カッコ好いかもしれない雁夜おじさん   作:駆け出し始め

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続・シリアスは、歩いてこない、だから歩いてゆくんだね

 

 

 

 夜の闇に飲まれる様に姿が見えなくなっていくアリサとすずかを見た雁夜は急いで掬い上げるべく、再び宙を駆けようとした。

 だが、雁夜が駆け出す直前、玉藻が極上の笑みを浮かべながら雁夜の進路上へと体を滑り込ませ、更に焦った顔をする雁夜へ何時も通りの軽い声で話し掛ける。

 

「大丈夫ですよー♪ 柘榴やミートソースになる前にきちんと回収しますから」

「っ!? だ、だったら今直ぐ回収――――――」

「――――――したら魔術というか神秘全般を舐めた子供に成りかねませんよ?」

「…………」

 

 世界の表側にこそ日常という幸せが在ると思っている雁夜は、夢と希望しか目に映らずに裏の世界に心奪われて追い求める様になるのは好ましくない為、玉藻の言葉を聞くと反論を直ぐに止めた。

 

「記憶の改竄をどうするにしても、相手が空を飛べるだけで運ばれて落されればあっさり死んでしまう程に自分達が弱いと理解させないとまともな話し合いになりません」

「……いや、言いたいことは理解出来るんだけど……」

「会ったばかりの輩に私は甘くありませんよ? ご主人様の知り合いじゃなければ尚更です」

 

 冷たいと言うよりは極自然にそう告げる玉藻。

 対して雁夜は軽く溜息を吐いた後、降参する様に手を上げた。

 

「分かった。確かに初対面にしては甘過ぎだったかもしれない」

「はい、分かって下されば結構です。

 ご主人様はこれから億年単位で生きる筈ですから、舐められない接し方と適度な距離の取り方をゆっくり学んでいってくださいね?」

「別に舐められる様な接し方はしてないつもりなんだけどな……」

「甘いです。過ぎた礼節は徒の腰の低さなんです。

 そしてご主人様程の方は自分が100%悪く無い限り踏ん反り返っているくらいで丁度良いんです」

「いや、流石に50%悪ければ謝らなきゃ失礼だろ?」

 

 雁夜のその言葉を聞き、玉藻は呆れたというよりも如何したものかという様な困った表情になった。

 そして言うべきか言わざるべきか少し悩んだようだったが、結局言うならば早い方が良いだろうという結論に達したらしく、先程より心持ち真剣な顔で雁夜に告げる。

 

「いいですかご主人様? 罪が相殺されるのはあくまで人間同士……というか同格な者達だけの話です。

 しかしご主人様は人間と同格なんかじゃありません。

 僅かでも相手に非が在れば、自分の非を全て無視しても構わない存在なんです。

 少なくても無防備に攻撃を受けても傷一つ付けられない相手に対しては。

 

 色色と言いたいことは在るでしょうけど、そうしなければ力在る者は力無い者達の社会を容易く崩壊させてしまうんです。

 実際ご主人様は軽い気持ちでAランク以上の宝具をポンポン渡してましたけど、それらの脅威は低く見積もっても燃料と兵装を無制限で使える上に整備要らずのワンオフ戦闘機以上の物と言ってもいい程の物なんです。

 そんな物を侘び代わりに気安くばら撒き続けたら、世界の勢力バランスは容易く崩壊していしまいます」

「………………」

「言葉だけの謝罪でなくて、何かを成したり渡したりするのはご主人様の美徳だと思いますけど、それで何処かに歪が出てその煽りを食らった者ががご主人様に抗議して、それに対する謝罪で又…………って感じで負のスパイラルに陥ったりしない為にも、少しでも自分に非が無ければすっぱり意見を封殺するなり黙殺するなりくらいで丁度良いんです。

 此れは人間社会の中で生きていこうとするなら最低限自分に課すべきルールです。

 

 勿論ご主人様が個人的に気に入られた方に贔屓するのはアリだと思います。

 少なくてもご主人様のお気に入りの方が人質に取られたりした時、相手の都合を無視して人質に取った者とその関係者を滅ぼすくらいの行動が出来るならですけど。

 そうでなければご主人様は最終的に人間達から人間社会に害を齎す悪性存在と認識されてしまい、のんびり過ごすのは夢のまた夢となってしまいます」

「……………………」

 

