうじゃないか」

 

 眼前の少年──女装だが──は僅かに困惑を滲ませながらも、マリーの提案に頷いた。マリーはその困惑にまるで気付かなかった風を装い、忙しく飛び回っている店員の一人に飲み物を注文する。

 

「此処のニバロン茶を飲んだことはあるかね? 普段酒ばかり飲む客が多いから影は薄いが、中々イケるよ。少し苦みがあるが」

「苦いならちょっと遠慮したいんで──」

「敬語」

「え、遠慮するよ」

 

 注文を受けた店員は中途で空いたテーブルの空食器を片づけたりしながらも、素晴らしい速さで飲み物を持ってきてくれた。この手早い対応もこの店の長所の一つなのだろう。

 

 まだ微妙に距離の遠い少年と少女は、少女の側が主導して乾杯を交わした。ニバロン茶とは要するに紅茶の一種で、あまり高級な茶葉では無いのだが、その独特の風味は一部で人気がある。酔っ払いに飲ませると酔い覚ましの効果もあるらしく、酒場兼宿屋である活沸の牡牛亭に置いてあるのはその為だろう。

 

 幾度となく城下を歩いた経験のある少女は、その出自からすれば破格なほど庶民の生活に詳しいのだ。

 

 自称マリーの正体は、勿論公女であるリリーである。髪や瞳の色も他者の手によって施された魔法的・非魔法的な手法による変装だ。顔付き自体も若干弄っているので、元の顔とは少し違う。今後公女リリーとして会う事があっても、似ているだけの別人としか思われない様にしてあるのだ。

 そうまでしてリリーが出張ってきた今回の目的は、言うなれば威力偵察であろうか。

 

「聞きしに勝る容姿だな……十六歳というのは本当かね? 私より一つ上には見えないが」

「本当に十六歳だよ。マリーこそ、僕より年下なの? なんだかとっても大人びて、格好良く見えるな」

「ふむ、よく言われるよ。まあ、生まれながらに発育は良かったからな。最近少し胸が重い」

 

 公女として生まれた以上、外見の良さは大切なポイントだ。自国の姫君が美しいのと美しくないのとでは、国民の寄せる感情が違う。いずれは嫁いで他家や他国と縁を繋ぐ役目を果たすのもあり、自身の価値をより高く維持するのは支配者層に生まれた者としての義務とも言えるのだ。

 故にリリーは頭脳と同じくらい容姿にも気を配って養育されたし、自身でもそうして来たが、実際にこうして異性から言葉で伝えられると実感が湧く。

 惜しいのは、出来れば現在の変装では無く、異名の由来ともなった白銀の髪色と紅の瞳の、本来の姿の時にその言葉を貰いたかったのだが。

 

「そ、そういう意味で言ったんじゃないよ、僕は!」

 

 ぷるぷると首を振る少年に対し、少女は笑い声を上げて冗談だと返した。

 

 威力偵察とは敵の勢力や装備を知る為に、実際に敵と交戦し、肌身で敵戦力を推し量る事だ。

 この場にいるのは公女リリーでは無く商家の娘であるマリー。その前提を最大に生かして話し、問い、反応を見る事でこのイヨ・シノンという人物を知る。

 

 話の内容は、ぶっちゃけ適当でも良い。今はまだ工作以前の情報収集段階だからだ。それこそ『好奇心だけで家を抜け出してきた箱入り娘』が興味のままに無遠慮な質問を続ける形で構わない。多分政治の話などしても碌な返答は無いだろうし、あまり偏ると邪推を呼ぶ。雑談の中で様々な話題を振って、その反応から『イヨ・シノンという一個人』を推し量る。

 

 その為にリリーはこうして城から出てきたのだ。しかし、

 

「いや、私はね。君の噂を聞きつけてこうして館から脱走してきたのだよ。最低限護衛を連れていけば後で言い訳も立つだろうと打算して、あの老英雄と互角に打ち合った強者に会いたい、実際に会って話をしたいという乙女心一心でね? まさかその強者が──」

 

 リリーはあえてねっとりとした視線でイヨ・シノンの肢体を舐め回す。少年が反射的に自身の体を手で庇うほどの粘度は最早変質者か色情狂もかくやのいやらしさだ。少年が着込んだ女物のスーツは非常にタイトで、細く柔らかそうな体のラインがはっきりと出ている。そういう意味では裸同然だ。主に太腿や内股、股関節、尻と言った下半身を重点的に眺め倒し──

 

「お色気女装でフィーバーしているとは思わなかったよ。なんだね、自分の太腿や股間、ケツのエロさを自慢したいのかね? なんとスケベな子だ、ガド・スタックシオンが草葉の陰で泣いているよ?」

 

 実際のガドが今のイヨを見たら、間違いなく筋肉痛になるまで大笑いするだろうけども。

 

 いや、あえて無礼な事を言って反応を云々の目的抜きで、本当に予想外だったのだ。何を考えて女装なんぞしているのだろうか。そういった趣味がある事自体は別に犯罪でなければ個人の自由で良いと思う。公国に異性装そのものを罰する法律は無いのだから。

 

 しかし、この容姿と組み合わせるとある意味犯罪的である。主に性犯罪方面のあれこれを誘発するといった意味で。それらは半分冗談としても、リリーはあわや神域の才能を持つ者が二人いたのか、公城のお膝元である公都の情報網に穴があるのか、とびっくりさせられた意趣返しがしたかったのであった。にしても下品かつ無礼極まりないが。

 

「ガドさんはお元気です! 今日だって本当はこの宴会に来てくれる筈だったもの、サボるなって怒られてたから結局無理だったけど──って、この服装は別にそんなんじゃないよ!」

 

 僕の国では大人が仕事をする時に着る物で、露出も一切無いし全くいやらしくない大人の服なのだと言い募る少年を、リリーはばっさり切り捨てる。多分イヨの頭の中ではエッチ・いやらしいイコール裸・露出なので、肌が出てさえいなければ気にならないのであろうが、

 

「私の見る目は確かなのだよ。君本人はそういうつもりで着ていないのかもしれないが、その衣服の誂えは明らかにそういったアピールをする為のものだぞ。あからさまに肌を晒すとありがたみと淫靡さが薄れるからあえて全身を覆い隠し、しかし肢体のラインだけを誇示する事で、着用者の性的魅力を殊更に強調する。そういった目的で製作されたスーツの筈だよ、それは」

 

 魑魅魍魎が蠢く貴族の世界で生き抜いてきた眼力は、偉大なる父から教育によって受け継がれた審美眼は伊達では無い。服に込められた意図など一目で見抜ける。

 断言した少女に対し、イヨは割と真剣な怒り顔で語気荒く断固たる反論をした。普段ふにゃふにゃした表情ばかり浮かべている顔がキッっとして、ほんの少しだけ年相応の少年らしく見えた。

 

「この服は友達が僕の為に作ってプレゼントしてくれたの! そんないかがわしい意味なんて、一切! 全然! 全く! 無いから!」

 

