第五八話
宿からすぐ出た海岸には百式を装備した一夏と紅椿を装備した箒がいた。
一「それじゃあ箒ちゃん。お願いね」
箒「あぁ。任せておけ!」
打ち合わせ通りにいけば箒に一夏を乗せ覇王がいるぎりぎりラインまで運ぶという手順だ。
覇王との移動までにかかるエネルギーも節約しつつ、短時間で移動し、決するということだ。
一(箒ちゃんはISとの実戦は初めて。なら、わたしができるだけフォローしないと)
箒(やっと同じ位置に立てた。これでやっと戦える)
二人とも何やら不安だ。さてはて、これがどう出るか。しかし覇王か。見た限りコアの異常があるようには見えない。だが、ゴーレムでの一件がある以上警戒していくか。
千『葵、篠ノ之、織斑。聞こえるか?』
一「は、はい」
箒「良好です」
葵「聞こえるぞ」
どうやらオープンチャンネルで確認の連絡を入れてきたようだ。
千『今回の作戦は一撃必中だ。葵と束の作戦説明であったように短時間で決しなければ後々こちらが不利になる。倒さなければならないのは覇王だ』
箒「先生。私はできうる限りの範囲で一夏の援護ということでよろしかったでしょうか?」
箒の顔は少し、いや緊張感というのがない。やはりどこか浮かれているか。
その顔をやはり心配そうに見ている一夏。こっちはこっちで厄介だな。
そう思っていると、プライベートチャンネルで千冬から連絡が入った。
千『聞こえるか葵?』
葵「あぁ良好だ」
千『プライぺーとチャンネルのため一夏と箒には聞こえていない。これは葵にしかできない頼み事なんだが』
千冬の頼み事というのは一夏と箒のことだった。千冬だけでなくファイルス、山田教諭たちも危惧していた。
葵「全力でサーポートはする。念には念でお前に頼んでいた例の件頼んだぞ」
千『あぁ、だがいいのか? あの二人の実践は「大丈夫だ」そうか』
さて、討伐戦に向かいますか。
葵「一夏、箒準備はいいな。発信のカウントダウンを取る」
一・箒「「了解!」」
葵「スタンバイ。3….2…..1…..GO!」
合図と同時に紅椿のブースター音が鳴り響き、瞬きも許さぬ間にあっという間に距離を取られていた。
葵「・・・・・すごいなあれは」
だが追いつけぬ速度ではない。それを証拠に、
葵「箒! 覇王の位置は!?」
すぐ追いつき隣に並ぶ。
箒「衛星リンク終了・・・・・情報照合確認! IS反応は・・・・二機!?」
一「え!?」
葵「織斑教諭聞こえたか? 至急確認をしてくれ」
箒の驚きの反応はあちら側にも届いたらしく山田教諭、ファイルスたちがあわただしく動いているのが目の前に見えた。だが、
葵「いやいい、現状を報告する。新庄が動いた」
全員(・・・・・だれ?)
・・・・・いやいやいや、居ただろ!? あの銀髪オッドアイの!
全員「・・・・あぁ~」
軽!? 反応がものすごく軽い!!?
現在彼は覇王の右腕にアイアンクローをされた状態でつかまっていた。翼部分はあちこち砕け、ビームライフルや高電圧圧縮砲、ソードもめちゃくちゃで原形をとどめていなかった。
覇王の頭部はずっと新庄君を見ていたがその赤い目がこちらをにらみつけてきた。そして、
覇「次は貴様らか?」
一・箒「「!!?」」
葵「驚いている暇があれば戦闘態勢に入れ!」
SIDE第三者
行動を一番早くとったのはやはり彼だった。
葵「シッ!」
両翼刀にて間合いを詰め一気に斬りつける。
覇「その程度で!」
接近する彼を腰部についたレールガンにて回避し、肩についた衝撃砲にてけん制する。
葵は本能的にあれが何で、自分がどういう状況に置かれたのかがすぐにわかったうえで行動を起こした。
そう、あれは現在の箒は無論、一夏もそしてほかのメンバーでもたたかわせてはならないと即座に判断したのだ。
葵(覇王のコアと融合? 仮説だが立証はゴーレムの時にされてる。ならこいつは)
最悪のケース。今までの【不の者】は魔法と+αとして各自が武器を所有していた。剣であったり銃であったり槍であったりそれは様々だが。だが目の前の【不の者】はISと融合によってさまざまな遠距離武器を有している。
葵「一夏! 箒! お前らは下がれ!」
一「でもあれに一撃を加えれば終わるよ!」
