カッコ好いかもしれない雁夜おじさん   作:駆け出し始め

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陸続・カッコ好いかもしれない雁夜おじさん

 

 

 

「平和ですねぇ~」

「お前の頭の中がな」

 

 久方振りのデスクワークに懐かしさと勘や動きが鈍っていることに若干イラついている最中だったので、バカへの返答が可也雑になった。

 だが、無視しないだけでも上等だろうと思い、特に訂正もせず書類を読み分けていく。

 

 

 

「仕事をしているご主人様の横顔って素敵ですねぇ~」

「お前の頭もある意味素敵だがな」

 

 バルトメロイに体液を売って得た情報を閲覧している最中、バカの間の抜けた声に可也イラッときたので、さっきと同じく雑な答えを返す。

 

 

 

「家族3人でのんびり炬燵に入ってるって幸せですよねぇ~」

「足が邪魔だから炬燵を出て毛玉になってろ」

 

 季節が一周りするよりも長く連絡を入れなかった伝に謝罪と金を積んで得た社会の裏情報を精査している最中、バカのバカな間抜け声に可也イラーッときたので、さっきと同じく雑な答えを返す。

 

 

 

「洗い物も掃除も終わってのんびり旦那様に寄り添うのは幸せですねぇ~」

「腹の中と頭の中を洗い忘れてるぞ」

 

 数名の探偵を雇って調べさせた冬木の不動産とホテル関係の書類からマスター及びその関係者を探している最中、バカがバカ過ぎてどうしようもないバカになってしまったバカの間抜け声に凄まじくイラーーーッときたので、さっきと同じく雑な答えを返す。

 

 

 

「私の尻尾に包まれて寝てる可愛い桜ちゃんを見てると本当の夫婦になったみたいです♪」

「桜ちゃんの両親はお前でも俺でも無い。少なくても桜ちゃんがそう呼んでくれる迄はな。

 ただ、桜ちゃんが可愛いのは全面肯定する」

 

 情報を統合している最中、聞き逃せない呟きが聞こえてきたので、自戒の意味も籠めて注意しておく。

 後、桜ちゃんの可愛さについては一も二もなく同意する。

 

 

 

「まったりも良いですけど熱い夜も過ごしたくありませんか?」

「熱いのが好いなら尻尾に火を付けて火達磨にでもなってろ」

 

 地図に時臣とアインツベルンの拠点以外に、アーチボルトの拠点とアインツベルンの予備と思しき拠点を赤ペンを使ってマルで囲み、残り二名の拠点が何処なのか地図を睨みながら考えている最中、手遅れになってるバカの間抜け声に苛立つよりも呆れながら雑に返す。

 

 

 

 …………………………結局、残り二名の拠点を絞りきれなかったので一先ず後回しにし、人気が無くて広くて戦場になりそうな湾岸部・倉庫街・地下貯水槽・郊外の森・峠周辺・円蔵山・大空洞を青ペンを使ってマルで囲み、更に不動産関係の情報を基に建設中の広い工事現場もマルで囲んでいく。

 そして次に地元の人間という地の利を生かし、マスターが戦場を監視するであろう箇所に緑ペンで印を付けていく。

 最期に監視する場所を監視出来る場所に紫ペンで印を付ける。

 

 

 地図への書き込みがとりあえずは一段落したので散らかった資料を手早く片付ける。

 と、何時の間に用意したのか熱い緑茶と夕飯の稲荷寿司が差し出される。

 

「夜食にどうですか?

 甘いから疲れも吹き飛びますよー♪」

「…………………………貰うとする」

 

 ライターの時の習慣で、知らずにカロリーバーと栄養ドリンクを腹に流し込んで寝ようと思っていたが、いきなり人間味の在る夜食を提示されて意表を突かれた。

 が、直ぐに思考を切り替えて有り難く貰うことにした。

 

「はいはーい。一杯食べて下さいね……………とは時間が時間ですから言えませんけど、疲れを取る程度は確り食べて下さいね?

 あ、だからといって栄養ドリンクを飲むのは出来るだけ控えて下さいね?