 ある。

 

 少年は教えられていない上に騙されたので知らないのだが、この服をデザインしたイヨの友人こと白玉は、ぶっちゃけ自分の趣味嗜好のみを追及してこのビジネススーツを作ったのである。

 なにせイヨが関知していないこのスーツの真なる名からして『肌を晒す事だけがエロスでは無いシリーズその七~少年性と少女性の狭間にこそ神秘は宿る・下半身編~』というトチ狂いっぷりなのだ。

 

 

 

 

 話せば長くなる上に本筋とは全く関係のない話なのだが、元々白玉は生粋の武闘派プレイヤーだった。ガッチガチのガチビルドで固めた前衛職であり、その腕前は下の方とは言えランキングに名が乗る程。ユグドラシル全体ではセミトップクラスで、百レベルのプレイヤーであっても一つも所持していない事が珍しくないと言われるほど入手製作共に困難だった神器級アイテムを十は所持していた。

 全身を神器級で固めて山ほどの課金をする廃人の中の廃人と比べれば見劣りするが、一般プレイヤーと比べれば十分に廃人。ユグドラシル全体では明らかに上の方だが、精々中の上と上の下、その中間の存在。それが白玉だった。

 

 ユグドラシル歴七年で、イヨの友人たちの中では際立って長いプレイヤー歴を持つ彼女──少なくともアバターは女性だった──が、ガチビルドの前衛だった彼女が、そのプレイスタイルを生産職に転換した出来事、否、出会いがあった。

 

 それはユグドラシルの全盛期、イヨたちがゲームを始めるずっと前の、さるギルドへの侵攻。悪のRPギルドとして最も有名なギルドに攻め込んだ軍勢の中に、白玉はいた。

 

 彼女自身がかのギルドに恨みを持っていた訳では無く、ただ同じユグドラシルのプレイヤーが築いた大拠点に大人数で突っ込むという一大イベント、言わばお祭りに参加したかっただけだった。

 

 白玉はそのギルド拠点に、悪の名に相応しい不気味な墳墓に突っ込んだ。傭兵NPC等で膨れ上がった軍勢は千五百人にも達し、トップのギルドは参戦していないものの、数の暴力でもってあらゆる敵を粉砕するだろうと思われた。

 しかし出るわ出るわ、迎え撃ったのは極高の嫌がらせ性能を持った罠、罠、罠。難解極まりない上に引っ掛け満載のリドル、組み変わる迷路、低~中レベル程度の癖に的確に足を引っ張る特殊能力を所持した配置モンスター。そしてそいつらの相手をしている隙を狙って不意打ちを仕掛けてくる敵ギルメン。

 

 途中で白玉はなんとゴキブリの海に叩き込まれたりもした。それでも尚侵攻を止めなかったのは『あいつら絶対ぶっ飛ばす』という強い意志だ。害虫の海に泳がされた恨みは刃で晴らす、と。

 

 ヤスリでも掛けられたが如く徐々に数を減らしていったが、それだけで千五百の大軍が止まる訳はない。製作者の熱意が窺える女吸血鬼を倒し、地底湖の攻城用ゴーレムを空かし、見事な武器を持った蟲王を圧殺する。

 

 六階層目はジャングルだった。良くもまあこれだけの物を作り上げたもんだ、と感心してしまったほどの作り込みが為された樹木の海。配置されたモンスターや罠も地形に合わされ、強いこだわりを感じた。

 そして第六階層の守護者──そういう設定付きで生み出されたNPCが各階層にいたのだ、そのギルドでは──が姿を現した時、白玉は一撃で心を打ち貫かれた。

 

 六階層の守護者は闇妖精の姉弟だった。事前に調べた情報では、女装の方が弟で男装の方が姉らしい。そんな事より武器とか使う魔法とか装備とかテイムモンスターの種類とか調べろよと思っていたのだが、情報関連は防護がきつく、下の階層ほど不明な点が多いらしかった。

 

 そんな事はどうでもいい。白玉が目を奪われたのは、女装の弟の方だった。男装の姉も超可愛いのだが、魂に一番響いたのは可憐な女装少年だったのだ。

 白玉は困惑した。『私、男の娘趣味なんか持ってない筈なんだけど』と自己診断し、しかし強制ログアウト寸前で高鳴る心臓の鼓動は収まらない。

 慌てすぎて回避をミスった白玉は、女装弟のスカートの翻りに気を引かれすぎて死んだ。なんか横から鞭で打たれた後魔法をぶち込まれ、最後はフェンリルに噛まれて死んだ。どうせなら女装弟の方に止めを刺してほしかったが、世の中そううまくは行かなかった。

 

 その後更に下の八階層で残りの討伐隊も全員死んだらしいが、白玉にとってはそんな事、もうどうでも良い事だった。あの日の邂逅を切っ掛けに、ある種の覚醒を果たしたのだから。

 

 ──あの闇妖精の子、可愛かったな……。

 ──美少年の、女の子にしか見えない位の美少年の……男の娘の女装姿。悪くない。

 ──いや、むしろ良い。非常に良い。

 

 何時しかその想いは更なる昇華を遂げ、気付けばガチの前衛だった筈の職業構成は、生産職が八割を占めていた。主に武器防具や装飾品を自分の手で作る為だ。

 

 彼女は恋い焦がれたあの存在、闇妖精の男の娘NPC──誰かが自分の理想を煮詰めて結晶化させた存在、思いの丈が結集してできた筈の存在の自分版を作ろうと思い立った。

 

 ──確かにあのNPCには価値観を揺さぶられた。しかし、あの子はあの子を作った人の理想の結晶である筈。いわばその人にとっての最高である筈。

 ──私の理想は、私の最高は他にある。私の手で私の最高を形にしたい。

 

 例えば、白玉はミニスカートよりロングスカートが好きだ。スカートそのものよりパンツルックの方が好きだ。露出されるより隠された方が興奮する。そういった自分の好む要素を抽出し、好みの塊、何処をどう眺めてもストライクど真ん中の存在を作りたい。

 

 難しかった。服装は兎も角、自分の理想を現実の形にする行為はとんでもなく難易度が高かった。

 例えば絵で上手く出来ても、その外見を立体のアバターに起こした途端に違和感が出る。その違和感は小さくはなれど、完全には消えてくれない。創作及び製作の方面に関しては完全に素人だったため、最初期の試作は『これじゃない』感の塊の如き有様だった。

 

 長きに渡る練磨の甲斐あって着せる予定の服と武装だけは次々完成するが、肝心のNPCは完成を見ない。及第点のアバター外見案は幾つか出来たが、満点の太鼓判を押せる出来では無かった。中身あってこそ服装が輝くのだ、其処を妥協する事は出来なかった。

 