 玉藻の言う事が雁夜にとっては耳に痛い正論の為、反論も出来ず押し黙り続ける雁夜。

 

「ご主人様が一般人の価値観を大事にしたいという想いも分からなくはありません。

 体はとっくに人外に成ってしまった以上、せめて心だけでも一般人でなければ人間との接点なんて維持出来ませんから、一般人で在り続けようとされるのは仕方ない気もします。

 

 ですけど、もう一般人の思考で過ごせる限界は過ぎてるんです。

 〔此処の世界が駄目なら今度は別の世界に行けば良い〕、と考えを改めなければ、根本的解決が成されていない以上、後は延延と行く先先の世界を混乱させて廻るだけになります。

 ですから、そうならない為にも、せめて、気軽に詫びて、そして何かを成したり、若しくは渡したりする癖は、何とかして下さい。

 

 私はご主人様が後で自分の行動を振り返った時、後悔に塗れて苦悩する姿は見たくありません」

「…………………………」

 

 普段の軽さは消え失せ、真摯な気持ちで紡がれた玉藻の言葉に雁夜は更に押し黙った。

 言いたいことは言い終わったのか、玉藻は言葉を続けたりせず静かに雁夜を見詰め続ける。

 

 

 暫しの時間雁夜は目を閉じて考え込んでいたが、やがて目を開けると玉藻を見据えて告げる。

 

「玉藻の言いたいことは分かった。そして実際その通りなんだろう。

 少なくても俺が自分の一挙手一投足を軽んじれる期間がもう終わってたのは良く理解出来た。

 それも本来なら桜ちゃんと居る時に俺に言って心構えさせておくべき所を、桜ちゃんと桜ちゃんの友人達に軋轢が生まれて桜ちゃんが悲しまないよう、そして俺が悲しまないよう、今迄黙って腐心してくれたのも解った。

 

 …………本当にすまなかった。そして……有り難う。

 玉藻が居てくれて…………いや、一緒に居れて、本当に良かった」

 

 精一杯の感謝を籠めながら雁夜は玉藻へと頭を下げる。

 対して玉藻は、内助の功として隠し続けておく筈だった自分の行為を理解された上、正面切って自分に対して予想外の全肯定をされ――――――

 

「あ……う…………い、いえ……ご主人様の良妻としては当然の事といいますか何といいますか」

 

――――――珍しく照れていた。

 

「それに桜ちゃんはご主人様にとって本当に大切で愛しておられますし私も桜ちゃんは本当に大切で愛しい存在ですからその為に何か出来る事が在るならそれをすることに一片の迷いも無いですし寧ろ迷うどころか喜んでしたんで態態お礼を言われるようなことじゃないというかご主人様に知られて気を遣わせてしまって申し訳――――――」

「はははっ。此処迄照れてテンパってる玉藻は初めて見たけど、惚れ直すくらいに可愛いな」

「――――――ないといいますか…………ふぇっ!?!?!?」

 

 隠していた事が見抜かれた上、予想外の自身の全肯定、更に言った雁夜の自覚は薄いが豪速直球ど真ん中の褒め言葉を掛けられ、非常に珍しいことに事態が玉藻の処理能力を超えてしまった。

 その為玉藻は特に意味も無くあたふたして動き回ったり手や顔を動かしたりしていた。

 

 そしてそれがとても可愛らしかった為、雁夜極自然に近付いて片腕で抱き寄せ、更に頭を残る腕で優しく撫で始めた。

 

「ご……ご主人様。う、嬉しいですけど私は子供じゃないです」

「別に可愛くて愛しいからって子供扱い………………ってさっきの子達はっっっ!!!???」

「あっっっ!?!?!?」

 

 

 

 その後、急いで様子を確認すると既に両者は成層圏に突入し始めており、更に断熱圧縮で火葬が殆ど終わっていた。

 

 

 

 

 

 

Side In:Alisa(アリサ)

 

 

 

 12月24日、その日、あたしは時を見た。と言うか走馬灯を見た。

 