箒「そうだ! 兄さん一人で背負うとしないでぐれ!」
違う。彼はそういいたいのだろう。相手がまだISなら零落白夜で対応できた。だが【不の者】と融合したものだとどこまで有効かがわからない。ISのエネルギーがゼロになった後もおそらくISを破棄し己で戦う。最低でも第二ラウンドまである。
葵「くっ、なら作戦通りに行くぞ」
足止めを彼と箒がする。あまりにも箒には荷が重すぎる。だが、決定打を放つ一夏のほうが最も荷が重い。零落白夜を決めた後そのままその場にとどまることをさせれば危険を及ぼす。
葵「一夏、一撃を決めたのちそのまますり抜けろ。絶対にその場にとどまるな」
危険を承知でもやってもらうしかない。
葵がそう言ったのを合図に彼は覇王の間合いを詰める。
後ろの間合いは箒だ。もし中国政府が鈴の甲龍を参考にして作っているのであれば衝撃砲は後方には向かないはずだ。
箒「!?」
そう。箒も考えていたはずだが予想は外れた。砲身が見えないがISの警告音によって箒が距離を取る。
箒「後ろにも目があるみたいだな」
葵「まったくだ」
後ろに放たれた衝撃砲。覇王は全方位型だと判明。
覇「今のお前らは距離さえ縮まなさなければこちらの勝ちだというのはわかっている。だから」
覇王はすべての武装を取り出してきた。両腕にはマシンガン、肩の衝撃砲、腰のレールガン、そして方に装備されているガトリング。一斉にこちらに向けられた。そして、
―――ズガガガガガガガガ!!!!!
そして火が噴かれた。
葵「くっ、やはり連射性の武器が必要か」
ここにいる全員が接近戦用の武器。白騎士に変更しようにも少しの間隙を作る。そうなればこっちに目を向けて無くても箒と一夏に危険性が及ぼす可能性があると考えたのだろう。
葵「仕方あるまい・・・・・参る!」
彼は弾丸の雨降る中無理やり突破していく。
覇「やはりそう来たか。だがこちらにも接近用の武器があるのだよ!」
方天画戟を取り出し両翼刀の攻撃を防ぐ。だが、
葵「(かかった!)行け!」
葵の一言を合図に一夏と箒が一斉に斬りかかる。
覇「その程度で!!」
覇王の両手は方天画戟で防がれてる。なら残ってる武器は限られる。
箒「行け一夏!!」
一「うん! ・・・・・・・!?」
決まると思った。だが、一夏は覇王とは逆の方向を取った。海を背に覇王が放った弾丸を誰かの盾になるように。
葵「・・・・あれは」
箒「密漁船!?」
当然その時に生まれた隙を覇王が見逃すはずがなかった。一気に鍔ぜりを終わらせ、すぐに自分の間合いに持っていく。
覇「愚かが!!!!」
一斉射撃。一夏はそれを零落白夜によって切り落としていく。それによってエネルギーは当然消費されていくわけで、
一(船は大丈夫みたい。でも、もう・・・・・)
葵「一時撤退をする。「だが兄さん!」策はまだある。なら備えるべきだろ」
その言葉に箒は黙り込むが、
箒「一夏、犯罪者など放っておけばいいものを」
一「箒ちゃんらしくないよ、力を手に入れたら弱い人たちのこともわからなくなったの?」
箒「だが!」
パーン
次の瞬間、一夏がほほをはたいた音が鳴り響く。
一「力は弱いものをいじめるものじゃない。力は暴力に使うものじゃない。力は守るためにある。たとえそれが密漁船でもあの人たちを守らないと!」
箒「・・・・・・」
その言葉と行動に箒は何かを感じ取った。自分は焦っていたのではないのか。葵は言ったはずだ。葵は専用機を持っていなければその間に必要な情報を得ていざ持った時に役立てろといったはずだ。だが、今はどうだ。それがなせていない。
いろいろな考えが頭をよぎった。そして自分は焦っていたのではと思った。その焦りが今回の失敗につながったのではないのかと。
箒「私は・・・・・私は!」
だが、次の瞬間、
覇「これで終わりだ!」
覇王は突然腕を天高く掲げる。すると、空間から赤紫色の幾何学模様が浮かび、そこから鋭い刃がいくつも一夏たちをめがけ飛ぶ。
葵「・・・・・ッ!?」
まばゆい閃光を二人が襲うが、同時に影も襲った。何が起こった? それが二人の感情だ。
一「・・・・・・・お、にい・・・・ちゃん?」
箒「!? 兄さん!!?」
