カッコ好いかもしれない雁夜おじさん   作:駆け出し始め

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 今回の粗筋は前回と違い、可也原作との相違点があります。
 読み飛ばされても問題は在りませんが、前回と違い読まれても苦にならない程度の出来にはなっていると思われますので、宜しければ御覧下さい。





拾玖続・カッコ好いかもしれない雁夜おじさん

 

 

 

―――――― Interlude In ――――――

 

 

 

 聖杯にサーヴァントが三騎注がれ、残るはセイバーとライダーになった時、遂に時臣が動くことを決めた。

 長い付き合いであった璃正が殺害されたことに嘆き憤りつつも、此処で立ち止まれば璃正に顔向けできないとばかりに懸命に感情を殺しての決断だった。

 何故ならセイバー陣営とライダー陣営が同盟を組めば問題無いが、若し敵対した儘ならばセイバー陣営の敗北が濃厚な以上、時臣はギルガメッシュに見所を示せなくなってしまう為、時臣はギルガメッシュへとセイバーの真のマスターである衛宮切嗣と一騎打ちをするので見届けてほしい旨を告げた。

 そして一騎打ちの立会いを望まれたギルガメッシュは、エクスカリバーの斬撃を見た時に少なくない興味を抱いたセイバーを消してしまうのは勿体無いと思ったので、真のマスターとやらとの一騎打ち自体を禁じようかと思ったが、先にライダーを倒した後に自分がセイバーと遊んでいる最中に時臣とセイバーの真のマスターとやらをぶつけ、時臣が勝てば聖杯をセイバーに振りかけた残りを時臣に渡せば臣下の礼をとる時臣への義理も果たせると思い、ギルガメッシュは了承した(エクスカリバーの斬撃は宝物で固有結界内を見ていた為ギルガメッシュは知っていた)。

 ただ、セイバーの真のマスターがギルガメッシュどころかライダーすら無視してセイバーを自害させて聖杯に回収させ、更に封印されていたサーヴァント二騎に相当する魔力を解放し、早早に聖杯を降臨させてしまえばセイバーのマスターが勝ち逃げてしまう為、人目が合って聖杯降臨がし難い陽の光が出ている時間帯に聖杯を確保する必要がある為、ギルガメッシュは幾つかの宝物を時臣に貸し、時臣自身か綺礼の何方かに聖杯を回収して来いと告げた。

 如何にセイバーに興味があるとしても、ギルガメッシュ自身がせせこましく動く程の執着ではない為、仮に間に合わず死んだのならそれまでとギルガメッシュは割り切っていた。

 

 結局聖杯の回収は元代行者である綺礼が行うことになった。

 単純な戦闘能力ではなく運搬力や隠密力等が鍵となる為、当然の帰結と言えた。

 そして聖杯回収は降魔時に行われた。

 土蔵の扉は分厚かったが、自力で大木すら数度の発勁で破壊可能な綺礼はギルガメッシュの宝物で一時的に身体強化されていた為、問題無く扉を破壊し、更に聖杯の護衛すらも下し、容易く聖杯であるアイリスフィールを運搬し始めた。

 運搬迄は容易かったが、恐らく直ぐに令呪を使用してセイバーを転移させると判断している綺礼はギルガメッシュより貸し出された視覚や気配での認識を阻害する布で身体を覆い且つ空を疾走可能な靴を使って空中を疾走し、更に気配をずらす宝物でアイリスフィールの気配をずらし、その上その位置にライダーの幻を作り上げてセイバーの追跡を振り切りに掛かった。

 すると流石に宝具の原典を2つ使用した罠は看破出来なかったのか、綺礼は見事にセイバーを振り切ってアイリスフィールを冬木教会へと移送しきった。

 

 冬木教会の地下へアイリスフィールを隔離した綺礼は、暫しアイリスフィールと話しをした。

 話の末に綺礼は切嗣の目的を知り、戦う意義を遂に見出した。

 〔切嗣の眼前で聖杯を木端微塵に打ち砕き、切嗣が絶望に押し潰されるか這ってでも前に進むかを見届け、更に這ってでも前に進むならば偽り無き慈悲を持って手助けする〕、と。

