上下左右前方から雁夜へ迫る魔弾は1000を越えていた。
だが、その魔弾の悉くが雁夜の背から生える蜘蛛の脚の様なものの一振りで薙ぎ払われていく。
普通に考えれば両手を数えても10の数が100倍以上の数に太刀打ち出来る筈がないのだが、背から生える蜘蛛の脚の様な一本一本が優に極超音速へと至る速度で振るわれる為、鉄をも引き裂く乱流が数多の魔弾を悉く弾いていた。
尤も、ただの乱流ならば神秘を纏った魔弾の全てを弾くなどはまず出来まいが、雁夜は発生する乱流に短時間だけ存在して侵食しない程度の魔法の物質を混ぜ込んでいる為、乱流に舞う砂塵の如き魔法の塊が数多の魔弾を弾いているのだった。
最早恐らく超一級に届かない魔弾ではどれだけの数を揃えようとも止めることが適わなくなった雁夜が、文字通り弾丸の速度でギルガメッシュへと突撃してくる。
だが、ギルガメッシュは、[超一級ならば通じるのだろう?]、と言わんばかりに物量で押すのを放棄して質を最優先にし、僅か10にも満たない魔弾を装填した。
そして装填数が大幅に減少した為なのか、今迄とは比べ物にならない速さで装填がなされただけでなく射出もなされ、更に魔弾の弾速が優に極超音速へと至っていた。
しかも放たれる魔弾は雁夜の背から生える蜘蛛の脚の様なものが振るわれる速度を越えている為、圧倒的速度と超一級の神秘で以って、多少軌道が乱れようが乱流を突き破るだろうことは容易く予想が出来た。
迫り来る魔弾を見た雁夜は、突進しながら捌くのは難しいと判断した為、自身の前後に背から生える蜘蛛の脚の様なものを2本ずつ地面に刺し込んで急停止した。
そして急停止した後、背から生える八本全てで以って8つの魔弾を叩き落し、更に捌ききれなかった最後の1つを片腕で弾き飛ばして全てを捌ききった。
が、次の瞬間には別の9つの超一級且つ極超音速の魔弾が雁夜へと放たれていた。
第二陣も全て先程の様に雁夜の背から生える蜘蛛の様な脚で8つ弾かれ、最後の一つは未だ腕を戻しきっていない先程の腕とは逆の腕で弾かれた。
が、次の瞬間には既に回収と装填と射出がなされていた第一陣に使われた魔弾が迫っており、それを迎撃する為に又もや八本全てで8つの魔弾を弾き、残った1つは第一陣の時に振るった腕を戻し終えた為その腕で弾いた。
だが、次の瞬間には第二陣に使われた魔弾が迫っており、一見すると鼬ごっこに陥った様を呈していた。
しかし、一見すると完全な互角に見える攻撃と迎撃だが、如何に超一級の魔弾と雖も雁夜の規格外の神秘の塊と幾度も激突すればダメージが蓄積されていき、更に雁夜の方は魔力さえ籠めれば圧倒的な速度で修復が成されるのに対し、魔弾の方の修復速度は火花と成る程度に欠けたのを数秒で修復する程度の為、魔弾は僅かずつではあるものの確実に崩壊へと進んでいた。
が、固定されていない空中で砕くには後数分は現在の状況を続けねばならず、少なくても時間を稼ぐことに関しては十分役目を果たせる為、ギルガメッシュは仕留めきれない現状を全く気にしていなかった。
寧ろ、[この程度で終わってもらっては困る]、と言わんばかりの笑みを浮かべながらギルガメッシュは上半身の鎧を邪魔だと言わんばかりに消した。
そして次は虚空に幾つもの宝珠や杯を現し、更にその宝珠の光や杯に満ちる液体を浴び、自身を雁夜と打ち合える領域に迄強化した。
宝珠の光と杯に満ちた液体を浴びたギルガメッシュの容貌は少なからず変わっていた。
髪は塗れた為逆立てられていたものが全て自然な感じで垂れており、更に宝珠の光の影響かギルガメッシュ自身の意図かは判らぬが、身体に赤い紋様が現れていた。
だがギルガメッシュは自身の変化を気にする事無く虚空へと手を伸ばし、其処へ鍵に剣の柄の様な把手の付いた鍵の剣とも言う様な物を落とす様に現した。
鍵の剣とも言うような物を握ったギルガメッシュは、獰猛ながらも歓喜を湛えた笑みを浮かべながら大声で告げた。
「誇るがいい!我に至宝を使わせることを!
