IS インフィニット・ストラトス ~天翔ける蒼い炎~   作:若谷鶏之助

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 時は遡る。現在より一月と半分ほど前。IS学園ではちょうど夏休みに差し掛かったあたり。

 アメリカ、某所。街から遠く離れたその場所に、そこまで巨大ではないが、政府の重要な施設が存在していた。

 それは、最重要罪人隔離施設。収容されているのは、主に国家に仇をなすテロリスト、大量殺人犯など、並のレベルではない犯罪者たちだ。

 その中でも、現在最高レベルで隔離されている人間が一人いる。その名は、ベアトリス・スタッドフォールド――またの名を、幸せ狩りの魔女(フォーチュン・キラー)

 ――そのベアトリス・スタッドフォールドは今、銃口をその眉間に向けられていた。

 

「……いつか、来るとは思ってたけどねえ。随分と早い登場じゃないか」

 

 ベアトリスは特に驚いた様子もなく、頭に狙いを定めている銃の持ち主へと語りかけた。

 その女は、身に装甲を纏っていた。顔はバイザーに覆われていて見えない。だが、ベアトリスには分かっていた。この女が、誰か。

 

「あら、そうですか。存外、覚悟は出来ているようで安心しましたよ」

「……あのガキに負けて、私の命運は尽きてるからね」

 

 ベアトリスは疲れたように呟く。その言葉に嘘はなかった。しぶとく生き残ってはきたが、ベアトリスの命運は、天羽翔に敗北した時点で尽きた。

 だか、それは死ぬこととは違う。ベアトリスはこれから裁判を受け、法に裁かれる。幸い、死刑を宣告されようがされなかろうが、一生檻の中から出られないであろうことは、ベアトリス自身も悟っていた。

 命があるだけ、と思う者もだろうが、ベアトリスからすれば、自由の無い人生など、死んだも同然である。故に、この女の銃が火を吹いて自分を貫こうと、それはどうでもいいことだった。

 ベアトリスは周囲を見渡した。

 辺りは、ほぼ壊滅状態だ。施設そのものが、この女の纏っている兵器――ISの攻撃によってかなり派手に破壊されている。囚人たちはこれ幸いと逃げ出しているが、また捕まる羽目になるだろう。

 

「さあ、早くやりなよ。早くしないと、ペンタゴンからISの本隊が来るよ?」

「私の心配ですか?それなら、余計なお世話と言っておきましょう。愚鈍な国のISごときに捕まる私ではありません」

「……そんな傲慢なところ、あいつそっくりだよ」

 

 女の口元が歪む。

 

「――さようなら。ベアトリス・スタッドフォールド。短い間、お世話になりました」

 

 冷酷な女の一瞥と共に、手に持った銃から、銃弾が放たれた――。

 

 

 

 ☆  ☆  ☆  ☆  ☆

 

 

 

 整備科の整備室。ISを調整するということにかけては、世界でも最先端を切る場所だろう。

 そこには、俺と更識簪がいた。背中合わせで作業をしているため、顔も合わさない。

 

「…………」

 

 相変わらず、黙々と作業をする俺たち。今日も今日とてまったく会話が無い。

 ここ数日観察を続け、何をしているのかと思ったら、何と更識は一人でISを組み上げていた。しかも、機体自体はほぼ完成しているのだから驚きだ。

 何故そんなことをしているのか、会長に事情を尋ねたところ、更識は日本の代表候補生なので、本来なら専用機を持っているはずなのだが、運の悪いことに、その専用機を開発していたのが倉持技研、つまり一夏の白式と同じところだった。一夏の急な登場により、白式の開発に人員を割かれ、更識の専用機の開発はストップしてしまった。だが更識はその未完成のISを引き受け、一人組み立てていたらしい。

 ISを一人で組み上げるなど、常人では不可能だ。それをやってのけるのだから、姉同様にとんでもない人間だと言わざるを得ない。

 

(《荒鷲》の出力を限界まで下げて、各部スラスターと孔雀にその分の余剰エネルギーを回すか……)

 