 即ち、【真剣に生きている者に苦難を齎し、それを乗り越えんとする者を愛で、その苦難の中で救いを望む者に慈悲を持って手を差し伸べる】、此れこそが己の本質だと綺礼は確信した。

 だが、切嗣を苦難に落とすならばそれには時臣がどうしても邪魔であり、更に時臣と切嗣の両者を相手にして勝てるとは綺礼も思っていない為、時臣を排除する必要が発生した。

 更にギルガメッシュをどうにかして自分の側に引き込まねば殺されてしまいかねない為、綺礼は璃正より継承した令呪を時臣へ渡すと言う名目で遠坂低へと赴むいた時に聖杯戦争の実態をギルガメッシュに伝えて時臣との関係を破壊することに決めた。

 一先ず聖杯の回収成功と地下への安置を綺礼は時臣へ報告し、ゴタゴタで令呪を継承していた事の報告を失念したことを告げ、後程キャスター討伐の報酬として追加令呪を渡しに行くと告げた。

 

 一方、聖杯回収に携わらなかった時臣は、最悪今日にでも切嗣と一騎打ちをすることになる為、凜に別れの挨拶をしていた。

 綺礼の護衛も無く冬木に呼び寄せるのは危険かとも一瞬思ったが、凜が一人で夜中を徘徊していた際に吹き抜けた風を聞く限り、少なくとも凜と葵に関しては雁夜が遠隔で守護しているのだろうと判断し、更に切嗣ならば雁夜と凜達の間柄程度はとっくに調べ尽くしているだろう以上、態態サーヴァント諸共滅却される危険を冒す策を弄するとは思えず、ライダーのマスターはサーヴァント共共理由は違えど聖杯戦争の参加者以外に害を及ぼすとは思えぬ為、葵に運転させて冬木迄来させた。

 葵達が到着すると、先ず時臣は葵だけと桜と雁夜のことを話し、良き父ではなかった事を葵に詫び、若し自分が倒れた後に桜が蟠りを解く為に遠坂を訪れたのなら、良き父ではなかったが愛していたと伝えて欲しいと葵に伝えた。

 次に凜だけと時臣は話し、遠坂の悲願と成人する迄の助言を伝え、更には自身の手に負えなくなった時は間桐雁夜を頼れと告げるが、それ以外の時は自身からは極力関わるなと告げた。理由は一人立ちすれば遠からず判ると言い残し。

 そして別れの挨拶を済ませた時臣は地下工房に戻り綺礼からの連絡を待つことにした。

 外が闇に包まれた時間ごろに綺礼から連絡が入り、聖杯回収と地下への安置を済ませた旨の報告を受け、更にゴタゴタの為令呪を継承していた旨を忘れていたので後程キャスター討伐の報酬の追加令呪を渡しに赴くとの旨を受けた。

 態度には出していなかったが綺礼も実父を殺されて参っていたと今更ながらに思った時臣は、父の死を悼ませる暇を与えなかったことを深く謝罪しつつもそこまで自身に尽くしてくれることに深い感謝を述べた。

 

 そしてアイリスフィール奪還の為に冬木市を駆け回っていたセイバーだったが、運悪く幻ではない本物のライダーを知覚してしまい、追走劇に移った。

 追走中にハンドルを切り損ねた対向車が横転したりして玉突き事故を起こしたが、それらを思考の外に放り捨てて何時の間にか闇に包まれた市街を道交法と人命を無視してライダーを只管追走した。

 人通りの少ない峠辺りでセイバーに気付いたライダーが車輪で勝負を決めると言い出して地を疾走し始めた。

 辛うじてライダーに追い付いたセイバーはアイリスフィールが居ない事を知り訝った。

 対して左手で切り掛かったセイバーを見たライダー達は、残ったサーヴァントが自分達二騎と転生したアーチャーだけだと悟った。

 そしてアーチャーとの対決は別として、此の戦いが聖杯戦争最後の戦いになると見た両者は、セイバーはエクスカリバーの真名解放を以ってライダーを打倒し、ライダーは神威の車輪の最大蹂躙走法を以ってセイバーを下すつもりでいた。