 生身でF層越えた辺りから落下し始めたあたし達は、大気摩擦とか断熱圧縮とか以前に、極寒の薄い大気を全身に浴びて凍えながらも酸欠に苦しみ続けた。

 息苦しくて呼吸をすると、舌や喉や肺が砕け剥がれる程の冷気で悶絶した。

 かと言って息を止めても身体どころか衣服が砕ける程の冷気が体にぶつかり続けて徐徐に剥がれ落ち、直ぐに気が狂いそうな痛さと熱さが体を駆け巡る。

 しかも余りの痛さに泣きながら目を開けてしまうと、瞬時に涙が眼球表面で凍り付いて余計痛くて目を閉じると、今度は瞼の裏が切れたり眼球が圧迫されてもっと痛くなった。

 しかもその後成層圏に突入する前辺りで断熱圧縮が起こり始めて、あっという間にあたしの体を黒焦げに変えていった。

 髪や皮膚どころか、全身の筋肉が背中から焦げ落ちていくという受け止め切れない痛みの中、今迄の人生を激痛と共に振り返りながら、あたしは意識を手放した。

 

 だから、目が覚めるなんて微塵も思っていなかった。

 というより、そんなことを考える余裕すらなかった。

 寧ろ、逃れることの出来ない死を嫌という程理解しながらも痛みに苦しみ続けるという、拷問としか思えない苦しみの最中に気を失ったから、目覚めた時に現状を認識する前に絶望感が襲った程だった。

 だけど、それでもすずかも生きていると知った時、初めて安堵した。

 あたしが白ですずかが黒のワンピースと全然違う服を着てるのに気が付いたのは、暫く抱き合って二人して泣いた後だった。 

 

 

 血が吹き出ず目を開けていられる周囲の温度、呼吸して肺が満たされる大気濃度、落ち続ける事が無いように体を受け止めてくれる大地、断熱圧縮が発生しないように流動する大気。……当たり前だと思っていたその全てがとんでもなく有り難いモノだったんだってすずかと二人で噛み締めていると、何時から居たのかさっきの男と女に気付いた。

 男の方は凄まじく申し訳無いオーラが噴き出しているけど、女の方は不満そうと言うか面倒臭そうと言うか義務感が噴き出していた。

 

 その後二人は何が如何なって先の状況になって、そしてアレからあたし達が如何なったのかを大雑把にだが教えてくれた。

 何でも、

 

1.女があたし達を受け止めなかったのは、あたし達が関わった領域が如何いう類なのかを理解させる為だった(……脅しで終わらせるつもりだったらしいけど…………嘘臭過ぎる)。

2.男の人が今後人と如何接するかを二人で話していると、うっかりあたし達の回収を忘れてしまった(理由が………っっっぅぅぅ!!!)。

3.気付いて急いで回収したらしいけど、既にあたし達は炭化してない細胞が5%を下回ってる炭の状態だった。

4.蘇生は容認出来ても完全な死者を蘇生させるのは男の方が容認出来ないらしく、二人してあたし達を完全に死なせないよう、阿吽の呼吸で最速にて役割を分担した上で実行した。

5.女の方が消滅寸前のあたし達の魂を急いで回収して回復させ、男の方が殆ど炭化したあたし達の身体を基に消滅寸前の魂を癒せる機能とかが付随した肉体を再構築した。

6.あたし達の身体が再構築されると女は一瞬であたし達の魂を肉体に宿らせ、男の人が宿った魂に馴染むように最速で調整を行った。

7.結果、見事あたし達は完全に死ぬ事無く息を吹き返した。

8.無論、全うな生物の範疇から完全に逸脱した存在になった。

 

と、いうことらしい。

 

 …………夕方迄のあたしなら新たな宗教勧誘とか誇大妄想とか言い切ったんだろうけど、怪しい世界に迷い込んで、ボディコンみたいな服着た奴に波動砲を撃たれて、全波長迷彩を掛けた奴に抱えられて空中を秒速数kmで移動して、多分熱圏の真ん中辺りから普段着でノーロープバンジーして、紅蓮地獄で寒さと酸欠で悶えて、止めに酸欠の最中に焦熱地獄でプラズマに焼かれながら意識を手放して、その後何故か傷一つ無い状態で地面……と言うかビルの上に居れば、流石に頭から否定したりはしないわ。

 と言うか、カール・何たら・ユングが提唱した集合無意識とかで半端に理屈つけて説明されるよりは納得出来るし、好感が持てるわね。

 但し…………。

 

「いちゃついてて助けるの忘れたって舐めてんのおおおおおおおおおおおおおおおっっっっっっ!?!?!?!?!?!?