そして刮目して見よ!我が至宝を!」
言い終わると同時にギルガメッシュは鍵の剣を僅かに捻った。
すると把手の周りの幾何学模様の様な機構が複雑に動き出し、更に鍵の先端から天へと向かって虚空に赤い幾何学模様の線が走った。
虚空に走った赤い幾何学模様の線はまるで何かを封印しているかの様な魔法陣に見えたが、それも直ぐに消え去った。
赤い幾何学模様の線が消えると同時に鍵の剣も姿を消した。
そして、ギルガメッシュの眼前にゆっくりとナニカが現れ、ギルガメッシュは静かにソレの柄を握った。
ギルガメッシュが柄を握って数秒もすると、ギルガメッシュが握っている物の全容が顕になった。
その全容は端的に言えば把手の付いた剣擬きの棒であった。
だが、造形こそ珍妙だが、ソレが内包する神秘は魔法と同じく規格外の域に在ると、雁夜は魔弾を捌きながらも視界の端にソレが映っただけで理解した。
だが、ギルガメッシュは規格外な剣の様な物を取り出しただけでは終わらず、更に光を放つ虚空へと腕を突き入れ、鎖を取り出した。
右腕に剣の様な物を握り、左腕に鎖を握った上で僅かに腕に絡ませ、表情だけでなく雰囲気から油断と慢心の一切が消え去ったギルガメッシュが謳い上げる様に雁夜へと大声で告げた。
「さあ、真の開幕だ!
これより先は格が違うぞ!?」
その言葉が終わると同時に、ギルガメッシュが右腕に握った赤い線の走った黒い棒は三つの回転体を互い違いに回転させ始めて赤い暴風を生み出し始め、左腕に握った鎖は一気に鎖の輪の数を増やしながら縦横無尽に虚空を駆け巡りだした。
そして、鈍色の踊る様に形を変える線と赤い暴風に彩られたギルガメッシュが雁夜目掛けて疾走した。
明らかに放出型の宝具と思われるにも拘らず迫り来るギルガメッシュを見た雁夜は、此の儘では手数が足りずに直ぐに押し切られると判断し、即座に蜘蛛の脚の様なもの三本で9つの魔弾を受け止めた。
当然無傷で受け止めることは出来ず、三本とも魔弾に刺し貫かれていた。
が、何れも貫通は出来ずに刺さった儘だった為、雁夜は魔弾が回収されるのを防ぐ為、魔弾を空間転移を封じる魔法の物質で包み込み、更に簡単に破壊して取り出されない様に硬質化させた。
そして次の9つも同様に対処し、八本の内六本を犠牲にして超一級の魔弾を全て封じた。
残る蜘蛛の脚の様な物は二本になってしまったが、最早超一級未満の魔弾が射出されたところで魔法が混じった乱流で容易く弾かれるだけでなく、剣の様な物が生み出す赤い暴風で吹き散らされるのを考えれば、最早魔弾の掃射はないと考えられた。
そして18もの超一級の魔弾を雁夜が封じた直後、赤い暴風を纏ったギルガメッシュが雁夜に肉薄し、剣の様な物で殴り掛かってきた。
空間の叫びの様な音を響かせながら振るわれたギルガメッシュの一撃は、雁夜の振るった右拳で受け止められた。
が、直ぐに雁夜の右拳は回転体に因って大きく弾かれた。
対してギルガメッシュの剣の様な物は僅かに押し返されただけであり、神秘的にも負けていない為、修復速度を考慮すれば千京回打ち合えば壊れるかもしない程度しかダメージを受けていなかった。
当然それほど微細なダメージならば、1秒間に50回打ち合っても地球が太陽に呑み込まれて滅ぶ方が早い為、武器破壊は実質不可能と言えた。
