カッコ好いかもしれない雁夜おじさん   作:駆け出し始め

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玖続・カッコ好いかもしれない雁夜おじさん

 

 

 

 遣り過ぎたと思っている。

 但し反省していない。

 後悔もしていない。

 だけど爺さんに会った時何を言われるのかが只管怖かった。

 何せ那須に続いて又やらかしてしまったんだから。

 

 前回は酔っ払っていた上に魔術の才能が塵な俺が魔法を使っただけだったから、那須の山一帯が神殿化するだけで済んだ。

 だが今回は酔っていないし、魔術というか呪術や神霊魔術の超エキスパートが居る。しかも時間もたっぷり使った。

 結果、冬木一帯が神殿化した。

 一応途中から遣り過ぎだと思って玉藻に偽装させたが、完成した時には洒落にならない状態に成っていた。

 

 何せ冬木の魔術師の工房を無条件で此方から操作出来るだけでなく、大聖杯が次回の聖杯戦争の為に溜め込む魔力を横取り出来たり、果ては大聖杯に流れ込む魔力を全部横取り出来たりと、爺さんにバレたら多分城の中の大魔王と戦わされるくらいの状態に成ってしまった。

 と言うか、冬木市で死んだ存在は全て此処の燃料に出来るのだから、普通に聖堂教会からも何かされる可能性が極大だ。

 

 おまけに間桐邸の一部を歪めて那須の山に繋げ、この前俺が調子に乗って強引に霊脈と龍脈を直結させた為溢れ出る莫大なマナを間桐邸に流し込んで玉藻が徹底的に間桐邸を浄化した為、正真正銘神殿と言える程の清浄さと神聖さが満ち溢れていた。

 当然周囲に充溢するマナも恐ろしいレベルの濃度であり、掻き集めて放てば波動砲の如く辺りを消し飛ばせるだろうし、恐ろしいことに掻き集めたマナを冬木の何処ででも間欠泉の様に放出可能なのだ。

 しかも登録されている対象には肉体を最高の状態にし続け且つ異物を排斥する効果が有り(自分が害と思っていなければ対象外になる)、魔力を消耗すれば即座に体に負担を掛けないギリギリの速度で補給がなされる。

 更に間桐邸も登録されている為、霊脈に打ち込まれた術式の核を破壊されない限りは消滅しても直ぐに復元される。勿論罠込みで。

 おまけに登録されていない奴が踏み込むと、人間が溶鉱炉に飛び込む様に即死するし、サーヴァントであってもA+以上の耐久や宝具を有していないと3分で死ぬらしい。

 その上間桐邸はA+未満の干渉を尽くを無効化し、大規模破壊を齎すならばEXは必須らしい。

 トドメに間桐邸ならば玉藻は本体の戦闘力を分霊という容を用いて存分に揮うことが可能だ。

 

 つまり間桐邸に居る俺達は1ターンごとにエリクサーと万能薬が使われている状態で、対して侵入者はラスボス級未満は3分以内に衰弱死し、冬木ならば陣を築いても乗っ取られる上に何処にでも間欠泉の如く波動砲を噴出させられ、間桐邸は破壊されても5秒以内に罠毎復元し、術式の核諸共消す為には大陸を破壊する程のエネルギーをピンポイントで核目掛けて放たねばならず、しかも其処に立ち塞がるのは太陽の化身と謳われ且つ無限宇宙の全一とも謳われる天照=大日如来の力を間桐邸限定とは言え完全に揮える玉藻が居り、玉藻を無視して冬木を荒らしてマナを減らそうとしても那須の山直下の龍脈からの供給なので意味が無く、那須の山には玉藻が護衛として数万の軍勢を自然に溶け込ませているのでサーヴァントでも瞬殺されてしまう上、仮に那須を陥落させても玉藻自体がサーヴァントどころか英霊を歯牙にもかけない存在の為ほぼ無駄。

 ……何処の無敵城砦だよ、間桐邸は。

 しかも性質の悪い事に、あくまで間桐邸は那須の山から動力源を引いただけなので、いざとなれば俺達と術式を那須の山に移して其処を本拠地とするのに1秒も必要としない為、ヤバイと思えば転移した挙句間桐邸に満ちる魔力を炸裂させて忍法微塵隠れが可能だ。

 

 