 頼りすぎると却って体が弱くなりますから、出来るだけ普通の食事で疲れは取った方が良いんですよ?」

「……………お前は俺の母親か?」

 

 呆れながら独り言の様に呟いたから返事など初めから期待していなかった。

 だが、あいつは何が気に触ったのか、頬を膨らませて不機嫌と言うわんばかりの表情で反論する。

 

「ご主人様………私がおばちゃんだって言いたいんですか?」

「……………お前の年齢考えると婆さんを通り越して骨だけ――――――」

 

 当然のツッコミを入れていた瞬間、桜ちゃんの枕と抱き枕になっていないあいつの尻尾全てが突如巨大な馬上槍の様になって俺の頭や首にに突き付けられた。

 

「――――――になっ………て…………………………」

「不思議ですねー?

 どうして男の人って地雷って解ってて踏み抜くんでしょうかね-?

 死にたいんですかねー?

 

 まあ私はご主人様を殺すなんてしませんけど、何と無ーく明日の朝には町中にご主人様が桜ちゃんを襲おうとしてる写真が溢れてて、何故かご主人様が社会的に死んじゃってる気がするんですよー?

 ねえご主人様? 此の予感ってすっごく当たっちゃうと思うんですけど、どう思います?

 

 あ、話を戻しますけど、さっきご主人様は一体何て言い掛けてたんですか?」

 

 ……………今こそ働け俺の脳細胞!

 

「い、いや………人間ならとっくに墓の下だろうけど、神霊ならずっと見た目も中身も若くて最盛期なんだろうなー、………って言おうとしてただけだぞ?

 いやー夫に成る奴は幸せ者だろうな。嫁さんはずっと若くて可愛い儘なんだからな」

「もう~~~……………ご主人差待ったらお世辞が上手いんですから♪」

「………………………………………解ってるなら言わせるなよ、猫被りが………」

「ご主人様~♪

 あんまり舐めた言葉を吐くと呪っちゃうぞぉ♪」

 

 その言葉と同時に俺の頭上に謎の鏡が現れ、鏡から魂を逆撫でする様な不気味な気配が垂れ落ちてくるのを感じ、俺は無言で頭を机に擦り付ける程に下げた。

 

 

 

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 あれから今迄の鬱憤を晴らすかの様に、只管ご機嫌取りに翻弄させられた。

 

 口説き文句は俺の性格上全く肌に合わないので言っていないが、お世辞はストックが尽きる程言わされた。

 と言うか、ストックが無くなったら新しく考えさせられた。

 それも一つや二つではなく、軽く20を越える程考えさせられた。

 ……………殺さずに殺生石に封じたいと真剣に思った俺はきっと優しい。

 そして桜ちゃんを出汁に俺を人生の墓場に半ば埋め込んだこいつは、邪神か悪神だと思う。

 

 ……………と言うか、こいつの本体の天照って可也やばい性癖持ちだった気がするし………確認しておこう。

 

「ところでお前の趣味とか聞きたいんだが良いか?」

「はいはい構いませんよ構いませんよぉ?

 例え名前で呼ばないことにイラッときてても、今はご主人様が私に興味を持ってくれたんで、そんなイライラは時の彼方にポイ捨てしてますんで、気持ち良く答えますよ」

 

 身を乗り出して俺に顔を近付けながら話すあいつ。

 着いていけないハイテンションと矢鱈と近い顔に身を退きたくなるが、最悪の答えに備えて退かずに疑問を口にする。

 

「お前………と言うかお前の本体………と言って良いのかは解らんが、兎に角お前は天照なんだよな?」

「はいはい。

 確かに私は天照の一側面の玉藻の前です。

 因みに大日やダキニ天でもありますけど、贅沢狐の妲己とかとは全然違うので勘違いしないで下さいね? スッゴイ不快ですんで」

「………まぁその辺は関係無いんで流すが、…………………………お前が天照っていうなら………………………………………女のストリップ見たさに引き篭もりを止めた伝承通りレズなのか?」

「………………………………………………………………………………」

 

 笑顔どころか雰囲気すら固まっていて不気味だが、確認しておかねばならないことなので気にせず疑問を投げ掛ける。

 

「お前が俺を女体化させようとしてるぐらいならドン引きする程度で済むが、桜ちゃんを毒牙に掛けようとしてるならマジで消すぞ?」

 

 軽く言っているが当然本気であり、若しもあいつがふざけた答えや最悪な答えを返したら、足で触れている桜ちゃんを即座に非難させた後、自爆してでも消し去る気でいる。

 だが、見た目は普段通りに見える様に振る舞い、あいつが何気なく零す本音を見落とさないように細心の注意を払う。

 

「…………………………あ……………あのですねご主人様? 確かに私はご主人様が女でも呪術でどうにかしてでも親密で熱い関係になりたい程に好きですけど、私は普通に男の人が好きですからね?

