IS インフィニット・ストラトス ~天翔ける蒼い炎~ 作:若谷鶏之助
翔たち幼馴染三人が取材を受けている頃、IS学園の食堂カフェテリアスペースでは、二人の少女が、一人の少女に取材、もとい尋問していた。
尋問しているのは、鈴とシャルロット。されているのは、セシリア。それぞれの飲み物――鈴とシャルロットはココアで、セシリアは紅茶である――を挟み、執り行われる尋問は、彼らが友人同士であることを疑わせるほど厳かであった。
「……さて、セシリア」
「な、何でしょう?」
いつになく真剣な口調の鈴に、セシリアは引き気味に微笑む。そんなセシリアにシャルロットは、
「翔とのデートの成果、聞かせてもらうよ」
「えっ!?」
セシリアの顔が紅潮した。
「セシリアってば、この前翔とデートしてから、すっごく幸せそうにしてるじゃない。これは何があったか聞かずにはいられないってわけよ」
「これから、根掘り葉掘り聞かせてもらうから、覚悟してね?」
「え、ええっ、そんな……!」
「――あ、ちなみに、黙秘権は無いから」
にこり。
普段は天使のように柔らかいシャルロットの笑顔が、今は悪魔のそれに見えたセシリアだった。
「それで!」
「どーだったのよ!?」
「……え、ええっと……」
ずいっと身を前に乗り出す鈴とシャルロット。
正直なところ、セシリアはあの日のことを話したくなかった。できれば、翔と二人だけの想い出にしていたかったからだ。ただ、二人は常日頃からセシリアのために協力してくれている。ここは話しておくのが筋ではないか。
そう考えたセシリアは、秘密ですわよ、と念を押して、ゆっくりと話し出した。
「……あの日は、朝、まず映画を見に行きましたわ。それで……」
話していると、あの日の一分一秒が鮮明に蘇ってくる。
映画館に行くまでは、二人で手を繋いで、街を歩いた。手を繋ぐと急に早足になった翔。彼のそんな初心なところが、セシリアにはとても可愛らしく映ったのだった。
セシリアは話し始めたが、目の前のお二方の表情は依然厳しいままだった。
「それは知ってるわよ!」
「僕らが知りたいのはその後だよ、その後!」
二人は早く続きを話せ、とセシリアに促す。セシリアはがめつい二人にため息をつきつつ、続きを話し出す。
「……その後は、二人で食事をしましたわ」
翔に連れられ、セシリアは洋食店へ足へ運んだ。やっぱり食好きの翔は、料理を口にするなり饒舌になった。二人で食事することは珍しいことではなかったが、おしゃれをして外食するというのは、少し特別なことだった。
セシリアとしては十分に説明したつもりであったが。
「かーっ! 分かってるわよんなことは!」
「翔がお昼食べないなんてあり得ないもん!」
……まだ納得が行かないらしい。鈴とシャルロットの顔面威圧は依然強い。
「それでそれで! どーなったの!?」
「え、ええと、それから服を買いに行きましわ……」
昼食のあと、セシリアの提案で、二人は服を買いに行った。本当のことを言うと、セシリアは服を買いたかったというより、翔に自分のまた別の一面――年頃の女性しての自分を、知って欲しかったのだ。名家オルコット家の令嬢である前に、イギリス代表候補生である前に、好きな人におしゃれな自分を見て欲しいと思う、ただ一人の女としての自分を、知って欲しかった。翔がどう思ったかは分からないけれど、少しだけ、自分への見方が変わった気がした。
セシリアがそれを話すと、今まで厳しかった鈴とシャルロットの顔が、少し暗くなった。
「なるほどね、映画のあとは買い物デートね……羨ましいわ……」
「何でセシリアはうまく行くのかな……」
先ほどまでの押しはどこに行ったのか、鈴とシャルロットはどこかしょんぼりした様子である。
「鈴さんもシャルロットさんも、一夏さんと買い物をしたことはおありしょう?」
「いや、そうなんだけどね。なんていうか、その、あんたと翔みたいな雰囲気じゃないのよ、ね?」
「……うん。一夏ってさ、どこかに行ってもやることが同じなんだよね」
「…………」