 ……正直、もう聖杯戦争が終わる迄間桐邸からは出ず、必要な物資はどこでもドアの様にドアを潜ればこの前建てた那須の邸宅に行けるのだから、那須ですればいい気がしてきた。

 もっと言えば桜ちゃんも遭いたくない人達が居る冬木じゃなくて、遭う可能性がまず無い那須で学校に通ったりすればいい気がしてきた。

 実際、いざという時は間桐邸を捨てた上で冬木を離れることになると桜ちゃんに言ったが、少しも躊躇せずに構わないと言ってたし。

 

 いや、でも、〔一度逃げ出した落伍者が聖杯戦争の為に舞い戻って参戦したのに、何故引き篭もり続けているのか確認された際に爺が死んだのがバレて、桜ちゃんが遠坂に再び戻らされたた挙句に何処かの魔術師の家に再び養子に出されない為〕、と言う問題を力尽くで解決したら、魔術協会や聖堂教会から刺客が送られて桜ちゃんが外を歩けなくなる。

 まあ、冬木市内限定の何処でも波動砲と魂横取りの機能は一応直ぐにでも消せるらしいから、聖杯戦争が終わったら直ぐに消す予定だし、サーヴァントなんていう高性能殺戮兵器を街で放し飼い状態にしているのを認めている聖杯戦争中なら物騒な仕掛けをしていても文句は言わせない。少なくても実際に使用する迄は。

 と言うか、そもそもこの冬木市の状態に気付けるのはラスボス級以上だけらしいし、実際に効果を理解するのは裏ボス級は必要らしい。何しろ玉藻ですら単独なら効果の全容は解らないらしいし。

 ……俺の日曜大工魔法と玉藻の異常出力の呪術と神霊魔術で、玉藻も単独で再現不可能な代物が何故か出来上がってしまったからな。

 

 で、結局どうするべきか……。

 正直、迎撃に出ても篭城した場合と然して変わらない気がするんだよな。

 何せ参戦するのは英霊じゃなくて純神霊の玉藻。おまけにマスターは第一の魔法使いの俺。

 

 多分玉藻がサーヴァントじゃなく、完全な神霊なのは一発でバレる。

 玉藻が自分は聖杯の機能限界を越えてる上に繋がりは俺を介さないとないから、他のマスターが見てもほぼ確実にサーヴァントと認識されないと言っていたが、玉藻に相対した時点一発で人外だってバレる。

 慣れてしまってるけど、玉藻の霊格の高さから発せられる存在感は洒落にならない。

 はっき言って召喚当初だと爺が張ってた結界を突き抜けて存在感が漏れていた可能性すら在る。

 と言うか、近くで平然としている桜ちゃんは普通に凄いらしい。

 

 何でも、神の傍に半端な者が近寄ると、それだけで存在の圧力に当てられて死ぬらしい。

 少なくても玉藻の傍に居るには、魔術師ならら一流の基本性能がないと耐えられないらしい(一流でも危険らしいが)。

 逆に耐えられれば傍に居る間は破格の恩恵が得られるらしい(食べても太らず且つ美容が最高レベルで維持され、更に長期間居るとその体質に変化していくのがウリと言っていた)。

 当然そんな存在が現れれば魔術師共が気付かないわけがない。

 仮に魔術師が気付かなくてもサーヴァントが確実に気付く。

 蟻が人間の大きさを理解出来ずとも、猫ならば人間の大きさを理解出来るのと同じ理屈だ。

 

 よって玉藻が参戦すると確実に神霊だとバレる。

 しかも下手すれば召喚ではなく降臨してるのもバレ、冬木に仕掛けたトンでも機能に関係無く魔術協会と聖堂協会から付け狙われるのがほぼ確定している。ついでに魔法使いも居るし。

 ……なんか玉藻と俺が居る時点で何しても魔術協会と聖堂教会に付け狙われる気がしないでもない。

 おまけに聖杯戦争に参加した時点でバレようがバレまいが行き着く結果が一緒な気しかしない。

 いや、令呪を破棄すればいけるか?……厳しいだろうな。

 

 …………あれ?