 あくまでも好きな方なら女の人でも大丈夫なだけで、私の性癖は基本的に健全に異性が対象ですからね?

 

 と言うか私はご主人様が娘の様に思ってる桜ちゃんに手を掛ける気なんて微塵もありませんから。

 血が繋がらなくても我が子や兄弟姉妹と思ってる相手に手を出すなんて本気で最低と思ってますし、それを冒す背徳感に興奮も覚えたりしませんから。いや本当に。

 

 それに天照が天岩戸から出てきた伝承ですけど、あれは寂しがり屋な私を内包していた天照が自分だけで誰も居ないのが嫌だったから、楽しそうな宴に釣られて出てきただけです。

 断じて女性の体に興味が在って出てきたわけじゃないんです。信じて下さい。

 

 と言いますか私は寂しがり屋なんで、ご主人様に嫌われた挙句距離も取られたら本当に生きていけませんので、勘違いで嫌った挙句ドン引くとか本当に勘弁して下さい。

 いや、本当に勘弁して下さい。

 雑な対応でも構わないですから、お傍に居させて下さい」

 

 桜ちゃんに気を遣ったのかギリギリ大声ではないが、それでも必死な表情と声音で俺に告げてきた。

 

 …………………………………………………。

 

「憑き纏いたいなら勝手にしろ。

 て言うか、お前を野放しにすると真面目に世界がヤバイから、目の届く所に置いといた方が良いから、寧ろ俺の傍を離れるなよ」

「………………………………………………………………………………」

 

 ………うん?

 とりあえず桜ちゃんに害を及ぼしそうにないし、一応桜ちゃんも懐いているから、最大限譲歩して優しめの言葉を掛けたんだが、知らない間にマジでヤバいトラウマとかの地雷でも踏み抜いたか?

 

 急に俯いて付いていた手に力を込めだし、更に肩を振るわせだし、激情が爆発する予兆を見せ始めた。

 

「お、おい?なんか洒落にならない地雷でも踏み抜いちまったか?

 訳も解らず謝ると余計地雷踏み抜きそうだから、せめて落ち込む前にどんな地雷踏み抜いたかくらい教え――――――」

 

――――――バカで軽くて胡散臭てテンションに着いていけない傍迷惑な騒がしい奴だが、悪い奴じゃなさそうだから、知らずに軽い気分でトラウマを抉ってたりしてたのなら流石に誠意を込めて謝ろうと思い、何が拙かったのか訊いていたが――――――

 

「やりましたーーーーーーーーーーー!!!

 フラグが立ちましたーーーーーーーーーー!!!

 やったやったやりましたよーーーーーーーーーーーーー!!!

 

 聞いて下さい聞いて下さい聞いて下さい!聞いて下さいよ桜ちゃん!?」

「――――――てくれ………………………………………………………………………………」

「なんと私!さっきご主人様に、[俺の傍を離れるなよ]、って言われたんですよ!!!???

 もうこれは少なくても恋人宣言ですよね!?恋人宣言ですよね!!??恋人宣言ですよね!!!???

 

 やりましたやりましたやりました!

 さあ後はこのままウェディングロードに向かって疾走です!

 そして私もご主人様と結婚して間桐の姓を貰い、私だけ仲間外れな状況とはおさらばです!!!

 

 …………………………しぃぃぃぃぃまぁぁぁぁぁぁぁったあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!

 

「待て待て待て待て待て!!!婉曲して解釈するんじゃない!!!

 さっきのは単にお前が離れると困るから近くに居ろって………違う!今の無し!!言い間違えた!!!」

「ふおーーーーーーーっっっ!!!

 まさかご主人様から離れると困るとかいう言葉を貰えるとは感激ですっっっ!!!