セシリアは頭の中で、デートの際の一夏がどのように振る舞うかをシミュレーションした。
『唐変木・オブ・唐変木ズ』の名を欲しいままにする鈍感で、一家の家事を担う主婦で、妙に健康にこだわるジジくさい一面を持つ一夏。食事中にトイレットペーパー切れてたとか、二人でアイスを買っても体に悪いとか、平然と言いそうで恐ろしい。雰囲気ぶち壊しである。
たった数秒のシミュレーションであったが、二人の表情を見るに、どうやら正解のようだった。
「ま、まあ、それはこの際どうでもいいわ。……で、セシリア、次は?」
「つ、次?」
次。次と言えば、海なわけだが……。
「まさか買い物して終わりってわけじゃないんでしょう?」
「う……」
セシリアはまた赤くなって俯いた。明らかに言いたくないという意思表示である。
それで何かある、と確信したらしい鈴とシャルロットは、一気に顔を近づけ、セシリアに迫る。
「ど・う・だ・っ・た・の……!?」
「ちっ、近い! 近いですわ……!」
視界が鈴とシャルロットに覆われるほど近い。そして鼻息が荒い。
「お・し・え・て!」
「ああ、もうっ!」
セシリアは必死に二人の顔を押し退けながら、やけくそになって言う。
「……さ、最後は、海に行きましたわっ!」
「「海ぃ!?」」
聞いた二人の顔が驚きに染まった。しかし、あまりに大声だったので、周囲の人間の視線を集めてしまい、セシリアが慌てて二人を黙らせた。
一旦落ち着いた鈴が、もう一度セシリアに問いかける。
「ちょ、ちょっと待って。二人で海に行ったの!?」
「は、はい」
「……羨ましい……!」
わなわなと震える鈴とシャルロット。
「で、海で何したわけ……!?」
「さ、最初は少し、お話をしまして……」
「うん」
「それから、少しいい雰囲気になりまして……」
「う、うん」
「こ、腰を、抱いていただきまして……」
「う、うん……! で!? で!?」
「そして……」
「うん!」
「……そ、その……キスを……」
「「――キっ、キスぅ!?」」
「しー! しー!」
二人がガタッと立ちあがったのを、セシリアが慌てて抑え、口を塞いだ。
「もう! あまり大声で叫ばないでくださいな!」
「ご、ごめん……」
「わ、悪かったよ……」
周りを見て誰も気にしていないのを確認し、ほっとセシリアは胸を撫で下ろした。翔とデートした上にキスまでしたと知られたら、大変なことになる。
もう一度落ち着いたところで、シャルロットが尋問を再開した。
「え、そ、それって、したの? されたの?」
「……し、していただきましたわ」
「あ、あの翔が……!?」
信じられない。手が触れただけで慌てふためく翔が、まさか自分からするとは。
いかにもそう言いたげなシャルロットの横で、鈴がセシリアにひそひそ話しかけた。
「な、何ですの?」
「……ね、ねえ! キスって、どんな感じなの!?」
「ど、どんな感じと聞かれましても……」
「じゃ、じゃあ、気持ちいいの!?」
「そ、それは……、はい……。とても……」
かあっ。セシリアは耳まで赤くなった。
あの海で過ごした時間を、そして翔がくれたキスを、セシリアは一生忘れないだろう。夕暮れの砂浜をバックに交わした、あのキス。唇を合わせる、ただそれだけのことなのに、優しく、甘美で、幸せで。あの瞬間を思い出すだけで、セシリアの心は暖かいもので溢れた。
幸せに満ちたセシリアの顔とは対照的に、鈴とシャルロットの顔は暗い。
「……何かもう、報告っていうか、ただのノロケね」
「り、鈴さんが言わせたのでしょう! ひどいですわ!」
「じょーだんよ。……で、返事は?」
「へ、返事?」
「そうよ。ちゃんと返事してもらえたんでしょ? どんな感じだったわけ?」
「い、いえ。お返事は、まだ……」
「はあ!? 何でよ!?」
ばん、と鈴がテーブルを叩いた。鈴は返事をもらったと思っていたようだ。
「あいつ、自分からキスしたんでしょ!? じゃああんたのこと好きってことじゃん!」
「そ、そうとは限りませんわ」
「絶対そうよ! そうじゃなかったら、あの翔が自分からキスなんてするわけないじゃん!」