 来週にはキャノンボール・ファストが控えている。後ろにいる更識簪のことも大事だが、今は蒼炎の調整も大事だ。自力で高機動仕様にするとなると、今までの設定を保存した上で、新たに機体の出力バランスを調整しなければならない。手間である。

 今まで高機動仕様なんぞに調整したことはないため、勉強しながらの作業になってしまっている。ただ、自然と学習したことをすぐに実践する形になるからか、妙に理解が早い。

 ふと、後ろを振り向くと、更識の手が止まっていた。

 ……チャンス。

 

「……第二バイパスと第三バイパス、配線が間違っているぞ」

「……ッ!」

 

 ばっ、と更識は俺に振り返った。

 眉が吊り上っている。怒らせてしまったか。

 

「余計なこと、しないで……!」

「そうか? だが合ってるだろう?」

「…………」

 

 悔しそうに、更識は指摘されたところを直す。

 そして、直すなり俺の蒼炎を見て、

 

「……滅茶苦茶。高機動仕様なのに、武装と機体のエネルギー・バランスが五対五はおかしい」

「…………」

 

 やり返された。そして正しかった。流石は代表候補生。

 更識は少し得意げな表情を見せた。思いの外負けず嫌いらしい。

 ならば、と俺もこいつの機体で駄目なところを早速見つけて指摘してやった。

 

「その武装、照準調整システムとのリンクが不完全だ。明後日の方向にでも撃つ気か?」

「頭部バイザーの位置が変。そのままだと、飛んでるうちに、外れる」

 

 ……やるな。

 

「機体コンソールがおかしい。キーボード入力してもデータが機体に反映されないぞ?」

「メインスラスターの比重が多すぎる。小型スラスターにも、もっと割り振るべき。小回りが効かない」

「装甲接合端子が――」

「武装呼び出しコードの――」

 

 俺たちのやり合い、というか間違い探しは、一五分ほどは続いた。

 結果的に、更識との間違い探しで高機動仕様化はかなり進んだ。それは更識も同じだろう。

 

「一組の天羽翔だ」

「……知ってる」

「だろうな」

 

 そして、雨降って地固まるではないが、更識と普通に会話できるようになった。お互いに認め合ったからか、話しかけにくい雰囲気はなく、話しかけたら答えてくれるようになった。

 

「更識」

「……何?」

 

 どうしても、言っておかなければならないことがある。

 

「何故、一人にこだわる?」

「…………」

 

 俺はその答えを知っている。それでも聞いた理由は、更識自身に答えを確認させるためだ。

 

「姉さんは、一人でやり遂げた」

 

 予想していた答えと、全く同じ。

 

「それだけか? お前の姉が、一人でやり遂げたというだけで? それに、お前の姉は本当に『一人で』やり遂げたのか? 誰の手も借りずにか?」

「それは……!」

「俺は、違うと思うな」

「…………」

 

 更識は黙り込んだ。

 会長は本当に専用機を独力で完成させたのか?

 実際、違う。昨日会長に、専用機『ミステリアス・レイディ』のことも聞いた。ロシアの未完成のISを会長が組み上げたのは本当だが、パーツを受け取ってから誰の手も借りなかったかと言われれば、それは否だ。整備科三年の首席、布仏虚先輩。新聞部で、整備科二年のエース、黛薫子先輩も協力したそうだ。

 つまり、会長は一人でやり遂げたわけではない。それでも凄いが。

 しばらく黙り込んだ更識だが、ついに口を開いた。

 

「天羽くんには、関係ない……」

「……そうか」

 

 それを言われてしまえば、おしまいだな。

 その後も無言の時間が続いた。どこかそれ以上の追求を避けるように、更識は俺から背を向けた。

 時計を見ると、時刻は五時四〇分。夕飯時だ。

 俺は器具を片付け、蒼炎を待機形態に戻した。

 

「更識、まだやるのか?」

「気にしないで。お腹、すいてな――」

 

 そのとき、ぐぐーっと更識の腹の虫が鳴いた。

 真っ赤になる更識。俺はくく、と笑った。

 

「その割には、腹の方は正直だな」

「……う、うるさい……」

 

 きっと俺を睨む更識にもう一笑いして、俺は更識の道具を片付けていく。俺が手伝い始めたのが意外だったのか、更識は戸惑うように、

 