 光の斬撃とライダー達を乗せた戦車の激突は、ライダー達を乗せた戦車が押し負ける筈だったが、以前一度エクスカリバーの真名解放を見ただけでなく、雁夜達の戦いの最後で厭と言う程余波を見た経験から、二回目のエクスカリバーの真名解放を見た瞬間にウェイバーは可也正確な威力予測が出来、此の儘では自分達が競り負けると悟り、その瞬間、ウェイバーは瞬時に令呪にてブーストを掛けた。

 結果、既に破壊された戦車の防御フィールドが一瞬だけ爆発的に強化された状態で再展開され、可也の被害を負いつつも光の斬撃を駆け抜けてセイバーを神牛で踏み付け、更に戦車で轢くことは躱されたが雷撃を浴びせることに成功した。

 セイバーと神威の車輪の双方が可也のダメージを負ったがライダー自身は無傷であり、更にマスターから後3回は令呪の援護を受けられる上に奥の手の王の軍勢が存在する以上、ライダーの勝利は確定的であった。

 が、先程市街地で大事故を巻き起こしたセイバーを追跡し、峠で挟み撃ちにしようとしていた警察車両がライダー達の進行方向側から大量に接近してきており、止む無く勝負は中断となり、ライダーは流石にこの状態の神牛に無理をさせるわけにいかなかったので戦車を消すと直ぐ様ウェイバーを抱えて上の林に飛び込み、セイバーは動くことが難しかったので再びバイクを駆って警察車両の包囲を突破することにした。

 ライダーが去り際に次こそは配下に加わってもらうという一言に反論出来ぬ程にセイバーは衰弱していたが、それでも無事に警察の追跡を振り切った。

 尚、ライダー達は存在自体が確認されて居ない上、更に小柄とは雖も人一人を抱えていても世界記録を余裕で叩き出す速度で林を駆け抜けた為、人類の身体能力的に現場に居た事は立証出来ない為、セイバーと違い全く問題が無かった。

 しかも林を抜けて舗装された道を歩いて仮宿に戻っている最中にアサシンの元であろうマスターと出くわし、何故出歩いているかとライダー達が問い詰めると、アサシンの元マスターであろう者は自己紹介と監督役を引き継いだ旨を告げ、今はセイバーが戰装束から現代の服装への瞬間換装を見た者達の記憶改竄中だと告げ、更に遅くなったがと言いながら、綺礼はキャスター討伐の報酬として令呪を1画をウェイバーに進呈した。

 用も無い為直ぐに綺礼と別れたウェイバーは、セイバーを取り逃がした上に戦車に少なくないダメージを負ったのは痛かったと愚痴るが、令呪は補填され且つ令呪でブーストすればエクスカリバーにも対抗出来ると知れたのは収穫であり、更に明日一日ウェイバーが確り休めば戦車は回復するとライダーが告げた為、ウェイバーは相手の手の内を読めたと前向きに考えて納得することにしつつ、何と無く聖杯が降臨するだろう地を確認したくなったウェイバーは、夜中にも拘らず冬木市内の霊地を巡り回った。ライダーとコンビニの栄養ドリンクや弁当を飲み食いしながら。

 

 

 一夜明け、朝帰りを果たしたウェイバーは仮宿の主と親睦を深めた暫くの後に再び外へ出、ライダーを召喚した場所で休息を取る事にした。

 眠りに落ちる迄の間にウェイバーはライダーとの仲を深め、更に自分でも何か出切る事を証明したいから今戦っているとライダーに告げ、眠りに落ちた。

 そして日暮れになって起きたウェイバーは、ライダーから令呪でブーストすれば再びエクスカリバーにも競り勝てる旨を聞くと、仮宿へと戻ることにした。

 