 なんかどう足掻いても爺のコトがバレて、桜ちゃんと時臣が対面してしまう気がするぞ。

 って言うか同じことばかり考えてる気がする。と言うか実際そうだ。

 一体どれだけ同じこと考えれば気が済むんだってくらい同じこと考えてたな。

 いや………………うん、いい加減認めよう。

 わざと結論を先延ばしにしていたんだと。

 

 

 ……桜ちゃんと時臣の接触の可能性を受け入れない限り、どう足掻いても裏から大注目を浴びてしまう。

 そして桜ちゃんが時臣と接触した場合、ほぼ確実に桜ちゃんは遠坂に戻されることになる。

 何故だか懐いている玉藻を除けば、今の桜ちゃんはテレビで人間を見るのも厭がる程に他者との接触を拒んでいる(最初の頃は人間とすら認識してなくて平気だったみたいなのを考えれば、寧ろプラスな気もするが)。

 そして時臣は桜ちゃん的には地獄に叩き落した張本人であり、再び他所の地獄に叩き落すであろう人物である(葵さんと凜ちゃんは自分を見捨てた人達みたいだ)。

 当然対面して正気を維持出来る可能性は殆ど無い。

 普通ならそれを言えばいいだけだが、面倒なことにそうなった原因は間桐の魔術に原因がある。

 

 桜ちゃんが今の状態になってしまった原因は間桐の魔術であり、それを継ごうとしなかった俺であり、間桐の魔術を碌に知りもしなかった時臣であり、傍目に見ても間桐の原因が比率的に大きい。

 更に間桐の当主の爺を俺が殺して以降誰も当主を継いでいないので現在間桐は当主不在であり、当主継承最有力候補は桜ちゃんだが、桜ちゃんは辛うじて魔術回路の切替が出来るだけでとても魔術師とは言えない。と言うよりも魔術を使えないと言った方がいい。

 その上一応継承権がある俺だが、俺は魔術は全て暴発させるという珍妙な特殊技能持ちの為、当然まともな魔術を使えない。

 そして俺達以外に間桐の血筋で継承権が有るのは居ない。

 兄貴は継承権を放棄したしどれだけ頼んでも二度と間桐の魔術に関わろうとしないだろうし、魔術の腕前も多分少しだけ蟲を扱えるだけで俺と大差無い筈だし、その息子は家を出たとか言う以前に魔術回路が無い。

 

 当然、誰が継いだところで没落すると思うのが普通だ。

 なら魔術師と成るべく桜ちゃんを間桐に突き落とした時臣が、魔術師と成ることなく普通の一般人に桜ちゃんがなるのを見過ごす筈は無い。

 仮に桜ちゃんが嫌がっても過去の親権を発動させるだろうし、俺が間桐を継いで現在桜ちゃんの親権を持つ者として抗議しても、魔術師として必須の記憶改竄の魔術すら俺は使えないので(時臣はほぼ確実に俺を試す)、俺が家を継いだとまず認めない。

 となると桜ちゃんの親権は自動的に肉親の時臣に戻り、俺がどれだけ吼えても桜ちゃんは遠坂に戻されてしまい、何れ別の魔術師の家に引き渡されるだろう。

 無論、引き渡された先がある程度一般常識を持った魔術師の家系の可能性も在るが、間桐よりも碌で無い可能性も在る以上、俺はそれを認められない。

 少なくても前の様な正気の状態に戻った桜ちゃんが自分からそれを願わない限り、俺は絶対に認めない。

 ならばそういう未来を回避する為には、力尽くか、可能な限り平和的に解決するかの何方かしかない。

 

 力尽くの解決を選ぶならば、最悪魔術協会と聖堂教会を敵に回した挙句、裏の奴らを山程呼び寄せる可能性が高い。

 無論玉藻が協力してくれるならば一先ず桜ちゃんは安全だろうが、少なくてもまともに外を歩くことは出来なくなるだろう。

 対して平和的解決を選ぶならば、少なくても俺が魔法使いだとバラさなければならず、その場合も裏から少なからず付け狙われるが、力尽くで解決する場合に比べて危険度は大幅に下がる。

 幸い魔術が下手でも人間ロケットランチャーの様に一芸特化で納得させることも出来るし、記憶操作も魔法を使えば代用可能だ。

 

 だが、若し魔法使いとバラして間桐を継ぐのを認められた場合、少なくても俺は桜ちゃんに魔術を教える義務が発生してしまう。

 少なくてもそうしないと時臣が、虐待していた家系に連なる義理の叔父である俺より肉親の自分の元に帰るべきだと訴えかねない。表の裁判所に。

 そしてそうなれば俺はまず負ける。

 重要参考人の桜ちゃんが法廷で碌に発言出来ないであろう以上、それはほぼ確実だ。

 