雁夜の腕を大きく弾いたギルガメッシュは、僅かに押し戻された剣の様な物を再び振るう為に戻したりはせず、ドリルの様に回転させた儘雁夜へと突き出した。
対して雁夜は全力で左拳を右下へと振り下ろして迎撃しようとした。
だが、突如雁夜の左腕に鎖が絡み付く。
が、絡み付いた鎖は直ぐに引き千切られてしまった。
しかし、引き千切るのに費やされた力の分だけ左拳に宿る力は減少してしまい、突き出された剣の様な物を完全に逸らすことが出来ず、右脇腹を少なからず抉られてしまう。
幸いというべきか、雁夜は幾度となく激痛を味わった為、戦闘中ならばこの程度の痛みで錯乱したり動転したりする程のことではなかった為、即座に突きを放った体勢のギルガメッシュへと攻撃を繰り出した。
雁夜が繰り出し攻撃は力任せの右足での蹴り上げと、左肩辺りから生える蜘蛛の脚の様なものの刺突であり、雁夜の筋力や背からはえる蜘蛛の脚の様なものの膂力的に直撃すれば容易く内臓を破壊するだろう攻撃だった。
しかしそれは雁夜の軸足の左足に絡み付いた鎖が一気に引かれた為、見事に明後日の方に逸れた。
そして転倒中の雁夜へ、ギルガメッシュは突いた儘だった剣の様な物を引き戻さず、又してもその儘動かして雁夜へと追撃を掛ける。
だが、自身の攻撃が失敗して追撃を掛けられることを予想していた雁夜は右肩辺りから生える蜘蛛の脚の様なものを振るわず残していた為、それをギルガメッシュの右腕目掛けて突き出した。
が、今度は蜘蛛の脚の様なものへと鎖が絡み付き、直ぐに引き千切れたがギルガメッシュへ攻撃する時間を稼がせてしまった。
しかし、根っから用心深くて臆病な小市民気質の雁夜は、一度鎖に邪魔された時点で防御や攻撃には邪魔が入ると悲観的前提で思考していた為、慌てず驚かずに自身とギルガメッシュの間に極大の空間爆砕を発生させた。
ランクにしてA+++の魔術暴発による空間爆砕は、流石に自らに強化を施したギルガメッシュと雖も対魔力で無効化出来ずに吹き飛ばされた。
当然雁夜も鎖を砕かれながら吹き飛ばされたが、予め吹き飛ばされるのが解っていた為、吹き飛ばされながらも慌てずに体勢を立て直し、無事に着地することが出来た。
尤も、着地したのはギルガメッシュも同じであり、不意を突かれても咄嗟に空中で問題無く体勢を立て直す程度の技量は雁夜と違って有している為、この程度で隙を作ることは出来なかった。
普通ならば仕切り直しとなる程の距離が開き、更に一旦攻防の流れが途切れたのだが、両者共にその程度のことで小休止に入ったりする気は微塵も無かった。
特に雁夜は集中を途切らせると打開策が思い浮かばなくなると感じている為、極限に迄意識を高めた儘打開策を高速で思考していた。
(相手との身体能力はこっちが圧倒的に有利。恐らく俺はギルガメッシュの170%前後の身体能力。大体12歳男児と成人男性程の差。
だけど純粋な技量差に剣道三倍段やらあの武器なのか判らない仮称掘削剣でこっちの身体能力の有利性が完全に覆されてる!
特に掘削剣は性質が悪過ぎる!
触れれば弾かれるし、何より、触れられるだけで抉られるから引き戻しの動作が必要無い!
しかも鎖が攻撃や防御の度にこっちの動きを邪魔しに掛かってウザい!