 対して綺礼は朝一番に遠坂邸へと赴き、改めて聖杯回収と安置の確認報告をし、更に追加令呪を1画渡した。

 すると時臣は感謝も籠めて綺礼に魔術見習い終了の証としてアゾット剣を渡し、更に時臣は遺言状を渡しながら万一の時は凜の後見人になるように頼んだ。

 そしてこれからも宜しく頼むと時臣が言うと、綺礼は返事の代わりに先程貰ったアゾット剣で時臣を刺した。

 何が何だか解らぬ顔をしながら時臣はアッサリと死に、そこへギルガメッシュが現れて時臣の死に顔を間抜けた顔と評して笑った。

 既に昨日の夜の内に市内を散策していたギルガメッシュを発見して接触した綺礼は、聖杯戦争の絡繰を全て教えていた。

 当初はギルガメッシュすら聖杯に焼べるつもりだったと知ると、ギルガメッシュは最後に見所を示したと言い、言外に時臣を殺しても構わないと綺礼に告げていた。

 結果、綺麗はアッサリと時臣を殺害し、更にギルガメッシュは綺礼に聖杯を渡せば面白そうだという理由で契約を結び、第八の契約が成された。

 

 そしてセイバーは何とか警察を振り切った後は身を潜めながらも冬木市内を捜索するもアイリスフィールを発見することは叶わず、円蔵寺に居る切嗣にその旨を報告した。

 舞弥が居ぬことから死んでしまったのだろうと察し、戦友の無念を果たせず、守ると決めたアイリスフィールは攫われ、更に途中で勘違いの戦いを挑んで重傷を負った挙句、勝負を中断させた警察から這う這うの体で逃げ仰せただけで、成した事は相手マスターの4画ある令呪の1画を使わせた事と戦車に痛手を負わせたことであり、まるで役目を果たしていない自分に向けられる切嗣からの視線がセイバーには酷く苦しかった。

 しかも得意でないであろう治癒魔術を切嗣が行う為、素肌に手を添えられる様に服を肌蹴ねばならないことも苦しかったが、一番セイバーが苦しかったのは、己がマスターである切嗣がセイバーに期待していないと容易く解る目をしていたことだった。

 実際セイバーは今回の聖杯戦争で倒したのはキャスターだけであり、それすらもギルガメッシュが相当弱らせ、更に弱ったキャスターなら殲滅できるだろう宝具を持った者達が散見される王の軍勢の中で見せ場を譲ってもらってである。

 実質白星など無い状態であり、それを一番自覚しているセイバーは只管自身が情けなかった。

 治癒が終わるとセイバーは切嗣に礼を言い、要が在れば令呪にて召喚するように頼んで去っていった。

 話が成立するしない以前に、切嗣の目が宛ら、[セイバーを自害させて聖杯に焼べ、神秘隠匿を無視してでも即座に聖杯を降臨させるべきだった]、と語っており、それに反論出来る程自身が戦果を挙げていないことが余りに惨めであった為、セイバーは逃げる様に市街へと去った。

 去っていくセイバーを眺めながら切嗣は、アイリスフィールが攫われる前にアイリスフィールより返されたアヴァロンだけが頼みの綱だと思いながら身体を休めることにした。

 

 

 夜になり、完成前の冬木市民ホールにアイリスフィールを移送した綺礼は切嗣を誘き寄せる為、色違いの魔力弾を4つと7つを夜空へと放った。

 直にライダー陣営とセイバー陣営が市民ホールに来る事になるが、結託された場合流石のギルガメッシュでもセイバーを殺さずライダーだけを殺すのは至難の為、先にライダーの迎撃に出ることにした。

 当然何の対策も無ければセイバーに聖杯を抑えられて勝ち逃げされてしまう為、ギルガメッシュはセイバーが簡単に聖杯へ至れぬ様に数多の宝物を使用して時間を稼げるようにして迎撃に出た。

 そして綺礼も切嗣と戦う為に迎撃に出た。

 

 4と7の魔力弾を見たライダー陣営とセイバー陣営は迷わず冬木市民会館へと向かうことにした。

 ただその最中、自分が勝者の器でないと悟ったウェイバーは、それでも負け犬には負け犬なりの意地が在ると示す為、ライダーへ残る四つの令呪を全て使って命じた。

 〔必ずや嘗てを超える雄姿を振るえ〕〔必ずや最後まで勝ち抜け〕、〔必ずや聖杯を掴め〕、〔必ずや世界を掴め。失敗なんて許さない〕、と四つ全てを使い切り、一時的にだが生前に匹敵するステータスにライダーはなった。