 故に俺が桜ちゃんを時臣に渡さない為には、一生俺達の元に囲って過ごさせるか、俺が魔術を教えることで時臣の干渉を撥ね退けるかの何方かになる。

 一応裏技として玉藻主導で幻想種の溢れる裏側に行くというのもあるが、俺は特別な体らしいので平気らしいが、完全に生身の桜ちゃんでは向こうに行った瞬間肉体が消滅し、自力で自分をイメージして自身を形成しなければ死ぬらしいので却下(成功しても幻想主や精霊の仲間入りらしいのでどのみち却下)。

 他には爺さんに頼んで何処かの世界に飛ばしてもらう案だが、仮に爺さんが頼みを受け入れても、異世界に渡った後に魔法使いの俺(場合によって魔術師)と最高位神霊の玉藻が果てし無く悪目立ちするし、悪目立ちしない文化レベルだと逆に桜ちゃんを不便にさせてしまって申し訳ないので、この案は最終手段。

 

 つまり桜ちゃんにある程度全うな人生を歩んでもらおうと思うならば、結局は桜ちゃんに時臣と相対してもらわないと始まらないということだ。 

 一応時臣を殺害乃至意思疎通不可能状態にするという解決策も在るが、それだと葵さんと凜ちゃんが不幸になるので俺は極力採りたくないし、その場合俺が魔術協会から追われて桜ちゃんも巻き込んでしまうので余り意味が無い(桜ちゃんが時臣さえ居なければ遠坂に帰りたいと言うなら一考の余地は在るけど)。

 

 

 要するに、桜ちゃんに又我慢してもらわないといけないということか。

 ………………………………はあぁーーーーー……。

 

 滅茶苦茶気が重い。

 微塵もやる気が涌かない。

 果てし無く気が進まない。

 正直投げ出して成るように任せたいけど……………………やらないわけにはいかない。

 大して在りもしない見栄と意地だけど、精一杯力に成ってやりたいと思った女の子の前でくらい虚勢を張ろう。

そして虚勢に見合うだけの結果を出して見せよう。

 

 …………よしっ!男は度胸だ!

 決めたのなら直ぐにやった方が良いなな。

 後に回すと結局俺は理由を付けてやらないからな。

 

 

 さて、そうと決まればいい加減風呂から上がるか。

 

 軽く顔に汗を掻いていたので風呂の湯を掬って顔に掛け…………桜ちゃんだけじゃなくてあいつも入っていた湯を顔に掛けたのが気恥ずかしかったので、煩悩を沈める為にも水を頭から浴びて風呂から出た。

 

 

 

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 風呂から上がった俺は早速行動に移した。

 

 玉藻の膝の上で尻尾に包まれ、名作アニメ(多分フランダースの犬)を見ながら後は寝るだけだった桜ちゃんに、とっても大事な話があると告げた。

 すると桜ちゃんはLDを止めてテレビを消し、少し不安な表情ながらも俺に向き合ってくれた。

 対して玉藻は席を外した方が良いのかどうか解らず困った表情をしていたが、桜ちゃんが構わないと言うなら桜ちゃんの尊厳に関わる所を暈す以外は話すべきだろうと思い、とりあえず視線でその場に留まってもらった。

 そして俺は桜ちゃんに玉藻に桜ちゃんの事情を話して構わないか尋ねることにした。

 

「桜ちゃん、先ず初めに謝らせてもらう。

 俺が馬鹿で臆病で力が足りないから、三度も桜ちゃんに選択を迫らなきゃいけなくなった。

 だけど前言ったように、選択したくなければ選択しなくても構わない。逃げたって怒らないし文句は言わない。

 だって桜ちゃんはまだ小さい子供なんだだから」

「…………」

 

 少しだけ安心した様に桜ちゃんの雰囲気が和らいだが、これからそれを消し飛ばすことを言わなきゃいけないかと思うと逃げ出したくなる。

 が、此処で逃げ出すと桜ちゃんに全く示しがつかないし、二度と桜ちゃんに安心感を与えられないと思い、逃げ出そうとする思いを封殺しながら話を続けることにした。

 