幸い拘束する際は一箇所しかしてないから、少なくても拘束する時は遠心力とかを使って速度や慣性をある程度籠めないと俺の行動を邪魔出来ないんだろうから、拘束しに掛かるのは一箇所と思って間違い無いだろう。
尤も、拘束しに掛かるのは一箇所でも、拘束出来るのはさっき二箇所拘束された様に複数箇所拘束可能だろうから、拘束されたら速やかに破壊か脱出をしないと直ぐに完全拘束されて掘削剣に抉り散らされる。
はっきり言ってあの掘削剣だけでも手に余るというのに、目減りしない拘束具をあれだけ器用に使われたら最早対処しきれない。
何とか今回は弾き飛ばせたけど、次は吹き飛んでる最中に横の地面にでも鎖を打ち込んで軌道を円運動に変えてUターンしながら飛び掛られるかもしれないから、二度も同じ手は使えない。
打開するには掘削剣か鎖を完全に破壊するかだけど、掘削剣は太陽の寿命が尽きるくらい迄殴り続けないと多分壊せないし、鎖は多分核と呼べる本体がそこらを飛び回ってるんだろうけど、生憎と俺の手が届く範囲には無いだろうし空間爆砕程度で壊れる物じゃないだろうから、結局どっちも壊せる目処が立たない。
せめて後二本ばかり羽……じゃなくて触手……じゃなくて……蜘蛛の脚が動かせれば鎖の妨害に対処しきれるんだが、魔弾を解放して迄手数を確保したら余計状況が悪化するから、現状は二本で遣り繰りするしかない。
と言うかなんで八本しか生えなかったんだ?
まあ、天使の羽宜しく十二本生えてたらガキ臭くて痛過ぎたけど、便利なのは間違いなかった筈なのに何で八本なんだ?天使の羽なら2・4・6・12だし、特別8に成る要素に心当たりは無いぞ?
ぶっちゃけ隣の数の9なら玉藻……って、まさか玉藻の隣の数字だからってだけじゃないだろうな?
いや、でも何故か凄まじく納得してしまったから多分そうなんだろうけど、一体どれだけ青臭いガキの考えを基にして生えてきたんだよコレは?
玉藻に知られたら爆笑されるか歓喜されるかのどっちかだから、絶対に言えないな。
しかし蜘蛛の脚が玉藻の尻尾を俺が意識した結果生えたなら、少なからず玉藻の尻尾の特性を得ている筈だ。
なら俺の蜘蛛の脚にも、軍勢を生み出したり変形させたり属性や特性を変化させたりが出来るかもしれない。
但しやり方がさっぱり解らない。しかも本当にそんなことが可能かも解らない。
だけど何と無くだが、俺の蜘蛛の脚はあいつの尻尾を意識した結果生まれたモノで、俺が知る限りの玉藻の尻尾の能力は全て持っていると思えるし、そうでないと思うと凄い違和感というか嫌悪感が涌くから間違い無いだろう。
なら、後は遣り方に気付けるかどうかだ。
気付けなきゃ直ぐに終わる。
桜ちゃんは時臣の影に怯え続ける。
俺を送り出した玉藻は後悔し続ける。
何も成せずに何にも応えられない儘終わる。
嫌だ。嫌だ。そんなのは嫌だ。死んでも嫌だ!
だけど命は賭けられない。
今回は絶対に死ねない。
だから絶対に生きて帰る!
そうだ、生きて帰るんだ。
持てる全てを振り絞って、逃げず退かずに、だけど確り省みえて、何の為にこんなことをやっているのか忘れず、遣り遂げてみせる。
勝ちや負けなんてどうでもいい。
目指すのはそれとは無縁のモノだ。
さあ、確り見ててくれ桜ちゃん、玉藻。
そして……勝手な理由で勝負なんて挑んだ代金代わりに、満足出来る迄付き合ってやるよ!ギルガメッシュ!)