 悩むうちに時間は過ぎ、覚醒のきっかけとなったギルドは噂も聞かないほど活動が縮小した。少し調べた範囲で得られた情報では、メンバーの殆ど全員が引退したらしかった。未だランキングに残り続けている為誰かが維持はしているのだろうが、もしやあの闇妖精を製作した人物も引退したのかと思うと、ほんの少しだけ寂しくなった。

 

 昔からの友人もどんどん辞めていくし、NPC自体は後発の新しいゲームでも作れる。もう自分もユグドラシルを辞めてしまおうかと、そんな風に思い始めていた時だ。

 

 白玉は、作るまでも無く存在していた自身の理想に、天然物の最高に出会った。

 それは、過疎ゲーとなったユグドラシルでは実に珍しい新規プレイヤーらしき、人間種の少年アバターだった。そのアバターの性別が男であると分かったのは、初期装備の簡素な衣服が男物だったからに過ぎない。そうでなかったら普通に少女のアバターと判断して『可愛いな』位の感想でスルーしていただろう。

 

『是非とも私とお友達になって下さい!』

『いいんですか? 是非ともよろしくお願いします、一緒に遊びましょう!』

 

 非常にあっさりと、白玉とイヨは友達になった。ゲーム内のシステムで言うフレンド登録をしただけではなく、共通の友人などと一緒に日々遊ぶようになったのだ。それは紛れもなく、友情を育む行いだった。

 

 白玉の目線から見て、イヨはアバターの外見とほぼ相似した精神性と人格の持ち主だった。マナーの問題でリアルの話題は殆どしなかったが、もしも白玉がゲーム内のイヨの外見とリアルの篠田伊代がごく近い容姿だと知ったら、何らかの暴走状態に陥った可能性も無いとは言えなかった。

 

 自分が思い描いた理想と九割方近似の存在がリアルにいるだなんて、特定の趣味の持ち主からしたら本当に夢のような出来事だったろうから。

 そして白玉はイヨと友人たちと残り短いユグドラシルでの日々を楽しく過ごした。友人連中と一緒になってイタズラしたりされたり、口車で騙し合い、時にはPVPで押し合いへし合いをし、本当に気の置けない友人となったのだ。

 

 イヨは防具として性能の高い品は【アーマー・オブ・ウォーモンガー】一つで十分としたので、白玉は仲間たちと共に時には注文に答えて武具を作成し、時に口八丁手八丁で自分好みの衣装を着せと、その本懐を遂げたのだった──

 

 

 

 

 閑話休題。

 

「これを作ってくれた白玉さんはお茶目で、服を作るのが大好きな良い人だったんだよ。着ぐるみとかのネタ装備も沢山作ってもらったし、女装用の衣装も率先して製作してくれたんだ。お祭り好きな楽しい人だったの。ちょっとツッコミ所のある人でもあったけど。そんなにエッチな人じゃないよ」

 

 当の白玉がここに居たら土下座でもしただろうか。無論彼女はイヨのアバターがリアルの篠田伊代のスキャニングで作成された物だとは知らなかったし、まさか自分の製作物が世界の境を跨ぎ、現実の異世界で日の目を見るとは知る由もなかったのだけれども。

 

 因みにこの服を贈られた時、イヨは『こういう服を着ると大人っぽく見えるぞ』の一言で狂喜乱舞してノリノリでスーツを装備していた。白玉は許可を取ってスクショを取りまくっていた。

 

「そのシラタマなる人物、職人としての腕はいいのだろうけどもね。性癖の方が……まあ、個人の自由だし、君が良いのなら良いんじゃないかな。私はこれ以上何も言わんよ」

 

 あくまでも友を信じて聞かないイヨを前に、マリーことリリーは大人な態度で引き下がった。同時にカップを傾けて顔を隠し、『この子の世間知らずっぷりは情報以上だな』と眉根を寄せた。

 

「分かってくれたならいいけど……」

 

 知らぬが仏とはまさにこの事である。自分が来ている衣服が白玉の趣味を結晶化させた様なお色気装備だと何時か気付いたその時に、イヨはもう会う事も出来ない友人に対して怒りの声を上げるだろう。『また騙したの!? もうしないって言ったのに! 白玉さんのド変態!』と。その怒声が世界の垣根を超えて友に届く事は、絶対に無い。

 

 でも『スカートと、スカートによって齎される露出だけが持て囃される風潮に異を唱えたい。タイトなパンツスタイルこそが最強』が口癖の人物を何度も信用して何度も騙されるイヨも悪いのである。

 

 まあまあ、とリリーは話題の切り替えを意思表示しつつ、イヨの酒杯に手近の酒瓶から酒を注ぐ。

 

「ま、そこら辺の話はいい。私が訪ねてきたのは、君の武勇伝やらなんやらを聞きたかったからなのだ。良ければ何か話してくれないか? そうだな、どうやって十六の若さでそれ程の力を手に入れたのか、とか」

 

 内心で、これだけの才があるのならある意味当然かもな、と呟き、リリーは表情を真剣な引き締まったものに変える。

 リリーのタレント【生まれながらの異能】は才能の目視。個々人が生まれ持った才覚を、光量として見通す事が出来る。

 

 その視覚でもってして見るイヨの姿は、全身に黄光を纏った圧巻の超人だ。

 常人ならば僅かに弱い光を放つだけ。才人であっても闇夜の松明程。この少年は正しく桁が違う。イヨの放つ光が大きすぎて、その向こう側にいる人間の才能が見通せないほどだ。

 リリーのタレントには幾つもの弱点がある。見通せるのは生まれ持った才覚のみで、現在の実力は一切分からない事。一か所に多くの人間が集っている所を見ると、それぞれの光が重なり合って個々の才覚を視認し切れなくなる事。その他多数。

 特に大きいのは、その生まれ持った才覚が何に対する才なのか分からない事と、生まれ持った才覚が実際に花開くかどうか判別できない事だろう。

 

 驚くべき才能を持った子供を発見し、未来の公国を背負って立つ者として養育すると決定したとしよう。その子供は一目で常人とは異なる強い光の持ち主で、才能が正しく伸びれば間違いなく歴史に名が残る程の傑物と見て取れた場合だ。例えるならば、フールーダ・パラダイン並みの。

 

 実際にそういう例があったのだ。さる孤児院で年長者として年下の子らを纏めていた少年だった。十四歳だったその少年に様々な教育を施したが、結局『優秀な官僚』にしかならなかった。得難い人材には育ったが、持っている大魔法詠唱者と同等の筈の才覚と比べれば、余りに小粒の出来だった。多額の予算を掛けて一流の英才教育を施し、健全で豊かな人格と力強くしなやかな身体に育ったのにも関わらず。

 

 理由は、その『歴史に名が残るだろう才』を見つける事も、伸ばしてあげる事も出来なかったから。

 

 どんな王侯貴族だろうと涙させる料理の才能だったかもしれない。どんな荒地も見渡すばかりの農園に変える農夫の才だったかも。モンスターと心を通わせる魔物使いの才か、はたまた暗殺者として闇夜を駆ける才能か、女を誑かしどんな聖女も娼婦に貶める才能だったか。