 マスター権を放棄したウェイバーは一人去るつもりだったが、ライダーがマスターでなくとも自身の友であることには変わり無いと告げ、令呪の重ね掛けで修復どころか強化された神威の車輪に涙ながらにウェイバーは乗り込んだ。

 そして第一の令呪に応える為、最強の英雄に勝負を挑むべくライダー達は夜空を駆けた。

 

 

 

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 大橋の上に佇むギルガメッシュを見つけたライダーは其処へ降り、以前の宴の締めの問答をした。

 曰く、〔アイニオニオン・ヘタイロイをゲート・オブ・バビロンで武装させれば最強の軍勢が出来る。自分達二人が結べば星星の果て迄征服出来る。しかも雁夜から祝いの品を貰える上に、雁夜が参入するかもしれない。だから手を結ばぬか?〕、と問うた。

 するとギルガメッシュは本当に愉快そうに大声で笑った。

 かと思うと直ぐに笑いを収め、道化ではないが笑わせてもらったと言い、更に、[生憎だがな、後にも先にも我が朋友は一人のみ。我が全力で超えるべきは世界ではなく唯一人。そして王たる者も二人と必要無い]、と告げた。

 するとライダーは孤高なる王道に敬服を持って挑むと告げ、ギルガメッシュはそれを承諾し、存分に己を示せと告げる。

 

 互いに語るべきことは語った為、振り返った両者は問答を終わらせる合図の様に酒杯を上に高く放り投げながら互いに距離を取った。

 そして戦車に戻ると仲が良いのかと問うウェイバーに、生涯最後の死線を交わすかもしれない相手を邪険になど出来ぬとライダーは答えた。

 すると表情を曇らせたウェイバーは、自分が意地と信頼を籠めて使った令呪を忘れたのかと叱咤し、その言葉に対しライダーは弱気が掻き消えた声でウェイバーに返事をした。

 

 戦車に乗り込んだライダーはキュプリオトを掲げ朗朗と告げる。

 

「集えよ我が同胞。今宵我らは最強の伝説に雄姿を印す!」

 

 熱い風が吹き抜けた一瞬後、ライダーとウェイバーとギルガメッシュは砂漠の只中に存在した。

 ただ一頭だけがライダーの乗る戦車の横に存在している以外は、数万の軍勢の全てがライダーの背後に展開していた。

 そして全ての者に聞き届かせるべく、ライダーは更に大声を張り上げる。

 

「敵は万夫不当の英雄王。相手にとって不足無し。

 いざ益荒男達よ、原初の英霊に我等の覇道を示そうぞ!」

 

 ライダーのその声に、数万の全てが雄叫びで以って答えた。

 その雄叫びを聞くとライダーは戦車を疾走させ始め、プケファラスも併走し始める。

 そして自身に続けと言わんばかりに――――――

 

「AAAALaLaLaLaLaie!!」

 

――――――と、ライダーは声を張り上げる。

 そしてそれに倣う様にウェイバーも――――――

 

「アアアアラララライイイ!」

 

――――――と声を張り上げた。

 そしてそれに続く数万の大軍勢を見据えるギルガメッシュは、不適に笑えど一切の嘲りが無い表情で、宛ら謳う様に一人語る。

 

「夢を束ねて覇道を志す……その心意気は褒めてやる」

 

 突如ギルガメッシュの頭上に揺らぎが生じ、100本前後のAランク以上の宝物がギルガメッシュの周囲に降り注ぎ、突き立ったそれらは、宛らギルガメッシュを称える兵であるかの様だった。

 物言わぬ兵に囲まれたギルガメッシュは更に一人語る。

 

「だが兵共よ、弁えていたか?