コンマ01秒にも満たぬ時間の中、人外の域に迄至った身でなされる思考を更に極限の集中で速度を上昇させ、雁夜は明確に自身の在り方を理解した。
そして、雁夜は迫り来るギルガメッシュを見据え、18の魔弾を解放し、そして六本の蜘蛛の脚の自由を得た。
一瞬ギルガメッシュは何が目的か解らなかったが、直ぐに魔法が理解出来ない以上は考えても無駄だと切り捨て、即座に超一級の魔弾ならば赤い暴風に弾き散らされずに雁夜に届くと判断し、魔弾を回収した。
そして魔弾を装填しようとしたが――――――
「!?」
――――――何故か全く魔弾が現われなかった。
初めての出来事にギルガメッシュは僅かな間とはいえ動揺し、更に僅かとはいえ意識を雁夜から逸らしてしまった。
そしてその隙を突くかの如く雁夜が突撃し、六本の蜘蛛の脚と右拳を振り被っていた。
魔弾を開放して八本全てが使用可能となり、隙を晒した自分へと向かっているにも拘らず、何故か二本だけ攻撃に加わっていないのを見た瞬間、ギルガメッシュはあの二本が周囲一帯の空間転移を封じているのだと推測した。
更に雁夜の蜘蛛の脚が乱流に奇跡の物質を混ぜ込んでいたことから、恐らくこの赤い暴風でも吹き散らしきれない密度で空間転移を封じる物質が辺りに満ちているのだろうともギルガメッシュは推測した。
そしてそうならば更に回転速度を上げて赤い暴風の出力を上げ、魔弾を射出出来る環境を取り戻そうとした。
だが、それよりも迫り来る雁夜の攻撃をどうにかしなければと悟り、ギルガメッシュは疾走する雁夜が地面を蹴り抜いた足に四方から鎖を巻き付け、転倒させるどころか宙に吊り上げた。
が、半回転して宙に吊り上げられた雁夜は初めから予想していたのか、半回転し終わる頃には既に蜘蛛の脚四本を振るって鎖を断ち切っており、その儘縦回転する勢いを殺さず着地し、眼前のギルガメッシュへ残った蜘蛛の足二本と左拳で攻撃を放った。
雁夜の左拳は掘削剣目掛けて振るわれ、蜘蛛の脚の左側はギルガメッシュの頭部へ振るわれ、蜘蛛の脚の右側は掘削剣を握るギルガメッシュの腕へと振るわれた。
如何に掘削権が触れた物を弾き飛ばすと雖も、衝撃を無効化しているわけでない以上、振るわれた掘削剣の軌道を変えることは可能であり、たとえ引き戻しが必要無く振るえるからと雖もその前に勝負が付けばそれは意味を成さず、今ギルガメッシュの身に起きようとしているのはそういう事態だった。
だが、ギルガメッシュは自身の左腕に巻き付いている鎖に自分を強く引かせ、強引に雁夜の右方に横滑りする様に移動し、雁夜の攻撃を全て避けきった。
そして魔弾を取り出せるかどうかを試す時間を稼ぐ為、鎖を拘束するのではなく四方八方から鞭の様に攻撃する。
無論そんな攻撃を続ければ直ぐに破壊され続けて鎖が短くなり、再びある程度伸ばす迄の隙を突かれてしまうが、数秒程度なら問題は無いと判断し、ギルガメッシュは掘削剣の出力を更に上げた。
しかし、ギルガメッシュが掘削剣の出力を上げようとも魔弾を射出するどころか装填することすら出来なかった。
ただ、ギルガメッシュの超感覚が暴風により奇跡の物質が払われた際、今迄感じなかった空間の異常を感じ取った瞬間――――――
「っ!?」
――――――今迄動いていなかった二本の内の一本が、突如魔弾の5倍以上の速度で伸びながらギルガメッシュへと襲い掛かった。
咄嗟に掘削剣を軌道に割り込ませるが、不自然な体勢の為ギルガメッシュは大きく突き飛ばされた。
更に掘削剣に弾かれた蜘蛛の脚がギルガメッシュの左脇腹を致命傷には遠いが無視出来る程浅くもない傷を付けた。
突き飛ばされている最中ギルガメッシュは、自分がまんまと雁夜に出し抜かれたのを悟った。
魔弾を封じていたのは辺り一面に散布された奇跡の物質だけが原因ではなく、空間自体を蜘蛛の脚の一本を起点に変質させていたことも原因であり、辺りに散布された奇跡の物質はそれをギルガメッシュに看破させない為の目晦ましだったのだ。