「だけど、勝手な言い草だけど、桜ちゃんが逃げたら俺は勝手に桜ちゃんの道を決める。

 そして俺が勝手に決める道は多分、今の桜ちゃんにとって一番辛い道だと思う。

 だから、逃げるなら自分でその辛い道を選んでほしい。

 その方が辛い道でも頑張っていけると思うから」

「……………………」

 

 不安な眼でなく警戒した眼で見られるのが非常に心苦しい。

 だけど警戒は解けなくても少しは不安を消せるだろうと思い、落とし所を提示することにする。

 

「勿論桜ちゃんにとって辛い選択だけじゃなくて、今の儘暮らせる選択も有る。

 そして桜ちゃんがどの選択を選ぼうと……考えた末に選んだのなら、俺はそれを否定しない。文句も言わない。

 桜ちゃんが自分で自分の道を決めたのなら、俺は全力で力を貸させてもらう」

「……ん」

 

 不安は余り消えなかった様だが、何故か警戒が消えていたのが気になったが、それに構わず続ける。

 

「そして桜ちゃんが選ぶ道次第では玉藻の協力が必要なんだ。

 だから協力を頼む玉藻に桜ちゃんの事情を説明していいかな?

 勿論桜ちゃんが言いたくないだろう所は極力隠す。詳しく言う必要も無いからね。

 

 だから……話しても構わないかな?」

「うん」

「って、速っ!?」

 

 即答と言っていい程の速さに驚いてしまい、つい驚きの声を出てしまった。

 

「えっ、な、何で!?

 いや、[うん]、って言ってくれるのは嬉しいんだけど、何でそんなにアッサリ!?」

「………………秘密。

 女同士の……秘密」

 

 玉藻を見上げながらそう言う桜ちゃん。

 そして見上げられたあいつは桜ちゃんに笑顔を返し、それから俺に悪戯が成功して楽しそうと言わんばかりの笑みを浮かべながら言ってくる。

 

「ご主人様?

 良い女には秘密の一つや二つは在るものなんですよ?

 そして知らなきゃ困る秘密じゃないですし、不実を隠す秘密でもないんですから、あんまり詮索するのは野暮ってものです。

 

 ねえ~、桜ちゃん♪」

「……ん」

 

 …………疎外感バリバリで寂しくて泣きそうになった。

 

 あんまり黙っていたりこの話を続けると本当に涙が出そうなので、若干無視する形で話を進めることにした。

 

「そ、それじゃあ玉藻への説明も兼ねながら、桜ちゃんに選択を迫ることになった事情を説明するね」

 

 和んだ雰囲気が一瞬にして引き締まり、直ぐに静かに俺の話を聞く体制に戻ってくれた。

 

 

 

 そして、俺は風呂場で纏めた考えを述べていった。

 

 

 

 ・

 ・

 ・

 

 

 

 思ったよりも早く考えを言い終えれた。

 

 矢張り桜ちゃんが聡く、理解しているかどうかを逐一確認する必要が無いのが要因だろう。

 ついでに玉藻も真面目な時は黙って聞くし、桜ちゃんと同様に聡いから1回で理解してくれた。

 

 そして何方も話を理解してくれたと判断した俺は、改めて桜ちゃんに問い掛けた。

 

「桜ちゃん、今言ったけど、今俺達は岐路に立っている。

 そしてその岐路は桜ちゃんが時臣と会って話をするかどうかという岐路だ。

 勿論俺や玉藻の行動でも大きく分岐することになるだろうけど、その場合も桜ちゃんが時臣と会うか合わないかという分岐が待っている」

「…………」

 

 不安や警戒というより、ただ単純に硬いと言う様な表情で聞く桜ちゃんを見、予想よりも遥かに落ち着いているのを不思議に思ったが、玉藻が優しく桜ちゃんを抱き締めていたからなのだと気付き、内心で感謝しながら話を続ける。

 

「桜ちゃんが今時臣に会うくらいなら、この後ずっと間桐邸に篭ってても構わないと思うなら、それが間違いだと俺は思わない。

 だって、何がどれだけ厭かは、結局みんなバラバラなんだから。

 

 黒い色が好きな人もいれば、嫌いな人もいる。

 寒いのが好きな人もいれば、嫌いな人もいる。

 寂しいのを何とも思わない人もいれば、嫌いな人もいる。

 騒がしさを何とも思わない人もいれば、好きな人もいる。

 細く長い人生を望む人もいれば、太く短い人生を望む人もいる。

 結果が同じでも納得する為に行動する人もいれば、次の為に休んで行動しない人もいる。

 厭なことを一気に済ませようとする人もいれば、厭なことは小出しに済ませようとする人もいる」

 