 何!?何なの!!??何考えてんの!!!???いや何忘れてんの!?!?!?!?!?!?

 あたし達の脳が炭化する迄忘れていちゃついてるって、あたし達の扱いは戦争ラブロマンス映画のモブキャラかあああああああああっっっ!!!???」

「いや……全く以ってすまないとしか言い様が無い」

「ほんと、汚い花火を咲かせてすみませんでした地球」

「「………………」」

 

 取り合えず、男の人は自覚は分からないけど倫理と常識は有る奴で、女の方は自覚は有るらしいけど倫理と常識が異次元の彼方に消え去ってるってのは理解出来たわ。

 序に女の方は何故だか知らないけれど、滅茶苦茶あたしと相性が悪いのが分かった。

 本当なら気の済む迄噛み付きたいところだけど、あたしだけじゃなくてすずかも居るから無謀な真似は我慢しなくちゃいけないわね。

 ……気紛れであたしどころかすずかすら消し飛ばされたら堪ったもんじゃないし。

 

「と、取り合えず、悪気は有っても悪意が無いコイツの暴言は片っ端から蝉の鳴き声と思ってスルーしてくれ。

 で、一先ず説明も終わったことだし、今更だが自己紹介だ」

 

 本当今更よね。

 まあ、女の方は兎も角、男の人の方は名前知らないと不便だから聞いとこうっと。

 

「俺の名前は【間桐 雁夜】。

 元人間の現在単一種の人外だ。

 慈愛の精神が無い精霊ルビスと思ってくれたら分かり易いと思う」

 

 ……空中に文字が浮かび上がったり、喩えがおかし過ぎるけど気にしない気にしない。面倒臭いから兎に角ツッコまない。

 

「で、こっちが……」

「将来【間桐 玉藻】になる予定の【玉藻の前】です。

 正真正銘の神で、別側面に【天照、大日如来、ダキニ天】も在ります。

 7次元以下の干渉で害せませんし、1000年なら過去未来問わずに転移や召喚が可能なので人質は無意味ですから、余計な手間は掛けさせない下さい。

 名前が長くて言い難いなら神様と呼んで構いません」

「「………………」」

「言いたいことは良ーーーーーーく分かるが、マジだ。本当だ。悪夢かもしれないだろうがその通りなんだ。

 しかも能力だけでなくて知能も単独で人間全てを凌駕するだろう領域の、文字通り神才だ」

 

 ……心技体で、体(力)と技(知)がカンストした奴なのは良く分かったわ。

 

「まあ、馬鹿に知恵と力を持たせたらどうなるかの究極系な奴だけど、此れでも人間全体を想ってるのは間違いないから、さっき言った様にスルーしてくれると嬉しい」

「あ、はい」

「……間桐さんがそう言うなら信じられないけど、取り合えずスルーしとくわ」

 

 ……ボーとしてる様に見えて、素早く返事したわね、すずか。

 

「さて、もう少し詳しく自分達の身体のことを知りたいだろうけど、先に幾つか告げておかないといけない事があるから確り聞いてくれ」

 

 あたしとすずかを見ながらそう言う間桐さん。

 対して玉藻の前……略して駄狐が、頗る不満な顔であたしとすずかを見ているのが気になるわね。

 

「ポンポン詫びた後に賠償として何かをするようなことを控えると決めた矢先だけど、今回は如何見たって俺達が100%悪いから、お詫びに俺と玉藻で譲れない琴線に触れず且つ出来る範囲なら一つだけ願いを叶えることになった。

 勿論願いを無限に叶えろと言うのもアリだけど、そういう舐めた願いをしたら次の願いを言う前に消えてもらうかもしれないし、漠然とした願いならその煽りには責任を持たないから、考えて願い事を言ってくれ。

 後、〔●●を自分の言うことに何でも従うようにして〕、なら可だけど、〔●●を隣の家に引っ越させて幼馴染って設定にして〕、は願いが二つだから不可だと言っておくね。

 

 あ、それと俺と玉藻で合わせて1回だけど、俺と玉藻の両方若しくは片方を対象にする選択は出来るから」

 

 ……なんか、脈絡無くランプの精に遭遇した感じね。

 拾った宝籤で1等を当てたらこんな気分になるのかしら?