「……手伝って、くれるの?」

「早く飯を食いに行きたいからな」

「なら、行けばいいのに……」

「何を言っている? 一緒に食うに決まっているだろう?」

「え……?」

 

 

 

 ☆  ☆  ☆  ☆  ☆

 

 

 

 結局二人で食堂に来た俺たちは、食券販売機の列に並んでメニューを選ぶ。

 今日は何にしようか。魚であっさりいくか、それともフライでがっつりいくか。悩む。

 

「お前は何を頼む?」

「……チキン南蛮定食」

「チキン南蛮か。あれは美味いな」

「食べたこと、あるの?」

「当然だ。俺は一通りこの食堂のメニューは食べた」

「……食べ過ぎ」

 

 食は数少ない俺の趣味だ。作るのもいいが、作るためには食べねば。美味いものを食ってこそ、美味いものを作れる。

 

「何分、悩んでるの……?」

「平均で一五分だな」

「……悩み過ぎ」

 

 何を言う。人間が一生の間に食える回数は限られている。その限られた中の貴重な一回に悩んで何が悪い。

 だが、いつかは決めなければならない。食券販売機は目の前だ。

 

「よし、魚でいこう」

 

 塩サバ定食のボタンを押して食券を取り出した食券を食堂のおばさんに渡すと、手際よくトレイに惣菜が置かれて、定食が完成した。

 適当な二人で座れる場所を見つけ、更識にそこに座るよう促した。更識は少し周りの目を気にした様子だったが、すぐに席についた。俺はいただきます、と両手を合わせて箸を手に持った。

 

「どうして……?」

「何がだ?」

「あなた、一緒に食べる人、いるでしょ……?」

「別に決まっているわけじゃない。専用機持ち同士だと都合が悪いときだってある」

 

 まあ、俺の都合が悪い日はほとんど無いが。国に所属していない専用機持ちは暇なのだ。

 

「ねえ、あれ、天羽様と四組の更識さんじゃない?」

「えー! 意外。更識さんって誰とも話さないのに!」

 

 周りからはそんな声が聞こえてくる。

 更識は特に気にした様子もなく、箸を進めている。慣れているのだろう。

 

「…………」

 

 俺たちは何も話さない。いくら普通に会話できるようになったとはいえ、話題が無ければ会話は無い。更識は間違ってもおしゃべりではないし、それは俺も同じだ。

 

(まあ、まだこんなものだろうな)

 

 とりあえず、今はこの難しい関係を少しは前進させたであろう自分を褒めることにした。

 

 

 

 ☆  ☆  ☆  ☆  ☆

 

 

 

 食事を終えた俺は、部屋に戻ってきた。

 

 ガチャリ。

 

「お帰りなさい」

 

 ……バタン。

 

 ……幻覚だ。幻覚に違いない。

 確かに会長は出て行ったはずだ。ここにいるはずはない。

 

 ガチャリ。

 

「お帰りなさい」

 

 ――残念ながら、現実だった。

 

「何であんたがいる!?」

「三日も会えないと翔くんが恋しくてね」

 

 三日でダメなのか……。

 

「勝手に部屋に入るなと何度も言ったでしょう

「だって、入れちゃうんだもん」

 

 確信した。この人は空き巣のプロになれる。

 

「くだらないことばかりしてないで、何か用があるならさっさと済ませてください」

「せっかちはいけないと思うな~。話には何でも前振りというモノがあるのよ?」

「あんたのは前振りでも何でもない!」

 

 つ、疲れる。一瞬でついこの前までの疲れが蘇ってきた。

 よくこんな状況で生きていられたな、俺。一夏には同情を禁じ得ない。

 

「仕方ないなあ。楽しいおしゃべりはこの辺にして、と」

「……はあ」

「さて、じゃあ、単刀直入に言うわね」

 

 そう言って、会長の顔が真面目な、生徒会長のそれに変わった。俺も表情を引き締めた。

 

「――幸せ狩りの魔女、ベアトリス・スタッドフォールドが何者かに殺害されたわ」

「!」

 