 

 桜ちゃん桜ちゃん! これはもう告白と受け取る以外無いですよね!?これはもう告白と受け取る以外無いですよね!!??これはもうラブラブになったと思っていいですよね!!!???」

「ん……………らぶらぶ………」

「ちっ、違うんだ桜ちゃん!

 さっきのと今のは言い間違えただけで、俺はそんなこと全然思っちゃいないから!!!」

 

 俺は必死に桜ちゃんに弁明する。

 が、桜ちゃんは――――――

 

「男の人は恥ずかしがり屋……………」

 

――――――全く理解してくれなかった。

 

 

 

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 嵐の様な騒動の後、昂揚し捲ったあいつが店屋物を機銃掃射の如く頼み捲り、更に盛り上げ要因として狐をダース単位で召喚し、あっと言う間に間桐家を狐の園にしてしまった。

 一応衛生面に気を配ってはいたらしく、汚れと臭いが付着していない状態で召喚されてはいたが、大量に召喚された狐が店屋物を食い散らかした為、あっと言う間に居間(応接室を模様替えした)は汚れてしまった。

 一応あいつが一時的に知力を人間並みに高めていたのでそこらで用を足されることはなかったが(極普通とばかりに人間用のトイレで用を足してた)、あいつの音頭に乗って大合唱するわあいつの曲芸に興奮したのか組体操をするわあいつの暴走に呼応して屋敷中を走り回ったりした。

 

 そして文字通り多数の爪跡を残し、狐達はあいつが酔って眠る直前の朝方に送還された。

 後、ゴミはゴミが出る度にゴミが勝手に一箇所に集まり、そしてある程度溜まったら勝手に燃え、その後燃えカスは風に乗って外に出て行った。

 ……………ゴミじゃない調度品や日用品は自力で片付ける必要があったが、掃除する手間に比べれば大した手間じゃないのでさっさと片付けた。

 

 

 とんでもなく散らかっていても全然汚れていなかったのであっさり片付けが終わると、早朝にも拘らず金に物を言わせて民間軍事会社(PMC)から買った暗号化機能付電話とFAXや其の他が届いたので、既存の電話を取り外して新しい電話に置き換え、更にFAXを取り付ける。

 回線自体は一般回線だから然して効果は無いかもしれないが、マスターと思しき奴の一人に矢鱈機械を使う奴がいるから、一応対策をしていて損は無いだろう。

 あと、半径100m程に効果の在るECMをを引き払われた兄貴の部屋に置き、プラグをコンセントに差し込んで充電を開始させる。

 そして監視カメラと盗聴器潰しとして、フラッシュグレネードとスタングレネードの梱包を解き、幾つかをポケットに仕舞い込み、残りは邪魔にならないよう俺の部屋に移動させる。

 

 部屋にフラッシュグレネードとスタングレネードを移動させた後、一応読んでおこうと取扱説明書を持って居間へ向かっていたが、その時協会から電話が掛かってきた。

 なんでも、夜中の殆ど同じ時間にセイバーとアーチャーとライダーが召喚され、あと一騎召喚されたら聖杯戦争は始まる、とのことだった。

 それと、一体の何のサーヴァントを召喚したのかを又訊ねられた。

 

 ……………素直にサーヴァントじゃなく神霊そのものと言えば、ほぼ確実に恐ろしく面倒な事態になる為、[前に言った通り召喚事故が起きたみたいでクラス名が無いから答えようがないです。が、同じ質問が面倒なんで、便宜上アウトキャストとしておきます]、と伝えておいた。

 

 ………電話を切り、何とはなしに見上げた空は、もう直ぐ聖杯戦争が始まるせいか不気味に見えた気がしたが、下らない錯覚と首を振って否定した。

 

 

 

 居間に戻る前、流石に連続で重い物を食べるのはキツイので、朝飯兼昼飯はカロリーバーと栄養ドリンクで十分だろうと思い二つをポケットに詰め込み、昼飯を確保した。

 そしてとりあえず今やれる備えを終えたので、俺は注文した物の取扱説明書を手に、桜ちゃんの眠る居間に戻った。

 

 すると、桜ちゃんに気を遣わないで良い時は関わりたくなくなったあいつが出迎えやがった。

 

「お疲れ様ですご主人様。

 お茶請けを用意したんですけど、どら焼きと羊羹のどっちが好いですか?」

「…………………………」

 