 

「とは言え、此の儘願いを聞いたら後で君達が後悔しそうだから、ちょっとだけお節介を焼かせてもらうよ」

 

 その言葉と同時にさっきあたし達が居たと思しき所が宙に映し出されたけど、…………なんか痛痛しい格好と心配な格好をして宙を飛び回っている二人に物凄く見覚えが……。

 

「ま、まさかなのはちゃんとフェイトちゃんっ?」

「いや、流石に色色ぶっ飛んでるなのはと色色抜けてるフェイトでも、あんな痛痛しい格好と将来が心配な格好して空は飛ば――――――」

「正解だ」

「――――――ないで……「えええーーーーーーっっっ!?!?!?」」

 

 え?何?何なの?如何なってるの!?

 

「何時の間にあの子達って小さい子向けの格好したり大きいお友達狙いの格好する性癖に目覚めたりしたの!?

 若しかしてもう大人の階段上ってシンデレラになろうとしてんのっ!?」

「お、落ち着いてアリサちゃん。

 きっと将来美少女タレントだったって子供見せてあげる為に着てるんだよ。多分。

 と言うか、なんでアリサちゃんが大きいお友達とかの言葉を知ってるのか気になるよ」

「いや、君も落ち着こうね?」

「何度か二人でお茶会してる時、すずかが席立ってる間にサブカルチャーの暗黒面を軽く忍さんに教わってるのよ。

 後、フェイトの水着と意味不明スカートも心配だけど、下着を気にせず飛び回ってるなのはは普通に羞恥心が消えてて本気で心配なんだけど?」

「下着よりも空飛んでることに疑問を持とうね?」

「お姉ちゃんの話はあんまり真面目に聞かないで。お願い。

 後、なのはちゃんは多分見せても構わない下着を穿いてるか純粋に考えが回ってないんだよ」

「いや、君の友達の将来が痴女か痴呆女になりそうなのが心配なのも分かるけど、話を聞いてくれないかな?」

「姉に対して然り気なく酷いわね。

 それにしてもフェイトだけじゃなくてなのはも若い身空で残念美少女街道を疾走しちゃうなんて、将来は痴女か地雷女に成りそうで怖いわね」

「いや、だから話を――――――」

「――――――玉藻フラッシュ!」

「「「目、目があああああああああっっっ!?!?!?」」」

 

 バルスッ?!

 

「ご主人様を無視して現実逃避なんていい度胸ですね?

 死にたいんですか?殺されたいんですか?どっちなんですか?

 う~ん、面倒だからサクッと自害してくれませんか?」

「「「目がああああああああああああっっっ!!!目があああああああああああああああっっっっっっ!!!!!!」」」

「……って…………あら? 何でご主人様も大佐の真似事をなさってるんです?」

 

 今此の瞬間、あたし達の心は一つになった筈だと思う。

 未だ嘗てない想いを籠めてあたし達は叫ぶ。

 

「お前のせいだろっっっ!!!???」「あんたのせいよっっっ!?!?!?」「貴女のせいだよっっっ?!?!?!」

 

 あたしとすずかと間桐さん達で形作った三角形の中心で光ってて何言ってんの!?!?!?

 後、目だけじゃなくて視神経と脳も焼けたかのように痛い!

 

「そんな、…………まさか極光の最中でも私を見続けてくれる程にご主人様は私を想っていてくれてたんですね!?」

「ふざけんな! 一遍学校行って情操教育受けてこい!」

「あ、ご主人様と一緒なら大歓迎ですよ?」

「この見た目で小学校とか通うわけないだろが!?」

「え? 私も見た目的にアウトなんですけど?」

「知るか! 巨大女とか言われて虐められろ!」

「まあ、通うなら美幼女になってから通いますし、通ったら1日で校長もシめて好き勝手しますけどね」

「駄目だこいつ!?もう手が付けられねえ!」

 

 本当手が付けられないわね。

 しかもこんな奴が大日如来とか知れ渡ったら、ほぼ確実に今直ぐ世も末になるわね。

 少なくてもあたしは仏の存在は信じても仏の教えはもう微塵も信じられないわね。

 

 まぁ、それはさて措き、ちょっとすずかと間桐さんに聞いてみよう。

 