 

 最初、その少年は剣が得意かと思われた。たった半年の訓練で教官役の壮年騎士を上回り、周囲を驚愕させたが──それ以上伸びなかった。腕前としては、冒険者で言う金級に僅かに届かない程。幾ら時間を掛けてもそれ以上の飛躍が認められなかった為教育方針を転換し、最終的に少年改め青年は、先に述べた通り文武両道の優秀な官僚になった。

 

 その他にも大小さまざまな常人以上の才能を持った人材を育てたが、才能に見合った能力を獲得したのは僅かだった。掛かった資金と得た人材の数との効率を見ると微妙だ。これなら玉石混合の大人数に一括で教育を施して、芽が出た者だけを拾い上げた方が数の面で見るとまだましだった。

 

 先天的才能と後天的資質が合致するとは限らない。そして、その才能はもしかしたら四十年五十年の苦難の末にようやく開花するのかもしれないし、幼年期のとある出来事をきっかけとしてのみ花開き得たのかもしれず。いやさそもそもリリーの目に留まる以前に、難産で生まれた端から母と共に死している場合も当然あるだろうし、辺境の寒村で木こりとして一生を終えている可能性だって高い。

 

 少年には剣を握らせ魔法を習わせ、文官としても武官としても教育を施して、結局『凡夫と比べて遥かに優秀』以上にはならなかったのだ。少年の才はそれらとは別の事柄に対する才能だったのだろう。それを見つけてあげられなかった。リリーの目には、少年の天凛の光輝がしかと見えていたのに。

 

 難しいな、とリリーは思う。

 大公が新たに創設した教育施設、生まれの上下も関係ない実力主義の学校にはリリーも関わっているが、結果が出るのは余程の幸運に恵まれない限り、最短で数年先だ。

 才能の採掘は続けているが、今現在、リリーの目は索敵用にも使われている。既に仕上がった人材の脅威度を判定する用途などだ。他国に行った時はこれが役に立つ。なにせどう素性を偽ろうと才能は隠せない。

 

 法国の特殊部隊などは揃って丸裸である。明らかに一般人を超越した者たちが群衆に交じって有機的に連携して動いていれば嫌でも目に付く。あれだけ大きな才能の持ち主となれば、多少の数では誤魔化せない。

 

 リリーの目に見える光は、あくまでも実際には存在しないモノであり、どんなに巨大で強大な光であろうとも、視界の内外で影を作ったりはしない。そのリリー独自の視覚がどの様な状態であるかを他者に教えるのは、生まれつき視覚を持たない者に『見るとはどういう事か』を教えるのが困難であるのと同様に難しい。

 少なくとも、彼女が父とどれだけ検証し合っても、実際的に彼我の違いを理解し合うのは不可能であった。

 

「君は今や有名人だからね。色々と噂は聞いているよ、元探検家だとか? やはりその時期に鍛えたのかね?」

「お酒ありがとう。……うーん、一応そうなるのかな? 道場でもすっごく練習したけど」

「そこの所を教えてくれ給えよ。その道場に通う様になった切っ掛けとか、どんな風に鍛えたか、どんな風に戦ったのか、誰と何とどれだけ戦ったのか。君の事なら何でも知りたい」

「そ、そんなに? うーん、道場に通う様になった切っ掛けかぁ──」

 

 だからこそこの少年は、目の前のイヨ・シノンは逃がせない。

 人類の最大最上級を遥かに上回る神域の才を持ち、しかも既にそれが開花し始めている存在なのだ。人材としても欲しいし、この才能の血脈を公国に根付かせたい。この子の次代や次々代にこの才能の半分でも遺伝すれば、それは英雄をも超える才覚を生まれ持った人間の量産にも等しい成果となる。

 

 リリーは興味深げな表情を保ったまま、内心で高ぶる熱を必死に抑えていた。

 

 まさかの女装のせいで少しばかり調子が崩れたが、リリーはこの邂逅を奇跡だとすら思っている。この人物を見出し、公国に組み込む為にこそ、自分と自分のタレントはあったのではないかと本気で思っていた。

 

 彼女の中でイヨ・シノンと自身の出会いは、六大神の降臨にも匹敵する歴史的な出来事だった

 神々の降臨により人類が束の間の繁栄を謳歌した様に、この出会いをきっかけとして再び歴史は姿を変える筈だとベッドの中で夢想してはしゃいでいた位だ。

 

 そう思っていると、目の前のイヨ・シノンが実態以上に美麗で可憐な存在の様に思えてくる。男だというのにこの繊細な顔立ち、細いのに肉付きの良い肢体。十六歳とは思えぬ稚気と無垢。

 

 リリー自身も相当な美貌の持ち主だが、この少年のそれは自身と非常に近しい領域でありながら種類が違う。自身を異名の通りの白銀、貴金属の気高さと高貴とするなら、この少年は清らかな水や吹き抜ける風といった人の手を離れた自然の美だ。

 

 ──ふふ、まるで妖精の様ではないか。

 

 今この瞬間こそは、遥か後世の歴史書で大英雄をも超越した超英雄として語られる人物の一ページ目かもしれないのだ。

 

 イヨ・シノンはゆっくりと口を開き、歴史の一ページ目を語り出す──! 

 

「見学の時に楽しそうだったのもあるけど……決め手は、練習の後たまに貰えるアイスが美味しそうだったから、かな?」

 

 上がったテンションの分だけ急降下し、リリーは座った椅子からずっこけた。

 

 

 

 

 いきなり床に滑り落ちた少女に、イヨは慌てて手を差し伸べた。

 

「だ、大丈夫、マリー! どうしたの急に?」

「いや、何でもない、何でもないぞ! というか君今なんと言った? 氷菓子が貰えるから武術を始めたと? お菓子欲しさにその道を歩き始めたと、そう言ったのか?」

「え? う、うん。月謝で結構高いお金を取られるから最初は無理かなぁって思ったんだけど、お父さんとお母さんはいいよって言ってくれたんだ。アイス、美味しかったよ」

「んな事は聞いていないぞ! ええ!? 氷菓子欲しさに!? 希代の武人の出発点が食欲って、それでいいのかねオイ!」

 

 予想外の極みの余りに口調さえ変わってしまった少女は、傍から見て可哀想な程の動揺ぶりであった。這い上がるようにして椅子に座り直し、震える手で紅茶を一気飲みする。

 その有様は優雅とは程遠く、砂漠で迷子になった人物が久しぶりの水分をただ流し込むかのようだった。

 

「う、ううん……いや、空腹は死に至る病だし、なんら悪い事ではないのだが……すごく複雑だ。意外と英雄譚の始まりというのは卑俗的なものなのかもしれないな……ま、まあ、氷菓子は高価だしな。それを一入門者にまで振る舞うとは、随分余裕のある道場なのか。もしや其処は王侯貴族御用達の歴史ある大道場なのではないかね? 国一番の有名所とか。そうなのだろう?」