 夢とはやがて、須く覚めて消えるが道理だと」

 

 静かにギルガメッシュの右手に何時かの鍵剣が現れる。

 そしてそれを何時かの時と同じく、虚空で鍵を開けるかの様に捻じりながら更にギルガメッシュは一人語る。

 

「なればこそ、お前の行く手に我が立ちはだかるは必然であったな。征服王」

 

 何時かの時と同じく、空間に何かを封印しているかの如き紅い幾何学紋様が走っては消え、何時かとは違い、掘削剣だけではなく、鎖と宝珠も現れた。

 ギルガメッシュは掘削剣を右手に握り、そして鎖を左手に握り、最後に残った宝珠は自身の周囲を静かに旋回させながら更に一人語る。

 

「さあ、見果てぬ夢の結末を知るがいい。

 この我が手ずから理を示そう」

 

 そして迫り来るライダーと数万の大軍勢を見据え、朗朗とギルガメッシュは謳い上げる。

 

「さあ目覚めろ、乖離剣(エア)よ、天の鎖(エルキドゥ)よ、そして創世の宝珠(カリヤ)よ。

 お前達に相応しき舞台が整った!」

 

 エアが風を放ちながら回転を始め、エルキドゥが宝物を絡め取りながら伸張し始め、カリヤがギルガメッシュを強化しながら風を纏い始めた。

 そして先のライダーに負けぬ大声でギルガメッシュは告げる。

 

「且目せよ!我が至宝を!

 そして魂に焼き付けよ!この英雄王の英姿を!」

 

 その言葉と共に100本前後の宝物を絡め取ったエルキドゥが、棘を持つ無数の大蛇の如く数万の軍勢に襲い掛かった。

 更に光が屈折して姿が見えなくなる程の密度の風を纏ったカリヤが数万の軍勢の上を不規則に飛翔しながら軍勢ごと砂の大地を抉り散らす風を放ち、更には風を纏った儘軍勢の中を突っ切って軍勢を掻き乱す。

 そして周囲に紅い暴風を撒き散らすエアをギルガメッシュは構え、エルキドゥの攻撃とカリヤの風を躱して突っ込んできたライダーを戦車諸共抉り散らそうと振り被った。

 が、直ぐにエアの危険性を察したライダーはギルガメッシュを擦れ擦れ横切る軌道に変更し、横切る時のライダーと戦車に取り付けられた刃の切り付けと戦車が発する雷とプケファラスの蹄での攻撃に切り替えた。

 だが、ライダーの切り付けはエアで弾かれ、戦車に取り付けられた刃は戦車の御者台の横腹を蹴られて横滑りを起こす程に軌道を曲げられ、戦車が発する雷はライダーの軍勢を攪拌しているカリヤから放たれた風が防ぎ、プケファラスの蹄の振り下ろしはギルガメッシュが拳で殴り上げてプケファラスを大きく後ろに弾き飛ばした。

 

 危うく剣を取り落としそうになりながらもギルガメッシュの横を凄まじくバランスを崩しながらも駆け抜けたライダーは、急ぎ振り返って大きく弾き飛ばされたプケファラスを見遣る。

 すると鎖がプケファラスを拘束して絞め殺さんとばかりに襲い掛かっていた。

 それを見たライダーは、勘でその鎖が自分達には厄介な代物と判断し、全速力でプケファラスを拘束しに掛かる鎖へと方向転換して向かった。

 そして旋回する為に僅かに時間を食ったライダーがプケファラスの元に辿り着くと、プケファラスは絞め殺されかけており、急いでライダーは鎖を断ち切った。

 と同時にウェイバーが声を張り上げる。

 

「ライダー!多分その鎖、神性持ちに対する特効宝具だ!

 神性と同ランク……いや、多分2倍か3倍の力がないと抜け出せないはずだ!」

 

 ウェイバーのその言葉を裏付けるかの様に、ライダーと神牛とプケファラスへの鎖を使った攻撃は宝物を絡め取っていない鎖だけのものであった。

 暫く宙を駆けてライダーが突撃するタイミングを図っている間に更にウェイバーが声を張り上げる。

 

「後ろの戦いを見る限り、神性を持ってない奴には頑丈な鎖程度みたいだから、神性を持っていない奴が鎖を封じている隙に勝負を仕掛けるしかない!