「鈴さん……」
鈴の言っていることは、本当なのかもしれない。翔は本当に、自分を思ってくれているのかもしれない。だが……。
「……鈴さん」
セシリアは、ゆっくりと首を横に振る。
「わたくしは、それで良いのですわ」
穏やかに微笑み、セシリアは言った。
鈴はそれを聞いて、むっと顔をしかめた。シャルロットも、同じ表情だ。
「……どうして?」
「わたくし、思いましたの。わたくしにとって大事なことは、お返事をいただくことではなくて、翔さんと一緒にいることだと」
それは、紛れもないセシリアの本心だった。
あの日、あの海で、セシリアは自分の気持ちを再確認した。
――わたくしはやっぱり、翔さんが好き。ときに男らしく、ときに可愛らしい翔さんが、優しい翔さんが大好き。そんな、自分の想いの一番根っこのところを。
その翔が、デートに誘ってくれた。手を繋いでくれた。キスしてくれた。それはセシリアにとって、この上ない幸せだった。
そして、セシリアは理解した。翔はちゃんと自分のことを考えてくれていて、決して忘れているわけではない。まだ答えを出せないだけだ。ならば、恋人という関係に急ぐ必要は無い。翔と一緒にいること。それが、今一番大事なことなのだと。
「決してお返事が要らないと言っているのでありませんわ。いただけるのなら、勿論そうしたいと思っていますわ。でも、それが全てではないのです」
「……翔が、答えてくれなかったら?」
「それはありませんわ」
「どうして?」
シャルロットが、真剣な表情で訊く。セシリアはそれに、笑顔で答える。
「――だって、翔さんを信じていますから」
それは、とても単純なことで。
――信じている。その一言は、発したセシリアの心に、ごく自然にすとんと収まった。まるで、そこにあるのが当然であったかのように。
鈴もシャルロットも、どこか腑に落ちたように安心している。
「そっか……。まあ、あんたがいいんなら、いいわ」
何となく一区切りついたこの場を、鈴がまとめる。そして、先程までの真剣な表情はどこへ行ったのか、呆れたように微笑んで、「あーあ」と伸びをする。
「結局、フタ開けてみれば、セシリアのノロケ聞かされただけじゃない。ねえ?」
「あ、あはは……」
「で、ですからっ、言わせたのは鈴さんでしょうっ!」
苦笑するシャルロットと、リンゴのように真っ赤になって反論するセシリア。けらけらと笑った鈴は、残ったココアが入ったカップを傾け、そういえばさ、とまた新しい話を切り出す。
「知ってる? 駅前のケーキの新作、明日から入るらしいわよ」
「え、ほんとに? 誰情報?」
「谷本さん。あの子、ほんとそういう情報早いわよね」
「では、また行きましょう」
「そうだね。……あ、でも、テスト終わってからかなあ」
「あああー! テストかあ! めんどくさっ!」
「ふふん、余裕ですわ」
食堂内、カフェテリアスペース。セシリアの小さな報告会は、いつの間にか、いつも通りの楽しいおしゃべりの場へ変わって行った。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
「……な、なななっ」
その頃。撮影のために控え室へ移動した箒は、目の前に広がる衣装を手に、立ちすくんでいた。
(こ、こんな服を着ろと言うのか!?)
箒が手に持っているそれは、かなり大胆に胸元が開いたブラウス、フリルが可愛らしいミニのスカート、そしてショート丈のジーンズアウター。とても可愛らしい服ではあるが、箒自身この手の服は着たことが無いので、着てみたところで似合うか分からない。それに、脚や胸元の露出も多すぎる気がする。
だが、せっかく用意してもらった衣装だ。綺麗に着こなして、一夏と翔に女らしいところを見せてやりたい。二人が褒めてくれるなら、それは箒にとって一番の自信になる。
「ぐ、ぐぬぬ……!」
服を近づけたり遠ざけたりしながら、箒は時計をちらりと確認した。
もうそれほど時間が無い。……すなわち、やるしかない。
(え、ええいっ! どうにでもなれっ!)