そして空間に奇跡の物質を混ぜ込んでいたもう一つの意味は、ソレを払う為に掘削剣の出力を上げる様に誘導し、少なからず雁夜から意識が逸れた瞬間、恐らく不慣れな為一本だけ変化させられる蜘蛛の脚を最大限効果的に使う為の布石だったのだと理解した。
しかも仮に空間を切り裂いて空間変質を無効化しようと、そんな状況の中で魔弾を装填したりは当然出来ず、空間を切り裂いた後に出力を弱めたところで魔弾を取り出す前に空間が変質した状態に戻るだろう為、完璧に魔弾を封じられてしまった。
慢心も油断もしていなかったにも拘らず、技量の差を埋めんとする知恵と自身の看破力の上を行く魔法を組み合わせ、間違い無く先の攻防では自分の僅か上を行かれたと認識した瞬間、ギルガメッシュは少し待てとばかりに掘削剣の回転を止め、更に鎖を握っていた片手を前に出し――――――
「くくくくくっ……はっはははっ…………あーはっはっはっはっはっ!!!」
――――――腹の底から大声を上げて笑った。
ギルガメッシュはほぼ完全な状態で召喚された際、朋友の居ない現世で自分を脅かす者など何処に居ないと思っていたにも拘らず、目の前の者は名誉や勝利を見向きもせずに誰かの為にと精霊の域迄昇格し、更に油断や慢心を捨て去った自分へと一撃を入れた。
精霊と並び神霊にすら届くと自負する自分の領域へ、目の前の者は未熟ながらも見事に駆け上がってきた。
力に魅せられも怯えもせず、然れど初志を忘れずに自身へと挑み続け、遂に自分が認める迄に至った目の前の存在へ、不死の薬を探し始めてからは終ぞ抱かなかった敬意という想いを抱いた。
朋友が死んで神神を嫌った自分が、まさか召喚された現世で是程の出逢いを経て再び敬意を抱いたことが愉快で、傷を負った脇腹すら痛快な為、ギルガメッシュは声を大にして笑った。
そして一頻り笑ったギルガメッシュは、回復も警戒もせずに今一現状が解っていない顔で自分を見ていた雁夜へと声を掛けた。
「見事だ。先の攻防に限れば、間違い無く我の上を行っていた。
精霊と並び、更に神霊にすら手が届く、この我のな」
「賞賛は在り難いが、俺は誰より上とかに興味なんて全く無い。
はっきり言ってそんなのを決めたければ籤でも作って決めろ、って感じだ」
「はははっ。正しく賢者の発言というやつだな」
「冗談だろ?こんなの小心者の小市民の考えだ」
「小心者の小市民が我の前に立ち、更には渡り合った上でその様なことは言わんぞ?」
「確かに。
思えば遠くへ来たもんだ」
和みはしていないが警戒せずに互いに言葉を交し合う雁夜とギルガメッシュ。
そして何時の間にか小心者の小市民を自負していた自分が、何時の間にかソレをあっさりと否定してしまう境地迄来てしまったことに、雁夜は若干の哀愁を滲ませながら呟いた。
しかしギルガメッシュはそれに笑い返しながら告げる。
「これから更に遠くへ行くことになるぞ?」
「勘弁してほしいんだがな」
「ふっ。生憎だがそうはいかん。
この儘打ち合いを続けるのも心躍るだろうが、我は直ぐにでも我の正真正銘全力の一撃を試してみたいからな」
そう言うとギルガメッシュは掘削剣を再び回転させ始めた。
しかも吹き飛ばされない為と言わんばかりに自身を鎖で固定し始めた。
そして凄まじい烈風を間近で浴びながらギルガメッシュは雁夜へ告げる。
「最早宝剣宝槍をばら撒くという小細工はせん!
存分に全身全霊を出してみせよ!」
その言葉を聞いた雁夜は空間変質を止めた。
そして完全に自由となった八本の蜘蛛の脚を、左手に支えられる様に掲げられた右掌の前に八本全てで囲う様に配置した。
まるで右腕が捕食されている様な有様になったが、雁夜は構わず八本の蜘蛛の脚全てと左手に支えられた右手から奇跡の物質を生み出し始めた。
雁夜の掲げた右掌のに球状の在り得ないモノが生まれ、更にソレが肥大化して球体を固定する様に閉じられていた八本の蜘蛛の脚が少しずつ開かれていった。
更に肥大化する球体を圧縮する様に八本の蜘蛛の脚から魔力が注ぎ込まれ、球体は凄まじい魔力を放ち始めた。
しかし、凄まじく高度な制御が必要だろう最中、雁夜はギルガメッシュへと告げる。
「存分にバックアップを受けるといい!