 少なくても間桐雁夜には今ほどの手数で攻撃をしてなかったから、力を籠めるには数を絞らなきゃいけないはずだし、壊れた鎖を伸ばすのにも時間がかかるみたいだから、ひたすら鎖を壊せば巻き取ってる宝具も取り落とすから、そうなれば宝具を奪えるから負担も減って戦力も上がるぞ!」

「土壇場で考えたにしては見事な作戦ではないか!

 観察と作戦は任せるぞ!」

 

 懸命に戦車を駆って鎖を回避し、どうしても回避しきれない鎖はライダーが剣で払うか神牛かプケファラスが蹄で叩き落しながら機を窺っている最中、ライダーは驚いた顔の後に不敵な笑みでウェイバーにそう告げた。

 それに一瞬驚いたウェイバーだったが即座に頷き返した。

 そしてそれを見たライダーは声を張り上げる。

 

「鎖を攻撃できる者は優先的に鎖を狙え!

 たとえ無尽蔵に伸びようとも伸びるのには時間がかかる!

 そして鎖を減らせば宝具もいずれ取り落とすので、奪って誉れとせよ!」

 

 ライダーのその言葉と同時に多くの者が集中的に鎖を攻撃し始め、瞬く間に鎖が減り始める。

 そしてライダー達に向かう鎖が減り始め、突撃の為の助走をそろそろ得られそうになった時、更にウェイバーが叫ぶ。

 

「あの宝珠!多分壊せないから今は構うだけ無駄だ!

 軍勢の中を疾走しているのはチャージ時間の有効活用ってだけで、あんまり叩いて攻撃のタイミングをずらし続ければ空から風を放たれ続けるだけになる!

 どっち道そうなるなら初めからアーチャーに向かわせた方が遙かに良い!

 そしてアーチャーに肉薄して自分が巻き添えを食わないようにオートからマニュアルに切り替えさせて、集中力を分散させた時に攻撃した方が遙かに効率的だ!」

「宝珠の破壊を試みている者は敵に肉薄せよ!

 宝珠は敵に肉薄した者を迎撃し始めた時に攻撃せよ!」

 

 疑いもせずにライダーはウェイバーの分析を信じ、それを元に号令を発する。

 そして大喧騒の中でも不思議と響き渡るライダーの声は軍勢に響き渡り、王の言葉に従ってアーチャーに殺到する者が増える。

 するとウェイバーの発言通り宝珠は空へと移動し、そこからアーチャーへ向かう者達を攻撃し始める。

 狙い撃ちにされる軍勢だが、軍勢はそれすらも敵を僅かでも追い込んだ証と勇み立った。

 

 そして空からの攻撃が厄介になったものの、もっと厄介な鎖の攻撃が減った為突撃を行う助走が十分可能になり、ライダーは再びアーチャーに突撃を敢行した。

 

 

 

―――――― Interlude Out ――――――

 

 

 

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 ギルガメッシュが何時か訪れる雁夜との再戦に備えて自身に磨きを掛けている時、雁夜は那須の山で一人星空を眺めていた。

 本来なら冬の夜の山は可也寒いのだが、既に寒くて風邪を患う存在の範疇ではないので全く問題が無かった。

 

 人間だった頃の名残で寒く感じるだけで、暖かくなれと思うと人間が身体を震わせて発熱するレベルで周囲の気温を適温に変えてしまう今の自分に、雁夜は改めて自分が人間から遠い存在になったと実感し、本日何度目かも覚えていない溜息を吐いた。

 そして溜息を吐くと今迄考えていた玉藻と桜のことが脳裏に蘇り、雁夜は更に溜息を吐いて考えに耽る。

 

(……俺があの状況見て誤解って言われても信じないよな~。

 しかも桜ちゃん曰く、俺も玉藻も互いにベタ惚れらしいし、実際そうだからな~。

 そしてそんな者同士が夜中あんな状況なら………………どう考えてもそう思うよなー)

 

 誤解なのは間違い無いのだが、誤解と全く思えない状況なだけに雁夜は更に落ち込む。

 

(と言うか、誤解と通じても時間の問題と思われそうなのが痛い。

 はっきり言って自分でも時間の問題と思っているだけに、そう思われたら弁解の仕様が無いからな)

 