 

 そうであって欲しい、という願望がいっそ哀れな位に滲み出た台詞だった。

 

「いや、普通に学校の近所にある築二十年くらいの道場だけど。柔道剣道あと卓球と同じスペースを時間割場所割で使ってるから、結構狭いよ。一番込み合ってる時は基本をするのも窮屈だったね。月謝さえ払えれば特に条件もないし、六十代位のおじいちゃんから当時の僕みたいな子供までいたよ」

 

 先生や先輩には強い人も沢山いたけど、規模的にはありふれた小さな道場だよ、と少年は朗らかに笑い、自分の酒杯から酒をカパーっと景気よく飲み干した。次いで手酌でお代わりを注ぐ。

 

「えぇえー……マジでか……」

 

 リリーは自身の体から、気合いとか気負いとかそういうのが少なからず失せていくのを感じた。想像と違う。例えばリリーの知己でもある王国のアダマンタイト級冒険者で蒼の薔薇のリーダー、ラキュースの様に、高貴な生まれでありながらも冒険に憧れて家を飛び出したとか、そんな感じの『らしい』エピソードがあるのだと思っていたのに。

 

 そんな小さな、しかも子供も老人も混じった道場で和気藹々と格闘技の練習をやっていたのか。氷菓子を食べながら。

 

 脱力しかける身体を如何にか立て直し、リリーは必死で気合いを入れ直す。

 

 別に物語の登場人物の様な人生を目の前の少年が歩んでいなかったとしても、それはそれで良いではないか。事実今現在強いのだから、その過程が多少拍子抜けだったとしても実力に疑いは無いのだし。そう、むしろそんな環境からこれだけの力を得たのだから、流石神の才覚の持ち主とさえ言えるかもしれない。

 

「な、成程ね。君はそういった環境で基礎を積んだ訳だ。その時期は……どういった鍛錬を積んでいたんだね? そして、何か大きな実績等はあるかね? 例えば、かのガゼフ・ストロノーフの様に御前試合で優勝したとかだが」

「特に特別な練習はしてないかな、筋力トレーニングとか基礎基本と打ち込めに試合形式とかの普通の練習だね。血反吐に嘔吐、骨折に気絶する位はやったけど、それは割と本気でやってる人ならみんなしてる事だし──あ、四回全国優勝したよ! すごいでしょー!」

「お、おお、そうか……良かった、やる事はやってたんだな。少し安心したよ」

 

 此処で、酔っているが故の誤解が出た。イヨは勿論、自分が小学生の時に小学生の全国大会で一位になった話をしているつもりだが、リリーの脳内では今よりもっと小さいイヨが大人の武道家を蹴散らして文字通り国で一番の栄冠に輝いたのだと思っているのだ。

 

 素面のイヨだったら世界の違いと生身の自分とキャラクターのイヨの違いを考慮して説明しただろうが、現時点で宴会開始から四時間近くが経っているのだ。幾ら薄めて飲んでいようといい加減頭は酒浸しであり、結局この誤解に気付く事は無かった。

 

 ああ、良かった。この時、リリーは深く心でそう思い、実際に安堵の溜息さえついた。ただでさえ先ほどは妖精の様ではないかと思いもしたイヨの顔立ちが、能天気なお子様スマイルにしか見えなくなっていたのだ。これ以上ほのぼのとした幼少時代を聞かされたら、自身の内から真剣さが更に薄れる所であった。

 

 豆の煮物や蒸した馬鈴薯、腸詰、焼いた鶏腿、パンと酒。そういった粗末でこそないが特段高級でも無い料理を一々美味しそうに幸せそうに食んでいる目の前の少年を直視すると、『この子本当に強いんだろうか?』と疑問さえ湧いてきかねないのだ。

 まあリリーの場合はタレントと収集した情報があるのでその疑問を打ち消せるのだが、純粋に噂だけを聞いて会いに来た人間が今ここに居たなら、やはりそうした疑問を拭いきれなかっただろう。

 

「ご飯美味しいねー」

「ああ、うん……」

 

 口にさえ出しやがった。

 何時か公式に城に招く時が来たら美食でもって持て成すのも上策かな、と少女は心の策術帳に一筆書き加える。畏まった晩餐会では無く、あくまで内々の場でないといけないな、と少年の手つきを見て思う。食べ方が汚い訳でも口から食べ物を零す訳でも無いのだが、公城の晩餐会か会食に耐えうる程のテーブルマナーに熟達していないのは明らかだ。

 

「それだけの武功があったのなら、国元ではそこそこの地位に就けたのではないのかね。公国なら、本人の意思次第で士官も十二分に可能だろうな。更に手柄を立てれば貴族になる事も出来よう」

「うーん? 僕は子供だったし、それにうちの国は建前上貴族制じゃないもの。幾ら強くても貴族にはなれないよ。そもそもそういう制度が無い。お手柄って言うなら、推薦と奨学金を貰えた事が一番かな。色んな人に褒めてもらったし」

「国の教育機関に招聘されたと? 順調に出世コースを歩んでいるじゃないか、なのにどうして探検家になったんだね?」

「えっ? あー……」

 

 イヨはちょっと困った。そもそも探検家になってなどいない。そのまま中学校高校に進んだのだ。それはあくまでもゲームしてたら別世界に云々を誤魔化す為の方便であり、嘘だ。

 

「あー、えっとねぇ……うん……」

 

 なってないのだから当然理由も存在しない。さも何か事情があった風に口を閉ざせばそれでいいのだろうが──そもそも答える義理も何も最初からないのである──、興味津々な様子を装った少女を前に、イヨは頑張って口を開いた。

 

「じっ……自由? に憧れて? こう、野に吹く一陣の風になりたい、的な? そういう、なんかこう……欲求があったんじゃないかな──ううん、あったの! 風になりたかったんです!」

 

 誰でも一目で嘘と分かる揺らぎっぷりであった。恐らく勢いで誤魔化そうとしたのだろう、イヨは酒を豪快に呷って咽た。一連の流れ全てが嘘くさい。

 

「いや、君……言いたくないのなら言いたくないと言ってくれれば、私はそれで気が済んだのだが」

 

 というかリリー的には、此処までペラペラと喋ってくれている方が慮外の事だったりする。冒険者に過去を語りたがらない者は珍しくないし、そうでなくとも初対面の箱入りお嬢様が尊大な態度でどうだったのか語ってくれと迫ってくるのである。普通の人間なら、酒宴の席である事を差し引いてもリリーの素性を問い質したり、拒否拒絶の反応を示したりするものである。

 

 リリーも最初は何処で拒否されるか、拒否されるまでに何処まで喋るか、どの様に拒否するか、その辺りが情報収集の折り目になるだろうと考えていたのだが。イヨは一向にその類の反応を見せず、聞かれた事に疑問を覚えずポンポンと喋っていく。

 

 人を疑うという事を知らないのか、外見も所作もただの少女でしかないリリーを警戒に値しないと考えているのか、ただ単に初対面の赤の他人との会話に忌避感や嫌悪感が無いのか。