道具の多さは個人の強さと同義だからな!」
「はっ!大層な自信だな!?」
「まさか!
単に俺だけ全身全霊でそっちが違うとかいうお寒い展開が嫌なだけだ!」
「はははっ!安心しろ!
間違い無くこの一撃は我の全身全霊だ!
使える物は全て使う!」
その言葉と同時に威力を高める儀礼用の剣を自身の周囲に刺したり、何らかの宝珠を自身の周囲に浮遊させたりし始め、限界を超えた出力を放つべき準備をし始めた。
そしてその言葉と行動に満足した雁夜は敢えて言葉を返さず、理解したとばかりに更に奇跡の物質を生成していく。
ある程度生成した雁夜は、今ギルガメッシュが放とうとしている一撃が単なる高エネルギーではなく、魂の底に存在する恐怖を揺さぶり起こす、宛ら地獄そのものとも言える一撃だと気付き、それに対抗すべく、生成したソレに在り得ない特性を付加し始めた。
雁夜の扱う、【第一魔法・無の否定】、とは、単に無を否定するだけの物質を生成するのではなく、雁夜が僅かな間とは言え全知全能状態と成り果てたのを限定的に再現することこそが本質であり、先代迄の無の否定とは殆ど別のモノといえるモノだった。
雁夜が根源から持ち帰った情報は、無意識で誰かの力に成りたいという想いと自身の無力さが無意識にの根底に在ったことに起因し、あらゆる不条理を更なる不条理で跳ね除けるということを少なからず可能とするモノだった。
即ち、死者の蘇生や時間の遡行や世界の跳躍を可能とする物質を生み出すという、全く別の魔法の領分すら可能とするモノだった。
尤も、雁夜自身の理解が及ばなければソレを成すことなど当然出来る筈もななかった。
更に、本来なら思考するだけで限定的にとは言え全能を再現出来た筈なのだが、雁夜が戻る際に残っていた道を使った為に第一魔法という枠に嵌ってしまい、自分で道を引けば空想具現化と固有結界が合わさった様な世界変革の法を自在に扱うことが可能だったが、ソレが叶わなくなっていた。
が、雁夜自身はそんなことに気付きもせず、気付いても如何でも構わないと切って捨てたであろうが、雁夜を暇潰しに弄り倒したゼルレッチはソレに気付いていた。
故に、祖の5位以内でも10%以上で勝てると雁夜を称したのだった。
そして今、雁夜は自らが限定的に全能を揮えると薄っすらながらも理解し始めており、今迄の様な対象を変質させてでも強化すると言う、変化させる程度の物質ではなく、〔地獄を祓う〕、という概念武装を形成し始めていた。
しかも籠められる概念は目の前で渦巻く地獄を理解し、逆算する容で対の情報を根源に至っていた時の記憶を基に再現されている為、歴史や積み重ねを一切合財無視して尚規格外の域に至っており、即席などと笑えるレベルのモノでは断じてなかった。
無論ギルガメッシュも雁夜の右掌の前に存在する球状のモノが、自身の一撃すら越えかねないモノだと正確に把握しており、上を行かれてなるものかとばかりに、今迄よりも更に速く増幅系の宝物を使い、更にそれだけでなく渾身の力で魔力を注ぎ込んだ。
対して雁夜は自身の生命力で即席の魔力供給管を作って根源へと繋げ、自身が弾け散りかねない莫大な魔力を破裂寸前迄右掌の前にある球体に注ぎ込む。
互いに漏れ出る余波だけで並の宝具を凌駕する状態に迄至った時、雁夜とギルガメッシュは一度目を合わせ、互いに準備が整ったことを確認すると、空間どころか世界が悲鳴を上げる一撃を解き放った。
「
「
迫り来る地獄そのものの風に、地獄を祓う創世の風ともいうモノが正面からぶつかった。
幾つかの補足
【何故雁夜がギルガメッシュネイキッドと戦えるのか?】