 それは、衝撃的な知らせだった。さっきまでの雰囲気からは想像も出来ない程だ。

 

「犯人は不明。ベアトリス・スタッドフォールドが収容されている施設に直接ISで乗り込んできたそうよ」

「ISで……」

 

 とんでもないやつだ。ISでそんなことをするやつは、聞いたことが無い。

 

「ええ。でも、監視カメラが一つ残らず破壊されていて、目撃者の証言しか手がかりが無い状況らしいわ」

「……いつ?」

「一月半ほど前かしら。ちょうど、夏休みに入る前ね」

「そんなに前に……」

「私もこの情報を掴んだのはついさっきなの。米国政府は隠蔽に相当腐心したみたいね。まあ、あの国は意地っ張りだから、プライドが許さなかったんでしょう」

「…………」

「何故襲撃されたかは、言うまでもないかな?」

「……口封じでしょうか」

「それで間違いないわ」

 

 よく考えれば、あの幸せ狩りの魔女の後ろに何かの組織がついているのは簡単に想像がつく。

 いくらあの女が裏稼業で稼いでいたとしても、ISを手に入れるのは不可能だ。ISの数は決まっていて、厳重に統制されているし、万が一にもISが手に入ったなら、誰も譲ったりしないはずだ。

 そう考えれば、あの女がISを使って俺たちを襲ってきたのは、何かの支援があったから、と考えられる。

 だが、幸せ狩りの魔女は機体もろとも捕まってしまった。だとしたら、余計な情報を漏らさないために、あの女を消したということだろう。

 

「犯人は、亡国機業でしょうか?」

「そうとも限らないわ。夏の臨海学校のときの組織と、文化祭のときの組織が別々な可能性もある」

「ですが、ISを使って犯行ができる組織など、そういくつもあるとは思えません。IS学園が狙いだったことを考えれば、同じ組織による犯行と見てもいいかと」

「……一理あるわね」

 

 いずれにしても、これは由々しき事態だ。

 何か……そう、大きな何かが動き出している気がしてならない。

 

「翔くん、大丈夫だとは思うけど、くれぐれも気を付けてね」

 

 珍しく、会長が俺の身を案じるようなことを言う。

 

「安心してください。そう簡単にやられたりはしませんよ」

 

 俺はいつものように言うが、どちらかといえば、これは自分に言い聞かせた言葉だった。

 ――胸に去来した不安を、消し去るために。

 

 

 

 ☆  ☆  ☆  ☆  ☆

 

 

 

 その頃、一夏は部屋で瞑想していた。

 

「ふぅー」

 

 深く息を吐き出す。聞こえてくるのは、自らの心音のみ。刀を腰に構える、抜刀の体勢。瞑目し、集中を高め、この姿勢のまま、何分も瞑想する。

 一夏は先の襲撃事件の折、抜刀術のコツを完全に掴み、集中さえできればできるようになっていた。だが、「集中さえできれば」である。その集中には時間がかかり、なおかつ一度技を放つと体にどっと疲労が襲いかかる。それが目下の悩みであった。

 実戦において、敵は待ってなどくれない。抜刀術は使えれば強力だが、放つまでと放ってからの膨大な隙は如何ともし難い。だから一夏はこうして毎日精神力を鍛えているのだ。

 

「…………」

 

 極限まで高めた集中力は、いわば一本の張り詰めた糸。それを、さらに細く、鋭く――。

 

「雑誌攻撃ーっ」

 

 ばしんっ

 

「いてっ」

 

 楯無によって投げられた雑誌により、一夏の集中は途切れた。

 

「な、何するんですか、楯無さん!」

「せっかく帰ってきたのに、お帰りなさいの一つも無いのは許せない」

「そ、そうですけど。今、練習してたのに!」

「先輩への礼儀がなってない」

「……すいませんでした」

 

 一夏は頭を抱えた。

 楯無がルームメイトになってからというもの、一夏は毎日こんな様子だ。翔が楯無と同室になって疲れ果てていたのも納得である。

 

「そ、それと、なんて格好してるんですか!」

 

 楯無は下着姿にシャツを羽織っただけの状態。そんな格好でうつ伏せに寝るものだから――。

 楯無は一夏の思っていることが分かり、ニヤリと笑った。

 