 美しい異性だから下心で会話しているにしては、話し口調にも動作にもそれらしい所が全く無い。

 

 どれにせよ、つくづく警戒心の無い子供だとリリーは一周回って感心していた位だ。

 

 十六歳となった今でさえこれなのだから、両親はさぞ育児に苦心したであろう。飴玉一つで誘拐犯にでも付いていきそうである。

 

「なんと言うべきか……君あれだろ、犬とか猫とか好きだろう。好きな食べ物は肉で、晴れの日だとなんとなく楽しい気分になるだろう。それでもって、雨とか曇りでもそれはそれで良い気分になるだろ」

「すごい、どうして分かったの!?」

「なんか、君という人間の事が分かってきた気がするよ」

 

 腕っぷしが矢鱈と強い子供だ。

 それなりに裕福な家庭で両親に愛されてとても幸せに、人並み以上に『子供らしくあれる、子供らしくある事が許容される』境遇で伸び伸びと育ってきた子供。自身が肯定され保護される環境下で、自発的な努力と周囲の支えの二つでもって超級の実力を養ったのだ。人格に歪みや捻じれが殆ど見受けられないのは、両親の育て方が良かったからだろうか。愛されて育ったが、甘やかされてはいなかったのだろう。

 

 リリーは探検家時代にどんなモンスターと戦ったのかも聞いた。アンデッドやドラゴン、亜人種、知っているモンスターから聞いた事のない未知の敵まで様々な相手との戦歴に圧倒された。

 というかこの子、探検家の癖に戦闘しかしていない。本人の口から語られる限り、探索や情報収集、謎解きを仲間にまるっきり任せている。ひたすら戦ってばかりだ。

 

「でも、アンデッドは苦手。急所関係ないし、毒効かないし、しつこいし、厭らしい特殊能力満載だし、外見が怖くて気持ち悪いし。僕はこう見えて神官だからね、相容れない」

 

 イヨは単に異形種を選択しただけのプレイヤーなら別に──戦闘における相性は別として──嫌悪感は無いのだが、モンスターとしてのアンデッドは本当に嫌いで苦手である。死んでるから急所も毒も関係ない、確かに仰る通りだが、マジ勘弁である。今は平気になったけども、ユグドラシルを始めたばかりの頃は怖くて怖くて半泣きで戦っていた。

 

「ああー……そういえば君は神官でもあるのだったね? そんな気配が欠片も無いから忘れていたが。聖印はどうしたのかね。祈りを捧げているところも、見たという話を聞かないが」

「アステリア様はおおらかな神様だから。聖印も、普段は付けてるけど依頼中は護符と交換しておいてるかな。死んだらそれこそ申し訳が立たないからね、生存最優先で」

「後半は兎も角前半はどういう事だね。そのアステリア神とやらがおおらかで、それで何故祈らない事が正当化されるのかね」

 

 痛い所を付かれたとばかりに顔を俯かせたイヨは、非常に小さく聞き取りづらい声で、

 

「い、祈ってないわけじゃないもん。ご飯食べる前にちゃんと頂きますって言うし、人に親切にして貰ったらお礼を言うもの。そういう日常の些細な事で感謝を捧げてるの。それが多分アステリア様のご意思に沿う行いなんだよ。…………ぶっちゃけ、教義とか格言とかあんまり覚えてないし。ザイアとかル=ロウド、ダルクレムにライフォスなら兎も角……特殊信仰系魔法も大半が抵抗消滅で精神効果だし、効果そのものも限定的だし、射程接触が二つもあるし……割と使いにくい……」

「最後の方が聞こえなかったのだが、なんと言ったのだね?」

「な、何でもないよ、気にしないで」

 

 何だかとっても悪い事を言ってしまった気がするので、イヨは両手を合わせてお祈りをした。自然を愛する美しい女神様なのに心と精神に悪影響を与える魔法ばかりなのはなんでだろうとか二度と考えません、と真剣に心の中で謝っておいた。しかし、その胸中の謝罪までもが無礼であった。

 

 リリーはその後も質問を重ねる。無遠慮に、我がままに、思うがままを装って。

 

 転移の詳細。

 

「う、うーん。何分、第七か第八ってくらいの高位魔法に巻き込まれた訳だから、ね? 何が何だか分からないよ。気付いたらこっちにいたんだ。本当だよ」

 

 初めてであった人々。

 

「リーベ村っていう所に出たんだよ。知ってる? 正確にはその近くの森だけどね。みんなすっごく良い人たちでね、絶対また会いに行くって約束したんだ」

 

 冒険者となった理由。

 

「僕の唯一の取柄を活かせる仕事だと思ったから。住所不定無職の子供がお金を稼げるんだもの、有り難いよ。これからも頑張りたい。ちょっと気になる事もあったし──ううん、気にしないで。先輩方に相談はしたんだ。後は僕自身の問題だから」

 

 戦う時に感じるもの。

 

「戦ってる最中は──無我夢中かな。色々考えてはいるんだけどね。矛盾してるって? 僕もそう思うんだけど、でも言葉で表すとそんな感じなんだよ。ねえ知ってる? 考えてるのに考えてない、そんな状態の事を思うに非ず思わざるに非ずって意味で、非想非非想天の境地って言うんだって。ち、違うよ! 僕が考えたんじゃないもん、仏教っていう宗教の……詳しくは知らないけど、そういう奴なんだよ!」

 

 これからの人生。

 

「……分かんない。冒険者は続けていきたいけど……僕ね、公都を出発する前に組合に依頼を出してたんだ。桁外れに強いモンスターや人間の情報と、神隠しに関する情報を集めて欲しいって。でも、今の所両方とも見つからないんだって。難度百を超える魔物の伝承なんかは見つかったらしいけど、僕が探してるのはもっと上なんだよ。難度で言えば……三百とか。あはは、そうだね。そんなのがそうホイホイいたら、堪ったものじゃないよね。不可解に人が消える話って、意外と無いものなんだね。大概は普通のモンスター被害とか、遭難なんだってさ」

 

 ──もう会えないかもしれない家族。

 

「会いたいよ。家族だもの。大好きで、ずっと一緒にいたんだもの……離れたくなんてなかった。でも最近ね、もしかしたらもう会えないんじゃないかって気がしてるんだ。こっちを知れば知る程、元居た所との隔たりが分かってくる。別世界なんだよ、何処までもね。帰りたい、まだ諦めるなんて出来ない。──けど、もし帰れないなら。せめて幸せになりたいんだ。お父さんとお母さんは何時も言ってた、幸せになりなさいって。自分だけじゃなく、たくさんの人と一緒に。会えないならせめて、そうしたい」

 