これは単純に雁夜の身体能力がギルガメッシュの圧倒的上をいっており、更に掃射されながら天の鎖とエアの攻撃に晒されなかった為、辛うじて手数と超高速の思考で相対出来ていただけです。
若し弾幕の最中に天の鎖や乖離剣を振るわれていたら即座に負けていました。
又、超一級の原典を放置した状態で魔弾を封じても、天の鎖でそれらを絡め取って振るわれても負けていました。
因って、一手間違えていれば簡単に雁夜は負けていました。
まあ、逆にギルガメッシュも少しでも慢心や油断が残っていたら簡単に負けていたでしょうけど。
【人外に至った雁夜と宝物で強化されたギルガメッシュのパラメーター】
雁夜 ギルガメッシュ
・筋力:A9+ ・魔力:EX ┃ ・筋力:A5+ ・魔力:A++++
・耐久:A7+ ・幸運:EX ┃ ・耐久:A++++・幸運:EX
・敏捷:A7+ ・宝具:-- ┃ ・敏捷:A++++・宝具:EX
Cランク宝具が筋力A~A+換算ですので、宝具は最高で筋力の約10/3の強さとなりますので、雁夜の単純な全力攻撃でもA+宝具を完全に(数値が150寸前でも)越えています(笑)。
逆に最低倍率の約2.5倍なら、エクスカリバーでも(数値が200寸前でも)雁夜の攻撃に押し負けます(爆笑)。
そして一番妥当な間を取った約2.92倍で、エクスカリバーをA++の中間の175で計算したら、数値的に雁夜の筋力が上だったりします(大爆笑)。
最早身体が宝具状態です。
多分第五次バーサーカーを一回殴っただけで12回殺せます。
【ギルガメッシュが壮絶に暴れていたが時臣の魔力が枯渇しなかった理由】
これは単純にギルガメッシュが時臣から魔力を一切補給していなかったからです。
理由は、勝負を挑む際に他者の助力を借りるのを良しとしなかった、です。
このSSのギルガメッシュには脅威の単独行動EXが在り、聖杯戦争中ならば生前と同等の魔力生成率ですので、聖杯戦争中は本当にマスターの必要性が在りません(聖杯戦争後は魔力生成率が落ちるので派手に暴れられなくなるので、多少はマスターの必要性が発生します)。
時臣涙目です。
【放たれたエヌマ・エリシュの威力】
ギルガメッシュの筋力値×20+魔力値+宝物のバックアップ=約8000となっています。
本来4000が限界数値ですが、宝物のバックアップを受けて強化された為、限界数値を突破しています。
【ギルガメッシュが精霊の域云云と言っていた件】
此のSSのギルガメッシュの勝手な発言です。オリジナル設定です。
とは言え、そんなに的外れではないと思っています。
後、ギルガメッシュは流石に自分が神相手に戦えば分が悪いと思っているのは、ステータスの詳細からも何と無く察せたので、ギルガメッシュにしては珍しく若干弱気(?)な発言となっています。
【雁夜おじさんが強過ぎと思われる件について】
チート寸前の強キャラです。
しかもアルクェイドの神代回帰の如く一定未満の神秘を弾く体になっている為、宝具以外で傷付けるのが非常に困難になっています。
更に死の概念が無い相手に対しても、死の概念を刻み込む物質を生成して叩き付ければ打倒可能という無茶苦茶さもあります。
ナンダコイツハ?状態です。
まあ、精霊より上の神霊である上、知名度が世界有数の玉藻に比べればまだ可愛いものですが。
個人的に、
陣地内玉藻 > 全開アルクェイド ≒ 玉藻 > 雁夜(現在の潜在スペック) > アルトルージュ ≒ ギルガメッシュ(ほぼ英霊状態) ≒ 雁夜 >> ギルガメッシュ(アーチャー) > ヘラクレス(バーサーカー) > アルトリア(セイバー) > シエル(不死消滅後) >> 凜 >>> 都子(タタリ補正無し)
、と考えています。
まあ、所詮洒落なのであまり深く受け取らずに流して下さい。