「あー、すずかと間桐さん? あたしはさっきから目は痛いし目の裏側から脳迄滅茶苦茶痛いんだけど、すずかと間桐さんはどんな感じ?」

「私も同じだよ。

 さっきから目から脳迄熱い砂が動いているかのように痛くて気が狂いそうだよ」

「……玉藻。さっさと治療してやってくれ。

 如何考えたって失明してるから」

「分かりました。

 ですけど、先ずはご主人様からです。

 さあ、身も心もナース玉藻に委ねて下さい♥」

「もう回復したから要らん。っていうか早く回復してやってくれ。

 いい加減マジで話を進めたいから」

「は~い。分かりました」

 

 ……あたし達は失明してるのに間桐さんは問題無く回復してるって、地味に種族の差を感じさせられるわね。

 

「う~ん……筋肉が炭化して剥がれると思ったんですけど、眼球を含めた殆どの体表と視神経や脳が焼かれただけで済んでるって、ご主人様の不思議物質のレベルって相当上がってますね~」

「おいこら、そんな出力の閃光を俺とこの子達に浴びせたってのかよ?」

 

 全く同感ね。

 と言うか、若しそれが本当なら、マジで人外に成ったってことよね。

 ……若い身空で世界の暗黒面に転落とか、無性に泣き叫びたくなるわね。

 

「いえ、巻き込んだのはうっかりですけど、ご主人様がピンチじゃない時に出す力は、基本的に万が一巻き込んでもご主人様が傷一つ負わない程度の出力しか出しませんから、巻き込んだ際の問題は初めから在りませんよ?」

「……まあ、それならいいか」

「「………………」」

 

 何気に駄駄甘ね。

 って言うか、あたしは間桐さんと違って回復した視界(と言うか視力?)に映る目の前のこいつに猛烈にツッコみたいけれど…………話が本当に進みそうにないから今は自制する時ね。

 

「さて、此れ以上話が逸れない内に現状をササッと説明するね。

 あ、但し、今から話すのは地上同期……静止衛星軌道上に滞空しているアースラって戦艦から玉藻がクラッキングして得た情報だから客観性に欠けるし、更に第三者の俺が話すから信憑性も欠けるということを理解して聞いてくれ」

「「…………」」

「それじゃあ現状で分かっていることを纏めるとこういうことだよ。

 

1.正式名称夜天の魔導書、通称闇の書と呼ばれる再現不可能品の奪取乃至封印回収、若しくは最低でも破壊を前提にして時空管理局は動いている。

2.時空管理局に嘱託という容で君達の友人と思われる〔高町 なのは〕と〔フェイト・テスタロッサ〕の2名が関わっている。

3.夜天の魔導書の現所持者は君達の友人と思われる〔八神 はやて〕で、現在外見は銀髪赫眼の少女になっている。

4.夜天の魔導書は現在半暴走状態であり、完全暴走すれば自然及び自己鎮静化は不可能であり、他者が沈静化するには所持者諸共夜天の魔導書を破壊する以外の方法は不明。

5.夜天の魔導書が完全暴走する迄予測では約12時間とされているけど、武力行使で此の時間は減少すると目されていて、実質凡そ1~3時間で暴走する。

6.半暴走状態の現在でも人員を投入しての制圧はほぼ不可能であり、完全暴走した場合は1級戦力の人員を大隊規模で投入しても制圧は極めて困難。

7.故に時空管理局は完全暴走する前に夜天の魔導書の所持者を、周囲半径百数十キロを空間歪曲若しくは反応消滅させる切札のアルカンシェルを以って事態を解決させようとしている。

 

 以上が現在の状況だよ」

「「………………」」

 

 いや、あたし達に如何しろってのよ?

 生憎あたし達はトベルーラを使いながらベギラゴンやイオナズンやギガデインを使い捲くる中に飛び込んで何か出来ると思う程楽天家じゃないから。

 銃撃戦の中に取り残されてるなら直ぐにでも駆け付けるけれど、ドッグファイトしている只中に飛び込むつもりは流石に微塵も無いから。声が届く前に呪文の余波で多分死ぬし、声が届いても状況が悪化する以外のビジョンが見えないし。

 

「言いたい事はある程度予測が付くけど、それより先に俺達が此れから如何するか、そして君達に如何いう選択肢を提示しているのかを言うね。

 