 ──思いやりがあって優しく、人並みに正義感があり、順法意識も承認欲求も自己顕示欲もある。喜怒哀楽がはっきりしていて、感情に忠実。人の言う事をよく聞く。学習能力自体は良いが、論理的思考力に難あり。性格的にも思慮深さに欠け、育ちと腕前のせいか、直感的行動が多い。教育必須。手綱を取る人間がいれば良いかもしれない。欲も情も倫理も、人が人として当たり前に備えている物は普通に持ち合わせている。

 

 そして、戦う者として望まれるあらゆる全てを身長体格以外兼ね備えている。これ程子供っぽいのに、敵が死体になるまで攻撃を加える事を前提に拳を振るえる。必要とあらば壊す事も殺す事も逡巡しない。懸念は対人か。確認がいる。才覚は神の領域、現時点の実力すら英雄級。長じればそれを遥かに超える事はほぼ確定──

 

 リリーは口を閉ざし、イヨに向かい直って頭を下げた。

 

「うむ……今更だがすまなかったね、調子に乗って聞くべきでない事まで聞いてしまった。許してくれ給え」

「ううん、僕も話せて良かったよ。溜め込んでると何だか暗い方に暗い方にばっかり気が行っちゃってね」

「そう言ってくれると私も嬉しいよ。何か追加で食べ物か飲み物を頼まないかね? 長話をさせてしまった詫びだ、何か奢らせてくれ」

「いいよ、悪いもの」

「そう言うな、将来あのイヨ・シノンに飯を奢ったのだと自慢の種にするつもりなのだからな。遠慮せずに頼み給え、金はある」

 

 口では喋りながら、落とせるな、とリリーは冷静な計算の結果を出す。

 

 落とせる。騙す必要すらなく、ものに出来る。人を意のままにするのに、わざわざ非合法であったり後ろ暗かったりする方法を用いる必然性はない。それしか方法が無い、それを実行しても問題が無いのだったら話は別だが、正攻法で落ちる相手は正攻法で落とすに越した事は無い。

 

 このイヨ・シノンなる一個人を公国に組み込むのには、正攻法が一番良い。騙すでも騙るでもなく、真っ当な話し合いの末にイヨの方から此方の陣営に踏み入って貰おう。

 

 ──自分ならば、白銀の異名を持って語られるこのリリーならば、それが出来る。知恵比べならラナーに敗けるが、策術ならば敗けん。

 

 正直イヨ相手なら自分で無くとも可能な気はするのだが、其処は気分の問題だ。盛り上がりは重要である。

 

 冒険者として過ごしている現在でも利益にはなっている。何故なら彼はアダマンタイト級の実力を持つ人物、英雄とさえ渡り合った傑物なのだから。オリハルコン級のチームに所属してやがて名実ともにアダマンタイト級になってくれたなら、それはそれで喜ばしい事である。国家はいざと云う時のモンスター対策の切り札として活用できるし、国民にとっては分かり易い希望になるし、冒険者らにとっては発奮を促す材料だ。

 

 『降って湧いてきた善良な実力者』である彼は、まさしく天が遣わしたかの如く有り難い存在である。兵士と違って予算を掛けて教練した訳でも無く、近隣諸国から移ってきたのでもない人間。棚から牡丹餅の最たるものだ。冒険者組合の幹部連中等は出来る限りの素性調査をしつつ、神に感謝の祈りの一つも捧げた事だろう。『こんな都合のいい強者を有り難う』と。

 

 しかし、冒険者はどう足掻いても冒険者でしかない。公国で活動しているには違いなくとも、国家に所属している身分ではないのだ。

 【スパエラ】の面々が『アダマンタイト級冒険者のいる所で活動したい』という理由で一時王国に移っていた様に、『気が変わったからあっちに行く』が法的にも実際的に公然と出来る職業なのだ。気分次第で何処にでも飛んで行ってしまえる渡り鳥、身一つ風呂敷包一つで旅立つ自由人。本人たちはそれでよかろうが、こっちは困る。

 

 冒険者であり他国人である彼には、国家の強制力や制限力が全くと言っていいほど働かない。今は人間関係やらなにやらが彼を公都に定着させているが、それ以外に『此処』にいる理由は存在しないのである。

 

 最悪の場合、『パーティのメンバーと喧嘩して居辛いから他に行く』『公国以外も気になるから王国に行ってみよう』『なんだか冒険者って思ってたのと違う。探検家に戻って放浪しよっと』『何時まで経っても帰れない。もう諦めた方が良いのかも。そうだ、最初に出会ったリーベ村のみんなと一緒に畑を耕し家畜の世話をする生活を送ろう。戦いはもう嫌だ』等と云った本人の心境の変化で、あっさりと何処かに去ってしまうかもしれないのだ。

 

 公国内や帝国に行くならまだマシだが、下手に他国に行かれて、それで定住でもされた日には目も当てられない。ただでさえ官民共に他国より矮小非力な公国なのだ、強者一人も逃がしたくない。畑なんぞ耕すより、その小さな剛拳でもって敵を一体でも多く葬ってほしい。

 

 ──是非とも貴族になるなり公職に就くなりして、公国に所属して欲しい。出来れば両方やってもらえれば最上だ。

 

 大公──引いてはバハルス帝国の皇帝──を絶対の権力者として仰ぐ公国で貴族になるという事は、即ち国家に忠誠を誓い大公に仕える事とほぼ同義だ。冒険者と比べて、干渉する材料は格段に多くなる。

 

 また、彼の身ならず、彼の伴侶も将来出来るだろう彼の係累もコントロールしやすい。

 

 公国内は正に大公と大公の臣下の支配地なのだ。

 

 貴族の結婚相手は貴族であるのが常識だし、普通当人同士の感情より家同士のつながりや派閥の関係、国家の利益が優先される。本人がそこまで貴族になり切れなくとも、イヨ・シノン程の単純純粋チョロお子様っぷりならちょっと一計を案じるだけでその気にさせられるだろう。

 

 目標とする人物の心を奪う手練手管は、貴族の娘なら大なり小なり誰でも仕込まれる心得である。しかもそれは同じく教育を施された貴族を対象とするもの。一般人のお子ちゃまなど比喩表現抜きで赤子の手を捻る様なものだ。

 

 出来れば──無論そのように工作するつもりだが──公式非公式問わず、より多くの女性と数多くの子を成してほしい。女性の方はこちらの手で容姿、才覚、血統、人格、全てに優れる相手を見繕おう。そしてその優れた女性との間に、神域の才覚を継いだ子を沢山作ってほしいのだ。

 

 才能が血統によって受け継がれるか否かは場合によるとしか言えない。歴史を紐解けば、有能かつ歴史ある名門から無能が生まれる例も、その名に恥じぬ英傑が生まれる例も山ほどあるのだ。

 才覚の多寡や有無を直接判別できるリリーにしても、生まれ持ったそれを花開かせることが出来るか否かは分からないのである。故に母数と試行回数は管理できる範囲で多い方が良い。そうして出来た成功例である次代の英傑は勿論、貴族の子であるから他の貴族家の者と婚姻を結ぶだろう。

 