吹っ切れた箒は、駆け足でフィッティングルームに飛び込むと、勢いよくシャツのボタンを外していった。
――そして、数分後。
(こ、これは、どうなのだろうか……)
言われた通りに衣装を着た箒だが、いつも着ている服との違和感が拭えない。どうにも胸元や脚がすーすーして気になる。
(へ、変ではないだろうな……)
服を摘まんだりして訝しむ箒であるが、当然答えは出ない。一流のデザイナーがコーディネートしたのだから、多分服自体が変ではないだろうが、果たして自分が着て似合っているのか。もし一夏と翔に笑われようものなら、箒の女としてのプライドはズタズタである。
しばらくそうしていると、控室のドアがノックされた。
「篠ノ之さーん! 着替えは終わりましたか?」
「あ、はいっ」
ガチャリとドアが開き、スタイリストと思われる女性が控室へ入ってきた。衣装に着替えた箒を見て、その女性は、
「うふふ。とってもお似合いですよ」
「そ、そうですか?」
「はい。では、これからお化粧をしますので、鏡の前のシートにかけてお待ちください」
女性に言われた通り、箒は鏡の前の席に座った。程なくして、準備を終えた女性がやって来る。
こうして楽屋で化粧をしてもらうというのは、まるで自分が芸能人であるかのように感じて、緊張する。
「では、始めます」
「は、はいっ。お願いします!」
ばばっ、と頭を下げた箒を、女性がくすくすと笑った。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
「なあ、翔」
「何だ?」
着替えを終えた俺に、同じく着替えた一夏が尋ねた。
今俺たちがいるのは撮影用のスタジオで、既にカメラマンたちがカメラを構えてスタンバイしている。今は、箒のメイクアップが終わるのを待っている状況だ。
「何か、きつくねーか? この服」
「まあ、スーツだからな」
一夏は初めて着るスーツが窮屈らしい。腕を上げたり下げたりして、うーんと唸っている。かくいう俺も、それほど着た経験があるわけではないのだが。
「しかし、翔はいいよな、背ぇ高くて。スーツが似合うよ」
「そんなに変わらないと思うぞ。お前も似合っている」
俺はそう思うのだが、一夏は「そうかあ?」と半信半疑だ。
一夏に当てがわれた衣装は、カジュアルなスーツ。対して俺には比較的フォーマルなスーツ。俺も正直、似合っているかは不安だが、そこはファッション雑誌のデザイナーの腕を信頼しよう。
「箒、そろそろ来るよな」
「ああ」
腕時計で確認すると、もう集合時間間近であった。
さて、あの箒がどうなっているのか。そして、一夏がどんな反応をするのか。見ものだ。
一分ほど経って、スタジオの扉が開かれた。
「ま、待たせたなっ!」
そんないつも通りの口調で現れたのは、いつもと全く違う箒だった。
着ている服は剣道着ではなく、流行に則ったコーディネートの服。大胆に胸元と脚を出していのが、普段とのギャップを強く感じさせる。履いている背の高いヒールは、箒の姿勢の良さを際立たせていて、箒の整った顔立ちは、少しの化粧で見違えるほど綺麗になっていた。
箒の登場と同時に、会場がおお、と湧いた。普段の箒を知る俺と一夏は、見たことの無い美人に釘付けになった。
「ほ、本当に、箒、か……?」
「そ、そうだっ! 貴様、私の顔も分からなくなったのか!」
「い、いや、そういうわけじゃ……」
しどろもどろ、といった様子の一夏。目線は箒に固定されていた。一夏に見つめられてか、それとも着飾った一夏にどきりとしたのか、箒は赤い顔で俯いた。
数秒経ってようやくフリーズが解けた俺は、別人のような箒に話しかける。
「似合っているじゃないか、箒」
「あ、ありがとう翔。……翔も、格好良いと思う」
「……そうか」
箒から格好良いと言われるのは、新鮮だな。
さて、なら今度は逃げ腰なあの唐変木に感想を言わせるとしよう。見事な変身を遂げた箒には、ちゃんとご褒美をやらないとな。
少し離れたところで明後日の方向を向く一夏の背後に回り、バシッと一夏の尻を叩いた。
「いっ!? ……な、何だよ、翔」
「箒に言うことがあるだろう」
「……お、おう」
「ほら、行け」
一夏の背中を押して、箒の前に突き出した。よほど照れ臭いのか、一夏は側頭部をぽりぽりとかいて、箒に目を合わせようとしない。
「……その、何だ、うん、似合ってる」
「そ、そうか、ありがとう……」
おい、それだけか。唐変木・オブ・唐変木ズの力を見せてみろ。
「ほ、箒」
「う、うん」
「最初、変わり過ぎてて、誰だか分かんなかった。すげえ、似合ってるし……可愛いと思う」
「なっ!」
顔を真っ赤にして、絶句する箒。ストレートな感想は、効果てき面であった。流石の手腕である。それでこそ一夏だ。
「い、いい一夏っ」
「うん?」
「その、お、お前もっ、……か、格好良いぞ! とても!」
「お、おう。サンキュー」
初々しい彼氏彼女のような二人を見て、ふっと笑みがこぼれた。そして俺は、少しずつ、少しずつ、二人から距離を離していった。
「――ごゆっくり」
俺は、小さく呟いた。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
撮影が、始まった。
パシャリというシャッター音と、眩いフラッシュの光がスタジオを包む。最初の方は硬かった三人の表情も、撮る枚数を重ねるごとに柔らかく、自然になって行った。
特に、箒は非常に上機嫌だった。理由は、言わずもがな。
(一夏に褒められた! 一夏が可愛いと言ってくれた!)