1.俺達は夜天の魔導書が完全暴走したら所持者諸共殲滅する。

2.時空管理局が超広域破壊兵器を俺達の生活圏内に一定以上の影響を与える様に炸裂させた場合、攻撃を防御した後に反撃、若しくは攻撃を押し返して搭乗者諸共アースラを轟沈させる。

3.俺達の存在が感知され且つ過干渉を行ってきた場合、生死問わずに迎撃する。

 

 此れが俺達の対応予定だ。

 勿論俺達は今迄同様に捕捉されない様にするつもりだけど、絨毯爆撃で特定されたり勘で見つかったりする可能性も在る。

 

 そして、此処からが話の本題だけど、……俺達なら夜天の魔導書の暴走を沈静化させたり、暴走した原因を除去乃至抑制する事が多分出来る。

 つまり、俺達は君達にこう訊いている。友達を救うか元の……いや、正真正銘人間の身体に成るかのどちらを選ぶのか?って」

「そ、そんなの――――――」

「――――――但し、友達を助けたなら友達の家族も助けなければ片手落ちだ。

 そしてその家族、シグナム、ヴィータ、シャマル、ザフィーラ、以上4名は夜天の魔導書によって具現されている存在の為、当然夜天の魔導書がなければ存続不可能だ。

 そうなれば当然君達の願いは、〔暴走の沈静化〕、と、〔暴走理由の除去乃至抑制〕、で使い切ってしまう。

 暴走理由の除去乃至抑制だけじゃあ、エンジン異常を修理しても崖から転落している現状は改善しないのと同じだから、二つの願いはセットになる。

 だけどその場合、人外に成った君達は自力若しくは君達の保護者達で時空管理局と相対しなければならない筈だ。

 

 忘れているかもしれないけれど、君達は先程迷い込んでしまった結界内から未確認事象に因って消失したと思われている。

 生きていた事が分かれば後日ほぼ確実に念入りな事情聴取が行われる。

 当然異常の有無を調べるという目的で身体検査もされるだろうけど、その際に君達の未だ人間の手には余りかねる身体性能の幾つかがバレる筈だ。

 そうなれば君達の意思は恐らく無視され、良くて高待遇の戦闘兵、最悪何をしても傷付けられない君達を御す為に身内を人質に取られて泥沼に陥る、という事態に成る筈だ。

 そしてそうならない為の手段を君達は友達を救うと失うことになる。

 

 だから、降って湧いた機会を活かして友達を助けた代わりに最悪身内にもとてつもない被害を被らせる選択をするか、友達は成るように任せて自分達を優先して身内にも被害が及ばない選択をするかを考えてほしい。

 ……本当は良く考えてほしいとこだけど、恐らく後時空管理局が動き出す迄後10分も無い筈だから、素早く考えを纏めてほしい」

「「……………………」」

 

 悪魔……じゃなくて緊急避難的選択ね。

 自分と自分の家族の人生をチップにして友達を救うか、友達を見捨てて自分と自分の家族の平穏を守るのか。

 …………若し自分を選んでも家族の命の為ってお題目が在るのは、間桐さんなりの優しさかしらね……。

 

「あ……あの……」

「なんだい?」

 

 ? 一体何を訊くつもりなのかしら、すずか。

 

「えと……若し私達が自分達を優先させるとしても、その時はどういう風に願えばいいんですか?

 後、はやてちゃん達を助けてもらおうとして失敗した場合、やっぱりノーカウントにはならないんですか?」

 

 あ。

 

「君達が自分と家族を優先させるとしたら、詳しく指定しなくても君達の身体が原因で平穏が乱れる事態にならない様に動くから安心してくれ。

 徒、君達の寿命は相当桁外れな筈だから、だいたい200年後迄には俺達が居なくても問題無い程度の自衛手段を得られる様に教導してから別れるつもりだ。

 つまり、最低でも200年は保障するってことだよ。君達が君達の願いの邪魔をしない限りは。

 

 それと、願い事は君達自身が邪魔しない限りは失敗してもカウントしないから安心してくれていいよ。

 後、仮に俺達と敵対しても、君達が君達の願いを邪魔しない限りは中止するつもりは無いから」

 

 ……可也良心的なのは分かったけれど、根本的解決にはなってないのよね。

 どっちかがあたし達の平穏を頼んで、残るどっちかがはやてを助けることを頼んでも、はやての家族のシグナムさん達が居なくなっちゃうから片手落ちなのよね。

 