葵「私なら問題ない。いいからこの場から離れろ」
一「でも!!!」
二人の目には信じがたい光景があった。放たれた刃を背中にいくつも刺された葵が自分たちの目の前にいたのだから。
葵「チンク! ノーヴェ! 撤退だ!」
それを合図にどこからか音もなく表れたチンクとノーヴェによって葵たちと分断された覇王。
だが葵にとって予定外だったのが、
ヴィヴィオ「パパ!!?」
アインハルト「大丈夫ですか!?」
本来なら宿にいるはずだった子供たちもいる子だった。
葵「なぜ?」
星「それよりも撤退します。お父様。自分に麻酔魔法を使ってますね」
星那は彼だけに聞こえるようそっと囁いた。
翼「殿は私とノーヴェ、チンクで請け負う。ヴィヴィオとアインハルトは父を背負っていけ。一夏、箒、星那は先行隊で行け」
翼は即座に対応策を打ち、撤退の合図を促す。だが、一夏、箒はいまだに混乱しそれどころではなかった。
翼「いつまでめそめそ泣いている!! 父をそのままにしていたら死ぬぞ!! さっさと行きさっさと治療のできる環境の場所に連れて行け!!!!」
怒声ともとらえられるほど声を荒らげ即座に対応するように怒鳴り散らす。だが、それだけ緊急性が高い。それに星那が言ったように葵がかろうじて意識を保っていたれるのは自分に麻酔魔法をかけているだけで、いつそれが切れるやもしれない状況の上に、傷からは血がいまだに流れているということもある。
星「先行は私がします。あなたたち二人はお父様を支えてください。ヴィヴィオ、アインハルト姉さん。あなたたちは護衛を」
星那の言葉に二人はただただうなずくしかなかった。
ヴィヴィオ「分かった!」
アインハルト「行きましょう。護衛は任せてください」
アインハルトの言葉にうなずき撤退を開始した。
チ「聞こえるか、織斑」
千『あぁ聞こえる。何があった?』
チ「作戦失敗。なお葵が重傷を負った。至急医療班を頼む」
千『!?』
その言葉に驚きを隠せない千冬だが、元に戻るのにそう時間はかからなかった。すでに撤退を開始していた一夏、箒、星那、そして葵たちとの合流ポイントに医療班を配備させたのだ。
チ「ノーヴェ、翼、あくまでも倒すのがメインではない。いいな? 葵を逃がすことが今回の作戦の主旨だ」
ノーヴェ「分かってるって」
翼「来ますよ」
そして三人の戦いが火ぶたを切った。
SIDEOut
私が海岸沿いに来た時もうすでに意識がもうろうとしていた。
千「葵!!」
いち早く駆けつけてきたのは千冬だった。
千「医療班を! 早く!!」
だが、医療班も医療班でどうすべきかわからない状況だった。まだこれがガラス片やらそういうものだったら抜いて消毒をし、化膿しないよう傷をふさぐという手順で治療を行えたはずだ。またこれが現代兵器の産物でも同じ手順だろう。だが、今私に刺さっている者が何かわからない以上下手にぬいていいのか、それともいけないのかが判断できないのだろう。
エ「マスター・・・・仕方ありません。ルミル。お願いがあります」
ル「大方はわかってる。アギト、リイン、マスターに回復魔法を」
魔法だと!?
葵「いい、これぐらい「兄貴は黙ってろ!」「そうです。患者はおとなしくしておくです!」
・・・・はい」
患者というかけが人だから、大声でというのはいけないのだろうか?
エ「マスター痛みますが」
葵「分かってる」
そういうと、エクスとルミルが魔法で覇王が出した刃を浄化させていく。そして、光の粒子となって消えると、傷口から血が出る。そこをリインとアギトが魔法をかけ傷をいやす。その繰り返しだ。
だが、
葵「くっ・・・・」
当然痛みは走る。それも激痛が。
ナ「これって・・・・そんな馬鹿な・・・」
セ「いえ、でも・・・」
魔法に関係のあるお国柄のイギリス、ドイツの二人はこの模様を見たとき何かがわかったみたいだ。ほかの人間(幸いいつものメンバーのみ)の者たちも同じ考えに至ったがそれよりも、
エ「傷はふさっがったみたいですね」
ル「何をぼけっとしている!! 早くほかに異常がないか確認しろ!? masterは体力的にも疲弊しているんだ!」
ルミルのその言葉を最後に私は意識を手放した。