 自分でも遠からず玉藻と肉体的な関係にも至ると思っているだけに、雁夜は酷く落ち込んだ。

 尤も、飛び出してから先程迄は気恥ずかしさや自尊心崩壊の衝撃で悶えてるか思考停止する程落ち込むかの何方かだっただけに、可也落ち着きを取り戻したとも言えた。

 だが、それでも酷く落ち込んだ状態なのは変わらず、余り考えたところで状況が好転しないことを只管雁夜は思考し続ける。

 

(そりゃ枯れた仙人でもないからそういう関係にもなりたいけど、まるで桜ちゃんを軽んじてるみたいで酷く気が進まないんだよなぁ。

 万が一子供が出来た日には確執も出来るかもしれないし、そうでなくても此の世界で健やかに育てられる自信が全く無いからなぁ。

 無責任なことはしたくないんだよなぁ)

 

 玉藻との関係を発展させた際に発生するかもしれないデメリットと責任を背負いきれないのが解っているだけに、更に落ち込む雁夜。

 そして更に落ち込むと知りつつも雁夜は思考を続ける

 

(その辺を何とかすると意気込むのが男の甲斐性なんだろうけど、親に成るかもしれない者の責任としては子供を育てられる場所と環境を確保しなくちゃいけないからな。

 男の甲斐性か親に成るかもしれない者の責任。……言い換えれば玉藻か生まれるかもしれない子供の何方を優先するかってことなんだよな)

 

 玉藻的には一刻も早く雁夜との関係を発展させたいのだろうが、その場合割を食ってしまうのは生まれるかもしれない自分達の子供であり、生まれるかもしれない子供を優先させると、その場合割を食うのは想いを躱され続ける玉藻であり、雁夜は深く悩んだ。

 

(普通に考えれば生まれてすらいない子供よりも今確かに存在する玉藻を優先するのが筋なんだろうけど、子が親を選べない以上は出来る限り生まれるかもしれない子供のことは考えてやりたいんだよな)

 

 しかしその考えだと生まれるかもしれない子供を重視し過ぎる余り、今確かに存在する玉藻を軽んじているように思える為、雁夜は更に悩んだ。

 

(避妊すればいいんだろうが、俺も玉藻も一度関係を持てば歯止めが効かなくなると断言出来るぞ)

 

 半端な妥協案を打ち立てれば呆気無く妥協を振り切って深みに嵌ると簡単に予想出来るだけに、雁夜は安易な考えを実行する気にはなれなかった。

 そして更に思考の海に沈み込みながら雁夜は考える。

 

(と言うか、桜ちゃんがいるのにそういうことをしたら、桜ちゃんに邪魔だって言ってるような気がするからなぁ)

 

 最初辺りに思考が戻ってしまった雁夜。

 そして、それから暫く雁夜は延延と殆ど同じ思考を繰り返し続けた。

 

 

 

 尚、繰り返す思考に終止符を打つきっかけになったのは、野生の狸と玉藻の軍勢に釣られてやって来ただろう野生の狐がじゃれている不思議な光景を見、そも異種族間で子供が出来るのかと気付いた事だった。

 そしてそれが契機となって思考が進み、問題無いなら桜がバルトメロイからの魔術教導が終わった後には学校に通ってもらう予定なので、その時間に玉藻との関係を発展させればいいと結論を出して戻ったのだった。

 

 因みに、雁夜の強い思念は周囲に駄駄漏れしており、当然思念を容易く拾える玉藻には筒抜けになっていた。

 しかも、雁夜が生成した魔法の物質が身体に溶け込んでいて雁夜との回線が繋がり易い桜にも、断片的にだが自分の考えを知られてしまっていた。

 そしてその事実を告げられた雁夜は、バルトメロイと交渉の続きをすると言って再び家出した。

 

 

 







  作中補足


【何故ウェイバーがライダー召喚の陣で回復する前にライダーが遙かなる蹂躙制覇を使用出来たのか?】

 此れは単純にライダーの貯蔵魔力が原作よりも多かった為です。


【時間短縮されている件について】

 ランサーが倒された時点で残っているサーヴァントはセイバーとライダーの為、各陣営の行動が早まった為1日短縮されています。

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