「……あ。さてはパンツ覗いたなー?」

「…………」

 

 黙秘。

 

「……何色だった?」

「……ピンクでした」

「正直でよろしい」

 

 ――いや、見えたら見ちゃうでしょ。

 一夏は心中で言い訳する。いくら唐変木・オブ・唐変木ズ織斑一夏と言えども、基本的には健全な男子高校生である。

 

「うーん、ウブな翔くんをからかうのも楽しいけど、ノリの良い一夏くんも楽しいわね」

「人で遊ばないでくださいよ!」

「一夏くんが面白いから仕方ないじゃない。嫌だったらつまんない人間になりなさいな」

「どうしろって言うんですか……」

 

 それはつまらないと言われるよりは面白いと言われた方が嬉しいのだろうが……複雑である。

 会話しているだけで疲れる人間がこの世に何人いることだろう。

 

「あ、一夏くん」

「何ですか」

「貸し出す最初の部活動、決まったから」

「ほ、本当ですか?」

 

 一夏は文化祭の投票の結果、生徒会として所属しながら、各部活へと貸し出されることになった……が、どの部活も我先にと一番を譲ろうとしなかったため、生徒会は一夏貸し出しの順番の決定に手間取っていた。それがようやく決まったのだ。

 

「それで、どこに?」

「剣道部よ」

「そうですか……」

 

 一夏は内心ほっとした。

 剣道部というと、箒のいる部活だ。誰か知り合いがいれば心強い。

 

「いつから?」

「明日よ」

「早ッ!?」

 

 急過ぎますよ! と一夏が抗議するが、楯無は首を横に振る。

 

「仕方ないの。年内に全部活に回そうと思ったら明日からでも貸し出さないと」

「なら貸し出しなんてややこしい方法を取らなくても……」

「それも仕方ないの。生徒たちの不満を円満に解決しようと思ったら、これが最善。そもそも、一夏くんがさっさと入る部活を決めなかったのがいけないんだよ?」

「う……」

「ま、みんなが納得できるように生徒会に引き込むには、こうするしかなかったんだよ」

 

 よく頭の回る人だ、と一夏は思う。

 目的のためなら、あらゆる手段を講じ、必ず成し遂げてしまう。そんなカリスマ性こそが、この人が生徒会長たる所以だろう。

 この人の下でなら働ける、と翔が一目置いているのも頷ける。

 

「てーい」

 

 バシンッ

 

「いたっ! ちょ、何すんですか!?」

「黙ってないで、私の相手もしなさい」

「はあ!?」

「一夏くんが構ってくれないとヒマ~!」

「ちょ、何でですか! 嫌ですよ! 俺、まだ練習したいのに!」

「ダ・メ・よ。生徒会庶務は代々生徒会長の相手をする役割があるから」

「それ、今作ったでしょ!」

「あー、今ので汗かいちゃった。一夏くーん、一緒にシャワー浴びない?」

「え、遠慮します!」

 

 ……きっとこういう面が無かったら、翔だってもっと素直になるのになあ。

 その一言は、辛うじて押し込めた一夏だった。

 

 

 

 ☆  ☆  ☆  ☆  ☆

 

 

 

 会長が去ってから一時間が経ち、現在午後八時。風呂に入り、日課の筋肉トレーニングが終えた俺は、明日の課題を仕上げてしまおうと机に向かったのだが……。

 

「……ん?」

 

 廊下の方から、ドタドタドタ、と誰かが走ってくる音が聞こえてきた。

 誰だろうか。こんな時間にやってくるのはラウラぐらいだが。

 来たら廊下を走るなと注意してやろうと思った矢先、ドアが勢い良く開き、ラウラではない三人が駆け込んできた。

 入ってきたのは、箒、鈴音、シャルロット。所謂、一夏ラバーズだった。メンツがメンツなだけに、何をしに来たか検討がつかない。

 

「ど、どうした?」

「「「翔!!!」」」

「な、何だ?」

「「「付き合って!!!」」」

「……は?」

 

 思わずこう言ってしまった俺を、どうか責めないで欲しい。


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