 ゆっくりと、桜ちゃんだけでなく、俺自身にも言い聞かせるように言っていく。

 

 …………たとえ桜ちゃんの選ぶ選択が俺にとって好ましくない類でも、桜ちゃんが考えた末に出した答えなら、それに俺が文句を言うのは筋違いだ。

 桜ちゃんが日陰者の生活になるのが承服できないなら、その選択を仮に桜ちゃんがしても、何時の日か陽の下を歩けれるように道を残しておけばいいだけの話だ。

 そしてその為に腐心するのが保護者である俺の役目だ。

 

 緊張してはいるが追い詰められたような焦燥感が大分取れた桜ちゃんを見、告げる。

 

「だから、桜ちゃんは遠慮せずに自分の意見を言ってくれて構わない。

 時臣と会って話を付けるのか?

 それとも間桐邸でのんびり暮らすのか?

 若しくはそれ以外の俺の考えも付かなかった選択か?

 

 どの選択でも構わないから、答えを聞かせてほしい」

 

 そう言って言葉を切り、威圧しない様に気を遣いつつ桜ちゃんを見た。

 

 当然直ぐに答えが返ってくるなんて思っていないので、10分でも1時間でも待つつもりだ。

 だが、唐突に今迄黙っていた玉藻が俺に質問してきた。

 

「あのー、ご主人様?

 ちょっと疑問点が晴れなかったので訊いてもいいですか?」

 

 桜ちゃんがストレスで思考の袋小路に追い詰められない様に気を遣ったのだろう、可也軽めの声で玉藻が尋ねてきた。

 なので俺もそれに乗って軽めの感じで声を返す。

 

「何だ?」

「はい、若し、桜ちゃんが時臣っていう人と会うとして、ご主人様が魔法使いなのをバラした上で間桐の当主になって桜ちゃんを奪い返されないようにする場合、私は何するんですか?」

「ああ、すまん。言い忘れてた。

 その場合は俺が令呪を放棄するから、聖杯に力を少し流した後は聖杯戦争が終わる迄は隠れててもらう。

 聖杯戦争後は隠れなくてもいいけど、可能な限り神霊だとバレない様に偽装してほしいとは思ってる。

 

 と、こんな感じで考えてるが……聖杯への回収を偽装させることは出来るか?

 出来なければ聖杯戦争が終わる迄冬木から離れていてもらうが、それだと聖杯戦争が終わった後でも霊器盤で察知される可能性があるから那須に本拠地を移すことも視野に入れなきゃならんが」

「ああ大丈夫です大丈夫です。

 それくらいなら毛の一本をサーヴァントに偽装して聖杯に送れば済みますし、消耗は此処に居れば直ぐに快復しますから全然問題無しです。

 ただ…………」

 

 疑問に答えたことで他に何か気になることが生まれたのか、中途半端に言葉を切る玉藻。

 だが、玉藻も桜ちゃんと同じく当事者であるのだから、疑問には極力答えるのが当然だと思い、質問を促すことにした。

 

「疑問や質問が在るならどんどん言ってくれ。お前も当事者なんだから」

「いえ、疑問や質問じゃなくて提案なんですけど、いいですか?」

「それこそ言ってくれ。

 他の意見を封殺できる程俺の頭は良くないからな」

「では遠慮無く」

 

 そう言うと玉藻は一度膝の上の桜ちゃんの顔を覗き込んだ。

 そして桜ちゃんが玉藻の視線に気付き、何なのかと可愛らしく小首をを傾げた。

 だが、玉藻はそれに綺麗な微笑を返すだけで何も言わず、直ぐに桜ちゃんから視線を切り、改めて俺を見ながら言ってきた。

 

「桜ちゃんへの選択自体に異議は無いんですけど、……………………桜ちゃんを勇気付ける為にも、ご主人様が勇姿を示すてのはどうですか?」

「…………は?」

「いえ、傍目から見ても桜ちゃんが時臣って人と会おうとしているのは解りますけど、桜ちゃんとしては単純に時臣って人に会うのだけじゃなくて、最悪の場合ご主人様が時臣って人に殺されてしまうかもしれないのが怖いと思うんですよ」