 …………あたし達二人が願い事を費やせばはやてとシグナムさん達の合計5名が助かって、代わりにあたしとすずかに最悪パパとママと忍さんだけじゃなくてその親類縁者に飛び火して何名になるか判らない人が多分破滅する。

 逆にあたし達が自分を優先したらさっきと正反対になる。

 しかもどっちを選んでも、時空管理局とか正気を疑う名称を掲げる組織に間桐さん達の存在がバレたら、最悪なのは達が突撃してきて汚い花火になるのが嫌という程解る。

 少なくても断熱圧縮が発生する速度で動き回れる上に急停止も出来るんだから、埒外の速度でなのは達に体当たりすればそれだけで多分あっさり死ぬ筈。……攻撃力に普通のイオと大魔王のイオナズンぐらいの差が在りそうだし。

 

 ………………駄目ね。全然打開策が思い浮かばない。

 かと言って迂闊にこういう自分と他人が天秤に乗ってる問題で話し合いすれば、小説や映画とかの例に漏れず碌な結果に成らない事は明白だし、自分の結末を誰かと話し合って決め合うって凄く変だと思うから、多分話し合わないの一番良いと思う。

 とは言うものの解決策も妥協案も全く思い浮かばないし、時間もそんなに残っていないっぽいから悩む暇も無さそうっていう、正に八方塞状態。

 

 ……………………ぶっちゃければはやてより自分の方を優先したいのは自覚出来てる。

 文字通りに死ぬ目に遭った身としては、はやてとの友情が自分の命を賭ける程のモノじゃないって結論は出ているのよね。

 しかもパパとママやその回りの人達も巻き込むかもしれないなら尚更なのよね。

 とは言うものの、[はいそうですか]、って切り捨てるのも寝覚めが悪過ぎるし、いくらなんでも其処迄ドライな友情を築ける程あたしは達観してないから、可能な範囲でなら何とかしようと足掻き続けたい。

 少なくてもみんな笑顔で…………って!?

 

「「っっっ!?」」

 

 以心伝心阿吽の呼吸!流石あたしの親友!ナイスよすずか!!!

 

 よっしぃ!

 多分起死回生の手段はコレ以外に無い筈。

 コレが駄目ならもうはやてには自力で如何にかしてもらうしかなくなるわね。

 

 

 

 万が一の時は自分の為に友達を切り捨てれるという、半日前なら考えもしなかっただろうし認めもしなかっただろう自分の変化に驚きながらも、あたしはすずかと同時に自分の願いを告げた。

 

 

 

Side Out:Alisa(アリサ)

 

 

 







【玉藻フラッシュ】

 太陽と同レベルの光を全身から発するEXランクの神霊魔術。
 寧ろ閃光と言うよりも全波長攻撃。
 当然可視域の光量だけでなく電波等も太陽が発するのと同等域の為、常人どころか空母艦隊すら一撃で纏めて機能停止させられる戦略級の技。
 アリサとすずかが蒸発せずに軽い火傷で済んでいたのは、取り込んだ玉藻の神気に比例して玉藻の干渉に一定の耐性が付いていたことと、雁夜の不思議物質の耐久度が高かった為。


【大まかな現在序列】

~~ 雑魚の壁(某キングスライム級) ~~

・はやて
・アルフ
・なのは
・フェイト

~~ 面倒な雑魚の壁(某スライムベホマズン級) ~~

・ユーノ
・クロノ
・各守護騎士

~~ ボスの壁(八俣遠呂智級級) ~~

・リインフォース
・闇の書の闇

~~ ラスボスの壁(バラモス級)

・アリサ
・すずか

~~ 裏ボスの壁(光の玉で弱体化していないゾーマ級) ~~

・英霊イスカンダル(ヘタイロイ有り)
・時空管理局

~~ 無理ゲーの壁(イマジンにバーサーカーのゴッドハンドが付いた級) ~~

・雁夜

~~ クソゲーの壁(遭遇=GAME OVER級) ~~

・玉藻

 ……相変わらず雁夜達のランクが酷いです。
 因みに長い間玉藻とイチャイチャしていた為、雁夜は房中術的な理由でレベルアップしていたりします(厳密には最長老に潜在能力を引き出してもらったのと、幸せの靴を履いて城下町を歩き回ったのを足した感じです)。



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