 あいつを無視する様に手に持った注文品の取扱説明書を炬燵の上に放り、序ポケットからカロリーバーを取り出して開封し、素早く口に放り込む。

 そしてあいつが飲み物を用意する前に、同じくポケットから取り出した栄養ドリンクを開け、カロリーバーを胃に流し込む様に一気に飲む。

 

「あ……………」

 

 何か言いたそうなあいつを無視してゴミを可燃物と不燃物とビンとに分けてそれぞれのゴミ箱に捨てる。

 そして無言で炬燵に入り、放り置いた注文品の取扱説明書を開き、読み始める。

 

 

 

 読み始めると同時に全身から発した手加減無しの拒絶のオーラをピンポイントであいつに向け、言外に話し掛けるなと言いながら取扱説明書を読み進めた。

 

 途中、何度かあいつが話し掛けてこようとしていたが、嫌そうな顔と言うよりも厭でしょうがないという顔ををしながら露骨に睨み付けて尽く黙らせた。

 

 

 

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 一通り取扱説明書を読み、内部構造は兎も角使用方法とカタログスペックは一通り理解したので取扱説明書を閉じて軽く脇に退けた時、耳が完全に垂れ、今にも自殺しそうな程に暗い雰囲気を纏わせているあいつが目に映った。

 

「………………………………………ちっ………」

 

 湧き上がる罪悪感自体に苛立ちを覚え、無意識に舌打ちした。

 だが――――――

 

「っ!」

 

――――――あいつはそれに酷く怯え、恐る恐るに俺を見た

 

 …………………………大人気無い自分の対応と罪悪感を覚える自分に酷い苛立ちを感じつつも、この儘なら桜ちゃんが起きた時に厄介なことになると思い、凄まじく嫌だがさっさと口を利いて此の状態を終わらせることにした。

 

「おい、とりあえず黙って聞いとけ」

「っっっぅぅぅ!!!」

 

 俺のぞんざいな言葉にさっきより更に怯えたが気にせず言葉を続ける。

 

「先に言っとくが、俺はお前が嫌いというわけじゃない」

「!?」

「好き嫌いの二択で言えば…………………………不満は山程あるが、間違い無く好きの分類に入る」

「っ!」

 

 さっきと違い、俺の言葉を聞く度に眼や耳に力が戻っていくのが確りと見て取れた。

 が、それも無視して言葉を続ける。

 

「好みのタイプじゃないと言ったが、献身的に尽くされれば悪い気はしないし、何だかんだ言ってもお前は器量が良いから憎からずとも思う」

「っぅ!?!?」

「そして俺も大人だから、結婚から始まる愛を否定する気は無いし、再婚とかに関しても一度振られて心機一転したことのある俺は当然の選択の一つだと思っている」

「っっぅ!?!?!?」

 

 どんどん生気が戻るあいつだが、相変わらずそれに構わず言葉を続ける。

 

「客観的に見てお前程俺………と言うか男に都合の良い女はいないだろう。

 相手にベタ惚れな上に喜んで尽くすし、凄まじい美人の上に何時までも若い儘だし、相手に対しては性に関しても開放的だし、おまけに人間を超越した存在だから究極の庇護も約束される。

 

 …………………………正直、若しお前に言い寄られて応えない奴が居たら、正気を疑う程に馬鹿か一途のどっちかな奴だと思う」

 

 眼を輝かせながらあいつが俺を見つめるが、兎に角構わず言葉を続ける。

 

「ハッキリ言って特に付き合ってる奴も恋もしていない現状、とりあえずお前と付き合ってみても悪くないとも思う。

 少なくても付き合いさえすればお前はとびっきりの良い女だから、俺の好みタイプとは関係無く、然して時間も掛からず本気で惚れるだろう。

 口惜しいがな」

 

 瞳を潤ませて熱い視線を送るあいつのを視線に苛立ちを感じながらも言葉を続ける。

 

「それに俺は取材で日本以外の文化にも頻繁に触れてるから、女から告白するのもありだと思ってるし、好きな相手に積極的に自分を示したり性に関してオープンな奴も個性だと思ってる。少なくても俺に迷惑が掛からないうちは。

 だからお前が俺に矢鱈積極的にアピールするのは言う程イラついちゃいない。まあ日本神ならもう少し慎みを持てと思うけどな。

 