 

 確かにその通りだ。

 桜ちゃんとしては俺の強さがどれくらいか今一解らないだろうから、自分が時臣と会った為に俺が死んでしまうかもしれないと思うと余計に怖いのだろう。

 

 ……桜ちゃんの立場に立って考えきれてなかったな。

 そして実際、玉藻が言う通りなんだろう。

 玉藻に言われて桜ちゃんに視線を移したら、非常に申し訳なさそうに顔を伏せられたのだから。

 

 自分の至らなさに腹が立つものの、今桜ちゃんを安心させる為の方法を言おうとしている玉藻の言葉に耳を傾けることにする。

 

「で、ですね、私が一番良いと思う解決案は、ご主人様が時臣って人のサーヴァントを倒すことだと思うんですよ」

「…………」

「桜ちゃんもサーヴァントが時臣って人じゃ全然適わないくらい凄いってのは解ってますから、もしご主人様がサーヴァントに負けても追い詰められれば、桜ちゃんは時臣って人と向き合っても安心出来ますよね?」

「………………………………サーヴァントが居ないなら…………」

 

 ポツリと呟かれた言葉が、桜ちゃんの精一杯の我儘でもあり、助けを求める声に聞こえた。

 

「ならば此処は頼り甲斐が在るところを示す為にも、ご主人様には時臣って人のサーヴァント……多分アーチャーと戦うってのはどうでしょうか?」

「………………」

 

 はっきり言って勝てるとは思えない。

 良くて手傷を負わせるくらいだと思う。

 寧ろ逃亡も出来ずに死んでしまう可能性も在るだろう。

 まあ、俺が死んでも玉藻がいるから桜ちゃんが又地獄に落とされるということはないだろうが、穏やかな生活を送ることはほぼ不可能になるだろう。

 

 普通に考えれば桜ちゃんに我慢してもらうか、自力で勇気を振り絞ってもらうべきなんだろう。

 だけど…………桜ちゃんに俺が頼りないから死ぬかもしれないっていう恐怖を克服させるのは、何か違う気がする。

 少なくても保護者が頼りないのが原因なら、保護者は頼り甲斐が在るところを示すべきだと思う。

 

 大体、楽に頼り甲斐を見せようというのが甘い考えなんだ。

 しかも短期間で頼り甲斐が在るというのを示すなら、それが危険なことになるのは当然だ。

 ならば俺は桜ちゃんの保護者だと時臣に言い切る為にも、桜ちゃんに頼られるくらいの存在になろう。

 

 期待と不安と申し訳無さが混在した雰囲気で俺を見てる桜ちゃんに笑顔を見せながら答える。

 

「解った。

 ここは時臣が何かしても大丈夫なくらい強いって証明してやる。

 倒せるかは解らないけど、サーヴァント相手に戦えるってことくらいは証明してやる」

 

 多分、爺さんの修行なんか比較にならない破目に遭うだろうし、死ぬかもしれない。

 だけど、桜ちゃんが俺に勇気を振り絞る為に精一杯の助けを求めたんだ。

 俺が危険な目に遇うと解っていて尚、我儘を……初めて我儘を言ってくれたんだ。

 ここでそれに応えられなきゃ、男も大人も保護者も名乗れない。

 

 見せ場をくれた玉藻に目で礼を言うと、玉藻は満面の笑顔で話を締めくくりだした。

 

「それじゃあ方針はご主人様が時臣って人のサーヴァントと戦い、その後で時臣って人が文句を言うなら桜ちゃんも交えて話し合うって方針で決まりですね。

 

 はい! それじゃあ重い話はこれくらいで終りにしましょう♪」

 

 そう言って場の雰囲気をあっと言う間に払拭する玉藻。

 正直俺もいい加減重い話は終わらせたいが、何時時臣のサーヴァントと戦うのか決めていないので待ったを掛ける。

 

「いや、ちょいと待て。

 まだ時臣のサーヴァント……アーチャーと何時戦うのか決めてないぞ?」

「ふえ?

 そんなのサーヴァントが出て来た時に喧嘩を吹っ掛けるんじゃないんですか?