 弱者である公国には、出来るだけの多くの強者が必要なのだ。なにより弱者である今から脱却するために。公国の為に、帝国の為に、引いては人類の為に。

 

 ──法国には神の血を引いた常識外れの強者たちがいるとの情報もある。強者は兎も角神の血云々は知らないが、だとしたらあの国の特殊部隊である六色聖典、特に陽光聖典と漆黒聖典の活躍ぶりも納得できると言うものだ。公国が掴めた情報だけでも驚くほど多く人類の敵を葬っている。戦果から推定できる保持戦力は驚異的を通り越して感動的ですらある位だ。あれだけの力がもし手元にあったならば、父上は恭順では無く争いの道を選んだだろう。

 

 少女が談笑しつつ脳内に浮かべるのは、恐らく公国と帝国を足し合わせたより多くの国力を保持するだろう近隣国の事だ。

 ある意味、人類の守護者とさえ言えるだろうかの国。

 出来るなら争いたくない相手である。人類種の天敵たちは、人類の生存圏の外側を完全に覆いつくしているのだ。対法国戦は、勝ち目が薄い上に大きな視点で見れば内輪揉め。戦いたい訳がない。

 

 しかし、いつの日か人類が統一国家を形成し得ると仮定して、いざその時に連中に都合の良いルールを押し付けられるのは真っ平御免である。こちらの意見を通すだけの戦力は持っていたい。

 

 皮算用? 否、何処までも冷徹に厳然と引かれた設計図である。目指す所は遥かに遠く、過程においては確かに難い。しかし、国の、人民の、人類の為ならやらねばならぬ。

 

「私はそろそろお暇しよう。楽しかったよ、イヨ・シノン君」

「お話はもう良いの? 僕も楽しかったよ。今からじゃ危ないから送っていくよ、お家何処なの?」

「ああいや、気にしなくていいとも。護衛が多いのでね」

 

 ──しかし、此処までちょろいと手札としての私を切るのもどうかな。確か南領侯の娘は今七歳だったか? 仮に全て上手くいったと仮定して、貴族としてのイヨ・シノンが身を固める頃には年頃になっているだろう。未来における有力候補の一人と数えておくか。

 

 少女は思う。父上はもう少し駒を作っておくべきだったな、と。

 

 余り多くても争いの元だが、大公の直系である後継者候補が男二人女一人は少ないのではないか。成長過程で損耗する可能性も考慮すれば少なすぎる。特に女子はもう一~三人いても困らなかっただろうに。他所に嫁に出せる駒が自分一人はどうかと思う。

 

 予備の駒は無いのですかと問うた事が昔あったが、自分一代で大国を成す気満々だった若い頃の失策の一つだと真顔で返された。野望達成の後の事など次代の者らが好きにしたら良いと、その時は真剣に思っていたそうで、後継そのものをあまり考えていなかったらしい。我が父ながら馬鹿じゃねぇの、というのがその時のリリーの素直な感想であった。

 

 ──そして私の使い道は陛下の妃と内定済み。裏ではどうとでもなるが、表向きには動かせない。姉がいればそちらを陛下に──いや、駄目だな。このタレントを生まれ持った私がいる時点で、陛下は他の女など欲しがるまい。

 

 人材不足は深刻である。頭数も質も不足している。だからこそイヨ・シノンが欲しい。彼一人を手中に収める事で得られる可能性が欲しい。

 

「──さようなら、イヨ・シノン君。次に会う機会があれば幸いだ」

「さようなら、マリー。そうだね、また会えたら良いね」

 

 

 ──次に君と会う時、私は商家の娘マリーではなく、公女リリーだろうがね。

 

 微笑みと握手を交わして席を立ち、リリーはあっさりと少年に背を向ける。そうして喧騒を避けて、不自然な程周囲の人目を引かずに店から出て行った。

 

 

 

 

 

「結局あの子、何処の子だったんだろう」

 

 マリーと別れた後、イヨはさして気にした風もなく呟いた。今のイヨは結構な有名人になりつつあるので、マリーの様な存在は珍しくない。やれ武勇伝を聞かせてくれだの強さの秘訣が聞きたいだのと、冒険者から小さな子供にまでよく聞かれるのだ。

 

 しかし、それらとマリーは何処となく雰囲気が違う。

 違うのだが、何処がどう違うと明言できない。無意識下で引っかかるのだ。

 

「まあ、何だか変わった子だったしね」

 

 独り言ちて、イヨはテーブルの上に載った料理の残りを片付ける。マリーに奢ってもらった林檎の蜂蜜漬けを堪能し、僅かに残った極薄のアピル酒を飲み干す。少しふらつきながら立ち上がって、店の中央で騒いでいる人たちと別れの挨拶を交わした。

 

 ガルデンバルドやナッシュ、ビルナスといった知り合いとは個別に挨拶をし、今回共に楽しんだたくさんの人々に大きな声でさようならを告げた。

 

 そうして、彼はうきうきした足取りで店を出る。目指すは格安の冒険者向け宿屋『下っ端の巣』。其処の二階の相部屋だ。

 夜の公都の通りで夜風と月光に身を浸しながら、

 

「リウル、下手したら部屋でも飲んでるかもしれないからなぁ。寝落ちしてるならしてるで、ちゃんとお腹に毛布掛けてるといいんだけど」

 

 愛しい人を想って呟く。

 

 公女であるリリーの見立ては間違っていない。確かにイヨは単純だ。子供で、容易く、説き伏せるのはとても簡単である。話しは通じるし、生活の安定や金銭、地位や名誉といった世俗の理で動かす事の可能な人物である。

 

 少しばかり巡り合わせが違ったなら、彼女と大公の企みは呆気ないほど簡単に現実のものとなっただろう。公職に就き、いずれは貴族となり、思惑の通りに生きる可能性はとても高かった。

 

 しかし、もう遅いやもしれない。彼は恋をしているのだから。

 

 少年は子供で、純粋で、とても自分の欲求に素直だ。

 子供らしい行動原理と人格を併せ持つという事は、時には理屈よりも道理よりも利益よりも、感情を優先する事が有り得るのだ。

 

 少年は愛する家族との別れが辛かった。もう二度と会えないかもしれない友達を想うと悲しかった。だからこそ、幼子の如く真摯に愛情を求め、人との関わりを欲し、社会の一員として活躍し、人々に自分の存在を受け入れて欲しいと思ったのだ。

 

 イヨ・シノンは、篠田伊代はとても一途なのだ。好かれるのにも一生懸命なのだ。

 

 そんな彼を口説き落とすのは、公女様でも大公様でも至難の業であろう。

 




このペースで書き続けた場合、ナザリック勢は何時出せるのか。

今現在のイヨに誰が告白しても一秒でお断りされます。理由は「好きな人がいるから」。
イヨの性格上、ハーレムとか絶対無理です。「複数の相手と関係を持つなんて不純、不義理、不潔。有り得ない」と真顔で言うでしょう。ピュアお子様だから。


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