 だけどな……………」

 

 一旦言葉を切り、憎悪に限り無く近い嫌悪を乗せた視線を、少し不安な顔をしたあいつに叩き付けながら告げる。

 

「相手の意思を好き勝手操るのだけは絶対に認めない」

 

 絶対に妥協しないという意志を込めて更に告げる。 

 

「お前が俺にやってるのはそれに近い。

 桜ちゃんを使って選択肢を削り、更に退路を絶つ。

 

 ………最初の頃のはまだ流せたが、今お前がしてるのは軽蔑しても……………少なくても俺的に縁切りするレベルのコトだ。

 

 正直、顔を見たくないどころが知覚するだけで不愉快になるし、意識を向けられるだけで全身の毛穴からおぞましいナニカが浸入してくる感じがする。

 更に言えば、顔を見れば目から脳が腐って融ける感じがするし、声を掛ければ自分も同レベルのクズに成り果てる感じがして喉が千切れる程掻き毟りたくなる」

 

 一気に消沈したあいつに余計苛立ちながらも言葉を続ける

 

「だけど………………………………………俺の信念と言うか矜持と言うか………まぁそんなモノを冒しまくってるお前だけど…………………………心底嫌い………と言う程嫌ってないし、正直見限るのを残念に思ってる俺が又腹立つんだよ。

 

 ……………数日の付き合い程度なのに見限れない自分の甘さに苛立つし、嫌ってはいるが少なからず気に入ってる奴が自分でどんどん俺の中の価値を下げ続けるのにも苛立つし、いざ見限ろうとしても嫌うという半端な対応をする自分に苛立つし、その対応で傷付くお前を見て苛立つし、そんなお前に罪悪感を抱く自分に苛立つし、桜ちゃんの進退が賭かっている危険な時期に余計なことを考えているのに苛立つし、楽しそうな桜ちゃんの時間に関係する奴のことを余計なことと思う自分に苛立つし、…………………………兎に角昨日と言うか今日の宴会から全てがイラつくんだよ」

 

 

 消沈を通り越して再び自殺しそうな程暗い雰囲気を漂わせ始めたあいつだったが、それに気遣うこと無く言葉を続ける。

 

「………他にも言いたいことは山程在るが、同時に直ぐに此処から離れて二度と遭いたくなくも在るから、結論を言う」

 

 怯えながらも祈る様な眼差しを向けるあいつを、此れが最後だからと湧き上がる全ての想いを無視して告げる。

 

「…………………………お前との時間は何だかんだで気に入ってる。だからふざけた真似……………人質を取って俺の意志を操作する様な真似は二度とするな。

 嫌なら桜ちゃんが独り立ちする迄は付き合うから、魔術協会か聖堂教会と一緒にお前を捕獲なり封印なり討滅するなり何なりする迄の間は浮かれてろ。

 

 ……………答えを言わせる気は微塵もないから言わなくていいぞ。

 今迄のは俺の愚痴と勝手な主張だからな」

 

 言いたいことは言ったのであいつから視線を切り、桜ちゃんの見える位置に移動して横になる。

 

 

 ……………矢張り疲れてるとらしくもないことを喋ったりするな。

 …………………………此れ以上醜態を晒す前にとっとと寝よう。

 

 腕を枕にして寝ようとした時、あいつが俺の頭をそっと持ち上げて自分の太腿に乗せた。

 

 

 とりあえず退かす為に体を起こそうとしたが、それより早く上から小さな声が降ってきた。

 

「……………至らない所が沢山在る不束者の駄狐ですが、宜しければ傍に居させて下さい」

 

 …………………………顔は見ていないが、何と無く表情が見たかの様に解る声だったので、此方も小さな声で――――――

 

「勝手にしろ」

 

――――――と言い、退かすのを止めた。

 

 顔を見られないようにあいつの腹に出来るだけ顔を近づけて寝ることにしたが、上から小さな笑い声聞こえ、何と無くどんな顔をしているのかを知られてしまった気がしたので、腹癒せにあいつの尻尾を数本手繰り寄せ、少し強めに抱き枕代わりに抱き締めて眠ることにした。

 

 

 







  実は途中から起きていた桜の感想


「……………やっぱり二人はラブラブ………」



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