 

 聞いた限りじゃ時臣って野郎はご主人様を見下し捲ってるみたいですから、昼だろうが夜だろうがご主人様がそいつのところに出向いて、〔サーヴァントと戦わせろ〕、って言っても相手にしてもらえずに追い返されるか、時臣って野郎に頭が残念なのが絡んで来てるって教会に連絡されるのがオチだと思いますよ?」

「た、確かに」

「しかもなるべく早い方が良いと思いますね。

 あんまり遅いと漁夫の利を奪いに来たと思われて難癖付けられかねませんし」

「……そうだな。

 だけど、あの偉そうなのが序盤から出てくるとは思えないけどな」

「あ、それなら多分大丈夫そうです。

 ほら」

 

 そう言うと玉藻は虚空に映像を映し出した。

 

 映し出された光景は倉庫街であり、何故かサーヴァントが3騎……いや、可也遠くにアサシンが居るから4騎……いや、今5騎になったところだった。

 

 どういう過程でこうなったのかは非常に気になるが、今は玉藻の方が滅茶苦茶気になるので、過程のことは一先ず措いといて玉藻に尋ねる。

 

「まさか、此の混沌の中に行けと?」

 

 虚空に映る映像を指差す俺。

 対して玉藻は何故か凄い自信を漲らせながら言ってきた。

 

「はい♪

 あ、大丈夫です。ギャラリーが邪魔したら消し飛ばしますし、いざという時はキチンと回収しますから、安心して行って下さい」

 

 瞳が俺のカッコ好いところを見れるという、邪気の混じらない純粋な期待で溢れかえっているのが直ぐに解った。 

 そしてそれに続く様に――――――

 

「雁夜おじさん……頑張って。

 だけど……死なないで」

 

――――――桜ちゃんから激励を貰い、[後日改めて]、とは言えなくなった。

 

「……解ったよ。

 やってやるよ」

「はい♪

 それでは乗り遅れると拙いんで、行ってらっしゃいませご主人様」

「え!?

 準備もしたいから、ち――――――」

 

 事前に作って置けば役に立つモノとかがあるんだから、せめてそれくらい創っていこうかと思ったんだが、場が荒れれば割り込めなくなると思った玉藻が、俺を無視して即座に転移させた。

 

「――――――ょっと待てぇっ!?!?!?」

 

 ……言葉の途中で俺は倉庫街に転移させられた。

 靴も履いて無い状態で。

 いや、寝巻きで無いだけまだマシだが。

 だけど、此の場に居る全ての奴から降り注がれる視線は洒落にならない。

 

 ぶっちゃけ直ぐに逃げ出したい。

 逃げ出したいが…………転移する寸前、不安だけど物凄く期待した桜ちゃんと、声の割に不安が混じった……だけど根拠が無いと叫びたい程の信頼を湛えた笑顔で送り出した玉藻を思い出し、心を決める。

 

 

 軽く深呼吸をして二人の顔を思い出しただけで驚く程に落ち着いた俺は、時臣のサーヴァントに体を向けて仰ぎ見、誰かが口を開くより先に声を張り上げた。

 

「俺はアウトキャストのマスターにして第一の魔法使い!間桐家現当主!間桐雁夜!

 遠坂時臣のサーヴァント・アーチャーに勝負を申し込む!!!」

 

 

 







  雁夜おじさんのパラメーターの幸運が明かされました。


・幸運:EX(スキル名、【幸運:EX】含む)
 常識を超えた幸運。
 作為性を確信してしまうレベルの悪運や幸運を引き込むが、大抵代償を確り自分で払う破目になる。
 なので基本的に常時碌でも無い事態に陥り続けることになる。が、矢張り最悪になる前に異常な悪運や幸運を呼び込んで回避する。
 そして大抵はその負債を払う為に又不幸に陥り続ける破目になる。
 総合的に見ると間違い無く圧倒的に運は良いが、主観的にも客観的にも然してそうは思えない状態が続く。寧ろ不幸を呼び寄せているように思われかねない。
 尚、雁夜が幸運の対価を自分で支払う原因は、雁夜自身が、[コレだけの幸運が起きたなら何かしらの帳尻合わせが来る筈]、と思っていることに由来している。
 つまり、結局は雁夜が望んで碌でも無い事態を呼び込んでいるのであり、雁夜が自身の幸運を素直に受け入れられれば順風満帆な生活を謳歌出来る。
 因みに此のSSのギルガメッシュの様に運命干渉の類の無効化能力も当然持ち合わせている。



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