いくら武士を自称する箒と言えども、中身は普通の恋する乙女である。おめかしして、想い人から可愛いと言ってもらえるのは、とてもとても嬉しいことだった。
上機嫌なのが幸いし、撮影される際の箒は、普段の仏頂面からは考えられないほど良い表情で、一発オーケーを連発した。
「天羽くーん、そのままで! そう、そんな感じ!」
箒の横では、翔の撮影が行われている。
スーツを身に纏った翔は、一流のビジネスマンのように大人びていて、同い年であるとは思えないほどスマートだった。彼の端正な顔立ちもあって、スタジオの女性が熱っぽいため息をついているのが分かる。それは幼馴染の箒から見ても同じで、最初に翔を見たときはどきりとした。
一方の一夏は、適度に着崩したスーツを着ている。一夏に想いを寄せる箒にとって、お洒落に着飾った一夏の明るい笑顔は(恋の贔屓目があるにせよ)、テレビに映る流行りのアイドルよりも、何倍も格好良く、魅力的に見えた。
(一夏、翔……)
二人の幼馴染であることを、箒は幸せに思った。そして、これからもずっと、三人で仲良くしたいと、心から願った。
「はーい、じゃあ三人集まってー!」
黛渚子が、箒たちを集めた。どうやら三人で撮るらしい。
中央に集められた三人は、渚子の指示を受けながら、配置を変えた。
「んー、そうねえ。じゃあ、篠ノ之さんをセンターにして、織斑くんと天羽くんが挟んで」
「え? どうしてですか?」
「だって、その方が画になるじゃない! 二人の男の心を弄ぶ悪女、みたいな?」
「……黛さん……」
箒が鋭い目で睨むと、渚子は冗談よ、と苦笑した。
最終的に決まった配置は左から翔、箒、一夏。結局箒を二人が挟む形になり、三人は言われた通りに移動したのだが……。
「あっ、織斑くんと篠ノ之さん、もうちょっと寄ってー!」
「い、いやあ、その……」
渚子が言うものの、箒と一夏はなかなか近づこうとしない。
「……何をしてるんだ」
翔はやれやれと言わんばかりに苦笑して、二人の間に入ってぐっと両側の幼馴染を引き寄せた。
「うわっ!」
「な、翔っ!?」
翔は、横から強引に二人を引き寄せた。直後、照れまくる一夏と箒。
「これでいいですか?」
「い、いや、それじゃ不自然だよ。これ、表紙の写真だからね」
カメラマンは手を横に振った。確かに今の構図は、翔が二人を手繰り寄せた状態で、確かに自然な画であるとは言い難い。
だが、別の場所から、パシャリとシャッターが切られた。
「な、何で撮ったの?」
「……あ、いや、つい……」
シャッターを押したのは、壮年の男性カメラマンであった。何の前触れも無く撮ったのは、シャッターチャンスを逃さない、カメラマンの癖であろうか。
「はーい、じゃあ取るわよー! 笑ってー!」
そのカメラマンが収めた写真、それは、照れる一夏と箒、二人を呆れたように、だが優しげに見る翔。三人の関係を見事に表した、絶妙な写真だった。
結局、その一枚が雑誌の表紙を飾ることはなかった。だが、そこに映る三人は、年相応の、まだ幼さの残った、だがとても生き生きとした表情をしていた――。
以上をもって第十三章終了となります。第十四章投稿開始日は4月25日(月)を予定しています。
お楽しみに。